九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
急性二酸化炭素中毒におけるラット前頭葉・視床下 部の遺伝子発現に関する研究
佐藤, 和雄
https://doi.org/10.15017/1654800
出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(歯学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式6-2)
氏 名 佐藤 和雄
論 文 名 Expression of mRNA in the frontal cortex and hypothalamus in a rat model of acute carbon dioxide poisoning
(急性二酸化炭素中毒におけるラット前頭葉・視床下部の遺伝子発現 に関する研究)
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 中西 博 副 査 九州大学 教授 森 悦秀 副 査 九州大学 教授 中村 誠司
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
法医学ではドライアイス等の事故による急性二酸化炭素(CO2)中毒の死亡例に遭遇することが ある。解剖においては諸臓器の鬱血以外に特異的な所見が乏しい。急性CO2中毒の死因は高度の呼 吸性アシドーシスに基づく致死性不整脈で生じるという説や、中枢神経抑制や副交感神経作用の増 強により、呼吸および循環抑制をきたすとする説がある。しかしながら、急性CO2中毒の病態生理 学的メカニズムは明らかになっていない。
そこで本研究ではこの問題を解決する目的で、10%から 60%までに調整した CO2をラットに暴露 し、mRNAの発現変化を調べた。急性CO2中毒の候補遺伝子を決定するにあたり、Wistar系雄性 ラット8匹について、3種混合麻酔薬を腹腔内に投与し、40% CO2を15分間暴露した。暴露後、
頚椎脱臼によりラットを死亡させ、脳から前頭葉と視床下部を摘出して、total RNA抽出、続いて cDNA合成を行った。cDNA遺伝子をマイクロアレイにて解析し、前頭葉と視床下部でそれぞれ抽 出された遺伝子のGene Ontology 解析およびクラスター解析を行った。この両者の解析よりG 蛋 白共役受容体のパスウェイの中には恒常性機能・神経機能に関わりがある遺伝子が含まれているこ とが判明した。それらの遺伝子を中心にそれぞれ 5 つの候補遺伝子を選択した。次に、ラット 10 匹を1群とし、10%から60%に調整したCO2を15分間暴露し、候補遺伝子についてそれぞれリア ルタイムPCRを行った。
ラットは、対照群(0%)、10~40% CO2暴露群では全て生存したが、60% CO2暴露群では10匹 中4匹が 10~15分の間に死亡した。前頭葉におけるAgps mRNAの発現は0%~40%と60%の間で 有意差を認め、Hspb2 mRNAの発現は40%と0~20、60%間で有意差を認めた。一方、視床下部に おけるPpy mRNAの発現は20%と60%間で、Crhr2 mRNAの発現は 0%と 60%間で有意差を認めた。
本実験の60% CO2吸引で10匹中4匹のラットが10~15分の間に死亡したこと、前頭葉、視床下部 共に高濃度のCO2 (40%ならびに60%) 吸引で特定の遺伝子の変動が著明に見られたこと等を併せ 考えると、40%ならびに 60%の高濃度 CO2の吸引で重篤な急性 CO2中毒に陥る可能性があると考 えられた。また、高濃度CO2の吸引により、前頭葉ではAGPSとHSPB2の増加によって知的活動 機能の障害を引き起こしている可能性が考えられる。一方で、視床下部では PPY の増減による呼 吸制御も引き起こすと考えられ、CRHR2の増加により急性CO2中毒というストレスへの適応がで きなくなることも重なり、死に至ると推定された。以上の結果から、これらの遺伝子発現動態を詳 細に検討することで、の病態解明につながる可能性が示された。従って、博士(歯学)の学位授与 に値する。