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ビジネスゲームによる数理 的社会認識 の育成

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(1)

BulletinofFacultyorEducation,NagasakiUniversity:Curriculum andTeachingNo.45(2005)1‑13

ビジネスゲームによる数理 的社会認識 の育成

一 中学校社会科 にお ける 「ベーカ リーゲーム」 の場合 一 福 田 正 弘*

(平成1

7

3

月1

5

日受理)

Bus i ne s sGa mea ndMa t he ma t i c a l ‑So c i a lUnd e r s t a nd i ng

‑ Soc i alSt udi e swi t h" Bake r yGame Hi nJuni orHi ghSc hool ‑

Mas ahi r oFUKUDA *

( Re c e i ve dMar c h 1 5 ,2 0 0 5 )

1

研究 目的

本研究 は, シ ミュ レー ションゲームを用 いた中学校社会科 (公民的分野)授業 の数理 的 社会認識育成上 の有効性 を検証 す る ものであ る

これ まで, われわれ は社会科及 び社会系教科 における数理教育 の実践的展開 につ いて研 究 を重 ね,社会的文脈で数理的思考が働 いて形成 され る社会認識 を数理的社会認識 と呼 び, その認識 内容 を社会 の数理 モデル と した (福 田2

0 05 )

。社会 の数理 モデル とは,社会事象 間の関係 を数量 や論理 の関係 (論理数学的関係) と して捉え る認識枠組 の ことであ る

この数理的 モデルを発達的 に無理 な く育成す るためには,社会理解 の中で数理的感覚 を 身 に付 ける段階,社会理解 の中で数理 的モデルを獲得す る段階,数理 モデルを構築 し社会 に当て はめる段階の

3

段階の学習段階が必要 であ る。本研究 は, この第

2

段階の数理的 モ デルの獲得 を目指す段階を対象 に した ものである

ところで,社会事象 には多 くの要素が絡 み合 い, その関係 は複雑 な ものであ る 複雑 な 関係 は単純 な関係 の組 み合わせであ った り,単純 な関係が成立す る前提条件が当て はま ら ない特殊 な場合であ った りす る。 こうした複雑 な関係 を把握す るためには, まず単純 な関 係 を把握 してい る必要 がある。単純 な関係 の把握 を済 ませずに,社会 を複雑 なままに捉 え させ よ うと して も無理 であ る。 これ まで社会科 は,児童生徒 に社会 の総体 を見せ, それを い きな り把握 させ よ うと して,結局児童生徒 の認識 を非科学的な ドグマ的な認識か,表層

*初等教育講座 (社会科教育)

(2)

2

長崎大学教育学部紀要 教科教育

N o . 4 5( 2 0 0 5 )

的な常識的認識 に留 ま らせて きた。 こう した学習上 の困難 を克服す るためには,社会 を単 純 な要素間関係 と して捉 え させてい く訓練が必要 であ る

社会 を単純 な要素間関係 と して捉 え させ る方法 と して シ ミュ レー ションゲームによる学 習が適切であろ う シ ミュ レー ションゲームは,社会 を単純 な要素間関係 と して再構成 し, 擬似的な社会状況 を作 り出 し, その中でプ レイヤーに意思決定 を させ るものである プ レ イヤーは意思決定 を しなが ら,ゲームに込 め られたモデルを把握 してい く.つま り, シ ミュ レー シ ョンゲ ームは,

Le a r ni ng by doi ng

の学習方 法 を取 りなが ら, ゲ ームの中で具体 的な状況 と して再現 され る実証的 な社会 モデルをプ レイヤーに把握 させ る学習 システムで あ るといえ る。

わが国の社会科教育 におし.、て, こうした シ ミュ レー ションゲームの教授学習機能 に着 目 し, その効用 の分析 を試 みて きた研究 は少数 なが ら存在す る (福 田

2 0 0 3 )

。 しか しなが ら, その多 くが社会科教育 の対象者 であ る児童生徒 を被験者 と した実証的研究 で はない。児童 生徒が シ ミュ レー シ ョンゲームを用 いた学習 を通 じて どんな認識 をどの程度形成 したのか

を きちん と実証 的 に示 した研究 は少 ないのである

そ こで,本研究 では,数理的 モデルの把握 の観点 か ら, シ ミェ レー ションゲームを用 い た学習 の効果 を明 らか に してみたい。本研究で明 らかにす るのは以下 の諸点 である

