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森林保全の経済学

担当:早稲田大学社会科学部 赤尾健一

はじめに

ここでは森林資源の保全と賢明な利用について考えるための材料を提供します。はじめに基礎 知識として、さまざまな森林の機能、森林資源の動向、そして森林保全のための国際社会の取 り組みについて紹介説明します。次に、森林を保全あるいは再生するために、どのような政策 が可能か、あるいは求められるかを解説します。森林保全の経済学として、特に強調したいの は、森林の重要な諸サービスが適切に社会に提供されるためには、森林を実際に利用している 人々、森林を所有している所有者や政府が、そのようなサービスの提供によって利益を得るよ うな仕組みが必要であることです。言い換えれば、求められる諸サービスが提供されるための 経済的誘因の重要性です。

1 森林の機能

 森林の有する機能(非常に多面的): 森林が存在することで、 1. 渇水・洪水緩和、景観の提供、遺伝子資源の保全等のサービスが社会に供給される。 2. 木材の他キノコ・シカ等の有用な生産物が生産され、レクリエーションの場が提供される。  遺伝子資源:医薬品やそのモデルとして:(例)タイヘイヨウイチイやニチニチソウ*  二酸化炭素吸収機能:FAO(1995)

中高緯度地域での炭素吸収量 7.4±1億tC/年

低緯度地域での炭素放出量 16.5±4億tC/年

全体で森林は9±4億tC/年の炭素放出源(化石燃料起源の炭素放出量の約16%相当)。  河川流量の調整:(例)中国長江流域の 1998 年大洪水*  水質浄化機能:(例)キャッツキル集水域=ニューヨーク市の水源*  森林の利用・保全に関する観点 1. 森林とそれ以外の土地利用との競合。  食糧生産のための農地とのトレード・オフ。 2. 森林として利用する土地での森林の諸機能間の競合。  森林生態系をそのまま保護する/樹木で土地が被覆されていればよい。

2 森林減少の動向と現状

 長期的な森林減少の動向  農耕の開始以降 16%が失われた。(Matthews, 1983 in メイサー,1992)  地域的には、熱帯林よりも温・冷帯域で森林減少率は高い。  森林被覆率:イギリス 11.6%、日本 64.0%、マレーシア 58.7%、ハイチ 3.2% (FRA 2000) 。 * Heal, 2000,第 3, 6 章を参照

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2 表 7-1 森林の有する機能 機能の区分 機能の種類 生物多様性保全 遺伝子保全,生物種保全(植物種保全,動物種保全(鳥獣保護),菌類保全, 生態系保全(河川生態系保全,沿岸生態系保全(魚つき)) 地球環境保全 地球温暖化の緩和(二酸化炭素吸収,化石燃料代替エネルギー), 地球気候システムの安定化山地災害防止 土砂災害防止機能/土壌保全機能 表面侵食防止,表層崩壊防止,その他の土砂災害防止(落石防止, 土石流発生防止・停止促進,飛砂防止),土砂流出防止, 土壌保全(森林の生産力維持),その他の自然災害防止機能(雪崩防止, 防風,防雪,防潮など) 水源涵養機能 洪水緩和,水資源貯留,水量調節,水質浄化 快適環境形成機能 気候緩和(夏の気温低下(と冬の気温上昇),木陰),大気浄化(塵埃吸着, 汚染物質吸収),快適生活環境形成(騒音防止,アメニティ) 保健・レクリエーション機能 療養(リハビリテーション),保養(休養(休息・リフレッシュ),散策, 森林浴),レクリエーション(行楽,スポーツ,つり) 文化機能 景観(ランドスケープ)・風致,学習・教育(生産・労働体験の場, 自然認識・自然とのふれあいの場),芸術,宗教・祭礼,伝統文化, 地域の多様性維持(風土形成) 物質生産機能 木材(燃料材,建築材,木製品原料,パルプ原料),食糧,肥料,飼料, 薬品その他の工業原料,緑化材料,観賞用植物,工芸材料 出典:林野庁ホームページ「森林の有する多面的機能について」 (http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/sesakusyoukai/tamennteki/tamentekitop.html) 表 7-1 森林の有する機能 機能の区分 機能の種類 生物多様性保全 遺伝子保全,生物種保全(植物種保全,動物種保全(鳥獣保護),菌類保全, 生態系保全(河川生態系保全,沿岸生態系保全(魚つき)) 地球環境保全 地球温暖化の緩和(二酸化炭素吸収,化石燃料代替エネルギー), 地球気候システムの安定化山地災害防止 土砂災害防止機能/土壌保全機能 表面侵食防止,表層崩壊防止,その他の土砂災害防止(落石防止, 土石流発生防止・停止促進,飛砂防止),土砂流出防止, 土壌保全(森林の生産力維持),その他の自然災害防止機能(雪崩防止, 防風,防雪,防潮など) 水源涵養機能 洪水緩和,水資源貯留,水量調節,水質浄化 快適環境形成機能 気候緩和(夏の気温低下(と冬の気温上昇),木陰),大気浄化(塵埃吸着, 汚染物質吸収),快適生活環境形成(騒音防止,アメニティ) 保健・レクリエーション機能 療養(リハビリテーション),保養(休養(休息・リフレッシュ),散策, 森林浴),レクリエーション(行楽,スポーツ,つり) 文化機能 景観(ランドスケープ)・風致,学習・教育(生産・労働体験の場, 自然認識・自然とのふれあいの場),芸術,宗教・祭礼,伝統文化, 地域の多様性維持(風土形成) 物質生産機能 木材(燃料材,建築材,木製品原料,パルプ原料),食糧,肥料,飼料, 薬品その他の工業原料,緑化材料,観賞用植物,工芸材料 出典:林野庁ホームページ「森林の有する多面的機能について」 (http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/sesakusyoukai/tamennteki/tamentekitop.html)  近年の動向: FAO (1990, 2000, 2005)

