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痴呆性高齢者介護家族の介護者役割取得における自己対処のあり方 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)痴呆性高齢者介護家族の介護者役割取得における自己対処のあり方 キーワード:痴呆性高齢者、家族介護者、役割取得、自己対処 人間共生システム専攻 福間. Ⅰ. 問題と目的. Ⅱ. 第1研究. 1.痴呆性高齢者介護家族の役割取得 痴呆性高齢者在宅介護を通じて介護者は「不安感・負担. 里美. 痴呆性高齢者介護家族の 介護者役割取得感の構造の検討. 1.目的. 感・ 無力感・怒りと罪悪感などの否定的感情に支配されやす. 現在在宅で介護を行っている痴呆性高齢者介護家族. (渡辺,2003)」く、精神的・身体的不調をきたすことも多い。. の介護者役割取得感の構造を検討することを目的とする。. 岡本(1997)は、介護役割の発生が介護者にとってアイデ. 2.方法. ンティティの問い直しの契機となり、介護者のアイデンティテ. ①調査対象;調査対象は現在痴呆性高齢者を在宅で最も. ィ再体制化につながる可能性を指摘している。そこで筆者. 長時間介護している主介護者65名(男性 15 名、女性. (卒業論文)は、介護者のアイデンティティ再構築に影響す. 50 名) 。介護者の平均年齢は 61歳(SD=13.31) 、被介. る要因を検討した。その結果、大変な介護を行っているほど、 護者との続柄は配偶者 29 名 (44.6%) 、 肉親 20 名(30.8%)、 アイデンティティ再構築がなされているということが示唆され. 義理の親 14 名(21%)であった。. た。このことから介護を投げ出すことなく続けるためには、介. ②調査方法;痴呆性高齢者家族介護者 124 名に質問紙を. 護にともなう外的な要因のみではなく、家族を介護せざるを. 配布し回収した(回収率 64.5%) 。そのうち、痴呆の医. 得ない状況を、介護者自身がどのように受け止めて( 認知) 、. 学的診断がなく、MEDE の他者評価尺度において「健常. 対応するか(行動)という、介護者の主体的な自己対処のあ. レベル」であった 15 名を分析データから除外し、65 名. り方がより重要であると考えられる。. を有効回答とした(有効回答率. 介護者は、介護を投げ出すことなく続けていくために、自. 52.4%)。. ③調査内容;. 身の「認知」と「行動」を主体的に調整するという自己対処を. (1)介護者の介護者役割取得感に関する項目. 行っていくことによって、「介護者になっていく」という「アイデ. 竹内ら(2004)を参考に独自に作成(4 件法)。. ンティティ再体制化(岡本,1997)」、つまり介護者役割取得. (2)基本的属性に関する項目(①介護者の年齢・②性. のプロセスが展開すると考えられる。本研究では、「認知」と. 別・③続柄・④介護相手の年齢・⑤同居家族の有. 「行動」の調整という自己対処のありかたを、対他者的側面、. 無・⑥介護年数・⑦介護度・⑧痴呆の診断の有無・. 対自己的側面の 2 側面から考える。つまり、「 介護相手を理. ⑨福祉サービスの利用の有無). 解する認知的なあり方」を「対他者認知」、「 介護相手に実際. 3.結果. に対処するための行動」 を「 対他者行動」とする。そして、「 介. (1)介護者役割取得感の尺度の作成. 護をしていくうえで生じるさまざまな主観的体験を意味づけ. 介護者役割取得感の構造を検討するために、 主因子法,. て理解する認知的なあり方」 を「対自己認知」、「介護者自身. プロマクス回転により因子を抽出した(Table1)。. の主観的体験におりあいをつけるための行動」を「 対自己行. Table1 因子分析結果(主因子法,プロマックス回転). い状況が生じたときの自己対処のプロセスと介護者役割取. 項目内容 F1 F2 F3 共通性 第1因子「 充実感」 ( α=.823) 15 私の生活は充実している 0.913 -0.118 -0.069 0.706 3 私は介護しながらも自分の生活の楽しみを持っている 0.786 -0.075 0.151 0.623 10 私は介護しながらも自分らしい生き方をしていると思う 0.644 0.240 -0.090 0.617 第2因子「 効力感」 ( α=.716) 4 私は介護相手の状態に応じて対応の仕方をかえることができる -0.092 0.720 0.087 0.499 9 私は相手の状態に合わせて介護や福祉のサービスを活用できて -0.099 0.645 0.023 0.363 16 相手の介護に自分が取り組まなくてはならないという覚悟はでき 0.105 0.515 -0.117 0.305 8 私は相手の介護には自信がある 0.314 0.461 0.031 0.493 第3因子「 親密感」 ( α=.590) 17 私は介護している相手が問題となる行動をする理由がわからな -0.123 0.007 0.771 0.571 5 私は介護によって以前より相手と親密になったと思う 0.244 0.009 0.536 0.410 寄与率( %) 34.116 10.055 6.797 累積寄与率( %) 50.969. 得感の関連を検討する(第2研究)。さらに③介護者の介護. 第一因子を「充実感」 、第二因子を「効力感」 、第三因. 者役割の肯定的な意識化への援助としての回想的面接に. 子を「親密感」とした。各因子の項目を合計した平均得. ついての検討を行う(第3研究)。. 点を「充実感」得点、 「効力感」得点、 「親密感」得点と. 動」と定義する。そして、そのような自己対処を行う中で介護 を行っている自分自身に対する肯定的感情が高まると考え られ、この感情を「介護者役割取得感」と定義する。 2.本研究の目的 ①痴呆性高齢者介護家族の「 介護者役割取得感」 の構造 を検討し( 第1研究)、②介護者が介護を引き受けざるを得な. 1.

