特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題 (一)
その他のタイトル Sur le calcul de la part successorale du gratifie (1)
著者 千藤 洋三
雑誌名 關西大學法學論集
巻 43
号 3
ページ 887‑905
発行年 1993‑10‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/2135
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰
一 は じ め に ニ特別受益者の相続分の算定方式︵以上本号︶
三 み な し 相 続 財 産 の 算 定
H
相続開始時の相続財産の価額 口 贈 与 財 産 の 価 額 曰 遺 贈 財 産 の 価 額 四 一 応 の 相 続 分 の 算 定 五 具 体 的 相 続 分 の 算 定 六 相 続 債 務 分 担 と 具 体 的 相 続 分 七 寄 与 分 と 具 体 的 相 続 分 八 遺 留 分 と 具 体 的 相 続 分 九 お わ り に
千
二 藤
七
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰
︵ 八
八 七
︶
羊
︑>
ィ`
︵ 八
八 八
︶
被相続人から遺贈もしくは生計の資本等の生前贈与を受けた相続人がいる場合に︑共同相続人間で遺産分割を行
なうには︑その前提として︑分割すべき遺産の範囲や相続人の確定が行なわれなければならないが︑それと同様に重
要なことは︑共同相続人の間で実際に遺産を分割する割合となる各自の具体的な相続分︵﹁具体的相続分﹂とよばれ
ている︒しかし︑有力学説は︑﹁遺産分割分﹂が適切だと批判する︒後に詳論するが︑とりあえず本稿では﹁具体的
(1 )
相続分﹂を用いる︶が確定されなければならない︒もっとも︑分割すべき割合を含めて遺産分割をどのように行なう
かというその方法や内容等は︑基本的には相続人の協議︑あるいは調停に委ねられることから︑遺産分割に関しては
民法九 0 六条の一般的な規準以外にはいかなる規準も存在しないといえる︒しかし︑後日の紛争防止のためにも︑分
(2 )
割は原則として民法の定めた規定を考慮して行なわれるべきであり︑現実にもそれにしたがっている︒
そこで民法によれば︑相続分は︑まず最初に︑遺言を用いることにより被相続人自らが定めることができるし︑
あるいは第三者に委託して定めてもらうこともできる︵九 0 二条︶︒そして︑この指定相続分がない場合にはじめて︑
法定相続分や代襲相続分規定により定められる︵九
00
条・九 0 一条︶︒その際に︑もしも共同相続人のうちのある者
(3
)
が被相続人の生前中に、婚姻・養子縁組•生計の資本の各名目のもとに贈与を受けていたとき、あるいは遺贈を受け
たとき︑これらの贈与や遺贈︵これらを特別受益財産とよぶ︶
に返還する
( 1 1
持戻すという︒なお︑遺贈財産については︑相続開始時点ではまだ遺産総体に含まれていることから
持戻しの必要はない︑と一般的に解されている︶︒そして︑膨らんだ遺産総体財産に指定または法定の相続分率を乗
は じ め に
関 法
第 四
一 ︳
︳ 巻
第 三
号
の額を計算上︑被相続人の死亡時に残された遺産総体
ニ 八
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰 額︑その他︑特別受益分と寄与分や遺留分との関係などがある︒
二 九
じ︑そこから特別受益者が実際に取得しうる具体的な相続分を算定する︵九
0 1 ︱一条一項・ニ項参照︒なお︑算定方法
については︑次章以下で詳論する︶︒このように︑わが民法は︑価額計算主義を採用し︑共同相続人中に特別受益者
がいるときは︑特別受益者の得た贈与や遺贈額を考慮することにより︑他の共同相続人との間の公平さを維持すべく
特別の配慮を行なっている︒もっとも︑その場合でも︑民法は︑個人財産の処分自由の原則を貫徹し︑被相続人の意
思を最優先し︑被相続人が民法の条文とは異なった意思を有していたときは︑その意思表示を遺留分に反しない限度
ところで︑特別受益者の具体的な相続分の算定に際しては︑学説上の厳しい対立や解決すべき解釈論上の多くの
問題点が待ち構えている︒まず第一に︑特別受益者の相続分をどのような方法により算定するかである︒次に︑その
算定方法にしたがった場合に生じる問題︑すなわち﹁相続開始時の相続財産価額﹂を算定するために︑評価基準時と
評価方法を明確にしなければならない︒同じく受贈財産の価額を算定するために︑評価基準時を何時の時点に求める
か︑あるいは評価方法にはどのようなものがあるか︑さらには評価方法の一環として金銭贈与の評価換えが許される
か否か︑許されるとした場合に相続開始時かそれとも遺産分割時のいずれか︑などである︒相続開始後︑相当の期間
が経過したのちに家庭裁判所へ遺産分割審判が申し立てられた場合には︑遺産を構成する財産の価額等に極めて大き
な変動が生じているケースが多く︑したがって︑財産の評価の基準時や方法は︑全財産の換価処分とか現物分割︑あ
(4 )
るいはすべての共同相続人の共有といった方法をとるのであれば別として︑当事者にとって非常に関心が高い問題と
なっている︒さらには︑超過特別受益者が存在した場合の具体的な取得額の算定や特別受益者の負担すべき相続債務 において有効とする︵九
0 ‑ ︱
一 条
三 項
︶ ︒
︵ 八
八 九
︶
︵ 八 九
0 )
第 四 三 巻 第 三 号
