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管楽器演奏時の顎機能解析 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

     博 士 ( 歯 学 ) 後 藤 田 章 人 学 位 論 文 題 名

管楽器演奏時の顎機能解析 学位論文内容の要旨

[目 的]

  管 楽器 演奏 を顎 関節 症や 慢性 顔面 痛の誘 発因 子の ーっ とす る記述は少なくないも のの ,疫学の観点からは両者の関連の結論が出ているとは言い難い.また,管楽器演 奏時 に顎関節や咀嚼筋にかかる負荷を科学的に解析した研究は極めて少なく,顎機能 解析 の観 点か らも 両者 の関 連は 明ら かでは ない .

  そ こで 本研 究で は咀 嚼筋 活動 や顎 位など 管楽 器演 奏時 の顎 機能の特徴を明らかに し, 管楽器演奏により顎関節や咀嚼筋へかかる負荷を検討することを目的として,研 究1で は 管 楽器 でチ ュー ニン グ音を 演奏 する 際の 咀嚼 筋の 筋活 動お よぴ 演奏 時の 下 顎位 の検 討を ,ま た研 究2で は音 域を変えて演奏する際の筋活動量および長時間演奏 によ る咬 筋筋 疲労 への 影響 を検 討し た.

[研究1] 1.方法

  被 験者 はボラ ンテ ィア の管 楽器 奏者 (金 管楽 器奏 者群 (以 下,金管群)18名,木 管楽 器奏 者群( 以下 ,木 管群 )12名) であ る. なお ,対 象と した木管楽器は唄口を くわ えるりード楽器タイプとし,フルートなどの下口唇だけを当てるタイプは除外し た.

  筋電図は左側の側頭筋,咬筋,口輪筋,顎二腹筋から導出し,安静時,楽器演奏時,

最大 咬み しめ時 ,最 大開 口時 の測 定を行い,筋電図RMS値を求めた.楽器演奏の条件 は,チューニング音の音程で大きな音量(以下,演奏―大),およびチューニング音の 音程で演奏―大の半分に相当する音量(以下,演奏―小)とし,演奏時には音量の計測 も行った.

  咬 筋, 側頭筋 では 最大 咬み しめ 時のRMS値を基準とした演奏時の比率,顎二腹筋で は最 大開 口時のRMS値を 基準 とし た演奏時の比率を求め,楽器群間の比較を行った.

また ,被験者の咬頭嵌合位および演奏時の上下顎の中切歯間の水平的距離と垂直的距 離を測定し,演奏時の下顎切歯点の移動量を求めた.

2.結果

  筋 電図 のRMS値は 側頭 筋で は金 管群,咬筋では金管群と木管群おいて演奏一大,演 奏― 小は安静時よりも有意に大きかった.しかし最大咬みしめ時と比較すると何れも

(2)

有意に小 さい値で あった, 顎二腹筋 の演奏時は 金管群,木管群とも演奏一大,演奏一 小の何れ において も安静時 より有意 に大きかっ た.最大開口時の値を基準とした比率 は何れも 比較的大 きかった .口輪筋 では金管群 ,木管群ともに演奏時の値は安静時に 比べ著しく上昇していた.

  音量の大小の比較では,何れの筋でも演奏一大,演奏一小の問に有意な差はなかった.

楽器群間 では側頭 筋,咬筋 ,顎二腹 筋における 演奏時のRMS値の比率 は金管群,木管 群との間で有意な差は認められなかった.しかし,咬筋において演奏ー大,演奏―小と も金管群の方が有意に大きなばらっきを示した.

  演奏時の 下顎切歯 点の計測 では垂直 的には何れの被験者も下方ヘ移動していたが,

その移動 量は木管 群が有意 に大きか った.水平 的には木管群の方が後方への移動量は 大きかっ たが楽器 群間に有 意差はな かった.移 動量の分散は垂直的,水平的ともに楽 器群間で 有意差は 見られな かったが ,水平的移 動量/垂直的移動量比の分散にっいて は金管群の方が有意に大きかった.

[研究2]

1.方法

  金 管 群19名, 木 管 群14名 に対 し ,研 究1と 同 様の 測定 部位にっ いて,安 静時,楽 器演奏時 ,最大咬 みしめ時 ,最大開口 時の筋電 図測定を 行い,RMS値 を求めた .演奏 条件は,等しい音量でのチューニング音の音程(以下,演奏―中),およぴチューニン グ 音 よ り も1オ ク タ ー ブ 高 い 音 程 ( 以 下 , 演 奏 ー 高 ) の2種 類 と し た .   ま た , 金 管 群9名 , 木 管 群9名 で90分 間の 演 奏 練習 前 後に 咬 み しめ(50%MVC)時 の 左 側 咬 筋 の 筋 電 図 を 測 定 し , 筋 電 図 平 均 パ ワ ー 周 波 数(MPF値 ) を 求 め た . 2.結果

  金管群, 木管群と もに演奏 ー高でのRMS値 は全ての 対象筋に おいて安 静時よりも有 意に高か った.演 奏条件間 の比較では ,金管群 で全ての対象筋において演奏ー高は演 奏一中よりも有意に高い値を示した,木管群では側頭筋において演奏ー高が演奏―中よ りも有意 に高かっ たがその 他の筋では 有意な差 は認められなかった,金管群,木管群 とも に 側 頭筋 , 咬筋 の 演奏一 高は最大 咬みしめ時 よりも有 意に小さ ぃ値であ った.

