博 士( 地球 環 境科 学) 岩本勉 之
学 位 論 文 題 名
高層気象観測による冬季オホーツク海の 乱流フラックスに関する研究
学位論文内容の要旨
海氷 に は 大気 海 洋 間 の熱 交 換 を遮 断 す る働 き が あり 、 高 緯度 域 の気候 システム に影響 を 与 えて い る 。中 で も 季 節海 氷 域 では 海 氷 分布 の 季 節変 動 や 年々 変動 が大きい ため、海 氷 に よる 熱 の 遮断 効 果 が 海面 で の 乱流 フ ラ ック ス の 変動 を 通 して 大気 循環場の 変動をも た ら す。 こ のた め、季節 海氷域に おける 乱流フラ ックス を見積も り、海 氷変動と の関係を 知 る こと は 重 要で あ る 。 海氷 が 乱 流フ ラ ッ クス に 与 える 影 響 につ いて は、北極 海などの 多 年 海氷 域 で は観 測 に 基 づく 議 論 が多 く な され て い るが 、 オ ホー ツク 海を始め とした季 節 海 氷域 で は長 期間にわ たって広 い範囲 をカバー する観 測はほと んど行 なわれて いない。
こ れ は主 に 季 節海 氷 域 で の観 測 が 困難 で あ るこ と に 起因 す る が、 高層 気象観測 によって 大 気 境界 層 の 状態 を 調 べ るこ と に より 、 比 較的 容 易 に乱 流 フ ラッ クス を見積も ることが で き る。 そ こで 本研究で は、高層 気象観 測データ を用い て冬季オ ホーツ ク海の乱 流フラッ ク ス を 見 積 り 、 海 氷 に よ る 熱 の 遮 断 効 果 に つ い て 議 論 を 行 な う こ と を 目 的 と す る 。 オホ ー ツ ク海 南 西 部 に観 測 地 点を 設 置し、1998年から2000年まで の3年 間、高層 気象観 測を行なった。観測地点はユジノサハリンスク(46.9°N,142.7°E)、北海道斜里町(43.9°N, 144.6°E)お よ び 海上 保 安 庁巡 視 船 「そ う や 」の3地 点で あ り 、北 西季 節風の卓 越時に は ユ ジ ノサ ハ リン スクはオ ホーツク 海に対 して上流 、斜里 町は下流 、「そ うや」は その中間 に 位 置す る 。 観測 期 間 は 各年 と も1月 か ら2月 で 、 この 時 期 はオ ホ ーツク 海南西部 では海 氷 拡 大期 に あ たる た め 、 様々 な 海 氷密 接 度 の状 況 下 での 大 気 の鉛 直構 造を取得 すること が で きた 。 流 跡線 解 析 に より 風 が 上流 か ら 下流 に 向 かっ て 吹 いて いる 事例を選 び、それ ぞ れ の地 点 の 湿潤 静 的 エ ネル ギ ー の鉛 直 プ 口フ ァ イ ルを 比 較 する こと によって 海面での 乱 流 フラ ッ クス を見積も った。得 られた 乱流フラ ックス は30 W/r77.2から300W/TT7,2であ り 、 各事 例 にお けるオホ ーツク海 南西部 の平均海 氷密接 度と弱い 負の相 関(r〓ー0.49)、 寒気 の強さ (各事例 におけ る上流地 点の気温 )と強い負の相関(r〓―0.64)があった。重回 帰分析により乱流フラックスを開水部から出る成分(R,ateア)と海氷上から出る部分(Fi。。)
に 分 け たと こ ろ 両者 の 比 は約11:1と な り 、海 氷 が 熱を 著 し く遮 断 し てい る こ とが 確 認 された。
次に 、1978年 か ら1990年 ま で のオ ホ ー ツク 海 周 辺の 高 層 気象 観 測デー タを使っ て熱収 支 解 析を 行 な った 。 大 気 境界 層 で は海 洋 か らの 乱 流 フラ ッ ク スに 伴う 非断熱加 熱と寒気 移 流 とが 主 にパ ランスし ており、 海氷域 の拡大と ともに 両者の絶 対値は 弱まって いる。季 節 風 が数 日 間 以上 持 続 す る事 例 を 選び 、 非 断熱 加 熱 率を 地 上 から 鉛直 方向に積 分するこ
