博 士 ( 農 学 ) デ ボ ラ キ ヨ ミ ス ズ キ
学位論文題名
Comparative studies of amino acldCOnCentrationSin aphidga11SandhOStplantS ; therelationShipbetWeen aphidlifeCyCleSandaH ユ Cid | . 1mO ; dynamlCS
(アブラムシゴールおよび寄主植物におけるアミノ酸量の比較研究;
ア ブ ラ ム シ の 生 活 史 と ァ ミ ノ 酸 動 態 と の 関 連 性 )
学位論文内容の要旨
昆虫が寄主植物の葉や芽や茎の細胞を異常に増殖させて、昆虫自身の食物として利用する植物部位のこと をゴール(gall,虫こぶ)と呼ぷ。ゴールは、球状、コブ状、葉巻状等の種固有の形状と独特の色彩を呈す る。さまざまな昆虫がゴールを誘導することが知られており、夕マバチ、夕マパェ、アブラムシが代表的 なゴール形成者である。ゴールがどのようなメカニズムで形成されるかは、ほとんど明らかになっていな い。また、ゴール組織が、本来の葉や茎の組織と比較してどのような栄養特性を持つのかについても、ほ とんど報告がなかった。本研究では、ゴール形成アプラムシに注目し、ゴール組織に含まれる栄養成分を 分析し、本来の植物組織の成分と比較することによって、ゴール形成アブラムシがどのような栄養を得て いるのかを解明することを第一の目的とした。
ゴール形成アプラムシは、ゴール内部で単為生殖によって増殖し、1頭のゴール形成者が、多くの場合、
数十頭から数百頭の第二世代を産出する。こうした高い増殖率を実現するためには、ゴールは高い濃度レ ベルのアミノ酸をアプラムシコ口二ーに対して提供していると予想される。このため、本研究ではゴール 組織のアミノ酸量に注目し、各種アミノ酸量がゴール組織では本来の植物組織に比べてどのように変化し ているかを分析した。
ゴール形成アプラムシの生活史は複雑で、ゴール形成が行われる1次寄主に加え、初夏には寄主植物を 代え、夏から秋にかけて別の植物(2次寄主)でコロニーが単為生殖的に増殖する。初夏に1次寄主から 2次寄主への移住が起こり、秋には2次寄主から1次寄主への移住が見られる。1次寄主は樹木であるの に対して、2次寄主は、ほとんどの場合、草本あるいは灌木である。こうした季節による寄主植物の使い 分けを寄主転換と呼ぶが、寄主転換は、各植物の栄養レベルの季節的変化に対応して、アブラムシが各時 点で最良の寄主植物を選択した結果だと解釈されてきた(栄養補完説)。ところが、こうした栄養補完説 を検証する試みは、これまで全く行われてこなかった。そこで本研究では、2次寄主植物の根茎に含まれ るアミノ酸成分の分析も行い、アプラムシの複雑な生活史が寄主植物の栄養量の季節的動態に対応して進 化してきたとする仮説の実証を第二の目的とした。
ゴールおよび植物組織に含まれる遊離アミノ酸の種類とその量を定量化するために、アブラムシのゴー ル組織および葉の組織を採集し、冷蔵状態で実験室に持ち帰り、生きた植物組織を分析に用レゝた。採集後 ー1288―
2時 間以内 に植物 組織を700/0アルコ ールに 固定し 、アブ ラムシ コロニ ーを除 去後、 工パポレ ーター によっ て 溶液を 濃縮し 、二ン ヒドリ ン反応 を利用し たアミ ノ酸分 析装置 を用い て各種 アミノ 酸量を 定量化した。
分 析に供 したア プラム シゴー ルは、 主として ハルニ レから 得た。 ハルニ レにはTetraneura属の アプラムシ 6種 が袋状 ゴール を形成 し、さ らにEr iosoma属とKaltenbachiella属アブ ラムシが、それぞれ葉巻ゴールと コ ブ状閉 鎖ゴー ルを形 成する 。これ に加え、 他の9種 の樹木 (ナナ カマド 、工ゾノコリンゴ、ドロノキ等)
