著者 米崎 克彦
雑誌名 經濟學論叢
巻 61
号 1
ページ 99‑116
発行年 2009‑07‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012477
【論 説】
ネットワーク統合と国際貿易:3 国ケース
*米 崎 克 彦
†は じ め に
情報通信ネットワーク(インターネットや携帯電話など)の普及は人々のコミュ ニケーション手段に大きな変化を与え,生活スタイルに大きな影響を及ぼし ている.企業においてもさまざまな分野で情報化が進み生産性が向上してい る.近年の情報化投資の推移は,トレンドとして投資額,投資比率ともに増 加の一途を示している1).さらにネットワークの拡大2)により国際間通信も活 発化しており,バックボーンネットワークも大幅に強化されている3). 情報通信ネットワークは,地理的な距離および時間による制約を受けず,
離れた場所であっても瞬時に情報のやり取りができるという特徴があり,国 際間取引をあたかも同一国内での取引であるかのようにする効果を持つ.こ
* 本稿は,2006年日本経済学会秋季大会で報告をしたものを改訂したものである.討論者を引 き受けてくださった市川哲郎先生(駿河台大学)には,貴重なコメントを頂いた.本稿の作成 の過程において今井晴雄(京都大学),菊地徹(神戸大学),中西訓嗣(神戸大学),岸基史(同 志社大学),鹿野嘉昭(同志社大学),河合宣孝(同志社大学)の各先生より多くの助言を頂いた.
また匿名のレフェリーより貴重な指摘と助言を頂いた.ここに記して感謝したい.当然のこと ながら,本稿の誤りは全て筆者の責任である.
† 同志社大学大学院経済学研究科研究生.
1) 情報化投資額は1992年に約7兆5500億円であったが,2005年には約17兆1020億円と約2.3 倍になっている.投資比率も同様に1992年は9.7%,2005年は21.1%と大幅な伸びを見せてい る(『情報通信白書 平成19年度版』).
2) Bailey (1996)を参照.
3) たとえば日本周辺の海底ケーブルは,1995年では2種類(約20Gbps)であったが,現在15
種類(約26Tbps)が存在する(『情報通信白書 平成19年度版』).
(投稿受付 2008年5月10日,
査読を経て掲載決定 2009年1月13日)
れにより,直接的にはネットワークを通じて供給されるコミュニケーション サービスを国境を越えて活発にさせ4),間接的にはネットワークを統合する ことによっておこなわれる貿易が生産者および生産要素を国境に関係なく自 由な移動を可能とし,経済統合と同様の効果をもつことになる.このため,
国際的な経済面の結びつきを強く促し,国内の経済構造に影響を与えている.
近年,政治主導によるさまざまな経済統合(EUやNAFTAなど)が活発であるが,
このようなITの技術革新を背景とした仮想的な経済統合も世界中で広がりを 見せている.
このような影響と国際貿易との関係を検討した理論的な文献にHarrisや
Kikuchiの一連の研究があげられる5).Harris (1995)は,貿易に関係するコミュ
ニケーション費用の特徴を,輸送費用という概念と比較した上で,①コミュ ニケーションに関係する取引費用は固定費的性格をもつ.②コミュニケー ションは準公共財的性質をもつネットワークを通じて供給される.③技術進 歩は取引量の増大ではなく,取引不可能であったサービスを取引可能とさせ る.④ネットワーク外部性が存在する.という4つにまとめている.その上 で,Harrisは,2種類の外部性(費用分担効果と混雑効果)をもつそれぞれの情 報ネットワークが存在する場合,貿易パターンにどのように影響を与えるか を検討している.Harris (1998)は,上述のコミュニケーション費用の特徴③の 性質に注目し,コミュニケーション・ネットワーク(以下「ネットワーク」と呼ぶ)
の存在によって,空間的制約を超えて可能となるサービスの取引を「仮想的 移動(Virtual Mobility)」と呼び,この移動性による生産要素市場への効果を分 析している.Kikuchi (2002)は,Harris (1995)の研究を基礎にし,国または地
4) 近年,情報インフラの拡充がオフショアリングを活発化させている.オフィショアリングと は,ソフトウエアのオフショア開発やBPO (Business Process Outsourcing)と呼ばれる情報シス テムの保守・運用,コールセンター,顧客管理データ入力などの業務アウトソーシングのこと である.しかし,これらの進展には新たな問題も存在する.国を超えての関係のためコミュニケー ション(企業文化や言語)の問題やバックボーンネットワークの高度化や新技術の標準化競争 に関係するコストの増加も存在する.さらにこれらの影響により,技術特許,知的所有権など 新たな要素が重要視されている.