(D経済初学者 (中学校

3

年生) のゲームパ フォーマ ンス

②学習者が形成 した社会 の数理的 モデル

③学習者 の数理 的モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係

④学習方法 と しての シ ミュ レー シ ョンゲームの適切性

2

研究方法

2 . 1

使用ゲ‑ム

本研究では,子 どもが社会を数理的モデルで見 るのに適 した事例を取 り上 げているシ ミュ レ‑ シ.ヨンゲームを選択 し, そ こでの子 どもの数理 的社会認識 の様子 を研究対象 にす るこ とに した。子 ど もが社会 を数理的 モデルで見 るのに適 しているのは, ゲームその ものが数 値 を問題 に し,数値 を巡 って意思決定 を迫 るゲームであろ う 子 ど もの思考が無理 な く数 理的な方 向に向 きやす いか らであ る。

この観点か ら, われわれ は,企業 の経営 を シ ミュ レー トす る ビジネスゲームに着 目 し, その中で も,意思決定要素が少 な く,単純 な構造 を持っゲームを選択 した. こう してわれ われは,

YBG

(横浜国立大学 ビジネスゲーム)が提供 している 「ベーカ リーゲーム」 を 使用 ゲームと した。

ベーカ リーゲームは, ベーカ リー (パ ン屋) の経営 シ ミュ レー シ ョンを行 うゲームで,

2‑3

人 のプ レイヤーが チームを組 み

,1 0

前後 (人数 によ って異 なる) のチ‑ムが収益 を 競 うゲームであ る

ベーカ リーゲームのゲーム シナ リオは,概略次 のよ うである。 まず, ベ‑カ リーは,パ ンの材料 と して冷凍のパ ン生地 を購入 し, それを1日寝か して翌 日に焼 く作業 に入 り,翌々 日に焼 き上が ったパ ンを販売 す る。つ ま り材料購入 ・製造指示 ・製 品販売 の過程 が

3

日か けて進行す る訳 であ る ベーカ リーの経営 は1日1ラウ ン ドで展開 していき, プ レイヤー は,毎 日この

3

つの意思決定 (材料購入数,製造指示数,製品販売価格 の決定) を同時 に

(3)

福田 : ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成

一 中学校社会科 における 「ベーカ リ‑ゲーム」 の場合 ‑ 3

しな ければな らない。費用構成 は,パ ン生地及 び製造費用 がそれぞれ

1

個 あた り

4 0 0

円,

1 0 0

円であ り,パ ンの製造単価 は

5 0 0

円 とな っている。 また,固定費用 と してベーカ リーの テナ ン ト料が

1

日あた り

2

万 円 とい う設定 にな っている。

また, このゲームは, ゲームに参加 しているチームが市場 での供給側 とな ってお り,各 チームが決定す るパ ンの価格 と供給量が市場 への供給量 とい うことにな って いる。一方, 総需要 は コンピュー タに予 め登録 されてお り,各 チームの需要数 は,各 チームが設定 した パ ンの価格 やそれ までにそのチームが出 した品切れ数 (それによ って顧客信頼係数が計算

され る) によ って割 り当て られ るよ うにな って いる

このよ うに, ベ‑カ リ⊥ゲームは単純 なゲームであ り,一見非常 に簡単 そ うに見え るが, その実,各 チームの意思決定 を リアルに反映す る力動性 を持 ってお り,容易 には勝 てない。

なお, ベーカ リーゲームの意思決定 モデル (図

1

) を掲載 してお く

利益極大化 (損失極小化)概念 S>D‑‑売れ残り発生‑廃棄損失 S<D..‑品切れ発生 ‑機会損失

損益分岐点概念

損益分岐量=間接車用/単位利益

1

1

ベーカ リーゲームの意思決定 モデル

2 . 2

被験者

今回,被験者 と して選んだのは, 中学校

3

年生 であ る。 それ は,つ ぎの

2

つの理 由によ る。

1

つ は,中学校公民的分野で経済学習 の単元があるとい う学習指導要領上 の妥 当性で あ る。本実験授業 は,実験 的要素 を含みつつ も,学習指導要領上 の正統 な社会科授業 と し て行 われた ものである。

2

つめは,参加 した生徒 は経済 を正規 の授業 で きちん と学習 して いるとい う被験者 のゲーム参加 のための適格性 であ る これ は,初学者 であ りなが らも, 経済的知識 を身 に付 けていることをゲーム参加 の前提条件 と考 えたか らであ る。

(4)

4 長崎大学教育学部紀要 教科教育

N o . 4 5( 2 0 0 5 )

