秋田県割山海岸林の防災機能(Ⅰ)
──冬季の気象環境および防風機能── 鈴 木 覚 萩 野 裕 章 目 次 Ⅰ. はじめに Ⅱ. 観測地概況 Ⅲ. 方法 1. 気象観測 2. 防風機能 Ⅳ. 結果 1. 林帯汀線側で観測した冬季の気象環境 2. 林帯の防風機能 Ⅴ. 考察 1. 冬季に林帯へ吹き付ける風の性質 2. 林帯の減風範囲の大きさ 3. 林帯幅と減風範囲 要旨 林帯の防風機能に関して,林帯幅の広い林帯あるいは海岸防災林における観 測事例は多くない。そこで,防風機能の発揮が期待される冬季における気象環 境および防風機能を秋田県の割山海岸林において観測した。観測地の冬季の気 象環境は林帯と直交する海風が卓越し,風速の鉛直分布,乱流強度ともに海岸 域で観測される典型的な値であった。しかし,風向による不均一性がみられ, 林帯に直交する風よりも北よりの風は乱れが大きい傾向があり,風向ごとの地 表面状態の違いを反映していると考えられた。減風範囲は林帯幅が広い内陸防 ⎧ ⎜ ⎩ 鈴木:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 ⎫ ⎜ ⎭ 萩野:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所東北支所風林と比較して,樹種や林帯幅に関わらず,ほぼ同じ値を示した。また,防風 機能を良く表現しうるとの報告がある,林帯幅と幹枝葉の面積密度との積を指 標に防風機能を検討したところ,内陸防風林の観測事例で作られた回帰式とよ く一致した。 キーワード:海岸防災林,防風,減風範囲,クロマツ,林帯幅 Ⅰ. はじめに クロマツ海岸林の大部分は人工林であり,多くは江戸時代以降に造成された 林である。明治期に荒廃し,海岸林が再度造成されるまでは,地域によっては 「家の中で傘を差しての食事,日々砂掘りをする生活」1)であり,農耕地や貯 水池の飛砂による埋没,河口がせき止められることによる氾濫など,災害が頻 発する厳しい生活環境であった2)。明治期以降に海岸林造成技術の体系化が進 み3), 4),第二次大戦後急速にクロマツ海岸林の造成が進んだ。このように,内 陸側を生活空間として確保するため先人が造成してきたのがクロマツ海岸林で あり,歴史的に海岸林に期待されてきた防災機能は飛砂防備,防潮,防風であ る5)。東日本大震災に伴う巨大津波の被災地では津波減災を目的に海岸林の造 成が進められるようになった6)。しかし,内陸側の生活環境を形成してきた海 岸林の歴史を振り返れば,津波だけでなく,他の諸機能を含めて総合的に防災 機能が発揮されなければならない。とりわけ,海岸林は海からの強風を遮って 風の物理的なエネルギーを減衰させるとともに,風送による海塩粒子や砂の運 搬量も減衰させるものであり,防風機能は海岸林の防災機能の要といえる。 林帯の防風機能に関して,内陸防風林と呼ばれる主に列状に造成された数列 の林を対象にした研究は古くからなされ,大正期や昭和初期に本多7)は「森林 間接の効用」として防風林が機能する範囲を樹高の 8 ~20倍と紹介しており, 防風林の風洞実験も行われている8)。このような林帯幅が狭い防風林につい て,防風機能によく対応する因子として密閉度が定義されている。密閉度は多 くの場合は林帯の写真を画像処理して optical porosity として測定され9),密 閉度と防風機能との関係が検討されてきた10)11)。その結果,防風効果を最大に する最適な密閉度があり,それより高くても低くても防風効果が落ちるとする 報告が多い。最適密閉度はおおむね60%~70%であると広く認識されてき
