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当期純利益と包括利益の業績指標としての 関係性についての一考察

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1 序 論

(1)本論文の目的

近年のグローバル化と経済状況の変化によ り,わが国の会計基準においても,1996 年第 二次橋本内閣において金融システム重要改革の 一つとしてグローバル化が進められた。国際的 時代を先取りしていくために様々な国での事業 活動や資金調達活動を行う上で,国内のみの会 計基準を見ての企業判断ではなく,新たに世界 基準での判断が必要となっている。

このような企業背景の中,2011 年 3 月決算 より連結財務諸表の開示において「包括利益の

表示に関する会計基準」により「包括利益」の 表示が加わった。それに伴い,企業の経営活動 の総合的な成果である「当期純利益」と,未実 現ではあっても潜在的な期待利益情報をも含む 包括利益のいずれが財務情報として有用である かという議論は数多くされている。しかし,包 括利益が導入されることの本質的な問題は,包 括利益や当期純利益を含めた利益情報とは何を 意味するのかということであり,ある一面から みてどちらに優位性があるかという議論ではな い。そこで本研究においては,「包括利益」と いう新たな指標が追加されることについて,な ぜ新たに追加することになったのか,その導入

当期純利益と包括利益の業績指標としての  関係性についての一考察

A study on the relationship of comprehensive income and net income as performance indicators

毛利 直規

MOURI, Naoki

近年のグローバル化と経済状況の変化により,わが国の会計基準においても,1996 年第二次 橋本内閣において金融システム改革としてグローバル化が進められた。国際的時代を先取りして いくために様々な国での事業活動や資金調達活動を行う上で,国内のみの会計基準を見ての企業 判断ではなく,新たに世界基準での判断が必要となっている。

2011 年 3 月決算より連結財務諸表の開示において「包括利益の表示に関する会計基準」によ り「包括利益」の表示が加わった。それに伴い,企業の経営活動の総合的な成果である「当期純 利益」と,未実現ではあっても潜在的な期待利益情報をも含む包括利益のいずれが財務情報とし て有用であるかという議論は数多くされている。しかし,包括利益が導入されることの本質的な 問題は,包括利益や当期純利益を含めた利益情報とは何を意味するのかということであり,ある 一面からみてどちらに優位性があるかという議論ではない。

そこで本研究においては,包括利益という新たな指標が追加されることについて,当期純利益 と比較して関係性を考察すると,包括利益の存在により,利益操作不可能な数値を捉えることが できることから本来の企業価値を判断することが可能といえる。しかし,包括利益は既に実現さ れた利益ではなく,実現可能性のある利益であるため,企業の実態を正確に捉えるための包括利 益が,かえって現実とかけ離れた業績を示すことに繋がりかねないのである。今後の日本におけ る会計基準を考えるにあたり,日本の社会状況や世界的な動きにより,その会計観がいかに変わ りつつあるかに注目することが重要となると考えられる。

キーワード: 包括利益,IFRS,当期純利益,その他の包括利益,リサイクリング

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の必要性について再度考察を行った上で,業績 指標である包括利益と,従来から業績指標とさ れている当期純利益の優劣を比較し,財務諸表 における国際的な比較可能性としての今後のあ り方を考察し論じていくこととする。

2 財務諸表の表示について

(1)諸外国における包括利益の表示概念 1)アメリカにおける表示概念

アメリカにおいて包括利益概念が明示的に導 入されたのは,1980 年 12 月に公表された財務会 計基準審議会(Financial Accounting Standards  Board:FASB)「以下 FASB とする」の概念書 第 3 号(Concepts Statement No.3:CON3)「以 下 CON3 とする」の営利企業の財務諸表の諸要 素(Elements of Financial Statements of Busi- ness Enterprises)が最初である。CON3 の中で は財務諸表の要素として,資産,負債,持分,収 益,費用,利得,損失,所有者からの投資,所 有者に対する分配,及び包括利益という 10 の要 素が定義された。その後,1997 年 6 月に財務会 計 基 準 書(Statement of Financial Accounting  Standards:SFAS)「以下 SFAS とする」第 130 1)包 括 利益の報 告(Reporting Comprehen- sive Income)が設定・公表されたことで,アメ リカの会計基準において包括利益と構成要素は,

一計算書方式2),二計算書方式3),持分変動計 算書方式4)のいずれかにより表示されることに なる。これらの方式にその他の包括利益(Other  Comprehensive Income:OCI)「以下 OCI とす る」という概念が明示的に導入された。

なお,「包括利益」の概念は,SFAS 第 130 号以前に 1960 年代から出現している。1950 年 前後のアメリカ公認会計士協会(The Ameri- can Institute of Certified Public accountants:

AICPA)「以下 AICPA とする」は当期業績主 義を支持していた。その後,1966 年会計原則審 議 会(Accounting Principles Board) の Opin- ion No.9 によって,貸借対照表の持分項目であ る利益剰余金に特別損益が直接,借記・貸記さ

れることがなくなり,損益計算書を経由するこ とになる。これは「包括利益」と「当期純利益」

の概念である。しかし,アメリカ企業の海外進 出の増加に伴い,外貨換算会計における換算差 額,売却可能有価証券の時価評価による評価差 額について,損益計算書を経由せず,直接持分 項目に計上する実務が普及した。つまり,持分 項目にはいろいろな情報が掲載されていたので ある。このようなところに,クリーン・サープ ラス5)の理想を掲げたが,ダーティ・サープ ラス6)の現実を持った包括利益概念の流れで あった7)

