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テーマ書評<シリーズ107 同族企業の行動原理とその特徴 日本マーケティング学会 MJ148 09

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Ⅰ. はじめに

 本稿の目的は同族企業を5つの経済モデルか ら概観し,今後のマーケティング研究に同族企 業の行動原理やその特徴から生まれる新しい 視点を提供することにある。マーケティング と企業の業績の関係について様々な研究が行 われてきたものの(Campbell-Hunt, 2000; Yan, 2010; Li, Zhou and Shao 2009; Miller and Dess, 1993),同族企業の視点からの研究はあまり見 られなかった。同族企業は家族主義的であり, 企業に介入する家族メンバーが企業の意思決定 に対して強い影響力を持つという特徴がある ため,非同族企業におけるマーケティングの 有効性とは異なる結果が導かれる可能性があ

る。帝国データバンクの調査によると,日本に おける同族企業の割合は,資本金1億円未満で は97%,5億円超の企業でも65%と非常に高い。 それにもかかわらず,同族企業にはあまり焦 点が当てられてこなかった(Agyaphong, Osei and Akomea, 2015)。日本企業の大部分を占め る同族企業の文脈を研究に取り入れることに よって,よりリアリティのある実務的示唆を提 案できるのではないだろうか。また本稿では, 同族企業研究を発展させることで,将来的な研 究に対する新しい視点を得ることができると考 える。これらの研究を行っていく上で,同族企 業の独自性に関する理論的背景への理解は不可 欠である。よって,本稿では一般的な経済モデ ルから同族企業を概観していくことで,同族企 業特有の企業行動についての理解を深めていく

要約

 本稿の目的は,同族企業を 5 つの経済モデルから概観し,今後のマーケティング研究に同族企業の行 動原理やその特徴から生まれる新しい視点を提供することにある。本稿では,同族企業特有の企業行動 が「社会情緒資産理論」で主張される社会情緒資産を目的として採用されていると考える。

 マーケティングと企業の業績の関係について様々な研究が行われてきたものの,日本企業の大部分を 占める同族企業の視点からの研究はあまり見られなかった。同族企業の行動原理やその特徴は,非同族 企業とは大きく異なっているため,財務的利益のみを追求することに焦点を当てたマーケティング計画 やそれを前提としたマーケティング研究は同族企業の文脈には即さない。本稿では,これらを理解し, それに即したマーケティング研究を行うことで,よりリアリティを持ち,有効な調査を行うことができ ると考え,同族企業の行動原理と特徴への理解を深めていく。

キーワード

同族企業,同族経営,社会情緒資産

一橋大学大学院 商学研究科 博士後期課程

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こととする。

 世界的な視点から見ても,同族企業が経済 に重要な役割を果たすということは周知の事 実である(Aronof and Ward, 1995; Neubouar and Lank 1998; Chrisman, Chua and Sharma, 2005)。また,企業に対する家族メンバーの 介入行為や家族による支配の存在は,世界共 通 の 要 素 で あ る(Anderson and Reeb 2003; La Porta et al. 1999; Shanker and Astrachan 1996)。同族企業は,日本における企業の過半 数を占めており,先進国の中でもその割合は非 常に大きい。よって同族企業の存在は日本に とって非常に需要で,経済に対して大きな影響 力を持つ。経営や経済,ファイナンス分野の研 究者は,同族企業が資源や企業行動,業績に関 して非家族企業と異なるのか,具体的にどう 異なるのかについて調査し続けてきた。例え ば,De Massis, Frattini, Pizzurno and Cassia (2015)は,両企業のイノベーションの差異に ついて調査し,非同族企業のイノベーション が断絶的でより内向的,リスク愛好的である のに対し,同族企業のイノベーションが漸進 的で外交的,リスク回避的であると主張して いる。Carmon, Miller, Raile and Roers(2010) は,同族企業の労働者は非同族企業の労働者と 比べて,労働についての満足度が高く,その変 動率が低いと主張している。このような先行研 究によって,同族企業と非同族企業の差異につ いては多く明らかにされてきたのである。一方 で,同族企業における家族介入がどのように企 業行動に影響するのかという疑問に関しては, 多くの既存研究で矛盾が見られ(De Massis, Kotlar, Chua and Chrisman, 2014),その原因 として各研究で使用される調査尺度の差異や定