170事例以上収集して解析し,1 列の場合以外,密閉度と防風機能との間に最適 値はないとの報告が出された18)。このことが,林帯ごとに異なる最適密閉度が あって多数のデータを重ねたために全体を代表する最適密度が検出できなかっ た結果なのか,事例ごとの測定条件や解析手法の違いによるばらつきに埋もれ た結果なのか,あるいは最適密閉度は存在しないのか,現時点では判断できな い。最適密度があるという,常識とも言えることは容易に覆るものではない が,再検証が必要かもしれない。このような論点はあるものの,密閉度が防風 機能の評価に有効であることは共通理解がえられている。したがって,林帯幅 が狭い場合については,防風機能の評価方法が確立されており,防風機能の大 きさに関しても解明が進んでいる状況といえる。 一方,林帯幅が広い場合,optical porosity は必然的に密閉度100%にならざ るをえず,指標になりえない。そのため遮風度19)あるいは permiability20)とし て,単木や樹列あたりの風の通り易さ(本稿では以降,通風性と表記する)を 定義してそれを林帯幅で積分したり,樹冠部の幹枝葉の面積密度を林帯幅で積 分することによって21)22),林帯幅の効果を表現しようとするものがみられる が,広く了解された防風機能を表す因子は見出されていない。また,飯塚19)は 林帯の遮風度が 1(風下方向への通風が計算上 0 )になる林帯幅を防風機能が 最大になる幅として,クロマツ林では林帯幅160m~260m であるとした。
Wang and Takle20)は葉面積密度に抗力係数を乗算したものを林帯に分布させ
て,数値シミュレーションを行った。それによれば,林帯が数列の時に最大の 防風効果を示し,それ以上に林帯幅があっても防風機能が低減すると結論し た。また,風洞実験でも,ある幅よりも林帯幅が大きくなると防風機能が落ち るとした報告がある16)23)。このように,林帯幅が広い場合も防風機能を最大化 する林帯幅があるという点では複数の研究事例で一致しているが,最適林帯幅 の広さは十分にわかっていない。このように,幅の広い林帯の防風機能につい ては,最適林帯幅とそれを規定する因子,および防風機能の解明は不十分であ る。 本研究では,野外観測で海岸林における気象環境と防風機能の実態を定量的 に明らかにすること,ならびに林帯幅が防風機能に及ぼす影響を検討すること を目的とする。
Ⅱ. 観測地概況 調査対象地は秋田県秋田市新屋町下川原地区の割山海岸林であった。割山海 岸林は1961年から1981年まで旧秋田空港として使われていた敷地にあり,雄物 川河口の右岸に位置する。海岸線に沿って長さ420m,幅80m~100m の矩形に 海岸林が造成された。海岸線はほぼ南北方向であり,それに対して海岸林の造 成地はおよそ 8 °(N8W-S8E)の傾きがある(図 1 )。 護岸工は設置されておらず,前浜は50m~100m の幅をもち,そのうち林縁 近くの15m から20m は砂草が覆っていた。本研究で設けた測線上は,林帯幅 が78m であった。観測を2014年12月から2015年 2 月にかけて行った。海岸林 は15年生クロマツが主体であり,一部の林帯海側にカシワが混植されていた。 汀線側林縁部には高さ2m の防風柵があり,林縁の樹高は防風柵とほぼ同じで あった。林縁から内陸に向かって樹高が漸増し,海側林縁から30m の位置で 樹高が約6m に達したあとは,上層樹高に顕著な増減は見られず,内陸側林縁 の樹高は6. 6m であった。海側林縁から約40m に測線と直交する方向に幅4m の作業道が設けられていた。気象観測機器を設置したライン上で幅4m,長さ 80mのベルトトランセクト調査を行った(図 1 )。林帯の内陸側林縁に隣接し て,かつての滑走路が残されており,その部分には樹木を含め障害物はほとん どなかった。また,内陸側林縁から200m~280m 離れたところに国道があり, そこまでの地形はほぼ平坦であった。
Ⅲ. 方法 1. 気象観測
林帯を挟むように,林帯海側と内陸側で風速を測定した。林帯の海側の防風 柵から汀線方向へ13m 離れたところに12m および6m の高さのポールを設置し
(図2a),3 高度で風速を測定した(表 1 )。表 1 における A1は風車型風向風速
計(5103, R. M. Young company)を12m のポールに取り付け,A2および A3
