実践のまとめ(第6学年 国語科)
上越市立春日新田小学校 教諭 佐藤 美香 1 研究テーマ優れた叙述に気付き、自分の考えを生き生きと表現する児童の育成
~討論する活動を通して~
2 研究テーマについて (1) テーマ設定の意図 これまでの私の文学の授業を振り返ってみると、児童の初発の感想から出てきた「問い」を生か しながら学習課題を作ることを重視してきた。児童が、叙述を根拠とし、学習課題について主体的 に書いたり、話したりする姿は見られるようになった。しかし、主題を捉えるということをしっか り確認しなかったため、自分の考えを深めたり、広げたりする姿があまり見られなかった。そのた め、児童に叙述の表現から想像を豊かにしながら読む力を付けることができなかった。 そこで本研究では、単元を通して身に付けさせるべきことを明確にし、基礎的・基本的な知識及 び技能の活用を図るため、1時間の授業内に発展の言語活動を取り入れた学習過程を設定する。ま た、単元の導入では、題名に着目し、子どもの思考との「ズレ」を生かし、共通の「問い」を設定 する。そして、教科書の教材での読み取りを生かし、優れた叙述に気付かせていきたい。 (2) 研究テーマに迫るために ① 単元の導入で児童の思考の「ズレ」を生み、主題を考える。 文学的文章教材では、題名は作者の伝えたいことが意味付けされて表現していることが多い。 そこで、単元の導入で、題名を空欄にした全文プリントを配付し、範読をする。題名を想像し、 考えることを通して、作者の伝えたいことや友達の考えとの「ズレ」が生まれる。それを子ども たち共通の「問い」として共有する。作者がその題名にした意図を、叙述を根拠として主体的に 考える姿を引き出したい。 ② 作者の生き方や同じ作者の作品をもとに討論をする。 本単元で扱う文学的文章教材には、作者の世界観が表現されている。そのため、作者の生き 方や思いを知ることで、より優れた叙述に気が付くことができると考える。「優れた叙述」とは、 作品の主題を象徴する表現や作者からのメッセージ性が強い表現と捉えている。そこで、資料 「イーハトーヴの夢」を読み、「やまなし」との関連をしっかり確認する。また、2つの場面の 対比、同じ作者の違う作品との対比の表現に着目して読み、討論をする。このようにすること で、主題に迫る「優れた叙述」に気付かせていきたい。 ③ 単元を貫く言語活動「宮沢賢治の夢 イーハトーヴ図書館を作ろう」を設定する。 単元を通して学んだ読みを、日々の読書生活に生かしていくために、単元を貫く言語活動「宮 沢賢治の夢 イーハトーヴ図書館を作ろう」を設定する。この活動では、文学的文章教材と同じ 作者が書いた本の中からお気に入りの1冊を選び、その本を3年生に紹介することを目的とする。 紹介する際、本のポップを作り、優れた叙述を朗読する。その際、作者である宮沢賢治の理想の 世界「イーハトーヴ」に位置付けながら、作品の主題を読み取ることができるようにしたい。 (3) 研究テーマにかかわる評価 ① 登場人物の相互関係や心情、場面についての描写を捉え、ポップに書くことができた児童が全 体の 90%以上になる。(児童の作成したポップとノートで評価する。) ② 友達の意見を聞き、ポップを見直して、改善している児童が全体の 90%以上になる。3 単元と指導計画 (1) 単元名 宮沢賢治の夢 イーハトーヴ図書館を作ろう 「やまなし」 (2) 単元の目標 叙述に基づいて、主題を捉え、情景などの優れた表現に着目して読んでいる。 (3) 単元の評価規準 国語への関心・意欲・態度 読む能力 言語についての知識・理解・技能 目的に応じた読書を通し て、考えを広げたり深めたり している。 登場人物の相互関係や心情、場面 についての描写をとらえ、優れた叙 述について自分の考えをまとめて いる。(エ) 語感、言葉の使い方に対する感 覚などについて関心をもつ。(カ) (4) 単元の指導計画と評価計画(全9時間、本時7/9時間) 次(時数) 学習内容 学習活動 ☆発展の言語活動 指導過程における主な評価規準 1(1) (2) ・資料「イーハトーヴの 夢」を読み、宮沢賢治 の生き方を知る。 ・宮沢賢治の生き方に対 する自分の思いを書 く。 ◎宮沢賢治の作品はイーハトーヴのどこの位 置を表しているだろう。 ・宮沢賢治の作品の中で、お気に入りの1冊を 選ぶ。 ◎宮沢賢治はどんな人だったのだろう。 ・宮沢賢治に対する思いを書く。 関 宮沢賢治の本に興味を もち、お気に入りの1冊を 選んでいる。 【発言・ワークシート】 関 宮沢賢治に対する自分 の思いを書いている。 【発言・ワークシート】 2(3) (4) (5) (6) (7) ( 本 時 ) ・教材文「やまなし」を 読み、題名について考 える。 ・5月と12月の場面の 絵を描き、比較する。 ・5月と12月の場面を 象 徴 す る 表 現 を 見 つ ける。 ・中心人物の5月と12 月での思いを考える。 ・作者が題名を「やまな し」にした理由を考え る。 宮沢賢治の夢 イーハトーヴ図書館を作ろう。 ◎この話に題名をつけてみよう。 ・全文プリントの範読を聞き、叙述を基に題名を 考える。 ☆自分が選んだ本の題名がついた理由を考える。 ◎5月と12月の絵を描き、違うところを見つけ よう。 ◎2つの場面のイメージを書こう。 ☆心に残る場面を見つける。 ◎5月と12月を最も強く表現している叙述を 見つけよう。 ※「かわせみ」「やまなし」に着目させる。 ☆心に残る場面を象徴する表現を見つける。 ◎かにの子どもらは5月と12月の場面でどん な気持ちで過ごしているのだろう。 ☆中心人物の気持ちを考える。 ◎宮沢賢治は「やまなし」という題名にどんな思 いを込めたのだろう。 ☆お気に入りの1冊の主題を考える。 読 叙述を根拠とし、自分な りに作品の題名を考えてい る。【発言・ワークシート】 読 2つの場面を比較し、場 面ごとの世界を想像して、 自 分 の 言 葉 で 表 現 し て い る。【発言・ワークシート】 読 自分のイメージを作って いる叙述に気付いている。 【発言・ワークシート】 読 叙述を根拠とし、中心人 物の気持ちを考えている。 【発言・ワークシート】 読 「やまなし」に込められ た 作 者 の 思 い を 考 え て い る。【発言・ワークシート】 3(8) (9) ・選んだ本のポップを作 り、検討し合う。 ・「イーハトーヴ図書館」 に3年生を招待する。 ◎宮沢賢治が作品に込めた思いが伝わるポッ プを作ろう。 ◎「イーハトーヴ図書館」で宮沢賢治の思いを 伝えよう。 読 宮沢賢治の思いを入れ ながらポップを書いてい る。 【ポップ】 関 3年生に宮沢賢治の作 品の面白さを伝えている。 【発言・発表】
4 単元と児童 (1) 単元について 教材の特性をふまえ、本単元では学習指導要領の以下の事項に重点を置いて指導する。 第5学年及び第6学年「C 読むこと」 エ 登場人物の相互関係や心情、場面についての描写をとらえ、優れた叙述について自分の考 えをまとめること。 朝読書の時間を活用し、宮沢賢治の作品を読み、お気に入りの1冊を見つける活動を行う。 第1次では、宮沢賢治の生き方について知る。資料「イーハトーヴの夢」を読み、これまで読ん できた宮沢賢治の作品がイーハトーヴのどこの場所での話なのかを確認する。その後、単元を貫く 言語活動である「イーハトーヴ図書館作り」を提案する。その時、縦割り班活動の兄弟学年である 3年生を招待することを知らせ、意欲を高める。また、宮沢賢治の作品の中でお気に入りの作品を 選び、その作品で作者が伝えたいことを読み取るという見通しをもたせる。 第2次では、まず題名のない全文プリントを読み、叙述を根拠として題名をつけてみる。すると、 児童が考える題名と「やまなし」という題名には「ズレ」が生まれると予想する。そこで、作者が 「やまなし」に込めた思いを考えることを共通の問いとする。第2次では、毎時間の読み取りを生 かし、自分が考えた題名を見直し、改善していく。 その後、5月と12月の場面を比較する。「幻灯」であることから、二つの場面を絵に表してみる。 そして「かわせみ」と「やまなし」の比較から、各場面のイメージを作る。その際、各場面を象徴 する表現や中心人物の心情を表す表現について討論し、優れた叙述に気付くようにする。 