  50%MVCのMPF値は 金管群, 木管群と もに練習前 後で有意な差は認められなかった.

[考 察]

  口輪 筋 では 管 楽 器演 奏時 に高い筋活 動が認め られたが ,これは 口唇を楽 器に密着 させ ,吹き出 す空気を管 外に漏れ 出さない ようにするという口唇周囲の役割を考える とあ る程度予 想された結 果であっ た.顎二 腹筋では演奏時比較的大きな活動を示した が, 何れの被 験者も下顎 をやや下 方の開口 方向ヘ下げたポジションで演奏しており,

そ の 下顎 位 を保 持 す るた めに開口筋 である顎 二腹筋は 比較的大 きな活動 を呈した も のと 考えられ た.一方, 咬筋,側 頭筋はそ れに対して拮抗的に作用し,安静時より僅 かに 増加した 活動量を示 した可能 性が考え られた.

(3)

  演奏条件では,演奏時の音量の大小ではなく,音程の高低が影響することが明ら かになった.すなわち,金管群では何れの筋とも,木管群では側頭筋で高音の方がチ ユーニング音よりも筋活動は高まることが示された.高音を演奏する場合,金管群で はバルブ操作に加え口角を後方ヘ引き口唇の緊張度を高める必要がある.このとき下 顎のオトガイ付近には後方あるいは下方ヘ移動させるカが加わる可能性が考えられ るが,それに拮抗して閉口筋の活動量も僅かに高まるものと推測された.口輪筋や顎 二腹筋の高音での増加もこれらの口角を後方ヘ引く動きや下顎を後方あるいは下方 へ移動させるカに関係するものと思われる,木管群ではキー操作に加え,リード部分 の隙間をわずかに狭める動きも必要とされる.そのため前歯部でりードを咬むカが僅 か に 高 ま り , 側 頭 筋 で 高 音 演 奏 時 に 筋 活 動 が 高 ま っ た と 考 え ら れ た ,   しかし,高い音程の演奏であっても演奏時の閉口筋の筋活動量は,最大咬みしめ時 との比較では極めて小さなものであったことから,管楽器演奏時の閉口筋への負荷は 少ないこと,また,顎関節への圧迫方向のカの負荷は少ないことが推測された.

  楽器群間の筋活動の比較では,咬みこむ演奏様式をとる木管楽器演奏の方が閉口筋 の活動が高まる可能性も予測されたが両群間の筋活動に明らかな差は認められず,木 管楽器演奏であっても前歯部には強い咬合カは働かず,閉口筋の大きな活動は必要と されないことが示唆された.

  一般的に筋が疲労すると筋電図周波数解析の平均パワー周波数は低下すると考え られているが,90分間の演奏練習後に周波数の低下は見られなかったことから,金 管群,木管群ともに長時間の演奏による閉口筋の疲労への影響は少ないことが示唆さ れた.

  演奏時の筋活動,下顎の移動方向とも被験者間のばらっきが認められ,特に金管群 の下顎の移動方向に大きなばらっきがあることが示唆され,被験者の持つ咬合状態と の関連が考えられた.そのため,今後は演奏歴,歯列や咬合状態,顎関節症状の保有 状況な ど,個人の 持つ要因も パラメータ ーに含めた 検討が必要と考えられた.

[結論]

1.一般的な管楽器演奏では閉口筋の緊張は僅かであり,顎関節への圧迫方向のカの負 荷は少ない可能性が示唆された.

2.管楽器を長時間演奏した場合でも咬筋への疲労の影響は比較的少ないことが推察 された.

3.筋活動量,下顎の移動方向ともに個人間のばらっきを認め,今後個人差の影響につ いての検討が必要と考えられた.

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

井上農夫男 赤 池    忠 大 畑    昇 山 口 泰 彦

     学 位 論 文 題 名

管 楽 器 演 奏 時 の 顎 機 能 解 析

  審 査 は , 審 査 担 当 者 全 員 の 出 席 の 下 に 行 わ れ た . 最 初 に 申 請 者 よ り 提 出 論 文 の 概 要 が 以 下 の 通 り 説 明 さ れ た .

