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ヒトの嗅覚表現に対する匂い刺激の複雑さの影響

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

ヒトの嗅覚表現に対する匂い刺激の複雑さの影響

濱川, 昌之

http://hdl.handle.net/2324/2198512

出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(システム生命科学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

(様式6-2)

氏 名 濱 川 昌 之

論 文 名 Effects of stimulus complexity on human olfactory evaluation and description

(ヒトの嗅覚表現に対する匂い刺激の複雑さの影響)

論文調査委員 主 査 九州大学 准教授 岡本 剛 副 査 九州大学 教授 伊良皆 啓治 副 査 九州大学 教授 ヨハン ローレンス

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

匂いの感じ方は、「匂い分子の特徴」から「匂いに関する記憶や情動」まで、様々な要因によって 影響を受け、決定されることが報告されている。しかし、それらの要因がどのようにして互いに影 響しあい、どのような規則性をもってヒトの嗅覚を生み出しているのかについては、ほとんどわか っていない。ヒト嗅覚を調べるためには言語による表現が不可欠であり、そのために問題が非常に 複雑化していることがその理由の一つである。本論文では、それら複数の要因の影響を反映した指 標として「匂い刺激の複雑さ」を取り上げ、情動と匂い分子の特徴の観点から調べた。情動や匂い 分子の特徴は、嗅覚に関係する要因の中でも定量化が難しく、研究が進展していない分野である。

情動と匂い分子の両面からアプローチすることで、匂い刺激の複雑さが匂いの言語表現や匂いの判 別に与える影響の解明を目指した。

はじめに、匂いに対する情動反応と嗅覚の言語表現との関係性を調べた。匂いに対する情動反応 は、先天的な要因と後天的な要因の2種類によって決定されることが知られている。前者は、遺伝 子によって決定されている「匂い分子と嗅覚受容体の対応関係」によって匂いに対する情動的な反 応が決定づけられると考えるものである。後者は、記憶や学習といった後天的な要因が、匂いの情 動反応に大きく影響すると考えるものである。しかし、それら2種類の情動の不一致と嗅覚との関 係性を調べた研究はほとんどない。そこで、本研究では匂いに対する「快・不快」と「好き・嫌い」

をそれぞれ異なる情動評価軸として設定し、それらの情動評価の一致・不一致が嗅覚認知に与える 影響について調べた。12人の被験者に36の匂い物質を提示し、上記の「快・不快」、「好き・嫌い」

の程度を表すスコア、フルーツの匂いや樹木の香りといった言語表現、および匂い強度のスコアを 回答してもらった。その結果、「快・不快」と「好き・嫌い」のスコアに相関が見られた匂いでは、

匂い強度に応じて言語表現が一意に定まったのに対し、それらスコアで相関が見られなかった匂い では、匂い強度に関わらず言語表現は一意に定まらなかった。この結果から、匂いに対する2つの 情動評価スコアの不一致が、匂い知覚の言語化に影響したことが考えられた。

次に、匂いの分子構造が、混合した匂いの認知に与える影響を調べることで、匂い判別の仕組み について調べた。匂いは混じり合うことで感じ方が変化する場合がある。混合匂いを嗅いだ時に、

元の個々の匂いが統合され別の匂いとして感じられる場合を統合的な認識、個々の匂いが保たれて 感じられる場合を要素的な認識と呼ぶ。この2つの認識モードが、どのような規則性で決定されて いるかは不明であった。そこで、嗅覚神経が匂い分子を受容する様式に着目し、分子量や幾何学的 構造などを加味した算出方法が提案され、共通の指標として用いられている「匂い分子の構造的な

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複雑度」が混合匂いの認識モードに影響すると仮説を立て、主観評価実験を行った。複雑度を基に 匂い分子を3つのグループに分け、各グループで 2つの匂い分子を組み合せて混合匂い刺激を作製 した。これらの混合匂いが化学変化を起こしていないことは、ガスクロマトグラフィー・質量分析 法により確認した。14人の被験者に混合匂いを、別の10人の被験者に単一匂い提示し、それぞれ の匂いに対して各被験者は与えられた言語表現のリストから適切なものを選択した。混合匂いと単 一匂いで選択された言語表現を比較した結果、複雑度が小さいグループでは異なる言語表現が選択 されたのに対し、それ以外のグループでは同じ言語表現が選択された。この結果から、複雑度が小 さい匂い分子は組み合わせることで感じ方が変化する統合的な認識がなされ、複雑度が比較的大き い匂い分子は組み合わせても感じ方が保たれる要素的な認識がなされることがわかった。

本研究は、情動の複雑さ(情動評価の不一致)と匂い分子の複雑さ(分子の構造的な複雑度)の 両面から匂いの言語表現や匂いの判別がなされる様式について調べた。その結果、情動の不一致が 匂いの言語表現の幅に、匂い分子の構造的な複雑度が匂いの判別に影響することを発見した。これ は、匂い刺激の複雑さが、匂いの言語化に関係していることを示唆している。本研究は、匂い刺激 の複雑さという新たな指標を導入することで、ヒトの嗅覚が決定される仕組みにアプローチできる ことを示し、ヒトの嗅覚について重要な知見を得たものとして価値ある業績であると認める。

よって、本論文は博士(システム生命科学)の学位論文に値するものと認める。

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