5) その他,MacKie-Mason and Varian (1995)なども参照.
域に特殊的なネットワークが存在するモデルを構築し,その存在がどのよう に貿易パターンや貿易の利益に影響するのかを検討している6).Kikuchi (2003) では,ネットワークの存在による仮想的移動が起こる世界でネットワークの 国際的相互接続可能性が,貿易パターンや貿易利益にどのように影響を与え るのかが検討されている.さらにNakanishi and Kikuchi (2005)では,Kikuchi
(2003)を拡張し,1つのネットワークが他のネットワークを一つひとつ統合し
拡大していく場合と,同時に複数のネットワークが拡大していく場合の2つ のネットワーク統合を想定し,ネットワークの継続的拡大が国際貿易にどの ように関係しているか検討している.
しかし,Nakanishi and Kikuchi (2005)においてネットワークの拡大プロセス は外生的に与えられており,ネットワークの統合プロセスをモデルに内生化 していない.本稿では,非協力ゲーム理論に基づく提携形成モデルを利用す ることによって,ネットワークの統合のプロセスをモデルに内生化し,どの ようなネットワークの構造が安定になるのか,さらに統合されたネットワー クが貿易のパターンや利益についてにどのような影響を与えるのかを検討す る.その結果,ネットワーク費用がネットワークの規模に対して逓増的に増 加しないのであれば,すべてのネットワークが統合されることが導かれた.
しかし,ネットワーク費用が逓増的に増加する場合,世界全体を網羅するネッ トワークが形成されず,ネットワーク非連結国が貿易から不利益を被る可能 性が示された.
以下,2章では,本稿のモデルを紹介する.3章では,どのようなネットワー クが統合され,その形成されたネットワークが貿易のパータンと利益に対し てどのような影響を持つのかを検討する.4章は結語である.
6) さらに混雑費用をモデルに導入し拡張したものに,市川(2000),Kikuchi and Ichikawa (2002) がある.
2 モ デ ル
本稿は,Nakanishi and Kikuchiモデルを非協力ゲーム理論に基づく提携形成 ゲーム7)で拡張し,ネットワークの統合プロセスと国際貿易の関係をとらえる.
2. 1 モデルの基本構造
対称的である3国が存在する世界を想定する.ゲームの構造は2つのステー ジから構成される.第一ステージでは,プレイヤーである各国がネットワー クの統合についての意思決定をする8).ネットワーク統合の結果を提携と表現 する.形式的な表現をすると,プレイヤーの集合はM={1, 2, 3}である.提 携をプレイヤーの非空の集合Siで表す.提携Siのサイズ(プレイヤーの数)は si(=|Si|)と表す(s1≥s2≥s3).提携構造は,π={S1, ..., Sl}∈Π とする.Π はM上の提携構造の集合である.第二ステージでは,第一ステージでおこな われたネットワーク統合を基礎として,財の生産や貿易など経済活動がおこ なわれる.
各国の経済環境の詳細は以下のとおりである.各国は,2種類の最終消費 財(X財,Y財)を完全競争市場の下で取引する.たとえば,X財はビジネス サービスであったり,Web上で取引の行われる情報技術の集合である.対し てY財は,農産物などである.生産要素は,L単位の労働のみである.Y財 は労働を生産要素とし,収穫一定の技術で生産される.以下Y財をニュメ レールとする.他方,X財は差別化された中間財のみを生産要素とし,収穫 一定の技術で生産される財である.この中間財は,収穫逓増の技術で生産し,
独占的競争市場の下で取引している.ここで重要な仮定として,中間財生産 において「ネットワークを介して技術協力や財サービスの取引などをするこ
7) 本稿の提携形成のゲームのモデルはBloch (1996)に従う.このモデルはRubinstein (1982), Chatterjee et al. (1993)を拡張したモデルである.
