西松建設技報 VOL.34
目 次
§1.はじめに
§2.理論的解析
§3.水理模型実験
§4.数値計算
§5.おわりに
§1.はじめに
1959年の伊勢湾台風以降,さまざまな沿岸防災施設の 整備が進められてきた.しかしながら,今日においても 高潮・高波災害がなくなることはなく,構造物の老朽化 による被害の拡大も懸念されている.さらに,IPCCの 報告によると,世界の海水面は今世紀末までに13~
59 cm上昇すると推算されており,今後,高潮災害の増
加が予想される.
高潮災害に対する対策方法として,さまざまな方法が 提案されている1)が,現状では,天端高の嵩上げによる 方法が一般的である.1999年の海岸法の改正により,防 災,利用および環境が調和し得る海岸防災施設が切望さ れるようになった.このような背景により,景観および 親水性を考慮し,低天端で防災機能の優れた新しい形式 の海岸構造物が求められている.また,建設コストの縮 減により,100%の防災ではなく,減災としての海岸施設
整備への要望に応えるため,既存の護岸に越波低減対策 を施すことで,防災機能の向上が試みられている.
本研究では,景観や親水性に配慮し,減災を目的とし た維持管理が容易な構造物として,既設の直立護岸前面 に浮体パネルを設置した新たな護岸形式を提案した2). 図―1に示すように,高潮・高波の来襲時に,浮体パネ ルが自然外力である波浪によって上下に動くことで,既 設護岸を越えて堤内地に流れ込む海水を低減させる構造 形式である.浮体パネルは水面変動に追随することによ り,波が作用する際に護岸天端高の嵩上げと同様の効果 が期待でき,大規模な越波・越流に対しても軽減効果を 有するものと考えられる.
規則波作用下あるいは高潮・津波を想定した長周期波 作用下における浮体パネルの基本性能を明らかにするた めに,理論的考察を踏まえ,水理模型実験および数値計 算を実施した.本論文はこれらの結果について報告する ものである.
*
**
技術研究所土木技術グループ 名古屋大学大学院
浮体パネルを用いた越波低減護岸の開発
Development of Wave Overtopping Reduction Seawall with Floating Panel
福本 正* 磯 陽夫* Tadashi Fukumoto Akio Iso 川崎 浩司** 舟橋 徹**
Koji Kawasaki Toru Funahashi
要 約
防災のみならず景観や利用の面にも配慮した海岸防災施設のあり方が重要視されており,低天端高で 越波防止性能に優れた新しい形式の防災構造物が要望されている.本研究では,既設の直立護岸前面に 浮体パネルを設置する新たな護岸形式を提案する.高潮・高波や津波が来襲した際,浮体パネルが自然 外力である波の力によって上下に動くことで,海水が既設護岸を越えて堤内地に流れ込むのを防ぐ護岸 形式である.水理模型実験と数値計算結果から浮体パネルの越波低減効果を明らかにし,新たな護岸形 式としての浮体設置護岸の有効性を確認する.
(a) 通常時 (b) 高波浪時 図 ― 1 浮体パネル設置直立護岸の概念図
§2.理論的解析
正弦波で表される規則波が作用した場合の浮体パネル の上下運動zを,加速度と速度の抵抗を考慮した運動方 程式で表すと,以下のようになる.
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.2211:59
(1)
ここに,M は浮体パネルの質量,m は付加質量,N は減 衰係数,Aw は浮体パネルの底面積,Z は護岸前面におけ る水面変動の振幅,ωは入射波の角周波数である.
式M(1)+mを解くと,次のようになる.+N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.2211:59 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.2211:59
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.1805:58 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.1805:57
(2)
ここに,抵抗係数
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.1805:58 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.1805:57
および浮体パネ ルの固有角周波数
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.1805:58 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.1805:57
であ る.式(2)の右辺第1項は自由振動で,
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.1805:58 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.1805:57
が掛って いるため,時間とともに減衰する.第2項は強制項であ る.この強制項について考えると,浮体パネルの上下運 動は,以下のように示される.
