【課程内】
博士(スポーツ科学)学位論文
柔軟性に影響を及ぼす因子とその可塑性
Contributing factors to flexibility and their plasticity.
2009 年 1 月
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科
加藤 えみか Kato, Emika
研究指導教員: 川上 泰雄 教授
第1章 緒論
1-1. 序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-2. 用語の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1-3. 研究小史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1-4. これまでの先行研究における問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1-5. 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1-6.本研究の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第2章:柔軟性に影響を及ぼす因子と性差
第1節 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第2節 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 第3節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 第4節 論議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 第5節 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第3章:柔軟性に影響を及ぼす因子に対するストレッチングの急性効果
第1節 ストレッチングが柔軟性,組織の伸長性,筋力に及ぼす急性効果
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 2.方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 3.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 4.論議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 第2節 ストレッチングの時間が柔軟性,組織の伸長性,筋力に及ぼす急性効果
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 2.方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 3.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 4.論議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 5.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
第4章:柔軟性に影響を及ぼす因子に対する長期的な可塑性
第1節 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 第2節 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 第3節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 第4節 論議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 第5節 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
第5章:総括論議
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
文献一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
【第1章 緒論】
1-1. 序
柔軟性を意味するflexibilityはラテン語の“flectere”や“flexibilis”という“曲がること”を意味する言葉に由来する.こ れまでに柔軟性は“身体の関節の可動範囲内で身体運動を円滑に,しかも広範囲に動かすことのできる性能のこと”
と定義されている(Alter 1996; Harris 1969; Hortobagyi et al. 1985; 栗山ら1986; ノリス1999; 大山1970; Roberts et al.
1999; 高田1990; Taylor et al. 1990; Wilson et al. 1991).体力測定における柔軟性の定量方法として,立位体前屈や長 座体前屈がある.これらの測定方法は検者に特別な技術を要求しないため,多くの被検者を対象とする際に活用で きる,という利点がある.また,立位体前屈や長座体前屈には身体を構成する多くの関節が関与するために,それ らの測定値は全身の柔軟性の指標として用いられてきた(大山1970).しかし,リハビリテーションなどで,特定 の関節における傷害からの回復過程の定量や,スポーツ選手などを対象として特定の関節の柔軟性を評価する際に は,長座体前屈のような全身の柔軟性を対象とする方法では不充分であることも指摘されてきた(Herman et al. 2008;
小林ら1997).そこで,関節ごとに柔軟性を定量するものとして,関節可動域(range of motion: ROM)を通じた評 価が広く行われるようになった(Corbin et al. 1984; Rietman et al. 2006).しかし,ROMを通じて柔軟性を定量する 際に,ROMに影響を及ぼす因子については,これまでに明らかにされてこなかった.
一般的に女性は男性より柔軟性が高いことが知られている(Grimston et al. 1993; Nigg et al. 1992; Riemann et al.
2001).また,柔軟性は急性効果および長期的な可塑性を有することも多く報告されている(Gajdosik et al. 2005, 2007;
Guissard et al. 2004; Herman et al. 2008; Kubo et al. 2001b, 2002b; Magnusson et al. 1996a; Toft et al. 1989).運動時の柔軟 性を向上させるために,運動前のウォームアップとしてストレッチングは頻繁に行われており,ストレッチングの 効果について,多くの報告がある(Anderson et al. 1991; Church et al. 2001; Cramer et al. 2004; de Weijer 2003; Girouard and Hurley 1995; Gleim and McHugh 1997; Knight et al. 2001; Knudson et al. 2001; Koch et al. 2003; Magnusson et al. 2000a;
McCarthy et al. 1997; Rosenbaum and Hennig 1995; Spernoga et al. 2001; Stewart IB et al. 1998; Stewart D et al. 2003; Young
and Behm. 2003; Young et al. 2006).また,ストレッチングを日常的に長期間行うことで,柔軟性の向上が示されて
いる(Gajdosik et al. 2005, 2007; Guissard et al. 2004; Kubo et al. 2002a, b, 2003; Toft et al. 1989).ストレッチングは受 動的または能動的に関節を動かすことで,関節を構成する組織の伸長性を高めて柔軟性を向上させる(Harvey et al.
2002; Magnusson et al. 1996b; McNair et al. 2001, 2002).
このように,柔軟性の性差や,ストレッチングによる急性効果および長期的な可塑性について多くの報告が存在 し,組織の伸長性が大きな影響を及ぼすと考えられている.しかし,組織の伸長性はその重要性が報告されている
ものの,測定方法の限界などから,これまでにほとんど定量されてこなかった.そのため,組織の伸長性が柔軟性 に及ぼす影響については不明な点が多い.本研究では柔軟性をROMにより評価し,それにより,柔軟性に影響を及 ぼす因子として,組織の伸長性を中心に柔軟性の性差と,ストレッチングが柔軟性に及ぼす急性効果や長期的な可 塑性を明らかにすることを目的とした.
1-2. 用語の定義
柔軟性:柔軟性は身体の関節の可動性により,身体運動を円滑にかつ,広範囲に行える体力要素であると定義され ている(Alter 1996; ノリス1999).柔軟性は静的なものと動的なものとが存在する(The American Orthopedic Society for Sports Medicine 1998).静的な柔軟性はROMなどで示され,関節が一定条件のもとで可動する角度で表される.ま た,動的な柔軟性はROMのように,ある一点で示されるものではなく,スティフネス(以下に記述)のように関節 や組織への外力と関節の可動範囲,または組織への外力と組織の伸長との関係によって表される(Litsky and Spector
1994).本研究では,ROMで定量できる指標について柔軟性という用語を用いた.
関節可動域(range of motion: ROM):関節可動域は,解剖学的に方向が定められており,各関節の可動範囲を示す.
角度計を用いた臨床用の試験では関節の弛緩性や筋のタイトネスを定量するために用いられており,正常な可動範 囲の角度が定められている.また,能動的なものと受動的なものとに分けられる.能動的なROMは自らの筋力によ り関節を動かすことのできる範囲であり,受動的なROMは外力により関節が動かされる範囲である.本研究では足 関節背屈角度について,足関節が解剖学的正位(0度)から可動する範囲についてROMという言葉を用いた.
スティフネス:スティフネスは,単位当たりの長さ変化に必要な力の大きさである(逆数はコンプライアンス).
力—長さ関係の傾きで表されることが多く,この傾きが急峻であるような組織(骨など)は高いスティフネスを持 つと評価され,低いスティフネスを持つ組織と比較すると同一の力に対して変形が少ない.力の増加により,変形 も増加し,その程度は物質に依存する.本研究では,主に腱組織のスティフネスを扱う.腱組織のスティフネスは 筋力を発揮した際に生じる腱張力と,その腱張力により伸長された腱組織の伸長との関係における傾きを示す(Kubo et al. 2001c, Fig. 1-1).
筋伸長:本研究では,川上ら(2003),Morse et al. (2008) に倣い,Bモード超音波法で測定した筋腱移行部の遠位 への変位により,筋伸長とした.なお,本研究では,筋束の長さ変化を二次元平面において定量したことから,「伸 展(のび広がること.また,のび広げること)」ではなく,「伸長(のびること.また,のばすこと)」という表記
たものを用いた(Morse et al. 2008, Fig. 1-2).