(5 )私は︑すでに別稿で︑特別受益者および特別受益財産の範囲︑被相続人による特別受益財産の持戻し免除︑特別
受益者が同時に寄与分権者である場合の相続分をめぐる扱い︑などについて言及してきた︒そしてまた︑
(6
)
も前に︑評価基準時という視点から特別受益と遺留分減殺に関して研究を行なったことがある︒この度は︑特別受益
者の相続分の算定をめぐる様々な問題点︑とりわけ超過特別受益者の相続分の計算例を中心として学説・裁判例を紹
介し検討を加えることにしたい︒すでにこのテーマについては︑多くの先達の優れた諸業績が山積しているが︑これ
らに教えを受けつつ︑私なりに考察をすすめてみたい︒今回は︑第二章として﹁特別受益者の相続分の算定方式﹂を
とりあげる︒次回以降は︑この算定方式の順番にしたがい︑﹁三 みなし相続財産額の算定﹂﹁四
具体的相続分の算定﹂を扱い︑その後は︑具体的相続分と他の制度等との絡みを取り上げる積もりである︒
今回で述べようとする点をあらかじめまとめれば︑以下のようになろう︒
な方式・順序で算定される︒
斗I I D
常 平
1
蔀乖 S ↓
I I D
索淀熙 S 華蓉+醤中翌熙 S 室蓉
I I
A ⇔ L 曲索苺熙
‑ 0
年以上
一応の相続分の算
共同相続人中に被相続人から贈与もしくは遺贈を受けた特別受益者がいた場合に︑この者が実際に取得しうる
相続財産は︑現在の通説的見解によれば︑表現方法に多少の差はあるものの︑民法九 0 三条一項を根拠に以下のよう
学説の多くは︑この①から③までの算定方式のみを叙述する︒ところが︑以上の算定方式に加えて︑学説の中には︑
遺産分割規定を根拠として︑ ◎
)
1 因 3 益常中ー臨涯舛已盆疇中 3 華釜
11
泣寄き笠索中 ◎ AtL 益常写熙 x 寄油袖竺迂氏固 3
丑 翌
涅 中
摂 I I 3 I 昂 曲常中
◎ ( 一 )
五 定 ﹂
﹁ 五
四
関法
゜
( 三 )
特 別 受 益 者 の 相 続 分 の 算 定 を め ぐ る 諸 問 題 日 改益津
A3
油 斉
き 斗
翌 華
中 小
学 益
常 A
3 加寄忠芯常中 3 郡写
11
中益常
A3
泣斉き
f翌 華
中 恨
誨 熙
中 嘩
= 乖
S 曲常翌熙蓋 x 加吝菩益常中摂
11
改祢常 A
︵ 器
g
=
湘 猷
呻 肉
吟 U)3 津漆 S 渓寧中
を加えるものがある︒そこで︑①から③までの算定方式に︑どうして④と⑤を加える必要があるのかを推測してみた
い︒そのためには︑本稿のテーマ名にもなっている﹁特別受益者の相続分の算定﹂の意味内容に言及しておく必要が
﹁特別受益者の相続分の算定﹂は︑九 0 三条・九 0 四条を根拠とした﹁特別受益者の具体的相続分の算定﹂と
九 0 七条を根拠とした﹁共同相続人の遺産分割による相続分の算定﹂という二つの側面を含んでいる︒﹁具体的相続
分算定﹂は︑あくまで特別受益者が存在する場合にこの者の相続分の算定に関するものであり︑前述の①から③に対
応する︒﹁遺産分割による相続分算定﹂は︑共同相続人一般︵特別受益者や寄与分権者をも含む︶に通じる現実の相
続財産の取得に至る相続分の算定で︑④から⑤に対応する︒そこで︑もしも︑相続開始時財産や贈与財産の価額評価
を同一の基準時︑たとえば一例として遺産分割時に統一して処理するのであれば︑①から③までと︑④から⑤までに
両者を峻別する必要性は極めて少なくなるであろう︒しかし︑必要性が全面的になくならないのは︑特別受益者のた
めと一般的な共同相続人のための算定方式の根拠規定や理念が異なることによる︒つまり︑制度として二つの算定方
式が存在し︑しかも現実には両者とも︑財産の評価時期と評価方法が問題となる︒そして︑評価基準時は︑具体的相
続分算定のためには︑﹁相続開始時財産﹂と﹁贈与財産﹂のいずれの価額算定にも必要であり︑また︑遺産分割によ
る相続分算定のためには︑﹁分割時の相続財産﹂の価額算定に必要となる︒
( 二 )
あ る
︒ @ @
そこで︑評価基準時が必要となるこれら三つの場合の組み合わせを考えてみる︒そして︑この組み合わせに基
︵ 八
九 一
︶
︵ 八
九 二
︶ づいて展開されている学説・裁判例を概観したところから推測しうることは︑遺産分割時で一挙に評価しきれないも のを︑特別受益者の相続分算定が含んでいるのではないか︑ということである︒つまり︑①から③までの算定方式と
④から⑤までの算定方式の必要性が︑財産の評価基準時と特別受益者という特殊な地位にある者の相続分算定という 問題に絡んで出てくるのである︒いいかえれば︑特別受益者の最終的な相続分を算定するために︑①から③により相 続開始時で評価し算定された特別受益者の具体的相続分を︑④から⑤により遺産分割時で評価し算定された相続分で 修正するための橋渡し役として︑どうしても両方の算定方式が必要となってくるのである︒
(1)田中恒朗﹃島津
1 1 久貴編・新・判例コンメンタール民法
1 4 相 続 m
﹄ ︵
三 省
堂 ︑
平 四
︶ 二
四 一
頁 ︒
( 2
)
貝阿禰誠﹁法定相続分と具体的相続分﹂﹃遺産分割・遺言
2 1 5
題 ︵
判 タ
・ 六
八 八
号 ︶
﹄ ︵
判 例
タ イ
ム ズ
社 ︑
平 元
︶ 四
三 頁
︒ そ
の
他︑谷口知平﹃谷口
1 1 久 貴 編 ・ 新 版 注 釈 民 法 四 相 続 ② ﹄ ︵ 有 斐 閣 ︑ 平 元 ︶ 三 一 七 頁 ︑ 田 中 ・ 前 掲 二 三 六 頁 を 参 照 ︒
( 3 ) 民 法 九
特別の事情のない限り︑すべて持戻しの対象とな﹂るという意見がみられる︵田中・前掲二三六頁参照︶︒ 0 1 ︱ 一 条 で は ︑ ﹁ 婚 姻 ﹂ ﹁ 養 子 縁 組 ﹂ ﹁ 生 計 の 資 本 ﹂ の 贈 与 と な っ て い る が ︑ 学 説 に は ﹁ あ る 程 度 以 上 の 額 の 贈 与 は ︑
