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大気中

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 江 口 則 和

学 位 論 文 題 名

大気中 C02 濃度増加に伴う冷温帯落葉樹木の 炭素固定能カの変化に関する研究

学位論文内容の要旨

  近年、大気中のニ酸化炭素濃度([C02])の上昇とそれに伴う地球温暖化が全球レベルでの 社会問題となっ ている。森林は大気中のC02を吸収し長j朝問貯留する機能を持っため、変 動 環境下での森林 のC02の貯留量変化を明らか にすることは、森林に於けるC02管理を行 うための重要な 資料となり得る。しかし、地球温暖化はさまざまな無機環境変化を引き起 こすため、将来 環境下での森林の応答を予測することは非常に難しい。先ずーつーつの環 境変化に対する 応答を解明することが必要だと考えられる。そこで本研究では地球レベル で増加している 大気中の[C02]に焦点を匿く。そして、温暖化の影響が顕著とされる冷温帯 地域の森林を対 象とする。高C02環境に対する冷温帯樹木の生理生態特性の変化を解明し、

冷温帯林のC02貯留世の変化を予想することを目的とした。

  本研究では、C02付加を自然に近い条件下で実施できるFree Air C02 Enrichment   (FACE; f粥放系大気C02増加)装越を用いた(北海道大学札幌研究林実験苗畑に設凪)。なお、本FACE は 樹木 を対 象と する アジ アで 唯一の施設であ る。FACE内の[C02]は2040年 頃を想定して 500ppmとし た( 対照 区+130ppm)。また、高C02処理による植物の反応は土 壌栄養条件に よって異なるた め、FACE内の土壌を半分に区切り、片方を日本に広く分布している富栄養 の褐色森林土、もう一方を北海道に一般的で貧栄養の火山灰土壌とした。対・象樹種は、我 が国の冷温帯地 域に広く分布する落葉樹11種(避移前期種:シラカンバ、ウダイカンバ、

ケヤマハンノキ 、カラマツ、遷移中期種:ミズナラ、ヤチダモ、ハルニレ、ハリギリ、避 移後期種:ブナ 、シナノキ、イタヤカエデ)とした。2003年審に2年生苗木をFA、CE内に 植栽し、2003年6月から2007年7月までC02付加を実施した。

  樹木によるC02の固定は主に葉での光合成 活勘によって行われるため、まず個葉の光合 成の変化に着目 した(3章)。高C02環境への光合成応答は、種ごとの窒素利用特性の違い によって異なっ た。窒素を十分に得ることができ、各光合成系に適切に窒索を配分するこ とができれば、 光合成速度が継続的に増加することが認められた。しかし、十分に窒素を 獲得できなかっ たり、窒素を各光合成系へ適切に配分できなかったりすると、光合成能カ の低下が起こり やすく、光合成速度は期待するほど高くならなぃことが解った。全般に、

褐色森林土に比 べて火山灰土壌では高C02処 理をしても光合成速度があまり増加しなぃこ とが示唆された。

  炭素貯留に関 する樹木の働きは、同化した炭素を非同化器官ヘ長期間蓄積すること、す なわち樹幹の成 長もあげられる。[C02]上昇に伴う樹木の炭素貯留量の変化を評価するため には、樹幹の成 長特性の変化を解明する必要がある。そこで4章では、長期間炭素を貯臓 することができ る地上部の成長応答(樹幹成長の変化)に着目した。5年間の調査の結果、

高℃02環境下で生育する冷温帯落葉樹の樹幹成長の促進効果は、貧栄養の火山灰土壌下や、

C02の付加期間が長いと認められなくなること が解った。また、高C02処理 により伸長成

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長を盛んに行うように なる種が多いこと、種問競争が顕著な状況でも成長を促進できるよ うになる種があることも判明した。

  非同化器官である幹 の炭素貯留を評価するためには、樹幹のサイズ変化だけでは不十分 である。例えば、同じ サイズの樹幹でも空隙の多い材では炭素貯留量が小さぃとぃうよう に、樹幹の質によって もC02あるいは炭素量の炭素 貯留量は異なる。っまり、樹幹内部構 造の変化を明らかにす ることが重要である。そこで5章では、材質に影響を与え得る樹幹 内の道管構造(水分通 道構造)に着目し、高C02処 理による変化と、水分通道構造と深い 関わりのある水利用特 性(蒸散速度など)の変化を調べた。一般に高C02環境下では気孔 が閉じ気味になり、蒸 散速度が低下するが、本研究でも高C02処理による長期・継続的な 水消費量の低下が認め られた。また、個葉スケール、シュートスケール、個体スケールの いずれでも、総道管面 積の低下が認められた。長期間の高C02処理によって、道管を流れ る流速、流量の継続的 な低下が起こり、その結果、新たに作られる水分通道構造に変化が 生じたと考えられる。将来、大気中の[C02]が上昇すると、このような水利用特性と水分通 道 構造 の応答 によって、樹幹の質が変化していく可能性が示唆された 。3章から5章の結 果から、高C02環境下では冷温帯樹木の炭素固定量 に変化が生じる可能性が高いことが示 唆された。