さらに、最初の問いである、「作者が『やまなし』に込めた思い」について討論を行う。「やまな し」をめぐる様々な叙述や「イーハトーヴの夢」から主題を読み取っていきたい。 第3次では、お気に入りの一冊に込められた宮沢賢治の思いを含めたポップ作りを行う。ポップ 作りでは、その作品の中の「優れた叙述」を引用する。また、3年生に紹介する際は、主題に迫る 場面を選び朗読することを伝える。ポップの内容や朗読をする場面を友達と討論することで、より 作者の思いが詰まった表現に気が付くことができるようにしたい。 (2) 児童の実態 児童は、これまでに物語文「カレーライス」を通して、会話文や行動描写から登場人物の心情を 表す表現に着目して読み、感想をまとめることを学習してきた。そこで、叙述を根拠とし、登場人 物の気持ちを考えることができるようになってきた。また、「森へ」では、お気に入りの本について 推薦文にまとめた。ポップを作り、他のクラスの友達に紹介をしたり、図書室にポップを付けて置 かせてもらったりする活動をした。その結果、お気に入りの本の叙述を引用して推薦文を書いたり、 相手に読んでもらうための表現を工夫してポップを作ったりすることができた。 しかし、優れた叙述に着目できる児童は少ない。登場人物の心情を考える際、表現の仕方に着目 しての学習が不足しているため、作品の主題を象徴する表現や作者からのメッセージ性が強い表現 に気付くことができていない。本単元では、優れた叙述の意味を明確にし、作者が伝えたいことを 表現している叙述に気付くことができるようにしていきたい。 5 本時の展開 本時の展開 (1) ねらい 宮沢賢治が作品に込めた思いを、宮沢賢治の生き方と関連させて読んでいる。 (2) 展開の構想 本時の課題は「宮沢賢治は『やまなし』にどんな思いを込めたのだろう。」である。まず、自分が 最初につけた題名について振り返り、宮沢賢治とのズレがあったことを確認する。その後、前時ま での自分の考えを発表し、分類していく。そして、出てきた考えの中で、自分の読みはどの考えに 近いのかを討論していく。その際、宮沢賢治の生き方をまとめた資料を基に、作者の思いについて 考える。友達と討論をしていく中で、「やまなし」はただの「なし」ではなく、周りの自然を生かす ための命をつないでいくものであることに気が付いたり、自分なりに納得して読んだりすることを 願う。
また、作者の思いが作品に込められていることを知り、お気に入りの1冊に込められた宮沢賢治 の思いについて考える時間をとる。お気に入りの1冊が同じ人同士で、宮沢賢治の思いについて語 り合い、次時のポップ作りにつなげていきたい。 (3) 展開 時間 学習活動 教師の働き掛けと予想される児童の反応 □評価 ○支援 ◇留意点 導入 10 分 1 前時までの 自分の考えを 振り返り、分 類する。 T:前の時間の自分の考えを見直してみよう。 C:「やまなしのおいしさ」を伝えたかったのだ と思う。 C:「自分の身は自分で守る」ことの大切さを伝 えたかったのだと思う。 C:「命をいただいている」ということを伝えた かったのだと思う。 T:宮沢賢治の生き方と関連させて考えると、 あなたの読みはどの考えに近いですか。 【見通し】 ○かにの子どもらの「か わせみ」と「やまなし」 への思いを振り返る。 ◇短冊に書いておき、分 類しながらまとめてい く。 ○宮沢賢治の生き方につ いてまとめたものを用 意し、確認する。 展開 25 分 2 宮沢賢治が 「やまなし」 に込めた思い について考え る。 3 宮沢賢治の 生 き 方 を 基 に、討論をす る。 課題:宮沢賢治は「やまなし」にどんな思 いを込めたのだろう。宮沢賢治の生 き方と関連させて考えてみよう。 T:自分の考えを書きましょう。(5 分) C:「命」は賢ワードにあったから、「命をつな いでいくもの」だと思う。 C:岩手県が平和になってほしいと願っていた から「平和の大切さ」だと思う。 C:宮沢賢治はお酒が好きだったから、「やまな しのお酒のおいしさ」だと思う。 T:グループで討論しましょう。