ヒステリシス:粘弾性を有する組織を伸長する際に,負荷を与えることによる伸長局面で描かれる曲線と,その組 織が元の長さに戻る際に描かれる曲線とで囲まれる面積が生じる(Fig. 1-3 B).この面積は失われたエネルギー(主 に熱に変換される)を示す.ヒステリシスは.この面積(Fig. 1-3 B)と,伸長局面で描かれる曲線下の面積(Fig. 1-3 A)との比で表される(Kubo et al. 2001b).組織が伸長された後に,元に戻ろうとする際に描かれる曲線の下の面 積は再利用される弾性エネルギーである.このことから,ヒステリシスは反動を用いるような動作(伸張—短縮サ イクルを含むような動作)において,反動の効果と密接に関連する(Kubo et al. 1999, 2000).
1-3. 研究小史
第1節 身体運動にみる柔軟性の役割
これまでに能動的および受動的な柔軟性のどちらも,それぞれの役割についてその重要性が報告されている.柔 軟性を行動体力という側面から捉えた場合,筋力を関節の動作範囲で充分に発揮するためには,自ら筋力を発揮し,
能動的に関節を動かす範囲の柔軟性を向上させる必要があると考えられる(栗山ら1986; 山本1995).また,外力に より関節の動かされる範囲である受動的な柔軟性を向上させることで,傷害の予防につながることも知られている
(Bixler and Jones 1992; Ekstrand et al. 1983; Witvrouw et al. 2001, 2003).Wiesler et al.(1996)は,ダンスを専攻する 学生を対象として,下肢の既往歴と足関節のROMとについて検討している.その結果によると,捻挫などの既往歴 のある者は足関節背屈ROMが有意に小さい.これまでに,柔軟性が高すぎても傷害の発生リスクが高まることから
(山本1996),ダンサーのように一般人と比較して柔軟性が高い(Hamilton et al. 1992)集団では,足関節の柔軟性 が高すぎると傷害の発生リスクが増加すると予想されていた.しかし,Wiesler et al.(1996)は,得られた結果から ダンスのように足関節の大きなROMを要求される動作では,柔軟性の高さが傷害の発生を抑制すると考察している.
傷害によりROMが狭まることも考えられるため,Wiesler et al.(1996)の結果の解釈には注意が必要である.しか し,このことは柔軟性と傷害の発生について,実施する動作に応じた最適な柔軟性が存在する可能性を示すもので ある.これらの報告から,能動的な足関節背屈ROMは行動体力としての位置づけのみならず足部の傷害とも関連す ることが示唆される.
高齢者では,能動的な足関節の背屈ROMの減少により歩行中の転倒リスクが増加することが報告されている
(Gehlsen and Whaley 1990;田井中ら2007).Gehlsen and Whaley(1990)は高齢者における転倒経験の有無と柔軟 性との関係を検討し,転倒経験のある高齢者は股関節屈曲ROMと足関節背屈ROMが有意に小さいことを報告して いる.また,Rodacki et al.(2008)はストレッチングセッション後の急性効果として,高齢者の歩行動作に1回のス
トレッチングが及ぼす影響を検討した.その結果,ストレッチング後にStep lengthの有意な増加がみられ,それに 伴い歩行速度も有意に向上した(6.6%).動作については,歩行周期での両脚支持期が有意に減少し,遊脚期が増 加した.これらの結果から,Rodacki et al.(2008)は高齢者ではストレッチングにより一時的にバランス能力が改 善されたと考察している.この結果は,日常的にストレッチングを実施することで,転倒リスクを減少させる可能 性を示すものである.
第2節 柔軟性の定量
柔軟性を評価するために多くの測定方法がある.ROMのように「角度」で評価する方法,長座体前屈や立位体前 屈のように「長さ」で評価する方法,弛緩評価のように「できる,できない」や「段階評価(Loose, Normal, Tight)」 で評価する方法が,スポーツ現場でのフィールドテストや臨床評価では主に用いられている.これらのように,複 数の評価方法が存在することは,いずれの測定方法も長所と短所を有しており,柔軟性を定量するために決定的な 測定方法が存在しないこと,また,目的に応じた測定方法の選択が必要であることを示唆する.
柔軟性を扱う研究で多く報告されているように,ゴニオメータによるROMでの測定は,高い再現性を有する
(Bandy et al. 1994, 1997; Condon and Hutton 1987; Cornelius et al. 1992, 1995; Gajdosik et al. 1999; Grimston et al. 1993;
Halar et al. 1978; Johanson et al. 2008; McHugh et al. 1998; Moller et al. 1985; Osternig et al. 1987; Ronsky et al. 1995;
Wiktorsson-Moller et al. 1983; Youdas et al. 2003).しかし,欠点として測定方法によっては時間がかかること,機材 や検者の測定技術などの制限を受けることがあげられる.長座体前屈などの測定方法は簡便であり,脊椎および全 身の柔軟性を評価するものとして妥当である(Jackson and Baker 1986; Kippers and Parker 1987).しかし,体格が結 果に大きく影響することや個々の関節の評価が行えないことが柔軟性の評価の欠点として指摘されている(Brore
and Galles 1958; 大山1970).また,弛緩評価や段階評価は臨床では多く用いられている.しかし,問題点として最
終的な関節ROMでしか評価ができないことや体格の影響を受ける項目が存在すること,その測定方法の多くが多関 節により達成されるものであるため,関節を個別に評価することが困難であることなどがあげられる.
第3節 能動的および受動的な柔軟性について
柔軟性には多くの因子が影響することが知られている(Alter 1996; ノリス1999).その因子として解剖学的な骨 格配列(アライメント),組織の伸長性,皮下組織(脂肪など)の量,筋力,神経系の制御,伸長される組織にお ける痛覚受容器の耐性などがあげられる.その中で,能動的および受動的のどちらの柔軟性に対しても,関節をま たぐ筋腱複合体の伸長性が大きな役割を果たす(Alter 1996; Gajdosik et al. 1999).また,能動的に関節を動かすた
組織の伸長性
柔軟性に影響を及ぼす組織の伸長性について,本研究では筋腱複合体(muscle tendon unit: MTU)が筋組織と腱 組織で構成されているとした.足関節の柔軟性は主として下腿三頭筋の伸長性によって決定されるという報告
(Gajdosik et al. 1996)や,柔軟性は骨格の解剖学的形状や皮膚,靭帯,関節包,MTUのスティフネスが大きな影響 を及ぼすという報告があるように(Alter 1996; McHugh et al. 1999; ノリス1999),筋や他の組織の伸長性は柔軟性を 制限する要因の一つである.受動的な柔軟性の性差と伸長される組織の量について,Blackburn et al.(2004)は,
膝関節伸展筋群の伸長性に性差がみられたことを報告している.しかし,この指標は体格などの形態で正規化する と有意差がみられなかったことから,伸長性の性差は単に体格の差に起因することを示している.同様に,受動的 な足関節背屈ROMには伸長される筋群の多寡が影響し,女性は男性と比較して筋量が少ないため受動的に伸長され やすい,という報告もある(川上ら2003; 小田ら2002).
一方,腱組織は粘弾性を有するため,腱組織は,クリープ(creep),ヒステリシス(hysteresis)などの現象を示 し(Butler et al.1978; Fung 1967; Ker 1981; Partington and Wood 1963; Rigby et al. 1959; Shadwick 1992; Viidik 1973),こ れらの腱組織の粘弾性が柔軟性に影響を及ぼすことが報告されている(Kubo et al. 2001a, b, 2003).腓腹筋内側頭の アキレス腱の粘弾性の性差について検証した研究(Kubo et al. 2003)の結果によると,女性は男性と比較してアキ レス腱のスティフネスとヒステリシスが有意に低いことが示され,腱の力学的特性に性差がみられたことを報告し ている.しかし,小田ら(2002)は,腱の断面積と足関節背屈ROMに性差がみられたものの,両者の間に相関関係 はみられなかったことから,腱の形態的な性差が足関節のROMの性差には影響を及ぼさないことを報告している.
