連想法を取り入れた作文指導法の指導手続きの検討
著者 平山 祐一郎
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 40
ページ 121‑126
発行年 2000
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009047/
連想法を取り入れた作文指導法の指導手続きの検討
平山 祐一郎*
(平成11年9月30日受理)
An Analysis of the Procedure of Word−association Instructional Strategy in Composition Class
Yuichiro HIRAYAMA
(Received on September 30,1999)
目 的
『連想法を取り入れた作文指導法』とは,栃木県の足 利国語教育研究会により,小・中学校において開始され た非常に実践的な作文指導法である.この指導法の主要 な手続きとその長所と短所は以下のとおりである.
福沢(1991)によると,この指導法の基本的な手続き は,書き手側の活動としてまとめると,
①題目や主題にっいて連想活動をする。
②言語連想の方法で連想したことばを書き出す.
③書き出した連想語を手掛かりとして文章を考える.
④連想語を適当に取り入れて文章を書く.
というものである.
この指導法に対しては,
①思考・イメージを活発にする.
②言語化・文章化の手掛かりをっくる.
③作文への興味や関心を喚起する.
④技能として客観化しやすい.
⑤作文の作成過程に関与する方法である.
⑥児童・生徒にわかりやすい.
というような長所が指摘されている.
一方,この指導法に対しては,
①文章構成力の育成という点が弱い.
②連想語が平凡なものばかりになる可能性がある.
というような短所も指摘されている.
平山・福沢(1995)は,この指導法に関する過去の研 究・実践例を収集し,表1のように概観している.その 結果,主に以下のような結論が導き出された.
*教育心理学研究室
①作文の質的な側面では,この指導法の効果にっい て,一貫した結果は見出されていない.
②小学校5年生程度の作文力を持つ書き手に対して は,作文産出量の増大が生じる.
というものである.
概観された研究の中で,最も実験的な検討を行ったの は,小学校5年生を対象にした平山(1993)のものであ る.この研究では,まず,2群が設定された.1っは,
作文を書く前に,作文のテーマに関して言語連想をする 群である(実験群).もう1っは,言語連想を行わない 群である(対照群).まず,両群が作文産出力において 同程度であることを確かめるために,同一条件での作文 を行った(第1作文).次に,実験群・対照群ごとに手 続きを変えた作文を行った(第2作文).その結果,第 2作文の作文産出量において,実験群が対照群を上回っ た(図1).第1作文において,両群が同等の作文産出 量であったため,この差異は,作文の事前の言語連想に よるものと考えられた.さらに,作文産出力に応じて,
作文産出量の変化を吟味したところ,作文産出力の低い 児童において,作文産出量の増大効果が顕著であること が明らかになった(図2).
しかしながら,この研究では事前の言語連想の何が,
言い換えれば,どのステップが,作文産出量の増大を導 いたのかが明確になっていない.書き手は連想したこと ばを紙に書き出すように指示された.そして,その紙を 作文を書いている間に参照することができた.この手続 きでは作文産出量の増大が,ただ言語連想を行うだけで 生じたのか,あるいは連想した語を実際に紙に書き出し たことによって生じたのか,または護紙に書き出した連 想語を作文中に参照することにより生じたのか,が明ら
(121)
平山 祐一郎
表1 連想法を取り入れた作文指導法の研究・実践の概観(平山・福沢,1995)
研究者 被験者 作文の題材 年号 学年
比較の視点 分析の方法 (mea cP斯)
結果と脅察
(指導の効果)
青柳ら 小学校 ひまわり
1972 2年生
青柳ら 小学校 へちまの花
1972 3年生 西田 小学校 1973 4年生 渋江 小学校 1977 4年生 青柳ら 小学校 1972 5年生 福沢ら 小学校 1975 5年生 金子 小学校 1978 5年生 平也 小学校 1993 5年生
プ」ル
クラブ活動
⑳棚文)
地球光りなさい 鱒感想文)
本
灘
マンガ テレビ
管柳ら 中学校 テレビ 1972 2年生
橿尺ら 中閣交 汗の思し咄
1975 2年生