• Global Forest Resource Assessment; FRA

• 人工衛星による観測技術が発達した今日でも、森林の地球規模での評価は難しい。  Global Forest Resource Assessment 2000/2005/2010 の評価

 80、90 年代を通じて森林は途上国で減少し、先進国では安定ないしは微減。  純森林減少のスピードは次第に鈍化。

• 純森林減少=天然林の減少−(植林による増加+自然増) • 1980-90 = -13.0 million ha/year

• 1990-95 = -11.3 million ha/year

• 1990-2000= -9.4 million ha/year (8.9 FRA2005, 8.3 FRA2010) • 2000-2005= -7.3 million ha/year (FRA2005)

• 2000-2010= -5.2 million ha/year (FRA2010)

 近年の森林減少の中心は熱帯地域。また、減少の大部分は、天然林の減少。 • 熱帯林の特別な機能(生物多様性/二酸化炭素固定)。

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3 森林減少・劣化のメカニズム

 長期的減少傾向:人口密度の高い地域ほど森林の減少は激しい。  人口増加や生活向上への欲求を満たすために森林減少・劣化が生じるのは、やむをえ ない、と言えるかもしれない。  問題は、減少・劣化が土地の劣化をともなう場合  農地に転用されても、やがて不毛の土地と化す。  森林劣化により、木材生産量の低下、洪水・干ばつ被害の激甚化、遺伝子資源の不可 逆的喪失が生じる。  熱帯地域での土地の劣化をともなう森林減少

その典型的ケースとされるもの:非伝統的焼畑/放牧  焼畑移動耕作:熱帯地域での伝統的な農業。  伝統的方法:休閑期間を置くことで森林は回復し、再び焼畑農業に耐えるようになる。 また回復可能な場所を選ぶ。小面積。  非伝統的焼畑:森林の回復に配慮しない。大面積。 → 土地は農業に適さない草地(不毛の土地)となる。  非伝統的焼畑を生み出すもの (1) 人口増加;都市や農村部でのあぶれた人々が森林に参入。 (2) 政府による森林開発(大規模な森林伐採):  熱帯地域では、森林伐採自身は森林減少の重要な要因ではない。しかし、政府による 森林の囲い込みによって、伝統的焼畑を行える森林が減少する。 → 休閑期間の短縮化。伝統的焼畑を行ってきた森林先住者も非伝統的焼畑に転じる。 放牧地への転用:土地の劣化をともなう森林減少のもう一つの典型例  熱帯雨林は、高温多湿のため、落ち葉・枯れ枝等の生物遺骸の分解は非常に早く、降 水が大量にあるため分解された有機物は速やかに流出する。  その結果土壌はやせて、放牧を含めて農業には不適。 熱帯雨林を焼き払い放牧を行うとしても、1ha でウシ 0.5∼1頭しか養えない。土地は6∼8年 で飼養には耐えなくなる。放棄された土地が森林に回復するには、少なくとも 100 年を要する。  その他の森林減少・劣化の要因  薪炭過剰採取・林間への過放牧  大規模な森林火災:人為的な火入れで頻発  電力・用水供給のための大規模なダム開発  大気汚染・都市のヒートアイランド現象  レクリエーション地の過剰利用