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.1805:58 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.1805:57
M+m +N +ρ ρ sinω
cosω 1 ζ sinω 1 ζ ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω ω ω ζ /2ω M+m
ω ρ /M+m 2π/
ω
ω ω 4ζωω sinω cot2ζωω
ω ω μ sinω ε
③
■■
PDFデータ名:nisimatu(0001) 作成日時:11.04.1805:58 コメント :数式バラ打ち文書名 :nisimatu 更新日時:11.04.1805:57
(3)
ここに, は入射波に対する位相の遅れを意味する.ま た, は護岸前面の水面変動(S )に対する浮体パネル の動揺(Sz )の比(=Sz/S )を表している.
,を無次元周期Ts/T によって整理すると,図―2に 示すようになる.同図より,浮体パネルの挙動はTs/Tに よって以下のように大別される.
・Ts/T →0 :浮体パネルは波に完全追随する.
(位相の遅れ=0°) ・Ts/T →∞ :浮体パネルは動揺しない.
(位相の遅れ=180°) ・Ts/T=1 : はその近傍で極大となり,
抵抗 が小さいほど動揺する.
の変化も大きくTs/T=1で =-90°.
§3.水理模型実験
3―1 概要
名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻所有の の2次元造波水路(長さ30.0 m,幅0.7 m,高さ0.9 m)
を用いて水理模型実験を行った.図―3に実験模型の概 要を示す.水路の造波能力と現地波浪を踏まえて,模型 縮尺を1/20とし,直立護岸前面に浮体パネルを設置し た.1ユニットの浮体パネルは,厚さ3.0 cm,高さ20.0
cm,喫水10.0 cmの直方体のアクリル製で,潮位または
波浪による水位変化に伴い,高さ25.0 cmのフレーム内 を上下方向に動く形式である.
直立護岸の天端高さは52.5 cmに固定し,水深hは
30.0~47.5 cmと変化させた.hを変えるとともに浮体パ
ネルの位置も変化する.h=42.5 cmの場合に,静水時に おける浮体パネルの天端高さが直立護岸天端高さと一致 する.作用波は,規則波,孤立波および長周期波であり,
規則波の実験は,周期をT=0.85 s,1.00 s,1.34 s,1.79 s,2.24 s の5種類,波高をH=7.0 cm,10.0 cm,15.0 cm,
20.0 cm の4種類とした.孤立波は波高H=10.0 cmの押 し波を,長周期波は2種類(T=10.0 s,H=5.6 cmおよ びT=15.0 s,H=3.7 cm)をh=47.5 cmの時のみ作用さ せた.
越波量の測定は,直立護岸背後の遮水領域部に設置し た越波枡を用いて,直立護岸上部に接続した幅30.0 cm の導水板を介して護岸を越えた水塊を収集した.規則波 については波高が安定してからの5波を,長周期波につ いては1波を対象として護岸を越えた水塊の重量を測定 し,それぞれのケースに対して3回測定した平均値を越 波量とした.単位幅あたりの越波流量は,越波量を導水 板の幅および規則波の場合は5周期分の時間,長周期波 の場合は周期で割ることにより算出した.
水面変動量の測定には,容量式波高計(KENEK製:
本体部CH-601,検出部CHT6-40およびCHT6-30)を 用いた.サンプリング周波数および測定時間は,100 Hz
で60.0 sとした.なお、浮体パネルの挙動を把握するた
0.01 0.1 1
0.1 1 10
ᣲᖕẒµ䟺
10 100
=Sz/Sη䟻
↋ḗඔ࿔TS/T
-180
0.1 1 10
-150 -120 -90 -60 -30 0
న┞䛴㐔䜒ε䟺㼲䟻 ζ=0.01
ζ=0.01
ζ=0.1 ζ=0.1
ζ=0.5 ζ=0.5
ζ=1.0
↋ḗඔ࿔TS/T ζ=1.0
図 ― 2 浮体パネルの周波数応答特性(理論値)
図 ― 3 実験模型の概要
(a) 振幅比 (b) 位相の遅れ
容量式波高計 浮体パネル
66.0
20.2
10.0 52.5
直立護岸
Unit; cm 25.0
42.5 フレーム
3.0
西松建設技報 VOL.34 浮体パネルを用いた越波低減護岸の開発
めの詳細実験では,サンプリング周波数および測定時間 を,それぞれ200 Hzおよび20.0 sとした.
