第 3 章 予混合圧縮自着火燃焼による低負荷運転領域拡大の可能性
3.1 概要
DISIエンジンの適用により,燃料消費量の大幅な削減が可能であることを明らかにした.
一方,成層燃焼を行うためNOxの排出量が三元触媒システムを利用する PFIエンジンに比 べて増加する傾向にある.NOxの排出量は,燃焼改善による低減の試みに加えて,触媒によ る低減が研究され,実用化されている.このような触媒は,触媒に NOxをトラップし,そ れを短時間のリッチ運転で脱離・還元することにより,NOx の浄化を行うものである(40). このプロセスには複雑な制御が必要であるのに加え,高温域での浄化性能と高温耐熱性が 低いため,成層運転領域が制限されることが問題とされている.また,リッチ運転を必要 とするため,DISI エンジンの特長である燃料消費量改善の効果を低下させてしまう.従っ て,今後強化される排出ガス規制に対して,DISIエンジンとリーンNOx触媒での適応には,
課題が多いといえる.
このような背景から,さらなる燃料消費量の低減と有害排出ガス成分の抑制を同時低減 可能な燃焼方式として,HCCIエンジンが注目されている.HCCIエンジンは,希薄予混合 気を自着火燃焼させるため,燃焼温度が低く,大幅な NOx低減を可能にする燃焼方式とし て,これまでにさまざまな混合気形成法や燃料性状に関する研究が行われてきた.
ガソリンを燃料とするHCCIでは,高負荷側ではノックにより,低負荷側は失火または燃 焼変動の増大により運転範囲が制限され,実用化するには多くの課題を克服する必要があ る.金子ら(41)は,低負荷域では圧縮着火を行わせ,高負荷ではSI運転を行うことで高負荷 側の運転領域を拡大するコンセプトを提案した.また,吸排気両バルブともに閉じた状態 となる“負のオーバラップ”(Negative Over Lap: NOL)期間を用いて,内部EGR量を調整し て筒内ガス温度を上昇させることで自着火性を向上させた.さらに,平谷ら(42)は,NOL 期 間に筒内に微量の燃料噴射を行うことで,吸気加熱が十分でない条件で自着火させること が可能であることを示した.こうした手法を用いることで運転範囲が拡大する.浦田ら(43) によると定常運転では,10・15モード走行に必要な運転範囲はおおよそカバーしうることが 報告されている.しかしながら,乗用車用エンジンとして成立させるためには,10・15モー ド以上の高負荷・高回転域及びエンジンフリクションと釣合う極低負荷域まで運転範囲を 拡大する必要があると指摘している.
エンジンの高圧縮比化と吸気加熱を適用すれば,低負荷側の運転領域の拡大は可能であ るが,高負荷側でSI運転に切り替えることを想定した場合,ノックの発生により高圧縮比 化には限界がある.また,低負荷時には吸気加熱を行う熱源の問題や付加システムが必要 となる.このため吸気加熱を行わずに,HCCIエンジンとしては,比較的低く,高負荷側で SI運転に切り替え可能な圧縮比での低負荷領域の拡大が必要である.
そこで本章では,高負荷側でSI運転に切り替えることを想定し,既存のPFIエンジンを 高圧縮比化したガソリンエンジンを用いて,運転パラメータの変更による低回転・低負荷
でのHCCI運転領域の拡大の可能性について調査した.特に,乗用車用エンジンとして成立 に必要なエンジンフリクションと釣合う極低負荷域での運転範囲の拡大と燃費低減の可能 性について,運転条件をパラメータに調査を行った結果について述べる.また,実験結果 をもとに,詳細な素反応過程を考慮した3次元シミュレーションを行い,HCCI燃焼過程を 把握することを試みた結果について述べる.
3.2 従来研究
HCCI燃焼に関する研究は,1950年代頃から行われているが,HCCI燃焼をエンジンに適 用した例としては,1979 年に大西ら(44)が2ストロークエンジンを用いて行ったものが最初 である.大西らは,この燃焼方式をATAC (Active Thermo-Atmosphere Combustion)と名付け,
圧縮比は 7.5 であるが,残留ガス割合を増加させることにより,自着火を達成している.
ATACの燃焼過程をシュリーレン撮影で観察したところ,火炎伝播は確認されず,全体的に ゆっくりと燃焼していく様子が観察された.ATAC燃焼により,2ストロークエンジンの部 分負荷における燃焼安定性と燃料消費量とTHCの同時低減を達成した.また,同年に野口 ら(45)は,対向ピストン式の 2 ストロークエンジンにて,同様の燃焼過程の可視化計測と燃 焼期間中のラジカル計測を行い,燃焼室の中心で燃焼が開始されることやラジカルと燃焼 過程の関連の把握を試みた.1994 年,飯田は燃料にメタノールを用いることにより,2 ス トローク HCCI 燃焼の運転領域は大きく拡大することを示した(46).また,本田技研工業は 量産の2ストロークエンジンにHCCI燃焼を採用し(47),量産前の二輪車によりGranada-Dakar ラリーに競技参加し信頼性を示した(48).いずれの場合においても,HCCIは部分負荷燃焼安 定,部分負荷におけるHC排出低減および燃費改善のためのものであった.
1983年にNajtとFosterは燃料のイソオクタンとn-ヘプタンの混合比を変更して圧縮着火
させることにより,4ストロークエンジンにおいてHCCI燃焼を達成する可能性を示した(49).
1989年にはThringが高負荷では火花点火,低負荷においてHCCIを用いることを提案した
(50).また,Thringは燃料としてガソリンと軽油の両方を使用し,空気過剰率とEGRの関係 を調査した.この研究はRyanとCallahanによって継続され,軽油を燃料とした場合は高圧 縮比では圧縮行程の途中で自着火が発生するので圧縮比を下げる必要があるとしている(51).
青山らはHCCI,ディーゼル,DISIを比較し,空気過剰率を最適化することにより,HCCI
では低燃費および低NOx 排出を達成することができるが,HC 排出は高い値を示すことを 明らかにした(52).また,エンジン出力を増加するために過給を行ったが,ブースト圧は比 較的低く,SIエンジンに相当するトルクに達する可能性は示されなかった.