とによって乱流フラックスを見積もったところ、20 W/r77,2から200 W/r77,2の値を得た。乱 流フラックスと海氷密接度、寒気の強さはともに強レゝ負の相関関係にある。南西部の解 析と同様に重BJJ帰分析によってFwateアとら。。に分けたところ、両者の比は約6:1となっ た。南西部の結果と比較して海氷部分の寄与は大きいが、やはり多くの熱が開水部から 出ており、海氷による熱の遮断効果が大きいことがわかった。
オホーツク海全域で得られた乱流フラックスとヨー□ッパ中期予報センター(European C(Jntre for Me(1ium−Range Wether Forecasts; ECMWF)の再解析デー夕(ECMWF Re‑
Analysis; ERA)の乱流フラックスとの比較を行なった。ERAの乱流フラックスは、顕熱 フラックスと潜熱フラックスの和を高層気象観測地点を頂点とする多角形で囲まれる領 域 で平均し たものを 用いた。 比較の結 果、海氷密 接度が小さい時にはERAでは乱流フ ラックスを過大評価する傾向があることがわかった。また、海氷密接度が大きい時には観 測 値とERAは比較的 良い一致 を示した 。以上のこ とは、ERAの 乱流フラ ックスは 海洋 上 で過大評価、海氷域では過小評価になっていることを意味する。ERAでは海氷密接度 55%を閾値としてそれ以上の領域を密接度lOOVo、以下の場所を密接度0%(海氷なし)と して乱流フラックスを求めているため、海氷の取り扱いに問題があることが考えられる。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 若土正曉 副査 教授 江淵直人 副査 教授 山崎孝治 副査 助教授 大島慶一郎
副査 竹内謙介(地球観測フ口ンテイア領域長)
学 位 論 文 題 名
高層気象観測による冬季オホーツク海の 乱流フラックスに関する研究
海氷には、大気海洋間の熱交換を著しく抑制 するとぃう効果がある。特に、オホーツ ク海などの季節海氷域では、海氷分布の季節変 動や年々変動が大きいため、この効果が 海面 での 乱流 フラ ック スの 変動 を通 し て大 気循環場の変動に影響をも たらすと考えら れている。従って、季節海氷域における乱流フ ラックスを評価し、海氷変動との関係を 知ることは重要である。しかし、大きな時空間 スケールにおける乱流フラックスについ ては、これまでに観測による評価は行われてい ない。
本研究の主な目的は以下の通りである。
(1) オホ ーツ ク海 南西 部に おけ る高 層気 象観 測を 実施 し、 得 られ た観測データ を用いて氷縁域における乱流フラックスを 見積もる。
(2) オホ ーツ ク海 周辺 の高 層気 象観 測デ ータ を用 いた 解析 か ら、 冬季オホーツ ク 海 全 域 の 乱 流 フ ラ ッ ク ス を 見 積 も り 、 海 氷 に よ る 熱 の 遮 断 効 果 に つ い て 議論する。
(3) (2) で求 めた 乱流 フラ ッ クス を用いて、客観解析データ の乱流フラック スの評価を行なう。
そ こ で 、1998年 か ら2000年 ま で の3年 間 に わ た っ て 、 オ ホ ー ツ ク 海 南 西 部 三ケ所に観測地点を設置し、高層気象観測を 実施した。観測地点は、ユジノサハリン ス ク (46.9゜N、14 2.7°E)、 北 海 道 斜 里 町 (43. 90N、144.60E)お よ び 海 上保 安庁 砕氷 パトロール船「そうや」 の3地点である。北西季節風 の卓越時には、
ユジノサハリンスクはオホーツク海に対して 上流側、斜里町は下流側で、「そうや」
は その 中間 に位 置す る。 観測 期間 は 各年 とも1月から2月で、オホー ツク海南西部で の 海氷 拡大 期に 相当 する 。観 測デ ー タの 中から北西の季節風が卓越 する事例を23例