その後,アメリカ会計学会(American Ac- counting Association:AAA)「 以 下 AAA と する」と AICPA によって FASB が 1970 年に 設立された。この FASB の概念書である財務 会計諸概念に関するステートメントであるアメ リカ財務会計概念書(Statement of Financial  Accounting Concepts:SFAC)「以下 SFAC と する」の利益の概念では,2 つの観点がある。

収益費用を会計期間の経済的資源及び債務の変 動からのみ生じ得るとする観点と必要性がある 収益及び費用の変動が認識される時であり,利 益の測定は必ずしも期間の資源及び債務の変動 のみにて制限されるものではないとする観点で ある。

この FASB の概念は資産負債からの利益を 包括利益として収益・費用・利得・損出の合計 である稼得利益(Earning)を捉え,この稼得 利益を収益費用観の利益とすることで未実現利 益部分を補っていると考えることが妥当であ る。

SFAC の利益概念の包括利益とは,企業の特 定期間の純資産の変動額から純資産に対する持 分所有者との直接的な取引部分を引いた変動で ある。持分の変動の原因となるのは「取引」,

「その他の事象」,「環境」としている。従来,「取 引」の正確性については文書等によって確認す ることができるため,それのみを対象としてい た。しかし,これに「その他事象」,「環境」に

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まで広げることによって,情報発信側の様々な 事態を想定して調整した情報を発信することも できることになる8)

ここでの利益は資産価値と負債価値の評価に よる公正価値(Fair Value)によって行う。こ れは FASB による公正価値重視の会計基準が,

投資の意思決定のために情報を提供する目的が 拡大しているため,資産・負債に対する公正価 値評価の範囲を徐々に拡大する9)

公正価値とは「市場取引における資産の売却 または返済に際して取引される価額」と,「合 理的に算定された価額」である。公正価値概念 は「市場がある」,あるいは「市場がない」で 分けられているが,現実には市場価値がわかる ケースの方が少ないのではないかと多くの論者 が述べているところである。この市場価値がわ からない場合の合理的価額の算定は,できる限 り入口の広い基準の設定を踏まえた利益概念で はないだろうか。

FASB の利益概念では,このように利益が資 産価値と負債価値の変動から求められ,収益は 資産の増加または負債の減少,費用は資産の減 少または負債の増加となる。つまり,費用と収 益を取引価格により計上し,期中の対応関係の 内容が問われなくなった。これはアメリカで 1980 年代後半以降,金融商品等に関する会計 項目が増加したためである。

これらの金融商品等に関する会計項目の実務 処理の整理のために,その他の包括利益の内容 を整理する必要がある。基準を設けて公正な価 値評価を行うことにより,未実現利益の処理も 整理される。この基準は,既存の会計処理の拡 張として,包括利益計算書として公表したので ある10)

アメリカでは主に未実現利益の処理を財務諸 表上に反映させることを目的として包括利益概 念が導入された。デリバティブの会計処理に置 いて時価評価が導入されている。そのため,未 実現利益の認識・測定が必要になっていること が背景として存在している。

また,ここでは包括利益概念の導入に伴い,

稼得利益とその他包括利益という概念が新た に設けられている。1997 年の FASB の会計基 準では稼得利益を純利益(Net Income)とい う語で示し,純利益に含められない包括利益は その他包括利益という概念で領域を定めた11) ここではその他包括利益に市場性のある有価証 券と特定のデリバティブ証券の未実現損益,外 国通貨換算損益,最小限年金負債修正の影響額 の 3 項目を収容するという妥協的な会計基準を 設定したが,純利益を温存する点でイギリスと も国際会計基準とも異なっている。

アメリカの会計基準は世界基準ともいわれて いたが,2000 年には入り,世界を揺るがす不 正会計や次々と起きた大企業の破綻により揺ら いだといわれている。現在,アメリカにおける 企業業績の開示方式は,企業の営業成績を単一 に報告する一計算書方式,当期純利益から開示 する独立の包括利益計算書にて報告する二計算 書方式,さらに純利益とその他包括利益を加え た包括利益に株主資本の変動を合わせて報告す る株主資本等変動計算書の三様式が認められて いる。

2)イギリスにおける表示概念

アメリカがその他の包括利益と包括利益とい う語句を使っているのに対し,イギリスでは同 様の概念が総認識利得損失計算書(Statement  of Total Recognized Gains and Losses) の 中 における損益計算外項目12)として定められて いる。1992 年 10 月,イギリスでは財務報告基 準 書(Financial Reporting Statement:FRS)

「以下 FRS とする」第 3 号の財務業績の報告

(Reporting Financial Performance:RFP) が 公表された。その中で,財務業績を報告するた めの主要財務諸表として規定されたのが総認識 利得損失計算書と損益計算書である。イギリス で損益計算外項目概念が導入される背景には,

インフレを契機として取得原価主義を用いるこ とによって生じる資本の侵食という問題があっ た。そのため,有形固定資産等の時価評価が導

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入されることとなり,FRS 第 3 号は財務諸表 の 1 つとして総認識利得損失計算書の作成を求 めるようになった。総認識利得損失計算書で は,当期中に認識されるすべての利得(Gains)

及び損失(Loses)は,「損益計算書または総 認識利得損失計算書に表示するべきである」と し,損益計算書に計上されない株主帰属のもの を計上するものとした13)

