65
第5章 実態調査の結果と分析 第1節 声に対するアンケート調査
1 本調査の概要
本調査は 2006 年 5 月から 9 月にかけて実施した1。影響を与える要因として、性別、年齢 による相違が考えられるため、できるだけ偏りがないように配慮し、ランダムサンプリン グを行った。調査協力者の男女比は男性 92 人(45%)、女性 99 人(49%)、未回答 12 人(6%)
であった。年齢比は 10 歳代が 25 人(12%)、20 歳代が 49 人(25%)、30 歳代が 32 人(16%)、
40 歳代が 33 人(16%)、50 歳代が 31 人(15%)、60 歳代が 33 人(16%)であった。
図表 5-1-1.調査協力者の比率
2 自分の声に対する意識調査の結果
自分の声に対する意識調査では、男女別の結果、男性 55%、女性 58%と男女共に、「普通」
が半数以上を占め、続いて「悪い」の回答が多く、男性 22%、女性 31%であった。自分の声 に対して、好意的な印象を持っていないことが示された。年代別の結果も同じであった。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
A 大変よい B 良い C ふつう D 悪い E 大変悪い 判別不能
図表 5-1-2.自分の声に対する意識調査の結果
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
年代別
10代 20代 30代 40代 50代 60代
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
性別
男性 女性 未回答
66
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性 10歳代
20歳代
30歳代 40歳代
50歳代
60歳代
A 大いに変化させている B 時には変化させている C 意識していない D あまり変化させていない E まったく変化させていない 判別不能
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
A 大きい声 B 小さい声 C 高い声 D 低い声 E ゆったりした声 F せかせかした声 G 暖かい声 H 冷たい声
3 自分の声に対する認識調査
男女比では、男性 23%、女性 19%と男女ともに、「低い声」が最も多く、続いて「大き い声」が男性 21%、女性 18%であった。年代別に見ると、20 代は「せかせかした声」が多 かったが、それ以外の年代においては、「低い声」、「大きい声」の回答が多かった。
図表 5-1-3.自分の声に対する認識調査の結果
4 声の変化に対する意識調査の結果
男女共に「時には変化させている」が最も多く、特に女性は半数を上回り、続いて「意識 していない」の回答が多く見られた。年代別では、「時には変化させている」が最も多く、続 いて「意識していない」の回答が多く見られ、声に対する意識が薄いことが示されている。
また、10 歳代から 30 歳代は、年齢が高くなるにつれて「大いに変化させている」の回答数が あるのに比べ、40 歳代以降は、「大いに変化させている」の回答は減少状態であった。
図表 5-1-4.声の変化に対する意識調査の結果
67 5 伝わる声の意識調査の結果(大・小)
伝わる声の意識調査の結果、大きい声と小さい声では、男女別では、男性は、「大きい声」
の方が人に伝わる声だと 82%の人が答えた。女性も、「大きい声」の方が 72%伝わる声と答 えた。年代別でも、すべての年代において、「大きい声」が伝わるという回答が多かった。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性 男性 10歳代 20歳代 30歳代
40歳代 50歳代 60歳代
A 大きい声 B 小さい声 判別不能
図表 5-1-5.伝わる声の意識調査の結果(大・小)
6 伝わる声の意識調査の結果(高・低)
高い声と低い声の男女別ではどちらの声が伝わるかという問いに対し、男性は、「高い声」
が 47%、「低い声」が 48%と、約半々に分かれた。女性は、「低い声」が 61%であった。年 代別では、20 代が、「低い声」77%と回答したが、それ以外の年代ではばらつきが見えた。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
A 高い声 B 低い声 判別不能