8) ネットワーク統合の決定に関して第二ステージで行われる生産・貿易などの経済活動を前提 とする.
とを必要とする」という点である.よって以下ではこの中間財をネットワー ク財と呼ぶ.また,このネットワークは各国に存在する政府に認可された自 然独占企業によって提供されているものとする.
X財の生産関数9)と単位費用を次のように仮定する10,11). X=(∑
k=1
n xρk)1 /ρ, 0<ρ<1 (1)
C=(∑
k=1
n pρk/ (ρ-1 ))(ρ-1 ) /ρ (2)
nは利用可能なネットワーク財の種類,xkはネットワーク財kの量,pkは ネットワーク財kの価格である.代替の弾力性は σ≡1 /(1-ρ)>112)である13). ネットワーク財の生産にはαi+βxkの労働力が必要であると仮定する.αiは,
ネットワーク費用である.ネットワーク費用とは,自国のネットワークを建設 するための費用や他国と統合するための費用,維持・管理にかかる費用をまと めたものである.各国の自然独占企業は自国の効用を最大化することを望む 政府の意向を受けてネットワークの建設維持をおこない,ネットワークを利用 する企業から費用を徴収することによりネットワーク費用を回収する.また,
9) このような定式化についてはEthier (1982),Markusen (1989)を参照.
10) パラメータρの役割は,差別化財を特徴化させるものである.
・ρ→1 (σ→∞):異なるブランドが完全代替になる.
・ρ>0 (σ>1):同質財と差別化財の弾力性はここでは1である.もしρ<0 (σ<1)であ ると,ある特定差別化財と同質化財との代替関係が,特定差別化財とその他の差別化財との代 替関係を上回り,差別化財をグループ化する必要性がなくなる.菊地(2001),松山(1994)参照.
11) この定式化により,ネットワーク財の生産性が,中間財の種類が拡大するにつれて向上する モデルになる.すべてのネットワーク財が同じ数量ずつ生産のために投入されるとする(xi=x).
そのとき総投入量M=nxとなるので,ネットワーク財の平均生産性は,X
M=nρである.平均 生産性は,nとともに上昇する.
12) ここで代替の弾力性をσ>1と仮定するのは,ある特定のネットワーク財が最終財生産に
絶対に必要不可欠なものではないことを意味するためである.
13) ネットワーク財に対する需要関数は、X 財生産者の利潤最大化条件から以下のように求めら れる.
xk=(pk/P)-σX …(*)
P≡(∑k=n1pk1-σ))1 / (1-σ)であり,X財の価格を表す.また,(*)より,ネットワーク財生産企業
が直面する需要の価格弾力性はσとなる.
ネットワークを建設する固定的な費用やネットワークを使用するユーザー数 が変化することにより費用が変化すると想定する.自国のみでネットワーク を建設した場合の費用をα1とし,他の国と,2国間でのネットワークを統合 した場合α2,3国間でネットワークを統合した場合α3とする.βは財xkを生 産するための限界労働量を表す14).
需要サイドについては,各国それぞれすべての消費者は,同質的であり,
代表的消費者の効用関数uは次のコブ=ダグラス型によって表されるものと する.
u=XλY1-λ, 0<λ<1 (3)
2. 2 ゲームの利得
ゲームの利得は,提携Siを si上の利得ベクトルに写像するvaluation : vに よって表現される15).vm(si, π)を,提携構造πの下での提携Siのメンバーで ある第m国の利得とする.協力からの利益配分は,提携内において外性的に 固定され平等主義的なルールの下で行われる.
ここでは,ゲームの利得の関係をみるために,世界に1国しかない閉鎖経 済を想定し,経済均衡を求める.労働賃金率をwとすると,ネットワーク財 に対する生産の仮定から,各企業の費用関数は,w(α1+βx)となる.利潤最 大化条件より,ネットワーク財の価格決定式が導かれる.
p= σ
σ-1βw (4)
ここで単位を調整してβ=(σ-1) /σと仮定すると(4)式はp=wとなる.
また参入・退出が自由であると仮定すると,独占利潤がゼロになるまで参入 が続く.このことから均衡生産量x*が次式のように求められる.
x*=α1σ (5)
14) 単純化のために本稿を通じて,x財を対称として扱う.
15) 詳細はBloch (1996),(1997)を参照.
