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高血圧性脳内出血超急性期治療

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高血圧性脳内出血超急性期治療

田 中 藍웋웦워웦웍 大 槻 俊 輔웋웦워

웋近畿大学医学部附属病院脳卒中センター 워総合医学教育研修センター 웍小児科

Make  Sur e  t o  Los e  No  Ti me  Fi ght i ng  agai ns t  Hyper t ens i ve  I nt r acr ani al  Heamor r hage  Expans i on  

Ai  Tanaka,Tos hi ho  Oht s uki  

Stroke Centre,Kindai University Hospital

は じ め に

脳卒中は,我が国における神経救急疾患の中でも 頻度が高く,近年の厚生労働省の官報によると年間 死亡者数も癌,心臓病,肺炎に次いで第4位に座す る疾患群である.また,脳卒中は突然発症し,たと え一命をとりとめても,片麻痺や失語,認知機能障 害等の後遺症に苦しむことが多い.寝たきりや身体 不自由になり介護保険申請を必要とする疾患の第1 位でもあり,社会的にも医療費暴騰や介護システム のマンパワー不足で治療継続可能かどうかで蹌踉に なるほどの論点になっている.

脳卒中は脳梗塞・一過性脳虚血発作,脳内出血,

くも膜下出血に病型分類される.脳卒中全体の死亡 率はこの40年来低下しており,重篤な頭蓋内血腫の 発生頻度低下による.これはひとえに高血圧等の循 環器疾患の危険因子管理の進歩と脳卒中救急医療シ ステムのたゆみなき構築によるものと考えられる.

しかし,死亡率の低下は,人口年齢で補正した発生 率が変わらないがためす,脳卒中後遺症罹患率は決 して減少していないことを示している.脳卒中発生 率を左右する要因としては,高齢,高血圧,糖尿病,

心房細動,脂質異常症,肥満・運動不足,喫煙や飲 酒,環境因子からのストレス等である.また,t‑PA や血管内治療を含めた脳梗塞超急性期治療,脳出血 に対する外科治療,ストロークケアユニット,統合 的脳卒中センターの設置,シームレスなリハビリテ ーションの地域連携および地域包括におけるかかり つけ医との連携により治療成績すなわち死亡率低下 や転帰良好率が著明に向上となっている.

脳表面を走行する脳主幹動脈から直角に分枝し脳

実質を貫く穿通枝動脈,なんとこれは生体内では飢 餓や脱水となっても脳だけは栄養を維持できるよう になっているわけだが,内皮細胞と周皮細胞からな る毛細血管であるがため,高血圧等の影響をもろに 受け,リポヒアリン・フィブリノイド変性や微小動 脈瘤破裂により脳内出血を発症する.疫学調査から も高血圧が最大の危険因子,発症への集団寄与率が 高く,また高血圧の重度と脳内出血の発生率とは直 線的相関を示している.近年,行政および一般実地 医家による減塩指導や啓発活動,安定的な降圧薬の 普及が脳出血発症頻度と死亡率低下に大きく貢献し たとされている.またひとたび脳内出血を発症して も脳実質には組織因子が豊富に含まれており,凝固 カスケードの外因系の上流がすぐ動き止血システム が作動する.しかし,私たちの堺泉北・南河内医療 圏域では脳内出血の発症が反転して増加している.

これは,高血圧への取り組みがまだ不十分であった り,抗血栓薬特に抗血小板薬併用や抗凝固療法の汎 用からではないかと考えさせられることが多い.

出血性脳卒中は,出血部位によって主に脳内出血 とくも膜下出血に分けられる.脳内出血は脳実質内 に,くも膜下出血はくも膜下腔に出血をきたす.脳 内出血は,脳穿通枝動脈病変による高血圧性脳出血,

以外に脳血管異常,すなわち脳動静脈奇形,海綿状 血管腫,もやもや病,アミロイドアンジオパチーに よる出血がある.また,転移性脳腫瘍内出血,凝固 異常や抗血栓療法に伴う脳内出血などもある.一方 クモ膜下出血は,主として脳動脈瘤破裂や脳動脈解 離,脳動静脈奇形等による.脳内出血の約80%を占 める高血圧性脳内出血は,穿通枝の破裂により生じ るため,特定の部位すなわち大脳(被殻・視床・皮

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質下)に8割発症,その他テント下の脳幹や小脳に も起こる(表1).脳内出血の危険因子としては,高 血圧,大量飲酒,喫煙が挙げられ,これらを是正す ることが脳内出血の予防に重要である.また,近年 循環器疾患に対して処方される抗血栓薬服用中の脳 内出血の割合が3割近くに増加しており,重症化す ることから,適正抗血栓薬使用が励行される.

症 例

61歳女性.

現病歴:20XX年6月X日20時頃,自宅で入浴後,脱 衣室で眼がうつろとなり意識がもうろうとし,呼び かけたが呂律が回らず,体に力が入らず,座ったり,

立って歩けないため家族より救急依頼,本院へ卒中 コールで21時05分に搬送となった.経過中頭痛・嘔 気嘔吐・けいれんは認めなかった.

既往歴:糖尿病,高血圧を有し糖尿病性腎症からの 腎不全に対して血液透析療法中であり,最終透析日 は2日前である.治療薬にインスリンがある.喫煙,

飲酒の嗜好なし.

家族歴:特記すべきものなし.

身体所見:右上腕に透析シャントのための拍動性ス リルを触れる静脈怒張をみとめる.会話はできるが 頚部は左への捻転をきたしていた.左上腕血圧199/

100mmHg,脈拍97回/分整脈,体温37.0℃,呼吸数 20回/分であった.眼瞼結膜はやや蒼白も眼球結膜は 黄染なく,胸部心肺音清音,頸部血管雑音も聴取し なかった.腹部平坦かつ圧痛なく,腫瘤なく,正常 グル音聴取.下腿浮腫を軽度認める.