は三杯型風速計(3002, R. M. Young company)を6m のポールに取り付けた。 12mのポールと6m のポールは3m 離して設置した。内陸側には林帯と直交す るように設定した測線上の 5 か所(B, C, D, E, F)において3m の高度で風速 図 1 観測地における測点の位置および解析した方位 汀線側測定点 A において風向が直交±60°の場合(実線)を冬季風況の解析に使用し, 直交−20°~直交+40°の場合(点線)を減風範囲の解析に使用した。直交−20°~直交 +40°の風は流線に変化がないと仮定したとき,地点 F において,林帯の不連続点など の影響を受けない風の範囲(破線)と考えられる(Google earth〈2016. 5. 22撮影〉に加 筆)
0
⋥ ⋥ ⋥ ⋥ ⋥ ⋥(3002, R. M. Young company)を測定した(図2b)。風速のサンプリング間隔 は 5 秒で,10分間の平均をデータロガー(CR10X または CR3000, Campbell scientific inc.)に記録した。なお,いずれの風速計も(国研)森林機構 森林 総合研究所の風洞装置で校正した。 林帯の長辺と直交する方位は262°であった。本研究では方位262± 5 °の風を 林帯と直交して海から吹く風とし,直交から方位のプラス(北)側,マイナス (南)側に10°幅刻みで 6 階級設け(図 1 ),それぞれ「直交±γ°」(γは直交 からのずれ角)と表記する。また,減風範囲の計算においては,林帯外あるい は不連続な林帯の影響を除くため,直交-20°から直交+40°までの風を解析対 象とした(図 1 )。なお,この解析条件は,林帯に吹く風が流線を変えること なく,林帯を通過して内陸側へ抜けていくと仮定し,最内陸である地点 F に おいて,林帯外あるいは林帯の不連続点を通過した風を排除することを目的と して与えた条件である。 一般に,海岸近くで海風を観測すると,風はなだらかな海水面上を通過して くるため水平風速の鉛直勾配は小さく,上陸すると地表面の凹凸に影響されて 鉛直勾配が大きくなる。水平風速の鉛直分布は次式のべき乗で表されることが 知られている。 Uz Ux= zx ( 1 ) ここで,Uz,Uxはある高度 z および x の平均風速, がべき指数である。 Uz,z ならびに Ux,x を,それぞれセンサー A1および A3の観測値で計算した。 また,大気の混合の強さを表す指標として,次式で示される乱流強度(I) 測定点 測定位置(m) 測定高(m) 測定項目 A A1 -13 ( -2H) 12. 3 風向・風速 A2 -13 ( -2H) 6. 2 風速 A3 -13 ( -2H) 3. 0 風速 B 82( 0. 6H) 3. 0 風速 C 88( 1. 6H) 3. 0 風速 D 100( 3. 4H) 3. 0 風速 E 118( 5. 2H) 3. 0 風速 F 172(14. 1H) 3. 0 風速 表 1 気象測器の配置 林帯汀線側林縁を 0 とする
を計算した。 I= U U ( 2 ) ここで, uは風速の標準偏差,Uは平均風速である。本稿では,5 秒ごとに サンプリングした風速の10分間における平均値と標準偏差を用いて計算した。 また,乱流強度は風速依存性があるため,A1における風速が10m/ s 以上のデ ータで計算した。 図 2 観測の様子 a:汀線側における12m および6m ポールを使った測定 b:内陸側における3m 高さにおける風速測定
2. 防風機能
本研究では表 1 のように観測機材を配置した。防風林の防風効果は風速最低
値(Umin)の 風 上 側 基 準 風 速(U0)に 対 す る 比,風 速 最 低 値 の 発 生 位 置
