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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

低原子価d8有機金属錯体によるソルバトクロミズム と炭素-フッ素結合の触媒的水素化分解反応

鄭, 其勲

https://doi.org/10.15017/1654828

出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

(様式2)

氏 名 :ジョン キフン

論 文 名 : 低原子価 d

8

有機金属錯体による

ソルバトクロミズムと炭素−フッ素結合の触媒的水素化分解反応 区 分 :甲

論 文 内 容 の 要 旨

低原子価金属錯体は電子豊富な金属中心に由来する特性のため、古くから研究者の注目を集めて いる。その中でも、[(π-arene)M(α-diimine)]n (M: 金属、n: 化合物の価数) の一般式で表される低原 子価d8有機金属錯体は、特異な電子状態や反応性を持つために新しい機能性材料や触媒系への応用 が期待できる。金属 (M) としては、d軌道に 8つの電子をもつ周期表の8族 (Fe0、Ru0、Os0) およ び9族元素 (CoI、RhI、IrI) が用いられ、π-areneとα-diimine配位子の面がほぼ直角をなすhalf sandwich 型の化合物群である(図1)。これまでに、電気化学、分光学的手法およびX線結晶構造解析等によ り、この化合物群の特異な性質(物性、構造、反応性)に関する基礎研究が盛んに行われてきた。

しかし、基礎研究で得られた知見を生かした応用研究は、未開拓な領域であった。

本論文では、低原子価d8有機金属錯体の物性(第2章)と反応性(第3章)を生かした機能開発 を目標とした。その結果、Ru0錯体が示す特異なソルバトクロミズム(「溶媒の種類」によって化合 物溶液の色が変わる現象)を発見した(第 2 章)。また、RhI錯体を用いて高難度な炭素−フッ素結 合の水素化分解反応(水素分子を還元剤として不活性なC−F結合を C−H結合に変換する反応、英:

C−F bond hydrogenolysis)の触媒系を構築することに成功した(第3章)。以下に各章の概略を示す。

第 2 章では、低原子価 d8有機金属錯体の物性(分光学的性質)に着目した。この低原子価種は

UV-vis-NIR領域に様々な遷移に由来する吸収帯を示すことが知られており、プロトンの授受により

そのスペクトルが大きく変化する。この性質を利用して、特異なソルバトクロミズムの発見に繋げ た。まず、従来合成•単離が困難であった中性Ru0錯体[(η6-C6Me6)Ru0(bpy)]の合成•単離法を確立し、

X線構造解析によりその分子構造を解明した。そして、Ru0錯体の様々な溶媒への溶解性を検討し、

特異なソルバトクロミズムを発見した。Ru0錯体の THF、ベンゼン、トルエン溶液の色は固体の色 と同様に紫色である。一方、Ru0錯体をメタノールに溶かすと黄色に変化する。また、メタノール を減圧下で除去すると紫色に戻り、色の変わる現象が可逆であることを確認した。UV-vis-NIRおよ び 1H NMR 分 光 法 に よ り 、Ru0 錯 体 は メ タ ノ ー ル と 反 応 し て 黄 色 の RuII− ヒ ド リ ド 錯 体 [(η6-C6Me6)RuII(bpy)H]+を生成することを明らかにした。通常、金属錯体によるソルバトクロミズム は(i)溶媒分子の金属中心への配位、または(ii)溶媒分子と配位子間の相互作用に起因する。そ れに対し、本研究で発見した応答現象は中心金属の価数の変化を伴う溶媒分子との可逆な反応に起 因する前例のないソルバトクロミズムである。

第3章では、低原子価d8有機金属錯体の反応性に着目した。前章では、様々な触媒反応系におい て活性種として提案されてきた低原子価錯体とヒドリド錯体との平衡関係および溶媒環境の変化に よる平衡の制御について議論した。この知見を生かして、非常に強固な結合であるC−F結合の切断 を含んだ触媒系の構築に繋げた。ルテニウム(Ru)に比べてルイス酸性が強く、水素分子と容易に 反応するロジウム(Rh)を中心金属とする錯体[(η5-C5Me5)RhI(bpy)]を触媒として用い、芳香族フッ 素化合物 (C6F5CF3、C6F6、C6F5H、C6F5CH3) のC−F水素化分解反応の触媒系を構築することに成功