図表 5-1-6.伝わる声の意識調査の結果(高・低)
68 7 伝わる声の意識調査の結果(スピード)
ゆったりした声とせかせかした声ではどちらの声が伝わると思うかの質問では、男性 92%、女性 90%が、「ゆったりした声」と答えた。
年代別でも同様に、高い確率で「ゆったりした声」いう回答であった。せかせかした声よ りも、ゆったりした声のほうが伝わると認識されていることが示された。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
A ゆったりした声 B せかせかした声 判別不能
図表 5-1-7.伝わる声の意識調査の結果(スピード)
8 伝わる声の意識調査の結果(温度)
温かい声と冷たい声ではどちらの声が伝わるかの質問では、男性は「温かい声」が 90%、
女性「温かい声」84%、であった。年代別もすべての年代において 80%以上が、「温かい声」
と答えた。冷たい声よりも温かい声の方が伝わると認識されていることが示された。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
A 温かい声 B 冷たい声 判別不能
図表 5-1-8.伝わる声の意識調査の結果(温度)
69 9 良い声の意識調査の結果
良い声の意識調査では、男性 52%、女性 44%と、「明瞭なハッキリした声」が最も多く、
続いて男性 30%、女性 29%が「響きのある声」が良い声だと思うと回答した。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
女性
男性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
A 明瞭なハッキリした声 B 透き通る声 C 響きのある声 D ささやき声 E その他 判別不能
図表 5-1-9.良い声の意識調査の結果
70
第2節 声のサンプリング調査
本調査は、2006 年 5 月から 9 月において行った声に対するアンケート調査と同様の参加 者 203 名とプロフェッショナル(以下 P と記す)の P10 名、計 223 名に行った。録音は調 査者と発話者のみで、それ以外の他者のいない場所で行った。収録の機材として、SONY の ハンディーカム(型名 GR−DVA33K)を使用した。調査目的が、音声コントロールがどれく らい可能であるかであることを発話者に告げ、調査内容の教示では、通常自分が表現して いるやり方で発話するよう求めた。
発話内容は、「おはようございます」「ありがとうございました」「またお会いしましょう」
「愛しています」「あなたが大嫌いです」という 5 つの言葉に、15 パターンの指示(①高く
②低く③大きく④小さく⑤早く⑥ゆっくり⑦温かく⑧冷たく⑨好きな人にいうように⑩嫌 いな人にいうように⑪喜んで⑫怒って⑬悲しんで⑭普通に⑮間を取って)で発話してもら った。本論文では「おはようございます」のみを比較し、分析することとした2。
音声波形は1つの言葉に対して、音声波形(振幅)、スペクトル、基本周波数の 3 通りの グラフにまとめた。第一番目の音声波形(振幅)は縦軸が音の強さを表している。つまり、
大きな声が出ている場合は上下の幅が大きく、振幅が大きくなり、また小さな声が出てい る場合は上下の幅が小さく、振幅が小さくなる。第二番目のスペクトルでは音の違いであ る分析素性(segmental feature)を明示した。縦軸は音の高さ、フォルマント周波数を表 している。音声は様々な周波数の重ね合わせなので短時間で見た時に複数の強い周波数成 分が現れわれる。表示された音声データに対しピッチ(基本周波数)の時間変化を表示す る。第三番目のピッチをあらわす基本周波数は、縦軸はスペクトルと同様に周波数であり、
各 時 間 あ た り に 一 つ の 値 の み を 持 っ て い る 。 声 の リ ズ ム 、 テ ン ポ 等 、 超 分 析 素 性
(suprasegmental features)を明示し、これを見ることで声の表現の単調さが明らかにな る。3 通りの音声波形を比較すると、P に比べ、一般の人の音声波形データから振幅の変化 の区別がほとんど見られなかった。さらに、感情を示す物理的コントロールでない音声表 現の比較を音声波形データによって読み取ることが困難なため、本調査では、15 パターン のうち、①高く②低く③大きく④小さく⑤早く⑥ゆっくり、の物理的コントロールのみを 提示した3。感情を表現する声の比較については、声のヒアリング調査を実施して直接評価 者に判断してもらうこととした。