Lund大学のChristensenらは1997年以降様々なHCCIエンジンの実験を行い,燃料の種類,
混合気形成,着火および燃焼手法について調査した(53)-(61).日本国内においても,近年多数 の報告がなされており,4サイクルエンジンの研究では,ガソリンでの予混合圧縮着火の基 礎的研究(62)や,異なった特性の燃料や複数の燃料を用いた方式の研究(63)が報告されている.
また,HCCI燃焼の着火時期はシリンダ内の化学反応過程に大きく支配されるため,化学 反応シミュレーション手法を用いた解析が行われている.着火前の過程においては炭化水 素の酸化において特徴的である低温酸化反応(Low Temperature Oxidation Reaction: LTR),熱 炎反応(Hot Flame Reaction: HFR)はもちろんのこと,負の温度係数依存(NTC: Negative Temperature Coefficient)が表現することが必要である.そのためには圧力,温度,密度変化 を伴うエンジンシミュレーションにおいて,可能な限り詳細な素反応過程を考慮しなけれ ばならない.HCCIシミュレーションはその方法により0次元(64),多領域(65),多次元モデル
(66), (67)
の3つに大別される.
理想的な均一混合気のもとの運転を仮定すると 0 次元モデルが適用でき,極短時間で計 算を実行できるのでパラメータスタディや大まかな反応過程の理解に適している.ただし,
現実にはシリンダ内においては,温度,圧力,各化学種濃度は空間的な分布が存在してお り,0次元ではこれを表現できないため,エンジン実験よりも急峻な圧力上昇が見られる等,
実験結果を正確に予測する手段としては不十分である.
多領域モデルはCFDコードによって予め温度分布を予測し,これをもとにシリンダ内を 数領域に分割し,各領域において化学反応計算を実施する方式である.その結果,計算時 間を短縮して大まかな温度分布及びクレビス等の低温領域の存在を考慮することができる が,輸送に関しては記述することができないことが欠点である.また,より詳細な反応機 構を導入すると莫大な計算時間を必要とする.そこで,酸化反応に対する寄与度の小さい 反応を省略して,着火遅れを詳細モデルに合わせた簡略化反応機構(68)が使用される傾向に ある.また,Oginkらは吸排気行程を表現できる1次元エンジンサイクルシミュレーション コードBOOSTTMとCHEMKIN-II(69)のサブルーチンであるSENKIN(70)を連成させ,さらに多 領域モデルに組み込むことで,残留ガスを考慮したHCCIシミュレーションを実施した(71). 多領域モデルでは,主に化学反応に重点を置いているが,シミュレーションにおいて実際 の現象を再現するためにはシリンダ内の流れを考慮し,流れの影響を調査する必要がある.
このため,エンジン内部の形状を考慮した解析が可能となるCFDコードをベースとして,
詳細な素反応を考慮した多次元のシミュレーションを行うことは有効である.Kongらは多 次元HCCIシミュレーションを用いてディーゼルHCCIおよびガソリンHCCIの特徴を示し た(66), (72).
3.3 実験方法 3.3.1 実験装置
エンジンの諸元を表3.1に,図3.1に実験装置の概要を示す.なお,次章においても同様 の実験装置を用いた.エンジンは,排気量1.5 L直列4気筒PFI-SIエンジンをベースに,
DIでの運転を行うためにシリンダヘッドをDI用に変更した.また,ピストン形状を変更し て圧縮比を12.47とし,燃料にはガソリンのモデル燃料として,イソオクタンとn-ヘプタン の混合燃料を使用した.供試エンジンは,吸気カムスプロケット部に位相変更が行えるVVT
(Variable Valve Timing)機構が設置されている.また,ヘッドと吸気マニフォールド間に,
SCVが設置されている.各運転パラメータに関する詳細は次節にて述べる.
Fig.3.1 Experimental set-up
Table 3.1 Engine specifications and Experimental conditions
Displacement L 1.5
Cylinder layout In-line 4 cylinders
Number of valve Intake 2, Exhaust 2
Intake port Tangential port
Straight port with SCV
Cam phaser Intake VVT
Bore mm 78.0
Stroke mm 78.0
Compression ratio 12.47
Engine speed rpm 750
Fuel supply system Intake manifold injection Direct injection
Fuel PRF(90% iso-octane
+10% n-heptane)
Fuel pressure MPa 0.3 (MFI)
10.0 (DI)
Octane number 90
3.3.2 運転パラメータ
以下に本章で用いた運転パラメータに関する装置の概要を示す.
(1) 吸気温度
吸気温度は,エンジン吸気上流に設置された電気ヒータにより常温から423 K程度まで加 熱することが可能である.
(2) 吸気圧力
吸気圧力は,エンジン吸気上流に設置した過給機により160 kPaの過給が可能である.過 給機は,モータにより駆動され,インバータのよりモータ回転数を調整することにより,
過給圧の調整を行った.
(3) バルブタイミング(VT: Valve Timing)
吸気バルブタイミング(IVT: Intake Valve Timing)は,吸気カムスプロケット部に設置さ れた VVT により変更した.一方,エキゾーストバルブタイミング(EVT: Exhaust Valve
Timing)は,エンジンの構造上排気カムスプロケットにVVT機構を設けることが困難であ
るため,排気カムスプロケットの位相を機械的に変更することにより調整した.
(4) エンジン回転数・負荷
エンジン回転数は,ベースエンジンのアイドリング相当の750 rpm,負荷はBMEP 0 kPa を中心に中低負荷領域においても実験を行った.
3.4 数値解析手法
HCCI燃焼に関する数値解析には,2つの手法を用いた.一つは,CHEMKIN-Ⅱの各種サ ブルーチンを改造して用いた 0 次元解析である.もう一つは,シリンダ内空間分布の影響 を把握するために詳細な素反応過程を考慮した数値流体コードを用いた.0次元解析は,運 転パラメータの影響を定性的に把握するのに用いた.また,エンジン筒内の詳細な現象解 析には,詳細な素反応過程を考慮した 3 次元シミュレーションを行った.以下に各手法の 詳細を示す.