4 国際社会の取り組み

 地球環境問題としての森林減少問題=最近の20,30年間の熱帯林の急速な減少

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4  研究者の関心:1970 年代に、熱帯林の「消失」を警告する論文

 社会問題化:米国特別調査報告「2000 年の地球」(1980) ・ 途上国では 2020 年に利用可能な森林はすべて消失

 地球規模での森林評価 FAO/UNEP(1982):1980 Tropical Forest Resources Assessment; 過去の減少傾向から、1981∼85 年、熱帯林は 0.6%/年の率で減少する。 → 国際問題・地球問題化  環境NGO熱帯木材不買キャンペーン(80年代後半) その効果に疑問も:森林の価値を低下させ森林減少を促進する、熱帯林減少問題の根本 原因である貧困を深刻化させる、熱帯木材のうち貿易されるものは1%にも満たない。  国際社会の取組み−3つの流れ:

熱帯林業行動計画(FAO)

国際熱帯木材協定(ITTO;国際熱帯木材機関)

地球サミットとそのフォローアップ(IPF→IFF→UNFF)  熱帯林業行動計画(TFAP)

1985年(国際森林年)に、国際環境NGO、世界資源研究所(WRI)の協力のもとに 作成・発表。

熱帯林の持続可能な開発を目指し、各国の森林計画作成支援、実施のための資金援助 を行う。

TFAPに基づく計画:1992年までに80ヵ国で実施。

1990年評価:計画国の林業投資増大を正当化する役割しか果たさず、FAOは本来の目的 を見失っている。  国際熱帯木材協定 ITTA(83 年採択、85 年発効、94,06 年改正)

一次産品総合計画(その貿易において途上国が不利にならないようにするための協定 を整備する)の一環

他の協定と異なり、貿易以外に研究開発、造林、森林経営といった熱帯林業に関する 包括的な内容  ITTO(85 年設立)

ITTAの協議・実施機関、熱帯林の70%以上に相当する輸出国、熱帯木材輸入の95% に相当する輸入国より構成=実質的な熱帯林問題の協議の場  2000 年目標(90 年に合意):

2000年までに輸出熱帯木材は、持続可能に経営されている森林からのものにする(今 だ達成されず。ITTO目標2000として早期達成を目指している)。

1992年に持続可能な熱帯林経営の評価のための基準(ITTOプロセス)を作成、合意  地球サミットとそのフォローアップ

地球サミット準備段階で、先進国側から「森林条約の作成もしくは合意を地球サミッ トに向けて行うこと」が提言される。途上国は猛反発。その見解

現在の森林減少問題は「熱帯林」減少問題。森林条約は熱帯諸国への一方的な規制にな りかねない。近年、熱帯途上国は急速に森林を減少しているが、それは農地に転換する 必要があるためである。また、

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先進国こそ森林を減少させてきた。現在その減少がおさまっているように、途上国も豊 かになれば、減少はおさまる(現在の減少ペースが将来も続くと考えるべきではない)。 熱帯林に関して、というならばすでに国際熱帯木材協定が存在し、その内容は森林経営 を含む包括的なものである。

一方で、先進国側も必ずしも条約作成を主張する国ばかりではなかった。

米国:枠組み条約策定を主張。ヨーロッパ諸国:条約策定のスケジュールを織り込む こと。日本:条約策定を目標とした世界森林憲章の策定。

結局、地球サミットでは「法的拘束力はないが、権威ある声明」を採択することで合意。 森林原則声明 (

(Non-Legally Binding Authoritative Statement of Principles for a Global Consensus on the Management, Conservation and Sustainable Development of All Types of Forests))

