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商業集積に対する空き店舗活用補助事業の有効性に関する研究

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商業集積に対する空き店舗活用補助事業の有効性に関する研究

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU15607 相馬 一紀

1 はじめに1

1990 年代以降、規制緩和により大規模店舗の郊外立地 が進んだことを背景に、全国の多くの中心市街地の商店街 が衰退し、空き店舗が増加している 。この状況を受け全国 多くの自治体で、商店街の空き店舗に対する入居支援とし て、初期費用や賃借料の一部補助事業が行われている。こ うした補助事業は、中心市街地に商業を集積させることに よってまちの魅力を向上し賑わいを創出することを目的 としており、一市あたり年間1000万~4000万円の予算が 投じられている。

空き店活用補助事業によって魅力的な店舗が集積すれ ば、来客が増え、賑わいが生まれると考えられる。しかし、

空き店舗活用補助事業が店舗の出店コストを引き下げる ことによって、本来目的としていた魅力的な店舗が集まる のではなく、むしろ補助なしでは出店できなかったような 質の低い店舗が集まってしまうのではないだろうか。

本稿は、こうした問題意識のもと、補助が参入する店舗 の質に与える影響について、店舗の質の代理指標に CGM(Consumer Generated Media)の一種である食べロ グの評価点を用いて、計量分析により検証した。

2 商業集積に対する政策の実施状況 2.1 商業集積の概況

平成19年度(2007年度)の商業統計表によれば、商業集 積と位置づけられる商店街は全国に12,568ヶ所存在して いる。また中小企業庁が平成24年度(2012年度)に行った 商店街実態調査報告書によると、商店街における空き店舗 は増加傾向にある。こうした状況を受けて、多くの自治体 において空き店舗活用補助事業が行われている。

2.2 商業集積に対する政策の変遷

商店街の空き店舗活用補助事業の多くは、中心市街地活 性化基本計画における事業の一つに位置づけられている。

1990 年代以降の大型店舗の郊外立地が進んだことを背景 に商店街の空き店舗が増加したことを受け、1990 年代末か ら全国で空き店舗活用補助事業が展開されていった。

2.3 空き店舗活用補助事業の政策の概要

空き店舗活用補助事業は、入居時の改装費など初期費用 に対して補助を行うもの、一定期間月々の賃借料に対して 補助を行うもの、初期費用・賃借料両方に対して補助を行

1 本稿は論文の要約であるため参考文献等詳細は論文を参照されたい。

うものに大別される。

中核市に対するヒアリングにより、空き店舗活用補助事 業の実態を調査した。空き店舗活用補助事業を実施してい る中核市は、44市中36市であった。なお、実施していな

い8市のうち3市から、かつて実施していたが効果が上が

らないなどの理由からやめてしまったとの回答を得た。

3 空き店舗活用補助事業に関する理論分析 3.1 空き店舗活用補助事業の経済学的根拠と限界 空き店舗活用補助事業の経済学的根拠としてまず挙げ られるのは、商業の集積による正の外部性の存在である。

しかし、商業の集積は補助なしで自然に実現しうるため、

正の外部性をもって直ちに補助が正当化できるとはいえ ない。むしろ、自然に商業の集積が実現するものを、補助 によって特定の場所に誘導することは、商業にとっての最 適な立地を妨げる政府の失敗ともいえる。

では、どのような場合に、中心市街地の商店街に補助を 支出することが正当化できるのか。規制改革推進のための 3か年計画(2007年6月22日閣議決定)における議論を参 考にすると、新たに商業集積を中心市街地に作る場合と郊 外に作る場合とを比較したときに節約できるインフラ整 備費用の範囲において、補助を行うことが正当化できると いえる。つまり、空き店舗補助事業は際限なく正当化でき るものではなく、その範囲は限定的なものである。

3.2 空き店舗活用補助事業がもたらす影響についての 問題意識

前項で、空き店舗活用補助事業はインフラ費用が節約で きる適切な場所に商業の集積を形成する場合において正 当化できるものと整理した。補助によって集客力のある魅 力的な店舗が集積すれば、集積の経済による正の外部効果 が期待できる。しかし、補助は本来政策の目的としている 魅力的な店舗の集積に寄与していない可能性がある。