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選び、2地点 の湿潤静 的エネ ルギーの 鉛直プロ ファイ ルを比較 するこ とによって海面 で の 乱 流 フ ラ ッ クス を 見 積も っ た 。得 ら れ た乱 流 フ ラ ック ス は 、30 W/m2から30 0 W/rr12であり 、事例に おける オホーツ ク海南西部の平均海氷密接度と弱い負の相関
(相関係数ー0.48)、寒気の強さ(各事例における上流地点の気温)と強い負の相関(相 関係 数 ―0.65)を 示 し た 。重 回 帰 分析 に よ り乱 流 フ ラッ ク ス を開 水部 から出る 成 分(Fwater)と海 氷上から出る部分(Fice)に分けると、両者の比は9:1(低温時)からl 1:1( 高 温 時 ) と な り 、 海 氷 が 熱 を 著 し く 遮 断 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 次 に 、1978年 か ら1990年 ま で の オ ホ ー ツ ク 海 周 辺 の 高 層 気 象 観 測 デ ー タ を 使って熱 収支解 析を行な った。 大気境界 層では海洋からの乱流フラックスに伴う非断 熱加熱と 寒気移 流とが主 にバラ ンスして おり、海氷域の拡大とともに両者の絶対値は 弱ま っ て いる 。季節 風が数日 間以上 持続する 事例を46例選ぴ、 非断熟加 熱率と 水蒸 気減 少 率 の和 を地上 から鉛直 方向に 積分する ことによ って乱 流フラッ クスを 見積も った 。 得 られ た 乱 流フ ラ ッ ク スは 、20 W/m2か ら200W/rri2で あ り 、海氷密 接度、
寒 気 の 強 さ と は そ れ ぞ れ 相 関 係 数‑0.62、‑0.68と 高 い 負 の 相 関 を 示 し た 。 南西部の 解析と 同様に重 回帰分 析によっ てFwate,とFiceに分 けたと ころ、両者の比 は温 度 に よら ず約6:1となった 。南西 部の結果 と比較 して海氷 部分の寄 与は大 きぃ ものの、 多くの 熱が開水 部から 出ており 、海氷による熱の遮断効果が大きぃことがわ かった。
最後に 、オホー ツク海全 域で得 られた乱 流フラックスとョーロッバ中期予報センタ ー(European Centre for Medium‑Range Weather Forecasts; ECMWF)の 再解 析 デ ー夕(ECMWF Re‑Analysis; ERA)に 含 ま れる 乱 流 フラ ッ ク ス との 比 較を行な った。
ERAの 乱流 フ ラ ック ス は 、 顕熱 フ ラ ック スと潜 熱フラ ックスを 加えたも のを高 層気 象観測地点を頂点とする多角形で囲まれる領域で平均した・ものを用いた。海氷密接度 が大 き い 時に は 両 者は 比 較 的 良い 一 致 を示すも のの、 低密接度 のときはERAで は過 大評価す る傾向 のあるこ とがわ かった。 このことは、客観解析データが海洋上の乱流 フラック スを過 大評価し ている ことと、 海氷域での乱流フラックスを過小評価してい る こ と の2っ が 合 わ さ っ て い る こ と を 意 味す る 。 特 に、ERAで は 海 氷密 接 度55% を閾 値 と して そ れ 以上 の 領 域 を密 接 度100% 以下 の 場 所を 密 接 度0%( 海氷なし ) として乱 流フラ ックスを 求めて おり、こ のような海氷の取り扱いが見積もり誤差の主 たる原因であると考えられる。
以上の 結果は、 申請者が 研究者 として研 究活動を行うために必要な高度な研究能カ と学カを 有して いること を示し ている。 よって審査員一同は申請者が博士(地球環境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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