FRS 第 3 号では,総認識利得損失計算書に 記載される項目の内容について具体的に規定し ないで,個別の会計基準に委ねている。そのた め,記載項目については個別の会計基準にて整 理されてなければならない。イギリスの包括利 益概念について,総認識利得損失計算書から包 括利益の概念をより早く導入していることや,

また,「認識された企業のすべての経済的資源 の変動内容」の情報を財務諸表において表示す るという情報セット・アプローチの一部分とし て総認識利得損失計算書の制度化が行われてき たことが特徴であると分析している14)

イギリスでは世界に先駆けて包括利益概念を 導入した国である。そして,総認識利得損失計 算書の主要財務諸表化は,世界の会計基準設定 主体に影響を与えることとなった。

しかし一方でイギリスの総認識利得損失計算 書には問題もある。実務における利用状況から 見ると,会計基準で要求されている以外にも,

様々な項目が総認識利得損失計算書に記載され ており,多様な項目が収容されている。こうし た事態の背景には,損益計算書に含められない ものを総認識利得損失計算書に記載される項目 に収容するという考えがある。そのため,総認 識利得損失計算書に記載される項目に共通した 特徴を見出すことは難しい。そのような損益計 算書外項目における概念上の整理が今後の課題 となっている。

3)IFRS(国際財務報告基準)における表示概念 国際財務報告基準(International Financial  Reporting Standards:IFRS)「以下 IFRS とす る」については,日本の上場企業も早急な検討

が必要とされている。IFRS 導入は現行会計基 準の大幅な変更を企業にもたらすこととなる。

こうして新たな基準で作成される財務諸表の中 には,「包括利益計算書」の項目もある。

IFRS はこれまでに作成されてきた会計基準 を継承する形で構成されている。これまで国 際的な統一基準とする会計基準は,国際会計基 準委員会(International Accounting Standards  Committee:IASC)「以下 IASC とする」によっ て作成された国際会計基準(International Ac- counting Standards:IAS)「以下 IAS とする」

がある。しかし,国際統一基準の実現には各国 の利害調整がネックとなり,共通の理解を得る には程遠い状態が続いていた。2000 年代に入 り,IASC は国際会計基準審議会(International  Accounting Standards Board:IASB)「 以 下 IASB とする」へと組織改編が行われ,それに 伴い IAS は IFRS へと名称変更された。

IASB の業績報告プロジェクトでは,純利益 の表示を排除するマトリックス形式が推進され ている。マトリックス形式による業績報告で は,純利益の表示が排除され,リサイクルも行 われないため,包括利益が重要視される。しか し,このような報告方法は,現行の報告様式か ら乖離しているため,研究者からは,包括利益 が当期純利益より有用であるとの結果が得てい ないという反対意見が出された。このため,業 績報告プロジェクトの発展はなくなった15)

その後,IASB と FASB の業績報告の統合 の必要性が検討され,2004 年 4 月,IASB と FASB の共同プロジェクト業績報告が示され た。

この共同プロジェクトでは,三段階のフェー ズにより進められる。要求される一組の財務諸 表の構築と比較情報を扱うフェーズ A,財務 諸表の情報開示における基本的な問題を扱う フェーズ B,中間財務諸表について扱うフェー ズ C である。

フェーズ A は,最初に公表されたのは 2006 年 3 月である。次に改訂のため 2007 年 9 月に,

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IAS 第 1 号財務諸表の表示改訂に関する公開草 案―改訂された表示を経て IASB から改訂 IAS 第 1 号という形で,具体案の提示が行われた。

さらに 2010 年 5 月は,公開草案その他包括利 益項目の表示 IAS 第 1 号の改訂を公表し,そ の他包括利益の区分の表示方法を中心に改訂を 行っている。フェーズ B は,討議資料財務諸 表の表示に関する予備的見解を 2008 年 10 月公 表している16)。改訂 IAS 第 1 号では,当期純 利益の表示を認め,損益計算書様式に従って包 括利益の報告を提案している。しかし,フェー ズ B では純利益の報告は,業績報告を行う計 算書ではしないで,活動ごとの区分方法に着目 する検討を行っている。また共同プロジェクト の提案は,長期的な観点によるものであったた めに,審議は途中から純利益の表示を認める姿 勢となっていった。当初は,批判が多かった IASB の業績報告プロジェクトは,このような 背景を経て国際的なコンバージェンス17)に向 けての検討が進められるようになった。

IFRS の導入は日本の会計基準及び企業動向 に対して多大な変更をもたらすことが予想され ている。

(2)日本における包括利益表示概念の検討 日本の企業会計は会社法,金融商品取引法,

企業会計原則などの法律や原則に準拠して展開 されてきたが,1990 年代後半から国際会計基 準が日本の会計基準設定に影響を及ぼしてい る。日本の会計基準においては包括利益の表示 を定めることはしていなかった。そのため,財 務諸表の構成項目として存在していなかった。

しかし,企業会計基準第 5 号賃借対照表の純資 産の部の表示に関する会計基準で定義されてい る,評価・換算差額等の項目はその他の包括利 益を構成する情報であり,また,同時期に公表 された企業会計基準第 6 号株主資本等変動計算 書に関する会計基準では,純資産項目の期中変 化の内訳を明らかにする株主資本等変動計算書 の作成が義務付けられた。この株主資本等変動