3―2 実験結果
⑴ 浮体パネルの挙動
写真―1は規則波が作用した場合の浮体パネル挙動を 示した連続写真である(実験撮影時の1コマは0.188 s).
この時の実験は,港内あるいは内湾において,台風時に 生じる波浪(実スケール:水深6.0 m,高潮潮位2.5 m,
波高1.4 m,周期8.0 s)を想定している.浮体パネルは
水面変動に良く追随しており,それがない場合に比べる と,直立護岸背後への越波がほとんどないことも確認さ れている.
一方,短周期(実スケール:6.0 s 以下)では,波に対 する浮体パネルの追随性が悪くなることが確認された.
しかしながら,高潮発生時には,周期6.0 s 以下の波浪は ほとんど作用しないと判断できるため,考察の対象から は除外した.
⑵ 周波数応答特性
理論的解析結果との比較のために,周波数応答特性実 験を実施した.水深をh=42.5 cm に固定するとともに,
波の非線形効果を小さくするために波高をH=1.0 cm とし,周期をT=0.5~2.24 s の範囲で変化させた.浮体 パネルの挙動の測定は,実験水槽側面に設置した高速ビ デオカメラで撮影した動画を動画解析ソフトウェア
(Ditect製:Dipp Motion Pro)を用いて解析した.また,
容量式波高計を用いて,直立護岸前面における水面変動 も同時に計測した.ここで,浮体パネルの固有周期Tsは,
静水面上で自由減衰振動する浮体パネルの挙動から算出 した.その結果,Ts=0.74 sであった.
図―4に,Ts/T=0.33,0.99,1.14の場合における護岸 前面水位と浮体パネルの上下運動の時系列変化をそれぞ れ示す.Ts/T=0.33の場合,浮体パネルは水面変動に良 く追随しながら上下運動する様子が確認できる.Ts/T=
0.99の場合,浮体パネルの上下運動が水面変動に比べて 大きく,共振が認められる.また,水面変動のピーク時 に浮体パネルの変位が0であることから,位相が約90°
遅れていることがわかる.最後に,Ts/T=1.14の場合,浮 体パネルの上下運動は水面変動と逆位相となっている.
次に,護岸前面水面変動と浮体パネルの上下運動の振 幅比 ,および水面変動と浮体パネルの運動の位相遅れ とTs/Tの関係を図―5に示す.同図より,Ts/T=1付 近で共振による振幅比の増大がみられ,Ts/T=0.99で極 大値 =3.8を示した.また,Ts/Tが0に近づくと は1 に漸近し,Ts/Tが1より大きくなると の値は減少して いる.位相差 はTs/Tが小さい時は0であるが,Ts/T=
写真 ― 1 浮体パネルの動的挙動の連続写真
図 ― 4 護岸前面水位と浮体パネルの時系列 -0.02
-0.01 0
11 12 13 14 15 16
t (s) 0.01
0.02 0.03
(m) ᳓㕙ᄌേη ᶋ䊌䊈䊦ਅㆇേz
-0.02 -0.01
11 12 13 14 15 16
t (s) 0
0.01 0.02 0.03
(m) ᳓㕙ᄌേη ᶋ䊌䊈䊦ਅㆇേz
-0.02 -0.01 0.00 0.0 0.02 0.03
11 12 13 14 15 16
(m)
1
᳓㕙ᄌേη ᶋ䊌䊈䊦ਅㆇേz
t (s)
(a) Ts/T=0.33
(b) Ts/T=0.99
(c) Ts/T=1.14
0.01 0
1 10
ᝄᲧµ䋨=Sz/Sη䋩 .1
0.2 2
ήᰴరᦼTS1/T
-180 -150 -120 -90
⋧䈱
-60 -30 0
ㆃ䉏ε䋨㫦䋩
0.2 2
ήᰴరᦼTS1/T
図 ― 5 浮体パネルの周波数応答特性(実験値)
(a) 振幅比 (b) 位相遅れ
0.000 0.
