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歯科における病診連携

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クリニカル・テクノロジー

歯科における病診連携

佐 野 晴 男

Community Network for Dental Practitioner Haruo S ANO

Community-based Dentistry, Showa University Dental Hospital

 昭和大学歯科病院総合歯科   (2010 年 12 月 2 日受理)

 要旨

 わが国は高齢化が進み,重篤な全身的合併症を有する患者(歯科でいういわゆる有病者)が 歯科医院に訪れる機会が増えてきた.訪問診療や摂食嚥下訓練など, 歯科界に対する社会のニー ズは急速に高まってきている.一医療機関ですべての患者に対応し,治療を完結することが困 難な場合が多くなってきた.良質な医療を提供してゆくには地域の診療所と歯科大学病院,病 院歯科などが役割分担し,綿密な連携を組んで共存共栄を図りつつ,ニーズに応えてゆかなけ ればならない.荏原病院歯科口腔外科では開院以来 16 年にわたり,病診連携を最重点課題とし て取り組み,都の城南地区に非常にユニークな歯科の病診連携ネットワーク(病診お互いの顔 の見える連携関係)を形成することができた.歯科開業医の立場を理解し,そのニーズを的確 につかみ, 電話一本で急患には即応する体制を整備した結果である. これら一連の活動を紹介し,

連携成功の考察を加え,荏原病院での経験を昭和大学歯科病院でどのように生かしてゆくかを

論ずる.

(2)

図 5 3 非紹介患者の希望する治療

図 1 都立荏原病院全景 図 2 拙著単行本

図 4 城南 7 歯科医師会からの感謝状

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図 3 連携医数の推移

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図 5 1  紹介患者の希望する治療 図 5 2 院内他科依頼の患者が希望する治療

(スキャンデータの出典「東京都保健医療公社荏原病院 ・

平成 21 年度版事業概要」)

(3)

 はじめに

 著者は平成 21 年 4 月に歯科病院に新設された総合歯 科の科長として,東京都保健医療公社(平成 19 年まで 都立)荏原病院歯科口腔外科より赴任した.

 荏原病院時代には都の城南地区の歯科医師会・開業医 の方々と良好な連携関係を築くことができた.

 本項ではそのときの連携促進活動について考察を加え つつ紹介し,この経験を総合歯科でどのように生かし発 展させてゆくかについて述べてゆきたい.

 1.歯科での病診連携の必要性

  「高齢者の 40%弱が死ぬ前に半年以上の寝たきりにな る.そのうちの 1/5 は 2 年以上の要介護状態となる」.

これは 10 年以上前の厚生省(当時)の予測である.寝 たきりになった方々の大きな楽しみは,歯ごたえのある おいしいものを食べることで,歯科医師の仕事である.

急激な高齢化にともない,有病者が増加し,リスクの高 い患者が歯科を訪れる機会が増えてきた.一方で,歯科 界がこれらの治療ニーズに十分に応え切れていない現実 がある.

 永年にわたり,歯学教育は保存,補綴,口腔外科など の各講座が技術教育中心で行ってきた.在学6年間で教 えるべき事柄も増え,学生も習得に汲々としている状態 にある.大学の教育システムは講座制の上に成り立ち,

各講座間の横の連携が必ずしも十分にとられているとは いえないように思われる.リスクの高い患者にどう対応 するかという総合的な教育は,各人の卒後の努力に委ね られて来た.これからの歯科医世代は,複雑多様化した 歯科へのニーズに応えねばならないが,永年一つの講座 で専門性を掘り下げてきた教員が彼らを教えている,と いう矛盾に歯科界は直面している.

 1)講座制教育の結果

 有病者へ総合的にどう対処するか,という教育が不足 した結果,以下のような事例が生まれる.

  (1)心肥大患者の抜髄依頼

 東京医科歯科大学歯科麻酔科を経て,新設された障害 者歯科に移籍し,特別な配慮を要する患者の治療に当 たっていた時のことである.ある科から「心肥大」患者 の抜髄を依頼された.現れたのは屈強な男性であった.

非常に健康そうな外見からは心臓が悪いとは思えず尋ね たところ,大学のサッカー部に所属するスポーツマンで あった.健康診断で胸部 X 線写真を見た医師から「心 臓が大きい」と言われただけで,病的な心肥大などでは なく,激しい運動で鍛えられたスポーツ心臓であった.