計算書に表示された評価・換算差額等の当期変 動額の純額はその他の包括利益に相当するた め,これらを純利益と加減することで,実質的 に包括利益情報は開示されている。このように 実質的に包括利益情報が与えられているため に,日本では財務諸表上に包括利益の項目は存 在していなかった。しかし,日本においても,

2011 年 3 月決算より,連結財務諸表上で,包 括利益の表示に関する会計基準が適用されるよ うになった。その結果,従来の当期純利益にそ の他の包括利益を加減算した包括利益を企業は 計算書に開示しなければならなくなった。

包括利益の計算方法は,次の 2 種類が存在し ている。1 種類目が,一計算書方式であり,当 期純利益を構成する項目とその他の包括利益の 内訳を単一の計算書に表示する方法である。2 種類目が,二計算書方式であり,当期純利益を 構成する項目を表示する第 1 の計算書(従来の 損益計算書と同じ)と,その他の包括利益の内 訳を表示する第 2 の計算書からなる方法であ る。

(3)企業会計基準第 25 号の導入について 日本で包括利益が表示されることとなった きっかけは,企業会計基準第 25 号包括利益の 表示に関する会計基準であった。企業会計基準 第 25 号は包括利益について,「ある企業の特定 期間の財務諸表において認識された純資産の変 動額のうち,当該企業の純資産に対する持分所 有者との直接的な取引によらない部分をいう。

当該企業の純資産に対する持分所有者には,当 該企業の株主のほか当該企業の発行する新株予 約権の所有者が含まれ,連結財務諸表におい ては,当該企業の子会社の少数株主も含まれ る。」18)と定義されている。

日本の企業会計基準委員会は 2010 年,企業 会計基準第 25 号において「これまで我が国の 会計基準では,包括利益の表示を定めていな かった」19)としている。また,日本の企業会 計基準委員会は包括利益の導入経緯について,

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「国際的な会計基準の動きに対応するため」20)

という意図が存在し,包括利益の表示の目的に ついては,「期中に認識された取引及び経済的 事象(資本取引を除く)により生じた純資産の 変動を報告するとともに,その他の包括利益の 内訳をより明瞭に開示する」21)とされている。

包括利益の表示によって提供される情報は,投 資家等の財務諸表利用者が企業全体の事業活動 について検討するのに役立つことが期待される とともに,貸借対照表との連携,すなわち,純 資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係 を明示することを通じて,財務諸表の理解可能 性と比較可能性を高めることになるものと認識 されている22)。また,日本の包括利益の表示 の導入は,包括利益を企業活動に関する最も重 要な指標として位置づけることを意味するもの ではなく,当期純利益に関する情報と併せて利 用することにより,企業活動の成果についての 情報の全体的な有用性を高めることを目的とす るものであり,包括利益の表示によって当期純 利益の重要性を低めることを意図するものでは ないとし,当期純利益に関する情報の有用性を 前提としている23)

包括利益の表示は,当期純利益の重要性を低 めるものではなく,両者を併せることによっ て企業活動全体の評価をより有用なものにす 24)。従来の会計基準では,その期における 企業活動の総合的な成果を示す当期純利益しか 存在しなかった。しかし,1992 年にイギリス で「総認識利得損失計算書」が導入されて以来,

各国の会計基準において包括利益概念が導入さ れるようになった。包括利益概念の導入は,顕 在化されている当期純利益に加え,企業が備え る潜在的な業績を評価するものである。次章で は,この包括利益と当期純利益について考察す る。

3 包括利益と当期純利益について

(1)包括利益と当期純利益における利益概念 包括利益の定義は個別財務諸表の場合と連結

財務諸表の場合とで異なる。個別財務諸表の場 合は,「包括利益 = 当期純利益 + その他の包 括利益」となる。一方,連結財務諸表の場合は,

「包括利益 = 少数株主損益調整前当期純利益 

+ その他の包括利益」となる。

当期純利益が既に存在している過去のキャッ シュ・フローを利益として示すものであるのに 対し,包括利益は将来の予測キャッシュ・フ ローを利益として表示するものであるというの が両者の最大の違いである。キャッシュ・フ ロー上に存在しえない未来のキャッシュ・フ ローを評価できるという点に,包括利益概念の 存在意義があるといえる。

しかし一方で,企業の将来予測を無制限に財 務諸表へ反映させることは,過剰な恣意性を 含んだ企業評価へとつながる。そのため,正 確な企業評価を可能にする制度設計が課題と なっている。基礎的会計理論に関する報告書

(A Statement Of Basic Accounting Theory:

ASOBAT)25)や FASB が掲げている財務会計 情報の特性を参考として,客観性(objectivity),

目的適合性(relevance),将来予測の可能性,

有用性(utility),信頼性(reliability),測定可 能性等を考慮して,包括利益計算書におけるそ の他の包括利益項目に制限を加える必要があ 26)。このように,包括利益と当期純利益で は異なる利益概念を持っている。こうした会計 上の観念の変化は,その時代の変化によって行 われてきた。次節では日本における会計観の変 遷について考察する。

(2)会計観の変遷

日本における会計観は時代の変遷に伴い移り 変わってきた。19 世紀中頃から 1920 年代まで の会計学は,時価会計を軸としたいわゆる静態 会計学(静態論)といわれる財産計算に焦点が おかれ,したがって,財産目録,貸借対照表重 視の会計観であったが,その後,固定資産の増 大に伴い,減価償却の問題が取り上げられ,取 得原価会計をベースにした会計観が台頭してき

