論文内容要旨(甲)
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の脂肪細胞分化におけるオランザピンの作用
薬学研究科 生体分子薬学講座 生物化学部門 二村 哲未
第二世代抗精神病薬(SGA)は、統合失調症の治療薬として広く使用され ている。第一世代に比べて、錐体外路障害や鎮静などの副作用は少ないが、
一方で、体重増加や肥満などが問題視されている。特に、オランザピンは、
他の
SGA
に比べて体重増加のリスクが高い。この原因として、中枢にお けるH
1受容体拮抗作用による食欲増進作用が知られているが、一方で、食欲増進なしに体重増加を引き起こす例も報告されている。
これまで、げっ歯類を用いた研究において、オランザピンが脂肪細胞分 化を促進したことが報告されている。しかし、ヒトの脂肪細胞への影響に ついてはほとんど報告されていない。そこで、われわれは、脂肪細胞への 分化能をもつヒト間葉系幹細胞(hMSC)を用いて、オランザピンの脂肪細 胞分化への影響を検討した。
まず、
hMSC
由来の脂肪細胞の脂肪滴(LD)の解析をおこなった。hMSC
の脂肪細胞において、脂肪滴タンパクPLIN1
の脂肪滴膜表面への局在が 蛍光免疫染色法にて観察できた。さらに、脂肪分解刺激を加えるとLD
が 一部小型化し、それに伴いPLIN1
の局在も変化した。また、LD画分の プロテオーム解析の結果、PLINタンパクや脂質代謝系酵素、細胞骨格系 タンパクが検出された。このことから、hMSC
由来の脂肪細胞のLD
はミ トコンドリアでの脂質代謝や、脂肪細胞分化に伴う細胞形態の変化に関与 していることがわかった。以上より、hMSCから分化させた脂肪細胞は、脂肪細胞としての機能をもち、ヒト末梢脂肪細胞のモデルとして有用であ ることが確認できた。
次に、
hMSC
を用いてオランザピンによる脂肪細胞分化への影響を検討 した。Oil Red O染色の結果、オランザピンは濃度依存的に脂肪蓄積を促 進させることがわかった。この変化に関わるタンパクを、iTRAQ法を用 いて網羅的に探索したところ、薬剤添加によってPLIN4
や脂質代謝系酵 素が増加し、細胞骨格系タンパクが減少したことを見出した。さらに、分 化中期においてPLIN2
が増加し、分化中~後期においてPLIN4
が増加 したことがWestern blotting
によって確かめられた。これらのPLIN
タ ンパクの細胞内局在を観察したところ、オランザピンはPLIN2
局在LD
を増大した。また、PLIN4 は分化初期には
LD
上で増加したが、中期で は細胞質にて増強した。PLIN2
のmRNA
発現量は薬剤添加によって有意 に増加したことがRT-PCR
によってわかった。一方で、PLIN4では変化 がみとめられなかった。本研究より、hMSC由来の脂肪細胞において、オランザピンはおもに
PLIN2,4
を増加して、脂肪滴の形成を促進させたことがわかった。この反 応が、副作用である体重増加の原因の一端を担っている可能性が考えられ る。また、これまで機能未知であったPLIN4
が、脂肪蓄積や脂肪滴形成 に関与している可能性が示唆された。この学位論文は、一部内容が