中学校における協働的な生徒指導の実践
-コーディネーターとしての役割を通して-
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 小 坂 浩 嗣
教職実践力高度化コース 実習指導教員 阪 根 健 二
本 田 卓 也
キーワード:協働,生徒指導,合意形成,規範意識,自己有用感 第1章 実践研究の課題
実習校は学級数20学級,生徒数537名の中規 模中学校である。教育目標の一つは,「生きる 力」の育成である。その実現に向けた,重点目 標の一つに,「自尊感情の育成」が挙げられる。
現在,実習校では,規律指導の一環としてチャ イム着席に一点突破的に取り組み,一定の成果 を上げている。しかし,その重点目標に向けた 手立てに,次の一歩が踏み出せていないのが実 状である。
教師及び生徒アンケート等を中心に学校アセ スメントを行った。その結果,2つの学校課題 があぶり出された。課題の一つには,教師の協 働意識をこれまで以上に高め,生徒指導等にお いて組織的に対応していく取組を強化すること が挙げられた。もう一つの課題は,生徒指導の 取組に対する教師と生徒の意識差を小さくして いくために,これまでの取組における指導方法 を工夫・改善することが挙げられた。
第2章 実践研究の目的と計画
前述のような考え方に基づき,生徒の規範意 識 ・ 自 己 有 用 感 を 高 め る 取 組 を 組 織 的 に 実 践 し,生徒指導の協働化について検討することを 本研究の目的とした。実践研究計画の主な取組 は以下の6項目であった。
一つ目は,「教師によるワークショップ」で ある。教職員の合意形成を通して,生徒の規範
意識・自尊感情を高める手立てを創出すること とした。
二つ目は,「生徒指導主事との連携」である。
「教師によるワークショップ」で創出された複 数の手立てに基づき,生徒指導主事と検討を重 ねて手立てを絞り込んだ。
三つ目は,「清掃指導の重点化」である。指 示・命令調の声かけや指導が多くなりがちな清 掃時間を逆にチャンスと捉えた。そして,ポジ ティブな声かけにより,自主的な清掃への意識 付けを図った。
四つ目は,「校内掲示物の作成」である。掲 示物による間接指導により,生徒に自主的・自 発的な行動を促し,規範意識を向上させること とした。
五つ目は,「ノーチャイムウィーク」である。
ノーチャイムにより,生徒に自主的・自発的な 行動を促した。
六つ目は,「規範意識,自己有用感,安心感と 学力との関係」についての分析である。生徒指 導共通理解事項「チャイム着席」「ほめる」指 導の効果について,学力との関係から検証した。
第3章 実践研究の結果
主な取組の6項目について結果をまとめた。
第1節 教師によるワークショップ
ワークショップを合意形成の場とし,課題解 決に向けた取組手立てを創出し,教職員の協働
意識を高めることを目的とした。
筆者が,まず学校アセスメントからあぶり出 された学校課題を提示した。年齢層別のグルー プによるワークショップを行い,手立ての概念 化等を通して合意形成を図った。
ワークショップにおける前提条件を,「一点 突破的にすべての教師が取り組める手立て」と していたので,教師個々の力量に関わらず実践 できるものを選定することができた。
このワークショップで協働意識を高められた 要因として,次の3点を挙げた。
1点目は,ワークショップを実施することに より教師が一堂に会する場を設定できたことで ある。2点目は,エビデンスデータからあぶり 出された課題を自分事として捉えられたことで ある。3点目は,ワークショップを通して,教 師間で活発な意見交換による合意形成ができた ことである。
第2節 生徒指導主事との連携
ワークショップから得られた自尊感情・規範 意識を高める手立ての「すぐにできること」を 集約し一覧表にした(図1)。その資料をもと に生徒指導主事と連携し,一点突破的な手立て を策定し,協働的な生徒指導を推進することを 目的とした。
図1 手立て一覧