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27)。その後 1929 年の世界恐慌以来,日本で は損益計算書重視の会計観が中心となった。損 益計算書重視の会計観とは,動態会計学と呼ば れ,取得原価主義を基礎としている。

戦後の近代会計においては,期間損益計算に 主眼をおいた収益費用アプローチが主流であ り,これと整合性をとるように,資産と負債を 取得時の価額によって評価する取得原価主義の 考え方が重視されてきた。そのため,資産や負 債を取得時の価額で評価した後は,当該資産等 の市場価格等の公正価値が変動しても,それに よる再評価を原則として求められなかった。こ れは,適切な期間損益を計算する観点から,対 価となる現金等が確定するまでは利益として把 握しない,言い換えれば未実現の利益は損益計 算から排除しようとする考え方である実現主義 によるものである。すなわち,資産や負債の保 有時における価値の変動分を把握したとしても 実現とはいえないため,再評価を求められな かったのである28)

しかし,1990 年代以降,公正価値概念29) 導入されることにより,時価会計が一部導入さ れることとなった。取得原価主義と時価会計主 義では,利益に対する概念が異なっている。「取 得原価主義」は,「収益 − 費用 = 利益」とす る,収益費用中心観を基礎としている。一方で,

時価会計主義は,「利益は 1 期間における企業 の富または正味財産の増加分の測定値であり,

資産は企業の経済的資源の財務的表現であり,

負債は将来他の実体に資産を引き渡す義務の財 務的表現である」と定義付ける資産負債中心観 である。取得原価主義が損益計算書重視である のに比べ,時価会計主義は賃借対照表の純資産 の部の変動額に注目している。

この時価会計の一部導入により,損益計算書 と賃借対照表のクリーン・サープラス関係を崩 すことになったと考える。クリーン・サープラ スとは,剰余金に損益以外の項目が混入しない 状態のことをいう。時価会計の一部導入によ り,後述するようなその他の包括利益が出現

し,クリーン・サープラス関係が崩れ,ダー ティ・サープラス関係になったと論じている。

例えば,有価証券のうちのその他有価証 30)評価については時価基準が適用され,そ のため評価差額の処理については,損益計算書 を経由しないで,基本的には貸借対照表の純資 産の部に直入されることになったことを挙げて いる31)

ただし,評価益は純資産の部に,評価損は当 期損失に算入も可能である32)。SFAC 第 5 号,

第 6 号は,損益計算書は正確に本業から生まれ る成果として当期業績を表し,会計処理変更に よる営業利益を除いた実現利益である稼得利益 のみを計上の対象としているのに対して,偶発 的または周辺的な成果を表し,経営者のコント ロールが及ばないその他の事象や環境の変化に 起因される未実現利益も計上の対象とするのが 包括利益であり,実現利益と未実現利益を一体 として表示することになる。

このように,包括利益は純資産のすべての増 減理由を明らかにする有用な情報を利害関係者 に提供することができると考えられる。これは 包括利益が営業収益の実現とそれに見合う発生 費用から認識される稼得利益に本業外の損益や 臨時特別損益を含めたものであるが,それだけ ではなく,純資産変動額を含むようになる。こ れは画期的な包括利益概念である。貸借対照表 を重視した利益概念であり,資本取引を除いた 純資産の変動と概念付けられる。以上のよう に,損益計算書は収益費用中心観「収益費用ア プローチ」から資産負債中心観「資産負債アプ ローチ」への転換とも考えられる33)

その他の包括利益概念の出現は,損益計算書 と賃借対照表の関係をクリーン・サープラスか らダーティ・サープラスへと変化させるもので あった。日本における会計観は,世界恐慌を境 に時価会計主義から取得原価主義へと移り変 わった。しかし,近年において現れた,実現利 益と未実現利益を一体として表示する包括利益 計算書は,賃借対照表を重視するという時価会

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計の会計観へと回帰する資産負債アプローチを とっている。このように,包括利益の導入は長 く保持されていた会計観の変化を再びもたらす ものであった。

包括利益の採用は,資産負債アプローチを進 めるうえで必然であったといえる。なぜなら,

資産や負債,特に近年の会計事象の変化から扱 うこととなった新しい資産や負債を公正価値で 測定するようになると,従来の収益費用アプ ローチでは利益として把握できない純資産の変 動額が認識されるようになったからである。す なわち,資産負債アプローチによるストックの 評価において,資産や負債を公正価値によって 評価する範囲が拡大されてきたことによるもの である34)

4 その他の包括利益項目について

(1)「その他の包括利益」の概念

その他の包括利益に相当する項目として純資 産の部の評価・換算差額等存在していたが,企 業会計基準 25 号(包括利益の表示に関する会 計基準)が公表されたことにより,貸借対照表 の純資産の部ではその他の包括利益累計額(Ac- cumulated Other Comprehensive Income)35) 包括利益計算書(Statement of Comprehensive  Income)ではその他の包括利益として扱われ ることになる。日本でのその他の包括利益項目 は,「その他有価証券評価差額金,繰延ヘッジ 損益,土地評価差額金,為替換算調整勘定,持 分法適用会社に対する持分相当額(持分法を適 用する被投資会社のその他の包括利益に対する 投資会社の持分相当額を一括して区分表示した もの)」である。これらのその他の包括利益の 項目は繰延税金資産,繰延税金負債を控除した 金額である36)。当期純利益を算定するための 利益計算に組み込むことを避けるために直接純 資産の部へ計上される項目の総称である。