筋力
随意で関節を動かす能動的な柔軟性の場合,主働筋の筋力が充分でなければ,関節運動を行える範囲は受動的な 柔軟性よりも小さくなる(大山1970; 高田1990).そのため,筋力も柔軟性に影響する因子の1つであることが示さ れている.これに関連して,加齢による筋萎縮や不活動による筋萎縮が能動的な柔軟性を低下させることが指摘さ れている(Alter 1996).中高齢者の足関節のROMについて受動的に足関節が背屈される場合は,伸長される筋量に より足関節の最大背屈ROMが決定されるものの,能動的なROMは筋力にも関係する(川上ら2003).また,Nigg et al.
(1992)は,一般的に足関節のROMは若齢者では女性は男性と比較して大きいものの,高齢者では性差がないこと を報告している.また,同報告によると女性は足関節底屈のROMは男性よりも8度大きいものの,足関節背屈のROM は8度小さい.これらの足関節底屈と足関節背屈に関する報告を考慮に入れると,同一の関節であっても,可動す る方向(底屈または背屈)により性差や加齢で及ぼされる影響が異なることが示唆される.
また,9歳から14歳までの子供の柔軟性を長座体前屈で測定した報告では,成長の差が成績に影響すると述べて いる(Blimkie 1989; Branta et al. 1984; 大山1970;Ostyn et al. 1980; Sallis et al. 1990; Simons et al. 1990).Malina and Bouchard(1991)は,身長の増加による体肢長の増加に加えて,筋力が著しく増加する時期は女子で11.6 ± 2.0歳,
男子で15.3 ± 1.2歳であることを報告している.このことは,関節を充分に動かせるだけの筋力の増加がみられる年 齢の差が,柔軟性の差に影響を及ぼす可能性を示唆する.例えば,9-12歳では,女子は男子よりも多くの関節にお けるROMで高値を示す.この年齢では筋力においても女子の方が男子よりも高値を示すことから,筋力が影響を及 ぼす能動的なROMが大きいと考えられている(大山1970).能動的な足関節背屈ROMについて,男子の筋力が向上 する時期以降とされる14-16歳,17-20歳において,男子が女子を上回ることから(Grimston et al. 1993),筋力の増 加が能動的な柔軟性の向上に影響を及ぼす可能性を支持する.以上のことから,受動的な柔軟性は筋力と関係しな いという報告が多いが,能動的な柔軟性には筋力が影響を及ぼすものと考えられる.
その他の因子
筋を伸長させる際には,その速度や強度により,伸張反射や痛覚受容器の応答などの要素も影響することから,
関節角度変化(≒筋長変化と仮定)に対する神経系の制御について検討したものも多い(Guissard and Duchateau 2006).
また,年齢と柔軟性との関係について,Gajdosik et al.(1999)は,24名の若年女性,24名の中年女性,33名の高 齢女性を対象に,足関節の受動背屈を行った.そこで得られた受動トルク̶受動的な関節角度関係に示される曲線 は同じ形であり,一定の受動トルクに対する足関節角度には有意な年齢差がみられなかったことを示している.ま た,同報告において,足関節背屈ROMや受動トルクは年齢と負の相関関係があり,若年群で最終的な足関節背屈ROM および受動トルクの値が最も大きく,高齢群が最も小さかった.この結果についてGajdosik et al.(1999)は,同じ 受動トルクであっても,組織の伸長に対する痛覚受容器の閾値が高齢群は低く,若年群は高いためであると考察し ている.同様に,成人男性を対象としたMagnusson et al.(1996a)も,ROMの個人差は組織の伸長に対する痛覚受 容器の閾値の個人差に関連することを考察している.
第4節 ストレッチングの急性効果
柔軟性が他の体力要素と異なる点は,急性効果を持つことである.また,柔軟性はストレッチングにより向上す ることが知られている.ストレッチングはリハビリテーションなどの臨床やスポーツの現場で頻繁に行われ,ROM の増加や一定の関節角度に対する受動トルクの低下を通してパフォーマンスの向上および傷害の予防などを目的に している.ストレッチングが柔軟性に及ぼす急性効果について,Table. 1-1にまとめた.
受動張力や受動トルクの低下について,Gleim and McHugh(1997)は筋など組織の引張り応力に対する粘弾性応 答の変化によるものであると述べている.ストレッチングの急性効果に関する報告ではストレッチングの時間が長 い方がROMや受動トルク(受動張力)に対する効果は大きいことが示されている.しかし,McNair et al.(2001)
の低下は,組織の伸長性が一過性に向上することでROMを増加させることを示す.
ストレッチングが柔軟性以外に及ぼす影響に関する報告として,発揮筋力や跳躍高などのパフォーマンスに関す るものがある(Avela et al. 1999, 2004; Behm et al. 2001,2004; Fowles et al. 2000; Kokkonen et al. 1998, 2007; Nelson et al.
2001b; Ryan et al. 2008; Young et al. 2001).これらの報告では,ストレッチング後に筋力や跳躍高の低下を多く報告 している.ストレッチング後にみられる筋力の低下にはストレッチングの時間が影響し,30-480 秒間程度であれ ば,ストレッチング後の筋力は有意に低下しない(Avela et al. 1999; Behm et al. 2004; Egan et al. 2006; Muir et al. 1999). しかし,ストレッチングの時間がそれ以上になると,筋力の有意な低下が報告されている(Fowes et al. 2000; Kokkonen et al. 1998; Ryan et al. 2008).
Fowles et al.(2000)は耐えうる最大の負荷での反復的なストレッチングを行った後の筋力を評価するために,受 動的な足関節背屈を30分間(135秒間を13回反復)行った.最大筋力を発揮している際のvoluntary activation(VA)
を,単収縮挿入法と表面筋電図法を用いて確認した上で,ストレッチングの直前,直後,5, 15, 30, 45, 60分後に筋 力を測定した.その結果によると,筋力はストレッチング前と比較するとストレッチングの直後には28%の低下が みられ,5分後には21%の低下がみられた.同様に,筋力は15分後には13%,30分後には12%,45分後には10%,60 分後には9%と有意に低下しており,ストレッチング後60分が経過しても回復しなかった.一方,運動単位のactivation および筋放電は,ストレッチングで有意に低下したものの,15分後には回復していた.筋力に反映される筋のforce generation capacityについて,activationが15分後には回復していたにもかかわらず,筋力は60分後でも回復せず,同 様に筋のスティフネスもストレッチング終了60分後では回復していなかった.Fowles et al. (2000) は,この結果に ついて,筋力はactivationとは異なる回復過程をとり,スティフネスの回復と関係すると考察している.ストレッチ ング後にみられる筋力の低下には,筋のスティフネスの低下と筋のactivationの低下が要因としてあげられており
(Behm et al. 2001; Kokkonen et al. 1998; Rosenbaum and Henning 1995),その回復過程が異なることを明らかにした という意味で,この知見は非常に意義深いものである.しかし,Fowles et al. (2000) の報告が用いたストレッチン グは30分間であり,ストレッチングを用いた他の報告よりも長い時間で行われている(McNair et al. 2001: 15-60 秒 間, Behm et al. 2004: 45 秒間, Ryan et al. 2008: 2-8 分間など).スポーツの現場におけるストレッチングの実施という 観点から考えると,これらの報告で用いられた時間でストレッチングを行った際に,筋力,筋のスティフネス,筋 のactivationが及ぼされる影響を明らかにするべきであろう.