  では、樹木および群 落内のC02固定量は高C02環境下でどの程度変化するのであろうか。

どの種に炭素固定澄の 著しい促進が認められるのか。6章ではこれらの点に着目した。2007 年7月に実験サイト内の樹木を全種数本ずつ伐採し 、現存量推定式を作成して実験サイト 内全個体の地上部重量 (同化器官重景、非同化器官重量)を推定した。そして、各樹木お よ び群 落のC02貯 留餓 を算 出す るこ とで、C02上昇に伴う冷温帯林のC02貯留量の変化を 評価した。群落全体と しての変化に着目すると、高C02処理によって褐色森林土でのみC02 貯留量が増加した。高C02処理による影響がこのように土壌栄養依存であるとぃう結果は、

光合成の結果(3章)や樹幹成長攝の結果(4章)と同様であった。すなわち、冷温帯林で の炭素貯留量の増加は 、富栄養条件下でのみ期待できる可能性が考えられた。次に種ごと の 反応 に着目 すると、高C02処理によって 著しくC02貯留燈が増加した 種は、褐色森林土 でシラカンバとハルニ レであり、火山灰土壌ではハルニレのみであった。将来予測される 商C02環境 下で は これ ら2種のC02貯 留が顕著になると考えられる。特 にシラカンバは冷 温帯地域の主に攪乱地 に広く分布する種であるため、将来予測される高C02環境下では非 常に重要な種である可能性が示唆された。

  本研究により、東ア ジア冷温帯落葉樹林における高C02環境下での二酸化炭素の貯留量 変化に関する知見が得 られた。ここで、東アジア冷温帯落葉樹林の特徴を評価するため、

他の地域で行われているFACE実験の結果と比較した。各地域のF・ACEデータをまとめると、

世界規模(ただし温帯 〜冷温帯林のみ)での樹木地上部非同化器官へのC02蓄積量は、高 C02環境下でおよそ28%増加する可能性が示唆された。本研究の結果では、群落スケールで みると、褐色森林土で35%の増加し、火山灰土壌ではほとんど変化しなかった。以上の結 果から、高C02環境下での東アジア冷温帯地域における代表的な落葉樹林のC02貯留量は、

褐色森林土で大きくな ることが予想され、この増加は世界的に見ても大きいことが分かっ た。今後は、将来予測される環境下での森林の応答を精度高く評価するためにも、地上部・

地下部の応答、土壌呼吸さらに[C02]の増加と他の環境問題(気温の上昇、窒素沈着の増加、

大気汚染物質の増加な ど)や病虫害等生物間相互作用との複合的な応答を解明することが 必要と考えられる。

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学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 准教授 教授

小池孝良 笹    賀一郎 平野高司 澁谷正人

船田   良(東京農工大学)