 熱帯アジア諸国の猛反発により、森林の扱いに触れている文書(森林原則声明・アジェン ダ21)では、条約交渉について明記されなかった。

 ただし、森林条約が完全にあきらめられたわけではない。→IPF、IFFでの議論へ。

 地球サミット後

1995 年、CSDが「森林に関する政府間パネル」(IPF; Intergovernmental Panel on Forests ) を設置。 • CSD(持続可能な開発委員会):地球サミット後の地球環境問題への取組み状況を レビューするための国連組織。 • IPFの目的:森林林業問題に関する議論と意見の集約の場として、1997年の国連環 境開発特別総会において、この問題に関する成果のレビューと今後の方向を提示す ること。 IPF は 1997 年までに4回の会合をもった。森林条約については、ここでも紛糾 • 推進派:カナダ、EU等、無用派:米国、オーストラリア、当面見送り派:日本、 マレーシア、ブラジル等。 • 資金援助・技術移転のあり方、貿易と環境(木材貿易規制)についても紛糾。 1997 年、国連環境開発特別総会 • IPF は行動提案を提出。が、内容の乏しいものだった。 • その後継組織として、「森林に関する政府間フォーラム」(IFF)を CSD のもとに 設置することが合意された。

IFF(Intergovernmental Forum on Forest)の検討課題:(1) IPF の行動提案の実施促進、(2) IPF からの懸案事項の検討、(3) 森林条約などの国際協定や国際メカニズムの検討

• IPF と同様の問題で紛糾。決着は 2000 年 2 月の第 4 回会合でつけられることに。 • その会合:実質的には検討事項の先送り。後継組織=国連森林フォーラム(UNFF)

へ。

• IFF から UNFF への申し送り事項:5 年以内に森林条約作成を検討する。 国連森林フォーラム UNFF (United Nations Forum on Forests)

• 主な目的:IPF、IFF の行動提案の実施の促進。2001 年の第1回会合で 2005 年ま での各年の検討課題を策定。例えば、森林条約は 2005 年度に検討を始める。

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6  その他の動向1:第 12 回世界林業会議, 2003/10 • 1926 年より。近年は 6 年に1回開催。12 回会議は 140 カ国以上が参加。  その他の動向2:持続可能な森林経営の基準と指標 • アジェンダ21にしたがって、各地で「持続可能な森林経営の基準と指標」づくりが 進んでいる。 • 先述のITTOプロセスの他に、地域的まとまりと気候的類似性に基づき9地域で作 成、149か国が参加。  先進国に関するもの:

ヘルシンキプロセス:ヨーロッパ38ヵ国。1994/6合意。

モントリオールプロセス:ヨーロッパ以外の温帯林等諸国12ヵ国(カナダ、ロシアを 含む)。1995/2 7基準67指標について合意。(サンティアゴ宣言)。  その他の動向3:森林認証制度

ラベリング制度の一種 • 80年代後半の環境NGOの熱帯林保護運動の発展型。 • 持続可能な森林経営を認証し、そこから産出された木材・木製品を識別するための ラベルをつける。

主 要 認 定 組 織 : ① Forest Stewardship Council / ② Pan European Forest Certification Scheme/③ Canadian Standards Association’s Sustainable Forest Management Standard/④ Sustainable Forestry Initiative

 その他の動向4:アジア森林パートナーシップ AFP

 2002 ヨハネスブルグ・サミットで日本が“タイプ2プロジェクト”として提案。イン ドネシアとの間で合意発足。パートナーはアジア諸国他オーストラリア、米、欧州諸国、 UNFF 他国際機関、The Nature Conservancy (NGO)と極めて広範。

• 背景:違法伐採・貿易問題 違法伐採問題は、1998年 バーミンガムG8ではじめて取り上げられる(G8森林行動プ ログラム)。インドネシアで生産される木材の50%以上が違法伐採木材(英・インドネ シア政府共同調査結果)。他にロシアの環境破壊的伐採の問題など。 その他の動向5:国連気候変動枠組み条約とその京都議定書 • 気候変動枠組み条約に関する京都議定書 (97採択、04発効):条約付属書Ⅰ国(先進 国及び旧ソ連東欧の経済移行国)は、第一約束期間(2008∼12)で90年水準より全体 で5.2%の削減を実現する。  吸収源として、植林と森林整備を限定的に認める(第3条第3項)=植林と森林整備 による温室効果ガス吸収分が排出削減努力としてカウントされる。  京都メカニズム(共同実施:第6条、クリーン開発メカニズム:第12条、排出量取 引:第3条第10,11項)によって、他国での植林と森林整備による削減クレジッ トを利用できる。共同実施と排出量取引は先進国(付属書Ⅰ国)内、クリーン開発メ カニズム(CDM)は発展途上国との取引。  森林:途上国の森林減少・劣化由来の排出を削減することを次期枠組みに組み込むこ と(Reduced Emissions from Deforestation and Forest Degradation; REDD)が現 在議論されている。