生徒指導主事と生徒指導の柱について適宜話 合いをもった。その中で,2016年度も一点突破 的に生徒指導を進めていきたいという話があっ た。生徒アンケートにおける「チャイム着席が できている」に対する肯定的な回答が伸び悩ん でいることを受け,筆者は,ポジティブインテ ンションを活用した「チャイム着席」を提案し た。今年度は,チャレンジプラスと題し,「自 尊感情の育成」を,もう一つの柱にすることで 生徒指導主事と合意した。その手立てはワーク ショップから得られた「ほめる」とした。また,
この話合い以降,「自尊感情」については,「自 己有用感に裏付けられた自尊感情」というよう に概念を捉え直した(文部科学省,2015)。
生徒指導主事との話合いをもとに,生徒指導 共通理解事項についてのリーフレットを作成し た。
第3節 清掃指導の重点化
清掃指導は,学級や教科指導等の枠を越えて,
教師が一斉指導に日々当たることができる機会 として捉え,協働した指導を具現化することを 目的とした。
指示・命令調な声かけや指導が多くなりがち な清掃時間を逆にチャンスと捉えた。ポジティ ブな声かけにより自主的な清掃への意識付けを 図った。また,清掃時間に音楽を流すことによ り生徒の情操部分に働きかけ,清掃時間の習慣 化や清掃に対する意識付けを強化する。意識付 けを強化することにより,自主的な清掃活動を 促し美化意識の向上をねらいとした。
年度初めの職員会を経て,4月12日から実施 した。曲名は「カノン」とし,各クラスの報道 員チーフによって,音楽を流した。
教師への聴き取りから,「そうじの始まりと
教師と生徒との意識のずれを埋める手立て 自尊感情を高める手立て 規範意識を高める手立て
教 師 の 働 き か け
すぐにできること すぐにできること
A
授業での発表を褒める
A 給食を残させない
B
1日1回はクラスの生徒を褒める
B 優しくするとき 厳しくするとき 見守るとき C
できたこと,がんばったことを 小さなことでも,しっかりと ほめていく
C
ルールが守れていることを 全体にほめる D
3つのSを連発する すごい さすが すばらしい
D
ポジティブな言葉を使う
E
否定的な表現をしない
E 教師が率先して 時間やルールを守る
終わりがわかりやすい」「清掃指導にメリハリ をつけることができる」という感想が得られた。
これらの感想から,従来に比べて清掃指導が行 いやすく,清掃時間における声かけが承認や励 ましへと変化しつつあると捉えた。また,「清 掃時間を守る生徒が増加した」との感想からは,
生徒の清掃に対する意識も高まっていることが 推測できた。
第4節 校内掲示物の作成
教師による声かけ等の直接指導に加え,掲示 物による間接指導により,自主的・自発的な行 動を促し,規範意識を向上させることを目的と した。
校舎内に設置されている大型鏡に「身だしな みをチェックしよう!」という掲示物や,校舎 内ホールに時計を増設し時計の下に「時間を守 ろう!」という掲示を行った。
筆者が掲示をした直後に生徒が友人との会話 の 中 で ,「『 身 だ し な み 』 っ て ど う い う 意 味 」 と言いながら,服装を整えている様子が見取れ た。掲示物等が生徒自身で襟を正していく意識 付けに作用していると捉えた。
第5節 ノーチャイムウィーク
ノーチャイムウィークの実施を通して,生徒 の自主的・自発的な行動を促すことを目的とし た。また,学校や家庭において,生徒自身で時 間の管理を行うことにより,時間を大切にする 意識を高めるとともに,時間を自己管理するこ とにより,自分から進んで学習に取り組む姿勢 の育成にもつなげたいと考えた。
生徒指導主事を中心に協議をして起案し,企 画委員会と職員会での検討を経て実施した。実 施期間は,10月5日~7日の3日間であった。
初日の朝学活で担任からノーチャイムウィーク の趣旨説明を行い,周知徹底を図った。
ノーチャイムウィーク中に生徒から聴き取り した感想には,「時計を見る回数が増えた」「先 生からの声かけが減った」「早めに行動するよ うになった」という感想が多く見られた。また,
関与観察からは,時計を頻繁に見ていた生徒や,