(2) ②調査時期と面接場所. し、それらを合計し「介護者役割取得感」得点とした。. 面接は原則として週 1回として、毎回を約 1時間とし、合計. (2)介護者役割取得感と諸変数の関連の検討. 6回の面接を行った。対象者の希望によって、対象者の自宅. 「介護者役割取得感」に関連する要因を検討するため、 「①介護者の性別」・「②介護者の年齢」・「③介護相手との. または大学院付属施設内面接室にて行った。. 続柄」・「④介護経験の程度」・「⑤介護相手の要介護度」を. ③手続き これまでの介護経験を振り返る話を中心に面接を行った。. それぞれ独立変数として、「効力感」得点、「充実感」得点、. 「 親密感」 得点、「 介護者役割取得感」 得点を従属変数として、 第 1回目の面接においてこれまでの介護経験の全体的な振 り返りを行った後、2 回目から 5 回目では前回の話の続きか. t 検定、一要因分散分析を行った(Table 2)。. らたずねた。6 回目にこれまでの面接のまとめを行った。面. Table 2 「 介護者役割取得感」 と関連する要因の分析結果一覧 介護者役割取得感尺度 独立変数     従属変数. 効力感. 親密感. 介護者役割取 得感(合計). n.s.. n.s.. n.s.. n.s.. ②  介護者の年齢 (「59歳以下群」・「60代群」・ 「70代群」 ・「80歳以上群」). n.s.. F(3,61)=2,31,p<.10 「70代群」>「80歳 以上群」 (MSe=.25,p<.10). n.s.. n.s.. ③  介護相手との続柄 (「配偶者群」・ 「肉親群」 ・「義 理の親群」. n.s.. n.s.. n.s.. n.s.. ①  介護者の性別 (男性群・ 女性群). 充実感. 接では、面接者はこれまでの介護における相手への対応と 気持ちの変化に焦点をあてて面接をすすめた。 ③. 分析方法. 面接逐語記録を時系列に沿って文意のかわらないよう. F(2,62)=3.32,p<.05 F(2,62)=3.35,p<.05 「5年以上群」>「3 「5年以上群」 ④  介護経験 >「3 (「5年以上群」・ 「3年以上5 年以上5年未満群」年以上5年未満 n.s. 「3年未満群」 年未満群」・「 3年未満群」 群」 (MSe=.41,p<.10) (MSe=.24,p<.10) ⑤  要介護度 F(2,61)=4.05,p<.05 (「要介護度低群;要支援+要介 「 低群」・「中群」 > 護度1」 n.s. n.s. ・「 要介護度中群;要介 「 高群」 ・「要介護度高群; 要 護度2,3」 ( MSe=.34,p<.10) 介護度4,5」. にまとめたものを分析の対象とした。 3.. n.s.. 結果と考察. (1)介護者役割取得における自己対処のコード化 自己対処における対他者認知、対他者行動、対自己認. n.s.. 知、対自己行動の関連を検討するため、発言内容をコー. 4.