通常、店舗の出店には多額の費用がかかり、そのことが 一定水準以上の資本や市場競争力を備えていない店の参 入を排除する自然のスクリーニング効果をもたらしてい る。しかし、空き店舗活用補助金は出店コストを下げるた め、スクリーニング効果を打ち消し質の低い店舗の参入を 容易にしてしまう可能性があり、仮に空き店舗が埋まった としても、参入した店舗は集客力に乏しく、集積の経済に

(2)

2

よる正の外部効果は生じないのではないか。

4 空き店舗活用補助事業が店舗の質に与える影響の実証分析 4.1 仮説と分析の方法

空き店舗活用補助事業は出店に伴う金銭的負担を下げ 質の低い店舗の参入をもたらすため、補助を受けて出店し ている店舗は補助を受けていない店舗に比べて質が低い のではないか、という仮説を設定し、補助が店舗の質に与 える影響について最小二乗法(OLS)により分析を行う。

分析を行うにあたり、店舗の質の代理指標として食べロ グの評価点を用いる。また、別の指標として、食べログの 口コミ件数、さらに食べログ以外のデータを用いた分析と して、1年以内に閉店したかどうかを示すダミー変数を用 いた分析も行う。

分析範囲は函館市、練馬区、八王子市、岐阜市、豊橋市、

大分市とする。分析単位は、各都市における補助実施区域 及びその周辺区域に直近5年以内(2010年10月以降)に 出店した飲食店とする。

4.2 食べログデータの使用に関する留意点

食べログは、消費者の店舗評価データが膨大に集約され た有益なデータセットであるが、その使用に当たってはデ メリットを認識し対処する必要がある。

まず想定されるデメリットは、食べログの評価に店舗の 類型などによる様々なバイアスが存在することである。こ れに対処するため、バイアスをコントロールする変数を加 え分析を行う。

続いて想定されるデメリットはサクラの存在である。運 営会社の対策により一定の効果はあったものと想定され るものの、やらせ投稿が完全になくなったとはいいきれな い。しかしやらせ投稿は補助受給の有無と関連性が低いと 考えられるため、統計的に独立であると仮定し分析を行う こととする。

4.3 分析モデル及び変数の内容

分析は次に示す推計モデルを用いて行う。

2データ収集は2015年12月から2016年1月に行った。

これら3つのモデルについて、データ収集時点での最新 の食べログ評価点、口コミ件数を用いたクロスセクション データにより分析を行う2

また以下のコントロール変数を用いる。

客単価(昼、夜)、口コミ件数3、駅からの距離、席数、ジャンルダ ミー(和食、洋食、中華、エスニック、酒場、喫茶店・スイーツ、

ラーメン)、ジャンルダミー×客単価(夜)の交差項、公示地価対数、

ナショナルブランドダミー、開店日、都市ダミー

4.4 分析の結果

分析の結果を以下に示す。

表1 補助が店舗の質に与える影響の実証分析結果

3 モデル1、3において用いる。

2.9 33.13.23.3食べログ評価点 推計値

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 賃借料補助額(万円)

図1 賃借料補助額に対する食べログ評価点推計値

rm rm k

rm

rm rm

rm rm

k ε コ ン ト ロ ー ル 変 数 Σ β

       

賃 借 料 補 助 額 β

       

賃 借 料 補 助 ダ ミ ー β

初 期 費 用 補 助 額 β

       

初 期 費 用 補 助 ダ ミ ー β

β   食 べ ロ グ 点 数 評 価 モ デ ル

4

3 2

1 0

1

rm rm k

rm

rm rm

rm rm

k ε コ ン ト ロ ー ル 変 数 Σ β

       

賃 借 料 補 助 額 β

       

賃 借 料 補 助 ダ ミ ー β

初 期 費 用 補 助 額 β

       

初 期 費 用 補 助 ダ ミ ー β

β   口 コ ミ 件 数 モ デ ル

4

3 2

1 0

2

rm rm k

rm

rm rm

rm rm

k ε コントロール変数 Σβ

    

賃借料補助額 β

    

賃借料補助ダミー β

初期費用補助額 β

    

初期費用補助ダミー β

β    一年以内閉店ダミー モデル

4

3 2

1 0

3

(3)

3

食べログ評価点を被説明変数としたモデル1において、

賃借料補助額が食べログの評価点に与える影響は、統計的 に負に有意である。一方賃借料補助を受けること自体が食 べログの評価点に与える影響は、統計的に正に有意である。

