九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
嫌気的水域における水質の生物毒性評価と通気およ び活性炭処理による浄化技術の研究
隅倉, 光博
https://doi.org/10.15017/1441301
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名 : 隅 倉 光 博
論文題目 :嫌気的水域における水質の生物毒性評価と通気および活性炭処理による浄化 技術の研究
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
河川の停滞水領域や,水の更新頻度の低い湖沼の底質には,多様な有機物が流入して堆積する.
酸素の供給が,好気性微生物による有機物の分解に必要な量に満たない場合には,嫌気性微生物の 活動によって生成するアンモニアや硫化物等による水質の悪化と生態系への悪影響が問題となる.
覆砂,原位置固化などの対策が取られることもあるが,効果が一時的であるため,好気処理(代表 的なものは通気)による還元的底質の浄化技術が注目されている.好気処理を浄化技術として確立 するにはまず,その効果の評価法が必要であるが,個々の化学物質の濃度変化を追跡することは実 用的ではない.そこで本研究では,評価法の確立を目的としてオオミミジンコ (Daphniamagna)を 用いた生物試験法の適用および通気と活性炭処理による浄化技術に関する研究を行っている.
まず,ベトナムのホーチミン市の河川12か所で採取した河川の底質を密閉容器中に入れ,気相部 の純酸素置換および通気による好気処理を行った.生物毒性評価は未処理および処理後の底質から 分離した間隙水を用い,それらを段階的に希釈しながらオオミジンコの遊泳阻害率を計測すること によって行った.この結果と,底質の溶存物質の化学分析結果から,アンモニウムイオン,塩化物 イオン,鉄イオン,硫化物イオンがオオミジンコに対する毒性に寄与していることを明らかにした.
しかし,分離した間隙水のオオミジンコに対する毒性は, ECOTOXデータベースに基づいて推定 した毒性よりも低いことから,物質問の相互作用による毒性の隠ぺいが起こりうることを見出して いる.
通気による好気処理は底質の間隙水の有害物質濃度の低減に有効で、あったが,処理期間中にオオ ミジンコに対する毒性が増加することがあった.その原因として,有機物の分解促進によるアンモ ニア生成とその酸化過程で生成する亜硝酸イオンの濃度上昇を特定した.そしてこれらの結果に基 づき,オオミジンコによる生物試験は,底質のような複雑な系の環境毒性や,浄化技術の効果の総 合的な判定手法として有効であると結論している.
還元的な底質の浄化のための通気処理は簡便であるが,硫化物イオンの酸化効率が低いという問 題がある.それを促進するための触媒として活性炭が利用可能で、あることが報告されているが,反 応機構や,反応前後の物質収支は明らかにされていない.そこで,密閉容器中で活性炭存在下での 硫化物の酸化実験を行い,反応前後のイオウ化学種の定量, X線光電子分光による活性炭上のイオ ウ化学種の同定を行った.それにより,反応生成物は硫酸イオン(全イオウの 13%),チオ硫酸イ オン(34%),元素状イオウ(36%)であることを明らかにした.このうち元素状イオウは活性炭に 保持されていた.また反応に関与した酸素の約82%についても収支を明らかにしている.
以上要するに本論文は,オオミジンコを用いた生物試験が,還元的な底質の毒性評価や浄化技術 の効果の総合的な判定法として優れていることを明らかにし,好気処理における,硫化物イオンの 酸化に対する活性炭の触媒作用に関して新規の知見をもたらしている.これらは環境地盤工学に寄 与する価値ある業績であり,よって本研究者は博士(農学)の学位に値すると認める.