(10 分) C:宮沢賢治は自然が大好きだったから、自然 の大切さを知ってほしかったと思う。 C:自然は自分の力ではどうすることもできな いこともあるけど、命をつないでくれる大 切な「やまなし」のようなものもあるとい うこと。 T:作者の「やまなし」への思いを生き方と関 連させてまとめましょう。 【振り返り】 C:宮沢賢治は「やまなし」に自然の中で生き るものは命をつなぎあっているという思い を込めたと思う。 ○課題を板書する。 ○考えが変わった人は、 考えが変わった理由を 話せるようにしてお く。 ○「賢ワード」に注目で きるようにする。 ○個々で考えさせ、その 後、グループで討論す る。 ◇対話をしながら討論す ることを確認する。 □宮沢賢治の生き方を踏 まえて、「やまなし」へ の宮沢賢治の思いにつ いて自分の考えを書く ことができる。 (ワークシート) 終末 10 分 4 お気に入り の1冊で作者 が伝えたいこ とを考える。 T:お気に入りの1冊に込められた思いを作者 の生き方と関連させながら、もう一度考え てみよう。 C:「銀河鉄道の夜」は友達を失うことの悲しさ だけでなく、友達の大切さを伝えてくれて いるね。 ○同じ本を選んだ人同士 のグループで検討させ る。 □自分の選んだ物語につ いて、宮沢賢治が伝え たかったことを自分な りにまとめている。
(4) 評価 ・宮沢賢治が「やまなし」に込めた思いを、宮沢賢治の生き方と関連させながら書いている。 ・自分の選んだ物語を読んで、作者が題名に込めた思いについて、作者の生き方と関連させて書い ている。 6 実践を振り返って (1) 授業の実際 まず、前時の終末に自分の考えをまとめた「宮沢賢治は『やまなし』という題名にどのような 思いを込めたのだろう。」ということについて、考えを出し合った。様々な読みがあることを知り、 自分の読みをさらに広げることができると考えたためである。 児童の前時までの考えは以下の通りである。 児童は、「やまなし」の5月と12月を比較して読んでいく中で、カニの兄弟が成長していく様 子に強い関心を示していた。カニたちが話す言葉、場面の様子がよくわかる描写など叙述を根拠 とし、討論を重ねてきたため、「カニの成長」という意見が出たと考えられる。 また、「やまなしが好き」と考えた児童は、「やまなしを有名にすることで岩手を盛り上げたい」 という考えと、「やまなしがおいしそうだから」という2つの読みをしていることがわかった。こ れら以外の考えも、叙述を根拠としつつ、宮沢賢治の生き方と関連させながら考えているものが 多かった。 これらの意見を出し合う中で、「イーハトーヴの夢」から考えた「宮沢賢治の生き方」と関連さ せて自分の思いをもった。そこで、宮沢賢治の生き方と関連させて考えるとどうかを問い返して みた。仲間の考え、宮沢賢治の生き方、やまなしの叙述を根拠とし、再度題名に込められた思い について考えていた。 しかし、それだけでは考えが深まらないと考え、グループごとに討論を行った。グループ討論 では、仲間の考えから新たな読みの視点を得ようという目的を児童に伝えてから行った。 以下、抽出児童を中心にワークシートの内容から分析する。 ☆【児童A】について 「カニの成長」…みんなにも成長をしてほしいという思い。 「やまなしが好き」…やまなしのおいしさを知ってほしい。やまなしを有名にしたいという思い。 「自然のすばらしさ」…自分の身は自分で守ることが大切であるという思い。 「命をいただいている」…カワセミが魚を食べる。あなたたちも同じように命をいただいている という思い。 「夢」…小さいことをコツコツやっていけば、きっと夢は叶うという思い。 「平和になってほしい」…やまなしのように平和がいろいろなところに広がる世界にしてほし い。 「支え合う関係」…主役を支える人がいる。支える人を支える人もいる。みんながいなければと いう思い。 「幸せ」…「あれはやまなしだ。」というように感動をしてほしいという思い。 「きっといいことがある」…いろいろなことを経験し、学んでいけばきっといいことがある。 討論前 児童A 「やまなし」に込めた思い 自然のすばらしさ 理由・根拠 賢治が生きていた時代の自然災害は大変だったと思います。しかし「やまなし」の自然は、 5月はカニの兄弟はまだ世の中の知識など全くなかったのに、12月になると成長し、自分の ことは自分でやるようになっています。カニの兄弟は経験もたくさんになり、自分の身は自分 で守ろうとしています。自然は多くのことを教えてくれるという本当の「自然のすばらしさ」 を賢治は伝えたかったのだと思います。