この結果をグラフに示したものが図1である。賃借料補 助額がおよそ6万円までの水準であれば、補助を受けてい る店舗の質の推計値は、補助を受けていない店舗の質の平 均値を上回る。しかし、賃借料補助額が高額になると、店 舗の質の推計値は低下していく傾向となった。

なお、口コミ件数、一年以内閉店ダミーを被説明変数と したモデル2、3において、補助に関する変数は有意な結 果にならなかった。また、初期費用補助が食べログの評価 点に与える影響は、いずれのモデルにおいても有意な結果 が出なかった。

4.5 考察

モデル1における賃借料補助が店舗の質に与えた影響を 考察する。分析結果から、補助によって質の高い店舗が集 まる一方で、金額が高額になると質の低い店が増え、質の 高い店が減るという解釈ができる。この理由を説明するた め、補助金額が店舗の出店の意思決定に与える影響と、高 額の補助メニューを提示している自治体の問題点という2 つの視点から考察する。

(1)補助金額が店舗の出店の意思決定に与える影響

表2 店舗の類型

補助金が店舗の出店の意思決定に与える影響について、

表2のとおり店舗を品質、コストの観点から4種類に分類 し考察する。

消費者は、品質とコストのバランスから、店舗の質を判 断する。品質が良くコストが低い①は最も質が高く、次い で②、③の質が高い。品質が良くなくコストの高い④は最 も質が低い。このとき、補助金を

s

H

, s

Lと定義し、店舗 が出店する条件を、

r ( q )  c  0

とする。

この条件のもと、表2の店舗の類型ごとに、補助が店舗 の出店の意思決定に与える影響を考察する。

①品質が高くコストが低い場合、補助なしでも出店する

0 )

( q

H

c

L

r

②品質は高くコストも高い場合、補助なしでは出店しない が、少しの補助で出店する

0 )

( q

H

c

H

r

ただし

r ( q

H

)  s

L

c

H

 0

③品質は良くないがコストが低い場合、補助なしでは出店 しないが、少しの補助で出店する

0 )

( q

L

c

L

r

ただし

r ( q

L

)  s

L

c

L

 0

④品質が良くなくコストが高い場合、補助なし、少しの補 助では出店しないが、多額の補助で出店する

0 )

( q

L

c

H

r

かつ

r ( q

L

)  s

L

c

H

 0

ただし

r ( q

L

)  s

H

c

H

 0

これらの整理から、少額の補助の場合①の店舗が補助を 受けて出店するのに加え、②、③の、質は高いが出店コス トがネックとなり出店に至っていなかった店舗が出店す るため店舗の質が高まる。一方、多額の補助の場合④の質 の低い店舗が出店するため、店舗の質が低くなると考えら れる。

(2)高額の補助メニューを提示している自治体の問題点 最も高額の賃借料補助を行っている岐阜市の大型空き 店舗事業は、3年間で最大900万円の賃借料補助を受ける ことができる。この多額の補助メニューが店舗の質に影響 を与えた可能性として、大規模空き店舗への多額の補助に よって、空き店舗の規模と入居店舗の経営における適正規 模のミスマッチが発生した可能性が考えられる。需要が減 退し大型店の経営が厳しい場所に多額の補助で無理に大 型店舗を誘致しても、質の低い店しか集まらない、または 採算がとれず質が低下したのではないかと考えられる。

また、補助審査の主体の違いによる影響も考えられる。

岐阜市は他の自治体と異なり、補助の審査に職員以外が関 わらない。職員が審査を行う場合、形式要件に沿った以上 のことを判断できず、質の低い店がより参入しやすい状況 となっていた可能性が考えられる。

5 空き店舗活用補助事業が地価に与える影響の実証 分析

5.1 仮説と分析の方法

キャピタリゼーション仮説に基づき、店舗の集積により 正の外部性が発生すればその便益は地価に帰着すると仮 定すると、空き店舗補助事業によって商業集積が生まれて いれば、地価は高まるのではないか。

この仮説を実証するため、被説明変数を公示地価・都道 府県地価の対数値とし、商店街に存在する補助店舗の数が 商店街周辺の公示地価・都道府県地価に与える影響を、

1995 年から2015年までのパネルデータを用いた固定効 果モデルによって分析する。なお、コントロール変数とし て町丁目ごとの人口密度を用いる。

また、函館市、練馬区、八王子市、岐阜市、大分市、鹿 児島市を分析範囲とし、各市の商店街から100m以内の範 コスト

品質

良くない ③ ④

 低い  高い

良い ① ②

) (qL

) (qH

)