友人に入室を呼びかける姿が確認できた。これ らのことから,生徒が自主的・自発的に行動し ようと意識していたことが読み取れた。
第6節 規範意識,自己有用感,安心感と学力 との関係
生徒指導共通理解事項「チャイム着席」「ほ める」という指導の効果について,学力との関 係から検証することを目的とした。
全校生徒537名を対象にアンケートを実施し た。有効回答数は509名,有効回答率は94.8%
であった。
「生徒アンケート」「いじめについてのアン ケート」から「規範意識要因」「自己有用感要 因」「安心感要因」に関連する項目を各3項目 づつ選定した。学力に関するデータとして,1 学期中間テスト,1学期期末テスト,実力テス ト(7月実施)のそれぞれ国語,社会,数学,
理科,英語の合計点を求めた。
規範意識要因,自己有用感要因,安心感要因 の3つの要因において高い群と低い群との得点 を比較した。その結果,すべての要因において,
高い群が低い群よりも得点が高かった。この結 果から,3要因が学力に影響していることが示 唆された。合わせて,学年別の傾向について考 察した。
1年生において安心感要因で得点差が大きか ったことについて考察した。
2年生において自己有用感要因で得点差が大 きかったことについて考察した。
3年生において規範意識要因で得点差が大き かったことについて考察した。
第4章 実践の考察
第1節 生徒アンケートからの考察
規範意識及び自己有用感に関する項目におい ては,全体的に低下傾向が見られた。しかし,
関与観察した生徒の様子からは,ルールを守ろ うとしたり,行事やテストなどに頑張ろうとす る姿が見取れた。
第2節 教師アンケートからの考察
規範意識及び自己有用感の育成に関しては,
両者ともに概ね上昇していた。特に,生徒指導 共通理解事項の柱である「チャイム着席」に関 連 し た 項 目 が 100% に 達 し て い た 。 ま た ,「 自 尊感情の育成」に取り組んでいた教師も増加し ており成果と捉えた。
第3節 総括的考察
チャイム着席への対応を工夫したり,あいさ つをすることの意味や大切さを生徒に伝えてい た教師は増加していた。また,自尊感情の育成 を普段から意識して教育活動に取り組んだ教師 も増加していた。これらの成果をもたらした理 由が3つあると考えた。
一つ目の理由として,例年実施しているワー クショップに工夫を凝らして取り組んだことを 挙げた。
二つ目の理由は,生徒指導と再三再四に渡っ てまとめていった生徒指導共通理解事項の存在 である。この生徒指導共通理解事項おいては,
十分な合意形成を得ていることに大きな意味が
あった。
三つ目の理由は,実習校の特色である見守り 指導が協働意識を高い状態で維持させる機能と して作用していたことである。
課題としては,次の3点を挙げた。
第1に,年度途中において,新たな取組を提 案する際に,教職員全体で十分な合意形成を図 る機会を設定することが難しいことである。
第2に,年度が変われば教職員の人事異動や,
生徒の入学,卒業等で教師も生徒も構成員が変 わるため、継続することが課題である。
第3に,教師と生徒との生徒指導に関する取 組における意識差をより小さくするには,生徒 自治の活性化が必要であると考えられる。
第5章 修了後の課題と取組の構想 第1節 学びの軌跡
1年次は,講義を受けることがとても新鮮で,
気付きや学びが多く充実した毎日であった。
2年次は,1年次で学んだ知識を,実習校で いかに生かしていくかという期待と不安があっ た。実習の中では,試行錯誤もあったが,少し ずつではあるが課題解決に向けて取組を進める ことができた。
第2節 私のキャリアデザイン
これからは,社会の激しい変化に伴い,学校 現場においても大きな変化が予想される。この 変化に主体的に対応していくために,教職員と 協働的に学校をより活性化させていきたい。ま た、これからの学校現場は,新規教員採用の増 加による教職員の年齢構成に大きな変化が予想 される。後輩教師に必要なことを十分に伝えら れるよう,これからも力量形成に努め,学び続 けていきたい。