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12月の中央教育審議会「特別支援教育

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(1)

奈川県の高校等への質問紙調査から

著者 内野 智之, 高橋 智

雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系

巻 57

ページ 231‑252

発行年 2006‑02

その他の言語のタイ トル

Investigation for the Actual Condition of Education for Student with Mild Developmental Disabilities in Upper Secondary School : A Case of Kanagawa Prefecture

URL http://hdl.handle.net/2309/1469

(2)

* 神奈川県立相模原養護学校・東京学芸大学大学院

** 東京学芸大学総合教育科学系特別支援科学講座・連合学校教育学研究科発達支援講座

*** 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町

4–1–1)

Ⅰ.調査の目的

従来から高校における発達障害児の在籍が指摘され ており,2004

12月の中央教育審議会「特別支援教育

を推進するための制度の在り方について(中間報告)」

でも「高等学校に在籍している

LD

ADHD

・高機能 自閉症等の生徒に対する指導及び支援の在り方」の

「早急な検討が必要である」ことが提言された。また

2004

年12月

3

日制定(2005

4

1

日施行)の「発達 障害者支援法」では初めて「発達障害」を認定し,「発 達障害児(18歳以上の発達障害者であって高等学校等 に在学するものを含む)がその障害に応じ,十分な教 育を受けられるようにするため,適切な教育的支援,

支援体制の整備その他必要な措置を講ずるもの」と国 及び地方公共団体の責任を明らかにしている。

しかし高校等に在学している発達障害児の実態につ いては,これまで一部の調査報告がある程度で,その 詳細はほとんど明らかになっていない。例えば細渕

(1996)が

1995

年に長野県の全日制高校を対象に行っ た調査では,「てんかん」「肢体不自由」の生徒が多く,

「知的障害」の生徒は

2

名しか把握されなかった。また 全国

LD

親の会が

2000

年に実施した調査では,会員の 子どもの14%が「高校相当」の学校に在籍し,その内 訳は公立高校

23.0

%,私立高校

27.8

%,通信制高校

10.0

%,専修学校5.6%,フリースクール

1.5

%であっ た(藤本健:

2001)。一方,佐藤・徳永(2003)が都

道府県および政令指定都市の教育委員会を対象に行っ た後期中等教育段階における軽度発達障害生徒への教 育支援に関する調査によれば,公立・私立高校におけ る軽度発達障害生徒の在籍状況がほとんど把握されて いない現状が明らかにされ,何よりもその実態把握の 必要性が指摘されてきた。

本稿ではそうした指摘をふまえ,神奈川県を事例と して,高校等に在籍する軽度発達障害児(軽度知的障 害,LD,

AD/HD,アスペルガー障害,高機能自閉症等)

の教育実態および彼らの学習・学校生活・進路等の諸 課題を,質問紙調査を通して明らかにすることを目的 とする1)。神奈川県を事例とする理由は,1990年代後 半から旧第二教育センターが中心となって「インクル ージョンを目指した教育の在り方研究」が行われ,

2002

年に「これからの支援教育の在り方検討協議会」

がまとめた『これからの支援教育の在り方』では,

小・中学校だけでなく高校における支援教育の実践的 研究の必要性が提案されているからである。

ここ数年,高校の教員が総合教育センター長期研修 員として高校における特別支援教育に向けた調査研究 を行うようになってきている。また

2004

年度より県立 高校に県立養護学校の分教室が設けられた。これは養 護学校の過大規模化対策によるものだが,「新たな養護 学校再編整備検討協議会」は,2004年10月の「養護学 校再編整備の在り方について(中間報告)」において

「既設の分教室の状況を検討する中で,分教室の果たす

高校等に在籍する軽度発達障害児の教育実態

── 神奈川県の高校等への質問紙調査から ──

内 野 智 之

*

a

橋   智

**

特別支援科学講座

***

(2005

9

月30日受理)

キーワード:高等学校,軽度発達障害,特別支援教育,特別ニーズ教育,神奈川県

(3)

役割や恒常的な設置に向けた検討も必要になるであろ う」と今後の位置づけに含みを持たせている。これら の神奈川の動向は,全国的に見ても特徴的なものとい えよう。

Ⅱ.調査の方法

高校等における軽度発達障害児の教育実態(

q

軽度 発達障害児の在籍状況と障害名,

w

学習面とその対応,

e

学校生活の様子とその対応,

r

進路とその対応,

t

教職員の研修と今後の対応)を明らかにするため,質 問紙調査票「神奈川県における軽度発達障害児の後期 中等教育に関する実態調査」を作成し,それを神奈川 県内の全ての高校等