閉鎖経済均衡においては,P=Cの関係が成り立つ16).したがって,P=C
=n1 / (1-σ)=(α1σ)1/σX-1/σとなり,これをXについて解けば,X財産業におけ
る個別企業の供給関数S(P)を求めることができる17). SA(P)= XA if 0 P CA
(6)
α1σP-σ if CA P
XAは,労働制約によるX財の供給上限であり,CAは,供給上限に対応し た費用である.
XA=Lσ/ (σ-1)(α1σ)1 / (1-σ) (7)
CA=(L/α1σ)1 / (1-σ) (8)
代表的消費者のX財の需要関数は,次の(9)式のようになる.
X=wλL
P (9)
以上から,閉鎖経済均衡を求めることができる18).閉鎖経済下でのネット ワーク財の種類は,nA=λL/α1σとなり,X財の均衡価格および生産量は,
次のようになる.
PA=(λL/α1σ)1 / (1-σ) (10)
XA=(λL)σ/ (σ-1)(α1σ)1 / (1-σ) (11)
したがって,この国の効用は,uA=(λL)σ/ (σ-1)(α1σ)1 / (1-σ)となり,これが ゲームの利得v1(1, (1))と対応する.
2. 3 ゲームのプロセスと均衡概念
ネットワーク統合の交渉手順は,外生的に提案・応答の順序が決められて いて,その順序に従ってゲームを行う.順序がはじめの国が,自身が所属す る提携Sの形成を提案することによってゲームが始まる.提案された提携S
16) ネットワーク財の国際的取引が存在しない場合,すべての財・サービスを国内で供給するこ とになる.これによりX財の価格が,その費用と等しくなることを表している.
17) 添字のAは閉鎖経済均衡を表す.
18) Y財が国内で生産されているので,p=w=1が成立する.
に含まれているそれぞれの国は,決められている順序に従って提案に応答し ていく.もし任意の1国が提案を拒否すると,その国自身が対案であるS′を 提案しなければならない.提案が提携Sに含まれているすべての国に受け入 れられると,提携は形成される.そして提携Sのすべての国はゲームから離 れる.その後残ったM / Sの国の集合の中から,順序がはじめの国が提案を 始める.形式的に表現すると,時間をt=1, 2, ...で表す19).各プレイヤーの戦 略Γは,各期において,提案者であれば起こりうる各歴史ごとに自身を含む 提携サイズsを提案し,応答者であれば起こりうる各歴史ごとに「受諾」か
「拒否」を決める行動計画である20).
均衡概念は,定常部分ゲーム完全均衡(Stationary Subgame-Perfect Equilibrium)
である.定常部分ゲーム完全均衡は以下の2つの条件を満たす戦略プロファ イルΓ={Γ1, Γ2, Γ3}である.①すべてのプレイヤーについて,戦略 Γiは 定常戦略である.②すべてのプレイヤーについて,おのおのが行動したすべ ての歴史上にて,戦略は他のプレイヤーの戦略に対して最適戦略である.戦 略プロファイルが定常であるというのは,それぞれのプレイヤーが進行中の 提案とすでに形成された提携のみに依存することである.すなわち定常戦略 において,プレイヤーの行動は利得に関連する要因のみに依存する.本稿の ゲームにおいては,すでに形成された提携と残されたプレイヤーに対応する.
言い換えると,定常部分ゲーム完全均衡とは,定められた戦略から一方的な 逸脱によって利得が上がるようなプレイヤーが存在しないという歴史を持っ た定常戦略のプロファイルである.
19) 各国は将来に対し割引をしないものとする.また利得が発生するタイミングは,すべての交 渉が終了したときであり,もしゲームが無限に続く場合には,どの国にも利得は発生しない.
20) 本稿のゲームは動学ゲームであるので,各プレイヤーのとる戦略は過去に何が起こったかに 依存している.過去に何が起こったのかを表すものを歴史と呼ぶ.したがってt 期の歴史は,
t-1期までのすべての行動のリストである.
3 ネットワーク統合
本稿のモデルの均衡は,バックワードインダクションによって求められる21). まず初めに第二ステージの分析から始める.ネットワークの提携構造を所与 とし,その構造が貿易のパターンや利益に対してどのような影響を与えるか を議論し,そのあとで第一ステージのネットワークの統合を考察する.