( 4
)
岩 井
俊 ﹁
特 別
受 益
と な
る 贈
与 ︵
金 銭
︶ の
評 価
時 期
︵ 上
︶ ﹂
ジ ュ
リ ス
ト 六
二
0 号
︵ 昭
五 一
︶ ︱
‑ 四
頁 ︒
( 5
)
公表年順に︑千藤﹁﹃相続分不存在証明書﹄に関する裁判例の研究﹂関大法学論集三六巻三
11
四
11
五 合
併 号
︵ 昭
六 ︱
) ‑
︱
九頁以下︑同﹁民法九 0
三 条
一 二
項 で
い う
意 思
の 表
示 に
つ い
て ﹂
関 大
法 学
論 集
一 二
八 巻
二 1 1 ‑
︱ ︱
合 併
号 ︵
昭 六
三 ︶
二 九
五 頁
以 下
︑ 同
﹁ 寄 与 相 続 人 の 相 続 分 と 寄 与 分 に つ い て ﹂ 関 大 法 学 論 集 一 二 八 巻 五
11
六合併号︵平元︶二五一頁以下︑同﹁民法九 0
三 条
で い
う特別受益者の範囲について﹂関大法学論集三九巻四
の範囲について﹂関大法学論集四一巻五 0 三条でいう生前贈与 1 1 五合併号︵平二︶ニニ五頁以下︑同﹁民法九
11
六合併号︵平四︶四四一頁以下︑同﹁生命保険金請求権の民法九 0 三条の特別受益 性について﹂関大法学論集四二巻三
益性について﹂関大法学論集四三巻一 1 1 四合併号︵平四︶==︱‑頁以下︑同﹁死亡退職金・遺族給付の民法九 0 三条の特別受
11
ニ合併号︵平五︶五七九頁以下︒その他︑わが国の特別受益持戻し法制度の母法の
︱つであるフランス民法に関して︑※同﹁フランス法に於ける特別受益の持戻しに関する一考察 H ロー相続人間の衡平手段
関
法
第
四
三
巻
第
三
号
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題日
と し
て ー
﹂ 関
大 法
学 論
集 二
九 巻
六 号
︵ 昭
五 五
︶ ︱
︱ 1 0
頁以下・三 0 巻二号四一頁以下︑※同﹁フランス法に於ける特別受益の持
戻し財産について﹂関大法学論集三二巻三
1 1 四
1 1 五合併号︵昭五七︶二三一頁以下︑同﹁フランス法に於ける贈与財産の持戻
し免除について﹂阪大法学四 0
巻 ︱ ︱
‑ 1 1
四 号
︵ 平
三 ︶
四 0 三頁以下︑がある︵以上のうちの※印と次の注︵6︶※論文は︑後に︑
千藤﹃フランス相続法の研究ー特別受益・遺贈ー﹄︵関大出版部︑昭五八︶に所収︶︒
( 6
)
千藤﹁特別受益と遺留分減殺に関する一考察│評価基準時を中心としてー﹂私法四三号︵昭五六︶二五二頁以下︑※同﹁特
別受益と遣留分減殺に関する一考察日ロー評価基準時を中心として
1﹂関大法学論集三二巻一号︵昭五七︶九一頁以下・ニ号
四 三
頁 以
下 ︒
( 7
)
諸業績を著者のアイウエオ順に掲記する︒本稿では︑今後︑ここに掲記された論稿については︑前掲とか前掲書とする
︵同一執筆者に複数の論稿がある場合には︑カッコ書きにして簡潔に当該文献名を明記する︶︒頁は初出の箇所である︒な
お︑本論稿は連載であることから︑次号以下でも︑読者の便宜をはかって︑出典を個別に掲記する︒ m 主だった著書・体系書・コンメンタールの類
有地亨﹃谷口
1 1 久貴編・新版注釈民法四相続②﹄︵有斐閣︑平元︶二 0 八頁︑太田武男﹃現代家族法研究﹄︵有斐閣︑昭五
七︶四七一頁︑最高裁事務総局編﹃改訂家事執務資料集中巻の三︵乙類九号のニ・一 0
号 ︶
﹄ ︵
平 元
︶ 七
0 二頁︑埼玉弁護
士会編﹃遺留分の法律と実務﹄︵ぎょうせい︑平三︶五九頁︑鈴木禄弥﹃相続法講義﹄︵創文社︑昭六一︶ニニー頁︑鈴木禄
弥
1 1 唄孝一﹃人事法
I I ﹄︵有斐閣︑昭五
0 )
九四頁︑高木多喜男﹃口述相続法﹄︵成文堂︑昭六三︶六六頁︑同﹃遺産分割の
法理﹄︵有斐閣︑平四︶三頁︑﹃高木多喜男編・条解民法 W ︹相続︺﹄︵三省堂︑昭五六︶九五頁︑田中恒朗﹃島津
1 1 久
貴 編
・
新判例コンメンタール民法14相続 m ﹄ ︵ 三 省 堂 ︑ 平 四 ︶ 二 ︳ ︱ ‑ 三 頁 ︑ 同 ﹃ 遺 産 分 割 の 理 論 と 実 務 ﹄ ︵ 判 例 タ イ ム ズ 社 ︑ 平 五 ︶ ニ
二頁︑谷口知平﹃谷口
1 1 久貴編・新版注釈民法四相続②﹄︵有斐閣︑平元︶三ニニ頁︑中川淳﹃相続法逐条解説︵上巻︶﹄︵日
本加除︑昭六
0 )
二 ︳
︱ ‑
三 頁
︑ 中
川 善
之 助
1 1 泉久雄﹃相続法[第三版]﹄︵有斐閣︑昭六三 N 面
I九頁ヽ沼辺愛̲ら馨
H 緬
・ 基
本
法コンメンタール︹第三版︺相続﹄︵日本評論社︑平元︶五一二頁︑野田愛子﹃遺産分割の研究︵司法研究報告書︱︱輯五
号︶﹄︵司法研修所︑昭三七︶︱‑六頁︑法務大臣官房司法法制調査部監修﹃法典調査会民法議事速記録七﹄︵商事法務研究
会︑昭五九︶五六六頁︑薬師寺志光﹃中川善之助代表・註釈相続法︵上︶﹄︵有斐閣︑昭二九︶一七 0 頁︑我妻栄
1 1 唄孝一﹃判
例コンメンタール珊相続法﹄︵日本評論社︑昭四︱)
1 0
二頁︑民事判例研究会﹃民事判例索引集[民法編 h
︵ 新
日 本
法 規
ヽ
︵ 八
九 三
︶
関法 第四三巻第三号
昭六
0 ) 四七九 0
ノ 一 頁 ︒ り主だった論文・判例批評の類
阿部浩二﹁相続分の算定﹂﹃山畠
11
泉編・演習民法︵相続︶﹄︵青林書院︑昭六
0 ) 1 0
一頁︑安倍正三﹁金銭による特別
受益と遺留分の算定﹂﹃加藤
11
太田編・家族法判例百選︵第三版︶﹄︵有斐閣︑昭五五︶二五八頁︑同﹁具体的相続分に関す