(xmin)の樹高(H)に対する比,基準風速の一定割合( , 0 < ≦ 1 )に達す る林帯からの距離(減風範囲)で定量化される。本研究において,減風範囲は 地点 C から地点 F までの測定値について( 3 )式で計算した。 dx=exp U0−b a ( 3 ) ここに,dxは減風範囲の幅,a は回帰係数,b は切片である。U0は基準風速 であり,A3の測定値を使用した。既存の報告では基準風速に対する回復した 風 速 の 割 合 を 示 す に 様々 な 値 が 使 わ れ て い る こ と か ら,本 研 究 で は 0. 2, 0. 7, 0. 9の 3 通りを計算し,その時の減風範囲を d20,d70,d90と表記する。 また,林帯幅が減風範囲に及ぼす影響を検討するため,樹冠部における幹, 枝,葉の表面積合計を計算した。ここで,幹・枝・葉の表面積は,茨城県村松 海岸林におけるクロマツ樹形の測定値24)を用いて作成した幹表面積と d2h(d: 胸高直径,h: 樹高)との関係式,および単木あたりの枝の表面積の平均値, ならびに(国研)森林機構 森林総合研究所で採取した葉の葉面積を用いて推 定した。ただし,いずれの面積も片面の面積とした。また,林帯幅を26に分割 し,それぞれで平均樹高と平均生枝下高で挟まれた空間の体積を計算して合計 し,その空間に含まれる幹・枝・葉の表面積を,「枝葉部の空間体積あたりの 表面積」とし,佐藤21)の表記に倣って PADcとした(表 2 )。
Ⅳ. 結果 1. 林帯汀線側で観測した冬季の気象環境 風向ごとの発生頻度は,W と WSW が卓越しており,両者の合計で全体の 43%であった(図3a)。また,風向ごとの平均風速をみると,W,WSW, SW, SSEが10m/ s を超えていた(図3b)。なお,SSE の平均風速が大きいのは,発 生頻度が極めて少ないにもかかわらず,イベント的な強風が発生したためであ る。(図3b)。 直交して吹き付ける風のべき指数 の平均値は0. 12(サンプル数:n= 1800,標準誤差:SE=0. 00049)であった。また,直交−20°付近が の最低 値であり,それよりもプラス側で値が大きい傾向がみられ,特に直交+30°よ りプラス側では が急増していた(図4a)。林帯に,直交する風の乱流強度の 樹種・林帯幅 樹高(m) 減風範囲(H) xmin/ H Umin/ U0 備考・文献 クロマツ・80m 6. 6 d20:2 d70:11 d90:26 1. 5 0. 17 本研究 カラマツ・72m 12 d20:2 d70:8-9 d90:13-18 no data no data 文献43 カラマツ・39m 12 d20:2-4 d70:7-11 d90:10-20 no data no data 文献43 カシワ・110m 6 d20:1 d70:4 d90:7 no data no data 開葉前 文献43 混交・40m 18 d90:8 3 0. 56 porosity:medium 文献14 マツ・90m 14 d90:7 2 0. 46 porosity:low 文献14 メタセコイア・50m 20 d70:6-11 no data 0. 19-0. 35 文献44 ストローブマツ・50m 11 d70:10 2. 7 0. 21 文献22 カラマツの減風範囲は小野寺ら(1955)の風速データをもとに計算した
図 3 冬季における風向ごとの発生頻度の比率(a)および平
平均値は A1,A2,A3それぞれ0. 11, 0. 11, 0. 12であり,いずれの高度において も,方位がプラスへいくほど乱流強度が大きくなる傾向がみられた(図4b)。 また,直交+50°以外は A3の測定値が A1,A2より大きく,特に直交+30°以上 では A3の乱流強度が急激に大きくなっていた。 図 4 林帯汀線側で観測された風向ごとのべき指数(a)および乱流強度 (b) A1(〇),A2(◇),A3(△)の測定値。誤差線は標準誤差
2. 林帯の防風機能 林帯に直交する風向における林帯内陸側の平均風速の分布は,林縁近くの測 点である B および C 地点がほぼ同じ値であり,B 地点で1. 7m/ s(n=928, SE=0. 015),C 地点で最小値を示し1. 5m/ s(n=928, SE=0. 018)であった。 図 5 林帯周辺および林帯の横断面における平均風速(a)および乱流 強度(b)の分布 網掛け部分が林帯の範囲である。誤差線は標準誤差