3.4.1 サイクルシミュレーションとの連成による0次元化学反応計算
0次元モデルでは,シリンダ内の温度,圧力,化学種濃度等は均一であると仮定し,壁面
熱損失はWoschniの瞬時熱伝達予測式(73)により見積もった.化学反応計算には,CHEMKIN-
ⅡのサブルーチンであるSENKINを用いた.0次元解析を行うことにより,短時間での定性 的な現象の理解が可能である.しかしながら,計算の初期条件として計算開始時(通常は IVC)の筒内状態量を入力する必要がある.初期条件としては,筒内平均温度・圧力・混合 気濃度・残留ガス割合(Residual Gas Fraction: RGF)を規定する必要があるが,筒内平均温 度とRGF を決定することは容易ではない.HCCI エンジンの計算においては,その燃焼過 程が化学反応に支配されているため,IVC時の筒内の状態量を再現することで,数値計算の 予測精度は向上する(68).そこで,エンジンサイクルシミュレーションコード Gamma Technologies社製GT-POWERTM(74)とCHEMKIN-Ⅱを連成させ,GT-POWERTMによりIVCで の筒内条件を算出し,エンジンシリンダユーザサブルーチン内で SENKIN と直接リンクす ることで解析を行った.図3.2にサイクルシミュレーションとの連成解析の概要を示す.
Engine geometry, gas exchange system and
operating condition
IVC condition calculation
Output files One dimensional gas dynamics simulation
Engine cylinder user subroutine
GT-POWERTM
Elementary reactions
CHEMKIN libraries for reading binaries file
Thermodynamic properties CHEMKIN
Interpreter
Binary file for thermal properties and rate parameters
SENKIN for kinetic calculation CHEMKIN-II
Cycle>1
Cycle=1
Last cycle
Fig. 3.2 Schematic of Zero dimensional detail chemical calculation combined with GT-POWERTM
計算を行うために,エンジンシステム全体のサイクルシミュレーション用モデルを作成 する必要がある.モデルの1例を図3.3に示す.GT-POWERTMでは,各種パイプ要素とエン ジン要素(シリンダ,触媒,インジェクタ等)が用意されているので,それらを組み合わ せることにより,比較的容易にモデルを作成することが可能であり,これを用いて 1 次元 流体計算を行うこととした.通常IVCからEVO(Exhaust Valve Open)までの期間は,Engine cylinder model内のcombustion modelを用いて計算を行うが,HCCIモデルは現在のところ用 意されておらず,External cylinder modelを用いてSENKINとリンクされる.External cylinder modelは,FORTRAN言語で作成しDLL(Dynamic Link Library)にコンパイルして使用され る.
Fig. 3.3 Example of a GT-POWERTM model for a four-cylinder engine
計算開始してから,計算時間がIVC を超えるとGT-POWERTMはExternal cylinder model を呼び出し,筒内平均温度,圧力,質量割合をサブルーチン側に引き渡す.この時の筒内 の物質に関する記述の方法を指定することが出来る.1 つは,lumped オプションで未燃空 気,未燃燃料蒸気,未燃液体燃料,既燃ガス,既燃燃料の質量割合として記述するものと,
もう1つは,detailedオプションで未燃のN2,O2,H2O,iso-octaneとn-heptaneの気体及び 液体と既燃成分としてCO2,H2O,N2,O2,CO,H2,H,O,OH,NO,N の11 種類の化 学種として記述するものである.Oginkらは,BOOSTTMを用いてSENKINとの連成解析を 行っているのが,lumped オプションと同様の物質の取り扱いを用いている.Ogink らは,
全ての燃料が膨張行程終了後に燃え尽きると仮定して上記の値から各モル分率を計算して いる.ここでは,化学種として取り扱える利便性と上記の仮定を必要としないdetailedオプ ションを使用して計算を行った.
IVCにおいて,燃料は完全蒸発していると仮定した.IVCの各化学種の質量割合からモル
分率を算出してSENKINの入力値とし,SENKINにてEVOの期間まで計算して結果を保存 する.その後,それぞれのタイムステップにおいてExternal cylinder modelが呼び出される
が,SENKINの計算結果を補間した値が返される.その際,SENKINで計算された燃焼質量
割合と燃料の総括反応から各化学種の質量割合を算出した.この方法を用いることにより RGF を初期値として与える必要がなく,GT-POWERTM から引き渡される値から直接
SENKIN入力値を算出することが可能となる.
実験結果を用いて解析を行う場合は,計測した吸排気圧力履歴を境界条件に与えて 1 気 筒のみ計算を行った.このようにIVCでの筒内状態量を正確に見積もることで 0次元にお いても,予測精度は向上する.Ogink らによれば,多領域モデルと連成させることにより,
さらなる予測精度の向上が見込まれると報告されている.しかしながら,本研究が対象と する筒内直噴によるSCCI燃焼を含むHCCI燃焼の解明には,燃料噴霧の挙動を含めた解析 が必要であり,多領域モデルではその挙動を十分に再現することが困難である.そこで,
詳細な素反応過程を考慮した多次元数値流体解析を併せて行うこととした.
3.4.2 詳細な素反応過程を考慮した多次元数値流体解析
計算コードには,CHEM-KIVA(67)コードを用いた.図3.4にCHEM-KIVAコードの計算フ ローを示す.本コードは,HCCI シミュレーションにおいて,重要な役割を果たす LTR や NTC を再現するために,エンジン熱流体解析コードである KIVA-3V(以下 KIVA)の化学 計算サブルーチンに,CHEMKIN-Ⅱの各種サブルーチンを直接リンクさせている.これに よって詳細な素反応過程を考慮することを可能としている.また,本コードは各所で開発 された各種炭化水素の酸化メカニズムを容易に導入することが可能である.
(*ODE: Ordinary Differential Equations) Output files
CHEMKIN-II
- Thermodynamic properties at specified temperature - Kinetic calculation (ODE* solver)
- Sensitivity Analysis
KIVA-3V
- Elementary reactions - Thermodynamic properties Engine geometry and
operating condition
Fig. 3.4 Schematic of CHEM-KIVA code
計算に使用したサブモデルを表3.2に示す.サブモデルは,主にKIVAのオリジナルのも のを使用したが,蒸発モデルと衝突・合体モデルに関しては,修正を加えた.蒸発モデル は,セル内に 2 つ以上のパーセルが存在する場合,後に蒸発するパーセルが先に蒸発した パーセルの影響を受けるようにした.すなわちセルの圧力,密度,温度,内部エネルギ等 を更新した後に,次のパーセルの蒸発量を計算するようにした.また,衝突・合体モデル では,オリジナルのモデルでは衝突の判断を相対速度ベースで行っていたのを粒子が近づ いている場合のみ衝突するようにした.また,乱流混合時間を考慮するためにKongらのモ デルを用いた.モデルの概要を以下に示す.