2 . 3

実験授業

実験授業 は長崎市 内の

2

中学校 で実施 した。授業時間 は特別 に通常 の

5 0

分授業 を

2

時間 続 きで確保 して もらい,学校の コンピュータ室を借 りて実施 した。授業者 (コン トローラー)

は,福 田本人が務 めた。 また,生徒 にゲーム内容 の周知 を徹底化す るため,事前 に生徒 に ゲーム シナ リオを配布 してお き, また授業前 に も解説 した。今回の授業実施 の概要 は以下 の通 りであ る。 また,一部,授業 中の様子 を写真 で示 してお く。

写真

1

教室の全体風景

写真

3

意思決定風景 (電卓で計算)

写真

2

ア ンケー ト記入

写真4 結果発表 実施校 ・実施 日

長崎市 内の公立 中学校

A

,

B2

( 2 0 0 5

1

2 5

,1

月28日) 対象学年 ・教科 第

3

学年社会科

参加生徒数 各

3 3

授業時間

2

時間

( 1 1 5

分連続 ・休憩含む)

使用 ゲーム ベーカ リー

( 1 2

チーム仕様)会計情報 は一部標記 を平易化 した 配布資料

ゲーム シナ リオ

( B4

1

枚,大学 で配布す る もの と同 じもの,事前 に配布) ・ア ンケー ト用紙

( B4

1

枚)

授業構成

事前説明 ・ア ンケー ト

3 5

(5)

福田 : ビ.ジネスゲームによる数理的社会認識の育成

一 中学校社会科 における 「ベーカ リーゲーム」 の場合 ‑ 5

ゲーム

6 0

結果集計 ・ア ンケー ト

1 0

分 結果発表 ・解説

1

0分

実施体制 コ ン トロー ラー :福 田,補助1名,教員 は適宜指導 その他 企業活動 は学習済み。 また1校 には電卓 を準備 させた。

2 . 4

データ収集方法

上記

4

項 目それぞれの研究 目的を実現す るため,次のよ うな手法 を とった。

① 経済初学者 (中学校

3

年生) のゲームパ フォーマ ンスの評価 デー タ

ベーカ リーゲームで は, ゲームに参加 しているチームの入力 デー タやゲーム成績が コ ンピュー タ上 に保存 されてお り, その記録 を取 りだ し,解析す ることがで きる ここで は,

2

校 それぞれのゲーム成績 を大学生 のそれ と比較す ることによ って,生徒 のゲーム パ フォーマ ンスを評価 した。

② 学習者が形成 した社会 の数理的 モデル

ここで は求 め る数理的 モデルを, ベーカ リーの ビジネスモデル,損益 モデル,経営学 の概念 (ルール) の

3

つ と し, それぞれ以下 の方法でデータを取得 した。

・ビジネスモデル

ビジネスモデルの理解度 を見 るために, ベーカ リーゲームに登場す る人物 ・業者 の関 係 を図で描写 させた。 図の要素 は,店,客,材料業者,製造従業員,大家,金融業者 の

5

点 である その描画数 をチーム毎 にカウ ン トし,理解度 を算 出 した。 図 は, ゲーム前 のア ンケー トで描かせ, ゲーム後 に加筆 ・修正 も認 めた。

・損益 モデル

次 に,損益 モデルの理解度 を見 るために, ベーカ リーの経営戦略を 自由記述 させ る中 で,利益式 を書 かせた。 これ もア ンケー トの中で実施 した。 ただ し, この記述 は自由記 述 であ ったために,全員か らデー タが得 られたわけで はなか った。

・経営学 の概念

最後 に,経営学的概念 の理解 であ るが, これ は各 チームの意思決定 の記録 を解析 し, 彼 らの意思決定が経営学 の概念 (ル丁ル) に合致 した決定か と'うかを算 出 した。 その手 続 きは次 の通 りであ る。

図1に示す よ うに,本 ゲームで経営成績 に寄与す る概念 は,損益分岐点概念 と利益極大 化 (損失極小化)概念 であ る 損益分岐点 は,経営 で利益 を出すための売上額 の最低条件 である。本 ゲームで はパ ンの製造数が先行 して決 まるので, プ レイヤーはその製造数 を完 売 す るよ う価格決定 す ることにな る 従 って,損益分岐点概念 は,損益分 岐価格

Pe

よ り も販売価格Pを高 く設定で きるかの判断 において用 い られ ることになる。 そ こで,本研究 で は,各 チームにつ いて,計算 で求 めた損益分岐価格

( Pe )