(3)

した。従来、水素分子を還元剤とした C−F 水素化分解反応においては、過酷な反応条件(高温•高 圧)が必要であるという問題があった。本研究では、電子豊富な低原子価 RhI錯体を触媒として利 用し、温和な条件下 (H2 0.1 MPa、25 °C) で反応が進行する触媒系を構築した。また、ヘキサフル オロベンゼン (C6F6) を基質として種々条件を検討した結果、水素加圧条件下 (H2 0.8 MPa、25 °C) において、最高触媒回転数 (TON) 380が得られた。さらに、錯体と基質との等量反応を検討し、触 媒系の反応機構を提案した。RhI錯体は、基質であるC6F6と反応しC−F結合を切断した化学種であ る[(η5-C5Me5)RhIII(bpy)(C6F5)](F)を与えた。この錯体は触媒反応における1つの中間体であり、水素 をヘテロリティックに活性化して、ペンタフルオロベンゼン (C6F5H) を生成するとともにRhI錯体 に戻り、触媒反応が進行する。従来、金属錯体を利用した触媒的C−F活性化においては、主にヒド リド種またはフルオリド種が用いられてきた。それに対し、本研究で構築した触媒系は、低原子価 化学種が系内で重要な役割を果たす独創的なものである。

本論文では、低原子価d8有機金属錯体に着目して新たな機能開発研究を行い、本化合物群の応用 への道を開いた。さらに、X 線構造解析により Ru0および RhI錯体の分子構造を明らかにし、本研 究分野の基礎研究にも貢献した。Ru0錯体によるソルバトクロミズムから得られた知見は、刺激応 答現象を示す金属錯体の分子設計指針を提示するだけでなく、金属錯体を用いた反応系の構築にお ける活性種の平衡制御にも応用できる。また、RhI錯体によるフッ素化合物の C−F 水素化分解反応 で得られた知見は、C−F活性化および官能基化に新しいコンセプトを提示するだけでなく、有機合 成化学(カップリング、還元、環化反応等)における触媒設計指針を与え、環境•バイオ•医薬分野 で重要な化合物の合成にも応用できる。本論文で得られた成果が、低原子価金属錯体の物性、構造、

反応性を理解する基礎研究から実用化に向けた応用研究まで広く役立つことを期待する。

図1 本論文の結果の概略. Ru0錯体によるソルバトクロミズム (第2章) およびRhI錯体による触媒 的C−F水素化分解反応 (第 3章).

低原子価d8有機金属錯体 

基礎 研究 

応用 研究 

M

N N

-arene

-diimine N N

- , Fe0 CoI

Ru0 RhI Os0 IrI M =

M

Chem. Lett. 2012, 

41, 650. [Editorʼs Choice]  Organometallics 2014,  33, 4349. 

Ru0 N N

+

NN RuII

H CH3OH

benzeneTHF toluene

F F X F F

F H

F X F F F H2, 25 ℃, base

Up to 380 TON RhI N N Cat. =

(X = CF3, F, H, CH3) + base・HF

第2章:Ru0錯体による 

ソルバトクロミズム  第3章:RhI錯体による 

触媒的C­F水素化分解反応  第2章 

Ru Rh

8族  9族 

第3章    物性 

 •分光学的研究 

 (Ru0、Os0、RhI、IrI)   •電気化学的研究   (Ru0、Os0、RhI、IrI) 

  構造   •X線構造解析 

 (Fe0、CoIアニオンRu

  中性Ru0、RhI) 

  反応性 

 •水素発生反応 (RhI)、 

  光誘起H/D交換反応 (IrI   の中間体として提案 

参照

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