3. 1 貿易パターンと貿易利益
ネットワークの提携構造は,すべての国が自国のネットワークを他国のネッ トワークと統合する提携構造(3)22),2国がネットワークを統合する提携構造
(2, 1)23),すべての国がネットワークを統合しない提携構造(1, 1, 1)の3 つの ケースにわけられる.貿易パターンは,ネットワークの提携構造によって影 響を受ける.
ケース1:提携構造(3)
このケースでは,すべての国がネットワークを統合するため,最終財貿易 はおこなわれない.ただし,ネットワーク財の貿易がおこなわれ,X財の価 格低下や生産性の改善,またはX財を構成するネットワーク財のバラエティ の増加によって,すべての国で経済厚生が改善される24).統合経済における X財の供給関数は,以下である.
SI(P)= XI if 0 P CI
(12)
α3σP-σ if CI P
XIは,労働制約によるX財の供給上限であり,CIは,供給上限に対応し
21) Bloch (1996)で導かれた命題:「事前にプレイヤーが対称であるとき,逐次提携形成ゲームの
定常部分ゲーム完全均衡は,初めにプレイヤー1が,区間[1, n]から整数k1を選ぶ.次にプレ イヤーk1+1は[k1+1, n]の集合から整数k2を選ぶ.ゲームは整数(k1, k2, ..., kj)の流列が∑kj=n を満たすまで続くような有限手順ゲームにおける部分ゲーム完全均衡と一致する.」を利用する.
22) このような経済状況を統合経済と呼ぶ.添字のIで統合経済均衡を表す.
23) 2国がそれぞれの国のネットワークを統合し,残りの国は,自国のネットワークを他国と統合
していないと想定する.このような経済状況を貿易経済と呼ぶ.添字のTで貿易経済均衡を表す.
24) 経済均衡を求めるプロセスは,閉鎖経済均衡と同様である.
た費用である.
XI=(3L)σ/ (σ-1)(α3σ)1 / (1-σ) (13)
CI=(3L/α3σ)1 / (1-σ) (14)
統合経済下での財の種類は,nI=3λL/α3σとなり,均衡価格およびX財の 生産量は,次のようになる.
PI=(3λL/α3σ)1 / (1-σ) (15)
XI=(3λL)σ/ (σ-1)(α3σ)1 / (1-σ) (16)
ケース2:提携構造(2, 1)
このケースにおいて,ネットワークを統合している国々をネットワーク連 結国と呼ぶ(以下では「連結国」とする).他方,統合していない国をネットワー ク非連結国と呼ぶ(以下では「非連結国」とする)25).経済全体のX財の供給関 数は,連結国(2カ国)の供給関数と非連結国(1国)の供給関数の合計となる.
ST(P)=SC(P)+SU(P) (17)
貿易均衡は,供給関数の形状に依存し,以下の2 つのケースが存在する.
1.P>CU
このケースでは,連結国,非連結国は,X財とY財の両財を生産する状況 となる.貿易パターンは連結国がY財を輸出し,X財を輸入する.また,貿 易の利益は,連結国,非連結国ともに,両財を生産する状況となるため,賃 金率は同一となり,両国とも貿易より利益を得る.
2.CU P
このケースでは,貿易パターンは,1のケース同様に連結国がY財を輸出 し,X財を輸入する.ただし,X財の価格が十分に下がるため,連結国では,
X財とY財の両財を生産するのに対し,非連結国ではX財に特化する状況と なる.非連結国がX財生産に完全特化するため,均衡のもとでは,両国の賃 金率に乖離が生じる.
ケース3:提携構造(1, 1, 1)
25) 添え字のCはネットワーク連結国を表し,Uはネットワーク非連結国を表す.
ネットワークが統合されていないため,ネットワーク財の貿易はおこなわれ ない.また,最終財貿易もおこなわれず,それぞれの国は閉鎖経済状態である.
3. 2 ネットワーク統合
前節では,ネットワークの提携構造を所与とした場合,貿易のパターンに どのように影響するかを分析した.本節では前節の結果を基礎としてネット ワークの統合について検討する.ここでは,均衡戦略の下で形成されるネッ トワークの提携構造を「安定的」と呼ぶ.ネットワークの安定的な提携構造 については,以下の統合に関する費用に依存した条件が求められる.