と実際 に決定 した価格

( P)

との遊離比率

P

( 1 ‑ Pe / P)

を求 め,損益分岐点概念 の理解度 と した。図

1

に示すよ うに,

P

比 が 0以上 であれば

P

は損益分岐価格以上 で あ り,利益 を生 み出す ことが可能 で あ る 逆 に0未満であれば,絶対 に利益 は生 まれない。

一方,利益極大化 (損失極小化)概念 につ いて は,廃棄損失 と機会損失 の極小化が実 は 利益 の極大化 に繋が っているとい う本 ゲームの構造 に由来 している。すなわち,本 ゲーム

(6)

6

長崎大学教育学部紀要 教科教育

N o . 4 5( 2 0 0 5 )

のルールで,製造 したパ ンが売 れ残 ればそのまま廃棄す る しかないよ うにな ってお り, そ の分 の売上原価 (原材料費 と製造費用 の計

5 0 0

円) が全 くの損失 にな る。 また,機会損失 とは,需要 に対 して供給が不足 した状態で,販売機会 を逸 した利益 の ことである。 これ は 会計上実際の損失 と して は計上 され ないが,・この値 が大 きい と, ゲ ーム遂行上 客 の信頼 度が低下 し,客が店 に寄 り付かな くな るよ うにな っている。本研究で は,各 チームの製品 供給量 (S) と実際の受注数 (D) との遊離比率Ds比 (1‑D/S)を ラウン ド毎 に求 めた.

③ 学習者 の数理的 モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係

①② で得 られたデータを リンクさせ, チームのゲーム成績 と数理的 モデル理解 との関 連 を調 べた。

④ 学習方法 と しての シ ミュ レー シ ョンゲームの適切性

ベーカ リーゲームが生徒及 び教師 に適切 な学習方法 と して受 け入れ られているか どう かを明 らか にす るため, ゲーム終了後,両者 にア ンケー トを実施 した。 ア ンケー トは, 質問項 目に対す る反応を

5

段階尺度で応える方法を取 った。質問項 目は,生徒用が,ゲー ムの楽 しさ, ゲームへの興味,参加 の積極性,参加 の真面 目さ, チームの協力 の様子, ゲームの難 しさ,店 の仕組 み理解,利益構造理解,情報 の見方,経済 の知乱 経済理解 の有効性,経済への興味, ゲームの授業への取 り入れの要望 の

1 3

項 目,教師用がゲーム の楽 しさ, ゲームへの興味,参加 の積極性,参加 の真面 目さ, チームの協力 の様子,店 の仕組 み理解,利益構造理解,情報 の見方,経済 の知識 の

8

項 目であ る。

3

中学校

3

年生 のゲームパ フ ォーマ ンス

授業で, ゲームは

8

ラウ ン ドまで進行 で きた。 その結果 は以下 の図の通 りであ る。

ラウンドごとの剰余金の変化

瓜 ) 4CKXX)

2m

0

̲A

J 誓 二三

"

〜 、 ミ ‑

.I..;;;..'Jr,.‑‑‑..L..A.,,.== し ペ

‑2CEXX)

‑4aXX)L

朋 刀

‑∝Ⅰ )

‑1(刀 o

‑12m

:,: :吋 =了 /, メ

一 一十ぺ斗 (.‑.,‑イl:

\ 人 . ‑ 一人

.

ラウンド 図

2 A

校の成績

ラウンドごとの剰余金の変化

6

0 M

4㈱ 0 2∝氾0

0

‑2∝伽 ̲JA

/ ‑... y ‑ .̲一

ミ 苛

8

‑4(脚

‑6tX)α)

‑8∝00 1∝KXX) 120M

\ 、 1 ト‑、 ヽ

\ 一\1

図3 B校の成績

(7)

福田: ビジネスゲームによ る数理 的社会認識 の育成 一 中学校社会科 にお け る 「ベーカ リーゲー ム」 の場 合 ‑

ベ丁力リー 剰余金

2

1

m

0 0【 沿 0

‑ 1 ∝ m)

2∝Ⅸ)

「m

Ⅷ 刀

m

/

̲ ノ十一

一‑ ナ/

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一 、 、 ・ . : IF ̲ : . . , . , q ◆ 4 . . . . . .