学 位 論 文 題 名

大 気 中 C02 濃 度 増加 に 伴 う冷 温 帯落葉樹 木の      炭 素 固 定 能 カ の 変 化 に 関 す る 研 究

  本 研 究 は 、 総 ベ ー ジ225ベ ー ジ の 和 文 論 文 で8章 か ら 構 成 さ れ 、 図 は44枚 、 表 は34枚 、 引 用 文 献 の 数 は197で あ る 。 他 に 参 考 論 文6編 が 添 え ら れ て い る 。   近 年、 大 気 中の 二 酸 化炭 素 濃度([C02] )の上昇 とそれ に伴う地 球温暖 化が全球 レ ベ ル で の 社 会 問 題 と な っ て い る 。 森 林 は 大 気 中 のC02を 同 化 し 長 期 間 貯 留 す る 機 能 を 持 っ た め 、 変 動 環 境 下 で の 森 林 のC02固 定 能 力 ( 同化 十 貯 留特 性 ) 変化 を 明 ら か に す る こ と は 、 森 林 に お け るC02管 理 を 行 う た め の 重 要 な 資 料 と な り 得 る 。 本 研 究 で は 高C02環 境 に 対 す る 本 邦 冷 温 帯 樹 木 の 生 理 生 態 特 性 の 変 化 を 解 明 し 、 そ こ で の C02固 定 能 カ の 変 化 を 評 価 す る こ と を 目 的 と し た 。   本 研 究 で は 、 C02付 加 を 自 然 に 近 い 条 件 下 で 実 施 で き るFree Air C02 Enrichment(FACE)装 置 を 用 い た (北 海 道 大 学札 幌 研 究林 実 験 苗畑 に 設 置) 。FACE 内 の [C02]は2040年 頃 を 想 定 し て 500ppmvと し た ( 対 照 区+130ppmv; 対 照 区 約370ppm)。 ま た 、FACE内 土 壌 を 半 分 に 区 切 り 、 片 面 を 本 邦 に 一 般 的 な 富 栄 養 の 褐 色 森 林 土 、 も う 片 面 を 北 海 道 に 特 徴 あ る 貧 栄 養 の 火 山 灰 土 壌 と し た 。 対 象 樹 種 は 、 光 要 求 性 に 特 徴 の あ る 落 葉 樹11種 ( 光 要 求 性 の シ ラ カ ン バ 、 ウ ダ イ カ ン パ 、 ケ ヤ マ ハ ン ノ キ 、 カ ラ マ ツ 、 中 間 の ミ ズ ナ ラ 、 ヤ チ ダ モ 、 ハ ル ニ レ 、 ハ リ ギ リ 、 耐 陰 性 の ブ ナ 、 シ ナ ノ キ 、 イ タ ヤ カ ェ デ ) と し た 。2003年 春 に2年 生 苗 木 をFACE内 に 植 栽 し 、2003年6月 か ら2007年7月 ま でC02付 加 を 実 施 し た 。   樹 木 に よ るC02同 化 は 葉 の 光 合 成 活 動 に よ っ て 行 わ れ る た め 、 ま ず 個 葉 の 光 合 成 の 変 化 に 着 目 し た 。 全 般 に 、 褐 色 森 林 土 に 比 べ 、 火 山 灰 土 壌 で は 高C02処 理 を し て も 光 合 成 速 度 が あ ま り 増 加 し な い こ と が 示 唆 さ れ た 。   C02固 定 に 関 す る 樹 木 の 働 き は 、 同 化 し たC02を 非 同 化 器 官 へ 長 期 間 貯 留 す

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ること、すなわち樹幹の成長として把握した。高 C02 環境下で生育する冷温帯 落葉樹の樹幹成長の促進効果は、貧栄養の火山灰土壌下や、C02 の付加期間が3 年目から認められなくなった。

   非同化器官である幹の C02 貯留を評価するためには、材質の変化を明らかに することが重要である。そこで、材質に影響を与え得る樹幹内の道管構造(水 分通道構造)に着目し、高 C02 処理による変化と、水分通道構造と深い関わり のある水分通道機能(蒸散速度など)の変化を調べた。高 C02 処理によって水 分通道機能および総道管面積の低下が認められた。長期間の高C02 処理によっ て、道管の流量の継続的な低下が起こり、その結果、木部ばかりでなく葉柄部 に明瞭であったが、新たに作られる水分通道構造に変化が生じたと考えられる。

   東アジア冷温帯落葉林の特徴を評価するためには、高C02 環境下で各樹木の C02 貯留量がどの程度変化するのか明らかにすることが必要である。そこで各樹 木および群落の C02 貯留量を算出して、C02 上昇に伴う冷温帯林のC02 貯留量 の変化を評価した。群落全体としての変化に着目すると、高C02 処理によって 褐色森林土でのみC02 貯留量が増加した。種ごとの反応に着目すると、高 C02 処理によっ て C02 貯留 量が増加し た種はシラ カンパとハ ルこレであ った。

   本研究により、北海道の冷温帯落葉樹林における高 C02 環境下でのC02 固定 機能変化に関する知見が得られた。ここで、北海道を代表地として東アジア冷 温帯落葉樹林の特徴を評価するため、他地域で行われているFACE 実験の結果 と比較した。各地域の FACE データをまとめると、地上部非同化器官重量の高 C02 処理による増加率は +28 %であった(温帯〜冷温帯林の世界平均)。また、

札幌 FACE における高 C02 処理による変化は褐色森林土でのみ認められ、その 増加率は+35 %であった。以上の結果から、高C02 環境下での東アジア冷温帯地 域における代表的な落葉樹林の C02 貯留量は、褐色森林土において世界平均と 同等に増加することが見込まれる。今後は、将来予測される環境下での森林の C02 固定能カを精度高く評価するためにも、土壌呼吸など介して根や土壌生態系 の応答を解明することが必要だと考えられる。

   本研究では、C02 濃度上昇の影響を個葉から個体、群落スケール別に評価する ことで、各樹木の生理生態的な応答を詳細に解明することができた。また、冷 温帯を構成する代表的樹種の将来環境下での保全管理に関する指針を与えた。

得られた成果は学術的に貴重なものであり、その応用のための基礎資料として

も高く評価される。よって審査員一同は、江口則和が博士(農学)の学位を受

けるに充分な資格を有するものと認めた。

参照

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