神経診察:意識レベルは閉眼しており呼びかけで容 易に開眼 Japan Coma Scale10,Glasgow  Coma Scale14(E3M6V5)と発語と従命可能な程度の 

軽度の意識障害があった.眼球左への共同偏視と眼 球運動制限があり,瞳孔径左右差なく 3mm,対光反 射は直接および関節反射とも俊敏かつ完全であっ た.顔面は右鼻唇溝が浅く口角下垂,右閉眼不完全 であることから中枢性左顔面神経麻痺,Barre徴候 右陽性,Mingazzini試験右陽性(すなわち右上肢は 体幹幅寄せ可能も腹上への挙上不可.右下肢は膝立 はできたが,挙上は不可)と左上下肢不全麻痺をみ

とめた.協調運動は麻痺相応に拙劣であった.触覚・

温痛覚に左右差は認めなかった.トケイ・メガネな どの呼称が不可能であり,復唱言語理解は簡単なも のは可能であった.軽度の構音障害と伴った.また 半側空間無視や消去現象はなかった.NIHSSスコ ア14であった.

診断経過:上記から急性発症短時間で進行性,意識 障害と右片麻痺・運動性失語がある.意識障害の鑑 別診断を表2に示すが,本例では左前頭葉の皮質を 含んだ広範囲の脳疾患,特に虚血性脳卒中を疑った.

血液検査結果を表3に示す.また心電図は洞調律,

胸部レントゲンでは特記すべき異常所見認めず,頭 部 CTでは右被殻に高吸収域を認め,脳内出血と診 断した(図1).推定血腫量12mLであり,症状の重 症度(NIHSS14中等度),血腫部位(被殻)と血腫 量から,脳卒中治療ガイドライン2015(表4 開頭 手術適応)を遵守して,まず内科保存療法を選択し た.迅速に,安静,呼吸の確保すなわち気道の開通 と自発呼吸の確認,非麻痺側すなわち左前腕血管を 生理食塩水で確保し,補液開始,降圧を開始した.

画像診断が簡便かつ迅速に行われるようになった が,問診・診察が非常に重要である.問診時には,

表쏯 脳出血の部位別頻度(脳卒中データバンク2015による)と主たる症候

出血部位 眼症状(共同偏視) 症候(軽重の意識障害に加えて) 運動麻痺 被殻出血(29%) 病側への共同偏視 失語・失構音,反側空間無視 対側片麻痺 視床出血(26%) 鼻をにらむ内下方への共同偏視 感覚鈍麻,異常感覚,健忘失語 対側片麻痺 皮質下出血(19%) さまざまな共同偏視 失語,失行・失認,同名半盲 時に片麻痺

小脳出血(8%) 眼振 体幹・四肢失調,断綴言語 少ない

脳幹出血(9%) 正中固定,変斜倚 pinpoint pupil 眼球運動制限 四肢麻痺

表쏰 意識障害の鑑別診断 AIUEO‑TIPS A:アルコール,Wernicke脳症

I:低血糖,糖尿病性ケトアシドーシス,高血糖性 高ケトン性症候群

U:尿毒症 E:電解質異常

:脳症 肝性脳症,高血圧性脳症,子癇,ヘルペ ス脳炎,辺縁系脳炎

:内分泌疾患 甲状腺機能低下・副腎皮質機能低 下

O:薬物中毒(睡眠薬、向精神薬)

:低酸素血症,CO욽ナルコーシス,一酸化炭素中 毒

T:脳外傷,脳腫瘍

:低/高体温,悪性症候群

I:重篤な感染(呼吸器感染症・髄膜炎・閉塞性化 膿性胆囊炎・敗血症)

P:精神疾患,ヒステリー,ポルフィリア S:失神,てんかん,脳卒中

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既往歴,内服歴,家族歴,心房細動の有無などのほ か,発症時刻,突然・病状固定・進行性などの形式,

発症時の状況・随伴症状の確認が,治療方針の決定 上必須である.発症時刻は治療方針を決定する上で 非常に重要であり,発症後4.5時間以内であれば経静 脈的血栓溶解療法,6時間以内であれば血管内治療 の積極的な治療対象になり,これらの治療の可否が 患者の予後を大きく左右しうる.そして一般内科診 察として,バイタルサインの確認,聴診・触診を行 い,次に NIHSSを含めた神経診察も行う.患者から の診察時訴えが乏しくとも,脳血管障害の可能性を 見逃さないために神経診察は行われるべきである.

来院後頭部 CT(図1)では,血腫量12mlの左被殻 出血を認めたが,この推定血腫量は 横径 cm×縦径 cm×高さ cm/2[cc] で計算される.脳出血の部位 では被殻出血が最多であり,健側への共同偏視や意 識障害,対側片麻痺が特徴である(表1).

血腫は中大脳動脈水平部近くにあり,同部位の脳 動脈瘤を疑い,造影 CTを行った.造影剤の血腫内 への漏出である CTA spot sign陰性であり,脳主幹

動脈の血管病変を認めなかった(図2).血管病変が ないことから腎性高血圧の存在から,高血圧性脳内 出血と診断した.高度の高血圧を認めたので,短時 間作用型である亜硝酸薬ニトログリセリンやカルシ ウム拮抗薬ニカルジピンを併用して持続静脈投与に より初期目標値を160mmHg,症状進行がないこと を確認して1時間以内に140mmHg未満となるよ うに搬送1時間以内に治療導入した(表4 血圧管 理).本症例では来院時収縮期血圧199mmHgと非 常に高値であり,亜硝酸薬を投与し降圧療法を開始 した.しかし降圧に難渋し,発症1週間の時点で意識 レベル悪化と症状増悪をきたしたため再検した頭部 CT(図3)では,血腫拡大と脳室穿破を認めた.亜 硝酸薬にカルシウム拮抗薬併用する持続点滴静注を 継続的に行った.また血管補強薬や抗プラスミン薬 の投与をした(表4止血剤)しかし,その後は厳格 な降圧療法を継続して,その後血腫拡大はなかった.

脳卒中患者の急性期管理において,適切な治療選 択と身体管理が重要である.そしてまた,感染症,

消化管出血,発熱などの合併症や,痙攣,嚥下障害 などの随伴症状は,脳卒中患者の転帰に影響する因 子であり,合併症対策や随伴症状に対する対症療法 が必要となる.