指導前と指 作文例分析に 導後の比較 よる指導印象
指導前と指 作文例分析に 導後の比較 よる指導印象
指導群と績 数■:iI鮫 制群の比較 十指導印象 書旨導避呈 {乍文伊扮お〒1こ の観察 よる指導印象 指導前と指 作文例分析に 導後の比較 よる指導印象 指導群と統 数量比較 制群の比較 +指導印象 指導群と統 数璽此較 制群の比較 +指溺印象 指導群と績 数■此鮫 制群の比較*2
指導前と指 作文例分析に 導後の比較 よる指導印象
指導過程 作文例分析に の観察 よる指導印像
1.語数、センテンス数等、特に薯しい差迦ま見られない。
2達想語がいかされることにより、文章内容が多様に発展。
3.叙述、描写がこまやかとなり、イメージの拡張・明確化が進んだ。
1.言吾数、センテンス数、主述関慌修飾関係等が数量的に豊か1こ。
2文潭の内容こおいても、イメージの拡張が認められる。
3.描写が具象的になる。
1.作文産出量は指導群が上回った。
2文章表現力について1よ差異は特に認められなかった。
1.時間的制約から、熟考型の児童では、連想が少なく、表現も思うにまか せないようである。*1
1.構文、叙述.表現に思考の発展が見られ、感想表現が容易に。
1。{乍Jlζ産廿コ劃封旨溺昭羊力《上1亘】った0
2文章表現力については、差異は特1認められなかった。
1.{乍メ【醒肚二劃ま陛湖昭羊力《⊥』亘1った』
2書き出しの文が変わってきたよう1認える。
1.作文産出力の低い児童において、作文崖出量の増大が顕著。
2作文産出量の増大は、単に連想語を作文中に散りばめただけではな いと考えられる.
1.字数・センテンス数が増加。
2文体・表現ともに大きな進歩。
3.文章内容の質的な進歩h認められる。
1.短時間で順序よく作文が書けるようになる。
2.連想ゲーム的な要素があるので、興未を喚起するようである。
*1指導結果から直接考察した記述がなかったたあ,全体的な考察の中で,示唆的なものを記した.
*2 厳密には,指導群と統制群の比較を行う前に,同条件で作文を行い,群間の等質性等の検討を行ったもの(混合計画)である.
90 80 70
文 60
節50
数 40 30
20 10
0
第1作文 第2作文
図1第1・第2作文における実験群と対照群の文節数(平山,1993)
ロ実験群
奄奄奄奄苑ホ照群
i:oo o
:::::iiiiiii 堰c…ii 蒙
蜩蛯奄
;iii..、,…
堰Dii... iiiii講
奄奄奄奄奄奄奄奄堰Gii ii螺iiiil難
00
200
%︶
0
実験群 対照群
2実験群・対照群での低・中・高群の文節数増加率(平山,ユ993)
非表出群 非参照群
参照群
第
1
作
文
連想訓練iL→i事前連想
言語 i→事前
連想 iの
の 言語
訓練 }→連想
図3 実験の手続き かになっていない.この点を明確にすることは,この作
文指導法を改善していく上で,非常に重要なことと考え られる.本論文では,作文産出量の増大を導く指導ステッ プを確認するための,実験的検討を行う.
方法
3つの群を設定する.まず,作文前に,言語連想だけ を行う群を非表出群と呼ぶ.この群では連想されたこと ばを実際に紙に書き出すことはない.次に,作文の事前 に言語連想を行い,連想したことばを紙に書き出すが,
作文を書くときにそれを参照することのできない群を非 参照群とする.そして,作文の事前に言語連想を行い,
連想したことばを紙に書き出し,それを作文中に参照す ることのできる群を参照群とする.
なお,非表出群では連想確認シートを用いた.このシー トには,頭の中でことばを1っ連想すると,1っ○を記 入するのである.このシートを用いる理由は2つある.
1っは,被験者が頭の中で言語連想を行うことを助ける ためである.もう1つは,実験者がこの○の数から,被 験者の言語連想のおおよその数を知るためである.
非参照群と参照群は連想シートを用いた.これは思い っいた連想語を書き出すための枠を設けたシートである.
3群とも同じ条件で行う第1回目の作文を第1作文と 呼び,3群がそれぞれ異なった手続きを受けた後に書く 作文を第2作文と呼ぶ.
[実験計画]非表出群・非参照群・参照群の第1・2 作文の作文産出量の比較.
[被験者]小学校5年生(非表出群26名,非参照群 28名,参照群26名).
[実験期日]1993年9〜10月.
⊂手続き]
手続きは以下のとおりである(図3).
①第1作文は「マンガ」という題名で15分間,自由
連縦:; ° …・……・・…1
c
第2作文
塁蟹…
.;
に作文を書かせた.