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的に起因すると考え,この特徴と企業行動を説 明する上で「社会情緒資産理論」を取り上げる。  次章では,同族企業の定義について既存研究 を紹介したあとに,同族企業の特徴とそれ特有 の企業行動の目的を説明する社会情緒資産理論 を取り上げる。3 章では,5 つの経済モデルか ら同族企業を概観していく。同時に,同族企業 と非同族企業の差異についても触れる。  

Ⅱ. 同族企業とその企業活動

1. 同族企業の定義

 ファイナンス分野において,同族企業は「創 業者・あるいはその一族が経営に関与する企業」 と さ れ て い る(e.g. Bloom and Van Reenen, 2007; Porta, Lopez-de-Silanes and Shleifer, 1999)。経営学でもこれとほぼ同様の定義が用 いられることが多い。経営への関与には主に 2 つの方法が存在する(入山・山野井 , 2014)。 第一に,企業の株式についての「同族所有」が ある。株式の保有比率が高いほど議決権の比率 も高くなるため,その保有者が間接的に企業に 関与することとなる。創業者やその一族が企業 の株式を一定比率以上保有することで,企業へ の関与が高くなるのである。第二に,「同族経 営」がある。創業者やその一族が企業の社長や 役員に就くことで,経営に対して直接的に関与 することを指す。しかし,家族の関与の程度が 同じでも,経営者が自社を同族企業と認識して いるかどうかわからないという指摘やその認識 が時間の経過とともに変化する可能性があると いう指摘もある(Chrisman et al., 2005)。同族 企業において家族メンバーの持つ裁量権や意欲 に関する研究を行ったDe Massis et al.(2014)

は,他者の利益を犠牲にして自らの利益を追求 できる裁量権を家族メンバーが持っていたとし ても,本人にその意思がなければ,この裁量権 によって同族企業特有の企業行動が起こること はないと主張している。つまり,家族による企 業への関与が高い場合であっても,家族主義的 行動を採用できる企業内での裁量権の所有と, それを所有している者の家族主義的行動を採用 しようとする意思が同時に存在していなけれ ば,同族企業特有の企業行動は起こらないので ある。

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1996),より親密な個人間の人間関係(Horton, 1986)などという人間内部の社会資産に特徴づ けられる(Adler and Kwon, 2002; Hatch and Dyer, 2004)と主張されている。このような同 族企業が持つ独自の特徴がビジネスプロセスに 影響することは経験的に明らかになっており (Dyer, 2003),同族企業は独特のインセンティ ブシステムや権力構造,受容規範を持っている (Fama and Jensen, 1983)。このような特徴は

非同族企業にはほとんど見られない。よって本 稿では,同族企業と非同族企業の企業行動の差 異がこの同族企業独自の特徴と行動目的に起因 すると考える。

 

2. 同族企業における企業行動の目的

 社会情緒資産理論は,同族企業において 創業者が「非財務的な効用」を優先的に追 求するという視点を持つ理論である(Gómez-Mejía, Haynes, Núñez-Nickel, Jacobson and Moyano-Fuentes, 2007; Gómez-Mejía, Cruz, Berrone and De Castro, 2011)。Gómes-Mejía et al.(2007)によれば,同理論における非財 務的な効用として「企業に対する強い感情的結 びつき」と「事業による一族の永続」,「創業者 一族内での利他主義」をあげている。他の同族 企業に関する既存研究においても,家系の永 続(Casson 1999; Schulze, Lubatkin, and Dino 2003)や社会情緒的富の維持(Gómes-Mejía, Lerraza-Kintana and Makri 2010),家族調和 や家族の社会的地位,家族の団結 (Chrisman and Patel, 2012; Kotlar and De Massis, 2013) が同族企業において重視されると主張されてい る。また,家族内での企業継承の成功(Chua et al., 1999; De Massis, Chua, and Chrisman

2008)に注力することもある。このような効用 は,通常非同族企業が目的とする財務的な効用 とは大きく異なる。非同族企業においてこのよ うな社会情緒資産に焦点が当たることはほとん どない。社会情緒資産理論は,同族企業を一般 的な経済モデルから概観していく上で,その企 業行動の目的を示す重要なものである。本稿で は,この社会情緒資産理論で示されているよう な「非財務的な目的」から同族企業特有の企業 行動が生まれているとし,次章から5つの一般 的な経済モデルを用いてその企業行動を概観し ていく。