抜髄に何の危険性もないはずで,依頼者に差し戻した.

  (2)再生不良性貧血患者の抜髄依頼

 前項の依頼者が後日再び,再生不良性貧血の女性患者 の抜髄処置を依頼してきた.口腔内を診ると,この 2 週 間以内に抜いたと思われる抜歯窩が 3 か所認められた.

初診受付から口腔外科に回り, 保存不可能な残根を抜き,

その科へと回された結果であった.抜髄よりはるかに侵 襲の大きいはずの抜歯でも何ら問題を生じなかった.抜 髄にも危険はないはずで,これも依頼者に差し戻した.

  (3)病名に対する怯え

  (1),(2)とも学生を教える立場の人間が,患者の合 併症の問題点と,行いたい治療侵襲とを判断しようとも しなかった結果である.恐そうな合併症名に怯え,この ような対応となった.この指導者に教わる学生達から,

有病者治療に積極的に立ち向かう若者が育つのを期待す るのは困難である. 歯科医療の最前線で孤独な開業医が,

リスクの悪そうな患者の治療に消極的になるのは当然の ことと思える.

  2 )歯科医療へのニーズの高まりと病診連携の必要性  我が国の高齢化は急激に進み,歯科医院に有病者が訪 れる機会も増加してきた.また,寝たきりの患者に対 する訪問診療や摂食嚥下訓練などへのニーズは急速に高 まって来ている.昔のように一医療機関ですべての患者 に対応し,治療を完結させることは困難な場合が多く なってきた.良質な医療を提供してゆくには,診療所と 大学付属病院,病院歯科などが役割分担し,綿密な連携 をして,共存共栄を図ってゆかねばならない時代となっ て来ている

1)

 2.都立荏原病院

 都立荏原病院(図 1 )は平成 6 年 10 月に 450 億円の 巨額をかけて新装再開院した.地域の診療所との共存共 栄を目指し,「病診連携」推進を最重点課題として取り 組んだ. 今でこそ病診連携という言葉は常識となったが,

当時は耳慣れないものであった.

 1)荏原病院の重点課題

 病院は地域の医療機関が対応困難な疾病を重点医療課

題(表 1)として取り組んだ.

表 1  都立荏原病院の重点医療課題 1 .脳血管疾患医療

2 .肝疾患ならびに神経系難病医療 3 .リハビリテーション医療

4. 法定伝染病などの感染症・国際伝染病・エイズ の医療

5.救急医療

6.精神科医療

7.障害者歯科医療

(4)

これらの患者が歯科へも併診する場合が多く,歯科の外 来患者の 60 %以上が何らかの問題を有していた.

 2)連携医制度の特徴

 荏原病院の連携医制度の特徴を以下にあげる.

  ( 1 )医療連携室

 本来の業務の合間を縫って連携業務を行うのではな く,連携業務に専念する医療連携室を設置したことが,

当院の連携成功の要因だと考える.医療連携室の主な業 務を以下に挙げる.

 a)患者に関するすべての情報管理

 紹介患者について紹介元に返信を出したか否かを,こ こでコンピューター管理する.初診時・治療終了時など の節目で紹介患者に関する報告がなされていなければ,

毎月末に担当医に未報告患者リストが届く.

  b )連携医名簿・地図の作成

 患者情報の交換や逆紹介(後述)に活用するため,

五十音別,各医師会・歯科医師会別の連携医名簿と,連 携医の位置を示した地図を作成する.これは毎年改訂さ れる.

 c)連携医との懇親・懇談会の企画と運営

 年に一回 (病院発足当初は数回), 都城南地区の医師会,

歯科医師会員を対象に集いを開催する.お互いの顔の見 える連携を深めるための意見交換の場であり,病・診双 方の要望や苦情などが持ち寄られ討議される.

 d)機関誌の編集・発行・発送

 機関誌「連携便り」の編集から発送までを行う.開院 当初は毎月,後には多色刷りの隔月発行となった.

  (2)連携医の特典

 現在でも見学すら許さない閉鎖的な病院が多い.荏原 病院の連携医制度で特筆すべきは副主事医制度で,連携 医が院内での治療に参加できるものである.紹介した患 者の治療を見届けたい,と患者同伴で来院する真面目な 歯科医師が少なくない.「お互いの顔の見える連携関係」

構築に大いに役立った.この制度に注目した厚労省が,

病院歯科共同治療管理料として健康保険の算定項目に取 り入れられたこともあった.また,紹介状無しで当院に 受診した患者で,地域の診療所で対応可能なものは,住 居近くの診療所に紹介する「逆紹介」という言葉は,荏 原病院が発信源である.