②連想の訓練は,第1作文の終了後にそれぞれ次の ように行った.
非表出群は,上述の連想確認シートを用いて,あ ることばに関して何らかのことばを思いっいたら,
すぐに○をっけていく練習を行った.
非参照群と参照群は,あることばに関して何らか のことばを思いっいたら,すぐに空欄に書き込んで いく練習を行った.
③第2作文は第1作文から23日後に,「テレビ」と いう題名で15分間,自由に作文を書かせた.この作 文を書く前に,②のようなやり方で,各群は題名に 関して言語連想を行った(5分間).
なお,非表出群の連想確認シートおよび非参照群の連 想シートは,第2作文を書き始める前に回収した.また,
参照群に対しては,作文を書いている最中に,連想シー トを参照することを強制はしなかった.
結果と考察
作文産出量として文節数をカウントした.平均値
(SD)は,非表出群の第1作文は72.5(23.6),第2作文 は61.5(33.9),非参照群の第1作文は60.5(25.9),第 2作文は61.9(27.4),参照群の第1作文は55.3(26.9),
第2作文は71.4(34.4)であった(図4).
3(非表出群・非参照群・参照群)×2(第1・第2作 文)の混合計画の分散分析を行った結果,交互作用が有 意であった〔F(2,77)=7.91,p〈.01〕.各要因の単純主 効果を分析した結果,第1作文で有意傾向であった〔F
(2,77);3.06,p〈.10〕. LSD法による多重比較の結果 非表出群〉参照群であった(MSe=677.6,5%水準).
また,非表出群および参照群において,第1作文と第2 作文の作文産出量の差が有意であった〔非表出群:
F(1,77)=5.27,p〈.05,参照群:F(1,77)=11.05,
(123)
平山 祐一郎
文 100
90 80 70 60
節50
数 40 30 20 10
ロ…第1作文
iiiii…第2作文
0 非表出群 非参照群 参照群
図4第1・2作文における非表出群・非参照群・参照 群の文節数
P〈.01〕.
以上の結果から,次のことが言えるだろう.第1作文 に有意傾向(非表出群〉参照群)が見られたため,3群 の事前の作文産出力の等質性は保証しがたい.したがっ て,第2作文の結果に対しては,各群への手続きの違い という観点から直接的な考察をすることはできない.
今回の実験結果にっいては,各群ごとの第1作文から 第2作文にかけての作文産出量の変化(増減)に注目し て考察する必要がある.
そこで,図4を見ると,第1作文から第2作文にかけ て,作文産出量が減少しているのが非表出群,変化のな いのが非参照群,増加しているのが参照群である.
参照群の結果から,作文のテーマに関して連想した語 を書き出し,それらを作文中に参照できる状態にあるこ とが,作文産出量の増大にっながると考えることができ るだろう.
参照できない場合は,非参照群のように量的な変化を 導かないのである.さらに,非表出群のように,作文の 事前に頭の中だけで言語連想を行うことは,その後に行 われる作文産出活動に,抑制的な影響を持っ可能性が示
された.
連想シートおよび連想確認シートに対しても分析した
(図5).これは,どの程度の言語連想が行われているか を実験者側が把握するためのものであった.非表出群が
連 70
60
50
想40
数 30 20
監0
○の.数
ことばを思いつく 毎につけた○の数
連想言吾数
実際に書き出し た連想語の数
0
非表出群 非参照群 参照群
図5 非表出群。非参照群・参照群における連想の数あ るいは語数
突出しているが,これは単に○をっけるだけなので虚偽 の反応も含まれると考えられる.また言語連想1ではなく,
映像的な連想なども○をっける対象になっていたことが 考えられる.
一方,非参照群と参照群は実際に書き出した数なので,
この平均値にはかなり実際的な意味があると考えられる.
両群はほぼ同程度の事前言語連想を行ったと見られる.
また,参照群の被験者に限って,作文を書いていると きに,書き出した連想語をどの程度参照したかを6段階 で評定させた(図6).その結果,ほとんどの児童が自 分の書き出した連想語を見ていない可能性が示された.
このことから,参照群における作文産出量の増大は,書 き出された連想語を参照することによって生じたのでは ないのではないか,という疑問がわく.確かにそのよう にも考えられるが,別の見方もできる.それは,書き手 が自覚なしに,連想語を参照していたのではないか,と いうことである.そのため,自己評定からは,参照した という結果が得られなかったのかもしれない.