308

校(公私立高校255校,専修学 校高等課程・技能連携校14校,フリースクール等39校)

に郵送して実施した。

調査期間は

2004

12

16

日−

2005

1

20

日。

133

校(公立高校

95

校,私立高校

21校,専修学校高等

課程・技能連携校

6

校,フリースクール等

11校)から

回答があり,回収率は43.2%であった。

Ⅲ.調査の結果

3 .1  軽度発達障害児の在籍状況と障害名

表 1 

のように軽度発達障害児の在籍を回答したのは

35校(26.3

%)であり,各校種に共通して年々在籍数

が増えている。今回の調査では,軽度発達障害児の在

籍の

90.9%が私立通信制・専修学校高等課程・技能連

携校・フリースクール等であった。障害別では軽度知 的障害,LD,高機能自閉症,AD/HD,アスペルガー障 害の順に多かった。

軽度発達障害の出現率に比して在籍の回答がきわめ て少数であるのは,例えば「現場の高校教員の多くが 軽度発達障害,広汎性発達障害というものに無理解,

無関心であり,特に学力の高い学校にはそういう子ど もは居ないと思っているという現状がある。しかし現

表 1  軽度発達障害児の在籍状況と障害名      n

=35(26.3%)

:nの後の%は,区分ごとの調査回収校数に占める比率を表す。以下同じ。

(4)

実にはトップ校にもそういう子どもは入学してくる」

(公立高校養護教諭),「アスペルガー症候群の生徒は,

入試においては特に問題なく通過してくるので,授業 での特別の配慮や

SST

を必要としている状況であって も,教員は生徒の困り感に気づかず,指導法への関心 も薄いのが実情」(公立高校養護教諭)「保護者との面 談で,対人関係や社会性についての話題から本人に軽 度発達障害があることが判明したが,LD

ADHD

ではなかなか保護者も障害を明らかにしない場合が多 い。学習やクラス活動での問題が生じてはじめてわか ることもある」(公立高校担任)と述べているように,

ここで示された数字はあくまでも学校側が書類などで 正式に把握している数字であるといえる。

障害の判断理由をまとめたものが表 2 であり,医師 の診断が出ている者は全体で

9

人と低く,保護者の届 出が

26

人と一番多かった。

中学校卒業時の学籍については表 3 の通りであるが,

「通常学級」46人,「特殊学級」9人,「養護学校」4 と通常学級在籍が多かった。また療育手帳の有無につ いては,「あり」7人,「なし」26人,「詳細不明」18人 と手帳を持っていない生徒が多く,また手帳所持に関 しては詳細不明として学校で十分に把握できていない 様子が示された(表 4 )

3 .2  軽度発達障害児の学習状況とその対応 軽度発達障害児の在籍を回答した

35校のうち,表 5

のように特別の援助が必要な生徒がいることを回答し

たのは

24校であった。 a

d

はそれぞれ軽度発達障害

の特徴であるが,a

LD, bは不注意優勢型の AD/HD,

c

は高機能自閉症・アスペルガー症候群,

d

は多動 性−衝動性優性型のAD/HDを想定したものである。

表 6 はこの

LD

的特徴をもつ生徒の詳細を質問した ものであるが,「計算する」ことに困難を持つ生徒が一 番多く見られ,「聞く」「話す」「書く」「推論する」に

表 2  障害の判断理由(複数回答 単位:人)

n=35(26.3

%)

表 3  中学校卒業時の学籍(複数回答 単位:人)

n

=35(26.3%)

表 4  療育手帳の有無(延べ人数 単位:人)

n

=35(26.3%)

註:私立には,全日制と通信制が含まれる。以下同じ。

(5)

困難を持つ生徒もまんべんなくいることがわかる。

表 7 は不注意優勢型のAD/HDの特徴である。差はほ とんどないが「精神的持続を要する課題に従事するこ とを避けたり嫌う」生徒が一番多く,次に「課題や活

動を順序立てることが困難である」生徒が続き,「指示 に従えず,課題を最後までやり遂げることができない」

「外からの刺激に注意が容易にそらされる」生徒が同数 で多く指摘された。

表 5  特別の援助が必要な生徒(延べ人数 単位:人)

n=24(18.1

%)

表 7  「課題の遂行に注意を持続することができない」生徒(延べ人数 単位:人)

n=11(8.3

%)

表 6  「学習内容を理解する上でとくに困難が見られた」生徒(延べ人数 単位:人)

n= 16(12.0

%)

(6)

表 8 は高機能自閉症・アスペルガー症候群の特徴で あるが,「こだわりがあり,融通が利かない」生徒が一 番多く,「話が噛み合わず,やりとりのある会話になら ない」「できることとできないことの差が激しい」「急 な変更にうまく対処できない」「物事の一部分に注意が 集中しやすく,全体の状況をつかむことが困難である」