る争い﹂﹃島津他編・新版相続法の基礎﹄︵青林書院新社︑昭五六︶一五七頁︑有地亨﹁特別受益者の持戻義務 m ②﹂民商四 0 巻一号︵昭三四︶三頁・三号一七頁︑石川恒夫﹁特別受益の範囲﹂﹃川井編・判例と学説4民法
m [ 親族・相続 h
︵ 昭
五 一
︶ 二五八頁︑同﹁遺産分割における遺産評価の基準時﹂﹃ジュリスト増刊民法の争点﹄︵昭五三︶︱二九四頁︑石田敏明﹁遺産評
価の実務」『岡垣
11野田編・講座・実務家事審判法
3相続関係』(日本評論社、平元)二九九頁、同「特別受益•寄与分」
﹃川井他編・講座現代家族法第 5 巻遺産分割﹄︵日本評論社︑平四︶一六九頁︑同﹁ 4 評 価 ﹂ ﹃ 斎 藤
11
菊池編・注解家事審
判法︹改定︺﹄︵青林青院︑平四︶五五六頁︑石村太郎﹁持戻免除の意思表示﹂判夕六八八号︵平元︶五五頁︑泉久雄・判例評
論ニ︱三号︵判時八二五号︑昭五一︶一五一頁︑伊藤昌司﹁持戻し免除について﹂﹃中川淳先生還暦祝賀論集・現代社会と家
族法﹄︵日本評論社︑昭六二︶三九五頁︑同﹁判例解説﹂家族法判例百選第三版︵昭五五︶二六四頁︑同﹁相続分﹂﹃川井
11
鎌田編・基本問題セミナー民法 3 親族・相続法﹄︵一粒社︑平二︶二 00 頁︑稲田龍樹﹁遺産分割に当たり特別受益の持戻
しをしない旨の合意の手続的効力﹂家月三五巻︱二号︵昭五八︶︱‑九頁︑岩井俊﹁特別受益となる贈与︵金銭︶の評価時期
︵ 上
︶ ︵ 下 ︶
﹂ ジ リ ュ ス ト 六 二
0
号︵昭五一︶︱ニニ頁・同六一︱一号一︱六頁︑岩田健次﹁特別受益者の相続分﹂﹃続学説展望︵別
冊ジュリスト第 4 号︶﹄︵有斐閣︑昭四
O )
九 0 頁︑同﹁特別受益分の持戻について﹂関大法学論集一三巻四
11
五
11
六合併号
︵ 昭 三 九
︶ 二
0
五頁︑上野雅和﹁寄与分と特別受益﹂﹃中川淳先生還暦祝賀論集・現代社会と家族法﹄︵日本評論社︑昭六︱‑︶
四一五頁︑上原裕之﹁﹃相続分なきことの証明書﹄の交付と遺産分割﹂判夕六八八号︵平元︶四五頁︑右近健男﹁特別受益 者•特別寄与分」『有地他絹・民法学
7〈〈親族·相続の重要問題〉〉』(有斐閣、昭五一)二五三頁、内田貴「判例研究」法協
九五巻三号︵昭五三︶六 0 五頁︑同﹁判例解説﹂家族法判例百選第四版︵昭六三︶ニ︱︱︱八頁︑浦本寛雄﹁遺産の評価﹂﹃有
地他編・民法学 7
︿︿親族・相続の重要問題﹀﹀﹄︵有斐閣︑昭五一︶二三五頁︑同﹁遺産分割審判における二つの問題点(‑)
︵二︶﹂鹿児島大学法学論集六巻二号︵昭四五︶一三三頁・七巻一号︵昭四六︶九一頁︑遠藤浩
11
長谷川貞之﹁特別受益と遺留
分 ﹂ ﹃ 山 畠
11
泉絹・演習民法︵相続︶﹄︵青林書院︑昭六
0 )
三 0 五頁︑太田武男﹁遺留分減殺請求と特別受益分︵贈与金銭︶ 四
︵ 八
九 四
︶
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰
五
の評価﹂民商七五巻六号︵昭五二︶︱二四頁︑大塚正之﹁特別受益の意義と範囲﹂﹁特別受益の評価の基準時﹂判夕六八八
号 ︵
平 元
︶ 五
0 頁・五三頁︑岡垣学﹁いわゆる特別受益と遺留分との関係﹂﹃家事事件の研究 m ﹄ ︵ 有 斐 閣 ︑ 昭 四 五 ︶ 二 五 頁 ︑
岡垣学
11
田中弘﹁遺産分割をめぐる若干の問題﹂判タ一四一号︵昭三八︶三一頁︑貝阿彊誠﹁法定相続分と具体的相続分﹂
判 夕 六 八 八 号 ︵ 平 元 ︶ 四 一 二 頁 ︑ 梶 村 太 市 ﹁ 遺 産 分 割 と 特 別 受 益 ﹂ ﹃ 太 田 他 編 ・ 家 事 審 判 事 件 の 研 究 ② ﹄ ︵ 一 粒 社 ︑ 昭 六 一 ︱ ‑ ︶ 六 四
頁︑風間鶴寿﹁特別利益の持戻ーとくにその持戻義務者についてー﹂大阪府大経済研究一七号︵昭三五︶七一頁︑加藤永一
﹁遺留分減殺と相続人の特別受益﹂東北大教養部紀要=二号︵昭五四︶ニ︱一頁︑叶和夫﹁寄与分と具体的相続分の算定﹂
﹁特別受益・遺留分と寄与分の関係﹂判夕六八八号︵平元︶六五頁・六九頁︑同﹁寄与分と生前贈与﹂﹃斎藤
11
菊地編・注
解家事審判法︹改訂︺﹄︵青林書院︑平四︶四八五頁︑川井健﹁相続分の算定﹂﹃谷口
11
加藤編・新民法演習 5
︵ 親
族 ・
相 続
︶ ﹄
(有斐閣、昭四三)一九八頁、川口冨男「判例解説」法曹時報二九巻八号(昭五二)一三九八頁、久貴忠彦「相続分•特別受 益•寄与分」『谷口
11加藤編・新版民法演習5(親族・相続)』(有斐閣、昭五六)―二七頁、同「特別受益のある相続人の
相続分﹂﹃沼邊他編・新家事調停読本﹄︵一粒社︑昭六三︶四八二頁︑久保宏之﹁相続分の算定﹂﹃林
11
佐藤編・ハンドプッ
ク民法
I I I
I 親族・相続ー﹄︵有信堂︑平元︶一七二頁︑小石寿夫﹁相続分の算定﹂﹃小山他編・遺産分割の研究﹄︵判例タイム
ズ社︑昭四八︶一五五頁︑坂井芳雄﹁遺産相続制度における遺贈ないし生前贈与財産持戻し規定︵民法九 0 三条︶の解釈適
用について﹂東洋法学三 0 巻一"二合併号︵昭六二︶五九頁︑篠清﹁分割前の遺産の処分と滅失﹂﹃小山他編・遺産分割の研 究』(判例タイムズ社、昭四八)ニ―八頁、島田礼介「判例批評」法曹時報二九巻―一号(昭五二)一八八二頁、同•最判解
民昭和五一年度五五頁︑清水節﹁遺産の評価の基準時﹂﹁遺産の評価方法﹂判夕六八八号︵平元︶ニニニ頁・ニニ四頁︑同
﹁遺産評価の方法﹂家月三八巻四号︵昭六一︶一三九頁︑同﹁遺産の評価﹂﹃川井他編・講座現代家族法第 5 巻 遺 産 分 割 ﹄ ︵ 日
本評論社︑平四︶ニニ五頁︑須永醇﹁金銭による特別受益と遺留分の算定﹂﹃別冊ジュリスト・家族法判例百選︵第四版︶﹄