Table 3.2 CHEM-KIVA code specification
Base code KIVA-3V combined with CHEMKIN Ⅱ Gaseous phase solving Finite volume method
Convective term scheme Quasi second order upwind
Turbulence model RNG k-ε model
Spray dynamics solving Discrete droplet model Breakup model TAB (Taylor-Analogy Breakup) model Collision model Modified O’Rourke & Bracco model
Evaporation model Modified Faeth model
Combustion model Detailed chemical kinetics Turbulent mixing interaction model Low-of-the-wall heat transfer model Launder and Spalding model
KIVAでは,有限体積法を用いて離散化されているので,計算格子内は空間的に均一とみ なしている.しかしながら,一般的な計算格子のサイズ(数 mm 程度)に対してシリンダ 内部の乱流は積分長スケールからコロモゴロフスケールまで存在しており,これらの乱流 渦に起因した濃度および温度勾配が形成されている.実際のエンジンにおいては,燃料と 酸化剤,中間生成物が分子レベルまで混合される時間は十分ではない.本計算コードのよ うに格子内を均一と仮定している場合には,その場の温度,圧力,ガス組成に従い直ちに 反応が進行し,結果として実際の実験結果に比し急峻な燃焼となってしまう.そこで,Kong らは次のモデルによって計算格子内の反応物が混合する時間を考慮して反応速度を定義し た(66).
mix i
kin i i
i
f
Y Y
τ ω τ
+
= −
,
*
(3.1)
ただし,ωiは化学種iの反応速度,Yiは現在の濃度,Yi*は平衡濃度である.また,τkin,iとτmix
は化学反応と乱流混合の特性時間であり係数fは燃焼の進行度に伴い0から1までの変数で あり,以下のように記述される.
632 0
e f 1
r
.
−
−=
(3.2)さらに,rは初期反応物の量と反応生成物の量の比であり,
2
2 2
2
N
H CO O H CO
Y 1
Y Y Y
r Y
−
+ +
= +
(3.3)と定義する.つぎに,乱流混合の特性時間τmixはk-εモデルに従い,
τ
mix= C
2ε k
(3.4)と表記される.C2は標準k-εモデル定数で通常0.142(RNGでは0.100)であり,kとεは乱流エ ネルギと消散率である.ここで仮に反応速度は乱流渦の影響は存在せず,化学反応のみに よって決まると仮定すると式(3.1)は次のように単純化される.
i kin
i i i kin
Y Y
,
*
,
τ
ω = −
(3.5)また,反応速度はCHEMKINの計算結果を用いると次のようにも記述できる.
dt Y dt
Y Yi i
i kin
= ∆
= '−
ω
, (3.6)ここでdtは計算タイムステップ,Yi,Yi’はCHEMKIN前後の化学種i の濃度である.そこ で,式(3.5),(3.6)より
Y dt Y Y
i i i i
kin ∆
= *−
τ
, (3.7)が得られる.しかしながら,数百もの化学種についてそれぞれ化学反応の特性時間を求め ることは計算負荷の点から実際的ではない.そこで以下の2点の仮定を行った.
1. 全化学種の反応速度は燃料のものに等しい.
2. 燃料の平衡濃度は0である.
ただし条件 2 は,燃料はたとえリッチな混合状態においても反応が開始するとすぐに中間 生成物に転換されるという考えに基づく.この結果,以下のように記述することができる.
( Y
fY
f) dt
kin
= − / ∆ ⋅
τ
(3.8)(
f f)
ii
i Y Y Y Y
Y*− = − /∆ ⋅∆ (3.9)
(3.10)
dt Y Y
Y
i*−
i= τ
kin∆
i/
ここで,fは燃料のシンボルであり,∆YiはCHEMKINによる計算後の化学種iの濃度変化で
ある.さらに,燃料濃度が0に達した後は上記の2つの仮定における燃料はCOに置き換え られる.COはすぐにCO2に転換される化学種であり,燃料が完全に消費された後,熱発生 に大きく貢献する化学種である.以上,式(3.1),(3.10)から計算サイクルn+1の化学種の濃 度は以下の式から算出される.
i mix kin
kin i
n i 1 n
i Y
dt f Y
Y ∆
= +
=
+ −
τ τ
ω τ
(3.11)式(3.11)により,反応速度に対して乱流混合時間を考慮することが可能となる.また,f→0 と考えるとこの影響を無視することもできる.この場合,反応速度は化学反応のみによっ て決まり,乱流は輸送現象だけに影響を与えることになる.
3.4.3 多次元解析用計算格子
計算に用いた計算格子を図3.5に示す.エンジンシリンダ内の不均一性を再現するために は,詳細な計算格子を使用することが必要である.しかしながら,数百もの素反応からな る化学反応過程を解析するためには,多くの計算時間が必要となる.そこで,本研究では,
計算時間を考慮してメッシュサイズを決定した.KIVAで取り扱える計算格子は,構造格子 であるが,モデル作成を容易にするため計算格子はICEM CFD HEXATM(75)を用いて作成し た.メッシュ数は,下死点で8152である.y=0.0 mmの断面に示したように,Crevice部を 設定した.また,図中の黒丸部がDI時の噴射位置である.
Fig. 3.5 3D Calculation mesh @ 40 deg BTDC
Injection point
Crevice Cross section (y=0.0)
3.5 SENKINの概要
化学反応計算に関しては,CHEMKIN-IIのサブルーチンSENKINを用いて行った.SENKIN は,閉じた系における均一混合気の詳細な化学反応計算を行うことが可能であり,化学種 および温度履歴を算出することができる.図3.6にSENKINの概要を示す.SENKINで計算 を行う前に,素反応モデルと化学種の熱力学データベースから,CHEMKIN Link Fileを作成 する必要がある.素反応モデルに関しては,次項で詳しく述べる.
SENKIN CHEMKIN
Subroutine Library CHEMKIN
Link File CHEMKIN
Interpreter
Restart File
Keyword Input Thermodynamic
Data Base
Reaction Description
Binary File Terminal
Fig.3.6 Schematic of the SENKIN code
SENKINには,解析を行うのに有用な以下の5つのプログラムが用意されている.