命題 1 (1) α1
α2<1
2であるとき,ネットワークの安定的な提携構造は(1, 1, 1)となる.
(2) α1 α2
1 2かつα2
α3<2
3のとき,ネットワークの安定的な提携構造は(2, 1)
第 1 図 供給曲線の特徴
となる.
(3) α1 α2
1 2かつα2
α3 2
3のとき,ネットワークの安定的な提携構造は(3)
となる.
証明 順序が1番目の国をプレイヤー1,2番目の国をプレイヤー2,3番目 の国をプレイヤー3とする.各プレイヤーに意思決定機会が訪れるのは以下 の場合である.プレイヤー3は,プレイヤー1が提携サイズ2を選んだとき か,またはプレイヤー1とプレイヤー2がともに単独提携(提携サイズ1)を 選んだときに,単独提携を選択するという機会が存在する.プレイヤー2は,
プレイヤー1が単独提携を選択した場合,単独提携かプレイヤー3との提携 サイズ2の提携を組むかを選択できる.そしてプレイヤー1は単独提携,プ レイヤー2とのサイズ2の提携,そしてすべてのプレイヤーとの全体提携の 各選択をおこなうことができる.
バックワードインダクションで均衡が求められるので,各プレイヤーの 意思決定機会における選択を考察する.プレイヤー3は,意思決定機会に おいて常に単独提携を選択することのみである.プレイヤー2の意思決定は α1/α2 1 / 2であれば,自身の利得が,v2(1, (1, 1, 1))=(λL)σ/ (σ-1)(α1σ)1 / (1-σ) v2(2, (2, 1))=(2λL)σ/(σ-1)(α2σ)1/(1-σ)/ 2となるため,プレイヤー3との提携を提案 する.α1/α2<1 / 2であれば,v2(1, (1, 1, 1))=(λL)σ/(σ-1)(α1σ)1 / (1-σ)>v2(2, (2, 1))
=(2λL)σ/ (σ-1)(α2σ)1 / (1-σ)/ 2となるため,単独提携を選択する.プレイヤー1 は,α1/α2<1 / 2ならば,v1(1, (1, 1, 1))=(λL)σ/(σ-1)(α1σ)1 /(1-σ)>v1(2, (2, 1))=
(2λL)σ/ (σ-1)(α2σ)1 / (1-σ)/ 2となるため,単独提携を選択する.α1/α2 1 / 2で,
α2/α3<2 / 3であるならば,v1(1, (1, 1, 1))=(λL)σ/ (σ-1)(α1σ)1 / (1-σ) v1(2, (2, 1))
=(2λL)σ/(σ-1)(α2σ)1/(1-σ)/ 2となるが,v1(2, (2, 1))=(2λL)σ/ (σ-1)(α2σ)1 / (1-σ)/ 2>
v1(3, (3))=(3λL)σ/ (σ-1)(α3σ)1 / (1-σ)/ 3となり,プレイヤー2とのサイズ2の提 携を提案し,α1/α2 1 / 2かつα2/α3 2 / 3のときは,v1(1, (1, 1, 1))=(λL)σ/(σ-1) (α1σ)1/ (1-σ) v1(2, (2, 1))=(2λL)σ/ (σ-1)(α2σ)1/ (1-σ)/ 2であり,v1(2, (2, 1))=(2λL)σ/ (σ-1)
(α2σ)1 / (1-σ)/ 2 v1(3, (3))=(3λL)σ/ (σ-1)(α3σ)1 / (1-σ)/ 3となるので,全体提携を
選択する.ただし,α1/ α2 1 / 2の関係を満たしているならば,プレイヤー1 は単独提携を提案しないので,プレイヤー2は意思決定機会においてサイズ 2の提携を選択することはない.(Q. E. D)
この命題は,ネットワークの接続・維持費用がネットワークの規模に対し て逓増的に増加しないのであれば,すべてのネットワークが統合されること を述べている.しかし,ネットワークの接続・維持費用が逓増的に増加する 場合,世界全体を網羅するネットワークが形成されず,部分的なネットワー ク統合が生じたり,まったく統合されない場合が存在する.また,前節の分 析より,条件(1),(3)の下では最終財貿易は行われない((3)に関しては,ネッ トワーク財の貿易は存在する).これに対して条件(2)の下では,最終財貿易が 行われ,貿易の利益に関する以下の命題が求められる.