︵有斐閣︑昭六三︶二三六頁︑瀬川信久﹁具体的相続分算定のための遺産評価の基準時﹂﹃現代家族法大系4﹄︵有斐閣︑昭五
五︶三五七頁︑同﹁寄与分における相続人間の公平と被相続人の意思ー寄与分額の決定︑具体的相続分の算定︑相続分の指
定 ︑
遺 留
分 の
算 定
等 の
問 題
に つ
い て
ー (
1 )
( 2
) ︵
3 )
︵ 4
・ 完
︶ ﹂
判 夕
五 四
0 号︵昭六
0 )
ニ ︱
頁 ・
五 四
一 号
︱ ︱
頁・五四二号 1 0
二六頁・五四四号一︱頁︑千藤洋三﹁特別受益と遺留分減殺に関する一考察ー評価基準時を中心としてー﹂﹃私法﹄四三号
︵昭五六︶二五二頁︑同﹁特別受益と遺留分減殺に関する一考察ー評価基準時を中心としてー(‑)︵二︶﹂関大法学論集三一︱
︵ 八
九 五
︶
関法 第四一二巻第三号
巻一号︵昭五七︶九一頁・ニ号四三頁︑園田格﹁生前贈与された金員の評価﹂﹁遺産の評価時期﹂﹃島津他編・新版相続法の基
礎﹄︵青林書院新社︑昭五六︶一六八頁・一八二頁︑同﹁相続分の算定﹂﹃家族法大系切相続
( I )
﹄ ︵
有 斐
閣 ︑
昭 一
二 五
︶ 二
八 一
頁︑高木多喜男﹁遺産分割と共同相続人間の平等﹂民商七八巻臨時増刊号②︵昭五︱︱‑)︱二 0 頁︑同﹁判例評論﹂判時八四一
号︵昭五二︶︱‑︱‑五頁︑高橋忠次郎﹁判例研究﹂専修法学二六号︵昭五二︶一五七頁︑橘勝治﹁相続開始後の遺産の変動と
遺産分割﹂﹃鈴木
1 1 ‑
=ヶ月監修・新実務民事訴訟講座 8 非訟・家事・人訴事件﹄︵日本評論社︑昭五六︶一八七頁︑田中恒朗
﹁判例批評﹂判夕三三七号︵昭五一︶七四頁・三四二号︵昭五二︶八八頁︑谷口知平﹁相続における特別受益者の差引計算と
寄与者の割増計算﹂﹃法学教室第 1 号 ﹄ ︵ 有 斐 閣 ︑ 昭 一 二 六 ︶ 二 九 頁 ︑ 同 ﹁ 相 続 財 産 の 評 価 ﹂ ﹃ 家 族 法 大 系
V I 相続
( I )
﹄ ︵
有 斐
閣 ︑
昭 三
五 ︶
三
0 三頁︑同﹁判例解説﹂ジュリスト六四二号︵昭五二︶八九頁︑辻朗﹁判例研究﹂法時四九巻六号︵昭五二︶一
一七頁︑辻正美﹁遺留分の算定方法について﹂法学論叢︱
‑ 0
巻四
1 1 五
1 1 六合併号︵昭五七︶二三九頁︑永田真三郎﹁判例評
論﹂判時九八二号︵昭五六︶一九六頁︑同﹁遺留分算定の基礎となる財産の評価方法﹂﹃民法の争点 I ﹄︵有斐閣︑昭六
0 )
二五四頁︑長嶺信栄﹁特別受益者の相続人の相続分﹂﹃問答式遺産相続の実務﹄︵新日本法規︑昭五八︶︳︱‑八一頁︑沼辺愛一
﹁ 遺
産 の
評 価
﹂ ﹃
山 畠
1 1 泉編・演習民法︵親族・相続︶︹演習法律学大系 6 ︺﹄︵青林書院新社︑昭四七︶四五一頁︑同﹁遺産
の 評
価 ﹂
﹃ 山
畠
1 1 泉編・演習民法︵相続︶︹新演習法律学講座 7
︺ ﹄
︵ 青
林 書
院 ︑
昭 六
0 )
一三八頁︑能見善久﹁判例批評﹂法
協九四巻九号︵昭五二︶一四一五頁︑野崎薫子﹁遺産分割における前提問題と確定﹂﹃岡垣
1 1 野田編・講座・実務家事審判法
3 相続関係﹄︵日本評論社︑平元︶九三頁︑野田愛子﹁遺産分割ー家事事件の実務その
3
│ ﹂
ジ ュ
リ ス
ト ︳
︱ ‑
三 一
号 ︵
昭 四
0 ) 1 0
二頁︑穐原孟﹁生前贈与を受けた相続人の相続分﹂﹃沼辺他編・新家事調停一 00 講﹄︵判例タイムズ社︑昭五
0 )
二 九
四頁︑日野原昌﹁遺産評価の時期﹂判タ一四二号︵昭三八︶︱ニニ頁﹂藤島武雄
1 1 山田秀樹﹁相続人・相続分便覧ー簡単な事例
から難解な事例まで
1﹂﹃加藤他編・家族法の理論と実務︵別冊判夕八号︶﹄︵判例タイムズ社︑昭五五︶四五六頁︑松倉耕作
﹁特別受益と持戻しの免除﹂﹃岡垣
1 1 野田編・講座・実務家事審判法 3 相続関係﹄︵日本評論社︑平元︶二四九頁︑宮井忠夫
﹁遺産分割の前提問題にかんする紛争と家事審判﹂民商五三巻三号︵昭四
0 )
三 ︳ ︱ ‑ 九 頁 ︑ 同 ﹁ 判 例 批 評 ﹂ 民 商 七 七 巻 一 号 ︵ 昭
五二︶九九頁︑宗方武﹁遺産の評価の基準時﹂﹃太田他編・家事審判事件の研究②﹄︵一粒社︑昭六三︶一=二頁︑山崎邦彦 「民法第 903 条をめぐってー〈〈特別受益者〉〉があるときの他の共同相続人の相続分の算定—」横浜国立大経済学会エコノミア
ニ 四
号 ︵
昭 四
O )
六二頁︑山崎賢一﹁具体的相続分は﹃相続分﹄か﹃遺産分割分﹄か﹂ジュリスト六九七号︵昭五四︶一三〇 六
︵ 八
九 六
︶
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰
七
頁、同「特別受益の成否②」『島津他絹•新版相続法の基礎〔実用絹〕』(青林書院新社、昭五六)一六五頁、同「遺産分割と
前提事項の判断」『谷口
11加藤絹•新版判例演習民法
5親族・相続』(有斐閣、昭五九)二三九頁、吉田琢磨「相続による登
記の一場合について﹂民事研修︱一三号︵昭四一︶八五頁︑同﹁民法第九 0 三条第一項及び同第二項の規定の適用について
(‑︶︵ニ・完︶﹂民事研修︱ニ︱号︵昭四二︶一七頁・︱二二号︱一頁︑吉村弘義﹁裁判所に現れた相続問題﹂﹃家族問題と家
族法Vl』(酒井書店、昭四九•第5次版)三八三頁、若林昌子「特別受益の確定ー訴訟事項か審判事項か」判夕六八八号(平
元 ︶
四 八
頁 ︒
団特別受益財産の評価等に関する裁判例︵筆者の目に留まったものに限る︶
①広島家呉支審昭三一――•―ニ・ニ六家月―一巻四号一一六頁、②新渇家審昭一二四・六・――一家月―一巻八号一
0
三頁、③東京 家審昭三四・九・一四家月―一巻―二号一
0九頁、④仙台家古川支審昭三八•五・一家月一五巻八号一〇六頁、⑤東京地判
昭三九・ニ・ニ 0 下民集一五巻二号三