本症例でも来院1時間後吐血し,Cushing潰瘍に よるものと考え,プロトンポンプインヒビターを投 表쏱 血液検査データ

씗血球算定>

WBC(10웍/ l) 6.6 RBC(10원/ l) 3.70 HGB(g/dl) 10.7

HCT(%) 34.7

MCV(fL) 93.8

MCH(pg) 28.9

MCHC(%) 30.8

PLT(10웎/ l) 29.5 씗生化学>

CRP(mg/dl) 0.050 Na(mmol/l) 137 K(mmol/l) 5.7 Cl(mmol/l) 100 BUN(mg/dl) 70 Cre(mg/dl) 9.49 GLU(mg/dl) 124

TP(g/dl) 7.8

T.Bil(mg/dl) 0.2

AMY(U/l) 182

AST(U/l) 17

ALT(U/l) 9

LDH(U/l) 222

CK(U/l) 45

씗凝固>

PT(sec) 11.4

PT(%) 120以上

PT(INR) 0.92

APTT(sec) 23.6 APTT(con) 29.9

図쏯 来院時 CT

左被殻に高吸収域を認め,血腫と診断される.

推定血腫量は12mlである.

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与した(表4上部消化管の管理).Cushing潰瘍予防 のため,上記プロトンポンプインヒビターや H욽受 容体遮断薬を予防的に投与する必要があると考え る.Cushing潰瘍とは,脳外傷や脳外科手術のストレ スにより発生する急性胃・十二指腸潰瘍である.迷 走神経刺激による胃酸分泌促進や,交感神経刺激に よる胃壁の血流低下などが関与すると考えられる.

また,右下肢弛緩性麻痺が強いため,下肢深部静

脈血栓症およびそれによる肺塞栓予防するべく,フ ットポンプによる間欠的空気圧迫を行った(表4深 部静脈血栓予防).本例では血液検査で d-dimerの 亢進を認めたが,経過中下肢深部静脈超音波でも血 栓形成なく推移した.

回復期には,経管チューブからの栄養開始を行っ た.これには基礎疾患である糖尿病の血糖悪化を伴 ったため,血糖値に基づく即効型インスリンのスラ 表쏲 脳卒中治療ガイドライン2015 高血圧性脳出血急性期治療

○血圧の管理(p143)

1.脳出血急性期の血圧は,できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に下降させ,7日間維持することを考慮 しても良い(グレードC1).

2.脳出血急性期に用いる降圧薬としては,カルシウム拮抗薬あるいは硝酸薬の微量点滴静注が勧められる(グレ ードB).カルシウム拮抗薬のうち,ニカルジピンを適切に用いた降圧療法を考慮しても良い(グレードC1).

可能であれば,早期にカルシウム拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシン受容体 拮抗薬(ARB),利尿薬を用いた経口治療へ切り替えることを考慮しても良い(グレードC1).

○止血薬の投与(p142)

1.通常の高血圧性脳出血急性期で血液凝固系に異常がない場合,血液凝固因子を含めた血液製剤の投与は行わな いよう勧められる(グレードD).

2.高血圧性脳出血であっても血小板や血液凝固系の異常を合併し出血傾向が認められる症例では,病態に応じて 血小板,プロトロンビン複合体,新鮮凍結血漿などの血液製剤の投与を考慮しても良い(グレードC1).

3.脳出血急性期に対して血管強化薬,抗プラスミン薬の使用を考慮しても良い(グレードC1).

○開頭手術,神経内視鏡手術(p155)

1.脳出血の部位に関係なく,血腫量10ml未満の小出血または神経学的所見が軽度な症例は手術を行わないよう 勧められる(グレードD).また,意識レベルが深昏睡(JCSで300)の症例に対する血腫除去は科学的根拠がな い(グレードC2).

2.被殻出血:神経学的所見が中等症,血腫量が31ml以上でかつ血腫による圧迫所見が高度な被殻出血では手術 の適応を考慮しても良い(グレードC1).特に,JCSで20〜30程度の意識障害を伴う場合は,定位的脳内血腫除 去が勧められ(グレードB),開頭血腫除去術を考慮しても良い(グレードC1).

3.視床出血:急性期の治療としての血腫除去術は,科学的根拠がないので勧められない(グレードC2).血腫の 脳室内穿破を伴う場合,脳室拡大の強いものには脳室ドレナージ術を考慮しても良い(グレードC1).

4.皮質下出血:脳表からの深さが 1cm 以下のものでは,特に手術の適応を考慮しても良い(グレードC1).

5.小脳出血:最大径 3cm 以上の小脳出血で神経学的症候が増悪している場合,または小脳出血が脳幹を圧迫し 脳室閉塞による水頭症を来たしている場合には,手術を考慮する(グレードC1).

6.脳幹出血:急性期の脳幹出血例に血腫除去を勧めるだけの根拠はないので,勧められない(グレードC2).脳 幹出血のうち脳室内穿破が主体で,脳室拡大の強いものは,脳室ドレナージ術を考慮しても良い(グレードC1).

7.成人の脳室内出血:脳血管の異常による可能性が高く,血管撮影などにて出血源を検索することが望ましい(グ レードC1).急性水頭症が疑われるものは脳室ドレナージを考慮する(グレードC1).血腫除去を目的とする 血栓溶解薬の投与を考慮しても良い(グレードC1).

8.脳内出血あるいは脳室内出血の外科的治療に関しては,神経内視鏡手術あるいは定位的血腫除去術を考慮して も良い(グレードC1).

○上部消化管出血の管理(p148)

高齢,重症などの危険因子を持つ脳出血例では消化管出血の合併に注意し,抗潰瘍薬の予防的投与を考慮しても良 い.(グレードC1)

○深部静脈血栓症および肺塞栓症の予防(p149)

1.脳出血急性期の患者で麻痺を伴う場合,間欠的空気圧迫法により深部静脈血栓症および肺塞栓症を予防するこ とが勧められるが(グレードB),弾性ストッキング単独の深部静脈血栓予防効果はないため,行わないよう勧め られる(グレードD).