か ら 合 計10種 の ゴ ール 形 成 ア ブラ ム シ を 採集 し、ゴ ール組 織と葉 組織に 含まれる アミノ 酸成分 を比較 し た。アミノ酸成分の比較は、0.5gのゴール組織および葉組織に対して行った
ハ ルニレ の葉に 含まれ るアミ ノ酸量 に比べ て、ゴ ールに含 まれる アミノ 酸量は 、アプ ラムシ の種によっ て大きな相違が見られた。Kaltenbachiella japonica, Eriosoma harunire,およびTetraneura yezoensisのゴール に 含まれ るアミ ノ酸総 量はき わめて 多く、葉 組織の それぞ れ、36.5倍、24.2倍 、18.2倍に 達した 。これに 対 して、Tetraneura soriniとTetraneura radicicolaゴールに含まれるアミノ酸総量は、葉のアミノ酸総量を 下 回 っ た 。 高 い ア ミ ノ 酸 レ ベ ル が 見 出 さ れ た3種で は 、 ア スパ ラ ギ ン が高 い 濃 度 で存 在 し て いた 。K japonica,Eharunire, およびZyezoensisでは 、アス バラギ ン量は 、アミ ノ酸総 量の70%以 上を占 め、葉組 織 の ア ス バラ ギ ン 量 に対 し て 、1229倍 、811倍、536倍に達 してい た。一 方、葉 組織では 、アミ ノ酸組 成 の 中でグ ルタミ ン酸が 最も高 い割合(24'70)を占め ていた 。ゴー ル組織 において、これほどの高濃度のアス バ ラギン が検出 された のは、 初めて の報告で ある。 これに 対して 、低い レベル のアミ ノ酸総 量が見いださ れ たZ soriniとZradicicolaゴ ールでは 、アス バラギ ンの割 合も低 く(約30%)、ゴー ル組織 に含ま れるア ミ ノ酸量 を左右 するの はアス バラギ ンである ことが 明らか となっ た。ハ ルニレ にゴー ルを形 成する種を用 い て、ゴ ール内 のアブ ラムシ 産子数 の平均値 とアミ ノ酸総 量の間 の相関 を求め ると、 高度に 有意な正の相 関 が得ら れた化 = 0.93,P=0.002)。こ の結果 から、 ゴール 内に含 まれる 高濃度の アミノ 酸は、 アプラム シ の繁殖 に寄与 してい ること が明ら かになっ た。ア スパラ ギンは 、アプ ラムシ にとっ ての必 須アミノ酸で は ないが 、アプ ラムシ の細胞 内に共 生してい る細菌 類がアスバラギン(あるいはグルタミン)を取り込み、
必 須アミ ノ酸に 転換さ せて、 アプラ ムシに提 供して いるこ とが報 告され ている 。アブ ラムシ は、植物組織 を 化学的 に操作 するこ とによ って、 ゴール組 織に多 量のアスパラギンを輸送させていることが示唆された。
ハ ルニレ 以外の 樹木の 葉にゴ ールを 形成する アブラ ムシに 関して も、大 多数の 種でア スバラ ギンあるいは グ ルタミ ンの濃 度が葉 組織の それに 比べて大 幅に増 加していた。こうしたアスバラギン類(アスバラギン、
グ ルタミ ン、ア スバラ ギン酸 、グル タミン酸 )の増 加も、 アブラ ムシに よる操 作の結 果とし て誘導されて きたものと考えられた。
ゴ ー ル組 織 に 多 量のア ミノ酸 が見ら れなか った種 (Z soriniとZradicicola)に注 目して 、2次寄 主がこ れ らの種 にどの ような 栄養レ ベルを 提供して いるの かを評 価した 。これ ら2種はハルニレのゴール内では、
