はじめに 研究目的と意義
1. 研究目的
本研究の目的は、企業家活動において企業家はどのような社会ネットワークを持ち、構築し、
あるいは参加し、そこからどのような利益を得ているのかを明らかにすることである。さらに、
企業家活動における社会ネットワークの構築・参加と活用において、男女差の有無を確認するこ とにある。
今までにない技術やアイデア、あるいは既存技術・既存の経営資源の新たな組み合わせを用い て事業を興す企業家は、自社内に経営資源の蓄積がないため、外部からの調達を余儀なくされる。
また事業化の過程で仕入先や販売先、顧客をゼロから獲得しなくてはいけない。企業家活動にお いては、新たな関係づくりが不可欠である。
創業間もない企業においては、このような新たな関係づくりは、創業者である企業家と投資家、
あるいは取引先企業の経営者といった、人と人との間の関係として構築される場合が多い。もち ろん、インターネットを使った通信販売や小売業、飲食業においては、創業者とのつながりがな くても顧客となってくれる人はいるであろう。しかし、資金の調達や仕入先の確保など、多くの 場面で創業者が自ら奔走し、新たな関係を構築している。
経営において、経済動向や業界動向などの情報を活用することは重要であるが、企業経営者は よく、「本当に重要な情報は、新聞やテレビのニュースからは得られない。人から得られる情報の 方が、本当に経営に役立つ」という。ほとんどの人が気づいていない情報、重要だが認識されて いない情報は、親しい人からこっそり教えてもらうことが多いというのである。インターネット が普及し、世界中の情報を自宅のパソコンから検索できる時代であっても、である。経営に役立 つ情報も、人と人との関係から得られるのである。
近年、人と人との関係性とそこから生み出される相互関係である社会ネットワークについて研 究関心が高まっている。創業期の企業家活動においても、顧客や取引先との新たな関係づくりは、
社会ネットワークを作り、活用している行為とみることができる。企業家はどのような社会ネッ トワークをどのように活用し、そこからどのような効果を得ているのであろうか。本研究の端緒 はここにある。
さらに、社会ネットワークの構築・参加と活用についての男女差に着目したい。一般的に女性 はコミュニケーション能力の高さや共感力の高さから、社会ネットワークの形成が得意であると いわれている。一方、実際の女性経営者からは、「男性中心のネットワークや経営者団体に、女性 経営者はなかなか入れてもらえない」という声も聞く。そこで女性企業家と男性企業家の間で、
構築・参加し活用する社会ネットワークにどのような違いがあるのか、あるいは違いがないのか を明らかにしたい。
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2.本論文の構成
本研究の目的は、創業期の企業家活動における社会ネットワークの構築と活用の実態を明らか にし、活用の効果を明らかにすることである。さらにその性差の有無と内容について分析する。
研究の視点は、創業期の企業家活動にとって有益な社会ネットワークのあり方を探ることにあり、
社会ネットワークの構造そのものを精密に分析することではない。特に先行研究は外国の企業家 の社会ネットワークについて論じたものがほとんどであるため、それらの結果と日本の企業家の 社会ネットワークの違いについて分析することに主眼を置く。
本論文の構成は、まず第1章で企業家活動と社会ネットワークに関する最近の議論を整理した うえで、先行研究の分析と評価を行う。
第2章では予備調査として、文献で取り上げられている企業家の創業経緯に関する事例を分析 し、具体的な企業家活動の中でどのような社会ネットワークが活用され、何を得ているのかを明 らかにする。また、企業家活動に役立つ社会ネットワークの構築には、創業前の職業経験が影響 していると思われる。企業家を対象とした多くの調査結果から、創業の直接のきっかけとして「取 引先から勧められた」とか、「顧客から勧められた」という理由を挙げる者が結構いる。このこと は、創業前の仕事で取引先や顧客と直接接触するような職務に就いていたことが影響していると 思われる。一般事務や営業補助などの内勤業務では、このような経験は少ないであろう。企業家 の性別によるネットワークの違いを裏付ける資料として、創業前の職業経験の性差を分析する。
なお、性別による働き方の違いは、1986年の男女雇用機会均等法施行以降大きく変化していると 思われるので、できるかぎり時系列データを用いて最近の変化をたどることにする。
第3章では、第1章の先行研究における諸外国の企業家が活用する社会ネットワークと、第2 章で分析した日本の企業家の社会ネットワークに関する既存データから、本研究における仮説と 研究のフレームワークを示す。社会ネットワークの内容、特徴をどのような切り口でとらえるか、
また社会ネットワークの構造をどのような項目であぶりだすのかを検討する。本研究では、社会 学分野の研究で行われるような特定の社会ネットワークの事例的分析を行うのではなく、企業家 および企業家活動に関連する人たちの社会ネットワークの構造およびそこから得られる社会関係 資本について、量的分析によりアウトラインを把握し、さらにアンケート調査では把握できない ネットワーク構築過程やネットワーク内の人間関係等については、インタビュー調査によって補 完する。
第4章は、男女企業家に対して実施した「経営者の社会ネットワークと経営活動に関する調査」
の実施方法と集計結果の分析を示す。帝国データバンクの企業データベース「COSMOSⅡ」から 抽出した全国の創業経営者3,000人(男性1,500人、女性1,500人)に対して調査票を郵送し、
回収した。有効回答数は325件であった。このサンプル数は決して十分な量とは言えないが、先 行研究では100件程度の有効回答数を得た質問紙調査、あるいは事例調査しか見当たらなかった ので、本調査の回答数はより一般化可能なサンプル数と言うことができよう。企業家活動におけ る社会ネットワークの実態をさまざまな角度から分析した。
第5章は、男性企業家および女性企業家に対するインタビュー調査について詳細に報告する。
社会ネットワークは固定的なものではなく、常に新しいネットワークが構築されていく。創業後
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の企業家も、さまざまな交流会への参加や、業界団体への加入等によって、新たなネットワーク をつないでいく。このようなネットワーキングの方法については、それぞれの企業家が個別のス トーリーを持っており、質問紙ですべてを把握するのは不可能である。特にネットワーク構築の 過程については、どのようなアプローチ方法があり、どうすれば有用なネットワークを築くこと ができるのか、インタビュー調査から明らかにする。
第6章では、本研究で得た結果についてディスカッションし、仮説の検証を行う。創業期の企 業家がどのように社会ネットワークを構築し、新たなネットワークに参加し、ネットワーク内で どのような活動を通じて人間関係を作り出しているのか、具体的なイメージを明らかにする。さ らに、社会ネットワークの構築・活用における企業家の性差について論考を試みる。
3.本研究の意義
本研究の成果が、創業を検討している企業家予備軍に対し、有用なネットワーク構築の一助と なり、そこから事業の成功に必要な経営資源の調達に役立つものとなれば幸いである。企業家の 性別や年齢、斯業経験や事業分野によって、有用な社会ネットワークの種類や構造がわかれば、
活用すべき社会ネットワークをあらかじめ知ることができる。ネットワーク構築・参加に無駄な 時間と労力を費やすことを防ぐことができる。
本研究は創業期の社会ネットワーク活用に焦点を当てているが、企業家活動のステージごとに 活用するネットワークは異なるであろう。企業家のネットワーク構築・参加と活用について具体 的な情報を提供することによって、各地の創業支援機関やビジネス・インキュベーターにおいて インキュベーション・マネジャー等が行っているコーディネーション活動に対しても参考となる ことを期待する。
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