0.002 0.003 0.004
ᵄ㜞10c䌭
ᦼ1.34s
ᵄ㜞10c䌭
ᦼ1.79s
ᵄ㜞15c䌭
ᦼ1.34s
ᵄ㜞15c䌭
ᦼ1.79s
ᵄᵹ㊂q(m3/s/m) ⋥┙⼔ጯߩߺ⸳⟎
001
ᶋࡄࡀ࡞⸳⟎นേ
図 ― 6 浮体パネル有無による越波量の比較
0.85付近から急激に変化し,Ts/T=1で =-90°を通る 曲線を描き,最大 =-160°付近にまで達している.
また,図―2と図―5の比較から,実験値は入射波周 期に対する浮体パネルの上下運動特性に関して定性的に 理論値とよく一致している.したがって,理論によって 浮体パネルの挙動を表現でき,越波低減浮体パネルの設 計面において役立つものと考える.
⑶ 越波特性
浮体パネルの越波量低減効果を明確にするため,一例 としてh=42.5 cmの場合の結果を図―6に示す.直立護 岸のみの場合に比べて,浮体パネルが稼動する場合は,波 峰作用時に浮体パネルが水位とともに浮上し,護岸天端 高の嵩上げと同様の効果をもたらすため,越波量を大幅 に抑えられる.特に,波高が大きい場合に顕著となって いる.
ここで,qνを直立護岸のみの場合の無次元越波流量,qf
を浮体パネルを設置した場合の無次元越波流量として,
浮体パネルの設置による越波低減率Rを式(4)のよう に定義する.越波低減率Rが大きいほど,浮体パネルの 効果が高いと判断する指標である.
R= qν-qqν f×100(%) (4)
式(4)より,直立護岸前面に浮体パネルを設置するこ とによって越波低減率Rは,h=35.0 cm,37.5 cm,42.5 cmでは約89%,h=47.5 cmでは約84%となった.これ は,現地換算で越波流量が10-3~10-1 m3/s/mオーダー の大規模な越波が発生する波浪条件に対しても,浮体パ ネルの設置により越波流量を0~10-2 m3/s/m程度まで 抑制する効果があることを示す.
長周期波作用時においても浮体パネルの越波低減効果 が確認され,2種類の長周期波に対する低減率Rは81%
と60%であった.越波低減率は規則波を作用させた場合
よりやや下がるものの,浮体パネルが護岸前面で堰の役 割を果たすことにより,護岸背後へ越流するのを防ぐこ とが確認された.
⑷ 浮体パネルに作用する波圧特性
浮体パネルに作用する圧力について把握するために,
浮体パネルに波圧計を設置し,計測を行った.波圧の時 系列の一例として,図―7に浮体パネル固定の場合と可 動する場合の揚圧力を示す.浮体パネルが水面変動に追
随して上下に動くことにより,浮体パネルに作用する波 圧が小さくなり,浮体パネルを固定した場合の50%程度 の波圧しか作用しないことがわかる.また、浮体パネル を固定した場合における波圧の時系列は,緩やかな曲線 であるのに対し,浮体パネルが可動する場合では,波圧 のピークが尖形で三角形に近い波形であることがわかる.
この傾向は,入射波周期が短くなるほど顕著であり,波 圧のピークでより尖った波形となる.
§4.数値計算
4―1 CADMAS-SURF を用いた越波量計算
⑴ 概要
数値波動水路CADMAS-SURF3)は,海岸波動に関わる 諸現象をコンピュータ上で再現し,海岸構造物の耐波設 計に役立てるために開発された数値モデルで,長年にわ たる研究や実用実績の高さから,高精度な波動場の定量 的な再現性や実務における評価が高いモデルである.浮 体パネルのように動く物体を対象とすることができない ものの,越波量や波圧を精度良く計算可能なモデルとし て実証されていることから,本研究では直立護岸のみを 設置した場合,ならびに浮体パネルを固定した場合にお ける越波流量について検証を行う.
⑵ 計算条件
数値計算の概念図を図―8に,計算条件を表―1に示 す.造波板から直立護岸までの距離は計算時間短縮のた め15 mとした.また,計算時間は,概ね最初に造波し た波の再反射波が護岸に到達するまでとし,35 s間とし た.越波量は護岸背後に設置した越波升に流入した水塊 の量を算出することにより求めた.浮体パネルは固定し,
その天端は波浪による水位変動等を考慮し,直立護岸天
端より14 cm高い位置とした.