(cL (cH)

(4)

4

囲における地価ポイントを分析単位とする。

5.2 分析モデル及び変数の内容

分析は次に示す推計モデルを用いて行う。商店街の規模 や周辺環境などの地価ポイントごとの特性は、固定効果に よりコントロールする。

5.3 分析の結果

表3のとおり、分析結果から補助店舗が地価の対数値に 与える影響は、統計的に負に有意となった。最寄りの商店 街の補助店舗が増えるほど、当該地価ポイントの地価は 3%下がる結果となった。

表3 補助店舗数が地価に与える影響の実証分析結果

5.4 考察

分析によって、補助店舗が存在する場合地価が下がる結 果となった。補助店舗には、食べログによる実証分析結果 で質の高い店舗を集める可能性が示された賃借料補助を 受けている店舗だけでなく、初期費用補助を受けている店 舗、また高額の補助を受けている店舗も含まれている。こ のため、総体として効果があるという結果は得られなかっ た。

そもそも補助を受けた店舗が多く存在する地区は、空き 店舗も多く、地域の商業地としての需要が低下している地 区と考えられるため、この結果は補助を受けた店舗が地価 を下げたためではなく、空き店舗活用補助事業が、地価下 落傾向にある地域において実施されたためと考えられる。

6 政策提言

本稿では、商業集積に対する空き店舗活用補助事業の有 効性を実証するため、食べログを用いた分析、地価を用い た分析の2種類の方法で分析を行った。食べログを用いた 分析では、賃借料補助に質の高い店舗を集める可能性があ る一方、補助額が高額になると質の低い店舗が参入する余 地が増えることが実証された。また、地価を用いた分析で は、補助店舗の数が地価を上昇させるとする仮説に対し、

補助店舗が存在する場合地価が下がる結果となった この結果から、補助によって質の低い店舗が参入しうる

ため、審査によってこれを排除する方策が提言の基本的方 針として考えられる。審査では店舗の質に関する情報の非 対称が存在するため、これを緩和する観点から具体策を4 点提言する。

まず1点目は、スクリーニングによる緩和策である。具 体的には、出店後一定期間内に撤退した場合に補助金返還 を義務付ける規定を設けることが考えられる。この規定に よって、経営を続けていく自信のある店舗以外の補助の申 し込みを排除できると考えられる。

2点目は、オークションにより最も安値の補助金で入居 する店舗を選抜する方法である。この方法により最も質の 高い店を選抜することができる。ただし、実施にあたって は同時期に入居を希望する店舗を複数集めなければなら ず、実際の運用に向けた課題は多い。

3点目は、審査の主体を、適切に質を見極められる主体 とすることである。審査の主体に関して、既に多くの自治 体でさまざまな工夫が行われているが、少なくとも自治体 職員のみによる審査では、形式要件以上の判断を下すこと は困難だと考えられる。

4点目は、空き店舗の規模と、入居希望店舗の経営にお けるミスマッチ解消のために、専門家が空き店舗の規模と 経営の適正規模との適合を判断する審査基準を作ること である。

7 おわりに

本稿では、空き店舗活用補助事業に注目し、賃借料補助 が質の高い店舗を集める可能性があることを実証した。た だし、空き店舗活用補助事業は、商業集積による賑わいを 実現しようとする一つの手段であるが、補助が正当化でき る範囲はあくまでインフラ整備費用節約の限界効果の範 囲であり、補助によって抜本的な解決が図れるものではな い。

一方、民間主導による商業集積による賑わいを実現する ための取り組みの成功事例として、定期借地権制度を活用 した再開発により総合的なテナントミックスのマネジメ ントを行った高松市の丸亀町商店街や北九州市小倉のリ ノベーションまちづくり事業が挙げられるが、これらの成 功要因の一つには、地域の問題点を定量的・定性的に分析 した上で、まちを再生するためのビジョンを構築したこと が挙げられる。

商業集積による賑わいを形成する上で、どんな場所でも 常に有効な処方箋はない。それぞれの地域の問題点を適切 に把握し対処することがまず求められる。その上で、手段 として空き店舗活用補助事業を実施する場合には、6章で 述べた効果的な補助を行うための検討が必要となるだろ う。

時間 地価ポイント   

ε  

町丁目ごとの人口密度 β

      

店舗数 最寄りの商店街の補助 β

=β 地価対数

t i

T Ii t it i

t it

2 1 0

参照

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