考察. ド化した(Table5)。. ①介護経験が長いほど「効力感」「充実感」が高く、②相手. Tabl e 5  介護者役割取得における自己対処のコード表 対他者認知(OC) 介護相手や相手の行動を意味づけ理解する認知的なあり方 対他者認知(受容 痴呆症状をもつ介護相手を肯定的に受け止める認知的なあ 的);( OCP) り方 1 対他者認知( ニュート 相手の痴呆症状に対する客観的認知のあり方 ラル) ;(OCN) 対他者認知( 非受容 痴呆症状をもつ相手に対して非受容的に受け止める認知の 的的) ;( OCNg) あり方 介護をしていくうえで介護者に生じる主観的体験を意味づけ 対自己認知(SC) て理解する認知的なあり方 対自己認知( 肯定 介護者に生じる主観的体験を肯定的な意味づけて理解する ;( SCP) 認知的なあり方 2 的) 対自己認知( ニュート介護者に生じる主観的体験を肯定的でも否定的でもなく受け ラル) ;(SCN) 止める認知的なあり方 対自己認知( 否定 介護者に生じる主観的体験を否定的に意味づけて理解する 的);( SCNg) 認知的なあり方 3 対他者行動( OB) 介護相手に実際に対処するための行動 介護をしていく上で介護者に生じる主観的体験に対処するた 4 対自己行動( SB) めの行動. の要介護度が低いほど相手との「親密感」が高いことが示さ れた。一方、介護者の性別、年齢、続柄による「介護者役割 取得感」における得点の違いは示されなかった。したがって 「介護者役割取得感」は「性別」「年齢」「続柄」といった要因 によって変化するものではなく、介護者自身の体験のあり方 に影響される可能性が考えられる。. Ⅲ 第2研究 痴呆性高齢者介護家族の介護者役 割取得における自己対処のプロセスの検討 1. 目的 介護者のこれまでの介護経験の回想から介護者役割取. (2)介護者役割取得プロセスの各段階のあり方. 得における自己対処のあり方を検討する。. 4名の痴呆性高齢者介護家族の介護者役割取得におけ. 2.方法. る自己対処のあり方として、以下のようなプロセスが共. ①調査対象. 通して示された(Table 6)。. 対象者の「介護者役割取得感」得点は Table4に示す。. Ⅰ.対他者行動をしはじめる段階.  Tabl e3 調査対象者の概要 年齢 性別 介護相手 介護年数 Aさん 77歳 女性 夫(78) 10年 Bさん 76歳 男性 妻(71) 3年 Cさん 53歳 女性 義母(81) 8年 Dさん 51歳 女性 実母(71) 13年. 相手の痴呆症状が顕在化する前は 「 (息子に指摘されて 同居家族 息子(51)、嫁(46)、孫(19)、孫(17) 息子(43) 夫(56) 夫、娘(13)※上の息子と娘は自立. も)ああそう?」と言うのみ(A 氏)で実際の対処行動 に至らないが、 (夫が迷子になり) 「主人は(帰り道が) わからない(A 氏) 」というように、出来事を通して相手 の客観的な状態把握(対他者認知の変化)が生じた。. Table 4     面接調査対象者の介護者役割取得感得点          対象者 全体の平均( N=65) A B C D 役割取得感 平均 標準偏差 充実感 2.67 3.67 3.33 4 2.44 0.66 効力感 3.75 3.25 3.25 4 2.93 0.51 親密感 3 3 3.5 3.5 2.86 0.62 役割取得感 9.42 9.92 10.08 11.5 8.23 1.39. Ⅱ.対他者認知(非受容的)に基づく対他者行動が中心 的な段階 「相手が病気である(B 氏、C 氏、D 氏) 」というよう な相手の症状の客観的な認知としての対他者認知や、 「相 2.