 3.荏原病院歯科口腔外科の病診連携

 大学を卒業以来,同僚が複数いる職場で護られて働い てきた.医療の最前線に一人で働く開業医の立場と比べ れば,はるかに心強いものである.地域診療所と患者を 取り合うのではなく, それらの役に立つ存在を目指した.

 1)歯科口腔外科の方針

 表 2 には歯科口腔外科が特に力を入れた患者を示す.

基本的に地域の診療所では対応が困難な患者を診るよう 努めた.口腔外科処置に限らず,一般歯科治療も積極的 に行った.地域の訪問診療支援には特に力を入れ,往診 では手がけにくい観血的処置には短期入院で対応し,そ の後の治療は紹介元へ戻した.依頼されたことのみを行 い,患者を紹介元に必ず戻し,治療内容の批判などは決 してせぬように努めた.

 大学病院よりはるかに敷居を低くし,連携医からの急 患には電話一本で即応した.予約患者の診療の合間を 縫って急患に対応することは,自分たちの腕と度胸と判 断力,そして評判を上げる,を合い言葉に,地域の開業 医に貢献する存在を目指した.

  2 )規模・スタッフ

 外来の規模とスタッフを表 3 に示す.院発足当初は常 勤者 3 人であったが,実績をあげた結果,数年前に一人 増員が認められた.常勤者はそれぞれ麻酔,口腔外科,

補綴・障害者歯科の専門性を持ち,患者の特徴に応じ協 力して患者に当たった.

 歯科医師に比べると歯科衛生士の数は不足している が,外来診療の合間を縫って各病棟の入院患者の口腔清 掃や NST 活動にも参加してくれている.

表 3 歯科口腔外科の規模・スタッフ

○治療台:6 台(内,感染症用 1 台)

・常勤歯科医: 4 人( 3 年前に 1 人増員)

     ( 専門は歯科麻酔, 口腔外科, 補綴 ・ 障害者)

・研修医: 2 人( 2 年コース・ 1 年 1 人)

・非常勤:月〜金まで各 1 人

・不定期の非常勤:口外,補綴,歯周病,放射

・歯科衛生士:常勤 2 ,非常勤 3

表 2 歯科口腔外科の方針

歯科口腔外科の方針

―口腔外科に限らず何でもやる―

1.先天的・後天的障害者

   (地域訪問診療支援には入院でも対応)

2.全身的合併症を有する患者(有病患者)

3 .口腔外科患者 4 .感染症患者 5 .歯科恐怖症 6 .睡眠時無呼吸患者

※  この他,診療所では対応が困難なものを受け

入れ,地域との共存共栄をはかる

(5)

 3)連携への努力

  ( 1 )歯科医師会への働きかけ

 都の城南地区には 8 医師会,7 歯科医師会があり,開 院の 2 年前から院長予定者,事務局長予定者は医師会に 対し,連携の働きかけを開始した.歯科医師会に対して は,開院 3 か月前に表敬訪問を行っただけであった.著 者は着任してから各歯科医師会に出向き,病診双方の共 存共栄を目指す方針説明を精力的に行った.

  (2)紹介元への報告

 紹介患者の治療終了後は,治療経過を必ず報告した.

医療連携室の報告書発行有無の管理は非常に役立った.

返信の末尾には「ご紹介誠にありがとうございました.

今後ともよろしくお願いいたします.」の文章が自然と 出てくるようになった.

  ( 3 )機関誌への「歯科のコラム連載」

 著者は平成 8 年より毎月欠かさず機関誌に「歯科のコ ラム」を連載した.多彩な紹介患者の話題,勉強会開催 の知らせ,スタッフ紹介など,わかりやすく読みやすい 文章を心がけた.掲載される記事は校正の段階で,院上 層部のチェックを受ける.コラム連載は理解されにくい 歯科について,院長をはじめとした医師やパラメディカ ルスタッフ,そして事務へのアピールをも兼ねていた.

興味を引く記事に対しては院内,院外を問わず反響があ り,文章を書く喜びを味わった.平成 16 年には医歯薬 出版より単行本 (図2)

2)

となり, 現在第 2 刷に入っている.