生徒がまんべんなくいることが指摘された。

表 9 は多動性−衝動性優性型の

AD/HDの特徴である

が,「授業中座っていることができず,しばしば立ち歩 く」「質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまう」

生徒の存在が指摘されている。

このような多様な軽度発達障害児にとって,困難が 見られた教科についてまとめたものが表 10であるが,

数学,国語,全教科の順に多かった。

表 8  「仲間と一緒に課題に取り組むことができない」生徒(延べ人数 単位:人)

n

=17(12.8%)

表 9  「授業の進行の支障となる行為をする」生徒 (延べ人数 単位:人)

n

8(6.0

%)

表 10 困難が見られた教科(延べ人数 単位:人)

n=20(15.0%)

(7)

表 11は学習困難を有する生徒にどのような特別な対 応をしているかをまとめたものである。フリースクー ルや専修学校,技能連携校等では特別な対応が比較的 可能とするのに対し,多くの公立高校では個別課題や 補習などで対応しているのが現状である。しかし公立 全日制においても特別の教育課程を用意したり,マン ツーマンで指導する学校がいくつか見られた。

次に,軽度発達障害生徒が試験で「赤点」をとった 場合に通常児と比べて特別な対応を行っているかにつ いてまとめたものが表 12である。公立全日制でも「評 価基準を工夫して他の生徒と差を設けている」という ように,軽度発達障害児への特別な対応を行なう学校 が見られた。

進級認定については表 13のように,特別な対応をし

ていないと答えた学校の方が多いが,公立全日制にお いて「その生徒のレベルにあった内容を設定しクリア させる」と回答している学校が見られた。卒業認定も 進級認定と同様であった(表 14)

なお教務システムや評価に関し,複数の管理職から

「高校でも

40

人学級では人数が多すぎるという意見が 教員の大半です。ある種の教育を受ける機会の阻害で はないかと考える。教職員にゆとりがなくなっており,

普通高校で受け入れるためにはかなりの準備が必要と 考える。入学はさせても卒業の保障はしないという受 け入れしかできない」(公立高校管理職)「単位制など の課程で後期中等教育を補償していくべきと考える。

卒業・在籍年数や単位認定で難しい問題(公平基準)

がある。一般生徒との線引きも難しく,学習レベルに

表 11 学習困難に対する特別な対応(複数回答)

n

=17(12.8%)

表 12 生徒が試験で「赤点」をとった場合の特別な対応(複数回答)

n

=18(13.5%)

(8)

も影響が考えられる。人権問題だけを前面に押し出す のでは不自然さが残り解決できないと思う」(公立高校 管理職),「一斉授業を伝統とする学校と,個別にフォ ローすべき生徒の存在。このギャップを解消しながら 指導を続けるための具体的対処法の確立が必要であろ う」(私立高校管理職)という意見が出された。

3 .3  軽度発達障害児の学校生活の様子とその対応 表 15は学校生活を送る上での問題をまとめたもので ある。「話が噛み合わずコミュニケーションがとれない」

「友達ができず孤立」「友人とトラブルをしばしば起こ す」などの友人・対人関係の困難を抱えている生徒が 多くいることが示された。また軽度発達障害児への

「言葉による誹謗中傷」「仲間はずれ」「会話不成立が誤

解され喧嘩に発展」などの問題が挙げられた。この点 に関して「校内には多くの課題があり,優先順位が下 がってしまう。これらの生徒がいわゆる底辺校に行く 場合,いじめの問題が深刻であり,また授業中のうる ささに耐えられないといった問題,落ち着いて勉強で きない状況がある」という記述がみられた。

軽度発達障害児の不適応行動については「できない と思うと殻に閉じこもり逃げてしまう」「定期テスト中 にパニックになり,泣いたり机を叩いたりした」「集団 行動をとらない」「不登校」「チック症状」などが示さ れ,その際に担任が相談した人としては養護教諭,生 活指導担当等が挙げられていた。カウンセラーが一部 にしか配置されていない現状では,彼らが対応のキー パーソンになっていることがうかがえた。

表 13 進級認定における特別な対応(複数回答)

n=18(13.6%)

表 14 卒業認定における特別な対応(複数回答)

n=18(15.3%)

(9)