(3) Tabl e 6  4事例による介護者役割取得における自己対処プロセスの比較 対 象 対他者対処 対他者対処的認知 対自己対処的認知 的行動 者 A氏 (息子の指摘に対. D氏 母と同居を始める. C氏 ついつい説明して. 変化が体験されるようになる(「夫がニコニコしている. 「痴呆って言うのはある程度こういうも 母の好きにさせよう(SCP) のだってわかっていた。いくらいっても だめだって分かっていた(OCN)。」. (A氏) 」 ) 。 それによって相手に対処するときの介護者自 身の否定的な主観的体験自体が減少すると考えられた。. どうして会社が忘れられないのかわか らない(CONg) とぼけよるんかわからん(CONg) 説明したらわかるだろう(CONg). 納得させようとする. それに伴い、共感的な意図推測としての対他者認知が増 え、相手の意図推測をしながら日々の対他者行動をする. 安心させてあげたい(SCP)。へとへと 自分のしたいことを になるから省エネでやらなくちゃ(SCN)する. ようになることで「私がイライラしていると義母がキャ.    対他者認知(受容的)に基づく対他者対行動をとるための 対自己対処が中心的な役割取得の段階. A氏 「いい加減にしてほ. 「病気なんだから」(OCN) しい」という気持ち を抑えて対応する なるべく妻の話を 「妻も苦しんでいるかもしれない 否定しない (OCP)」. Ⅲ 段 B氏 階 C氏 義母の話にあわせ. 「やさしくしてあげないかん、やっぱり (強く言ったら)だめね」(SCN). ッチする(C 氏) 」というような、介護者との情緒的な相. ぱっと主人から離れ て気分転換する。. 互作用をしている相手としての対他者認知や、 「Cさん大. あきらめの心境(SCN)。できるだけ腹 をたてないように自分に言い聞かせる (SCN) 「義母の立場に立ったら嫌だろうな(C 「義母に合わせて対応をかえなくちゃい 自分の趣味をつづ て「演じる」、義母 OP)」「前の義母とは違う(CON)」 けない(SCN)」「こちらの言葉かけに ける の話を否定しない よってインパクトにのこるかもしれない (SCN)」 可能な限り母にあ 母は言葉が理解できない(OCN) 気持ちがゆったりしているときには「しょ 疲れている時は(母 わせる対応。 うがないな」と思える(SCN) といても)黙ってい る. 好きというからまだ私のことを忘れていない(C 氏) 」と いうような「相手からの介護者に対する思い」の推測的 認知が生じる。これによって、 「私」と「相手」との役割. 対他者認知と対自己認知が統合される段階. Ⅳ A氏 主人が徘徊するの B氏. 対他者行動が受容的に変化することで、相手の肯定的 しょうがない(SCN),施設に入れるの はかわいそう(SCN).        対他者認知(非受容的)に基づく対他者行動が中心的な 役割取得の段階. Ⅱ A氏 主人の徘徊をとめ とする 段 B氏 よう 大きい声を出して 妻の間違いを指摘 階. D氏. Ⅳ.対他者認知と対自己認知が統合される段階. 「(主人は)帰り道も分からない(CO. しても)「ああそ N)」 Ⅰ う?」と言って何も ない 段 C氏 し 義母をひきとって同 痴呆があることは分かっていた(OC 居を始める N) 階. Ⅲ. 他者行動が増えてくると考えられた。. 対他者行動をしはじめる段階. Ⅰ. Ⅱ. の話を否定しないようにする(B 氏) 」という受容的な対 対自己対処的 行動. 「会社に(徘徊に)いくのが主人の一番 をとめずに見送り、 の楽しみ(OCP)「私がすることしか主 時間をみて迎えに 人は受け付けない(OCP)」 いく 手をつなぐことが自 感情は変わらんと言われるが本当に 然とでだした そうだと思う(OCP)。家内は表現しな いけどこの人しかいないんだっていう のがあると思う(OCP). 「生きるならいきいきと生きてほしいか ら、私がつくったご飯を主人がおいしく 食べてくれればつくりがいがある。(SC P)」 そこまで(妻に)目くじら立てる必要はな いんじゃないか(SCN)。「苦しんでいる というのが分かるから妻と一緒にいか ないといかんと言う気持ち」. 「A子さん(Cさん)大好きよっていうか 意志を尊重する関 ら(痴呆はすすんでも)やっぱりA子さ わり。無理強いしな んのことは忘れていないんだな(OC P)」「私がいらいらしていると義母が い。 キャッチする(OCP)」. 「やさしい気持ちで接しよう(SCP)」 自分の趣味をつづ 「100パーセント義母に合わせることはし ける。