そ れ ぞ れ 平均6頭 と8頭 の 第 二 世代 を 産 出 する が、こ の数は これま でアブ ラムシで 知られ た中で 最少の 産 子 数であ る。Z sorini,Zradicicolaとも 、夏か ら秋にかけて、多年生イネ科草本であるススキ、オーチャー ド グラス の根に 寄生し 無性的 に増殖 する。ス スキと オーチ ャード グラス の根茎 は、全 体量と して、ゴール よ りもは るかに 高いレ ベルの アミノ 酸を提供 してい た。特 に、高 濃度の アスパ ラギン 類が見 いだされ、こ れ らアミ ノ酸量 は秋に 向かっ て増加した。したがって、Z sorini,Zradicicotaでは、増殖の主体が高い栄養 レ ベ ル を 示す2次 寄 主 に あり 、1次 寄 主 と の関 連性は 系統的 制約に よって 維持され ている と判断 された 。 こ れに対 して、 ハルニ レのゴ ール内 で平均190頭以上 の第二 世代を生 み出すEriosoma harunireは 、アミノ 酸レベルのきわめて低いオオパコを2次寄主として選択していた。
以上の結果は、ゴール形成アプラムシ類の生活史と繁殖生態が2種類の寄主植物の季節的アミノ酸動態 に大きく左右されるとする仮説を強く支持するものであった。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 秋元 信一 副 査 教 授 齋藤 裕 副査 准教授 大原昌宏 副査 准教授 吉澤和徳
学位論文題名
Comparative studies of amino acldCOnCentrationSin aphidgallSandhOStplantS ; therelationShipbetWeen aphidlif ・ eCyCleSandan : lCid | . ( LmOZ ユ ynamlCS
(ア ブラ ムシ ゴール およ び寄 主植 物に おけ るア ミノ 酸量 の比 較研究;
ア ブ ラ ム シ の 生 活 史 と ア ミ ノ 酸 動 態 と の 関 連 性 )
本論文は、図40、表15、引用文献79編からなる総頁99頁の英文論文である。参考論 文3編が添えられている″
ゴール(gau,虫こぶ)は、昆虫によって肥大成長さ廿られた植物組織を指し、球状、
コプ状、葉巻状等の形状と独特の色彩を呈する。.ゴール組織が本来の葉や茎の組織と 比較してどのような栄養特性を持つのかについては、ほとんど研究例がなかった。本 研究でほ、ゴール形成アプラムシに注目し、ゴール組織に営まれる栄養成分を分析し、
本来の植物組織の成分と比較することによって、ゴール形成アブラムシがどのような 栄養を得ているのかを解明することを第一の目的とした。ゴール形成アブラムシは、
ゴール内部で単為生殖によって多数の次世代を産出する。高い増殖率を実現するため には、ゴールは高い濃度のアミノ酸をアブラムシコロニーに対して提供していると予 想される。このため、本研究ではゴール組織のアミノ酸量に注目し、各種アミノ酸量 が ゴー ル組 織では 葉の 植物 組織 に比 べて どの よう に変 化し ているかを調ぺた。
ゴールは短期間利用きれることが多く、ゴールが老イヒすると、アブラムシはゴール を離れ2次寄主に移動する。こうした季節による寄主植物の使い分けを寄主転換と呼 ぶが、寄主転換は、各植物の栄養の季節的変化に対応して、アブラムシが各時点で最 良の寄主植物を選択した結果だと解釈されてきた(栄養補完説)。本研究では、第二の 目的として、2次寄主植物の根茎に言まれるアミノ酸成分の分析を行い、栄養補完説 の実証を試みた。
