東京外国語大学論集76号(2008) 35
ゴジャール・ワヒ一語の動詞体系1)
吉枝 聡子
はじめに
1.音素体系 2.名詞・代名詞変化 3.動詞組織
結び
資料一主要動詞語幹一覧
はじめに
ロコジャール・ワヒ一語について
ワヒー語は,イラン諸派東イラン語に属するバミール諸語2)の言語である。分布域は,バミ ール高原部およびヒンドゥークシュ山脈周辺部に位置し,アフガニスタン(ワハン回廊),タジ キスタン共和国,中国新彊ウイグル自治区,パキスタン北部地域の4ケ国に及ぶ。Wak幅nお よびその派生語wakhTは,いずれもwu文 Wakhan に起源をもつペルシア語形であり,ワヒ一語 話者は,自らを文ik,その言語(ワヒ一語)を文ikworまたは文ikzikと呼んでいる。Morgenstierne
(1938)によると,文ikは★w(u)文−ikの短縮形であり,Wu文Tは恐らく「オクサス)rr」を表す−wax羞uT
からの派生形である。一方で,Marqua丘(1938)によれば,WuXrは古代イラン語vahu・ good;gOOd thing の女性形va仙トに由来するとされる。
ワヒ一語の正確な話者数については,信頼に足る統計を得ることが困難ではあるものの,1983 年にロシアで出版された統計に拠ったPayne(1989)の報告では,ワヒ一語の話者人口は 25,00030,000人で,このうち旧ソ連側に10,000人,アフガニスタンに10,000人,パキスタ
ン側に3,000人が居住するとされる。Backstrom(1992)ではパキスタン・ワヒ一語人口を7,500
〜10,000人と推定している。また,Summerlnstitute of Linguisticslnternationalによる Ethnologue(2005)に従えば,ワヒ一語人口は31,666人で,アフガニスタン側に9,566人,中
国新彊ウイグル自治区6,000人,タジキスタン共和国7,000人,パキスタン側9,100人(ゴジ ャール地方4,5006,000人,ゴジャール地方の西方に隣接するイシュコマン地方2,000人,ヤ スイーン渓谷200人,ヤルフーン渓谷900人,1992年統計)となっている3)。