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こ 吾

誓 二 一 ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ , . ‑ / ‑ I I # ′ ■ '

ヽ一 ..̲̲.:.̲

. 一 一 . 〜 ‑ ‑ / 一 一

ー\\こ

図4 大学生の成績

7

これ らは各 チームの剰余金 (累積利益) 香 示 した ものだが∴最初赤字 を出す チームが結 構見 られ るが,殆 どのチームが

4

ラウ ン ドく

らいか ら右肩上 が りに上昇 している また, 最高位 チームの剰余金額 は4万 円程度 で両校 とも似 ている。 こう した両校 のゲーム成績 の 傾向か ら,今回のゲームの実施方法 による中 学生

3

年生 のゲームパ フォーマ ンスはこの程 度 と推測 され よ う。

また, この中学

3

年生 のゲームパ フォーマ ンス は, 大 学生 に対 して行 った ゲ ー ム結 果 (図

4

, この場合 は需要条件 を厳 しくして い るため剰余金額 は小 さい) と比べてみて も, 決 して劣 って はいず,大幅な赤字 チームが少 ないとい う点でむ しろ勝 って いる くらいであ る。大学生 の場合 は, ゲーム シナ リオを事前 に配布 していないな ど実施面 で若干不利 な点 もあ るが, その ことを考慮 に入れて も,中学生 の出来 の良 さが傑 出 して いる

この結果か ら,中学

3

年生 のベーカ リーゲームのゲーム遂行能力 は充分 であ り,経済初 学者 で も充分 にゲームがで きることが確証 された。

4 生徒の数理的モデル理解 とゲームパ フ ォーマ ンス

ここで は,本研究 の研究課題②学習者 が形成 した社会 の数理 的モデル と③学習者 の数理 的 モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係 を同時 に掲載す る

4 .1

ビジネ スモデルの理解 とゲームパ フ ォーマ ンス 生徒 の ビジネスモデル理解 は,パ ン屋経営

の概念図を描かせ ることによ って把握 した。

描画要素 は,店 の他,客,材料業者,製造従 業員,大家,金融業者 の

5

点 であ る。生徒が 記述 した概念図は,図

5

のような ものである。

これ らの図に描かれた経営要素 を集計 した。

その結果, 平均記 入数 は

2 . 9 7( A

校),

1 . 7 6

(B校) であ った。 次 に記入数 の各 チームの 平均記入数 を算 出 し,各 チームのゲーム成績 (順位)を散布図に表 した (図

6)

。その結果, 両者 には相関が見 られなか った。

5

生徒 の描画例

(8)

8

長崎大学教育学部紀要 教科教育

N a 4 5( 2 0 0 5 )

5

4

I

≡ 3 ◆ ◆

d]2

1 ‑ ●

0

I

J J

3

5

7 9

11

図6 ゲーム成績 (GP:ゲームの順位) とビジネスモデル理解 (BM)

( ◆ :

A校,● :B校)

4 . 2

損益モデルの理解 とゲームパ フ ォーマンス

生徒が経営戦略を自由記述 した中で,利益 の計算式 をほぼ正 しく記述 した例 は7例 あ っ た。 その うち典型的な ものを例示す ると以下 のよ うである。

・ (代金

‑5 0 0 )

×売れた数

‑2 0 0 0 0

‑利益

・ (パ ンの値段 ‑ (材料費 +人件費)) ×売れた数

‑2 0 0 0 0

・生地代 +人件費 +テナ ン ト代 <売 りあげ

・(パ ンの代金 ×売れた数)‑(パ ンの製造個数

×1 0 0 )‑( 4 0 0

×パ ン生地注文数)

‑2 0 0 0 0

しか しなが ら, これ らの利益計算式 を記述 した生徒の所属す るチームのゲーム成績 を見 ると,上か ら順に,

6

,

7

,

l

l

,1 0

位であ った。その他の例 も,

4

,

7

,

8

位で しかなか っ た。 この結果か ら,利益式 を正 しく書 くことが,必ず しもゲームのよき遂行には繋が らな いことが判明 した。

4 . 3

経営学概念の理解 とゲームパフ ォーマンス

損益分岐点概念 と利益極大化 (損失極小)概念の理解 は, P比 とDs比で判定 した。B 校 の各 チームの

P

比 と

D

s比 を算 出 し, チームの成績 によ り,上位層

(1‑ 4

位), 中位 層

(5‑ 8

位),下位層 (

9‑1 2

位) の

3

グループに分 け, グラフ表示 した (図

7

,

8

,

9)0

(9)

田 : ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 一 中学校社会科 における 「ベーカ リーゲーム」 の場合 ‑

2.

1.51 0.5

0

‑0.‑15

1‑2「.5 ‑0.‑⊥

0

0.0.0.‑0.0.0.3212413

ノー‑◆‑◆一一.‑◆

̲ 一 .イ 「 一r.