ショックな出来 たくないけど、いる時にはなるべく穏や 事があったら電話で かな気持ちですごさせてあげたい(SC 相談する。 P)」. Ⅳ 段 階 C氏 可能な限り義母の. 関係が明確化され、相手との関係における「私」の役割 がより主体的に認知(「やさしくしてあげなくちゃ(D 氏) 」 ) にされるようになると推測される。 この段階では、 「援助を必要としている相手(対他者認知) 」に対する認 知と、 「介護者自身の主体的な役割認知(対自己認知) 」 が統合されて行動につながると考えられた。. D氏 トイレで自分で排泄 「昔を振り返るとその時期の本人はも. 「母のことを優しくしなきゃ(SCP)」「少 ずっとやりたかった できるようにしてあ のすごく不安だったと思う(OCP)」「母 しでも不安な気持ちがないようにしてあ 仕事をはじめる。 げる。声かけとか もうちにいるときにはゆったりしている」げたい(SCP)」 (OCP) 気をつける. (3)プロセスのまとめ 介護者役割取得とは、常に相手に対して「対処」しな. 介 介護者役割取得感・ 成長感 護 A氏 最近になってイライラが減ったというか介護の経験つんだって言う感じ。主人が興奮しても「いつもの仕草」と思って動じな い。このごろは私がこの病気を認めだした。・ ・ ・ 一日一日を大切にしていくっていうのが( 主人の) ひとつの教えじゃないか 者 な。自分がこういう経験をしているから他の人にも優しい気持ちでつきあっていきたいと思う。楽しく はないけど主人の介 役 護がいきがい 長割 最近こちらがすこし「 のほほん」 としだした。妻の話に「 また言っているな」 という余裕がでてきた。妻から結構癒されている 感取 B氏 んだと思う。お互いに癒しあっていきたい。この人のためにもうちょっと長生きしたい。 得 C氏 今のほうが手がかかるけど余裕がでた。8年前のほうが不幸。介護をしているうちに義母に対して「情」がでてきた。昔を 振り返ると義母のことが「 いとおしい」 感じがする。 感 ・ D氏 そのときそのときで一番いい方法を探していけばいいと思えるようになった。母の介護をすることで自分自身が成長したと 思う。いろんなことにあまり動じなく なったし、人の意見を素直に聞けるようになった。あきらめていたことでも今よりいい状 成 況を作ることができるんだと感じた。. ければいけない状況において、介護者が「相手」を認知 (理解) して行動するという自己対処を続けていく中で、 「私」と「相手」との関係が明確化するプロセスである と考えられる。 「相手への対応(行動) 」を通して「相手 が『痴呆である』 」という客観的な認知が深まる中で、次. 手が不安に思っている(C 氏) 」というような受容的な対. 第に「相手に対応するときに生じる自分の否定的な主観. 他者認知も同時に存在しつつも、非受容的な対他者認知. 的体験への対処」が中心的な課題となる。そしてそれに. も存在し( 「とぼけよるんかわからん(B 氏) 」 ) 、対他者. 対処しようとする中で、相手の人格や意思といった「痴. 行動としては「大きい声を出して間違いを指摘してしま. 呆である『相手』 」への認知が深まる。そして相手に対す. う(B 氏) 」などの非受容的な対処行動が中心的となる。. る認知と自分自身の主観的体験への対処的認知が統合さ. Ⅲ.対他者認知(受容的)に基づく対他者対処行動をと. れていくとともに「介護役割を引き受ける私」への肯定. るための対自己対処が中心的な段階. 感(介護者役割取得感)が高まると考えられる。. 介護相手に対して「病気なんだから(A 氏) 」 「言葉が の客観的な認知としての対他者認知が深まることによっ. Ⅳ 第 3 研究 家族介護者に対する回想的面接の 介護者役割意識化における効果の検討. て、 「苛々する」 「はらがたつ」というような、介護者自. 1.問題と目的. 理解できないから(D 氏) 」というような、相手の症状. 身が相手と接しているときに体験する否定的な主観的体. 第2研究の対象者の介護者役割についての語りが面接. 験を収めようとする対自己認知 ( 「やさしくしてあげない. を重ねることによってどのように変化していくのかにつ. かん(A 氏) 」 )が、より明確になる。そして「ぱっとそ. いて、面接の心理援助的効果の視点から検討する。. の場を離れる(A 氏) 」というように、否定的な主観的体. 2.方法 手続きは研究2と同じ。 全6回の面接過程を検討する。. 験を収めるための対自己行動をとりながら、 「なるべく妻 3.