本調査は、後のヒアリング調査の評価者の負担を考慮し、声に影響を与える偏りがない よう、声の形成要因である年齢と性別に配慮し、一般の人の 10 歳代から 50 歳代の男女各 1 名計 10 名と、10 名の P のうちの男女各 2 名計 4 名を抽出して、計 14 名で比較することに した。抽出条件は 203 名の一般発話者のうち、声の物理的な変化(「高く」、「低く」など)
が十分につけられていない人を除外し、相対的に変化が明確にみられる、比較的感情表出 ができている者を選別した。それぞれの年代における声の特質に着目するものではなく、
年齢による差異を超えて、評価者にどのように声による想いの伝達ができるかを検証する ためである。①高く②低く③大きく④小さく⑤早く⑥ゆっくり、の声のサンプリング調査
71 の結果は以下のとおりである。
図表 5-2-1 は、「おはようございます」を①高く②低く発話した音声を音声波形にしたも のである。この波形に示される振幅は、高い声ほど細かく表示され、低い声ほど太く表示 される。すなわち、このデータで P と一般の人の発話状態を読み取ることができる。P は、
①高くの振幅はプラスマイナスの差は 40 以上あるが、②低くの振幅の差はプラスマイナス 20 以内である。一方、一般の人の音声波形には、10 代男性、20 代女性、40 代女性に変化 の区別が多少示されているが、それ以外の人からは見られず、声のノンバーバル要素をコ ントロールするスキルが低いことが示された。次に、図表 5-2-2「おはようございます」① 高く②低くのスペクトルを比較すると、高い声を出すには張ることによって、周波数成分 は濃く表れ、低い声を出す場合には薄く表れる。P は 4 人のいずれのデータにおいて、①高 くは濃く、②低くは薄く示されているが、一般の人のデータからはその区別を読み取るこ とはできなかった。最後に、図表 5-2-3「おはようございます」①高く②低くの基本周波数 を見ると、高い声を出すには張ることによって、周波数成分は濃く表れ、低い声を出す場 合には薄く表れる。この比較においても、P は、①高くの最高値は 350HZ 以上の音声、最低 値は 250HZ で発話しているが、②低くの最低値は 50HZ、最高値は 150HZ 以下で発話してい ることが示された。P の 4 人の①高く②低くの最高値と最低値を算出した平均差は 225HZ で あった。一般の人の基本周波数においては、①高くの最高値が 350HZ、最低値 150HZ、②低 くの最低値が 100HZ、最低値は 250HZ 以下であった。一般の人 10 人の①高く②低くの平均 差は 120HZ であり、一般の人の差異は約倍近くあった。同様に、図表 5-2-4③大きく④小さ くの音声波形では P は②低くの 2 倍から 4 倍大きな波形がし増されたのに比べ、一般の人 は良い人で 1.5 倍ほどしかなかった。図表 5-2-5 のスペクトル、図表 5-2-6 の基本周波数 においても、P と一般の人ではノンバーバル要素のコントロールに大きな違いがあることが 示された。図表 5-2-7⑤早く⑥ゆっくりの音声波形では、P は⑤早く⑥ゆっくりの音声波形 の横軸、すなわち発話時間を示す長さが倍以上あるのに比べ、一般の人の場合は女性が比 較的その傾向にあるものの、一般の男性の波形からはその区別を読み取ることはできなか った。図表 5-2-8⑤早く⑥ゆっくりのスペクトルでも、図表 5-2-9⑤早く⑥ゆっくりの基本 周波数においても、P はその区別が明確に表示されているが、一般の人の波形からはその変 化の区別を明確に読み取ることはできなかった。音声波形データを比較した結果、P と一般 の人において、声のノンバーバル要素の物理的コントロールに大きなスキルの差があるこ とが明示されたが、感情を示すノンバーバル要素に関しては、波形データだけでは明確な 判断がつかなかった。ただし、⑪喜んで⑫怒って⑬悲しんで、⑭普通に⑮間をとって、の 音声波形とスペクトルからは、P と一般の人の相違が明らかに見られた。図表 5-2-10 に⑪ 喜んで⑫怒って⑬悲しんでの音声波形、図表 5-2-11 に⑪喜んで⑫怒って⑬悲しんでのスペ クトル、さらに図表 5-2-12 に⑭普通に⑮間をとっての音声波形、図表 5-2-13 に⑭普通に
⑮間をとってのスペクトルの結果を示した。
72
「おはようございます」
①高く ②低く