第5節 ストレッチングの長期的な可塑性
柔軟性にはストレッチングによる急性効果がみられるのと同様に,一定の期間ストレッチングを継続することに より長期的な可塑性も報告されている.それらをTable. 1-2にまとめた.
Toft et al.(1989)は,底屈筋群のストレッチングを3週間継続した結果,特定の関節角度における受動トルクが
低下したことを報告している.一方,Gajdosik et al.(2005,2007)は,底屈筋群を対象としたストレッチングを定 期的に行うことで受動的な足関節背屈ROMは増加するものの,受動トルク̶足関節角度関係は変化しないことを示 している.
ストレッチングの時間と柔軟性に対する長期的な可塑性について,Roberts et al.(1999)は,下肢の能動的およ び受動的なROMに対して,異なるストレッチング時間での効果を検討している.その結果,受動的なROMに差は みられなかったが,能動的なROMではストレッチング時間が長い方が有意に大きいことを示した.同様に,高齢者
(65歳以上)を対象として,ハムストリングのストレッチングを1週間に5日,10週間に渡りそれぞれ15,30,60秒 間行った報告(Feland et al. 2001)によると,60秒間のストレッチングでROMが最も大きく増加し,ストレッチン グを実施しなくなった後も15秒間および30秒間のストレッチングと比較して,長くその効果が維持されている.ス トレッチングの時間に関連した報告で,Bandy and Irion(1994)は,15秒間のストレッチングでは膝関節伸展ROM には影響しないこと,30秒間以上のストレッチングであればその効果は変わらないことを指摘している.同様に,
Borms et al.(1987)は股関節のROMに対するストレッチング時間(10,20,30秒間)について比較し,10秒間で充 分な効果が得られたことを示している.一方,Youdas et al.(2003)は,足関節背屈ROMについて時間を変えたス トレッチングを6週間継続させた結果として,ストレッチングを行った時間に関わらず,ストレッチングのみでは 能動的な足関節背屈ROMが有意に変化しなかったことを報告している.これらの報告は,縦断的に足関節のROM を評価する際に能動的なROMと受動的なROMでは,影響を及ぼす因子が異なることを示唆する.
1-4. これまでの先行研究における問題点
これまでの先行研究では,柔軟性の性差やストレッチングによる可塑性について報告されてきた(Gajdosik et al.
2005, 2007; Guissard et al. 2004; Magnusson et al. 1996a, b, 1998; Nigg et al. 1992; 小田ら2002; Toft et al. 1989).しかし,
これらの報告では関節角度変化が筋長変化を反映すると仮定し,ストレッチングによるROMの増加は筋伸長の増加 によるものであるとされてきた(de Weijer et al. 2003).しかし,筋は腱組織を介して関節に接合するため,関節角 度変化が筋長変化のみを反映しているとは考えにくい.これまでは組織の伸長を実測できなかったため,特に組織 の伸長性に対するストレッチングの影響については不明な点が多かった.Kubo et al. (2001b, 2003) は,超音波法を 用いてアキレス腱のスティフネスの変化と足関節の柔軟性への急性効果を定量した.この方法により,ストレッチ ングが組織の伸長性に及ぼす影響を実測することが可能になった.しかし,この報告では,足関節の柔軟性とアキ レス腱の粘弾性の変化との関連は明らかにされていない.さらに,腱のスティフネスの測定方法として,Kubo et al.
(2001b, 2003) は,底屈トルクを最大努力で発揮させた際の腱のスティフネスを測定し,発揮された筋力と腱伸長の
関係からスティフネスを算出している.一方,これまでに報告されている柔軟性に関する研究は,関節を受動的に 動かす試行により,関節角度変化と受動トルク変化の関係を通じてスティフネスを定量しているものが多い.足関 節底屈筋群の最大筋力を発揮している際のアキレス腱のストレインは5.5 ± 1.3 %である(Muramatsu et al. 2002).一 方,足関節の受動背屈中のアキレス腱のストレインは最大筋力の20 % 程度の受動トルクで腱組織が伸長されてい る際に,9.3 ± 1.9 %から15.1 ± 3.3 %であることが示されている(Kato et al. 2005).これらの報告から,アキレス腱 のストレインは底屈筋群の筋力発揮中と受動的な足関節背屈中とでは,その値が大きく異なる.このため,Kubo et al.
(2001b, 2003) で算出されているアキレス腱のスティフネスが,受動的な関節の柔軟性に対するストレッチングの効
果をどの程度反映するかは不明である.Morse et al. (2008) は超音波法により,ストレッチングの急性効果として筋 のスティフネスが低下し,筋伸長の増加がみられたことを報告している.この報告に基づけば,ストレッチングの 長期的な可塑性として筋束長の増加も予想できる.しかし,これまでにストレッチングの筋束長への長期的な可塑 性をみたものはない.以上ように,柔軟性には組織の伸長性が重要であるとされているにもかかわらず,組織の伸 長性に対するストレッチングの効果には明らかにされていない点が多い.
また,能動的な柔軟性と受動的な柔軟性については,どちらか片方を定量した報告が多く,どちらも評価した報 告や比較検討を行った報告は少ない.いずれも伸長される組織の伸長性が大きく影響するものの(Alter 1996; ノリ ス1999),能動的な柔軟性は筋力も影響を及ぼす(川上ら2003).そのため,能動的な柔軟性と受動的な柔軟性とで は影響される因子がそれぞれ異なることも予想できる.さらに,柔軟性に対するストレッチングの急性効果と長期 的な可塑性について同一の測定方法で定量したものは少なく(Toft et al. 1989),この報告では特定の関節角度にお ける受動トルクの変化を報告している.しかし,柔軟性の変化に影響を及ぼす因子やそのメカニズムに関しては明
らかにされていない.
1-5. 本研究の目的
本研究は,柔軟性をROMにより定量した.まず,柔軟性の性差とそれらに影響を及ぼす因子を明らかにすること を目的とした.次に,ストレッチングにより柔軟性が変化する際に,柔軟性に影響を及ぼす因子がどのように変化 するかを急性効果と長期的な可塑性を通じて明らかにすることを目的とした.
1-6.本研究の構成
本研究では,対象とする関節が足関節のみであるため,柔軟性の評価方法の中でもROMを用いた.本研究は,能 動的および受動的な足関節の柔軟性に影響を及ぼす因子と性差(第2章),柔軟性に影響を及ぼす因子に対するスト レッチングの急性効果(第3章),柔軟性に影響を及ぼす因子に対するストレッチングと筋力トレーニングがもたら す長期的な可塑性(第4章),および総括論議(第5章)から成る.各章の概略は以下の通りである.
第2章:柔軟性に影響を及ぼす因子と性差
能動的および受動的な足関節の柔軟性に影響を及ぼす因子とその性差について検討を行った.特に今までに明ら かにされてこなかった組織の伸長性が柔軟性に及ぼす影響を中心に,MTUの生体計測を通じて明らかにすることを 目的とした.
第3章:柔軟性に影響を及ぼす因子に対するストレッチングの急性効果
ストレッチングが足関節の柔軟性と組織の伸長性,腱の力学的特性,発揮筋力,およびVAに及ぼす急性効果を 明らかにすることを目的とした.また,足関節のROMと筋力,組織の伸長性にストレッチングの時間が及ぼす影響 についても検討した.