00
頁︑⑥大阪地判昭四
O ・ I ・
一八判時四二四号四七頁︑判タ一七四号一五八頁︑
⑦佐賀家審昭四 0 ・九・三家月一八巻二号九八頁︑⑧新潟家審昭四一・六・九家月一九巻二号一︱︱二頁︑⑨名古屋高決昭四
五・︱ニ・九家月二三巻七号四四頁︑⑩福岡高決昭四六・八・一八家月二四巻六号四七頁︑⑪東京家審昭四六・九・七家月 ニ四巻七号六五頁、⑫名古屋高決昭四七•六・ニ九家月二五巻五号三七頁、⑬広島高岡山支判昭四九・九・ニ七判夕三二
0
号一八三頁、⑭宇都宮家審昭四九・九•一七家月二七巻九号一
0 五頁、⑮東京地判昭五 0• 五・ニ―判夕三二六号二五二頁、
⑯最判昭五一・三・一八民集三 0
巻二号一︱一頁︑⑰大阪家審昭五一・三・三一家月二八巻︱一号八一頁︑⑱大分家中津支
審昭五―•四・ニ
0
家月二九巻一号八三頁、⑲最判昭五一・八・――
10
民集三 0 巻七号七六八頁、⑳最判昭五六・九.―-民
集三五巻六号一〇一三頁︑⑪大阪高決昭五八・六・ニ判夕五 0 六号一八六頁︑⑫東京高判昭六一・九・九家月一二九巻七号ニ
六頁︑判時︱ニニニ号八五頁︑判夕六二九号一七一頁︑⑬東京地判平元・一
O ・
六判時一三四四号一四九頁︑判夕七一 0 号
ニニ九頁︑金融商事八四七号三 0 頁︑⑳大阪地判平ニ・五・ニ八家月四一二巻四号七四頁︑判時一三七 0 号九五頁︑判夕七三
一号ニ︱八頁︑⑮東京高判平ニ・一
O ・
︱ ︱ ‑ 0
家月四一二巻五号二四頁︑判時一三六八号七 0 頁︑⑳東京高判平四・五・ニ八判
夕 八
0
三 号
二 二
六 頁
︒
︵ 八
九 七
︶
第四三巻第三号
︵ 八
九 八
︶
本章では︑特別受益者の相続分がどのような順序・方式により算定されるかについて一瞥しておく︒なお︑﹁相
(1 )
続分﹂という用語は多義的であることから︑鈴木教授が提唱した区分に従い︑以下の叙述では場合に応じて︑﹁相続
分﹂に代えて︑﹁相続分権﹂︵ある相続人の相続財産に対する権利を示すもの︶︑﹁相続分率﹂︵ある相続人の相続財産
に対して有する権利の割合を示すもの︶︑﹁相続分額﹂︵ある相続人の相続財産に対して有する権利の価値額を示すも
の︶という三種の文言を適宜用いることにしたい︒したがって︑この区分によれば︑本章の表題の﹁特別受益者の相
続分﹂とは︑﹁特別受益者の相続分額﹂のことをいう︵もう少し踏み込んでいえば﹁特別受益者の具体的相続分︵額︶﹂
で あ
る ︶
︒
(2 )
学説は一般的に︑表現方法に多少の差はあるものの︑特別受益者の相続分額を︑民法九 0 三条一項を根拠に以下
のような方式・順序で算定する︒まず最初に︑被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与の価額を加
え︑これを相続財産とみなす︒そして︑学説は︑相続開始の時において有した財産のことを﹁相続開始時財産﹂とか
(3
)
﹁積極財産﹂︑﹁現実の遺産﹂︑﹁現存遺産﹂などとよび︵本稿では﹁相続開始時財産﹂という表現を用いる︶︑みなさ
れた相続財産のことを﹁みなし相続財産﹂とか﹁みなし相続財産額﹂︑あるいは﹁想定相続財産﹂︑﹁仮定の相続財産
(4 )
額﹂︑﹁名目上の遺産総額﹂︑﹁擬制相続財産﹂などとよぶ︵本稿では﹁みなし相続財産﹂とする︶︒ついで︑このみな
し相続財産に︑指定︵九 0
一 条
︶ ま
た は
法 定
︵ 九
00
条︶の相続分率を乗じて︑相続分を算定する︒学説は︑この相続分
(5 )
のことを﹁一応の相続分﹂とか﹁一応の相続分額﹂︑﹁本来の相続分﹂︑﹁本来的相続取得分﹂などとよぶ︵本稿では 関法
特 別 受 益 者 の 相 続 分 の 算 定 方 式
八
特 別 受 益 者 の 相 続 分 の 算 定 を め ぐ る 諸 問 題 曰 この①から③までの算定方式のみを叙述する︒ る︒つまり︑そこでは︑ というものである ◎ l 固 3 芯常中ー繭翠糾竺益疇中 3 甫蓋
11
油斉菩益常中 ◎ AtL 曲常淀熙 x
蒜 油
舛
f
に
吐 沿
淵 3 曲堂中恨
I I
I 吊 3 曲常中
◎ 益 索 茸 蔀
3 乖 3 曲常苺熙 甫蓋+翠中要熙 3 甫蛮
I I A t
L 益華要熙 要するに︑特別受益者の相続分の算定方式は︑ 別受益者の取得すべき財産額ということになる︒ もって特別受益者の相続分とする︒学説は︑この相続分のことを﹁具体的相続分﹂とか﹁具体的相続分額﹂︑﹁結局の
(6 )
相続分﹂などとよぶ︵この場合の相続分のことを︑後述するように︑遺産分割時に現実には算定が問題となるという
(7
)
理由で﹁遺産分割分﹂や﹁遺産分割分額﹂という名称に変えるべきだとの有力説がある︒この説は強い説得力を有し
ているといえるが︑本稿では︑これまでの慣行を尊重し︑この場合の相続分のことをとりあえず﹁具体的相続分﹂と
か︑単に﹁相続分﹂とよぶことにする︒具体的相続分という用語を遺産分割分に改めるべきか︑あるいはその法的性
質はどのようなものか︑などについては︑第五章﹁具体的相続分の算定﹂で詳論したい︶︒この具体的相続分が︑特
︵もしも︑共同相続人中に特別受益者が存在しない場合には︑①の﹁贈与財産の価額﹂がゼロであ
り︑同じく③の﹁遺贈または贈与の価額﹂がゼロとなり︑結局︑①と②の操作だけで︑各相続人の相続分が算定され
一応の相続分
11
具体的相続分ということになる︒もっとも︑この算定方式は︑基本的には特
(8 )
別受益者のためのものであり︑非特別受益者の場合にも使えるという程度のものである︶︒そして︑学説の多くは︑ ﹁
一 応
の 相
続 分
﹂ と
す る
︶ ︒
最 後
に ︑
一 九
一応の相続分から特別受益者が受けた遺贈または贈与額を控除し︑その残額を