異なる利益計算方法をとる当期純利益と包括 利益を結合させるための役割とみる場合には,

当期純利益と包括利益は全く異なる利益概念が

想定されていることとなり,利益の二元的計算 考えることができる。この場合におけるその他 の包括利益は,当期純利益という利益概念には 含まれないが包括利益には含まれるという受動 的な意味での位置づけのみが与えられると考え ることができる。

他方,その他の包括利益を同一の利益計算構 造からなる当期純利益から包括利益への橋渡し とみる場合には,当期純利益も包括利益も同じ 利益概念が想定されていることとなり,利益は 一元的に計算されていると考えることができ る。この場合におけるその他の包括利益は,当 期純利益と包括利益を区分する指標として,よ り能動的な意昧での位置づけが与えられている と考えることができる37)

このその他の包括利益が企業の財務業績を示 す単一の計算書において,表示方法が統一され たということは,その他の包括利益が企業の財 務業績の一部であるという認識に基づいている と考えることができる。つまり,2 つの計算書 を用いて,そのうちの 1 つの計算書においてそ の包括利益を表示することや持分変動計算書に おいてその他の包括利益を表示することは,当 期純利益にその他の包括利益を加えた包括利益 を企業の財務業績とは見なせないという思考が 存在しており,単一の計算書の,当期純利益 とその他の包括利益及びそれらの合計額であ る包括利益を示すことは,当該計算書の最終 値(Bottom Line)が包括利益となることから,

包括利益自体が企業の最終的な財務業績である と思考されていることが明らかとなる38)

その他の包括利益の表示方法が統一されたと いうことは,その他の包括利益が企業の財務業 績の一部であるという認識に基づいていること を示す。これはすなわち,過去のキャッシュ・

フローを示す当期純利益のみを企業の業績とみ なすのではなく,包括利益自体を企業の最終的 な財務業績とみなす考え方である。

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(2)「その他の包括利益」の問題点

包括利益導入の賛成意見,反対意見に対して それぞれその他の包括利益に対して問題点があ る。賛成意見に対しては,その他包括利益項目 が損益計算書を経由せずに貸借対照表の純資産 項目としてその累積額のみが直接計上されてい た点を問題視していることが挙げられる。つま り,その他の包括利益項目は,クリーン・サー プラスの前提を否定する,いわゆるダーティ・

サープラス項目として貸借対照表の純資産部分 の表示内容を混乱させていると考えられるので ある。

一方反対意見に対しては,財務諸表利用者が 注目する財務業績指標は,外部的要因や一時的 な影響を排除した数値であると考えていること が挙げられる。つまり,資産負債項目の時価評 価額の変化分であるその他の包括利益項目が加 算されることによって財務数値の持続性が低下 すると考えられる包括利益情報は,情報利用者 が経済的意思決定に用いる際に,純利益情報と 比較して財務業績指標としての利用可能性が低 いと考えているのである。

その他の包括利益については様々な問題点も 指摘されている。

まず指摘されるのは,その他包括利益項目の 会計処理方法の問題としての当該項目に対する リサイクリングの適用である。リサイクリング とは,その他有価証券の売却により有価証券評 価差額を実現利益として計上するなど,その他 包括利益を当期純利益として計上し直す(組替 調整)である。

現状の日本基準ではリサイクリングの実施 が可能だが,国際財務報告基準(IFRS)では,

一部の項目でリサイクリングを禁止している。

リサイクリングが禁止される場合に,その他の 包括利益は,その実現時に当期純利益を経由せ ずに直接的に利益剰余金へ振替えられる。

リサイクリングが禁止される理由としては,

当期純利益と資産価値の変動による増減額の区 分が重要視されていないことに加えて,含み損

益の実現処理が恣意的な損益計上の温床になり かねないことから,会計的にも操作可能な利益 表示方法は禁止すべきであると考えられる。

また,包括利益情報と株価との関連性の問題 については,ダーティ・サープラス項目が貸借 対照表上に計上されることにより,時価会計に よる財務業績報告への影響が検討され始めた時 期のデータから便宜的に算定された数値を用い て分析していることが多く,IASB や FASB が 公表している概念フレームワークにおいて包括 利益の概念が示されていることはあっても,当 該項目に関する明確な基準や表示方法が定まっ ていなかったことから,外部のステークホル ダーにとっては企業業績を把握するのに包括利 益情報の株価関連性については,現時点で判断 することは困難である39)

実現基準は実現可能性基準に拡張された。そ の結果として,その他の包括利益概念が提起さ れ,稼得利益概念を包含する上位概念として包 括利益概念が当期純利益概念にかわって業績表 示利益であるとの主張が世界的に展開されてい るのである。しかし,重大な矛盾点が表面化し てきたのである。それは,その他の包括利益は 未実現利益であるので,損益計算書の構成要素 とはなりえないというものである。実現基準を 拡張して実現可能性基準を持ち出しながらも,

その中では解決することができないのである。

その裏に隠されているのは,その金額が巨額な ものになることから,本来,公表利益すなわち 処分可能利益が会計期間ごとに大きく変動する ことになることを避けるというのが目的ではと 考えている。

そこでは,業績を単一の数字に要約すること はできないと考え,業績を構成する複数の重要 な要素を強調する情報セット・アプローチでの 解決さえも断念した。そして,理論的首尾一貫 性さえも放棄し,資本直入という処理によって 対処しなければならない事態に追い込まれたも のであると解するのが妥当なところであろう。