第4章:柔軟性に影響を及ぼす因子に対する長期的な可塑性
6週間のストレッチングと筋力トレーニングを実施し,足関節の能動的および受動的な柔軟性に対する長期的な 可塑性について検討した.また,長期的な可塑性を通じて,能動的および受動的な柔軟性に影響を及ぼす因子の変 化とその関係を明らかにすることを目的とした.
第5章:総括論議
各章で得られた結果に基づき,足関節の柔軟性に影響を及ぼす因子について,組織の伸長性と筋力との関係を中 心に議論する.それを踏まえた上で,ストレッチングにより柔軟性に影響を及ぼす因子にみられる急性効果と長期 的な可塑性を論じる.
Fig.1-1 The calculation of stiffness.
The relationship between muscle force (Fm) and tendon elongation (L).
Values are means ± SD.
The Fm and L values above 50% of maximal voluntary contraction were fitted to a linear regression equation, the slope of which was adopted as an index of stiffness.
(Modified from Kubo et al. 2001c) 1500
1000
500
0
0 10 20 30 40
Fm (N)
L (mm)
Fig. 1-2
Schematic diagram showing the measurements made to determine the distal displacement of the muscle tendon junction (MTJ) and to estimate changes in tendon length during dorsiflexion and stretch of the whole gastrocnemius medialis muscle tendon unit (MTU).
The position of the MTJ (vertical arrow) was identified by ultrasound and the movement of this was related to a reflective surface marker, the position of which is identified by the vertical dotted line. Change in total MTU length was estimated from the change in ankle angle.
(Morse et al. 2008)
Fig.1-3 The calculation of hysteresis.
Hysteresis (%) = (area B / area A)x100
The relationship between TQ and tendon elongation during the ascending and descending phases of force development produced a loop.
In the present study, the area of each of the curves under both the ascending and descending phases was calculated.
Then the ratio of the area within the TQ - tendon elongation loop (elastic energy dissipated) to the area beneath the curve during ascending phase (elastic energy input) was calculated as an index of hysteresis.
(Kubo et al. 2001b)
A 0
20 40 60 80 100
0 10 20
Tendon elongation (mm) TQ (% MVC)
0 20 40 60 80 100
0 10 20
Tendon elongation (mm) TQ (% MVC)
B
ascending ascending
descending descending
Author (s) Year Duration Effect (s) Wiktorsson-Moller et al. 1983 (8 sec x 6) x 6 muscle group DF angle ↑, PF TQ did not change.
Toft et al. 1989 8 sec x 5 Passive TQ 18% ↓
Rosenbaum and Henning 1995 static stretching (3 min) peak force↓(5%), RTD↓(8%), EMG↓(gas: 16%, sol:17%) 90 sec x 1
10 cyclic stretching
Avela et al. 1999 1 hour x 1 PF MVC 23.2% ↓
Fowles et al. 2000 135 sec x 13 DF angle ↑(6.5 deg), PF TQ ↓(28%)
Behm et al. 2001 20 min MVC↓12%, iEMG↓20%, twitch force↓12%
Kubo et al. 2001 10 min x 1 Stiffness and hysteresis ↓, PF TQ did not change.
60 sec x 1 Passive force 19.0% ↓
30 sec x 2 Passive force 21.7% ↓
15 sec 4 Passive force 21.5% ↓
continuous motion Passive force 10.5% ↓
static stretching (1 min) static stretching (2 min) static stretching (4 min) static stretching (2 min) @ 90%
Morse et al. 2008 1 min x 5 DF angle ↑(4.6 1.5 deg)
2 min pasive stretching decreased stiffness, returned 10 min after the end of stretching 4 min pasive stretching
8 min pasive stretching 1 h, repeated stretching
45 sec x 3
MVC↓14%, EMG (gas)↓10%, (sol)↓8%, max twitch force↓17%, downward & rightward shift in TQ-FL curve, VA did not change.
MVC, force match test did not change, blance score↓(9.2%), reaction time↓(5.8%), movement time↓(5.7%)
1998
Avela et al.
Behm et al. 2004
2004
Max ROM and stiffness ↑
decreased stiffness, returned 20 min after the end of stretching
Ryan et al. 2008
Young et al. 2006 Peak force and RTD did not change. 2 and 4 min↓in DJ, ankle ROM did
not change among each group.
McNair et al. 2001
Magnusson et al.
Table 1-1 Studies investigating the acute effects of stretching on flexibility and muscle strength.
Author (s) Year Duration Training period Effect (s)
10 sec x 1 10 sec x 2 20 sec x 1
Toft et al. 1989 8 sec x 5 2 day, 21 days Passive TQ 36% ↓
15 sec x 1 KE ROM did not change
30 sec x 1 60 sec x 1 5 sec x 9 15 sec x 3
15 sec x 4 KE angle↑(0.6 deg)
30 sec x 4 KE angle↑(1.3 deg)
60 sec x 4 KE angle↑(2.4 deg)
Kubo et al. 2002 45 sec x 5 20 days Passive TQ and hysteresis↓
30 sec x 1 1 min x 1 2 min x 1
Guissard et al. 2004 (30 sec x 5) x 4 set 5/wk, 6-week DF angle ↑(7.6±0.5 deg)
Gajdosik et al. 2005 15 sec x 10 3/wk, 8-week DF angle ↑(5.1 deg)
Gajdosik et al. 2007 15 sec x 10 5/wk, 6-week DF angle ↑(7.0±4.0 deg)
improvement in flexibility (18%), standing long jump (2%), vertical jump (7%), 20-m sprint (1%), KF-1RM (15%), KE- 1RM (32%), KF-endurance (30%), KE-endurance (29%) 3/wk, 10-week
40 min 2007
Kokkonen et al.
Active DF ROM did not change. Stretcing duration did not affect.
Passive and active ROM ↑both groups. Increased active ROM: 5 sec<15 sec.
5/wk, 6-week
Youdas et al. 2003 5/wk, 6-week
Roberts et al. 1999
Feland et al. 2001
3/wk, 5-week 5/wk, 6-week
1994 KE ROM ↑, 30 and 60 sec did not differ.
Borms et al. 1987 2 wk, 10-week PF ROM ↑, no time dependent
Bandy and Irion
Table 1-2 Studies investigating the chronic adaptations of stretching on flexibility and physical performance.
【第2章:柔軟性に影響を及ぼす因子と性差】
第1節 はじめに
柔軟性には,体格や年齢,運動習慣などを含めた個人差が存在し,これまでに有意な性差がみられることも報告 されている(Alter 1996; Nigg et al. 1992; ノリス1999; 大山1970).足関節の柔軟性に影響を及ぼす因子には,骨格 の解剖学的な構造,組織の伸長性,筋力,神経系の制御,痛覚受容器の感受性などがある(Alter 1996;ノリス1999). その中でも筋組織と腱組織から成るMTUの伸長性が大きな影響を及ぼす(Gajdosik et al. 1996; McHugh et al. 1999)
ことが知られているものの,組織の伸長性を定量した報告は限られていた(Kubo et al. 2001b).さらに,柔軟性に 対する筋および腱の伸長性を個別に検討したものは非常に少ない(川上ら2003; Morse et al. 2008).組織の伸長性と 柔軟性に関しては,筋のスティフネスが体格や筋量などの形態的な特性に強く影響されるというもの(Blackburn et al.