CADMAS-SURFに使用される自由表面解析モデルに はVOF法が採用されており,ある時刻において各セル に含まれる流体の量としてはF値(0≦F≦1)で表され るため,任意の領域でVOF関数Fを面積積分すること により水塊の量が求められる.
なお,数値計算において静水面付近に生じるスパイク ノイズを取り除くために,サブ・ループ処理を施したこ とによって,計算時間は2倍程度に増大した.
図 ― 7 浮体パネル底面に作用する波圧
(h=42.5 cm,T=1.79 s,H=10 cm) 図 ― 8 数値計算の概念図 30.0䌾47.5
Wave Generator
20.0
52.5
Unit: cm 1500.0
Wave Overtopping
Pit
1.0 (1 mesh)
66.5
西松建設技報 VOL.34 浮体パネルを用いた越波低減護岸の開発
⑶ 計算結果
計算結果の一例(h=42.5 cm)として,図―9に直立 護岸のみの場合と直立護岸前面に浮体パネルを設置した 場合の越波状況を示す.前出の図―6に示す水理模型実 験結果と同様に,浮体パネルによって,越波量が大きく 低減することが再確認された.
この時の計算から得られた越波流量を水理模型実験結 果と比較した一例が図―10である.計算値は実験値をオ ーダー的にも良好に再現しており,浮体パネル設置時の 越波流量についてもCADMAS-SURFによる計算が有効 であると考える.
4―2 DOLPHIN-3D を用いた動的挙動数値計算
⑴ 概要
川崎・袴田4)が開発した固相,気相,液相の複雑な 相互作用を考慮した3次元固気液多相乱流数値モデ ルDOLPHIN-3D(Dynamic numerical model Of muLti- Phase flow with Hydrodynamic INteractions-3 Dimension version)を用いて,直立護岸前面に取り付けられた越波 低減浮体パネルの動的挙動に関する数値計算を行い,水 理模型実験との比較検証を行うことで,DOLPHIN-3Dの 妥当性・有用性を確認し,浮体パネル用のモデル構築を 目指した.
⑵ 計算条件
DOLPHIN-3Dは3次元モデルであるが,水理模型実験 結果はほぼ鉛直2次元的な現象であるため,y方向(水 路横断方向)の計算格子数を1とすることで,2次元的 に数値計算を行った.計算領域を図―11に示す.静水深
は0.425 mであり,W1,W2は水位変動の計測点である.
x,z方向の計算領域はそれぞれ28.5 m,1.3 mとした.
開境界処理として,沖側に9 mの減衰領域を設定した.
また,x,z方向の計算格子数をそれぞれ850,115と し,浮体パネル周辺の水理現象を高精度に解析するため に,周辺の計算格子を0.01 mと細かく設定した.数値計 算における浮体パネルの密度は500 kg/m3 である.水理 模型実験では,フレームにより,浮体パネルの運動を鉛 直方向のみに規定している.そのため,数値計算では,浮 図 ― 9 計算結果による越波状況(t=13.0 s 時)
図 ― 10 越波流量の比較(計算値と実験値)
表 ― 1 計算条件
計算時間 計算間隔 Δt=0.001 s 計算終了時間 35.0 s 造波方法 造波モデル 造波境界
造波タイプ ストークス波
格子間隔 x方向 Δx=0.01~0.02 m
z方向 Δz=0.01~0.015 m
差分スキーム DONORパラメータ 0.2
Timer Door法 気泡上昇量 0.2 m/s
水滴落下速度 フリー(自由落下)
その他 サブ・ループ 2回
(a) 直立護岸のみを設置した場合
(b) 直立護岸前面に浮体パネルを設置した場合
0.000 0.001 0.002 0.003
ᵄ㜞10cm
ᦼ1.34s
ᵄ㜞10cm
ᦼ1.79s
ᵄ㜞15cm
ᦼ1.34s
ᵄ㜞15cm
ᦼ1.79s
ᵄᵹ㊂q(m/s/
0.004
3m)
ታ㛎୯
⸘▚୯ 䋨ᶋ䊌䊈䊦࿕ቯ䋩
図 ― 11 計算領域
1.3
図 ― 12 護岸前面の水面変動
図 ― 13 浮体パネルの上下運動
体パネルのz方向の運動方程式だけを解くこととした.