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5.社会的費用便益分析入門(森林保全の経済学1)

 ミネラルキング論争(自然公園の開発/保全問題)

(経緯) ウォルト・ディズニー社は 50 年代、スキーリゾート開発に関心を持つようになる。カリフォルニア の Sequoia & Kings Canyon National Park に囲まれた国有林 MK 峡谷もその候補の一つで、80 エーカーの土 地に 3500 万ドルを投下する計画を立てた。計画は 1969 年 1 月に国有林によって認可された。それに対して、 自然保護団体 Sierra Club が、開発に伴う国立公園の改変を許可した内務省長官の違法性と事業の執行の差止 めを求めて訴訟を起こした。 Sierra Club は、原告として自分たちを公益の代表者と位置づけたが、最高裁は 1972 年の判決において「その開発行為によって Sierra Club またはその会員の活動が侵害されると主張しなか った」ことによって訴えを退けた。 この裁判の過程で南カリフォルニア大の法学者クリストファー・ストーンは、自然または自然物が法的な権 利主体として認められるという持論を展開し、「樹木の当事者適格」と題する論文を書いて Sierra Club を擁護 した。これが、有名な「木は法廷に立てるか?」である。

一方、経済学者(Cicchetti, Fisher, and Smith, 1976)は旅行費用法を応用して、スキー場ができることに よるスキー客数の変化(他のスキー場も考慮する)を予測して、費用便益分析を行った。つまり、開発が認め られるには、少なくとも新しいスキー場へのスキー客の増加がもたらす価値がスキー場開発のコストを上回ら ねばならない(開発で失われる生態学的審美的コストが存在するから)。推定結果は、開発の実際コストは少な く見積もっても 6100 万ドルであり、それに対して開発の価値は高く見積もっても 2700 万ドルなので、開発は 社会にとって望ましくないという結果を示した。

 旅行費用法(Travel Cost Method): 旅行に人々が出かけるのは、訪問に要する旅行費用以上に、そのレクリ エーション・エリアの価値を見出しているから、ということに着目して、環境資産のレクリエーション価値やその変 化を推定する方法。  (社会的)費用便益分析  社会を構成する全員(将来世代を含む)の便益と費 用を集計し、その符号(プラス/マイナス)で、社 会にとっての望ましさを判断する方法。

環境保全/破壊がもたらす人々の喜びや悲しみ =効用の変化に対して、その貨幣尺度(WTPや WTA)を推定する。

方法:旅行費用法、ヘドニック法、CVM、etc.  なぜお金で判断するのか?

一元的な指標が必要だから。

社会的費用便益分析=その価値額の大小を比較。

価値額の大きなもの(純便益=便益―費用が正 となるもの)を選択することは、理論上社会を“パレート改善”する。

パレート改善:誰も不幸にせずに、誰かをより幸せにすること。 Cf. 効率的な状態=パレート改善し尽くした状態=経済学が考える社会のゴールのひとつ。

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6.経済的インセンティブの重要性(森林保全の経済学2)

―忍び寄る環境問題をいかに解決するか―

忍び寄る環境問題の例

UNEP (2002) Global Environment Outlook 3, p. 119  政治過程 vs. 経済的誘因 社会的費用便益の使われ方:その結果を根拠として、政治的決定によって環境を保全する。  人々の関心を集めている環境問題に対しては、強力な方法。だが、誰も気づかない問 題、気づいても政府がコントロールできない問題、政府がコントロールしようとしな い問題に対しては、有効ではない。 To d e c e n t r a l i z e t h e B r a z i l i a n population and develop new regions, the Brazilian government completed the Cuiabá-Pôrto Velho highway through the province of Rondônia in 1960. The road provided access to tropical rainforest previously occupied only by indigenous people. Two main factors increased immigration to the province. First, the World Bank decided in December 1980 to invest in paving the Cuiabá-Pôrto Velho highway, making travel easier. Second, economic hardship near the southern coast encouraged emigration to the area where immigrants hoped to acquire new land. The 1975 and 1986 images show substantial settlement in the Ariquemes area, near the highway. The predominant ‘fishbone’ pattern on the landscape is the result of logging operations which provide access to new land. Primary land uses are cattle ranching and annual crop farming. More sustainable perennial crops such as coffee, cacao and rubber occupy less than 10 per cent of the agricultural land. Despite encroachment, programmes are now attempting to preserve the land for multi-use functions providing a wider array of income-producing roducts for farmers that should eventually result in less impact on the tropical rainforest.