2004)や,筋量の多寡が伸長性に影響を及ぼすというもの(川上ら2003; 小田ら2002)がある.これらの報告から,
筋量などの形態的な特性が筋の伸長性に影響を及ぼすことが考えられる.また,腱については,腱の断面積や腱長 などの形態的な指標と受動的な足関節の背屈ROMには関係はみられず(小田ら2002),腱の伸長性やスティフネス,
ヒステリシスなどの力学的特性が足関節の柔軟性や,その性差と関係する(川上ら2003; Kubo et al. 2003).男性と 比較して,女性は腱の粘弾性が低値を示すため,(Kubo et al. 2003)柔軟性の性差には腱の力学的特性が影響を及ぼ すことも考えられる.以上から,筋は形態的な特性に影響されるものの,腱は筋と比較すると形態的な特性よりも,
むしろ粘弾性や伸長性などの力学的な特性に影響される可能性がある.
また,柔軟性と筋力との関係について,加齢や不活動による筋萎縮でROMが減少する(Alter 1996)ことや,能 動的な足関節背屈ROMは関節を動かすための筋力が影響を及ぼすことが示されている(川上ら2003).これらの報 告は,関節を可動範囲内で充分に動かすためには,主働筋の筋力が必要であることを示唆する.このように,ROM や組織の力学的特性を通して反映される柔軟性と,それに影響を及ぼす因子について個々に検討した報告は存在す る.しかし,いずれの報告においても,ROMと組織の力学的特性を合わせて検討したものは見あたらない.また,
柔軟性には単一の因子のみが影響を及ぼすのではなく,複数の因子が影響を及ぼしていることが考えられる.そこ で,本研究では足関節の柔軟性とその性差について,影響を及ぼすと予想される因子に関する実験を行った.その 中でも,能動的および受動的な柔軟性と足関節背屈筋群の筋力,伸長される組織の力学的特性との関連を明らかに することを目的とした.
第2節 方法
1)被検者
左右の脚部および足部に既往歴のない,健常な成人男女53名を対象として実験を行った(男性30名,女性23名,
Table. 2-1).実験に先立ち,被検者には実験の主旨や実験方法について充分な説明を行い,書面による同意を得た.
また,実験に際して早稲田大学スポーツ科学学術院研究倫理委員会より承認を得た.
2)実験セッティング
被検者の足関節を筋力計(VINE,Japan)のフットプレートに固定し,フットプレートと足関節の回転中心が一 致するように留意した.足関節角度変化を取得するためにゴニオメータ(SG110/A,Biometrics,UK)を被検者の 足関節外踝をまたいで貼付した.受動背屈中に筋放電がみられないことを確認するため,記録電極(ディスポーザ ブル型電極: Blue Sensor,P-00-S,Ambu A/S,Denmark,Sensor: Ag/AgCl,Measuring Area: 154mm2)を被検者の腓 腹筋内側頭(Gastrocnemius Medialis: MG)外側頭(Gastrocnemius Lateralis: LG),ヒラメ筋(Soleus: Sol),前脛骨筋
(Tibialis Anterior: TA)の筋腹に皮膚抵抗の軽減後,電極間距離20mmで貼付した.なお,各被検筋の電極間の入力 インピーダンスは5kΩ未満であった.接地電極は足関節内踝に記録電極と同一の電極を貼付した.測定中のデータ をA/Dコンバータ(Power Lab/16SP,ADInstruments,Australia)を介して1kHzでパーソナルコンピュータ(iBook G4,
Apple Computer,USA)に経時的に記録した.
3)測定項目・分析方法
(1)受動的な足関節背屈中の足関節ROM,筋伸長,腱伸長
足関節を底屈30度から受動的に毎秒5度で背屈し,受動トルク,足関節角度変化,および筋伸長,腱伸長を取得 した.受動的な足関節背屈では最大筋力の15-20%程度の受動トルクが生じるまで行い,その際の被検者の主観では
「適度なストレッチング感」から「やや突っ張る」を覚える程度であった(川上ら 2003).足関節の受動背屈中に は被検者に受動背屈に抗する動作を行わないよう適宜注意を促した.
超音波診断装置(SSD-6500,ALOKA,Japan)のプローブ(UST-5712,発信周波数10 MHz,ALOKA,Japan)に Water bag(MP-2463,ALOKA,Japan)を装着した後,MGの遠位端とアキレス腱の筋腱移行部(Muscle-Tendon Junction:
MTJ)が撮像できるように被検者の下腿に固定した(川上ら2003; Morse et al. 2008).超音波診断装置と他の機材と
の同期のために,ビデオタイマ(VTG-55,FOR-A,Japan)の外部信号を超音波装置で取得した画像に入るように 設定した.MTJの画像を超音波診断装置と接続したデジタルビデオデッキ(HR-DVS3,Victor,Japan)へ出力し,
30 Hzでデジタルビデオテープに記録した.受動的な足関節背屈中に受動トルクが1 Nmずつ増加したタイミングに
該当する超音波画像を,分析に用いる画像として選択した.MTJの遠位への移動を画像解析ソフトウェア(Image J,
National Institute of Health,USA,downloaded http://rsb.info.nih.gov/nih-image/)により計測し,筋伸長とした(川上 ら2003; Morse et al. 2008).
足関節の受動背屈中の関節角度変化による下腿のMTU長変化には先行研究の式(Grieve et al. 1978)を用いて推 定した.なお,MTU長変化は底屈30度からの角度変化により求めた.
MTU長変化 (mm) = (-22.18468 + 0.30141 × (90 – AJA) -0.00061 × (90 – AJA) 2 + 6.46251) × L / 100
AJA:足関節角度 (deg) L:下腿長 (膝関節膝窩皺から足関節外踝までの直線距離(Abe et al. 1994), mm) 腱伸長はMTU長変化と筋伸長の差とした.
(2)能動的な足関節背屈ROM
被検者の膝関節を固定し,足関節を固定せずに最大努力での足関節背屈を3回実施させた.能動的な足関節背屈 ROMはゴニオメータで取得し,得られた値の中で最大値を採用した.
(3)等尺性足関節最大底屈トルク,等尺性足関節最大背屈トルク
等尺性足関節最大底屈トルクを足関節角度0度(解剖学的正位)で測定した.また,等尺性足関節最大背屈トル クを足関節角度底屈20度で測定した.測定前に被検者にはウォームアップとして最大下の強度でトルク発揮を数回 行わせた.測定は2回ずつ行い,2回の測定値が高値を示した測定値から10%以上隔たっていた場合には,3回目の 測定を行った.測定間および,試行間には2分間以上の休憩を設けるようにしていた.また,足関節を固定したこ とによる痺れや,底屈および背屈トルク発揮にともなう疲労が無いことを適宜確認した.
4)統計処理
すべての測定項目は平均値 ± 標準偏差で表した.能動的な足関節背屈ROM,および受動的な足関節背屈ROMと 関連をもつ項目を抽出するために,能動的な足関節背屈ROM,および受動的な足関節背屈ROMそれぞれを従属変 数とする重回帰分析を行った.受動背屈で得られた筋伸長,腱伸長,等尺性足関節最大底屈トルク,等尺性足関節 最大背屈トルクおよび性別をそれぞれ独立変数とした.性別はダミー変数とした(男性:0,女性:1).独立変数 の投入方法はステップワイズ法とした.また,各測定項目の性差の検定には対応のないStudentのt検定を用いた.