不適応行動については「従来軽度発達障害の生徒は その実情を認知されず,学校生活上に問題が生じると 単純に排除されてしまってきた。彼らが学校生活で問 題となるのは,授業の理解ということよりも,むしろ 同級生との人間関係だったり,あるいは教室に入って 大勢の中で授業に参加することができないというよう な付帯状況に現れる」「LD,ADHD,アスペルガーな どは本人も周囲にも気づかれないまま(「障害」という 認識のないまま)社会に出ていっている人もいると思 われる。軽度発達障害とはいえ,周囲の理解と協力が あれば普通に生活できる子もいる。教員や保護者の理 解を深め,そのような生徒たちのサポートシステムを 強化していくことが必要」などの記述がみられた。

3 .4  軽度発達障害児の進路状況とその対応 軽度発達障害に配慮した進路指導を行っている学校

は全体の

56.5%であったが,私立各校種が「職場実習」

「障害の特性に応じた進路学習」「職場見学」「職能検査 を受けるよう働きかけ」「個別移行支援計画の作成」

「療育手帳を取得するよう働きかけ」を行っていたのに 対し,公立高校では「職場実習」「個別移行支援計画の 作成」「療育手帳を取得するよう働きかけ」を行ってい なかった。この点に関しては,公立高校進路担当者の

「就労支援は非常に大きな課題であるが,本校ではまっ たく行われていない」という記述に代表された。

卒業後の進路は大学進学から福祉施設への通所まで 幅広い(表 16)。技能連携校から「学校教育までは考 えられているが,卒業後等の受け入れがあまりにも少 なすぎる。もっと企業等が理解する専門セクションを 多く設けるべきだ。保護者は長期に向けての本人の将

来への生活が不安である」という声が出された。

「進路変更」という形で高校等を中途退学していっ たケースについてまとめたのが表 17である。その理由 として「学校生活についていけず精神的不安定になっ てしまった」6人,「友人とのトラブルが直接的原因だ った」4人,「不登校になってしまったため」3人,「単 位・進級認定・卒業認定要件を満たせなくなった」2 人,が挙げられた(複数回答)

3 .5  軽度発達障害児への今後の対応

職員全員を対象とした軽度発達障害の校内研修の有 無についてまとめたのが表 18である。校内研修を行っ た学校は全体で

21.5

%であるが,公立全日制と私立校 での実施率がともに15%程度と低い。しかし校内研修 を行っているところでは,医療機関・大学等から外部 講師を招き,軽度発達障害についての理解と指導につ いて学校全体で学び始めていた。

文部科学省は現在,総合学科や単位制高校をはじめ とする新しいタイプの高校や特色のある学科・コース の設置などを推進する高校教育改革を進めているが,

この改革において軽度発達障害の対応も考えるべきか どうかについて聞いたところ,公立定時制を除き

8

以上が考えるべきと回答している。しかし「一般論で はそう思うが実際は難しい」「人的物的条件が整備され た上で」とする意見も多く,単純なものではなかった。

「そうは思わない,わからない」と答えた理由としては

「軽度発達障害の定義,位置付け等はっきりとしていな いことが多いように思われる」「高校の教育改革だけで 解決できる問題ではないと思う。幼児期,小・中学校 時代から対応すべき問題であると思う」「支援する環境 表 15 学校生活を送る上で抱えていた問題(複数回答 単位:人)

n=23(17.3

%)

(10)

条件の整備等課題の解決がなされないと難しいのでは ないか」「発達障害の生徒の教育は専門スタッフが充実 している養護学校が行うべきで,新しいタイプの高校 で行うことは様々な問題をもつ」などであった。

表 19は,軽度発達障害の対応を考えるべきとした回 答者に,高校等に軽度発達障害児を受け入れるに必要 と思われる対応を三つまで答えてもらったものである。

今回の調査回答者の

53.8

%が管理職であったが,軽度 発達障害を支援する「専門職員の配置」を求めるもの

69.9%と最も高く,次に教職員の軽度発達障害の理

解が不十分として「障害理解を進める研修」が

54.9

と高かった。次いで具体的に対応していくための「外

部機関との連携」49.6%,「個別教育支援計画の作成」

37.2

%,条件整備の核となる「教員の加配」33.6%で あった。それに比して,学校全体で対応に取り組む

「校内委員会の設置」は10.6%と低い数字となった。

表 20は軽度発達障害児の対応についての自由記述を まとめたものであるが,一番多かったのは「現状の改 革・支援体制の確立」24.4%,次に「教職員の研修・

理解」15.9%,「人や施設等の条件整備」13.4%など,

軽度発達障害児の教育保障のために高校教育の改善を 求める意見が続いた。一方,「現状では難しい」9.8%,

「他の公的な専門機関の設置・充実を求める」4.9%な ど,高校での受け入れへの疑問も示された。その理由 表 16 卒業後の進路(複数回答 単位:人)

n

=17(12.9%)