A. 圧力一定の断熱システム B. 体積一定の断熱システム
C. 体積を時間の関数として与える断熱システム D. 圧力と温度が一定のシステム
E. 圧力が一定で温度が時間の関数で定義されたシステム
燃焼器の解析には,A~Cが主に用いられる.0次元解析においては,Cを用いて行った.
次に,SENKIN における質量とエネルギの保存式の概要について示す.システムは閉じた系と 仮定されているので,境界からの物質の出入りはない.従って,反応気体の全質量mは,
∑
= == Kk mk const
m 1 . dm/dt=0 (3.12)
となる.ここでmkは,k番目の化学種の質量で,Kは反応気体中の化学種の数である.各化学種の 変化は,
k k
k
V W
dt
dm = ω &
k=1,…, K (3.13)で記述される.tは時間,
ω &
kとWkは,素反応によるk番目の化学種の生成速度と分子量,Vは体 積である.全質量は一定であるので,式(3.13)は質量割合を用いて以下のように書き換えられる.k k
k
v W
dt
dY = ω &
k=1,…, K (3.14)ここで,Yk=mk/m, v=V/mである.式(3.14)はプログラムA~Eまで共通である.DとEに関しては,温 度が既知であるので,エネルギ方程式は必要なく,プログラムは式(3.14)のみにより規定される.一
方,A~C は各ケースの拘束条件からエネルギ方程式を導き出さなければならない.閉じた系にお ける断熱状態での純物質の熱力学第一法則は,理想気体を仮定すると,
de+pdv=0 (3.15)
である.ここで,eは比内部エネルギで,pは圧力である.内部エネルギeは,
(3.16)
∑
==
Kk k k
Y e e
1
で表される.ekは,k番目の化学種の内部エネルギである.従って,
(3.17)
∑ ∑
= =
+
=
Kk
K
k
k k k
k
de e dY
Y de
1 1
と表される.理想気体を仮定すると,dek=cV,kdTである.ここで,Tは温度を,cV,kはk番目の定容比 熱である.反応気体の平均定容比熱は,cV =
∑
Kk=1YkcV,k で,これらを用いてエネルギ式を表す と,∑
== +
+
Kk
k k
V
dt
p dv dt e dY dt
c dT
1
0
(3.18)式(3.24)を用いて上式を書き直すと,
∑
== +
+
Kk
k k k
V
v e W
dt p dv dt c dT
1
ω & 0
(3.19)また,理想気体の状態方程式から圧力は,
W p = ρ RT
(3.20) となる.ここで,Rは一般ガス定数,
W
は反応気体の平均分子量,ρは密度である.プログラムCの 場合,体積は時間の関数として与えられるので,m t t V
v ( ) )
( =
(3.21)dt dV m dt dv 1
=
(3.22)と表される.以上より,プログラムCでは,式(3.19),(3.22)が用いられる.また,プログラムBでは,体 積が一定のため式(3.19)は,
∑
== +
Kk
k k k
V
v e W
dt c dT
1
ω & 0
(3.23)となる.プログラムAでは,エンタルピが一定である.エンタルピは,h=e+pvで,微分すると
dh=de+vdp+pdv (3.24)
なり,圧力一定であるから,
dh=0 (3.25)
となる.反応気体のエンタルピは,
(3.26)
∑
==
Kk k k
h Y h
1
と表される.ここで,hkは k 番目の化学種のエンタルピである.以上より,定圧条件でのエネルギ式 は,
∑
== +
Kk
k k k
p
v h W
dt c dT
1
ω & 0
(3.27)となる.ここで,平均定圧比熱は,cp =
∑
Kk=1Ykcp,k で表される.各化学種の反応速度
ω &
kは,すべての反応式より算出される.各反応は,質量作用の法則に従 って進行し,修正アレニウス関数の正の反応速度定数は,
= −
RT AT E
k
f βexp
(3.28)ここで,E は活性化エネルギ,βは温度指数,Αは頻度因子であり,方程式のパラメータである.
化学反応に関する計算は,CHEMKINサブルーチンライブラリを用いて行われる.
0次元解析では,式(3.21)をクランクアングルの関数として定義した.また,壁面熱損 失は,Woschniの瞬時熱伝達予測式(73)により見積もった.多次元解析においては,KIVAの 化学反応サブルーチンにSENKINを直接リンクさせ,セル毎に計算を行った.
3.6 素反応モデルと酸化機構
3.6.1 PRF燃料反応モデル
本章では,ガソリンのモデル燃料としてイソオクタンとn-ヘプタンの混合燃料を用いた.
前項で述べたように SENKIN を用いて,化学反応計算を行うためには化学反応機構を記述 した素反応モデルが必要である.イソオクタンと n-ヘプタンの素反応モデルとして,
LLNL(Lawrence Livermore National Laboratory)(76)とChalmers university(77)のモデルが広く用い られている.それぞれの化学種数と素反応数を表3.3に示す.LLNLのモデルは詳細反応モ デルと呼ばれるが,いくつかの反応式に関しては衝撃波管の実験結果と感度解析によりア レニウスパラメータの調整を行っている.また,Chalmers のモデルは簡略反応モデルと呼 ばれ,衝撃波管,感度解析そして詳細反応モデルによる計算結果により検証を行うことに より反応数を削減したモデルである.そこで本研究では,CFD コードと連成により,化学 反応解析を行うため,計算負荷の制限からChalmersの素反応モデルをもとに,混合燃料(以 下,PRF)の素反応モデルを作成した.
Table3.3 Reaction mechanism models
Fuel iso-octane n-heptane
Developer LLNL Chalmers LLNL Chalmers
Chemical species 857 84 544 57
Elementary reactions 3606 412 2446 290
作成した素反応モデルは Chalmers のイソオクタンをベースに,n-ヘプタンの分解に関す る反応を付け加え,さらに NOxの生成過程を考慮するために,N 系の反応(78)を加えた.n- ヘプタンの反応機構には,イソオクタンと同一の反応式が含まれており,この場合はイソ オクタンの反応式を使用した.結果,PRFの素反応モデルは116の化学種と689の素反応と なった.