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-1.「おはようございます」①高く②低くの音声波形の比較
40
40
60
80
73
「おはようございます」
①高く ②低く
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-2.「おはようございます」①高く②低くのスペクトルの比較
74
「おはようございます」
①高く ②低く
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-3.「おはようございます」①高く②低くの基本周波数の比較 250
350
100
350
350
50
50 150
75
「おはようございます」
③大きく ④小さく
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-4.「おはようございます」③大きく④小さくの音声波形の比較
76
「おはようございます」
③大きく ④小さく
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-5.「おはようございます」③大きく④小さくのスペクトルの比較
77
「おはようございます」
③大きく ④小さく
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-6.「おはようございます」③大きく④小さくの基本周波数の比較
78
「おはようございます」
⑤ 早く ⑥ゆっくり
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-7.「おはようございます」⑤早く⑥ゆっくりの音声波形の比較
79
「おはようございます」
⑤早く ⑥ゆっくり
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-8.「おはようございます」⑤早く⑥ゆっくりのスペクトルの比較
80
「おはようございます」
⑤早く ⑥ゆっくり
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-9.「おはようございます」⑤早く⑥ゆっくりの基本周波数の比較
81
「おはようございます」
⑪喜んで ⑫怒って ⑬悲しんで
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-10.「おはようございます」⑪喜んで⑫怒って⑬悲しんでの音声波形
82
「おはようございます」
⑪喜んで ⑫怒って ⑬悲しんで
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-11.「おはようございます」⑪喜んで⑫怒って⑬悲しんでの基本周波数の比較
83
「おはようございます」
⑭普通に ⑮間をとって
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-12.「おはようございます」⑪喜んで⑫怒って⑬悲しんでの音声波形の比較
84
「おはようございます」
⑭普通に ⑮間をとって
P女性1
P女性2
P男性1
P男性2
10代女性
10代男性
20代女性
20代男性
30代女性
30代男性
40代女性
40代男性
50代女性
50代男性
図表 5-2-13.「おはようございます」 ⑭普通に⑮間をとっての基本周波数の比較 以上の結果により、一般の人が声ノンバーバル要素を意図的にコントロールできないこ とが示された。本調査において、充分に読み取ることができなかった感情を示す声のノン バーバル要素については、次節の声のヒアリング調査によって明らかにする。
間 間
間 間
85
第3節 声のヒアリング調査
鈴木(2004,p.151)によれば、風邪を引いて声が嗄れ、普段の声とかけ離れた声を出し たとしても、声紋分析に現れる周波数は同じだという。それほど、音声データは明晰であ る。例えいくら声優の技量を用いて、声を変化させて犯罪に至ったとしても音声データに 現れるということである。
しかしながら、上記の音声波形調査の結果は、一般の人は声のノンバーバル要素の物理 的コントロールが困難なことは示されたが、感情を示す声のノンバーバル要素を明確に声 優との差を比較することができなかった。
そこで、前節で声のサンプリング調査で抽出した一般の大人 10 名と P4 名に加え、さら に小学生の男女各 3 名を加えて計 6 名、総計 20 名の音声により、実際にそれらの音声から 感情をどれくらい聞き取ることができるかを明らかにするためにヒアリング調査を行った。