︵ 八
九 九
︶
理するのであれば︑両者を峻別する必要性は極めて少なくなるであろう︵必要性が全面的になくならないのは︑特別
口
九 0 四条を根拠とした﹁特別受益者の具体的相続分の算定﹂︵以下︑本稿では﹁具体的相続分算定﹂とよぶことにす
る︶と九 0 七条を根拠とした﹁共同相続人の遺産分割による相続分の算定﹂︵以下︑本稿では﹁遺産分割による相続
( 10 )
分算定﹂とよぶことにする︶という二つの側面を含んでいる︒﹁具体的相続分算定﹂は︑あくまで特別受益者が存在
する場合にこの者の相続分の算定に関するものであり︑﹁遺産分割による相続分算定﹂は︑共同相続人一般︵特別受
益者や寄与分権者をも含む︶に通じる現実の相続財産の取得に至る相続分の算定である︒
H 四
第 四
一 一
︳ 巻
第 三
号
て各相続人の具体的相続分率を算出し︑
︵ 九
0 0
)
(9
)
ところが︑以上の算定方式に加えて︑学説の中には︑相続開始時の相続財産の価額や贈与財産の価額が相続開始
時と遺産分割時とで異なる場合のことを考慮し︑④各相続人の具体的相続分を各相続人の具体的相続分の総計で除し
ついで⑤遺産分割時の相続財産価額にこの具体的相続分率を乗じて各相続人
の最終の取得分を確定する︑というものがある︒つまり︑最終的な取得分となる特別受益者の相続分の算定方式は︑
中曲常
A3
油吝き芍堂中小学曲常
A3
泣斉菩蔀常中 3 郡ヰ
1 1 中益常
A3
油弁き曲常中摂
巌熙中嘩
j乖 S 曲函 i
函 蓋
x 油
{ B
曲函 5 墨 9
1 1
4
益函
津
A
︵ 芸 g
= 湘
欺 雌
洛 吟
t)S 津漆 S 渓寧 5
ここで︑①から③までに④と⑤を加えた算定方式のもたらす意味について簡単に触れておきたい︒
本章の表題︵それは本稿のテーマ名でもある︶にもなっている﹁特別受益者の相続分の算定﹂は︑九 0
三 条
・
もしも︑相続開始時財産や贈与財産の価額評価を同一の基準時︑たとえば一例として遺産分割時に統一して処 ということになる︒
◎ R
右記の①ないし③に加えて︑ 関法
四 〇
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題日 しかし︑制度として二つの算定方式が存在し︵なぜ︑このように存在するかを検討する必要はあるものの︶︑し かも現実には両者とも︑財産の評価時期と評価方法が問題となる︒とりわけ︑贈与時から相続開始時を経て遺産分割 時までの間における時間的間隔が大きい場合に︑評価の基準時をどこに求めるかは︑当事者にとって︑相続財産の範 囲などと並び大きな関心事の︱つである︒そして︑評価基準時は︑具体的相続分算定のためには︑﹁相続開始時財産﹂
( 12 )
と﹁贈与財産﹂のいずれの価額算定にも必要であり︑また︑遺産分割による相続分算定のためには︑﹁分割時の相続 財産﹂の価額算定に必要となる︒もっとも︑これまでのわが国のほとんどの学説は︑﹁相続開始時財産﹂と﹁贈与財
( 13 )
産﹂を必ずしも厳密に峻別することなく︑この両者を併せて評価基準時を問題としてきたといえよう︒
具体的相続分算定のための評価基準時としては︑贈与時︑相続開始時︑遺産分割時の三時点が考えられる︒こ のうち︑贈与時は︑わが民法の母法国では明文規定が置かれているものの︑今日︑わが国では贈与時での評価を主張
( 14 )
する者は皆無に近い︒結局︑相続開始時と遺産分割時のいずれで評価するかの対立であり︑今のところ︑相続開始時 説が多数説となっている︒また︑遺産分割による相続分算定の場合にも評価基準時が問題となり︑そこでも学説は︑
( 四 ) ( 三 )
単に分割のための基準としての意味しかもたないと解する︒
四
受益者のためと一般的な共同相続人のための算定方式の根拠規定や理念が異なることによる︶︒こうした観点から︑
有力説は︑﹁具体的相続分算定﹂も実際には遺産分割審判の審理とともにはじめて計算が可能になる︑という実務で の現状に裏打ちされた理由に基づき︑具体的相続分とは遺産分割分
( 1 1
﹁遺産分割による相続分﹂︶そのものである︑
( 11 )
と明解に割り切る︒そこでは︑財産の評価が遺産分割時に行なわれることを当然の前提としており︑分割のために当 事者や裁判所の拠るべき割合的基準となる﹁具体的相続分﹂は︑分割前の遺産共有において共有持分として存在せず︑
︵ 九
0 1
)
〔評価基準時に関する学説の整理〕〔図表 I 〕
特別受益者の具体 遺産分割による相
的相続分算定のた 続分算定のための
めの評価基準時 評価基準時
A 相続開始時 相続開始時
B 相続開始時 遺産分割時
C 遺産分割時 相続開始時
D 遺産分割時 遺産分割時
第四三巻第一二号
相続開始時説と遺産分割時説とで対立している︒もっとも︑この場合には今日では︑
そこで︑﹁具体的相続分算定﹂の場合と﹁遺産分割による相続分算定﹂の場合とを組み合わせると
続分算定﹂に際して﹁相続開始時財産﹂と﹁贈与財産﹂を区分しない場合︶︑︹図表 I ︺
通りの組み合わせのうち︑ C の考えは︑理論的には存在しえても︑今日では具体的に主張されている説ではない︒ま た ︑
A も少数説である︒ B が﹁具体的相続分算定﹂の評価基準時に関する多数説と﹁遺産分割による相続分算定﹂の
評価基準時に関する通説の組み合わせであり︑学説を支配している見解である︒これに対して︑ D
の 考
え は
︑
︹ 図
表
l l ︺
﹁遺産分割による相続分算定﹂の場合とを組み合わせたものであるが︑︹図表
I ︺よりもさらに踏み込んだもので︑﹁具体的相続分算定﹂のための評価基準
