情報交換法による小学校教員のストレス軽減の試み
‑MBIと情報交換シートの分析を通して一
学 校 教 育 専 攻 教育臨床コース 黒 田 登 美
1.目的
本研究では,教員のストレス軽減法としての
「情報交換法Jを提案し,その効果を検証した。
本法は,カウンセリング的な技法を意識した 話し合いであり,具体的には①勤務時間中に短 時間で行え,②「自分の考えや思いを相手に伝 えるj,
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相手の話を開く J,r
意見交換をするjという 3段階で構成されているとし寸特徴を持 つD また,短時間での実施が可能であるため,
無理なく校務として位置づけることもできる。
2.方 法
小学校教員23名(男性5名,女性 17名)に
「情報交換法jを行ってもらい,併せてその前 後に,ストレスチェツクシートを用いてストレ スの測定を行った。このストレスチェツクシー トは,パーンアウトに関する質問紙票である MBI (Maslach Bumout Inventorγ)に対人関係にお ける「親密さ優先j と「職務優先jの程度を測 定する尺度として筆者が2項目を加えたもので ある。
「情報交換法Jは,相学級の担任や専科の教 員と固定したべアで行ったo実施の時間や場所,
回数は任意としたが,少なくとも週に 1回, 1 回につき 15分間を目安とし,上記②の3段階を 意識して話し合いを進めてもらった。話し合い の後は毎回,情報交換記録シートに,時間や内 容,感想などを記録してもらった。
実施期間は 6月第1週から 7月第3週まで
指導教官 山 下 一 夫
の7週間とした。この時期は,年度始めの学校 行事が一段落し なおかつ,定期異動による教 員の人間関係がまだ固定していない時期として 意図的に設定した。
3.結果と考察
(1)ストレスチェツクシートの分析
情報交換法の実施後,パーンアウト要因のう ちの「情緒的疲弊感jが大きく減少することが 明らかとなった。これは,情報交換によって,
相手の教育観や異なった指導法を聞くことで指 導の参考になったり,連絡が密に取れることで 相互の理解が深まったりし,満足感が増え,不 信感が減ったためと思われる。
「個人的達成感jは実験後,低下していたが,
情報交換を行つての感想や意見には指導につい て参考になったというプラスの内容が多かった ことから,異なる教育観や指導法に触れること で一時的に自己評価が下がったものであろうと 考えられた。実験期間の終わりに,授業の進め 方についての変化や,情報交換で得たことを実 際に生かせたかどうかなどを確認、する方法を取 り入れることで,情報交換が個人的達成感にど のように働くのか明らかにできると思われる。
「脱人格化jについては,大きな変化が見ら れなかった口脱人格化は,対人関係における冷 たさや自信のなさに関するものであり,今回の 情報交換法では指導法や児童に関する話題が多 かったため,教員個人の内面まで、語られなかっ
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たことが関係したのかもしれない。具体的なテ ーマを設定した選択式の情報交換も取り入れ,
脱人格化が良好な変化を起こすような情報交換 法の試みも,意義あるものと考えられる。
迫力日尺度として採用した「親密さ優先j傾向 は,実験前後に目立った変化はなく
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職務優 先j傾向は実験後低下していた。このことから,情報交換とし、う定期的な話し合いの場を持つこ とにより同僚間での心理的距離が近づいたこと,
しかもそうした交流が相互依存的な関係を強化 することはない,ということがうかがわれた。
親密さ優先の傾向及び職務優先の傾向と,
MBI3因子との関係をみると,情緒的疲弊感に ついては,両傾向がどのように変化しようと一 貫して低下していたことから,交流の増加がそ のまま情緒的疲弊感の低減に結びつくものであ ることがわかった。脱人格化については,親密 さ優先の傾向が減少した群において改善がみら れたが,これは交流により相互理解が深まるこ とで,信頼に基づいた自律的な対人関係への移 行がみられたことを示唆するものであろう。個 人的達成感については,親密さ優先の傾向が増 加した群においてのみ改善がみられた。これは,
インフォーマルな関係を持とうとする傾向が強 まると自らの能力に対する自信が高まることを 示すものであるが,この群では,脱人格化の得 点が増加しており,自信は高まったものの他者 との人間的な関係は減退していることがうかが われた。いずれにしろ,対人的な交流の増加が 個人的達成感に及ぼす影響については,今後の 検討が必要である。
また,情報交換法を校務として組み入れるに あたっては,それが学校における既存の行事や 仕事の流れにどのような影響を与えるのかとい う点も,明らかにしていくことが必要である。
通常の業務の流れと併せて分析することで,情 報交換法のもつフォーマルなコミュニケーショ
ンとインフォーマルなコミュニケーションのど のような働きが,どのストレス要因に効果を及 ぼすのか明らかにできると考えられる。
今回の実験は,被験者の負担を考え7週間と いう比較的短期間に限定せさるを得なかったが,
長期にわたる継続的情報交換がもたらす効果に ついても,さらなる研究が必要であろう。また,
調査方法については実験群・統制群ともより 人数を増やすとともに, MBIの分析方法に関し でも,より一層の検討が必要である。
(2)情報交換シート,情報交換の感想の分析 今回の実験で行われた情報交換の回数は,平 均して7週間で 16回, 1回26分間と,思いの 他,情報交換の回数や時間が多かった。話し合 われた内容は,指導に関すること,児童に関す ること,校務に関すること,保護者に関するこ と,プライベートに関することの願になってお り,プライベートな話題は全体の 10%にすぎな かった。これは,現場の教員が職務に関する話 し合いのための時間や場を強く求めていること を反映するものであろう。また,実験後は,同 僚とのちょっとした交流も情報交換の場と理解 する傾向が強まっていたことが明らかとなった。
情報交換の感想や意見からは,情報交換法の 効果を表すものとして,忙しし、から時間が取れ ないと思っていたが意識してみると意外と時間 の確保ができた,気の合う仲間とは話をしやす いが,そうでない場合は気を遣うので定期的に 時間を取ることは有効などの意見がみられた。
情報交換の時間の確保が,多忙感を緩和し,同 僚との交流を促し,相互理解を深め,心理的安 定感をもたらすという側面で機能したと考えら れる。
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