入射波条件に関しては,周期Tを2.24 sと固定し,波高 Hを0.04 m,0.10 mの2種類変化させた.
⑶ 計算結果
W2における水面変動 ,浮体パネル上下運動zの時間 的変化について,水理模型実験と数値解析の比較結果を それぞれ図―12および図―13に示す.ここで,入射波 条件は波高0.04 m,周期2.24 sの場合である.また,実 線は計算結果,○印は実験結果を示す.
図―12によると,護岸からの反射波の影響により重複 波が生じ,入射波高0.04 mに対して護岸前面波高が約2 倍になっている.また,計算結果は,水理模型実験にお ける水面変動を精度よく再現している.図―13によると,
水理模型実験と数値解析の両結果でピーク時に若干のず れが生じているものの,本モデルは浮体パネルの上下運 動を概ね良好に再現している.また,図―12および図―
13より,水面変動と浮体パネルの挙動を比較すると,浮 体パネルは水面変動をよく追随していることが実験波形 と計算波形の両方から認められる.
次に,浮体パネルが水面変動に追随することによる越 波低減効果を確認するために,波高が大きい場合の波浪 条件(H=0.10 m)において数値計算を行った.浮体パ ネルの動的挙動,速度場の時間的変化を図―14に示す.
図―14(a)~(d)は浮体パネルが水面変動とともに上
昇・下降する様子である.数値計算では,多相流動場を 解いているため,気液相のみならず,固気液相の相互作 用が確認される.また,波高0.04 mの場合と同様,浮体 パネルは水面変動をよく追随している.
図―14(b)をみると,浮体パネルが護岸天端高より 高い水面を堰き止めている,つまり越波を防いでいるこ とが明確である.また,水理模型実験で撮影した浮体パ ネル周辺の様子と比較すると,計算結果は概ね水理模型 実験結果を再現していることも確認している.
なお,水理模型実験と同様に,浮体パネルと護岸の隙 間からわずかな溢流が認められる.したがって,護岸背 後地への浸水被害をさらに低減させるためには,浮体パ ネルの挙動に影響を与えないように隙間を塞ぐ必要があ ると考える.
§5.おわりに
高潮,高波作用時の越波量を低減する構造形式として,
直立護岸前面に浮体パネルを設置することを提案し,そ の水理的機能および効果を確認するために,水理模型実 験および数値計算を実施した.その結果,以下のような 結論が得られた.
①入射波周期に対する浮体パネルの挙動について,実験 値は理論値と定性的に良く一致し,その設計には理論 的なアプローチが可能である.
②浮体パネルが存在することによって,規則波では80 % 以上,長周期波でも60%以上,越波量を低減すること が確認された.
③浮体パネルに作用する揚圧力は,その上下動によって,
固定されている場合よりも小さくなる.部材等の設計 時に,波圧低減率として考慮することができる.
④各種の数値計算結果は水理模型実験結果を精度よく再 現し,特に,DOLPHIN-3 Dを用いた混相流計算の結 果は,実用化を目指すための有用なデータとなる.な お,汎用性を高めるためには,さらなるプログラムの 改良が必要である.
参考文献
1) (社)日本海洋開発建設協会:沿岸域の災害対策技術,
高潮対策技術,pp.92⊖142,2008.
2) 川崎浩司,舟橋 徹,福本 正:浮体パネルによる 越波低減護岸の有効性に関する実験的研究,土木学 会論文集B2(海岸工学),Vol.66,No.1,pp.741⊖745,
2010.
3) (財)沿岸開発技術研究センター:数値波動水路の研 究・開発,296 p,2001.
4) 川崎浩司・袴田充哉:3次元固気液多相乱流数値モ
デルDOLPHIN-3 Dの開発と波作用下の漂流物の動
的解析,海岸工学論文集,第54巻,pp.31⊖35,2007.
図 ― 14 越波低減浮体パネルの動的挙動に関する計算結果
(a)上昇時 (b)上昇停止時
(c)下降時 (d)下降停止時