表 17 「進路変更」という形で退学していったケース(単位:人)

n=23(17.3%)

表 18 軽度発達障害についての校内研修会       n=121(91.0%)

(11)

として「義務教育終了後も希望する生徒に教育を受け る機会が与えられるべきだと思うが,現在の高校の状 況がそのままでは対応できず,かえって生徒が不利益 を受けることになってしまうと思う。軽度発達障害の 生徒を専門的に教育する学校と専門的に教育できる職 員を複数配置した高校を用意し,希望に従って選択し,

進学できることが望ましい」「現状の県立高校での受け 入れ態勢が整備されていないので,個別指導を行うに は課題が多い」「定時制の実情からいわせていただくと,

本校への受け入れはまずできない,というより軽度発 達障害児にふさわしい環境がないといわざるを得ない」

などが挙げられた。

公立高と私立高・フリースクール等と比較してみる と,「現状の改革・支援体制の確立をもとめる」の割合

14.8

%:

42.9

%と私立高・フリースクール等の方が 高く,「人や施設等の条件整備をもとめる」の割合が

18.5

%:

3.6

%と公立高の方が高かった。これには「私

学の場合建学の精神に基づき経営している。これらは 公的な支援で実施することが望ましい」というように,

私立高・フリースクール等の

41.7%が建学の精神や学

校の方針等を挙げ,公的資金の導入から公立においてこ そ取り組むべき問題であるという意見が出されていた。

また公立高・私立高に共通して,「高校まで来てしま ってはじめて障害を指摘されても遅すぎる感がある。

義務教育の時にしっかりその子のことを見きわめ,適 合した高校に進学させるべきである」「高校生になると 自我や性に目覚め『特別支援』受けたがらなくなる傾 向もある。高校よりも小・中学校での特別支援教育の 拡大が必要だと考える」「保護者も発達障害を明らかに しない場合が多い」などの意見も示された。

表 19 今後必要とされる対応(複数回答)

n= 113(85.0

%)

表 20 後期中等教育に関する自由記述(複数回答)

(12)

Ⅳ.考 察

4 .1  高校等における軽度発達障害児の在籍把握 回答された高校等に在籍する軽度発達障害児の数は,

実際よりもかなり少ないと推測された。2004年度の神 奈川県の高等学校生徒数は,全日制

196,024

人(公立

123,940,私立 72,084)

,定時制

6,953

人(公立

6745,私

208),通信制が公立私立を合わせて 8,049

人,合計

211,026

人である(文部科学省学校基本調査)。やや強

引な計算であるが,文部科学省が示した小・中学校通 常学級に在籍するとされる軽度発達障害児の割合

6.3

を掛けると

13,295

人になる。もちろん養護学校等に進 学している生徒,あるいは諸事情により進学していな い生徒がいるのでこの数より少なくなるであろうが,

軽度発達障害児の多くはその障害や困難・ニーズに配 慮されることなく「落ち着きのない学習不振児」「怠学」

「変わった生徒」と見做されたり,あるいは「不登校」

という形で在籍していることになろう。

ちなみに

2003

年度における神奈川県の中学校特殊学 級卒業者の高校等への進路状況は,知的障害学級では 全日制高校

4

人,定時制高校

3

人,通信制高校22人,

専修学校高等課程

6

人,情緒障害学級では全日制高校

12

人,定時制高校

12人,通信制高校 31人,専修学校高

等課程

3

人であり,合計

93人が高校等へ進学している。

これらの数字をみても,毎年少なくない軽度発達障 害児が高校等に入学していることが推測される。しか し医師の診断が出ている者は全体で

12.7

%,スクール カウンセラー等の専門職の配置がごく一部の学校に限 られ,保護者の理解・認識不足も大きいなかで,学校 としての判断に戸惑い,把握・対応の遅れにつながっ ていると思われる。高校等で軽度発達障害への総合判 断がどこまでできるようになるかで,在籍数の状況は 大きく変わってくるであろう。

4 .2  軽度発達障害児の学習・学校生活・進路と今 後の対応

学習面における学校の対応であるが,公立全日制に おいても学習面でT-Tや特別な教育課程をつくる試み が始められつつある。しかし単位・進級・卒業認定に ついては,公立高校ではほとんど特別な対応は行って おらず,学校として共通理解をはかった上での対応が 今後の大きな課題になっているといえる。

学校生活では友人・対人関係に大きな困難を有して いる。今日の高校は非行,暴力・いじめ,不登校など の様々な生活指導上の課題を抱えており,軽度発達障 害児の問題はその陰に隠れてしまいがちである。例え