 

Ⅲ. 一般的な経済モデルからの概観

 同族企業は非同族企業とさまざまな相違点を 持つ。これは,両企業間で企業行動の目的が異 なる点に起因すると考えられる。前章では,同 族企業が社会情緒資産理論で主張されているよ うな非財務的な効用を追求することから,企業 行動に関する差異が発生するとした。本章では, 同族企業を一般的な経済モデルである「エー ジェンシー理論」,「スチュワードシップ理論」, 「行動理論」,「ステークホルダー理論」,「資源

ベース理論」という5つの理論から概観してい く。同時に,同族企業と非同族企業において企 業行動が具体的にどう異なるのか,既存研究を もとにその相違点も述べていく。

 

1. エージェンシー理論

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る。エージェンシー理論では,プリンシパルと エージェントがそれぞれ異なる目的を持ち,こ の両者の間には情報の非対称性が存在するとい う仮定がある。このような仮定から,エージェ ントがプリンシパルの意向に沿わない利己的行 動を採用するプリンシパル=エージェント問題 が発生する。この状況を回避するために,プリ ンシパルがエージェントに対して,自らの意図 に沿った行動を採用するようにインセンティブ を設けることがある。これがエージェンシーコ ストである。非同族企業では,このようなコス トが同族企業と比較して高くなる。非同族企業 においては,両者が個人的な関わり合いを持 たない他者であるがゆえに,プリンシパル= エージェント問題の原因の一つとなる情報の非 対称性が高くなることがこの理由として考えら れる。しかしながら,より親密な個人間の人間 関係(Horton, 1986)に特徴付けられる同族企 業では,情報の非対称性は非同族企業に比べて 低くなるはずである。また,オーナーシップと マネジメントの統一がプリンシパル=エージェ ント問題を生みにくくし,エージェンシーコス トを引き下げているという主張もある。この理 由として,同族企業ではマネジメントとオー ナーシップが完全に分離しておらず,それらが 分離している場合であっても潜在的なエージェ ンシーコストを最小限に抑えられることがあげ られる(Fama and Jensen, 1983)。非同族企業 では,プリンシパル=エージェント問題を回避 するためにオーナーシップとマネジメントの統 一が行われると考えられているが,家族メン バーにこの両方が集中し(Fama and Jensen, 1983; Greenwood, 2003; Chrisman, Chua and Litz, 2004),非同族企業と比較して情報の非対

称性が低い同族企業おいて,エージェンシーコ ストが高くなることはほとんどない。特に中小 同族企業において,エージェンシーコストはほ ぼ存在しないのである(Corbetta and Salvato, 2004)。これらの点から見て,エージェンシー 理論下では,同族企業が非常に有利な組織構造 であると認識されているのだ。しかしながら, 後継につれて企業に介入する家族メンバーが増 加すると,利益構造が変化し,オーナーシップ の複雑性が増す。これによってプリンシパル= プリンシパルの問題が引き起こされる可能性 もある(Kellermanns, Eddleston, Sarathy and Murphy, 2012; Miller, Minichilli and Corbetta, 2013)。

 非同族企業における意思決定者は通常,経済 的な目的を持ち,他者の利益を犠牲にして自分 の利益を追求する可能性があるが,同族企業に おいては非経済的目的が置かれ,かつ他の家族 メンバーに対する利他主義的行動が採用され る。よって同族企業が持つ非経済的な目的と家 族メンバーに対する利他主義的行動から引き起 こされる問題は,エージェンシー理論の仮定か ら大幅に逸脱した企業行動を導くのである(De Massis et al., 2014)。例えば,同族企業におい ては家族メンバーの管理下にある行き過ぎた権 限(Morck and Yeung, 2003)や企業という経 済主体として経済的目的を追求するべきである にもかかわらず,同族企業が非経済的目的を追 求してしまうという矛盾に直面することがあ る(Chrisman and Patel, 2012; Kotlar and De Massis, 2013; Zellweger, Nason, Nordqvist and Brush, 2013)。