統計処理には,統計解析ソフトウェア(SPSS 12.0J,SPSS Japan, Japan)を用い,危険率5%未満をもって統計的に 有意であると判断した.
第3節 結果
各測定項目の男女別の一覧をTable 2-2に示す.受動的な足関節背屈ROM,等尺性足関節最大底屈トルク,等尺性 足関節最大背屈トルク,および腱伸長には有意な性差がみられた.しかし能動的な足関節背屈ROMと筋伸長には有 意な性差はみられなかった.
Fig. 2-1に能動的な足関節背屈ROMと受動的な足関節背屈ROMとの関係を示す.男性のみの群,女性のみの群,
男女を合わせた群のいずれにおいても両変数間に有意な相関関係はみられなかった.能動的な足関節背屈ROMと等 尺性足関節最大背屈トルクとの関係をFig. 2-2 Aに示す.男性のみの群と男女を合わせた群とにおいて両変数間に有 意な相関関係が得られた(男性のみの群:r=0.44, P=0.02,男女を合わせた群:r=0.28, P=0.04).能動的な足関節背 屈ROMと腱伸長との関係をFig. 2-2 Bに示す.男性のみの群と女性のみの群,男女を合わせた群とで有意な相関関 係が得られた(男性のみの群:r=0.42, P=0.03,女性のみの群:r=0.55, P=0.01,男女を合わせた群:r=0.44, P<0.001). 受動的な足関節背屈ROMと腱伸長との関係をFig. 2-3に示す.男性のみの群と女性のみの群,男女を合わせた群で 有意な相関関係が得られた(男性のみの群:r=0.60, P<0.001,女性のみの群:r=0.74, P<0.001,男女を合わせた群:
r=0.67, P<0.001).
重回帰分析の結果,男女を合わせた群に対して能動的な足関節背屈ROMの説明変数として等尺性最大背屈トルク と腱伸長が選択された.また,受動的な足関節背屈ROMの説明変数として腱伸長が選択された.男性のみの群では 能動的な足関節背屈ROMの説明変数は等尺性最大背屈トルクと腱伸長が選択された.しかし,女性のみの群では能 動的な足関節背屈ROMの説明変数は腱伸長のみが選択された.
第4節 論議
本研究では,能動的な足関節背屈ROMと受動的な足関節背屈ROMとの間に有意な相関関係はみられなかった.
このことは,能動的な足関節背屈ROMと受動的な足関節背屈ROMとで影響を及ぼす因子が異なることを示すもの であると考えられる.この結果に関連して,重回帰分析の結果では,足関節背屈ROMの説明変数として能動的,受 動的ともに腱伸長が選択された.また,等尺性足関節最大背屈トルクは能動的な足関節背屈ROMでは選択されたも のの,受動的な足関節背屈ROMの説明変数として選択されなかった.この結果は,筋活動の有無や筋力に関わらず,
足関節背屈ROMには腱の伸長が影響することを示すものである.また,能動的な柔軟性には主働筋の筋力も必要で あるという報告(川上ら2003)を支持するものである.
また,受動的な足関節背屈ROM,等尺性足関節最大底屈トルクおよび等尺性足関節最大背屈トルク,腱伸長には
有意な性差がみられた.能動的な足関節背屈ROMの説明変数を男女別に検討したところ,男性では腱伸長と等尺性 足関節最大背屈トルクが選択された.一方,女性では腱伸長のみが選択された.受動的な足関節背屈ROMは男性よ り女性の方が有意に大きいにもかかわらず,能動的な足関節背屈ROMでは性別による有意な差はみられなかった.
この結果は,男性は組織の伸長性の低さを関節を動かすための筋力で補い,女性と同じだけの能動的な足関節背屈 ROMを達成することを示すものであると考えられる.また,重回帰分析において,説明変数として性別は選択され なかった.これは,能動的な足関節背屈ROMでは男女で影響を及ぼす因子が異なるために,選択されなかったもの と考えられる.このことは,受動的な柔軟性にみられる性差のメカニズムを説明するものの1つであることが示唆 される.
第5節 まとめ
本研究では,能動的および受動的な足関節背屈ROMを柔軟性として,それらに影響を及ぼす因子と性差について 検討した.対象としたのは健常な成人男女53名であり,測定項目は組織の伸長性,等尺性で発揮した足関節底屈筋 群および背屈筋群の筋力であった.重回帰分析の結果,能動的な足関節最大背屈ROMの説明変数として等尺性足関 節最大背屈トルクと腱伸長が選択され,受動的な足関節の最大背屈ROMの説明変数として腱伸長が選択された.こ の結果から能動的,受動的に関わらず足関節の最大背屈ROMには腱伸長が影響するものの,能動的な足関節最大背 屈ROMには足関節背屈筋群の筋力も影響を及ぼすことが示された.
また,男性と女性とに分けて検討したところ,男性のみでは足関節最大背屈トルクと腱伸長が能動的な足関節背 屈ROMの説明変数として選択された.一方,女性のみでは腱伸長のみが能動的な足関節背屈ROMの説明変数とし て選択された.これは柔軟性の性差には組織の伸長性の性差と筋力の性差がいずれも影響を及ぼすことを示すもの である.
Table 2-1 Physical characteristics of the subjects (n=53).
Table 2-2 Measurement parameters.
men (n=30) women (n=23)
ADF (deg) 22 (5) 22 (6)
PDF (deg) 20 (7) 28(5)*
MVC (PF,Nm) 187 (39) 150 (28)*
MVC (DF,Nm) 50 (10) 31 (7)*
ME (mm) 34 (3) 32 (4)
TE (mm) 21 (5) 26 (4)*
ADF: active dorsiflexion ROM PDF: passive dorsiflexion ROM MVC: maximal voluntary contraction
ME: muscle elongation during passive dorsiflexion TE: tendon elongation during passive dorsiflexion
* : siginificant different from men (P<0.05) men (n=30) women (n=23) Age (years) 24.0 (3.4) 23.4 (3.6)
Height (m) 1.73 (0.07) 1.62 (0.05)*
Weight (kg) 68.3 (12.4) 54.3 (5.3)*
SL (mm) 398 (26) 371 (15)*
CC (mm) 374 (26) 358 (19)*
SL: shank length CC: calf circumference
* : siginificant different from men (P<0.05)
0 10 20 30 40
0 10 20 30 40
Active dorsiflexion ROM (deg) Passive dorsiflexion ROM (deg)
Fig. 2-1 The relationship between active dorsiflexion ROM and passive dorsiflexion ROM.
Filled squares represent men’s values, open circles represent women’s values.
A
Dorsiflexion torque (Nm)(A) The relationship between active dorsiflexion ROM and exerted dorsiflexion torque with maximal voluntary effort.
(B) The relationship between active dorsiflexion ROM and tendon elongation.
Filled squares represent men’s values, open circles represent women’s values.
Solid line represents regression line of both groups, dashed line represents regression line of men group, and dotted line represents regression line of women group.
Active dorsiflexion ROM (deg)
Fig. 2-2 0 10 20 30 40 50 60 70 80
0 5 10 15 20 25 30 35
0 5 10 15 20 25 30 35
0 5 10 15 20 25 30 35
B
Tendon elongation (mm)Active dorsiflexion ROM (deg)
Fig. 2-3 The relationship between passive dorsiflexion ROM and tendon elongation.
Filled squares represent men’s values, open circles represent women’s values.
Solid line represents regression line of both groups, dashed line represents regression line of men group, and dotted line represents regression line of women group.