(4) 3.結果と考察. れるから、それでいいのではないか」、 「介護は楽しくな. 「これまでの介護経験について語る」という教示に対. いけど自分自身のことだと思う。」と夫の介護を自分の. して、いずれの対象者においても、現在について繰り返. 「生きがい」として考えていると述べた。また、#4 で. し語ることがみられた。また、第二研究で明らかになっ. は「この頃イライラが落ち着いてきた。介護の経験つん. た自己対処プロセスのⅠ段階からⅢ段階における「認知」. だって言うか、うまくなったっていう感じ」と、介護者. と「行動」の語りは、面接経過による質的な変化は見ら. としての成長感を話された。#5では「長年のうちに主. れなかった。しかし、Ⅳ段階の現在のあり方についての. 人の影響を受けて、私は(きれい好きに)変わったとい. 語りは面接経過に伴い質的な変化がみられた。よって、. うことを思い出してきた」と述べ「夫婦ってこんなもん」. 事例Aの面接経過からⅣ段階についての語りの変化を検. と、夫婦としての関係を肯定的に再認識し、 「ここで(2. 討した。. 人で)一日一日を穏やかに過ごしたい」と述べた。また、. 【事例の概要】A 氏(77歳女性、夫を 10 年間介護). 現在の夫に対して「私に対する優しい部分がまだ残って. (介護相手の様子)引退していく必要もない会社に毎日. いる」し、 「几帳面なのは昔からの習慣」というように以. 出かけようとする徘徊が現在まで続いている。. 前と変わらない夫について繰り返し語ることがみられた。. 【A 氏との面接経過】. これらの経過からは、痴呆になってもかわらない「夫」. (1)「夫の徘徊」の語りに見られる役割意識化の検討. と「私」の関係を見出し、介護者として成長した自分に. #1では夫への対応の工夫を細やかに話され、会社に. 気づくことによって、 「主人の病態がよくなる将来」に想. 行こうとする夫の意図に沿った対応をすると、 「夫がニコ. いを馳せるのでなく、 「一日一日を大切にして」 「現在の」. ニコしている」と語られた。#2において「夫は会社に. 主人と穏やかに過ごすという現在の自分に対する肯定的. 行きたい。ずっとそれを思っているの」ときっぱりとし. なうけとめが促進されたと考えられる。それに伴い、介. た口調で語った。さらに、#3では夫が「会社に行きた. 護を生きがいとして捉え、 「より主体的に引き受けようと. いと思っているかもしれない」と予測してそれにもとづ. する私」 という介護者役割が意識化されたと推察できる。. き対応したという先日の出来事が語られた。また、 「私が. (3)まとめ. 不安に思うと、その気持ちが向こうに通じている(から. 本事例では、夫に対する現在の自己対処のあり方を繰. 徘徊をする)んじゃないか。 (#3) 」 。 「 (会社に)行けば. り返し語ることによって、介護相手に対する理解を深め. (主人は)落ち着く。どこに行くか観察してちゃんと見. つつ、相手と自分の現在の関係を肯定的に意識化するこ. 届けとこうって(#4) 」と、会社に行く夫を「観察して. とにつながったと考えられた。. 見届けよう」というA氏の意志が示された。. Ⅴ 総合考察. このように、夫の徘徊行動に対して、 「表情の変化」と いう外見的な理解についての語りから、 「夫は会社に行き. 第1研究によって介護経験によって介護者役割取得感. たい」などの意思の推測の語り、さらに「気持ちが通じ. のうちの充実感や効力感が高まることが示唆され、介護. ている」という語りに変化した。このことから、痴呆に. 者の体験のあり方がより重要であることが示唆された。. なって機能が低下しても、 「以前と同様に情緒的に相互作. そして介護経験の中で、第2・第 3 研究で示唆されたよ. 用しうる夫」としての相手理解が、面接過程において明. うな、介護を主体的にひきうけていく自己対処プロセス. 確化されたことが伺えた。それに伴い「 (私が)観察して. を通して介護者役割取得感が獲得されていくことが示唆. ちゃんと見届けよう」という、 「夫を見守る」介護者役割. された。そして、介護者役割取得の自己対処は、Ⅳ段階. への主体的な意識化が促されたことが推察された。. に到達したから終わりではなく、 常に変化しつづける 「相. (2)「介護者役割を引き受ける私」への語りの変化. 手」と「私」の関係のとらえなおしのプロセスと考えら. #1では、 「夫の介護ばかりではむなしい」が、 「犬の. れる。したがって、面接という安全な場において現在の. 散歩と主人の介護と、それだけでいい」と自分に言い聞. 自己対処に焦点化した援助が有効であると考えられる。. かせるように語られる一方で、 「主人が落ち着いたら、2. Ⅵ 主要参考・引用文献. 人で旅行にいってみよう」という希望が語られた。#2. では夫の苦労話を生き生きと語りだし、 「自分の亭主だし、 岡本裕子 2002 アイデンティティ生涯発達論の射程.ミネルヴァ書房 私にしか分からないことがある」と述べた。そして、#. S.マクナミー、K.J.ガーゲン編 1997 ナラティヴ・セラピー. 3では「主人が(自分が作った食事を)おいしく食べてく. 社会構成主義の実践.金剛出版. 4.

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