  (4)院内他科の協力

 重篤な全身的合併症を有する患者が多く,安全に治療 を行う上で院内他科の協力は不可欠であった.当科の求 めに院内他科は快く応じてくれた.歯科の連携医の中に は,自分や家族が病気に罹った際に助けを求めてくるこ とも少なくなく,他科はこれらにも快く即応してくれ,

地域歯科開業医の病院に対する評価が高まった.

  ( 5 )その他

 上にあげたものの他,院主宰の懇親懇談会にはスタッ フすべて歯科衛生士までが参加し,「お互いの顔が見え る連携」に努めた.地域の歯科医師会からの講演依頼も 徐々に増え,著者のみならず次席の医長にまで依頼が舞 い込むようになった.また,興味深いテーマを選び,院 内で勉強会も開催した.また,歯科医師会の新年会など の行事には欠かさず参加し,交流を深めた.

 4)連携の結果   ( 1 )紹介率と連携医数

 荏原病院歯科に患者を送ると詳しい報告書付きで必ず 戻って来る.患者からは接遇がよかったとの報告も聞か れるなど,よい評判が広がり,患者の紹介率は開院 3 年

後には 30%を超え,以後も 30%を下回ることはない.

荏原病院は紹介状を持たない患者も診ることが,発足時 の地域住民との取り決めで課せられていた.完全紹介制 ではない中での紹介率 30%以上達成は特筆されるもの であると考える.

 図 3 に示すように開院後 2 年足らずで歯科の連携医数 は医師の連携医数を上回り,約 900 人に達した.

 また,周辺の医師会員で連携医登録をした数は全体の 約 30 %であるのに対し,歯科医師会員の約 60 %が連携 医となってくれた.

 毎年行われる院主宰の懇親会でも,歯科連携医対象の 場合は連携医の 1/9 以上に当たる 100 人を超える参加を 得た.各歯科医師会の会長はもとより,一般会員多数が 参加し,都の歯科医師会会長(地元・世田谷区歯科医師 会出身)までもが多忙の中,出席してくれた.

  ( 2 )患者分析

 表 4 1 には平成 20 年度に手術室で行った手術の内訳 を示す.手術室での抜歯のほとんどは有病者に対するも ので,連携医から紹介である.表 4 2 には外来対応の患 者のうち特徴的なものを挙げる.静脈麻酔・鎮静法を併 用した患者が目立つ.

  ( 3 )都衛生局長への感謝状

 開院 2 年後の平成 8 年には城南 7 歯科医師会会長連名 で,当科への感謝状が病院長に渡された(図 4).この 効果もあり,この年度末には寝た状態で撮れるパノラマ X 線撮影装置も導入できた.1,000 万円を超えるもので,

訪問診療に力を入れる連携医に役立っている.

表 4 1  平成 20 年度の手術室手術の内訳

      手術名 件数

抜歯術 53

プレート除去術 9

顎変形症手術 7

良性腫瘍摘出術 6

インプラントフィクスチャー埋入術 5

嚢胞摘出術 5

腐骨除去術 4

上顎洞根本術 2

表 4 2 平成 20 年度外来対応の患者の特徴的なもの

睡眠時無呼吸症候群患者に対するマウ スピースによる対応

58 例

(患者実数)

静脈麻酔を用いた歯科恐怖症・嘔吐反 射亢進患者・障害者

350 例

(延患者数)

インプラント症例 5 例

(患者実数)

(6)

 5)歯科の病診連携が円滑に運んだ要因   ( 1 )病診連携が開院当初からの最重点課題

 すでに機能している病院は,日常的な勤務に慣れてし まったスタッフで硬直化し,上層部が新しい企画を始め ようとしても反応が鈍い傾向にある.先にも触れたよう に,開院当初から,病診連携を最重点課題として,院内 の全職種が一致団結して取り組んだことが成功の第一に あげられよう.

  (2)専従者で構成された医療連携室

 すでに課せられた仕事の上に連携管理業務が加わって も,きめの細かい連携業務は期待できない.医療連携室 を開院当初から設置した初代事務局長の大英断であった.

  (3)副主治医制度(地域医師の治療参加)

 この制度を利用して,患者同伴で当科の診療に参加す る連携医が少なくない.患者の誰しも大きな病院に受診 するのは心細いものである.紹介状を持たされるだけで も心強い上に,かかりつけ歯科医が傍に付いて治療に参 加してくれることは,大きな安心感といえよう.