本調査の評価者は、2007 年 3 月 18 日に行った朗読会の来場者 114 名である。対象評価者 の男女比は男性 55 名、女性 59 名である。年代は、10 歳未満 1 名、10 歳代 12 名、20 歳代 34 名、30 歳代 40 名、40 歳代 12 名、50 歳代 3 名、60 歳代 12 名の計 114 名である。
調査は 2 つの方法を用いて行った。教示では調査内容の目的は伝えず、調査 1 と 2 の調 査方法を説明した後、発話者がどの感情で発話していると感じたかを、その時の感覚で即 座にアンケートに○をつけるよう指示した。
調査 1 では、72 サンプルの音声がどの感情で発話されたかを『喜んで』、『怒って』、『悲し んで』『どれでもない』の中から選択するよう促した。さらにそれぞれの声は 4 秒おきに 1 回聞こえてくることを伝え、あまり考え込まず直感で感じた状態で記録するように示唆し た。回答欄にミスがないよう、5 つおきにポーンという音が入ることも付け加えた。調査内 容は、調査 1 ではバーバルに感情表現を含まない文に、ノンバーバルで感情を付与した場 合、発話者の感情をどれくらい感じとることができるか。
調査 2 ではバーバルに感情表現を含む文に、ノンバーバルで同じ感情/反対の感情を付与 によって、発話者の感情に対する感じ方に差異が出るかを調べた。
1 調査1
調査1の結果を図表 5-3-1 に示す。発話者(声優、大人、小学生)ごとに、「喜んで」、「怒 って」、「悲しんで」の各感情、及びそれら 3 つの感情を総合した「全体」について、評価 者が発話者の込めた感情を正しく感じ取ることができた。すなわち、発話者の感情が正し く伝わった割合を示したものである。
86
図表 5-3-1. 調査1における「喜」「怒」「悲」の感情が正しく伝わった割合
図表 5-3-1 から、P の音声ではどの感情も高い割合で評価者に伝わったが、一般人発話者 の音声では、大人の「喜んで」と、小学生の「悲しんで」は 50%以上伝わったが、それ以 外の感情は、「全体」で 41%ほどしか伝わらなかったことが確認できた。3 つの感情を総合 した「全体」を両側 1%で検定したところ、大人と小学生との間には有意差はなかったが、
P と大人との間、及び P と小学生との間には有意差がみられた(有意差検定の詳細は付録に 添付する)。
2 調査2
バーバルとノンバーバルが一致不一致によって表現に差異がでるかを調べた結果を図表 5-3-2 に示す。P、大人、子どもの順に、左から「好きな人に向かって」発話した「愛して る」と「あなたが大嫌いです」、及び「嫌いな人に向かって」発話した「愛してる」と「あ なたが大嫌いです」のそれぞれの感情が、評価者に正しく伝わった割合を示している。ま た、大人は、「好きな人に向かって」発話した「愛してる」と、「嫌いな人に向かって」発 話した「あなたが大嫌いです」はほぼ同じ確率で伝わったが、小学生は「嫌いな人に向か って」発話した「あなたが大嫌いです」という表現が最も正確に伝わる確率が高かった。
86.2
53.1
26.2 90.6
32.7
42.0 78.5
37.4
56.1 85.1
41.1 41.4
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
声優 大人 小学生
伝わった割合[%] 喜んで
怒って 悲しんで 全体
喜怒悲の感情が正確に伝わった割合
%
**P<.01% P
**
**
87
*P<.05%
図表 5-3-2.調査 2 における「好きな人に」「嫌いな人に」の感情が正しく伝わった割合
バーバルとノンバーバルが一致不一致によって表現に差異がでるかを検定した結果、P は 有意差検定両側 5%で有意差はないが、大人と小学生には有意差が見られた(有意差検定の 詳細は付録に添付する)。
第4節 調査結果の考察
1 声の意識調査の分析
声の意識調査では、多くの一般の人が自分の声に不満をもっている、または自信がない ことが明らかに示された。すなわち、声で想いを伝えるスキルを身に付ける訓練をする必 要があるということになる。声をコントロールすることができるようになれば、他者に対 して、正確に自分の想いを伝えることができるようになり、コミュニケーションを円滑に 図ることが可能になると考える。
2 声の実態調査の分析