ば暴力,非行,触法行為の中にはアスペルガー障害な どと関連して行為障害をもつ生徒もいると考えられて いるが(杉山:

2005),生活指導における軽度発達障

害児への「特別指導」が通常の指導とどのように区別 して基準化できるのか,学校としてのコンセンサスを 形成しながらどのように対応できるのかどうかが,今 後の大きな課題といえる。

進路面の対応がよりいっそう遅れている。「進路変更」

という形で退学していった生徒のなかには,不適応を 起こした軽度発達障害の生徒が相当数いることが予想 されるが,新たな進路先とどのように繋げられるのか を含めて,この問題の精査が必要である。

4 .3  今後の対応について

従来から多様な困難・ニーズを有する生徒を受け入 れてきた定時制高校などの厳しい教育条件は,受け入 れは必ずしも単純ではないことを示しているが,軽度 発達障害児への何らかの手立てや条件整備の必要性を ほとんどの学校で感じていることもまた示された。定 時制については全国的に統廃合計画が進められ各県で その数が少なくなりつつあるが,現在新たな設置が進 められている昼夜三部制高校や総合学科等新タイプ校 が軽度発達障害生徒の受け入れや支援が可能であるの かどうか,十分な精査と検討が必要である。

神奈川県には,広域通信制や

LD専門コースを持つ

私立学校,軽度発達障害児の一貫校開設を計画する

NPO法人民間施設があり,また「非営利のフリースク

ールという形で,資格を取得しないまでも専門的な勉 強をしながら,日々工夫し,保護者と話し合いながら 対応している」とするフリースクール等が軽度発達障 害児の受け入れに関わってきた。しかし今回の回答校 の100%が,今日進められる高校教育改革に軽度発達 障害児への対応を考えるべきだと答えているように,

公教育での責任が今後問われる点である。

なお神奈川県教育委員会(旧障害児教育課)が指定 した高校での「県立高等学校における障害に応じた教 育の実践研究」では,「一定の人数の軽度な障害をもつ 子どもたちをまとめて通常の生徒たちとともに受け入 れ,高等学校としてその子どもたちのための教育課程 を設定して教育を行っていくことには数多くの問題が ある。今,考えられるもっともよい方法は,近隣に養護 学校を設置し可能な交流を行うこと」(神奈川県立相原 高等学校:

2004)とする研究報告も出され,現状では

受け入れは難しいとする教育現場の声が示されている。

(13)

4 .4  高校等における軽度発達障害児教育の課題 本調査において,高校等における軽度発達障害への 理解・専門性の不足が課題であることが明らかとなっ たが,それは教職員全員対象の校内研修実施の低さと 関連していた。多くの管理職も研修の必要性を指摘し ており,今後こうした校内研修の広がりが一層求めら れている。

軽度発達障害児の学習困難への特別な対応,とくに 単位・進級・卒業認定については教員間の共通認識を 促進していく必要がある。「高等学校学習指導要領」の

1

章第

6

款「教育課程の編成・実施にあたって配慮 すべき事項」に「学習が遅れがちな生徒,障害のある 生徒などについては,各教科・科目等の選択,その内 容の取り扱いなどについて必要な配慮を行い,生徒の 実態に応じ,指導内容や指導方法を工夫すること」と 書かれている。この趣旨にもとづいて軽度発達障害児 に「必要な配慮」の具体化を進めていくことが早急に 求められている。

今回の調査回答者の

6

割が管理職・教務主任であっ たが,軽度発達障害児の困難・ニーズの実態を詳細に 記述してきた回答者の多くが養護教諭,教育相談・生 活指導・進路指導担当者であり,彼らが各学校におけ る軽度発達障害対応のキーパーソンになっていると推 察される。カウンセラー・心理士などの専門職がほと んど配置されず,また小・中学校のような特別支援教 育コーディネーターの高校配置の可能性についての展 望がみえない現在において,校内において誰が相談窓 口・対応組織のキーパーソンになるのかということも 大きな課題である。

Ⅴ.おわりに

本稿では,神奈川県を一事例として高校等に在籍す る軽度発達障害児の教育実態に関する調査を実施し,

そのなかで軽度発達障害児の高校教育の動向や諸問題 を検討してきた。

軽度発達障害児が高校等において相当数在籍してい る可能性があることが明らかになったが,高校入試を クリアした者はその時点で「障害児」ではなくなり,

多くの学校では「ちょっと変わった生徒,困った生徒」

として扱われ,その背景にある軽度発達障害に気づか ないで放置されているのではないかということが今回 の調査から読みとれた。

しかし軽度発達障害児は,本稿でその一端を明らか にしたように,学習・学校生活・進路のあらゆる面に おいて,また友人・対人関係などにおいても多くの困

難・ニーズを抱えており,彼らへの不適切な対応や放 置の場合には,しばしば不登校,ひきこもり,精神神 経的症状(無気力,抑鬱,統合失調症様状態,解離性 障害,強迫性障害),いじめ・被虐待,暴力的噴出,非 行,行為障害・触法行為などの「二次症状」を引き起 こすことなどが指摘され始めている(杉山:2005,相 澤:2004,十一:

2004

は「二次災害」と呼んでいる)

まさに高校等における軽度発達障害に関する認識・

理解,研修の必要性,さらには軽度発達障害児の教育 保障に関わる検討や条件整備が早急の課題となってい るのである。現在,大阪府では調査研究校

6

校におい て知的障害児の高校受け入れについての実践的な研究 を行っているが,同様に国・各自治体で高校等に在籍 する軽度発達障害児の教育保障に関わる早急な検討や 条件整備が実施されることを強く求めるものである。

本稿がその一助になれば幸いである。

【付記】本研究は,

q

35

回(2004年度)三菱財団社 会福祉研究助成,

w2003

年度―

2005

年度科学研究費補 助金基盤研究(C)(2)「多文化協同社会と特別ニーズ教育 理論の構築」

e

東京学芸大学連合学校教育学研究科・

平成

17年度広域科学教科教育学研究経費「多文化協同

社会とインクルージョン教育理論の創出に向けた東ア ジア拠点の形成」(いずれも研究代表者:

a

橋 智)

のもとに行われた共同研究の成果である。

1

)本調査では軽度発達障害に「軽度知的障害」を含めてい る。文部科学省が「今後の特別支援教育の在り方につい て(最終報告)」において示している軽度発達障害は,

LD・ ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群の 4

類であるが,実際の教育現場においては境界線・グレー ゾーンに近い軽度知的障害児の問題を考慮しないと現実 的でないと判断したためである。

文 献

相川賢樹・a橋 智(2005)知的障害児の後期中等教育と保 護者のニーズ―埼玉県における保護者のニーズ調査から

―,『学校教育学研究論集』第

11

号,東京学芸大学大学 院連合学校教育学研究科。

相川賢樹・a橋 智(2005)障害児の中学校特殊学級教育お よび後期中等教育の課題―埼玉県における障害児の保護 者のニーズ調査から―,『東京学芸大学紀要』第

56

(第

1

部門・教育科学)

(14)

相澤雅文(2004)高機能広汎性発達障害児(者)と「不登校」

「ひきこもり」の臨床的検討,『障害者問題研究』第32

2号。

新たな養護学校再編整備検討協議会(2004)養護学校再編整 備の在り方について(中間報告),および

2004

年度第1

〜第5回会議記録,2005年度第

1

回会議記録。

伊藤修毅(2003)高等学校・障害児教育の現状と課題,清水 貞夫編『通常学校の障害児教育』,クリエイツかもがわ。

岩佐佳人(2004)高等学校における校内支援システムの構築,

『平成15年度神奈川県立総合教育センター長期研修員研 究報告

2

,pp93-96。

内野智之・

a

橋 智(2005)高等学校等における軽度発達障 害児の教育実態の検討―埼玉県の高校等への質問紙調査 から―,『学校教育学研究論集』第

12

号,東京学芸大学 大学院連合学校教育学研究科。

大阪府学校教育審議会・障害教育専門部会(2003)「知的障害 のある生徒の高等学校受入に係る調査研究(中間報告) 春日彰(2005)高等学校における特別支援教育の在り方に関

する研究『平成16年度神奈川県立総合教育センター長期 研修員研究発表会資料』

神奈川県立相原高等学校(2004)『県立高等学校における障害 に応じた教育の実践研究について』

神奈川県立伊志田高等学校(2004)『県立高等学校における障 害に応じた教育の実践研究校 研究報告書』

神奈川県立総合教育センター(2004)『協働チームアプローチ を主眼としたネットワーク構築に基づくインクルーシブ な学校教育システムの展望』

熊谷直樹(2001)普通高校における困難をもつ生徒への教育 相談,『障害者問題研究』第29

3

号。

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育段階における各種教育機関の教育の実際と今後の方向』 小島昌夫(1999)高校改革論の視点からみた課題,

a

橋智・

渡部昭男編『〈講座転換期の障害児教育第

1

巻〉特別なニ ーズ教育と学校改革―歴史と今日の課題―』三友社出版。

これからの支援教育の在り方検討協議会(2002)「これからの 支援教育の在り方(報告)