時について︑﹁相続開始時財産﹂と﹁贈与財産﹂とで区分し両者の評価基準時
を 問
題 と
す る
︒
因 次 の
( 五 )
︵ 九
〇 二
︶
ほぼ決着がつきかけており︑遺
︵ ﹁
具 体
的 相
のように︑四通りになる︒四
い ま
の
は ︑
︹ 図
表
I ︺と同じく﹁具体的相続分算定﹂の場合と
以上の十二通りの組み合わせのうち︑ G ︑ I ︑ K の考えは︑理論的には存在
しえても︑今日では︑まず主張されることはない︒ D が﹁具体的相続分算定﹂
の評価基準時に関する多数説と﹁遺産分割による相続分算定﹂の評価基準時に
関する通説の組み合わせであり︑学説を支配している見解といえる︒そして︑ ところ有力少数説の地位にとどまっている︒ 産分割時説が通説的地位を占めるようになっている︒ 関法
四
(評価基準時に関する学説の整理〕〔図表
11〕
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰 鈴木•前掲書七頁以下。
までの算定方式と④から⑤までの算定方式の必要性は︑特別受益者という特殊な地位にある者の相続分算定をめぐり︑
その地位や財産の評価基準時等の問題に絡んで出てくる︒いいかえれば︑特別受益者の最終的な相続分を算定するた めに︑①から③により相続開始時で評価し算定された特別受益者の具体的相続分を︑④から⑤により遺産分割時で評 価 し 算 定
さ れ た 相 続 分 で 修 正 す る た め の 橋 渡 し 役 と し て 、 両 方 の 算 定 方 式 が 必 要 で あ る と い え よ う 。 特別受益者の具体的相続分 遺産分割による
算定のための評価基準時 相続分算定のた
相続開始時財産 贈与財産 めの評価基準時
A 相続開始時 贈与時 相続開始時
B 相続開始時 贈与時 遺産分割時
C 相続開始時 相続開始時 相続開始時
D 相続開始時 相続開始時 遺産分割時
E 相続開始時 遺産分割時 相続開始時
F 相続開始時 遺産分割時 遺産分割時
G 遺産分割時 贈与時 相続開始時
H 遺産分割時 贈与時 遺産分割時
I 遺産分割時 相続開始時 相続開始時
J 遺産分割時 相続開始時 遺産分割時
K 遺産分割時 遺産分割時 相続開始時
L 遺産分割時 遺産分割時 遺産分割時
四 一
︵ 九
0 三 ︶
か︑ということである︒つまり︑①から③ 益者の相続分算定は含んでいるのではない 時で一挙に評価しきれないものを︑特別受 だところから推測しうることは︑遺産分割 概観し︑かつまた他の点を併せて読み込ん 敷きにして展開されている学説・裁判例を ような評価基準時に関する組み合わせを下 五詳細な検討は次章に譲るとして︑この しきれていない︒
︵および裁判例も︶は遺産分割時で統一化 にとどまっている︒つまり︑わが国の学説
よ ︑
'
L
いまのところ有力ではあるが少数説
関法 第四三巻第三号
( 2
)
有地・前掲書二四三頁︒
( 3
)
石川・前掲﹁特別受益の範囲﹂二五八頁参照︒ (4) 有地・前掲書二四一二頁、中川
11泉·前掲書二五二頁·二五九頁注(八)、川井•前掲二 0 一頁、他参照。特に、中川
11泉·前 掲
書 二
五 九
頁 注
︵ 八
︶ に
詳 し
い ︒
( 5
)
有 地
・ 前
掲 書
二 ︳
︱ ‑
五 頁
︑ 中
川
11
泉・前掲書二五二頁︑川井・前掲二 0
一 頁
︑ 他
参 照
︒
( 6
)
有地・前掲書二三五頁︑中川
(8)
中川0 一頁以下、穐原・前掲二九六頁以下、など数
11泉•前掲書二五二頁以下、中川淳•前掲書二三三頁、川井・前掲二 (7) 鈴木
11唄•前掲書九四頁、梶村・前掲六六頁以下参照。
1 1泉・前掲書二五二頁参照︒
多 い
︒
( 9
)
有地・前掲書二三六頁︑瀬川・前掲﹁具体的相続分算定﹂三五七頁以下参照︒
( 1 0 )
瀬川教授は︑﹁審判による遺産分割においては︑二つの異なる場面で財産の評価が問題になる﹂とされ︑一っは﹁分割対
象としての相続財産の評価﹂とし︑他を﹁﹁︵具体的︶相続分算定のための評価﹂とよばれる︵瀬川・前掲﹁具体的相続分算
定﹂三五七頁以下参照︶︒筆者の本文中の﹁遺産分割による相続分の算定﹂と﹁具体的相続分の算定﹂も︑瀬川論文の場合
の﹁評価﹂と筆者の場合の﹁算定﹂という点で異なるものの︑同じ内容の対比である︒
( 1 1 )
鈴木
11唄 ・ 前 掲 書 九 四 頁 ︒
( 1 2 )
﹁遺贈財産﹂については︑九 0 三条の条文そのものが︑いわゆるみなし相続財産算定に際して︑遺贈財産を相続開始時の
財産に加えるとは明規していないことから︑具体的相続分の算定において︑その評価の必要性は一応問題とならないといえ
よう︒しかし仮に︑すべての財産を遺産分割時で評価するならば︵さらに︑﹁相続開始時の相続財産﹂とは相続開始時の時点
で存在していた相続財産のすべてという意味にとれば︶︑遺贈は相続開始時に効果を生じることから︑仮に﹁相続開始時の
相続財産﹂に遺贈財産が含まれているとしても︑他に流失した遺贈財産を遺産分割時で評価することが必要となるのではな
い だ
ろ う
か ︒
( 1 3 )
瀬川・前掲﹁具体的相続分算定﹂三六八頁注(4)参照︒
(14)中川善之助教授は︑フランスが一九三八年六月デクレにより贈与不動産の持戻しについて︑これまでの現物返還から価額
四 四
︵ 九
0
四 ︶
特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰
四 五
返還に変更すると同時に贈与時で評価すると改正した点に引きずられる形で︑﹁贈与時を標準とする説にも︑捨てがたいも
のがある﹂と贈与時評価に好意的である︵中川
1 1