C地点より内陸側は林帯から離れるにしたがって風速が急回復していた(図
5a)。また,xmin/ H=1. 5,Umin/ U0=0. 16であった。乱流強度(I)は B 地点で
林帯内陸側での最低値0. 19となり,隣の側点である C 地点で最大値0. 42を記 録したあと内陸側に向かって再び低下していた(図5b)。 林帯に直交する風の減風範囲は,d20の場合風速の増加にしたがってわずか に減少し,d70は風速4m/ s 未満で小さく,それ以上の風速でほぼ一定,d90は風 速4m/ s 未満で小さく10m/ s 以上で若干大きい値となった。d70と d90の減風範囲 が4m/ s 以下で小さかったことから,4m/ s 以上のデータについて計算すると, d20,d70,d90それぞれの平均値は2H,11H,26H であった(図 6 )。また,風 向が直交から方位のプラス側にずれるほど減風範囲は小さくなる傾向がみられ た(図 7 )。林帯風上側の乱流強度と減風範囲との間には相関はみられなかっ た(図 8 )。 図 6 林帯汀線側で観測した風速ごとの減風範囲 アルファベットは観測地点名。誤差線は標準誤差
図 7 林帯汀線側で観測した風向ごとの減風範囲
誤差線は標準誤差
図 8 林帯汀線側で観測した風の乱流強度と減風範囲
Ⅴ. 考察 1. 冬季に林帯へ吹き付ける風の性質 冬季の風は W および WSW の風の頻度が高く,かつ風速が大きかった。こ の風向は林帯とほぼ直交するものであり,測定対象林分は冬季の気象条件を反 映した効果的な林帯配置がなされていると考えられた。 林帯と直交する風の は通常海岸付近で観測される範囲(概ね0. 1-0. 2)内 であり,典型的な海岸付近の風況であった25)。とはいえ,風向によって不均一 であり,直交+30°を境にプラス側でべき指数が大きくなる傾向がみられた。 このことは,直交+30°よりもプラス側で A1と A3の風速差が大きいことを意 味している。海上を吹く風は風向によって大きく変わらないと考えられること から,風が上陸した後,流線上の地表面粗度の違いが反映したものであり,直 交+30°を境にプラス側の地表面粗度が大きく,A3の風速の減衰量が相対的に 大きかったためと考えられた。
国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission〈IEC〉)は 沿岸部海面上の乱流強度をモデル化しており,それによると風速10m/ s 以上 のときの乱流強度は0. 14-0. 21程度である26)。したがって,汀線付近において 海から吹く風はほぼ海面上の風と同等以上の乱れの少ない風であることがわか る。しかし,風向ごとにみてみると全体的に方位のプラス側で乱流強度が大き い傾向がみられた。 以上のことから,調査地は典型的な海岸の風況であったが,風向によって風 の性質に違いがみられ,直交よりプラス側から吹いてくる風は地表面近くの風 速が小さめ,かつ乱れの大きい風であり,逆に直交よりマイナス側は乱れが小 さい風であったことがわかる。汀線に対して林帯が 8 °傾いていることから, 直交のプラス側は前浜が狭く,マイナス側は広い。また,砂浜の起伏や砂草帯 の面積も方位によって異なる。こうした地表面状態の違いを反映したものと考 えられる。 2. 林帯の減風範囲の大きさ B地点と C 地点の平均風速はほぼ等しく,基準風速の 2 割程度の大きさで
あった。しかし,B 地点の乱流強度が C,D,E 地点よりも小さかったのに対 して,C 地点は最大の乱流強度を示した。このことは,B 地点と C 地点は6m しか離れていないが,風の性質が全く異なることを意味している。 ここで,防風設備周辺で生じる特徴的な気流状態を概観すると,設備風下に 生じる Quiet zone と,乱流による運動量輸送が活発で,設備から遠ざかるほ ど風上側の気流状態に近づく Wake zone の 2 分類で定義したもの27)。あるい