2.間欠的空気圧迫が行えない患者においては,抗凝固療法を行うことを考慮してもよい(グレードC1).

○再発予防(p151)

脳出血では血圧のコントロール不良例での再発が多く,再発予防のために血圧を140/90mmHg未満に,可能であれ ば130/80mmHg未満にコントロールするよう勧められる(グレードB).特に microbleeds合併例ではより厳格な 血圧コントロールを行うことを考慮しても良い(グレードC1).

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イディングスケール法を選択し,また同時に順次チ ューブより経口降圧薬を開始した.長時間作用型カ ルシウム拮抗薬,β遮断薬,亜硝酸薬,非透析日にア ンジオテンシン受容体拮抗薬や抗アルドステロン薬 を順次追加し,目標血圧をめざした.

これまで週3回血液透析を施行しており,入院後 の血圧管理はより困難であった.亜硝酸薬とカルシ ウム拮抗薬を軸にレニン・アンジオテンシン系阻害 薬は非透析日のみ使用し,体液貯留による血圧上昇 に対応した.また血圧が下がりすぎた場合は,効果 発現の早い亜硝酸薬の貼布薬をはがして対応した.

本症例は糖尿病性腎症に対し血液透析を行っている 患者であり,脳出血急性期治療においても血液透析

を行う必要があった.透析を行うにあたって透析回 路に抗凝固薬としてヘパリンを使用するが,脳出血 をきたしている患者に抗凝固薬(ヘパリン)を投与 すると体内への一部潅流があり,血腫の再出血が懸 念される.よって半減期が5〜8分と短く,体外循 環中は血液凝固を防止し,体内ではすでに不活性化 されるメシル酸ナファモスタット(コアヒビター)

を使用した.また血圧変動に注意を払い,除水量の 調整を行なった.このように抗凝固薬の選択,除水 量とスピード調整により,出血病変をもつ患者の出 血のリスクを転減しながら,透析専門医と日々全身 状態を報告しながら,血液透析を行った.

脳卒中患者では,一般に呼吸器感染,尿路感染,

せん妄や不穏による転倒転落,褥瘡などを合併する 頻度が高いため,入院時から合併症リスクを評価し,

積極的合併症予防と治療に取り組むことが推奨され る.急性期から理学療法やリハビリテーション介入 を行うことも推奨される.私たちの施設では入院時 高齢者総合機能評価を行い,老年症候群のリスクの 層別化を行い,せん妄に対する原因精査と対応,褥 瘡や脆弱皮膚への対応も重視している.

発熱を認めた場合は,気道や消化管・尿路等の感 染源を評価し適切な抗生物質を選択し,またクーリ ングおよびアセトアミノフェンやイブプロフェン等 の解熱薬を投与し体温低下を考慮する必要があり,

脳卒中急性期には治療的低体温(軽度低体温療法を 含む)の有用性はないが,平温療法は試みていい.

けいれんは急性期死亡や機能転帰不良に関係する 因子であり,皮質を含む出血性病変を伴う高齢患者 では,ジアゼパムによる停止後,抗てんかん薬によ る予防的治療を考慮する.カルバマゼピン,レベチ ラセタム,ラモトリギンを選択している.難治例で はラコサミド,ペランパネルも選択される.本例で はけいれん発作はなく,推移した.

患者が飲食や経口的内服を開始する前に,嚥下評 価することが推奨される.これは 3mLや30mL飲 水テストや反復空嚥下試験からなり,誤嚥性肺炎予 防とともに早期経口摂取が消化管合併症を予防しえ る利点を有する.本例では,経管栄養から導入,そ

図쏰 造影 CTおよび CTA

血腫内に造影剤の漏出はない.ま た,CTアンジオグラフィーでは 左中大脳動脈に動脈瘤はなく,血 腫により圧排されている.

図쏱 症状進行時の CT

意識レベル低下,症状進行したため,撮影さ れた CTである.血腫量は17mLと増加して いた.一般に33‑40%の血腫量増加を血腫拡大 と定義しており,症状進行すなわち NIHSS スコアが4増加,GCSが2減少することと相 関する.

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の後意識レベルが清明となった時点で,嚥下訓練開 始食・嚥下ピュレ・嚥下ゼリー食へ切り替え,ステ ップアップしながら栄養管理し,NSTチームの助 言を得ながら嚥下5分食まで上げ,また糖尿病に対 してインスリン療法を丁寧に施行していたため,安 定期には持効型インスリンを眠前に投与し,血糖値 が200以上の場合はスライディングスケールで対応 した.

しかし第17病日,意識レベル低下と四肢の筋力低 下を認め,橋正中部に脳内出血再発を認め,このと きも降圧は非常に困難であった.右上下肢麻痺は 徐々に悪化を認め,弛緩性麻痺となっていたが,脳 浮腫の改善とともに不全麻痺となり,挙上可能,ま

た立位保持可能になるまで改善した.ADLは車椅子 移乗まで可能となった.回復期リハビリテーション へと進め,発症3ケ月後には杖歩行可能まで回復し たと南河内圏域脳卒中地域連携パスによる報告を受 けた.

考 察

脳出血の急性期治療の主な目的は,神経症状の増 悪の防止である.脳出血の転帰不良因子として年齢,

NIHSS,GCS,血腫量,血圧,抗血栓薬の内服,血 腫拡大,脳浮腫,神経徴候悪化が挙げられ,神経徴 候悪化因子として超急性期では血腫量,血腫拡大,

急性期では入院時 GCS,血腫量,血腫拡大,脳室穿 破,亜急性期では脳浮腫,発熱に注意が必要である.

急性期治療の中心は高血圧に対する適切な降圧療法 である.降圧療法の目的は自然止血を促し,再出血 を防止することである.可及的速やかに収縮期血圧 を140mmHg未満に降下させることが重要であり,

降圧薬として静注薬ではカルシウム拮抗薬および硝 酸薬,内服薬ではカルシウム拮抗薬,ACE阻害薬,

ARB,降圧利尿薬が推奨される.また脳浮腫・頭蓋 内圧亢進症状(頭痛,嘔吐,意識障害など)を伴う 大きな脳出血では脳ヘルニアに至り,時に致死的で あり,部位により直達手術が必要となる.血腫周囲 の脳浮腫には高浸透圧利尿薬(グリセロール)の投 与を考慮してもよいとされている.