PRF素反応モデルを用いて,初期組成をイソオクタンと空気として計算を行い,LLNLと Chalmersの素反応モデルとArrheniusプロットの比較を行った.計算には,SENKINのCONV (3.5項のプログラムB)を使用し,予混合気の着火遅れを計算し,初期条件は空気過剰率1.0,
初期圧力3.0 MPaとして,温度を変化させた.
10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100
0.8 1 1.2 1.4 1.6
100PRF, λ=1.0, P=3.0 MPa
Chalmers LLNL Mixed
Ignition delay sec.
計算結果を図3.7に示す.冷炎,NTC支配域において本モデルはChalmersのモデルとよ く一致しており,青炎支配域では LLNL との一致する結果となった.対象とする運転領域 では,NTC の挙動が重要な役割を果たすような温度域であり,この領域の着火遅れが良く 一致していることから,PRF燃料モデルを使用することとした.
3.6.2 n-ヘプタンの酸化機構
n-ヘプタンはparaffin系燃料であり,イソオクタンはparaffinの異性体であるiso-paraffinの 一種である.HCCIエンジンの自着火現象を解析する上で,燃料の酸化機構を把握すること が重要である.正確な反応経路は,明らかでない部分もあるが,反応機構の概要はこれま での研究で報告されている.paraffin系燃料の反応機構の概要は,同一であるためn-ヘプタ ンの反応機構の概要(79)について以下に示す.図3.8に反応機構の概要を示す.
(6)
(11) (10) (7)
(5) (4) (3) (2)
(9) (8) (1)
+ O2
+ O2
Ketohydroperoxide Oxohydroperoxi radical
・OOC7H14OOH Isomer
・C7H14OOH Hydroperoxyalkyl radical
C7H15OO・
n-heptyl radical C7H15・ n-heptane
C7H16
Beta Decomposition
Conjugate Olefins
Cyclic ether
Beta Scission
OH・+Olefin+Aldehyde
Branching Fig. 3.8 The major reaction branches of n-heptane oxidation (1)の反応過程には,下記の反応が含まれる.
⋅ +
⋅
→
+
2 7 15 216
7
H O C H HO
C
O H H C OH H
C
7 16+ ⋅ →
7 15⋅ +
22 2 15 7 2 16
7
H HO C H H O
C + ⋅ → ⋅ +
1番目の反応は,O2によってn-heptaneが反応する創始反応である.この反応は,高い吸熱 反応であるため,一度ラジカルが形成されるとn-heptylラジカルC7H15・の生成においては,
重要な反応ではなくなる.代わって2,3番目の反応が支配的になる.最も反応速度が早いの は,高い発熱反応であるOH・ラジカルによる反応である.また,H2O2は,酸化過程におい て重要な役割を果たす.約1000 K以下の温度では,比較的安定しており,反応生成物とし て生成される.温度が十分に高くなると,H2O2はすばやく2つのOH・ラジカルを生成する 連鎖分岐反応(連鎖担体が増殖する反応)を起こす.
M OH OH M
O
H2 2 + → ⋅+ ⋅+
生成された OH・ラジカルは,温度の急速な上昇に従い,急速に燃料を消費していく.この ように,H2O2の分解と燃料の消費は,(2)の反応過程に至る.
⋅
→ +
⋅ O C H OO H
C
7 15 2 7 15この反応の平衡定数は温度依存性が強く,温度が低いときには反応速度は高く,温度の上 昇に伴い,酸化過程は他の反応へシフトしていく.この代替反応において,安定なolefinと hydroperoxideを形成する.(反応過程(7))
2 14
7 2 15
7
H O C H HO
C ⋅ + → +
(1)の反応過程が起こると,酸化過程は主としていわゆる低温酸化機構を経て進行していく.
(反応過程(2)~(5))温度がおよそ1000 Kを超えるとolefinの生成反応が活発になり,さら に温度が約1200 Kに上昇すると,下記の反応が主要な連鎖分岐反応となる.
⋅ +
⋅
→ +
⋅ O O OH
H 2
n-heptylラジカルC7H15・とO2の2つの反応経路が存在するため,いわゆるNTC領域が存在 することになる.
反応過程(3)は,異性化反応である.
OOH H
C OO H
C
7 15⋅ → ⋅
7 14異性化は,もとの燃料分子のサイズと構造と燃料内部での位置,ここではOOの位置に大き く依存する.異性化反応の速度と数は,燃料分子のサイズとともに増加する.つまり,長 い直鎖の燃料ほど早く,短く側鎖を持つものほど遅い傾向がある.異性化反応で生成され た物質に再びO2が付加される(反応過程(4))
OOH H
OOC O
OOH H
C
7 14+
2→ ⋅
7 14⋅
oxohydroperoxide ・OOC7H14OOHは,さらに異性化され,比較的安定なketohydroperoxideと OH・ラジカルに分解される.(反応過程(5))800 Kを超えるとketohydroperoxideは,幾つか に分解され,少なくとも2つのラジカルを生成する.すなわち,一度温度がketohydroperoxide の分解に対して十分な温度に達すると,連鎖分岐反応は,多くのラジカルが形成により起 こることとなる.(反応過程(11))
より高い温度領域では,n-heptylラジカルは,反応過程(2)で示した O2との反応を起こさ ない.しかしながら,その代わりに反応過程(6)の分解が起こる.その反応には以下のよう なものがある.
4 2 11 5 15
7
H C H C H
C ⋅ → +
6 3 9 4 15
7
H C H C H
C ⋅ → +
11 4 7 3 15
7
H C H C H
C ⋅ → +
10 5 5 2 15
7
H C H C H
C ⋅ → +
Isomer H
C
7 15→
反応過程(8)において,異性化により生成された物質は、安定なolefinとhydroperoxideにな る.
2 14
7 14
7
H OOH C H HO
C → +
⋅
反応過程(9)は,環状エーテルとOH・を形成する反応である.
⋅ +
→
⋅ C
7H
14OOH C
7H
14O OH
また,反応過程(10)には以下のようなものがある.