1 A E: i

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2 1.51

0.

0

5

0

0.0.0,1)1140.0.123.231

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‑0.‑15

1‑2.5 Et . . :

2 1.51 0.

0

5

‑0.‑15

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0

0,0.0.‑‑‑0.0:0.42313214

▲ー r ◆一一一一◆

̲. I , 一一r

」 . J

1 9 A E; Fi ー Ft

7 B

校の

P

・D

s比 (上位チーム) [P比 :◆右目盛,

D

s比 :『左 目盛]

1.51 0.

0

5

‑0.‑15

‑1‑.52 0.‑0.‑0.

0

‑0.1)0.00.2431..3241 A..J J一・.◆ 1 つ A

J =A 7

fl

8 B

校の

P

・D

s比 (中位チーム) [P比 :◆右目盛,

D

s比 :■左 目盛]

9

(10)

1 0

長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.45(2005)

2 1.51 0.50

‑0.‑15

‑1‑.52 0

0

0

0

‑0

0

‑0.1 ).

.

.

. .

0 .

4 2 3

1.2341

.▲J I , J トーで 1」ー 」

「 ヾ Jd, ーY ー ‑ I

1.51 0.50

0

.5

1

‑1.‑25 1)‑0.0.0.0.0‑‑‑8.0.0.123.2341

L r 一●

l モ ̲ .. ./rJ

. γ , A

2

1.5

1

0.05

‑0.‑15

‑1.

25 0.‑0.00.0.0.0.0.0.23412341 I . .▲ . .▲1‑‑.

Y t ヽ V /I

\ノ ー ー

図 9 B校の P比 ・Ds比 (下位チーム) [P比 :◆右 目盛,Ds比 :■左 目盛]

このゲームでは,P比が正で大 きいほど, また

D

s比がゼロに近 いほど,利益が大 きく なることが理論的に明 らかだ。従 って, それぞれのチームの

P

比,

D

s比の動 きを見れば, それぞれのチームの概念理解 の進展 を見 ることがで きる。図

7

,

8

,

9

か ら,次のよ うな 傾向を指摘で きる。 すなわち,上位 チームは,

D

s比が安定的にゼロ付近 にあ り, P比が プ ラスに増大 している。 それに対 し,中位 チームは,P比 も

D

s比 も大 きくゼ ロか ら離れ た極端 な値 を取 ることがあ って も,徐 々に

D

s比がゼロに接近 し,P比がプ ラスに転 じて いる 下位 チームは,P比 も

D

s比 も大 きく変動 を繰 り返 し,安定 していかない傾向にあ る

これ らの傾向か ら,上位 チームは最初か ら概念理解 に到達 してお り,ゲームの進行 によ り判断の精度 を高めていき,中位 チームは最初 は唆味だ った概念理解がゲーム進行 によ り 確かな ものにな り,判断を修正 していっている,それに対 し,下位 チームは概念理解の途 上 にある中間的な段階ない しは無理解 によるあてず っぽ うの意思決定の段階にあるといえ る。総 じて,ゲーム進行 と概念理解の進展が見事 なまでに相関 していることが分かる。本 ゲームの意思決定 において, それまで ランダムに動 いていた

D

s比,P比が安定化 に向か

うよう変 じた点 こそ,生徒が概念理解を達成 したターニ ング ・ポイ ン トといえる。

5

学習方法 と しての シミュレーシ ョンゲームの適切性

本研究の研究課題④ シミュレーションゲームの学習方法 としての適格性 は,本ゲーム学 習に対す る印象を生徒及 び教師にア ンケー ト調査す ることによって明 らかに した.調査内 容 は,上述の通 りである 以下,調査結果を両校で一括 して集計 し,分析す る。

(11)

福田 : ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 一 中学校社会科における 「ベーカリーゲーム」の場合 ‑

5 . 1

生徒のゲーム学習 に対する評価

まず,生徒 に対す るア ンケー トの集計結果 は,図

1 0

の通 りであ る。

ゲームの楽 しさ, ゲームへの興味,参加 の 積極性,参加 の真面 目さ, チームの協力の各 項 目はいずれ も満点 に近 い高得点である ゲー ムを用 いることによ って,生徒が楽 しく積極 的 に, しか もチームで協力的 に授業 に参加す ることがで き;授業が活性化す ることを生徒 自 らが証明 している。