亜急性期の血圧管理では,ARB,ACE阻害薬,カ ルシウム拮抗薬の内服も併用した.腎排泄型 ARB であるテルミサルタン・オルメサルタンは透析中で も用量調整して使用することが可能であり,一般に 心腎保護や脳循環調節の作用,インスリン抵抗性改 善作用がある.ACE阻害薬も同様であり,ペリンド プリルは脳卒中再発予防効果が示されており,糖尿 病,心不全,心筋梗塞,脳卒中に有用であるととも に誤嚥性肺炎予防効果もあり,嚥下障害症例には有

図쏲 入院後血圧値の推移

収 縮 期 血 圧 を 迅 速 に140mmHg まで減じたが,その後の厳格治療 に関わらず変動が目立つ.

図쏳 再発時 CT

第17病日に意識レベル低下,橋正中部に直径 3mm の高吸収域を認めた.

(7)

用である.カルシウム拮抗薬は血管拡張作用を有し,

高齢者にも使用可能で脳・腎保護作用があるため,

糖尿病,脂質異常症を合併する高血圧症に有効であ る.また24時間にわたる安定性,日々変動を少なく 管理できる利点がある.

我が国の脳卒中全体の発症頻度は,欧米諸外国と 比較し若干高く,脳出血の発症頻度は2〜3倍高い.

高血圧は脳出血の最大の危険因子であるため,一次 予防としての血圧管理が脳出血発症を防ぐために重 要である.とくに早朝高血圧や夜間高血圧も重要な 危険因子であり,24時間にわたる安定的な降圧が必 要である.ほかに「摂取塩分量適正化」「糖尿病治療」

「運動推進や適正体重維持」「禁煙およびその継続」

「脂肪酸摂取指導」は,虚血性疾患予防には有用だが,

脳出血予防における科学的有意義性は高くないもの の,間接的に高血圧への良い影響があるため推奨さ れる.飲酒に関しては,アルコール摂取量の増加に 伴い脳出血のリスクが増し,大量飲酒による肝機能 障害と,それによる凝固因子の低下・低コレステロ ール血症の影響に加え,飲酒そのものが高血圧の交 絡因子である可能性も否定できないとされる.

脳卒中患者に対するリハビリテーションの目的と 内容は,発症からの時期に応じて異なり,急性期・

回復期・維持期に区分されている.その時々に応じ た必要かつ十分なリハビリテーションが継続的に提 供される,切れ目のないリハビリテーションが行わ れるためには,回復期リハビリテーションの適応と なるケースが滞りなく転院できるよう,急性期病院 とリハビリテーション病院の連携体制を構築する必 要がある.また回復期から維持期へと移行する際に,

介護保険サービスなどへの引き継ぎもこれに当ては まる.

急性期では,原則として48時間以内を目処に可及 的早期から離床を開始することが推奨される.リハ ビリテーションの開始時期については個別の検討が 必要であり,病型や血行動態への配慮とともに,廃 用症候群に陥りやすい高年齢症例を若年発症の場合 と同一に扱うことなく,柔軟に判断することが重要 である.症状安定,血腫拡大停止,血圧コントロー ルが安定的になされていることが全症例で前提とな る.回復期リハビリテーションは,十分に時間があ る環境で反復練習を繰り返しつつ,生活機能の改善 を図ることができる病棟で行われる.リハビリテー ションの進捗状況に伴った活動量の増大やライフス タイルの変化により,血圧や脂質代謝,血糖値にも 改善が生じうることを念頭に置く必要がある.また 運動量の増大にあたり,冠動脈疾患や心不全といっ た心機能などを評価することも重要となる.

維持期リハビリテーションは,回復期リハビリテ ーション病院を退院したあと提供される.基本的に は介護保険による訪問リハビリテーションと通所リ ハビリテーション(デイケア)の活用が主体となる.

リハビリテーションの環境を整備するために身体障 害者手帳などのサービス利用や介護保険や障害年金 の申請を視野に入れて,地域での生活を組み立てて いく必要がある.リハビリテーションは,発症早期 から時間をかけて課題を反復すると機能が回復し,

予後が良い.身体を動かすことで体力的にも,筋力 的にも機能は向上する.

脳卒中医療は急性期・回復期・維持期の3病期に 分けられ,その治療目標は,専門的医療が可能な急 性期医療機関へ迅速に搬送し救命率を高め,脳卒中 後遺症を可能な限り軽減させることである.この急 性期医療機関から在宅への早期復帰を目指して回復 期リハビリテーション病院へ転院し,最終的には自 宅に戻り,住み慣れた地域や自宅で再び病前同様の 生活ができるようになることを目的としている.こ の目的と目標がはっきりしているがために,急性期 から回復期,維持期に至るまでの切れ目のない適切 な医療・介護サービスを提供できる地域連携システ ムが必要であり,私たちの地区では南河内圏域脳卒 中地域連携クリティカルパスが作成・運用されてい る.患者はこの南河内圏域脳卒中地域連携クリティ カルパスに記載された診療計画に沿って,連携先病 院やかかりつけ医でリハビリ・診察・検査を受ける.

そして,それぞれの医療機関が診察・検査の結果を 記入することで,患者の状態を連携する医療機関同 士が共有でき,患者の自立・療養を最大限サポート するうえで大切な記録となる.

今回,超急性期の被殻出血に対し,強化降圧療法 を施行した症例を経験した.降圧療法に難渋し,血 腫拡大をきたした.また亜急性期に再発するという 担当医として忸怩たる思いであった.維持透析再開 に伴う降圧療法の重要性と難しさと痛感し,生活習 慣病がこのような破綻的脳卒中,合併症対策を含め た全身管理を行う僥倖を得た症例であった.