利益というものは,最終的な報告数値すなわち

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ボトムラインとしての金額が最も重要なもので ある。

ところが,包括利益概念にはそのような意義 が与えられていない。この結果,情報価値の点 でも,理論的規範性の点でも,積極的な意味を 持たない持分項目が増殖し,持分の部の無駄化 が進行することとなった。これは,会計学の存 立にとって致命傷にもなりかねない憂うべき事 態であり,「利益の概念に理論的な考察を加え ずにストックの情報価値を優先した結果は,従 来からの実現利益に特段の情報価値をもたない その他の包括利益を加えて,意味不明な利益 を算出することになったともいえる」のであ 40)

5 業績指標としての当期純利益の役割

(1)当期純利益とは

当期純利益とは,1 事業年度における,すべ ての収益からすべての費用を差し引いた残余の 部分で損益計算のボトムラインとして認識され てきたものである。「収益 − 費用 = 利益」と 示すことができるため,収益・費用アプローチ と位置付けられ,包括利益の資産・負債アプ ローチと性格を異にしている。適正な損益期間 を目的としており,実現した収益から,それに 対応して費用を差し引くことで,その期間の業 績を適切に示すことを重視したものである。

つまり,当期純利益は,一定期間の実現した 収益から,それに対応する費用を差し引いて算 出される損益のことであり,包括利益と合わせ て用いることで企業の業績評価をより正確に行 える点にある。

わが国企業会計原則において,収益概念は明 確には定義されていない。企業会計原則第二の 損益計算書原則一において「損益計算書は,企 業の経営成績を明らかにするため,一会計期間 に属するすべての収益とこれに対応するすべて の費用とを記載して経常利益を表示し,これに 特別損益に属する項目を加減して当期純利益を 表示しなければならない」と規定されている。

さらに,同項 A の発生主義の原則及び B の 総額主義の原則においても「すべての費用及び 収益は,その支出及び収入に基づいて計上し,

その発生した期間に正しく割当てられるように 処理しなければならない。ただし,未実現収益 は,原則として,当期の損益計算に計上しては ならない。前払費用及び前受収益は,これを当 期の損益計算から除去し,未払費用及び未収収 益は,当期の損益計算に計上しなければなら ない。」,「費用及び収益は総額によって記載す ることを原則とし,費用の項目と収益の項目と を直接に相殺することによってその全部又は一 部を損益計算書から除去してはならない。」と 規定されている。「包括利益」の導入によって,

当期純利益とその他の包括利益は,最終的に キャッシュ・フローに帰結する点には共通性が あるが,そのキャッシュ・フローをもたらす源 泉に相違があると指摘しており,その相違は,

キャッシュ・フローの安定性,リスク及び予測 可能性であると指摘している。

このように考えた場合,包括利益は当期純利 益の相対的な評価を可能にし,当期純利益に よって示される継統的な業績の質の分析に寄与 する可能性がある41)。これを利益の変動の観 点から捉え直すのであれば,経営者が利益操作 可能な取引を基礎とする事業遂行の程度と利益 操作不可能な市場環境や経済環境の変化を明確 に区別することができることに当期純利益にそ の他の包括利益を結合させる意義がある42)

よって当期純利益と包括利益を区別し,それ ぞれの内容を分析して結合することにより,よ り正確な企業の業績評価が可能になるのであ る。

(2)当期純利益の問題点

当期純利益には様々な問題点が存在してい る。その中で,当期純利益が業績において説明 できない部分がある。

当期純利益という期間業績を表す財務報告に おいて,企業が株主から委託された資産を元に

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どのような運用による成果を得たかを報告する が,株主の持分である純資産を維持するための 運用過程やその結果である増減説明については 充分ではない。このような業績を判定するため の欠陥部分を補うものが包括利益計算書であ る。断片的な利益のフロー情報から残余利益を いかに維持増大したかを示すためのストック情 報を求めているのである。

また,当期純利益の内容は企業会計基準第 25 号と国際会計基準(IAS)第 1 号では異なっ ている。

企業会計基準第 25 号における包括利益お よび当期純利益の計算・表示と国際会計基準

(IAS)第 1 号における包括利益および当期純 利益の計算・表示上は同様のものであるように 見える。しかしながら,企業の価値を評価する ための要素である将来利益の現在割引価値を求 めるために必要とされる当期純利益の内容は企 業会計基準第 25 号と IAS 第 1 号とで異なるも のとなっている。

リサイクルが全面適用される企業会計基準第 25 号においては名目資本を維持すべき資本と する当期純利益が計算されているのに対して,

IAS 第 1 号における当期純利益は維持すべき資 本が混在しており,両者が同じ情報を提供して いるとはいえない状態となっている。さらに,

リサイクルがなされる場合には,以前,包括利 益において示された損益がもう一度当期純利益 において表示され,リサイクリングがなされな い場合には包括利益が当期純利益に一度だけ損 益が表示される。

このように,企業会計基準第 25 号と IAS 第 1 号とでは,リサイクリングによって当期純利 益の意味が異なり,それは維持すべき資本が異 なることを意味している。計算書においては,

包括利益や当期純利益といった同じ名称が付さ れていることから,情報利用者は,計算書にお ける企業会計基準第 25 号における包括利益と IAS 第 1 号における包括利益が同等のものであ り,企業会計基準第 25 号における当期純利益

