九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
日本語と韓国語の複雑述語のタクソノミー
和田, 学
https://doi.org/10.15017/1654968
出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(文学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
区分 乙 論文題目 日本語と韓国語の複雑述語のタクソノミー
氏 名 和 田 学
論 文 内 容 の 要 旨
日本語と韓国語の複雑述語のタクソノミー
日本語と韓国語の文法が極めて似ていることは,広く知られているが,両言語を対照した研究は 決して多くない。本論文は両言語の複雑述語に焦点を当て,これらを対照しつつ分類することと,
そこで得られた分類を説明するためのモデルを示すことを目的としている。
また,両言語は様々なタイプの複雑述語を持つが,それぞれの言語の中で特定のタイプの複雑述 語に対する論考は多くあるが,複雑述語全体を対象とした研究は極めて限られている。両言語の複 雑述語のシステム全体を包括的に捉えることも本稿の目的である。
本稿では理論的枠組みとして,モジュール形態論(影山 1993 etc.)と下位句構造統語論(Sells 1994 etc.)を採用している。本論文では,この二つを(必要な変更を加えつつ)組み合わせることで,
両言語の複雑述語の振る舞いが簡潔に説明できることを示す。
1章では,複合動詞について論じている。影山(1993)は,様々なテスト(意味的透明性,代用表 現化, etc.)に基づき,日本語の複合動詞が語彙的複合動詞(泣き叫ぶ,飲み歩く)と統語的複合動 詞(読み始める/続ける)に分けられる一方,両者には共通点(第一構成素(=V1)の空所化が許され ない etc.)も見られることを述べている。この異同を説明するために,影山は語形成部門の同じ規 則が語彙部門にも統語部門にも適用するという分析を提案している(モジュール形態論)。1.1で,
影山の上記の分析を概観した後,1.2では,同様のテストを用いて,韓国語の複合動詞が語彙的な ものと統語的なものに分けられることを示し,モジュール形態論を支持する。しかし,韓国語の複 合動詞は日本語の複合動詞と異なり,構成素の間にとりたて詞を介在させることができる。
(1) a. kwuw-e-nun mek- (焼く+ハ+食べる 焼いて食べる:語彙的) b. ilk-e-nun po- (読む+ハ+見る 読んで見る:統語的)
(2) a. *泣きハ叫ぶ (語彙的) b.*読みハ続ける (統語的)
この違いを説明するために,本論文では,語と語が結合して語のレベルを形成する(3)の規則が 語形成部門にあり,それが語彙部門にも統語部門にも適用する(独立型複合動詞)という提案を行う。
この規則によって形成された複雑述語は,日本語の語彙的/統語的複合動詞の様に構成素が緊密に 結びついたもの(融合型複合動詞)と構成素の独立性において異なる。
(3) V0 -> V0 V0
この規則により形成された韓国語の複合動詞の構成素は(限定的な)統語的独立性を示すと本論文 では主張する。
1.3 では,日本語の,V1 がテ形をとる複合動詞(テ形複合動詞)は(3)の独立型の複合動詞であり,
様々なテストに基づき,これらが語彙的なものと統語的なものに分けられると主張するが,これら は,構成素の間にとりたて詞が挿入できるという点で,韓国語の複合動詞と同様である。
(4) a. くれてハやるが(語彙的) b. 読んでハやるが(統語的)
2章では,軽動詞構文について論じる。日本語と韓国語の軽動詞構文が統語部門で形成されると する多くの先行研究に本論文も従う。しかし,本論文は,統語的複合動詞(日本語の場合V1がテ形 のもの)が語形成部門と統語部門が相互作用する(5)のβにおいて(3)によって形成されるのに対し,
軽動詞構文は純粋な統語部門γで(3)によって形成されるとする点で,先行研究とは異なる。
(5)
韓国語の軽動詞構文においては,動作性名詞(VN),特殊な副詞,否定辞の語順に複雑な制約があ る(VN+Adv+Neg+軽動詞,Adv+VN+Neg軽動詞のみが可,他は全て不適格)。1章において,統語的複合 動詞と否定辞が共起する場合,複合動詞全体が否定される解釈とV1のみが否定される解釈の両方が 可能であることに基づき,否定辞は統語的複合動詞と同じβで接続すると論じた。VNと特殊な副 詞がγで軽動詞と結合するとするならば,上記の語順の制約は容易に導き出せる。また,統語的な 述語形成をβとγに分けたことで,軽動詞構文においてVNは空所化できるのに対し,統語的複合 動詞のV1は空所化できないという違いも,後者が語形成部門によって語として特徴づけられてい るため,空所化という統語規則が適用できないと説明することができる(語彙的緊密性)。
日本語の軽動詞構文においてVNが軽動詞に編入されるとする多くの先行研究に対して,本論文 はVNと軽動詞が統語的に独立していることを示す事実(勉強おし!,蒸発*(の)し方)に基づき,VN と「する」は独立した語であり,γにおいて(3)によって形成されると主張する。また,統語的な 述語形成をβとγに分けることで,軽動詞構文においてVNの空所化が可能であるのに対して統語 的テ形複合動詞のV1の空所化ができないといった事実も韓国語の例と同様に説明ができる。
本論文は,日本語のV1が連用形を取る複合動詞を除くと,日韓両言語にはα,β,γに対応す る三種類の複雑述語が存在すると主張している。3章では,他の複雑述語について検討し,いずれ もα,β,γのどれかに分類できることを示し,主張を補強している。αに該当するものとしては,
日本語の,第一要素を移動させられないイディオム(気に(ハ)なる)が挙げられる。意味的透明性の 低さを始めとする諸特徴に関して語彙的複合動詞と共通している。βに該当するものとしては,日 韓の複合移動動詞(見に行く),「なる」構文,主語尊敬形(お読みになる)が挙げられる。これらは 各種テストにおいて,統語的複合動詞(日本語の場合はテ形複合動詞)と共通した特徴を示す。γに 該当するものとしては日本語の目的語尊敬形(お呼びする)が挙げられる。この複雑述語はVN+
「する」と共通した特徴を示す。
4章では,全体のまとめと残された問題を示した。本論文の特徴は,(5)に示した様に,(4)の 語彙部門
語彙部門
統語部門
語形成 部門
(3) α
β γ
規則が,語彙部門と統語部門の両方に適用するとする点と,同じ規則が純粋な統語部門(γ)にも 適用するとした点である。4章では,残された問題についても触れている。