児童Aは、「自然のすばらしさ」を叙述だけでなく、生き方と関 連させながら考えていることが分かる。そして、討論を通して、仲 間と自分の考えの共通点を見出している。宮沢賢治の生き方を学習 したときに、最も関心をもったことは「人のため、他人のため、み んなのために働いている」姿勢であった。この点についてもA児の 心に残っていたのだと考えられる。 次に、A児のお気に入りの1冊に選んだ「ふたごの星」の読み取りについても紹介する。 前半部分は、「ふたごの星」から読み取ったこと。後半部分は、宮沢賢治の生き方を通して考え たこと。A児はこの2つを根拠として、「ふたごの星」の主題を読み取っていた。 ☆【児童B】について B児はこの物語が「やまなし」という題名であると知る以前、 物語に題名を付ける課題のときから、「食物連鎖」という題名を付 けていた。「命」ということを読み取りのときにもよく発言をして いた。 また、B児は前時より「命をいただいているという思い」と考 えていた。B児の発言により、多くの児童の中に「命」という読 み取りの視点が増えた。討論を通し、自分自身の意見を再構築し ていると考えられる。 討論後 私は「自然のすばらしさ」でした。けれど、「命の大切さ」という意見もあり、全ての意見 に共通していることは、一人だとできることが限られているけれど、他の生き物、友達、家族 がいると、何でもできる、ということだと思います。災害の時も、一人だと立ち上がれないか もしれないけれど、支えてくれる人がいれば立ち上がれるから。 討論前 児童B「やまなし」に込めた思い 命をいただいている 理由・根拠 宮沢賢治はカワセミが魚を食べるように、カニたちもやまなしを食べて命をいただいている んだよということを、本の中のカニや読み手に伝えたかったのではないかと思います。 ふたごの星 このお話はチュンセ童子、ポウセ童子が大烏、さそりが戦ってけがをしても、すぐに助けて あげ、さそりを家まで送っていってあげたことや、海に落とされても海のためになることをや ろうとしたことから、「優しさ」「できることをやる」という2つのことを伝えたかったのだと 思います。これも災害で人を支えることに大切なことだから、生きるためにもこの2つは大切 だと思います。 討論後 自分とは違う意見や新しい考え方が分かって考えが深まりました。その中でも、とくに心に 残ったのは、Cさんの「仲のよさ」という考えです。自分とは全然違う考え方でした。聞いて みて、その意見もいいなと思いました。
B児は討論を通し、仲間に自分の読みを伝えるだけでなく、自分の考え以外の読みも受け入れ ることができている。B児以外の児童も、仲間の考えを共感しながら聞くだけでなく、考えを変 容させている様子も見られた。 B児が読み取った、お気に入りの1冊に込めた宮沢賢治の思いについても以下に紹介をする。 B児は前時までの読み取りに宮沢賢治の生き方を取り入れながら読んでいることが分かる。そ のため、自分の読みに自分自身で問い返している。 ☆【児童C】について C児のグループでは、宮沢賢治が「やまなし」に込めた思いについて、「やまなしのおいしさと におい」「自然のすばらしさ」「平和」「幸せ」という考えが出てきていた。C児はグループの仲間 に「それはどういうことなの?」と質問をする姿が見られた。その考えを聞き、C児は自分なり に考えを再構築したと考えられる。作者の生き方と関連させて考えたことで、「やまなし」という 物の捉えから、「やまなし」を通した作者の思いに気付くことができている。 C児が読み取った、お気に入りの1冊に込めた宮沢賢治の思いについても以下に紹介する。 