さて,本実験では第1作文の作文産出量が群間で有意 な差を生じたため,3群間の作文産出力の等質性を保証 することができなかった。よって,平山(1993)のよう な作文産出力に応じた分析をすることは困難であると考
20
15人
10数
5
0
1 2 3 4 5 6
見ない」一一」一⊥一一・・J」一」見た
評定値
図6 参照群の連想シートの参照状況
えられる.だが,あくまでも試験的に,平山(1993)の 作文産出力の基準(低・中・高群分け)を利用して,事 前連想の効果を吟味し,今後の研究の示唆を得たい.
平山(1993)の産出量基準で,非表出群・非参照群・
参照群に対して,低・中・高群分けを行ったところ,非 表出群は低群2名,中群11名,高群13名,非参照群は 低群7名,中群8名,高群13名,参照群は低群8名,中 群7名,高群11名となった.文節数の平均値(SD)は,
第1作文は,非表出群の低群35.5(2.5),中群56.2
(6.4),高群92.1(16.1),非参照群の低群28.9(11.9),
中群49.9(5. 8),高群84.1(13.6),参照群の低群21.6
(15.5),中群55.9(5.5),高群79.5(10.5)であった.
第2作文は,非表出群の低群36. 0(5.0),中群39.7
(20.7),高群83.8(30.7),非参照群の低群50. 6(20. 8),
中群45.6(18.2),高群77.9(26.4),参照群の低群47.0
(24.1),中群61.3(28.5),高群95.5(28.0)であった.
平山(1993)のように文節数増加率を算出したが,各 群の人数が偏っているため,ここではあえて統計的検討 は行わず,記述統計量に対して吟味し,今後に示唆を与 えるような考察を加えたい.
文節数増加率を算出したところ,非表出群の低群は 102.9%,中群は69.2%,高群は90.5%,非参照群の 低群は187.3%,中群は90. 0%,高群は94.3%,参照 群の低群は355.5%,中群は108.5%,高群は122.1%
となった(図7).
400
文 節
300数
増
加200
率
︵%︶ 00
0
非表出群 非参照群 参照群
図7非表出群・非参照群・参照群での低・中・高群の 文節数増加率
口 低群
1甜li
中群
i._ 高群
iiiii
ここでは図7の低群に注目して考察を加えておきたい.
平山(1993)では,低群において作文産出量が顕著に 増大した.図7の低群の増加率を見ると,非表出群く非 参照群く参照群の順になっている.
このことから,やはり頭の中だけで言語連想をするよ りも,実際に書き出すことが有益であるとみられる.さ らに,言語連想をした場合には,書き出した連想語を作 文中に参照できる状態にある方が,産出量の増大にっな がると考えられる.
この低・中・高群の群分け後の結果に関しては,あく までも断定的な意味づけは避けて,今後の研究への示唆 としておきたい.
引用文献
青柳隆・新井真紀子・岡田令子・小出丈夫・桜井和男・
滝野和・土屋隆・西田正源 1972作文を通してみた 思考過程の分析 一連想法を取り入れた作文指導を通 して一 鈴木治・井上尚美・福沢周亮(編) 国語科 における思考の発達 明治図書 pp.212−244.
福沢周亮 1991 言葉と教育 放送大学教育振興会 福沢周亮・西田正源・青柳隆 1975 拡散的思考へ挑戦 する授業研究小口忠彦・辰野千寿(編)授業と学 習心理学 五巻 明治図書 pp.86−108.
平山祐一郎 1993連想法を取り入れた作文指導法の効 果に関する研究 一作文量を中心として一 教育心理 学研究,41,399−406.
(125)
平山 祐一郎
理学研究,41,399−406.
平山祐一郎・福沢周亮 1995 連想法を取り入れた作文 指導法に関する研究の概観と展望,筑波大学心理学 研究,17,37−42.
金子伊吉 1978 実践的研究(ll) 一連想法を取り入 れた作文指導 辰野千寿・福沢周亮(編) 教科学 習の心理学 図書文化社 pp.57−64.
西田正源 1973表現力をのばす国語指導 一連想法を 取りいれた短時間作文練習指導一 教育心理研究,
57, 85−88.
渋江芳夫 1977 説明文を書く指導の試み 一連想を作 文にどう生かすか一 国語教育研究(日本国語教育 学会),67,37−42.