予想していた声の実態調査では、大半の一般人の声には、指示通りのノンバーバル要素 の変化がみられなかった。図表 5-4-1 から図表 5-4-3 は、P 女性 2 と一般人発話者 20 代の 女性を比較した波形である4。図表 5-4-1 の「音声波形」で、縦軸が音の強さを表している のをみると、P と一般人の抑揚の比較が一目でわかる。P は、音声波形から、高く、低くは 5 倍近い振幅の差が見られ、大きく、小さくは 10 倍以上の差があることが読み取れるが、
一般人の音声波形には 4 つの指示に伴う変化があまり見られないことから、自分の声をコ ントロールすることができない状態であることがわかる。感情をどのように捉えているか
%
74.1
59.6
43.4 65.8
29.2 30.0
67.5
38.2
42.4 91.9
56.7
76.0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
声優 大人 小学生
伝わった割合[%]
発信者
好きな人に 愛してる 好きな人に 大嫌い 嫌いな人に 愛してる 嫌いな人に 大嫌い
好¦嫌の感情が正確に伝わった割合
P
*
*
*
*
88 という精神的なスキルとその感情をどう伝えるかという技術的スキルの問題となる。
高く 低く 大きく 小さく
図表 5-4-1.音声波形(女性) 「おはようございます」
図表 5-4-2 は、「スペクトル」から、P は 4 つの指示どおり、周波数を読み取ることがで きるが、一般人は、4 パターンに明確な違いが見られないことから、音声波形と同じく、声 のコントロールができないことを示している。このデータからも、声のノンバーバル要素 をコントロールするためのスキルの必要性が伺える。
高く 低く 大きく 小さく
図表 5-4-2.スペクトル(女性)「おはようございます」
図表 5-4-3 は 4 つのノンバーバル要素を「基本周波数」で表したものである。P の抑揚が 指示どおり発信され、600Hz 近い変動をしているのに比べ、一般人の声のピッチが 200Hz か ら変化せず、単調であることが明らかにわかる。これによって、物理的な表現でさえ、コ ントロールできないということになる。スキルの訓練が必要といえる。
89 高く 低く 大きく 小さく
図表 5-4-3.基本周波数(女性)「おはようございます」
3 声のヒアリング調査の分析
調査 1、調査 2 の結果から、P の音声には相手に感情を伝える力がある一方で、一般人発 話者の声では十分に感情が伝わらない、ということが判明した。また、当初、大人と小学 生との感情表出には違いがあり、大人の方が小学生よりも声に感情を込めることができる ものと予想していたが、全体的には有意差が認められるほどの差は見られなかった。しか し、詳細に見てみると、いくつかの興味深い違いが確認できた。調査 1 の結果を示した図 表 5-4-4 によると、3 種類の感情のうち、大人では「喜んで」が最も高い割合で伝わったの に対し、小学生では「喜んで」は最も低く、「悲しんで」が最も高かった。実体験のない感 情を表現することは難しいと考えると、日常において子ども達が実際に悲しい体験をして いると読み取ることができる。また調査 2 の大人は、「好きな人に向かって」発話した「愛 してる」と、「嫌いな人に向かって」発話した「あなたが大嫌いです」はほぼ同じ確率で伝 わったのに比べ、小学生は「嫌いな人に向かって」発話した「あなたが大嫌いです」とい う表現が最も正確に伝わった結果から、一般的に大人は相手に対して「嫌い」という感情 をあらわにすることを避ける傾向にあるが、小学生は「嫌い」という感情に対してまだ抵 抗がなく、言い換えれば想いが育っていないという表れと考えられる。
図表 5-4-4. 調査1における「喜」「怒」「悲」の感情が正しく伝わった割合
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
声優 大人 小学生
伝わった割合[%]
喜んで 怒って 悲しんで 全体
喜怒悲の感情が正確伝わった割合
% P
90 図表 5-4-5 は、調査1における 3 つの感情を総合した全体での正しく伝わった割合を、
一般人発話者の年代ごとに示したものである。
図表 5-4-5.調査1における一般人発話者別の感情が伝わった割合
ここで注目したいのが、最も高い割合で伝えることができた発話者である 40 歳代の女性 である。他の発話者と比較しても、その差は有意であった5。