  (4)逆紹介制度

 私費治療も絡む歯科では,逆紹介した場合のトラブル を危惧した.しかし,当科から紹介されたのだから,質 の悪い治療はできない,と意気に感じてくれる診療所ば かりで,トラブルを耳にしたことはない.

  ( 5 )病院歯科に対するイメージの違い

 図 5 1 は紹介患者の希望する治療内容を示す.紹介元 の大部分は歯科の連携医であり,依頼内容の 2/3 は難抜 歯を中心とした外科処置で占められて,補綴,保存など の治療は 1/3 弱となっている.図 5 2 は入院患者を含め た院内他科からの依頼患者の希望する治療内容である.

補綴,保存が 2/3 を占め,外科処置は 1/3 弱に過ぎず,

紹介患者とは逆の比率となっている.図 5 3 は非紹介の 患者が希望する治療内容を示す.図 5 2 と同様に一般歯 科治療が多くを占める.これらから,歯科連携医には口 腔外科機能を主に求められていることがわかる反面,医 師をはじめとした院内の他職種からは 「院内にある歯科」

と考えられていることがわかる.また,非紹介患者は病 院近隣の一般住民であり,彼らからも「大きな病院内に ある歯科」と思われていることがわかる.都の城南地区 の環境を分析した上で, 口腔外科機能だけでなく, 補綴,

保存処置も行うとした方針は間違いではなかった.

  (6)お互いの顔の見える連携努力

 紹介患者についての報告書を書いたこと,副主事医制 度,勉強会,懇親・懇談会の開催,歯科のコラムの連載 などを通じて,大切な患者を安心して紹介できる「お互 いの顔の見える連携関係」が形成された.また,歯科の スタッフすべてが地域に対するサービス精神に富んだ人

間で形成されていたことは著者の幸運である.

  ( 7 )病院歯科の心がけること

 紹介された患者についての報告はきめ細かく行う.依 頼された治療以外の処置は紹介元の了解無しには行わな い.治療内容の批判をしない.依頼された治療が終了し たら,必ず患者を紹介元に戻す.

 病診お互いが信頼感に満ちた連携関係を保つには,以 上にあげたことを心がけねばならないと学んだ.

  (8)数は力

 医科の連携医数を歯科 1 科で遙かに凌駕した結果,外 科や内科などの大きな科より収益は劣っていても,歯科 の存在は無視できないものになった.まさに数は力,で あると実感した.荏原病院歯科口腔外科へ惜しみない協 力をして下さっている城南7歯科医師会に心から感謝す る次第である.

 4.昭和大学歯科病院総合歯科

 総合歯科は平成 21 年 4 月に設置された.幸運にも東 京女子医科大学歯科口腔外科の筆頭講師であった丸岡靖 史先生 (歯学部 4 期生) を准教授として迎えられた. また,

荏原病院時代に非常勤として貢献してくれた,マイヤー ズ・三恵先生(旧姓田代・歯学部 12 期生・旧 1 口外科)

も助教として加わった.歯学部卒業生の約 95%が開業 するか開業医に勤める.補綴, 保存, 口腔外科小手術(難 抜歯程度まで)などを含む総合的な治療のできる歯科医 師(General Practitioner)を育てる体制を早期に整える ことができた.

 1)発足以来の主な実績

 表 5 に当科発足以来の主な実績を示す.初診患者数,

紹介患者数ともに順調に伸びている.紹介元の大部分は 城南地区の歯科診療所からであるが,歯科病院は交通の 便がよいことから,神奈川県の各歯科医師会にも連携を 呼びかけ, この地域からの紹介患者も最近増加してきた.

 紹介患者のうちの約 30%が何らかの全身疾患を有し ており,そのうちの約 40%は心・血管系の合併症患者 であり,次いで脳血管障害・認知症・精神疾患を含む神 経・精神疾患が 20%となっている.

表 5 総合歯科の実績

平成 21 年度 22 年度 (4〜11 月)

初診患者数 826 人 884 人 紹介患者数 595 人 578 人

紹介率 70.0 % 65.4 %

延べ患者数 4,686 人 6,217 人 入院患者数 15 人 28 人 院全体に占める

医療収入比率 1.69 % 2.28 %

(7)

 また,歯科治療恐怖症(異常絞やく反射患者を含む)

患者は非常に多く,歯科麻酔科の協力も得て,連日 4 , 5 例以上を静脈内鎮静法の併用下に治療を行っている.