しか しなが ら, ゲームの難 しさ,店 の仕組 みや利益構造,会計情報 の見方,経済 の知識 とい った認知的側面 で はやや評価 が厳 しい。

ゲームが難 しく,生徒 自身,経済理解 につ い て はやや控 えめな評価 を したのだろ う

とはいえ,生徒 は, ゲームが経済理解 に役

l l

図10 生徒のゲーム学習 に対する評価 立っ (経済理解 の有効性) と認 め,大 いに経済 に興味 を持 つよ うにな った と している。生 徒 は,授業 に もっとゲームを導入 して ほ しい (ゲームの要望

4. 9 7 )

と願 って いることが分 か っ

これ らの ことか ら総 じて,生徒 にとってベーカ リーゲームを用 いた学習 は,情緒面,礼 会面,認知面 のいずれにおいて も優 れた学習 とい うことがで きる。

5 . 2

教師のゲーム学習 に対する評価

教師に対 して行 ったア ンケー トの結果 は,図11の通 りである 参観す る教師が少数であ っ たのでサ ンプル数 と しては少 なす ぎるが,掲示 してお く

生徒対象 のア ンケー トとは若干項 目数 が少 ないが,生徒の反応結果 と驚 くほど似ている。

つ ま り, ゲームの楽 しさ,参加 の積極性,参 加 の真面 目さ, チームの協力 の各項 目はいず れ も高得点 であ り,店 の仕組 みや利益構造, 会計情報 の見方,経済 の知識 の認知面で は, 若干慎重 な評価 にな っているのであ る

以上

2

つのア ンケー トの結果か ら,生徒教 師 ともに情緒的印象 (ゲームの楽 しさ, ゲー ムへの興味,参加の積極性,参加の真面 目さ,

1 1

教師のゲーム学習 に対する評価 チームの協力 の様子)及 び認知 的効果 (店 の

仕組 み理解,利益構造理解,情報 の見方,経済 の知識) の両方 につ いて高 い評価 を与 えて いることが分か る。すなわち,今回実施 したベーカ リーゲームは,授業 の活性化 とともに 学習内容 の習得, さ らには学習動機 の喚起 において も優 れた学習方法 であ るとみなされた のであ る。

(12)

1 2

長崎大学教育学部紀要 教科教育

N m 4 5( 2 0 0 5 )

6 結論

本研究 の研究課題 は次 の

4

点であ った。

① 経済初学者 (中学校

3

年生) のゲームパ フォーマ ンス

② 学習者が形成 した社会の数理的 モデル

③ 学習者 の数理的 モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係

④ 学習方法 と しての シ ミュ レー ションゲームの適切性

これ までの結果か ら, これ らの課題 に対 す る結論 は以下 のよ うにな る。

(訂 中学

3

年生 のゲームパ フォーマ ンスは充分 であ る。

②'③l ビジネスモデル,損益 モデル理解 とゲームパ フォーマ ンスとの関係 は明 らか にで きなか ったが,経営学概念理解 とゲームパ フォーマ ンス との関係 は明 らか にな った。

④ ' シ ミュ レー ションゲームは適切 な学習方法であ る。

以上 よ り, シ ミュ レー シ ョンゲームは生徒 の学習意欲 を喚起 し,経営学 の概念 を意思決 定活動 の中で習得 させ る広 い意味での数理的思考 を育 て る優れた学習方法 であ ると結論 づ

けることがで きる。

7

新 たな課題

しか しなが ら,本研究遂行途上 で新 たな課題 も浮上 して きた。以下,列挙す る

・社会科学習 の寄与 の問題

今回,社会科公民的分野で経済の学習を終えている中学校

3

年生 を対象 にベーカ リーゲー ムを実施 した。 中学校

3

年生 を選択 したのは,企業経営 の シ ミュ レー シ ョンゲームを行 う のに基礎的な経済的知識が不可欠であろ うとい う判断があったか らである,しか しなが ら,

ビジネスモデルの描画や利益式 の記述 で表 出 させ た知識がゲームパ フォーマ ンス と必ず し も相関関係 を持 たない とい う結果 にな っている この ことか ら,社会科 の授業で生徒が獲 得す る経済の知識がゲームでの意思決定 の必須条件 にな ってい るか ど うか とい う疑問が生 じる。 つ ま り, ベーカ リーゲームは中学校