ハ ル ニ レ の 葉 に 含 ま れ る ア ミ ノ 酸 量 に 比 べ て 、 ゴー ルに 含ま れる ア ミノ 酸量 は、 種 によって大 きな相違が見られた。Kaltenbachiella japonica, Eriosoma harunireおよび Tetraneura yezoensisのゴールに含まれるアミノ酸総量は葉組織 に比べ、36.5倍、24.2 倍、18.2倍 に達した。これに対して、Tetraneura soriniとTetraneura raめcfcD緬ゴールに 含 まれ るア ミノ 酸総 量 は、 葉の アミ ノ酸 総量 を下 回っ た。 高い アミ ノ酸 レベ ルが見出 さ れ た3種 で は 、 ア ス パ ラ ギ ン が 高 い 濃 度 で 存 在 して いた 。疋 丿卿nf蛾Eカ洲 れf鵬Z アP.閲P珊 ぬではiアスパラギン量は` アミノ酸総量の70%以上を占め、葉組織のアスパ ラ ギ ン 量 に 対 し て 、 そ れ ぞ れ1229倍 、811倍 、536倍 に達 して いた 。 ゴー ル組 織に お い て、 これ ほど の高 濃 度の アス パラ ギン が検 出さ れた のは 初め ての 報告 であ る。ハル ニ レに ゴー ルを 形成 す る種 を用 いて 、ゴ ール 内の アブ ラム シ産 子数 の平 均値 とアミノ 酸 総量 の簡 の相 関を 求 めると、有意な正の栢関が得られた。この 結巣ゐゝら、ゴール内 に 含ま れる 高濃 度の ア ミノ酸は、アブラムシの繁殖に寄与してい ることが示唆された。
ア ブラ ムシ は、 植物 組 織を 化学 的に 操作 する こと によ って 、ゴ ール 組織 に多 量のアス パ ラギ ンを 輸送 させ て いる と考 えら れる 。ハ ルニ レ以 外の 樹木 の葉 にゴ ール を形成す る アプ ラム シに 関し て も、 大多 数の 種で アス パラ ギン ある いは グル タミ ンの 濃度が葉 組 織の それ に比 べて 大 幅に 増加 して いた 。こ うし たア スパ ラギ ン類 (ア スパ ラギン、
グ ルタ ミン 、ア スパ ラ ギン 酸、 グル タミ ン酸 )の 増加 も、 アプ ラム シに よる 操作の結 果として誘 導きれてきたものと考えられた″
ゴ ー ル 組 織 に 多 量 のア ミノ 酸が 見ら れ なか った2種 (ZぷD灯 耐とZMめclc0ゆ は、 ハ ル ニ レ の ゴ ー ル 内 で は 、 そ れ ぞ れ 平 均6頭 と8頭 の第 二世 代を 産出 し た。 この 数は こ れ ま で ア ブ ラ ム シ で 知 ら れ た 中 で 最 少 の 産 子 数 であ る。 これ ら2種 の2次 寄主 一ス ス キ とオ ーチ ャー ドグ ラ スの 根茎 ほ、 ゴー ルよ りも ほる かに 高い レベ ルの アミ ノ酸を提 供 して いた 。特 に、 高 濃度 のア スパ ラギ ン類 が見 いだ され 、こ れら アミ ノ酸 は秋に向 か っ て 増 加 し た 。 し た が っ て 、ZJDガ 厨 とZmめcfcD紜 では 、増 殖の 主体 が2次 寄主 に あ り 、1次 寄 主 で の ゴ ール 形成 は系 統的 制約 によ って 維持 され てい る と判 断さ れた 。 こ れ に 対 し て 、 ハ ル ニレ のゴ ール 内で 平 均190頭 の幼 虫を 生み 出すD洫Dけ 弧轟dMnf胞 は 、2次 寄 主 と し て 、 アミ ノ酸 レベ ルの 低い オオ バコ に寄 生し てい た 。し たが って 、 ゴ ー ル 内 で の 産 子 数 は、2つの 寄主 植物 の栄 養レ ベル に応 じて 進化 的 に変 化を 遂げ て きたと想定 される。
以 上 の 結 果 は 、 ゴ ール 形成 アブ ラム シ 類の 生活 史と 繁殖 が2種類 の 寄主 植物 の季 節 的 アミ ノ酸 動態 に大 き く左 右さ れる とす る仮 説を 強く 支持 する もの であ った 。本研究 の 成果 は、 アブ ラム シ ゴー ルの 栄養 レベ ルと 寄主 転換 の栄 養補 完説 の実 証に 関して初 めての報告 であり、関連学会からも高く評価きれている。よって、審査員一同ば、Debora Kiy(m缸SuZubが 博士 (農 学) の学 位を 受け るの に十分な資格を 有するものと認めた。