⋅ + +
→
⋅ C
7H
14OOH C
4H
9CHO C
2H
4OH
⋅ + +
→
⋅ C
7H
14OOH C
3H
7CHO C
3H
6OH
⋅ + +
→
⋅ C
7H
14OOH C
2H
5CHO C
4H
8OH
⋅ + +
→
⋅ C
7H
14OOH CH
3CHO C
5H
10OH
⋅ + +
→
⋅ C
7H
14OOH HCHO C
6H
12OH
以上が n-heptane の酸化過程の概略であるが,反応場の温度により,3つの反応経路に分
類することが出来る.低温での酸化過程では,反応過程(2)の n-heptyl ラジカルに酸素が付 加する反応の方が,hydroperoxide HO2を生成する反応過程(7)よりも支配的である.反応過 程(2)~(5)を経て,異性化と2度目のO2の付加が起こる.低温での酸化過程より温度の高い 領域では,反応過程(7)が反応過程(2)に匹敵するようになる.その結果,以下の反応が活発 になり,安定化学種H2O2が形成される.
2 2 15 7 2 16
7
H HO C H H O
C + ⋅ → ⋅ +
この反応のため,先の酸化過程よりも高温場であるにかかわらず,反応速度は遅いという 現象が起こる.これが,NTC の主な特徴である.およそ 1000 K よりも高い温度域では,
n-heptylラジカルは,O2とは反応せず分解されていく.
3.7 運転パラメータ変更によるHCCI燃焼改善の可能性
3.7.1 自然吸気条件での運転性能
低回転極低負荷におけるHCCIでの自着火性能を把握するために,自然吸気条件において マニフォールド噴射(Manifold Fuel Injection: MFI)を用いて燃料消費量をパラメータとして 実験を行った.MFI により燃料を供給することで,均一予混合気に近い混合気分布になる と考えられる.バルブタイミング(Valve Timing: VT)と実験条件を図3.9,表3.4に示す.
自然吸気条件でMFIによる運転では,吸気温度が423 K以下では自着火には至らなかった.
第1気筒の筒内圧力と熱発生率(Rate of Heat Release: RHR)を図3.10に示す.ここでは,燃料 消費量は,BMEP 0 kPa付近の領域を想定しているためg/sec.で示し,4気筒全体の燃料消費 量である.なお,以降の全ての実験では,吸気スロットル開度は全開で行った.
0 1 2 3 4 5 6 7 8
120 180 240 300 360 420 480 540 600 660
Intake (VVT 0deg) Intake (VVT 40deg) Exhaust
Valve lift mm
Crank angle deg ATDC
Fig. 3.9 Base cam valve timing diagram,
Table 3.5 Experimental condition for HCCI base performance
0 1 2 3 4 5 6
0 50 100 150 200 250 300
-30 -20 -10 0 10 20 30
Pressure MPa RHR J/deg.
Crank angle deg.ATDC Fuel consumption
0.299 g/sec.
0.292
0.278
0.271
Engine speed rpm 750
Cam profile intake/ exhaust Base/ Base
VVT position deg 0 (base position)
Intake pressure kPa 101
Intake temperature K 423.15
Injection system MFI
図より燃料消費量が 0.278 g/sec.(空気過剰率 λ:1.73)付近を越えると突然自着火に至る ことがわかる.0.271 g/sec.(λ:1.83)においても熱発生が見られるが,自着火には至らない.
自着火に至った 3 条件では,燃料消費量の増加に伴い着火時期が早まっており,高い出力 を示している.各条件のIMEPは燃料消費量が多い方から,414.0,341.6,261.1 kPaである.
ベースエンジンのアイドル条件におけるIMEPは100 kPa程度であり,自然吸気における MFIでの実験結果から,燃料消費量を削減し希薄側への運転領域の拡大が必要である.
また,自着火した条件においてエンジンノック音が確認された.一般に小型高速機関にお いては最大圧力上昇率[dp/dθ]maxが0.2 MPa/deg.を超えなければ,燃焼騒音として問題になら ないが,0.5~0.6 MPa/degになると,強いノック音として認識されるようになる(80).燃料消
費量が0.299 g/sec.の条件では,最大圧力上昇率は0.692 MPa/deg.であった.従って,希薄側
への運転領域の拡大と同時に最大圧力上昇率の低減も必要である.
3.7.2 過給による希薄運転領域の拡大
希薄領域への運転範囲を拡大するために,圧縮開始時の筒内状態量を変化させる方法が 考えられる.そこで,MFI において過給を用いて吸気圧力をパラメータとして実験を行っ た.表3.5に実験条件を,図3.11に各吸気圧力における燃料消費量とIMEPの関係を示す.
Table 3.5 Experimental condition for HCCI performance with various intake pressures
Engine speed rpm 750
Cam profile intake/ exhaust Base/ Base
VVT position deg 0 (base position)
Intake pressure kPa 110, 120, 130, 140, 150, 160
Intake temperature K 423.15
Injection system MFI
-100 0 100 200 300 400 500
0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35
100 110
120 130
140 150
160
IMEP kPa
Fuel consumption g/sec.
Intake pressure kPa
Fig. 3.11 Comparison of IMEP between various intake pressure conditions
図より,過給を行うことによって,少ない燃料消費量でも自着火に至るようになること が明らかである.過給によりシリンダ内の空気量が増加しているため,同燃料消費量では 高過給条件の方が混合気は希薄である.前節の自然吸気の場合と同様に,吸気圧力が低い 条件では,希薄側では失火し,燃料消費量を増加させていくと,急峻な熱発生を伴って自 着火が起り高いIMEPを示した.一方,過給圧を増すに従って,燃料消費量に対し,線形的 にIMEPが増加する傾向を示した.
この燃料消費量に対する傾向を把握するために,吸気圧力が110,130,150 kPaの場合の 筒内圧力とRHRの履歴を図3.12に示す.また,各吸気圧力における燃料消費量に対する熱 発生開始時期を図3.13に示す.HFRの開始時期が同程度の条件について比較すると,吸気 圧力が高くなるに従い,燃料消費量が減少し熱発生が緩やかになる.各吸気圧力において,
最も燃料消費量が多い条件では,LTRの発生時期は20 deg BTDCよりも進角している.こ れは,過給に伴う比熱比の増加による筒内温度の上昇と酸素濃度が増加したことによると 考えられる.これにより,圧縮後の筒内温度が上昇するために,少ない燃料でもHFRに至 ったと考えられる.しかしながら,図3.11 から明らかなように,その効果は高過給側で減 少する結果となった.図3.14に吸気圧力130,140,150,160 kPaでの同燃料消費量におけ る筒内圧力とRHRの比較を示す.また,図3.15にGT-POWERTMとの連成による0次元解 析結果を示す.