この発話者についてプロフィールを確認したところ、保育士をしている 40 歳代の女性であ った。日頃から、子どもたち一人ひとりに目線を合わせ、それぞれの状況に合わせた声か けを心がけており、情感豊かに本の読み聞かせを行っていることが事実として確認された。
職業柄、常に声に感情を込めて話すことを実践していることによって、声によるノンバー バル要素を表出するスキルが自然に身についたものと推察される。日々の心がけだけでも、
声をコントロールできるようになり、正しく感情を伝えられるようになる見本といえる。
次に調査 2 の結果を示した図表 5-4-6 では、大人は「好きな人に向かって」発信した「愛 してる」と「嫌いな人に向かって」発信した「あなたが大嫌いです」との間にほとんど差 はなかった。
しかしながら、小学生では「嫌いな人に向かって」発信した「あなたが大嫌いです」の 方が高い割合で伝わった。図表 5-4-4 から読み取れたノンバーバル要素、悲しい体験をし ていることと併行して嫌いな人が実際に存在するのではないかと考えられる。
64.3
46.5
32.5
20.5
34.5
41.2
72.2
44.4
34.8
19.6
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10代女性 10代男性 20代女性 20代男性 30代女性 30代男性 40代女性 40代男性 50代女性 50代男性
伝わった割合[%]発話した感情伝達の割合
%
91
図表 5-4-6.調査 2 における「好きな人に」「嫌いな人に」の感情が正しく伝わった割合
「好きな人に向かって」発話した「愛してる」の場合と、「嫌いな人に向かって」発話し た「あなたが大嫌いです」の場合に、感情の込め方に差異があるかを検定した。有意差水 準 1%で片側・両側共に P と大人には有意差はなかった。しかし、小学生に限っては片側・
両側 1%では有意差はないが、片側・両側 5%では有意差がみられた。
小学生は「好きな人に向かって」発話した「愛してる」の感情伝達よりも、「嫌いな人に 向かって」発話した「あなたが大嫌いです」の感情伝達の方が伝えられることが示された。
本実験では、想いの段階を明確にするところまで至ることができなかったが、この結果か ら、想いが成長段階の小学生においては、嫌いな人に対して正直に「あなたが大嫌いです」
と表現する方が、好きな人に向かって「愛してる」という使い慣れない言葉を表すよりも 正確に感情を表出することができたと考えられる。
また、図表 5-4-7 は、調査 2 の結果を、バーバルとノンバーバルが一致している場合と バーバルとノンバーバルが一致していない場合とに分けて集計したものである。
%
74.1
59.6
43.4 65.8
29.2 30.0
67.5
38.2
42.4 91.9
56.7
76.0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
声優 大人 小学生
伝わった割合[%]
好きな人に 愛してる 好きな人に 大嫌い 嫌いな人に 愛してる 嫌いな人に 大嫌い
発信した感情が正確に伝わった割合
P
*P<.05% **
P
<.01%**
**
*
92
83.0
58.2 59.7
66.7
33.7 36.2
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
声優 大人 小学生
伝わった割合[%]
バーバル・ノンバーバル一致 バーバル・ノンバーバル不一致
*
図表 5-4-7.調査 2 におけるバーバル・ノンバーバルの一致・不一致別の感情が伝わった割合
調査 2 におけるバーバル・ノンバーバルの一致・不一致別の感情が伝わった割合を検定す ると、P は両側 0.1%で有意差は見られないが、大人は両側 0.5%で有意差が見られ、小学生 は両側 0.1%で有意差が見られた。この結果から、すべての発話者において、一致している場 合の方が高い割合で伝わったことが示されている。バーバルとは反対の感情をノンバーバル で表現することの難しさが伺われる。このことは、特にバーバルとノンバーバルとが矛盾し ているメッセージを伝えようとする場合に、一般人発話者ではノンバーバルによる感情表出 が十分できていない(無感情に近い)ため、評価者にはバーバルによるメッセージがより強 く伝わってしまった、ということを示していると考えられる。