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2. スチュワードシップ理論

 スチュワードシップ理論(Davis, Schoorman and Donaldson 1997, Donaldson 1990, Donaldson and Davis, 1991)は,エージェン シー理論と相補的な視点を持つ理論である。経 済原理にかなった行動を採用する人間の行動モ デルを基本とするエージェンシー理論とは対照 的に,スチュワードシップ理論は心理学と社会 学にルーツを持つ経営理論であり,経営者がス チュワードとしてプリンシパルの利益最大化の ために行動するような状況を仮定したモデルで ある。同理論は,組織主義的,集団主義的な行 動が,個人主義的,利己的行動よりも高い効用 を生み出すと考え,それに従うスチュワードの 行動を捉えている。スチュワードは,組織や社 会の目的を達成しようと行動することで個人 の効用を最大化することができるため(柏木 , 2005),スチュワードシップ理論において,ス チュワードは常に組織主義的,協力的行動を採 用する。

 同族企業におけるスチュワードは,その経営 者一族である。同族企業の経営者や家族メン バーは,地位を高めたり,信頼関係を構築した り,社会貢献を行うといった家族メンバーの ニーズを満たすための乗り物として企業を認 識している(Ashforth and Meal, 1989; Gómez-Mejía et al., 2007; Lansberg, 1999; Miller and Breton-Miller and Scholnick, 2008)。 よ っ て, 一般的に同族企業における家族メンバーの行動 は,他の家族メンバーに対して利他主義的であ る。同理論におけるスチュワードの行動は常に 組織に対して協力的であり,スチュワード自身 も組織への協力を重視していることから,ス チュワードシップ理論は同族企業における協力

関係や他の家族メンバーへの利他主義的行動を 説明する上で適した理論なのである。   

3. 企業行動理論

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なり,家族に関する非経済的な目標が存在する 同族企業において,より複雑で異質な企業行動 が採用されるのである(Chrisman and Patel, 2012)。例えば,同族企業の家族メンバーに対 する心理的愛情が複数世代にわたる企業への家 族介入を引き起こす場合もある。De Massis et al.(2015)や Donnelley(1964)は,自身と家 族メンバーの利益を守るため,同族企業の家族 メンバーは企業内での主権消失を恐れていると いう行動理論に対する補足的視点を提供してい る。自身や他の家族メンバーに対する利他的行 動のために企業内での支配力を維持しようとす る家族メンバーが存在する同族企業は,非同族 企業とは異なる企業行動を採用するのである。  

4. ステークホルダー理論

 ステークホルダー理論(Freeman, 1984)は, 同族企業の行動を研究する上で役立つ理論的 枠組みであると主張され続けてきた(Sharma, 2004; Zellweger and Nason, 2008)。広義的な 定義によるステークホルダーとは「組織の目的 遂行に影響するか,もしくは影響を受けるグ ループまたは個人」であり,狭義的な定義に よるステークホルダーとは「組織の存続及び 成功にとって極めて重要なグループ」である (Freeman, 1984)。そして,ステークホルダー 理論とは企業が株主の利益のためだけに行動す るのではなく,全てのステークホルダーのため に行動するべきであるという理論である。一方 で,経営者を株主の代理人として捉え,企業経 営において最重要視されるべきは株主の利益で あると考えるストックホルダー理論も存在す る。しかし,家族メンバーに対する利他主義や 家族主義的な行動を採用する同族企業の行動を

説明するのに,このストックホルダー理論は不 適切である。一方で,組織の目的遂行に影響し, 影響を受けるようなグループまたは個人,組織 の存続及び成功にとって極めて重要なグループ という,株主とは異なる存在の利益を重視する ようなステークホルダー理論は,同族企業研究 において適した理論的枠組みなのである。  同族企業における戦略的意思決定が行われる 上で,家族のメンバーが重要な役割を担ってい る(Chua et al., 1999)という理由から,同族 企業におけるステークホルダーには,家族のメ ンバーが含まれる。もちろん,同族企業には意 思決定に影響するような非家族メンバーのマ ネージャーも存在している。同族企業において ステークホルダーとなるのは,非同族企業にも 存在するような非家族マネージャーと企業に介 入する家族メンバーである。