0 1 2 3 4 5 6
0 50 100 150 200 250 300
-30 -20 -10 0 10 20 30
Pressure MPa RHR J/deg.
Crank angle deg.ATDC 0.266 g/sec.
0.257
0.249
0.248 0.226 Intake pressure: 110 kPa
0 1 2 3 4 5 6
0 50 100 150 200 250 300
-30 -20 -10 0 10 20 30
Pressure MPa RHR J/deg.
Crank angle deg.ATDC 0.230 g/sec.
0.220
0.209 0.193 Intake pressure: 130 kPa
0 1 2 3 4 5 6
0 50 100 150 200 250 300
-30 -20 -10 0 10 20 30
Pressure MPa RHR J/deg.
Crank angle deg.ATDC 0.191 g/sec.
0.186
0.177 0.172 Intake pressure: 150 kPa
Fig.3.12 Comparison of pressure and RHR histories for various intake pressures
10 15 20 25
0.16 0.18 0.2 0.22 0.24 0.26 0.28
110 kPa 130 kPa 150 kPa
Crank angle of RHR starting point deg. BTDC
Fuel consumption g/sec.
Intake pressure
Fig.3.13 RHR starting point comparison for various intake pressures (Intake temperature: 423.15 K)
0 1 2 3 4 5 6
0 50 100 150 200
-30 -20 -10 0 10 20 30
Pressure MPa RHR J/deg.
Crank angle deg.ATDC Intake pressure
160 kPa 150
140 130
Fig. 3.14 Comparison of pressure and RHR histories for various intake pressures (Fuel consumption: 0.200 g/sec.)
図 3.14 から同燃料消費量において,過給圧の増加に伴い着火時期が早まる傾向がある.
吸気圧力が130~150 kPaの領域では,RHRのピークが上昇しているが,160 kPaでは着火時 期は早まるものの,RHRのピークは減少している.図3.15の0次元解析においても同様な 傾向を示した.なお,0次元解析において着火時期が実験と同程度となるように燃料消費量
を0.180 g/sec.で計算を行った.解析結果から,過給圧の増加に伴いLTRは早まり,HFRに
至る温度に早期に達する.しかしながら,吸気圧力160 kPaの場合,最も早期にHFRに至 るにもかかわらず,燃焼期間は遅延しており,RHRのピークもわずかではあるが,150,140 kPaより劣る.また,COの残存量は160 kPaが最終的に150,140 kPaを上回る結果となった.
温度履歴に着目すると,160 kPa では HFR に至った後の温度上昇が緩慢で最高温度は,
140,150 kPaの条件よりも低くなっている.これは,過給により空気量が増加し,熱容量が
増大したためであると考えられる.その結果,温度上昇が緩慢となり,COの酸化速度が低 下したと推測される.また,反応が終了する前に,膨張行程により温度が低下し,結果と して燃焼効率が低下した.このように,130 kPaでは過給の効果が小さく,HFRの開始時期 が膨張行程にあり,同様にCOの酸化に十分な速度と時間が得られず,多量のCOが排出さ れる結果となったと考えられる.
Pasure MsPr
0 1 2 3 4 5 6 7
0 50 100 150 200
e RHR J/deg.Intake pressure
160 kPa
150 140 130
600 800 1000 1200 1400 1600
Temperature K
Intake pressure 160 kPa
150
140 130
0 1 2 3 4 5 6 7 8
-30 -20 -10 0 10 20 30
CO mg
Intake pressure 160 kPa
150
140 130
Crank angle deg.ATDC
0 5 10 15 20 25
-30 -20 -10 0 10 20 30
CO 2 mg
Crank angle deg.ATDC Intake pressure
160 kPa
150
140
130
Pressure, RHR Temperature
CO
2CO
Fig. 3.15 0D calculation results at various intake pressures (Fuel consumption: 0.180 g/sec.)
0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
100 110 120 130 140 150 160 Exhaust CO2 2.0~ g/g fuel
Exhaust CO2 0.25~2.0 g/g fuel
Exhaust CO2 0~0.25 g/g fuel
Fuel consumption g/sec.
Intake Pressure kPa
このように,過給圧を増加させていくと混合気が希薄化し,熱容量の増加することにより,
不完全燃焼に至る.そこで,吸気圧力の増加による燃焼形態の変化について CO2の排出量 から評価した.本章で用いたRON90PRF燃料は,完全燃焼した場合3.028 g/g fuelのCO2が 生成される.CO2の排出量が2.0 g/g fuel以上を完全燃焼,0.25~2.0 g/g fuelの場合を不完全 燃焼,0.25g/g fuelを失火として分類した.その結果を図3.16に示す.
吸気圧力が100 kPaの場合,0.27 g/sec.まで失火領域であり,不完全燃焼領域が非常に小さ くなっている.過給圧の上昇とともに,完全燃焼領域及び不完全燃焼領域は,低燃料消費 量側に拡大していく.しかしながら,140 kPaよりも高い吸気圧力条件では,不完全燃焼領 域は拡大するものの完全燃焼領域の拡大は認められない.この結果から,140 kPa付近で過 給による希薄領域への完全燃焼領域の拡大効果は頭打ちとなることがわかる.
次に,過給がサイクル間での燃焼変動に与える影響について調査した.図 3.17 に IMEP の変動率として200サイクルのCOV (Coefficient of Variance)を示す.なお,COVは以下のよ うに算出した.まず,n個の各サイクルで得られたそれぞれのIMEP,PInの平均値µは
∑
=×
=
ni
Ii
n P
1
1 )
µ (
(3.29)次に,IMEPの分散σ2は標準偏差の二乗であり,
∑
=×
−
=
ni
Ii
n
P
1
2
2
1 }
)
{( µ
σ
(3.30)として得られる.よってIMEPのCOVは下のようにして算出される.
× 100
= µ
S σ
[%] (3.31)0 20 40 60 80 100
0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35
100 110
120 130
140 150
160
COV of IMEP %
Fuel consumption g/sec.
Intake pressure kPa
Fig. 3.17 COV of IMEP between various intake pressures conditions (#1 cylinder)