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9  有効な手段=人々が自発的に望ましい決定ができるようにすること: 経済的インセンティブの重要性  もし森林を保全することが社会にとって望ましいことならば、森林を利用している者 にとって、そうすることが自らの利益になるようにできるはず。  森林の非貨幣的価値を貨幣評価するだけではなく、その価値が実際に関係者の金銭的収益 になるような仕組みをつくることが重要。  経済的インセンティブによる森林再生の例:インド州有林の管理(地球白書1994-95より)

インドの NGO、セバ・マンディール Seva Mandir は、80 年代より森林消失地への植林支援を開始した。し かし、多くの場合で、植林しても近隣の村人がヤギを放牧し、ヤギが若木を食べてしまうため、成果は上がら なかった。 やがてセバ・マンディールは、植林しても収穫される木材は州のものとなり、村人には森を守る経済的イン センティブがないことに気づいた。 そこで、州政府に、村人に森を守る義務とともに長期にわたって森を利用する権利を与えるよう働きかけた (州有林の共同管理の提案)。 州政府が、その提案を試験的に実行したところ村人たちは積極的に森林保全に努めるようになった。この州 有林の共同管理は、90 年代にインド全域に広がり、実施面積 150 万ヘクタール以上に及んでいる。  経済的インセンティブを生み出す仕組みの例  生物多様性条約(92採択、93発効) • 目的:生物多様性の保全/その構成要素の持続的利用/遺伝子資源の利用から生ず る利益の公正かつ衡平な分配。 → 第15条で遺伝子資源に関する国家主権を明記: • 「各国は、自国の天然資源に対して主権的権利を有するものと認められ、遺伝資源 の取得の機会につき定める権限は、当該遺伝資源が存する国の政府に属し、その国 の国内法令に従う。」

例:コスタリカ政府機関生物多様性研究所と米大手製薬会社メルク社の契約。  気候変動枠組み条約に関する京都議定書 (97採択、04発効)

例:CDMに関連して、世界銀行は2007年12月に発展途上国での森林保全努力を支援す るために森林炭素パートナーシップ基金(Forest Carbon Partnership Facility: FCPF) を設立。資金提供によって発展途上国での森林の炭素吸収が促進され、それがCDMに よる排出削減量としてカウントされれば、先進国(付属書Ⅰ国)からの大規模な資金拠 出が見込まれる。  エコ・ツーリズム=外貨獲得源  森林認証制度

環境にやさしい商品に特別の価値を見出す消費者(グリーン・コンシューマー)が存在 することで、持続的森林経営を行うインセンティブを与える。

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10  自然保護債務スワップ Debt for Nature Swap

環境NGO等が、当該国政府の対外債務等を肩代わりし、政府はそれら団体の要求する 生態系の保全を行う。

1984年にWWF (現World Wide Fund for Nature)が提案。

最初の事例−1987年にConservation International がボリビア政府と。

最近の事例−2003年 The Nature Conservancy が米国政府と共同してパナマ政府と。 [参考文献]

[1] Cicchetti, C.J., A.C.Fisher, and V.K. Smith (1976) An econometric evaluation of a generalized consumer surplus measure: The Mineral King Controversy. Econometrica 44, 1259—1276.

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Resources Assessment 2005: Progress towards sustainable forest management. FAO Forestry Paper 147.

[4] Food and Agriculture Organization of the United Nations (2001) Forest Resources Assessment 2000. FAO Forestry Paper 140.

[5] Food and Agriculture Organization of the United Nations (1995) Forest Resources Assessment 1990 Global Synthesis. FAO Forestry Paper 124.

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[11] 赤尾健一 (1997) 地球環境と環境経済学. 成文堂.

[12] 世界資源研究所編(1992) 世界の資源と環境 1992-93. ダイヤモンド社. [13] ブラウン, レスター編著(1994) 地球白書 1994-95. ダイヤモンド社.

参照

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