0 5 10 15 20 25 30 35
0 5 10 15 20 25 30 35 40
Passive dorsiflexion ROM (deg) Tendon elongation (mm)
【第3章:柔軟性に影響を及ぼす因子に対するストレッチングの急性効果】
第1節 ストレッチングが柔軟性,組織の伸長性,筋力に及ぼす急性効果
1.はじめに
第2章では,能動的および受動的な足関節背屈ROMを柔軟性の指標として,それぞれに影響を及ぼす因子を定量 した.その結果,能動的な足関節背屈ROMおよび受動的な足関節背屈ROMのどちらにも腱伸長が有意に影響を及 ぼすことが示された.柔軟性を扱ったこれまでの報告では,関節角度変化と筋長変化を等価であると見なしていた
(Fowles et al. 2000; Magnusson et al. 1996a, b).そのため,ストレッチングによりもたらされた柔軟性の向上は,関 節のスティフネスの低下が筋のスティフネスの低下を反映していると考えられていた(Toft et al. 1989; de Weijer et al.
2003).この報告を組織の伸長性の結果から裏付けるものとして,Morse et al. (2008) は超音波法でストレッチング
前後の筋伸長を実測し,ストレッチング後に筋のスティフネスが低下したことを報告している.その一方で,Laroche
et al. (2008) はストレッチングで筋のスティフネスは有意に変化しなかったことを報告している.また,腱のステ
ィフネスとストレッチングに関する報告において, Kubo et al. (2001b) はMorse et al. (2008) とは異なり,ストレッ チングの急性効果として腱のスティフネスとヒステリシスが低下したことを示している.Kubo et al. (2001b) およ びLaroche et al. (2008) の報告と第2章の結果とを合わせると,ストレッチングによりもたらされる柔軟性の向上に はこれまでの報告で論議されているような筋のスティフネスのみが関与するとは考えにくい.
また,ストレッチングでは急性効果として筋力の低下が報告されている(Cramer et al. 2004; Fowles et al. 2000;
McHugh et al. 2008; Rubini et al. 2007).このメカニズムとして筋のスティフネスの低下と筋のactivationの低下があげ られている(Avela et al. 2004; Fowles et al. 2000).しかし,これまでに検討されているのは関節でみられるストレッ チング前後の変化であり,実際に関節を構成する組織の力学的特性に対する変化と筋力との関連については明らか にされていない.
そこで,本章の本節では第2章で検討した因子のストレッチングによる急性効果と筋力の低下との関連を明らか にすることを目的とした.
2.方法
1)被検者
左右の脚部および足部に既往歴のない,健常な成人男性16名(25.6 ± 3.9 歳,1.72 ± 0.06 m,65.8 ± 7.5 kg,平均 ± 標準偏差)を対象として実験を行った.底屈筋群とアキレス腱を対象として,足関節の受動背屈によるストレッチ ングを実施した.被検者には実験の主旨や実験方法について充分な説明を行い,書面による同意を得た.また,実 験に際して早稲田大学スポーツ科学学術院研究倫理委員会より承認を得た.
2)測定項目,測定方法,分析方法
受動的な足関節背屈中の足関節角度変化,筋伸長,腱伸長,能動的な足関節背屈ROM,等尺性足関節最大底屈ト ルクは第2章と同一の方法で求めた.等尺性足関節最大底屈トルクに関しては,トルク発揮中のVAを算出するため,
単収縮挿入法(超最大強度,triplet,100Hz,duration: 1ms,刺激装置:SEN-3301,Nihon KOHDEN, Japan,アイソ レータ:SS-2046,Nihon KOHDEN, Japan)を行った.腱のスティフネス,ヒステリシスの算出に際して,Kubo et al.
(2001b, c, Fig. 1-1, Fig. 1-3) の方法に倣い,被検者の足関節を0度で固定し,等尺性で足関節底屈トルクをランプ状
に発揮するように指示した.等尺性足関節底屈トルク発揮に際して,液晶ディスプレィ(FR50S,HYUNDAI,Korea)
に事前に測定した等尺性足関節最大底屈トルクの値を,目標値として表示した.この試行は5秒間で安静から目標 値まで発揮トルクを漸増させた後に,1秒間の目標値の維持,それに続いて5秒間で安静まで発揮トルクを漸減させ る運動課題であった.なお,この試行は2回行い,試行間には2分間以上の充分な休憩を設けた.この試行に不慣れ な被検者を対象として,本実験の前日までにランプ状の等尺性足関節底屈トルク発揮の練習セッションを設けた.
このセッションでは,スティフネスとヒステリシスの分析が充分に可能である足関節底屈トルクの発揮を行えるよ うになることを目的とし,被検者が試行を達成できるまで休憩を設けながら充分な練習を行わせた.この試行では,
超音波診断装置を用いて,MGの遠位端とアキレス腱のMTJを撮像した.取得した超音波画像において,発揮され た足関節底屈トルクの目標値の10%ごとを分析点とした(Kubo et al. 2001b, c).スティフネスは発揮トルクを漸増 させる相で最大筋力の50%以降の発揮トルク−腱伸長関係を直線回帰した値の傾きを用いた(Kubo et al. 2001c, Fig.
1-1).ヒステリシスは試行中に腱伸長と発揮トルク関係(Fig. 1-3)から生じる面積Bを面積Aで除して百分率で表 したものを用いた.等尺性足関節底屈トルク発揮中の足関節角度変化に対するMTJの移動を補正するため,等尺性 足関節底屈トルクの発揮とは別に,足関節を受動的に動かす試行を実施し,足関節角度変化をゴニオメータで取得 した(Morse et al. 2008).足関節底屈トルク発揮中のMTJの移動から,受動的な足関節角度変化で得られたMTJの移
を固定し,なるべく短時間で底屈トルクを発揮するように指示をした.被検者の発揮した底屈トルクを時間微分し,
その最大値を底屈トルクの立ち上がり速度とした.試行は2回実施し,2回の測定値に15%以上の隔たりがあった場 合には3回目の試行を実施した.なお,他のトルク発揮の試行と同様に試行間には2分間以上の休憩を設けた.
3)実験セッティング,ストレッチング方法
ストレッチングおよび,その前後の測定は第2章で用いた筋力計(VINE,Japan)で実施した.記録電極および接 地電極の貼付位置,ゴニオメータの貼付箇所,機材の設定は第2章と同様であった.被検者の足関節を膝関節完全 伸展位で筋力計のFoot Plateに固定した.検者が筋力計のモータを操作し,底屈30度から受動背屈を行った.等尺性 足関節最大底屈トルクの15%程度である背屈方向の負荷を,60秒間与える試行を1回のストレッチングとした.ス トレッチング間の休憩は10秒間であった.これらの一連の試行を5回繰り返してストレッチングとした.また,ス トレッチングの前後で伸長される組織の痛覚受容器の耐性が向上するという報告(Gajdosik et al. 2007)を考慮し,
この影響を除いて各変数の評価を行うためにストレッチング前後の足関節の受動背屈は同じ負荷(各被検者の15%
MVC程度,約30 Nm)を与えた.
4)統計処理
すべての測定結果は平均値 ± 標準偏差で表した.統計処理には,統計解析ソフトウェア(SPSS 12.0J,SPSS Japan,Japan)を用い,危険率5%未満をもって統計的に有意であると判断した.ストレッチングの前後で得られた 各測定項目の比較には,対応のあるt検定を用いた.ストレッチング前後の測定項目間における変化についてピアソ ンの積率相関係数を求めた.