 当科だけでは対応が困難と判断された患者に対して は,院内各科に協力を求めている.この際も他科に依頼 状を書いて,その後を委ねるだけにとどまらず,医局員 が依頼先の治療にできるだけ立ち会い,各科のスキルを 習得するよう心がけている.歯科病院内の様々な優れた 技術に触れないのは非常にもったいない.

 2)歯科病院のさらなる発展に向けての提言

 事務の協力を得て連携係を設置し,紹介元への報告書 管理にはすでに着手した.最近では院全体で,紹介患者 についての報告は 90%以上なされてきている.

 昭和大学歯科病院に患者を送ったが何の報告もない し, 患者が戻ってこない, 頼んだ以外の治療を行われた,

治療内容の批判をされた,等々を荏原病院時代に耳にし た.紹介元で行われた治療内容に批判的なコメントをし た結果,永らく地域歯科医師会との関係が損なわれた病 院歯科を聞いたことがある.誰しも自分の失敗を見られ たくはなく,援助を求めてきている状況を理解するべき である.できる限り暖かく支援する立場をとることで,

地域との信頼関係は深まる.

 歯科病院は規模,職員とも,荏原病院歯科口腔外科と は比較にならないほど大きい. 22 年度からは歯科病院 の全職種が参加するワークショップも開催されるように なり,院内の全職種の方々の,病院をよりよいものにし たいとの機運の高まりを感じる.

 地域における高度な歯科医療機関としての役割を自覚 し,サービスに徹する病診連携を発展させてゆけば患者

紹介率も向上する.これにより患者増が図れ,歯科病院 のさらなる発展が期待できると確信する.

 おわりに

 おたくがそばにいてくれるようになってから,以前で は手を出さなかった患者でも挑戦する気になった.おた くは我々開業医の「駆け込み寺」だよ.荏原病院開院以 来 16 年で,連携医の方々からこのように言っていただ ける存在になることができた.

 経済が冷えている社会情勢で,都立病院は厳しい実績 主義をとっている.収益がふるわない科はスタッフを削 減される場合すらある.このような中で荏原病院歯科口 腔外科は常勤者を一人増員できた.破綻するはずがない と誰もが思っていた日本航空ですら会社更生法の適用を 受けた.昭和大学歯科病院の皆さん一人一人が,さらな るコスト意識を持ち,近隣の歯科診療所との良好な連携 関係を形成できれば,病院実績は必ず上がり,旗の台 C サイトへの移転も発展的に行われるものと確信する.

 赴任の時点で定年までわずか 4 年という短い間ではあ るが,これまでの数々の職場での経験を,臨床に教育に 反映させてゆきたい.歯科病院ならびに地域の歯科開業 医の皆様のご協力を心からお願いする次第である.

文   献

1 ) 佐野晴男, 石井拓男, 梅田昭夫, 梅村長生, 坂井 剛:コミュニティと歯科医療をつなぐ連携システム の実践.第 1 版,東京, 2001 ,医歯薬出版, pp 106 126

2) 佐野晴男:都立荏原病院佐野晴男の病診連携まっし

ぐら.東京,2004,医歯薬出版

図 5 3 非紹介患者の希望する治療図1 都立荏原病院全景 図 2 拙著単行本図4 城南 7 歯科医師会からの感謝状ㅪ៤කᢙ䈱ផ⒖010020030040050060070080090010006789101112131415䋨ᐔᚑ䊶ᐕᐲ䋩䋨ੱᢙ䋩ක⑼ㅪ៤කᢙᱤ⑼ㅪ៤කᢙ図3 連携医数の推移଻ሽ䊶⵬✄ಣ⟎㗶㑐▵∝ญ⣧ᄖ⑼ಣ⟎䈠䈱ઁ㗶㑐▵∝଻ሽ䊶ญ⣧ᄖ⑼ಣ⟎⵬✄ಣ⟎䈠䈱ઁ଻ሽ䊶⵬✄ಣ⟎㗶㑐▵∝ญ⣧ᄖ⑼ಣ⟎䈠䈱ઁ図5 1 紹介患者の希望する治療図 5 2 院内他科依頼の患者が希望する治療 (スキャンデータの出典

参照

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