 しかしながら,企業の後継とともに同族企業 内のステークホルダーが増加すると,コンフ リクトが生じる場合がある。Kenyon-Rouvinez and Ward(2005)はこのような問題として, 非家族メンバーによる企業経営への介入によっ て家族メンバーの利益が奪われてしまうのでは ないか,企業内での影響力が低下してしまうの ではないかという不安や兄弟同士のライバル意 識の表面化などを挙げている。

 

5. 資源ベース理論

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組み合わせから企業の競争優位性が構築される と主張されている。同族企業において,事業体 や個々の家族メンバー同士の相互作用が構築す る独特の組織形状(Habbershon and Williams, 1999; Habberson et al., 2003)が,高い唯一性 を持つ経営資源を生み出している(Chua et al., 1999; Zahra, Hayton and Salvato, 2004)。この ため,同族企業には非同族企業とは異なる経営 資源が存在するのである。

 社会資本と人的資本というそれぞれの側面 において,同族企業は非同族企業とは異なる 資本を持つ。個々人の関係の中に埋め込まれ た資源として定義される社会資本(Hofman, Hoelscher and Sorenson, 2006)は,組織の中 で取引コストを減少させ,情報フローを活性化 させることができ,知識創造やその蓄積を促す ものである(Lin, 2001; Nahapiet and Ghoshal, 1998)。このような情報フローの活性化や個々 人の関わり合いが深いことから,同族に支配 された企業の方が企業の競争優位性を高め る暗黙知の共有がされやすく,伝承されやす く,維持しやすい傾向にあると主張されてい る(Cabrera-Suarez, Saa-Perez and Almeida, 2001)。

 家族メンバー同士の密接な関係を持つ同族 企業は,非同族企業よりも家族メンバー同士, また株主との社会資本を発展させる上で優位 性 を も つ(Gómez-Mejía, Nunez-Nickel and Gutierrez, 2001)。企業の株主は,人間的でな いと感じられる企業よりも,世代を超えて長期 的な関係を育てることのできる同族企業と人間 的な愛情を育みたいと感じている可能性があ る(Carney, 2005)。また,同族企業は外部コ ミュニティーに関する評判に敏感で,企業を改

善していくために重要となる株主との関係性発 展にも特に注力していると主張する先行研究も 存在する(Dunn, 1996)。このような人間的な 社会資本を持つことで,より効率的に家族メン バーや株主とのコミュニケーションをとること ができる同族企業は,非同族企業に比べて情報 共有を容易に行うことができる(Tagiuri and Davis, 1996)。

 人々の持つ知識や能力と定義される人的資 本(Hatch and Dyer, 2004) に つ い て, 高 い モチベーションや結束力,ビジネスへの介入 (Fukuyama, 1995; Horton, 1986)によって特徴 付けられる同族企業は,競争優位性の高い人的 資本を持つことがわかる。しかしながら家族メ ンバーに対する偏愛が非家族メンバーへの不遇 を導き,それが人的資本の喪失に繋がるという 問題も持つ(Miller et al., 2008)。

 このように,家族と企業が引き起こす相互作 用は,社会的資産,人的資産の高低に関わり, 競争優位の確立に影響するのである(Sirmon and Hitt 2003)。

 

Ⅳ. まとめ

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前章までの小括を行い,ここから同族企業の行 動原理をより深く理解するための研究課題を述 べる。

1. 小括

 1 章では,まず同族企業特有の企業行動の目 的やその特徴を述べていくため,「社会情緒資 産理論」に焦点を当てた。同族企業は,財務的 な効用に焦点を当てて企業行動を行う非同族企 業とは異なり,非財務的な効用に重きを置きつ つ企業行動を行う。この企業行動に対する目的 の違いから,両者の行動にも差異が生じるとし, 社会情緒資産理論で論じられている非財務的効 用が同族企業特有の企業行動に起因していると 考えた。

 2章では「エージェンシー理論」,「スチュワー

ドシップ理論」,「企業行動理論」,「ステークホ ルダー理論」,「資源ベース理論」という5つの 理論から同族企業を概観した。エージェンシー の利己主義的行動とこの行動を制御すること に焦点を当てているエージェンシー理論におい て,利己主義的行動が発生しづらい同族企業は 優れた組織構造であると考えられる。オーナー シップとマネジメントが統一されている点やプ リンシパルとエージェント間の情報の非対称性 が低い点などから,非同族企業が負担するエー ジェンシーコストよりも同族企業の負担するこ のコストは低くなるのである。しかし,後継に つれて組織が複雑性を増すと,非同族企業と同 様の問題も発生する可能性がある。エージェン シー理論では,同族企業が優れた組織構造を持 つと主張できるが,同族企業特有の企業行動を 説明するのには十分ではなかった。組織主義 的,協力的行動を採用するスチュワードに焦点