しかしながら、長い人生経験を積み、想いが育っていると考えられる大人よりも、有意差 を見ると、小学生の方が正確に感情を表していることがわかる。図表 5-4-6 に示した、小学 生が嫌いな対象に向かって、まっすぐに嫌いだという想いを表すことができることが原因で あると考えられる。日常における自然な状態だからこそ表現できたといえるのではないだろ うか。
これらの結果から、声の持つノンバーバルの要素によって感情を正確に相手に伝えるため には、日頃から声に感情を込めて話すことを意識的に実践すること、さらには、声による 表現方法の訓練を受けることが重要であると考えられる。
**
発話した感情が正確に伝わった割合
%
P
*P<.05% **
P
<.01%93 4 小括
本章では、三段階による実態調査の結果の詳細を明らかにし、分析を行った。第一段階の 声に対するアンケート調査では、自己の声に対するノンバーバル要素の活用が意識的に行わ れていないことが示され、声のノンバーバル要素のコントロールによって想いを伝達するた めの能力向上の十分な幅が存在することが明らかに示された。
第二段階の声音収集によるサンプリング調査では、P と一般の人が発話した声のノンバー バル要素を波形にし、比較分析を行った。その結果、声のノンバーバル要素をコントロー ルするスキルを有している P と有していない一般の人の音声波形には著しい相違があるこ とが明らかに示された。具体的には、特に声のリズム、テンポ等超分析素性を示すピッチ について、P の場合にはすべての指示にあったノンバーバル要素の活用が見られたのに対し、
一般の人の場合にはノンバーバル要素の変化のない波形が示された。スペクトルも同様で あり、P の場合には指示ごとに異なるノンバーバル要素の区別が周波数に示されるが、一般 の人の場合には読み取ることができない結果が示され、一般の人には声のノンバーバル要 素をコントロールするスキルが育成されていないことが論証された。
第三段階の声のヒアリング調査では、P の声は 114 名の評価者に、いずれの感情表現にお いても高い確率で伝わったのに対し、一般の人の声に表出された想いの伝達は、すべての 感情において 50%前後しか伝わらなかった。有意水準 1%で P と一般の大人、P と一般の小 学生の間でも有意差がみられた。さらに、バーバルとノンバーバルの意味が一致している 場合と不一致の場合において、有意水準 1%で P の場合には両者に有意差は見みられないが、
一般の人の場合にみられることが明らかに示されたことから、一般の人の場合にはバーバ ルによるメッセージが強く伝達されていることが示された。以上の分析結果から、P は訓練 を経て獲得したスキルによって、声のノンバーバル要素をコントロールし、意図する想い を正確に伝達することができるのに対し、訓練を積んでいない一般の人は、相手に正確に 伝わる感情表出が十分にできていないという実態が示された。すなわち、一般の人は声の ノンバーバル要素を機能させてコミュニケーションを行っていないということが明確とな った。特に第三段階の声のヒアリング調査の結果分析において、スキルを具備する P の声 からは正確に想いが伝わることが実証され、仮説「スキルを具備する声は想いを伝達する」
は検証された。
会話は最も基本的なコミュニケーション手段であり、声は不可欠である。現代社会が抱 えるコミュニケーション不全に起因する問題を改善するためには、声が持つノンバーバル 要素の重要性を見直し、普段から意識的に声のノンバーバル要素をコントロールする努力 をすることが必要である。さらには、声のノンバーバル要素の活用で想いを伝えるように なるためには、声を使ったノンバーバル要素を表現するスキル養成の訓練をする必要があ ると考える。一般的にこうした訓練は、P や役者、歌手といった職業の人、あるいはそれら を目指している人たちが受けるものと思われている。しかし、その訓練内容は、表現した いことに応じた息のコントロールや、気持ちを正確に表せるようにするための自己解放な
94 ど、表現することに必要な知識や、技術、心構えなどが含まれている。これらの訓練は、
コミュニケーション不全の改善に大いに役立つものと考えられる。
そこで、終章では本論文の総括と課題をまとめ、一般の人たちが気軽に取り組むことが できる、声のノンバーバル要素による感情伝達のための具体的な訓練方法を検討する。
95 第 5 章 脚注
1 アンケートは付録に添付する。
2 その他のデータは資料として CD に添付する。
3 それ以外の波形データは付録に添付する。
4 その他のデータは付録に添付する。
5 有意差検定の詳細は付録に添付する