宮澤賢治が「人間も動物も植物も、互いに心が通い合うような世界」を目指していたことと関 連させて考えていることが分かる。また、お気に入りの1冊に「雪わたり」を選んだ児童の多く は、討論しながら考えている様子も見られた。 A児、B児だけでなく、多くの児童が意欲的に自分のお気に入りの1冊で作者が伝えたかった ことを考えていた。その考えには、叙述からと作者の生き方についての2つの視点から根拠を示 しているものが多かった。 銀河鉄道の夜 カンパネルラは人の幸せのために死んだと思っていたけれど、賢治は「世界全体が幸福にな らないうちは、個人の幸福はあり得ない」と書いているので、カンパネルラは本当に人の幸福 のために死んだのかと疑問に感じる。まとめると、賢治は誰かが幸せになり、誰かが悲しむよ うなことがあってはいけないということを伝えたかったのだと思います。 討論前 児童C 「やまなし」に込めた思い やまなしを食べてみたい 理由・根拠 「そうじゃない。あれはやまなしだ。流れていくぞ。ついていってみよう。ああ、いいにお いだな。」と文章に書いてあります。やまなしを食べてみたくて、そのことを話の中に少しで も入れたくて、題名もやまなしにしたんだと思います。 討論後 私は「平和」だと思いました。宮沢賢治は、やまなしのおいしさやにおいを本を読んでいる 人たちに伝えて、みんなが幸せになってほしいという思いを込めたと思います。 雪わたり 宮沢賢治は、動物と人間は平等、動物と人間はちゃんと仲良くなれる。お互いに嫌なことが ない世界を作りたいという気持ちを、この本に込めたんだと思います。
(2) 研究テーマにかかわって ○研究テーマに迫るための手立てについて ① 単元の導入で児童の思考の「ズレ」を生み、主題を考える。 単元の導入で、題名を空欄にした全文プリントを配付し、範 読をする。その後、児童が題名を考えるという活動は、児童の 読みの意欲を高めた。児童の多くは題名に「カニ」という言葉 を入れていた。そのため、題名が「やまなし」であると知った 後も、「どうしてカワセミも出てくるのに、やまなしなのか。」 「カニの兄弟がたくさんでてくるのに、なぜ題名にカニがでて こないのか。」など、疑問を持ち続けた。 このように、「読みたい」「知りたい」という意欲が本時の授 業の読み取りにつながったと思う。宮沢賢治の作品は、読み取 りが難しいもの、表現が抽象的なものも多い。しかし、「賢治 は何を伝えたいのかを知りたい。」という思いが読み取りを深 めたのだと考える。 ② 作者の生き方や同じ作者の作品をもとに討論をする。 「やまなし」を読む前に、宮沢賢治の生き方について考える時間を設けた。資料「イーハトー ヴの夢」を読み、そこから考えられることをまとめた。さらに、児童の中から「何か、共通する 言葉があるのではないか」という発言があり、「賢ワード」として宮沢賢治の生き方を象徴する言 葉をまとめた。そのため、本時での読み取りのように、より深いところまで読み深めることがで きたと考える。 また、宮沢賢治の他の作品の並行読書を行ったことで、自分の読みを活用する力が身に付いた。 並行読書を行う際、事前に自分のお気に入りの1冊を100冊近い本の中から選んだこと、自分 のお気に入りの1冊が「イーハトーヴ」のどこの位置での物語なのかを考えたことも有効な手立 てであったと考えられる。 さらに、討論は「互いの意見の基になった見方・考え方の差異を共有し、新たな発想に自分の 意見を再構築していく」ということを児童に伝え、継続して行っていくことで、お互いの読みを 共有するだけでなく、共感して聞く姿勢が身に付いた。だからこそ、深い読み取りにつながった のだと思う。 ③ 単元を貫く言語活動「宮沢賢治の夢 イーハトーヴ図書館を作ろう」を設定する。 「兄弟学年の3年生に宮沢賢治の夢を伝える」ことを目的とした図書館づくりは、児童の読み の意欲を高めた。本時後のポップ作りでは、3年生に分かりやすいような言葉遣いやイラストを 取り入れていた。 さらに、その 物語が伝えたい ことを端的に書 いたり、感じた ことを書いたり する児童が多か った。 単元を通して の目標があった ことで、相手を 意識した読みも できるようにな ったのではない かと考える。 このお話は、チュンセ童子とポウ セ童子の行動で「よいことをすれば 返ってくる」「助け合うことは大切」 と語りかけられているように思え るお話です。 ある下手なセロ弾きが、動物たち と出会っていくうちに上達してい き、さらに動物にある効果があるの を知ります。 努力の大切さがわかる一冊です。