3

年生 でないとうま くで きないのか, とい う検 証課題が生 じる。

・意思決定能力 の決定要素 の問題

しか し,問題 はこれだけに留 ま らない。描画や記述 によ って表 出 された知識 とゲームパ フォーマ ンスの相関関係が否定 された とい う事実 は何 を物語 るだ ろ うか。 ビジネスモデル や利益式 は, ベーカ リーゲームで意思決定 を進 めて い く上で決定的な意味 を持っ知識であ るよ うに思 われ る。 その知識 の有無がゲームパ フォーマ ンスに寄与 しない ことは理解 に苦 しむ。 もしこの事実を受 け入れ,両者の間に相関関係がないとす るな らば,ゲームパ フォー マ ンスを決定す る要素 は何か。概念図や数式 で表 され るもの とは別 な種類 の能力 なのだ ろ うか。 これは シ ミュ レー ションゲームで育つ学力 とは何か とい う問題 に も連 なる,最 も本 質的で基本的な問題 であ る。本 当に,描画や記述で表 出 され る知識がゲームパ フォーマ ン スと相関 しないのか,再検証す る必要があ る

・知識 の測定方法 の問題

これ らの検証課題 に入 る前 に, よ り技術的な問題があ る。 本研究 で は,生徒 の数理的 モ デルの把握方法 と して, ア ンケー トによる概念図描画や数式記述 の方法,生徒 の意思決定 記録 の分析 による方法 の

2

つを採用 した。

(13)

福田 : ビジネスゲームによる数理的社会認識 の育成

一 中学校社会科 における 「ベーカ リーゲーム」 の場合 ‑

1 3

前者 で は,任意記述 のために充分 な記述数 を得 られていない うらみがあ った。 同 じ無回 答 であ って も,記述 しない ことと分か っていない ことの

2

種類があ り,両者 を同 じよ うに 取 り扱 って,結果 を解釈すれば,結論 を誤 ることに もな る。 ど うい う表現方法 を とるのが 最適 な知識表出方法 なのかを見極 めて調査す る必要があ る

後者 で は,生徒 の意思決定記録 か らP比 と

Ds

比 を算 出 し, その変動軌跡 を見て,損益 分岐点概念 ・利益極大化 (損失極小化)概念 の達成状況 を推定 した。 しか し, それ は意思 決定 の結果 を見ての推定であ って,概念 その ものの表現で はない。概念 その ものの表現 は 説明 とい う作業で行われ るが, シ ミュ レー ションゲームでは意思 の決定 を行 うのであ って, 事後 で しか説明 は しない。説明で はな く,意思決定 の結果 と して概念 の表現 とな りうるの か どうか,究明 しなければな らない根本的な問題 である

これ ら2つの問題 は,知識 の測定方法 とい う技術的問題であるが,評価 の根本 に関わ る 根源的問題 であ る。

いずれ にせよ, シ ミュ レー ションゲーム学習 の結果が示す よ うに,生徒 は社会的事象 と の応答関係 の中か ら社会 を認識す るために数理 的モデルを獲得 してい っていることが明 ら か にな った。生徒 は,従来 の社会科授業で教 えていた事実的知識 や概念的知識 とは違 った 新 しい知識 を学んだのであ る この種 の知識 の育成 こそが新世紀社会科 に要請 され る任務 であ り,課題である。今後,われわれ はこの課題 の解決 に向 け,研究 を推進 していきたい。

(追記)本研究 は,文部科学省科学研究費補助金特定領域研究 (領域名 :新世紀型理数科 系教育 の展開研究),研究課題名 :社会科及 び社会系教科 における数理教育 の実践 と評価, 研究代表者 :福 田正弘,課題番号 :

1 5 0 2 0 2 51

による研究成果 の一部 であ る。

文 献

福 田正弘 ・山下英 明

( 2 0 0 3 )

:数理的思考 を活用 した歴史授業,長崎大学教育学部紀要教 科教育学

,41 ,1 ‑ 1 4 .

福 田正弘

( 2 0 0 5 )

:社会科 における数理的 モデル認識,長崎大学教育学部紀要教科教育学,

4 4 ,1 5 ‑ 2 4 .

福 田正弘

( 2 0 0 3 )

:シ ミュ レー シ ョンゲームに もとづ く社会科授業,社会認識教育学会編, 社会科教育 のニ ューパ ースペ クテ ィブ,明治図書

, 2 3 6 ‑ 2 4 5 .

福 田正弘

( 2 0 0 3 )

:社会科及 び社会系教科 にお ける数理教育 の可能性,平成

1 4

年度科学研 究費補助金特定領域研究

( 2 )

(新世紀型理数科系教育 の展開研究)研究成果報告書.

参照

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