は,防風設備上空の風を Displaced profile,設備の通過風である Bleed flow,
Bleed flowの風下側に Quiet zone が形成され,Quiet zone と Displaced
pro-fileに挟まれた領域にそれらの風が混合する Mixing zone が生じ,その風下側
に Re-equilibration zone が形成されるとする 6 分類28)がみられる(図 9 )。こ のような特徴的な領域分布は乱流による運動エネルギーの輸送によって生 じ29)30)31),Quit zone には特に密閉率が高い場合に地表→上方→林帯に向かう 方向→下方という回転性の気流が生じることがわかっている32), 33)。本研究に おける B 地点と C 地点はともに平均風速が小さかったことから,2 分類による Quiet zoneにあり,B 地点は乱れの少ない風であったことから 6 分類におけ る Bleed flow,乱れの大きい風であった C 地点は回転性の気流が生じるよう な領域であったと推察される。D 地点より内陸側は林帯から離れるほど風速 が回復しており,6 分類における Re-equilibration zone あるいは 2 分類におけ る Wake zone であったと考えられる。 風向ごとの減風範囲は直交プラス側で小さく,直交マイナス側で大きい傾向 がみられた。なお,図に示していないが,風の流線方向に投影した減風範囲で あっても傾向は変わらなかった。このような減風範囲に方向性が生じた原因に 図 9 防風設備周辺の気流の概念図28)
イナス側で小さかった(図4b)。Judd ら は風上側の粗度が大きいと乱流が 発達して風下の乱流輸送を強めるため,防風機能を低下させる可能性があるこ とを指摘しており,本研究において乱流強度の大きい風向ほど減風範囲が小さ かったことと一致した。しかし,風向が直交のときのデータで乱流強度と減風 範囲との関係を検討すると両者に相関がみられなかったことから(図 8 ),林 帯に吹き付ける風の乱流強度が風下の減風範囲の大きさに影響したものではな いと判断される。Judd ら28)は数列の防風林で解析したものであったのに対し て,本研究の調査地は林帯幅が広いため,乱流の発達には林帯そのものが粗度 要素として大きく影響し,林帯風上側の風の乱れが風下側まで影響しなかった と考えられる。したがって,風が角度をもって林帯に吹き付けた場合の影響16) など,他の要因が考えられるが,減風範囲に方向性が生じた原因は特定できな かった。 3. 林帯幅と減風範囲 減風範囲について林帯幅のある防風林における既存の測定例と比較してみる (表 2 )。林帯幅72m および伐採後の林帯幅39m のカラマツ防風林の減風範囲 は伐採前後でほとんど変わらず,いずれも d20や d70は本研究に近い値であっ た。また,林帯幅50m のストローブマツ防風林やメタセコイア防風林の d70も 本研究の値に近い値であった。一方,カシワ,混交,マツはいずれも d90が7H ないし8H であり,本研究の値よりもかなり小さかった。カシワは葉が枯れて もそのまま枝に残存する性質があるものの,開葉前であったため風に対する抵 抗としての林帯の働きが小さく,防風効果が小さかったと推察される。また, 混交とマツについてʠporosityʡが medium ならびに low と表現されている が,通風性に準じた数値化がなされているため,他の測定事例と横並びの検討 ができない。しかし,密閉度が小さいほど Umin/ U0は大きいことが知られお り34)35)36)37)38),混交とマツの大きな Umin/ U0からは,通風性がよい林帯条件で あったことが推察される。定性的な表現にならざるをえないが,以上のことか らは,林帯の通風性がことさら良い状況でなければ,特に d70のよい一致にみ られるように,減風範囲は樹種,樹高,林帯幅と関係ないようにもみえる。 しかし,林帯幅が広い場合,林帯幅と幹枝葉の面積密度との乗算である Wwb × PADc(林帯幅を Wwbとする)の減風範囲に対する説明変数としての有効性