○研究テーマに関わる評価について ① 登場人物の相互関係や心情、場面についての描写を捉えポップに書くことができた児童が全体 の 90%以上になる。(児童の作成したポップとノートで評価する。) ⇒ 29/31 名(93%)で達成。 到達していないと答えた児童は、「宮沢賢治の考え方や生き方がわかります。」「ぜひ読んでくだ さい。」といった呼び掛け程度にとどまっていた。「わくわくしてほしい。」「興味をもってもらい たい。」という感想や意見を書いていたが、ポップを作ることの意味について、個に応じて対応す る必要があると感じた。 ② 友達の意見を聞き、ポップを見直して、改善している児童が全体の 90%以上になる。 ⇒ 30/31 名(96%)で達成。 その1名は、友達の意見をしっかり聞いていたが、自分の表現の方がよいと考えて修正しなか った。この児童は自分の考えを持ち、本の内容も的確に読み取っていた。宮沢賢治の思いについ ても叙述と生き方からしっかり考えてまとめていた。 また、ポップを見直して改善した児童の多くは、宮沢賢治が伝えたい内容や表現がより読み手 に伝わるように改善していた。自分の読み取りだけでなく、友達の考えも取り入れていた。 単元の終了後も、討論するときに相手の話をよく聞こうとしたり、出てきた考えとつなげなが ら意見を話したりする児童が増えてきた。また、相手を意識した文章を書こうとしていたり、朝 読書の時間になると今までよりもページ数が多い本を手に取る児童が増えたりした。 (3) 今後の課題 ① 1単位時間での読みの学習とお気に入りの1冊の学習の時間配分 本時では、「やまなし」を読み取る時間が長くなり、自分のお気に入りの本について考える時 間が短くなってしまった。教科書教材の読み取りが浅ければ、自分のお気に入りの1冊に生か すことはできない。しかし、教科書教材の読み取りばかりでは活用する力が身に付かない。そ れを1単位時間内に行うために「読み」の学習の方法を吟味する必要があると感じた。 本時においては、児童に意見を出してもらうところからスタートをしたが、児童のいくつか の意見を事前に提示し、その内容について意見を述べていくことで時間が短縮されるだけなく、 討論をする内容が焦点化され、より深い読み取りになったと考えられる。 このように、どのような読みの力を身に付けさせたいのかを明確にしていくことが必要であ る。 ② 「優れた叙述」=「作者の伝えたいこと(主題)」とはならないということについて 「やまなし」には情景が豊かに想像できるような言葉が多く書かれている。本単元では、「優 れた叙述」を「作者の伝えたいことが強く表れている叙述」と児童に伝えた。しかし、「やまな し」において、児童の思考と「優れた叙述」の間にズレが出ているような感じがした。児童は、 「心に残る表現」「お気に入りの表現」を見つけている。宮沢賢治の作品は、物語に書かれてい る叙述だけでなく、生き方から見出される主題があるのではないかと感じた。「優れた叙述」に ついては、学習指導要領に示されていることの中から、教材に合わせて選ぶ必要があると感じ た。 ③ 討論を活発にするための対話力の向上 本時の討論後、宮沢賢治の生き方と「やまなし」を関連させて読むことができる子が増えた。 しかしながら、1学期からクラス全体で話し合う活動を取り入れてきたものの、討論が意見の 言い合いになってしまうグループもあった。また、討論の論点を見失っていることもあった。 読みを深めたり、広げたりするためには、いろいろな考えに触れることが大切である。友達の 意見に共感し、考え、応答する「対話力」を身に付けていくことが必要であると感じた。 これらの課題を改善し、児童が読みを活用する力が身に付く授業を心掛けていきたい。