と IAS 第 1 号における当期純利益が同等のも のであると捉えるかもしれない。しかしなが ら,その意味は異なるのであり,企業会計基準 第 25 号と IAS 第 1 号とでは,利益計算のベー スとなっている維持すべき資本が異なるという 事実を知った上で,これらの情報を扱う必要が ある43)

企業会計基準第 25 号においてはリサイクリ ングが全面適用され,名目資本を維持すべき資 本とする当期純利益が計算されている。一方 で,IAS 第 1 号における純利益は維持すべき資 本が混在している。そのため,企業会計基準第 25 号と IAS 第 1 号が意味する当期純利益は異 なるものとなっている。

6 結 論

かつて,日本の会計基準において包括利益の 表示が求められることはなかった。

この背景には,株主資本等変動計算書に表示 された評価・換算差額等の当期変動額の純額が 疑似的な包括利益として存在していることなど があった。

しかし,アメリカ,イギリスや IFRS におい て包括利益が導入されるようになると,日本で も導入の兆しが現れた。そして 2011 年 3 月決 算より,連結財務諸表上で,「包括利益の表示 に関する会計基準」が適用されることとなっ た。これにより,企業は従来の当期純利益にそ の他の包括利益を加減算した包括利益の開示が 義務付けられた。

包括利益は,企業会計基準第 25 号「包括利 益の表示に関する会計基準」において次のよ うに定義される。「包括利益とは,ある企業の 特定期間の財務諸表において認識された純資産 の変動額のうち,当該企業の純資産に対する持 分所有者との直接的な取引によらない部分をい う。当該企業の純資産に対する持分所有者に は,当該企業の株主のほか当該企業の発行する 新株予約権の所有者が含まれ連結財務諸表にお いては,当該企業の子会社の少数株主も含まれ

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る」というものである。

包括利益には大きく 2 つの利点がある。それ は,投資家等が企業全体の事業活動について検 討する際に貢献することと,純資産と包括利益 とのクリーン・サープラス関係を明示すること である。投資家は個々の特定した業績指標に影 響されてきたが,今後は,包括利益の存在によ り投資への判断は投資家の意思決定の割合が大 きく問われるが,従来では企業による利益操作 可能な数値を中心に企業の実態を捉えていたこ とが,事業遂行の程度と利益操作不可能な市場 環境や経済環境の変化が反映する利益操作不可 能な数値を掴むことできることから本来の企業 価値を判断することが可能になった。しかし一 方で,包括利益の導入には問題点も存在する。

それは,包括利益のうちその他の包括利益は未 実現利益であるという問題である。包括利益は 既に実現された利益ではなく,実現可能性のあ る利益である。つまり当期の会計期間において 確定されていない利益のため,損益計算書の構 成要素とはなりえない。そのため,企業の実態 を正確に捉えるための包括利益が,かえって現 実とかけ離れた業績を示すことに繋がりかねな いのである。

つまり業績指標として検討する場合,包括利 益と当期純利益は個々での検討をするのではな く,包括利益は当期純利益の相対的な評価を可 能にし,当期純利益によって示される継統的な 業績の質の分析に寄与する可能性を持っている のである。

よって当期純利益と包括利益を区別し,それ ぞれの内容を分析して結合することにより,よ り正確な企業の業績評価が可能になるのであ る。

日本の会計基準における包括利益の導入は投 資家等に企業情報を提供することに貢献するこ ととなった。しかし,その反面で実現利益では ないその他の包括利益は正確性を持った判断を していかないと業績指標の歪にもつながる。こ うした判断をするための問題点を解決すること

が包括利益における今後の課題となっている。

本論文では包括利益と当期純利益について,

その導入の背景等について触れながら,その概 要や問題点について論じてきた。包括利益をい ち早く導入したのはアメリカ・イギリスであ り,1980 年代からその導入について議論され てきていた。それぞれの国が抱える問題に対応 するため,会計基準の変化が迫られることと なっていたのであった。そして,日本も世界的 な会計基準の変化に影響を受け,包括利益の導 入に踏み切った。しかし,その一方で,日本に おける会計基準の決定を左右してきたのはその 会計観であるという事実があった。

日本では世界恐慌以来,長らく損益計算書重 視の会計観であった。しかし,公正価値概念の 導入によって,時価会計が一部導入されること となった。その他の包括利益の出現はこうした 時価会計の一部導入が背景に存在していた。そ して,包括利益の導入は長く保持されていた会 計観の変化を再びもたらすものであった。

このように,日本における新たな会計基準の 導入は,会計観の変遷と密接に関わっている。

しかし,日本の会計観は戦前から現代まで何度 も大きく揺れ動いてきており,安定することは ない。1920 年代までは賃借対照表重視,世界 恐慌後は損益計算書重視,そして現代では賃借 対照表を重視するという時価会計の資産負債ア プローチへと回帰している。そのため,日本に おける今後の会計基準を考えるにあたり,日本 の社会状況や世界的な動きにより,その会計観 がいかに変わりつつあるかに注目することが重 要となると考えられる。

【注】

1) 米国の財務会計基準審議会(FASB:Financial  Accounting Standards Board)が公表する財務 会計基準書のこと。

2) 単一の包括利益計算書に,当期純利益とその他 の包括利益を表示する方法。

3) 包括利益の内訳と包括利益合計は,当期純利益 より開始する包括利益計算書に表示する方法。

4) その他の包括利益の内訳と包括利益合計は,持

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