命題 2
α1 α2
1 2かつα2
α3<2
3の場合,CA Pであるならば,提携構造(2, 1)が形成され,
非連結国は,貿易によって不利益を被る可能性が存在する.
証明 提携構造(2, 1)が形成される場合,CA Pであるならば,非連結国は X財生産に特化している.したがって,連結国と非連結国の賃金率に差が生じ,
貿易収支均衡条件式2 (1-λ)=λwUによって,非連結国の賃金率が決定される.
この式の左辺は連結国のX財の輸入価値を表し,右辺は非連結国のY財の輸 入価値を表す26).X財の均衡価格は貿易収支均衡条件式とネットワーク財を 生産する企業数によって求められる.
PT=2λL ασ
1 / (1-σ)
wU=2λL ασ
1 / (1-σ)2 (1-λ)
λ (18)
この場合,貿易の利益は連結国と非連結国で非対称的になり実質所得(ωi:i
=C, U)の差は,
26) 連結国の賃金率はwC=1
ωU≡ wU (PT)λ< 1
(PT)λ≡ωC (19)
となる.さらに,貿易均衡価格PTと閉鎖経済均衡価格PAとの比較において,
PT>PAとなるケースにおいては,以下の関係が満たされていなければなら ない.
λ 2
σ/ (σ-1) 1
1-λ >1 (20)
しかしCA Pである場合は,λの値がかなり小さい値をとるか,または代替 の弾力性値がかなり大きな値をとらない限り,(20)式の関係を満たすことは 不可能である.したがって,ネットワークの非連結国が,最終財貿易から不 利益を被る可能性が存在する.(Q. E. D)
4 結 語
本稿では,ゲーム理論のモデルを利用して国際間ネットワークの統合を内 生化し,ネットワークの統合と国際貿易の関係について分析した.この結果,
ネットワークの接続・維持費用がネットワークの規模に対して逓増的に増加 しないのであれば,すべてのネットワークが統合されることが導かれた.し かし,ネットワークの接続・維持費用が逓増的に増加する場合は,世界全体 を網羅するネットワークが形成されず,ネットワーク非連結国が貿易から不 利益を被る可能性が示された.
この結果は,物理的な情報通信ネットワークが大幅に強化されることによっ て,1社あたりのネットワークの利用コストが低下し,更なる需要が供給側 に派生し情報通信ネットワークが世界全体を網羅するように拡大の方向に進 むという現実にも合致する.しかし,企業文化・言語などの調整費用,ネッ トワークの使用ユーザー数や使用負荷の増加における混雑費用,ネットワー クプロバイダ企業における混雑回避のためのネットワークの強化や次世代 ネットワークへのアップデートのための費用などを考慮すると,一概にネッ
トワークの接続・維持費用が減少するとはいえない.このような状況におい ては理論的に導かれたようにネットワークが統合されず,貿易から不利益を 被る可能性を生み出す可能性がある.現実的にもアメリカとインド,日本と 中国のような特定的なオフショアリングの関係が存在し,コミュニケーショ ン費用が重要な役割を果たしていると考えられる.
本稿のモデルは,ネットワークの統合と国際貿易のステージに分け,ネッ トワーク統合をモデル化しているが,現実的にはネットワーク統合と貿易が 同時におこなわれることが自然であると考えられる.これからの課題として,
ネットワーク統合と貿易が同時におこなわれるモデルに拡張したい.
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(よねざき かつひこ・同志社大学経済学研究科研究生)
The Doshisha University Economic Review Vol.61 No.1 Abstract
Katsuhiko YONEZAKI, Network Integration and International Trade: A Case of Three Countries
In this paper, I examine the relationship between the process of network integrations and international trade. Using the noncooperative model of sequential coalition model, I put forth an endogenous network integration process. As a result, networks are integrated world-wide and the benefits can be maximized under the condition that there is no gradual increase in the network costs, compared to the growth in the network size. If network costs increase gradually, networks will not be integrated and an unintegrated country may become worse off as a result of the trade.