指導医の見守り

小児科学を将来専攻するべく初期研修中の若手医 師が脳卒中・神経救急専門医の指導のもと,本院救 急災害センターに搬送された血液透析中の高血圧性 脳内出血の超急性期から回復期への治療の経過を報 告した.多くの苦労を患者さんに寄り添いながらと もに積み,無事に杖歩行まで可能になるまで回復さ れた症例である.日内および日々変動の激しい腎性 高血圧への治療,超急性期血腫拡大と症状進行,ヘ

(8)

パリンを必要とする維持血液透析再開,消化管出血,

脳出血再発,シックデイにおける糖尿病インスリン 管理,脳出血再発等により遅々として進まないリハ ビリテーションと多くの難題をひとつひとつ自分で 考え,悩み,科学的根拠をもとに解決した症例報告 である.

脳内出血急性期での血腫拡大は発症して数時間か ら24時間以内,特に6時間以内に持続的または断続 的に観察される.すなわち,3時間以内に搬入され た症例・重症例・血腫量が多い症例・抗血栓薬治療 中の症例に高頻度で血腫拡大や症状進行が起き,搬 入後24時間の高度の高血圧,血腫拡大や脳室への血 腫穿破によるとされている.脳浮腫は発症1‑3日に 著明となり第2期症状進行の原因となる.その後も 上部消化管出血,感染症,症候性てんかん,下肢深 部静脈血栓症等の全身状態悪化がある.以上から,

脳出血の治療原則は,神経徴候進行の停止,すなわ ち血腫拡大の防止となる.血腫拡大は長期転帰不 良・死亡に直結するという基本原則のもと,できる だけ早く,速く,止血する時間との闘い Time  is Brain であると再認識してほしい. 

血腫拡大を予測させる画像所見として,造影剤の 血腫内への漏れ CTA  spot  sign,血腫の二層化 Blend sign,血腫内の低吸収域 Black Hole sign,

血腫内吸収度不均一が現在評価中であり,筆者はど のサインを重視すべきかまだ検討中である웋웦워웦웍웦웎.

初期治療は,高血圧への降圧療法を第1とする.

凝固止血系異常がある症例への止血治療を第2とす る.次に,急性期脳浮腫治療となる.また,発症8 時間以内の外科治療のタイミングをガイドラインか ら逸さないことである(表4).また,呼吸循環管理,

水電解質補充,上部消化管出血の予防,高度の発熱 への体温管理,経口または経管栄養を開始,血糖コ ントロール,症候性てんかんへの対応,下肢深部静 脈血栓・肺塞栓予防を行う(表4).

高血圧に対する治療について,現時点でのガイド ラインおよびその後の多施設共同ランダム比較試験 の結果を加味して述べたい웏웦원웦웑웦웒.筆者は,1時間以内 に収縮期血圧を180mmHg以上の場合160mmHg 未満まで,150mmHg以上の症例の場合140mmHg 未満に低下させ,その後発症24時間の収縮期血圧を 130‑139mmHgに目標設定し,発症7日まで24時間 にわたる安定的な降圧療法を経口降圧薬へ調整する ことが実践的であると考える.脳出血急性期に用い る降圧薬として,迅速な降圧が得られる,カルシウ ム拮抗薬(第1選択ニカルジピン,頻拍症例では塩 酸ジルチアゼム)や冠動脈疾患合併例では亜硝酸薬

(ニトログリセリン)の微量点滴静注が推奨される.

現場では,血管拡張作用による再出血や頭蓋内圧亢 進時における急激な降圧による脳虚血(脳潅流圧は 動脈圧?頭蓋内圧と概算される),脳浮腫進行に注意 を払いながら投与する.想定外の過度の降圧は,大 動脈弁狭窄症等の心臓流出路障害,冠動脈狭窄症例 における心筋虚血,両側腎動脈狭窄からの利尿停止 等を予想し,慎重な降圧を行う.

回復期に,意識レベルが開眼となれば嚥下機能を 評価して経口可能となれば,嚥下障害持続の場合経 鼻チューブより,早期に長時間作用型カルシウム拮 抗薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,

アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB),類サイアザ イド系利尿薬・カリウム保持型利尿薬を粉砕化や簡 易懸濁を行い経口治療へ,各クラス効果を考慮しな がら切り替えることが推奨される.発症7日間の24 時間にわたる安定的な降圧治療において,多クラス の降圧薬の併用療法を行い確実な降圧を得,また単 剤大量療法による副作用回避も基本である.また,

嚥下障害症例での服薬錠剤数を減ずるため,硝酸薬

(ニトログリセリン)や β遮断薬(ビソプロロール)

の外用薬も使い勝手が良く,サブスタンスPを増加 させて嚥下機能改善の効果を有する ACE阻害薬の 選択も念頭にいる.

通常の高血圧性脳出血急性期で血液凝固系に異常 がない場合,血液凝固因子を含めた血液製剤の投与 は行わない.血液製剤であるリコンビナント第Ⅶ因 子投与の臨床試験の有用性がないことが示され,む しろ血栓症が増加した事実があるからだ.なお,血 管強化薬(カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム)

や抗プラスミン薬(トラネキサム酸)の使用を科学 的に比較した大規模試験はない.血腫の急激な固形 化は,内視鏡的血腫除去術や閉塞性水頭症の場合,

治療障害となることも念頭にいれたい.

抗血栓療法中に合併した高血圧性脳内出血は,原 則抗血栓薬の中止を行う.ワルファリンは凝固外因 系の第Ⅶ因子を抑制しているため出血時に作動する はずの凝固システムが中絶されている.ワルファリ ンの中和作業に対してはこの第Ⅶ因子および第Ⅱ,

Ⅸ,Ⅹ因子を含んだ新鮮凍結血漿に比べて,これら の因子が濃縮されたプロトロンビン複合体投与は迅 速に PT‑INRを1.35ないし1.2未満まで中和でき,

止血できる웓.中和療法へのリバウンド予防のため,

これは24時間以内にくるため,必ずビタミン K薬を 併用する.また,直接経口抗凝固薬ダビガトラン,

Xa阻害薬(リバロキサバン,アピキサバン,エドキ サバン)内服中の脳内出血に関しては,それぞれ抗 体療法イダルシツマブ,デコイ療法アンデキサネッ ト α(2017年4月の時点で未発売)を考慮したい웋월.