を当てているスチュワードシップ理論は,同族 企業の家族主義的,利他主義的行動を説明する 上で非常に適した経済モデルであった。同族企 業における家族メンバーの行動は,同理論で主 張されているようなスチュワードと近似してい る。スチュワードシップ理論と同様に,同族企 業の企業行動を説明する上で適したモデルであ ると主張されているのがステークホルダー理論 であった。組織の目的遂行に影響し,影響を受 けるようなグループまたは個人,組織の存続及 び成功にとって極めて重要なグループの利益を 重視するステークホルダー理論では,同族企業 が株主ではなく,家族メンバーを重視する傾向 にあるという特有の企業行動について説明でき た。しかしながら,このステークホルダーが企 業内で増加してしまうとさまざまなコンフリク トが発生することもある。企業内での意思決定 がどのように行われているのか概観する企業行 動理論では,同族企業がオーナーシップの情緒 的価値を追求することに対して意欲的で,家族 の社会情緒的価値の創造と保存を追求し,家族 メンバーに対して利他的に行動すると主張され ていた。このような同族企業における家族主義 的な行動目標の採用は,家族メンバーが公式, 非公式に企業行動に影響を与えているためであ るとする先行研究も存在した。最後に,資源ベー ス理論から同族企業を概観した。資源ベース理 論からは,同族企業が持つ唯一性の高い社会資 本や人的資本が企業の競争優位性を生み出すこ とを説明できた。

 

2. 研究課題

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本稿では,同族企業独特の特徴や企業行動に焦 点を当てることで,今後のマーケティング研究 への新しい視点を提供できると考える。また, より現実的な実務的示唆を提供できる調査を行 うこともできるだろう。これまでのマーケティ ング研究では,企業の財務的な利益に焦点が当 てられることが多く,社会情緒資産理論で主張 されているような,非財務的な効用を重視する 同族企業からの視点はあまり取り入れられてこ なかった。また,同族企業は,非同族企業と比 較して優れた人的資本や社会資本を持つが,そ の有効性や活用に関する研究はあまり行われて いないようである。このような同族企業特有の 行動原理やその特徴に即した研究を行うこと で,よりリアリティのある調査を実行し,有効 な実務的示唆を得られると考えられる。  本稿では同族企業の特徴や特有の企業行動に 対する理解を深めるために5つの経済モデルか ら同族企業を概観してきた。ここから,同族 企業研究における将来的な研究への課題も浮 かび上がった。同族企業は,非同族企業との さまざまな差異を持ち,その特徴に多くの優 位性を持つため,それに関する研究は数多く行 われている。しかしながら,企業の持つ同族性 が業績にどのような影響を与えるのかついては 既存研究では決着がついておらず,研究の進展 は芳しいものとは言えない。この既存研究の不 一致が同族企業と非同族企業に対する定義の差 異から生まれるいう主張もある(De Massis et al. 2012; DeMassis, Frattini, and Lichtenthaler 2013)。De Massis et al.(2014)は,同族企業 に関する調査や企業への家族介入が与える影響 について調査する上で,家族メンバーの裁量権 の有無と家族主義的行動を採用しようとする意

思の有無の両方が考慮されていないがゆえに, 既存研究における矛盾が発生していると述べて いる。つまり,重要なのは裁量権を持つ家族メ ンバーの家族主義的行動を採用しようとする意 思であり,それを考慮していないために家族介 入が企業に与える影響についての主張が矛盾し てしまっているのだ。同族企業に関する将来的 な研究課題として,その行動を調査する上での 定義の一般化,共有が必要となると考えられ る。De Massis et al. (2012)やDeMassis et al. (2013)で主張されているように,企業内で裁

量権を持つメンバーのある企業行動に対する採 用の意思について考慮することで,非財務的な 効用を追求し行動する同族企業へのより深い理 解を提供できるのではないだろうか。

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参照

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