佐藤克敏・徳永豊(2003)軽度発達障害のある生徒に対する 後期中等教育段階の教育的支援に関する調査研究,『国立 特殊教育総合研究所研究紀要』第

30巻。

杉山登志郎(2005)問題行動の克服と青年期の社会性の獲得 のために,杉山編『アスペルガー症候群と高機能自閉症

―青年期の社会性のために―』学習研究社。

a

橋 智・内野智之(2005)高校等に在籍する軽度発達障害 児の教育実態―東京都の高校等への質問紙調査から―,

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1

号,日本特別ニーズ教育学会。

柘植雅義(2001)『日本

3

大都市圏の中学校・高等学校におけ る学習障害への対応に関する調査』(1999年度―

2001年

度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書) 谷田悦男(2002)高等学校に在籍する特別な教育的ニーズを

もつ生徒たち,特別なニーズ教育とインテグレーション 学会編『特別なニーズと教育改革』,クリエイツかもがわ。

十一元三(2004)高機能自閉症とアスペルガー障害,『障害者 問題研究』第

32巻 2

号。

藤本健(2001)社会自立に向けての教育,『LD研究』第

10巻 1

号。

細渕富夫(1996)『軽度精神薄弱児の高校への進学実態とその 教育内容の検討』(1995年度科学研究費助成金一般研究

(C)研究成果報告書)

細渕富夫(2000)『軽度精神遅滞児・学習障害児の高校教育の 実態とその教育課程に関する研究』(1997年度―

1999年

度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書)

(15)

【資料・調査票】神奈川県における軽度発達障害児の後期中等教育に関する実態調査

(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
(23)

* Master Course Student, Division of Special Needs Education, National University Corporation Tokyo Gakugei University

** Ph.D., Professor of the United Graduate School of Education, National University Corporation Tokyo Gakugei University

*** Tokyo Gakugei University (4-1-1 Nukui-kita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184-8501, Japan)

Investigation for the Actual Condition of Education for Student with Mild Developmental Disabilities in Upper Secondary School

; A Case of Kanagawa Prefecture

Tomoyuki UCHINO*, Satoru TAKAHASHI**

Department of Special Needs Education***

Key words : Upper Secondary School, Mild Developmental Disabilities, Special Support Education, Special Needs Education, Kanagawa Prefecture

The purpose of this paper was to clarify the actual condition and current issues of education for students with mild developmental disabilities who were registered in upper secondary schools except for special schools in Saitama Prefecture.

We examined three following points; (1) the registration of students with mild developmental disabilities at upper secondary schools except for special schools, (2) their difficulties and problems in their school life and special consideration for them (learning and course situation) , and how teachers supported them in their school, (3) consciousness of teachers about the upper secondary education of student with mild developmental disabilities. We examined future problems based on results.

Our subjects of survey for the actual condition with questionnaire were teachers who were public and private upper secondary school, upper secondary special training school, school with co-operative system between school and vocational training facilities, and “free school”. Survey period was from 16

th

December to 20

th

January in 2004-2005. We sent 308 questionnaires and got analytic sample including 133 teachers response, answer rate was 43.2%.

On investigation, we found that the number of students with mild developmental disabilities had been increasing in each school, it was only just do workshop about them in the school and cooperation with the institutions outside the school, and it could not correspond their difficulties and problems in their school life.

Because of now severe educational condition in the school and lack of specialty for developmental disabilities, it is just

current issues that psychological counselor and others are allocated in the school, and making the common knowledge of special

consideration for them.

表 8 は高機能自閉症・アスペルガー症候群の特徴で あるが, 「こだわりがあり,融通が利かない」生徒が一 番多く, 「話が噛み合わず,やりとりのある会話になら ない」「できることとできないことの差が激しい」「急 な変更にうまく対処できない」 「物事の一部分に注意が 集中しやすく,全体の状況をつかむことが困難である」 生徒がまんべんなくいることが指摘された。 表 9 は多動性−衝動性優性型の AD/HDの特徴であるが,「授業中座っていることができず,しばしば立ち歩 く」「質問が終わる前に出し抜けに答え始めてし
表 11は学習困難を有する生徒にどのような特別な対 応をしているかをまとめたものである。フリースクー ルや専修学校,技能連携校等では特別な対応が比較的 可能とするのに対し,多くの公立高校では個別課題や 補習などで対応しているのが現状である。しかし公立 全日制においても特別の教育課程を用意したり,マン ツーマンで指導する学校がいくつか見られた。 次に,軽度発達障害生徒が試験で「赤点」をとった 場合に通常児と比べて特別な対応を行っているかにつ いてまとめたものが表 12である。公立全日制でも「評 価基準を工夫し

参照

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