が指摘されていることから21),内陸防風林において作られた減風範囲と Wwb× PADcの関係図に本研究の測定値をプロットしてみる(図10)。本研究の測定値 と回帰線からの推定値との残差は0. 3H にとどまっており,よく一致してい た。このことは,林帯幅が広い場合の防風機能は Wwb× PADcでよく表現でき ることを支持するものである。また,林帯の横断面の形状について検討する と,防風機能を発揮するには内陸防風林のような矩形の横断面形状が望ましい といわれており37)39),風衝樹形の発達した流線形の横断面形状をもつ海岸林は 防風機能が劣る可能性がある。しかし,本研究の測定値が内陸防風林と同一曲 線上にプロットされたことは,少なくとも本研究の対象地に関しては,内陸防 風林よりも防災機能が劣るものではないと判断して良いだろう。 防災機能を主眼に実践的な森林管理へと結びつけるには,林帯幅が広い防風 林における測定事例を蓄積し,林帯の状態と防風機能との関係をより詳細に解 明していく必要がある。本研究は,林帯の状態を表す説明変数として,Wwb× PADcの有効性を補強するものとなったが,PADcの算出方法が複数あることに 留意する必要がある。すなわち PADcの推定にあたって,LAI-200021)や天空写
真22)で PAI(Plant area index)を計算し,それを樹幹層の厚さで割り算して
PADcが算出されている。光学的手法で測定した PAI は幹や枝の影響を含んで
図10 Wwb × PSDc に対する減風範囲
Torita and Satou22)における測定値(×)と回帰線(実線)に本
して扱われることが多い。一方で,本研究の PADcはクロマツの実測値をもと に計算したものであり,光学的手法との差に関する知見がなく算出手法の違い による影響は考慮できていない。近年は地上レーザースキャナや航空 LiDAR などの技術が発達し,植生に関する情報が得やすくなっている41)42)。新たな技 術を取り入れることによって,共通した手法で林帯の情報が得られれば, PADcの測定精度の向上あるいは林帯幅の広い防風林の防風機能に関する新た な因子を見出すことにつながると考えられる。 謝辞 本研究は林野庁の「平成25年度海岸防災林グランドデザイン調査」として行 ったものである。秋田県林業研修センターの金子智紀氏,新田響平氏に調査地 を提供していただいた。現地での気象観測にあたっては国土防災技術株式会社 大野亮一氏,田中三郎氏に協力いただくとともに,ベルトトランセクト調査デ ータを提供いただいた。(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所の野口宏 典氏,南光一樹氏,坂本知己氏,後藤義明氏には観測機器の設置等でご協力い ただいた。これらの方々に深く謝意を表すものである。 引用文献 1) 梅津勘一(2016)日本の海岸林の成り立ちと推移─庄内海岸林を中心に─,樹木 医学研究20:104-111 2) 宮崎一彦(2013)秋田の海岸林,秋田県林業コンサルタント,111p 3) 富樫兼次郎(1939)日本海北部沿岸地方に於ける砂防造林,興林会,167p 4) 河田 杰(1940)海岸砂丘造林法,養賢堂,54p 5) 太田猛彦(2012)海岸林形成の歴史,水利科学326: 2 -13 6) 坂本知己(2016)海岸林の津波被害と津波被害軽減機能,樹木医学研究20: 197-203 7) 本多静六(1919)防風林としての森林の効果,農業世界14:19-28 8) 鏑木徳二(1927)林帯の防風作用に関する研究,北海道林業会報295:380-389 9) Kenney WA (1987) A method for estimating windbreak porosity using digitized,
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