(9)

そして,この止血操作は発症して早ければ早いほど 成績がいいことが示されている웋웋.ワルファリン中 和に新鮮凍結血漿を5‑10単位準備し点滴完了する までに少なくとも90‑120分は必要だろう.そのため 保健収載されていないプロトロンビン複合体が5分 以内で投与終了することを鑑みると,おのずと重篤 かつ急速進行性の病態の患者を面前にした医師は苦 渋の末どちらを選択するかは自明であろう.また,

抗凝固療法中の頭蓋内出血後,塞栓症予防のための 再開に関しては,直接経口抗凝固薬をどのタイミン グで行いかは議論中である.少なくも塞栓症のリス クにもよるが人工弁特に機械弁の場合1‑2日以降 再開せざるを得ないが,心房細動の場合は7‑8週間 の待機が現時点では考慮される웋워.

脳浮腫薬は,中等度の意識障害,浮腫によるテン

ト上中央線変位が少なくとも 1cm 以上ある場合,

テント下病変で脳幹の偏倚,第4脳室の偏倚や狭細 化の場合に考慮する.意識清明,血腫量10mLの小 出血には投与しない.また,超急性期は血腫による 頭蓋内圧亢進により止血されていることを考慮し,

血腫拡大が停止を確認後,脳浮腫が出現する発症12

‑24時間以降から開始する.

上部消化管出血は,高齢者,重症例では発症しや すいため,抗潰瘍薬(プロトンポンプ阻害薬,H욽受 容体拮抗薬,スクラルファート)の予防投与を考慮 する.筆者は初期研修医時代脳内出血の管理で吐下 血症例の内視鏡的止血操作の困難さを骨身にしみて 感じている.なお,H욽受容体拮抗薬は高齢者での意 識障害の変容やせん妄,プロトンポンプ阻害薬の肺 炎増加の危惧があることも記憶したい.また,腎不 表쏳 超急性期治療の注射薬物一覧とその使用概略

○降圧

ニカルジピン塩酸塩(ニカルジピン25mg,ペルジピン注射) 血圧上昇時は収縮期血圧値160mmHg未満を目標に 5分間隔で測定し 1‑3mL投与,その後 1‑10mL/時間で投与する.末梢ルートでの血管炎,また頻拍とそれによる 動悸を生じやすい.

塩酸ジルチアゼム(塩酸ジルチアゼム50mg,ヘルベッサー) 生理食塩水50mLに3バイアル150mgを溶解,体重 50kgに対して時間 1mLで開始,1‑10mL/時間で調整する.徐脈や房室ブロックに注意をする.

ニトログリセリン(ミオコール点滴静注,ミリスロール注50mg/100mL)0.5‑5 g/kg/分の投与量で調整する.時 に頭痛や顔のほてりを訴える.

○抗凝固薬中和による止血

新鮮凍結血漿‑LR「日赤」240[血液400mL相当に由来する血漿1袋] ワルファリンにより PT‑INRが1.6以上お よび2.6以上の延長があれば,それぞれ5,10単位投与する.解凍時間による治療の遅延,感染症や大量点滴・容量 負荷による心不全の危惧があるので利尿薬を併用することがある.

PPSB‑HT静注用500単位「ニチヤク」 PT‑INR3以上1000単位投与する.また,INR2〜3の場合500単位を静脈投 与し,投与後5分で INR再評価し,INR値が1.4‑1.5以上で500単位追加する.

メナテトレノン・ビタミンK(ケイツーN静注10mg)10〜20mgを点滴静注する.ショックがありうるので少量か ら開始する.

遺伝子組み換えイダルシツマブ(プリズバインド静注液2.5g)ダビガトラン(プラザキサ)内服症例における止血 していることが断定できない急性期において,2.5g/50mL含有バイアルを2バイアルを10‑20分かけて点滴静注す る

○脳浮腫

10%グリセリン(グリセレブ配合点滴静注200mL,グリセオール注300ml) 頭蓋内圧亢進・脳浮腫による意識レベ ル低下,CT上血腫周囲の脳浮腫・脳ヘルニアが原因であるときに投与される.200mlを2時間で投与し,1日に2

〜4回投与する.心不全や高血糖,高ナトリウム血症の悪化に注意を払う.

○上部消化管出血予防

ランソプロゾール(タケプロン静注用30mg),オメプラゾール(オメプラゾール注射用20mg) プロトンポンプ阻 害薬として,生理食塩水20mLに1バイアルを溶解,1日1‑2回静脈投与する.

○深部静脈血栓症・肺塞栓予防

フォンダパリヌクス(アリクストラ) 体重50kg未満は 5mg,体重50‑100kgで7.5mgを一日1回皮下注射する.

経口摂取可能となれば投与24時間後に直接経口抗凝固薬内服へ切り替える.

○症候性てんかん

ジアゼパム(セルシン,ホリゾン,ジアゼパム10mg) 5〜20mg(中央値10mg)を緩徐に静脈注射でけいれん発 作を迅速に停止させる.呼吸抑制に対して酸素投与と気道確保を行う.てんかん停止作用は20分前後である.この 間に初期処置,画像検査,再発予防方策を練る.

ホスフェニトインナトリウム水和物(ホストイン静注750mg),重積発作となれば,停止後再発予防また非けいれん 性てんかん重積発作の治療のため,生理食塩水で5倍希釈し22.5mg/kgを10‑20分かけて投与となる.維持量は7.5 mg/kgを一日1回投与する.血圧低下や不整脈・房室ブロックに注意を払う.

(10)

全,透析患者における長期間のスクラルファート投 与は避ける.

また,頻度の高い完全麻痺側の下肢の深部静脈血 栓症予防に対して弾性ストッキングの有用性はまっ たくなく,間欠的空気圧迫法による発症予防を行う.

深部静脈血栓および肺塞栓症発症後は出血性合併症 のリスクの少ない抗凝固薬で治療導入する.低分子 ヘパリン・フォンダパリヌクスで導入する.経口摂 取可能となれば直接経口抗凝固薬リバロキサバン,

アピキサバン,エドキサバンへ切り替える.

脳出血の遅発性痙攣(発症2週間以降)の出現例 では,高率に痙攣の再発を生じるため,抗てんかん 薬の投与を積極的に考慮する.カルバマゼピン,レ ベチラセタムやラモトリギンが選択され,現在では 治療効果が不十分な場合,併用薬としてラコサミド,

ペランパネルも選択される.

血糖コントロールに関しては,高血糖の持続は脳 浮腫を増悪させる可能性がある上,シックデイのた めインスリン抵抗性が増す状況では,経口摂取時は 食前血糖が150‑200mg/dl以上であれば,また絶食 時または経静脈的ブドウ糖投与時においては1日3

‑4回血糖測定により,血糖値が200‑250mg/dl以上 の場合,1日3回,血糖値による超即効型インスリ ンによるスライディングスケール管理を行う.なお,

低血糖予防も同時に重要であり,安定期には持効型 インスリン,GLP‑1受容体作動薬を選択して空腹時 血糖の安定化を目指す.脳卒中後後遺症の強く残る 症例では,血糖管理目標は低血糖予防しながら穏や かにするべきであり,HbA1cを7.5‑8.5%にするの が高齢者の安全な薬物療法の指針に記載されてい る.機能転帰良好症例では,麻痺等の後遺症からの 運動許容量と適切なカロリー摂取のもと,即効型イ ンスリンの併用による強化インスリン療法,またビ グアナイドや DPP‑4阻害薬の選択,および持効性 インスリンや GLP‑1作動薬併 用 の BOT(Basal Supported Oral Therapy)を考慮し,フレイルを予 

防していきたい.

再度本論文の表題にもあるように,初期対応の内 科医の診断後早く降圧や止血の治療を導入,速く目 標まで到達,その後安定的な維持を必要とすること を強調したい.また,脳内出血では高血圧性か頭蓋 内病変等の合併の診断や迅速な急性期治療と緊急手 術適応が要求されるため,また脳動脈瘤や動静脈奇 形,もやもや病からの頭蓋内血腫も含めて,一般医 療機関に搬入された場合には脳卒中専門施設に速や かに搬送する必要がある.移送中の血圧管理,病態 の変化に即応するために医師の同乗が望ましい.

最近のトピックスと展望として,妊娠周産期に関

連した頭蓋内出血がある웋웍웦웋웎.本疾患の頻度は決し て高くないが妊産婦死亡の半数が脳卒中であったと いう疫学調査から,本疾患に遭遇すれば,出血の原 因となる脳血管疾患(動静脈奇形,海綿状血管腫,

もやもや病,脳動脈瘤・動脈解離,Osler-Weber- Rendu症候群)の存在を念頭において脳血管系の精 査を行い,適切な治療を開始する必要がある.周産 期救急医療を院内に有する統合的脳卒中センターへ 搬送,百戦錬磨の医師に治療を委ねることが推奨さ れる.

また,妊娠高血圧症候群に伴う高血圧性脳出血に おいては,血小板や血液凝固系の異常を合併し出血 傾向が認められる症例では,病態(HELLP症候群,

DIC,TTP)に応じて血小板,プロトロンビン複合 体,新鮮凍結血漿などの血液製剤の投与や血漿交換 を考慮する.これには,基礎疾患という敵を知り,

脳内出血という己を知れば,百戦危うからずである.

また,発症予防からの生活習慣や危険因子管理を脳 卒中看護外来や市民公開講座である脳卒中フォーラ ムを展開しつつ,ひとたび発症すると機能転帰が不 良である脳内出血を予防することに科学的根拠に基 づいた指導に重点をおいている웋웑.また,妊娠前に高 齢出産,高血圧,子癇等妊娠合併症既往,中枢神経 症状の症例では MRI検査を行い,妊娠中期までの 動静脈奇形からの脳出血,妊娠後期の脳動脈瘤破裂,

脳動脈解離による脳出血,産褥期における脳梗塞へ の対応を行うことも必要となるかもしれない.

小児脳卒中においては出血性全身疾患,血液凝固 異常(血友病,血小板減少性紫斑,DIC,鎌状赤血球 症),血管炎(結節性多発動脈炎,好酸球性多発血管 炎性肉芽腫症,IgA血管炎,クリオグロブリン血症 性血管炎),結合組織病(マルファン症候群,エーラ ス・ダンロス症候群),脳静脈洞血栓症,脳腫瘍,先 天性心疾患等の存在を確認したい웋웏웦웋원.大切なのは 小児でも脳梗塞や頭蓋内血腫が内因性に発症するこ とであり,神経診察と画像診断を迅速にすることに ある.脳動脈解離による脳梗塞その後くも膜下出血 をきたした小学生,排便時脳内出血をきたした幼稚 園児,出産後母乳をよく飲まない中大脳動脈閉塞に よる脳梗塞新生児症例等を筆者は初期対応から専門 医への橋渡しをみて,巧遅は拙速に如かずと地団駄 を踏んだ記憶が鮮やかによみがえる.

脳卒中内科・脳神経外科・産科・小児科の専門医 が連携して,妊産婦や小児の脳卒中への迅速な対応 による救命や後遺症軽減のため,妊産婦や小児の生 理と病態を理解しての診断と治療が迅速に24時間 365日提供し,安心安全な妊娠と出産,働き盛りでこ どもを育て,高齢になってもシームレスな医療を提

(11)

供できる地域社会をこれから構築していきたい.

参 考 図 書

1.脳卒中治療ガイドライン2015 日本脳卒中学会脳卒中治 療ガイドライン委員会編集,協和企画,ISBN978‑4‑87794‑

169‑7

2.脳卒中データバンク2015 小林祥泰編集,pp130‑151,中 山書店 ISBN978‑4‑521‑74092‑8

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利益相反:田中藍なし,大槻俊輔(奨学寄付金として日本ベー リンガーインゲルハイム,日本バイエル薬品,田辺三菱製薬)

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