  管 楽 器 演 奏 時 の 顎 機 能 の 特 徴 を 明 ら か に し , 管 楽 器 演 奏 に よ り 顎 関 節 や 咀 嚼 筋 へ か か る 負 荷 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し て , 管 楽 器 演 奏 時 の 咀 嚼 筋 の 筋 活 動 量 , 下 顎 位 , お よ ぴ 長 時 間 演 奏 に よ る 咬 筋 筋 疲 労 へ の 影 響 を 検 討 し た .   研 究1で は , 金 管 楽 器 奏 者 ( 金 管 群 )18名 , 木 管 楽 器 奏 者 ( 木 管 群 )12名 を 対 象 に 側 頭 筋 , 咬 筋 , 口 輪 筋 , 顎 二 腹 筋 の 筋 電 図RMS値 を 求 め た . 楽 器 演 奏 の 条 件 は , チ ュ ー ニ ン グ 音 の 音 程 で 大 き な 音 量 ( 演 奏 ― 大 ) , およ び同 じ音 程で 演奏 ―大 の半 分 に 相 当 す る 音 量 ( 演 奏 . 小 ) と し , 演 奏 時 に は 音 量 の 計 測 も 行 っ た . ま た , 被 験 者 の 咬 頭 嵌 合 位 お よ び 演 奏 時 の 上 下 顎 の 中 切 歯 間 の 水 平 的 距 離 と 垂 直 的 距 離 を 測 定 し , 演 奏 時 の 下 顎 切 歯 点 の 移 動 量 を 求 め た . 研 究2で は , 金 管 群19名 , 木 管 群14名 に 対 し , 演 奏 条 件 を , 等 し い 音 量 で の チ ュ ー ニ ン グ 音 の 音 程 ( 演 奏 一 中 ) , お よ び チ ュ ー ニ ン グ 音 よ り も1オ ク タ ー ブ 高 い 音 程 ( 演 奏 ‐ 高 ) の2種 類 と し て 測 定 を 行 っ た . ま た , 金 管 群9名 , 木 管 群9名 で90分 間 の 演 奏 練 習 前 後 に 咬 み し め(50MVC)時 の 咬 筋 の 筋 電 図 を 測 定 し , 筋 電 図 平 均 パ ワ ー 周 波 数 (MPF値 ) を 求 め た .   そ の 結 果 , 対 象 筋 の 筋 活 動 に は 演 奏 時 の 音 量 の 大 小 で は な く , 音 程 の 高 低 が 影 響 す る こ と が 明 ら か に な っ た . し か し , 演 奏 時 の 閉 口 筋 の 筋 活 動 量 は 安 静 時 よ り は 高 か っ た も の の , よ り 活 動 量 が 増 す 高 い 音 程 の 演 奏 で あ っ て も , 最 大 咬 み し め 時 と の 比 較 で は 極 め て 小 さ な も の で あ っ た こ と か ら , 管 楽 器 演 奏 時 の 閉 口 筋 へ の 負 荷 は 少 な い こ と , ま た , 顎 関 節 へ の 圧 迫 方 向 の カ の 負 荷 は 少 な い こ と が 推 測 さ れ た , 楽 器 群 間 の 筋 活 動 の 比 較 で は , 咬 み こ む 演 奏 様 式 を と る 木 管 楽 器 演 奏 の 方 が 閉 口 筋 の 活 動 が 高 ま る 可 能 性 も 予 測 さ れ た が 両 群 問 の 筋 活 動 に 明 ら か な 差 は 認 め ら れ ず , 木 管 楽 器 演 奏 で あ っ て も 前 歯 部 に は 強 い 咬 合 カ は 働 か ず , 閉 口 筋 の 大 き な 活 動 は 必 要 と

(5)

されないことが示唆された,一方,顎二腹筋の演奏時は金管群,木管群とも演奏時 は安静時より有意に大きく,最大開口時の値を基準とした比率も比較的大きいこと,

口輪筋では金管群,木管群ともに演奏時の値は安静時に比ベ著しく上昇することが 示された,一般的に筋が疲労すると筋電図周波数解析の平均パワー周波数は低下す ると考えられているが,90分間の演奏練習後に周波数の低下は見られなかったこと から,金管群,木管群ともに長時間の演奏による閉口筋の疲労への影響は少ないこ とが示唆された.ただし,演奏時の筋活動,下顎の移動方向とも被験者間のぱらつ きが認められ,特に金管群の下顎の移動方向に大きなばらっきがあることが示唆さ れた.そのため,今後は演奏歴,歯列や咬合状態,顎関節症状の保有状況など,個 人 の 持 つ 要 因 も パ ラ メ ー タ ー に 含 め た 検 討 が 必 要 と 考 え ら れ た ,

  以上の論文の概要の説明の後,申請者に対し提出論文とそれに関連した学科目に ついて口頭試問が行われた.各審査員より,顎関節症状がある場合の影響,最大咬 みしめ時の咬合力,楽器間の歯列状態の差異,筋電図測定条件,筋電図周波数低域 シフトのメカニズム,被験者や対象楽器の選択基準,顎関節症と楽器演奏の因果関 係,咬筋,側頭筋以外の咀嚼筋の活動状況,下顎位の前後方向の移動の影響,下顎 位測定方法等,本研究の背景,方法,結果,考察および関連の研究にっいて質問が なされたが,いずれに対しても的確な回答が得られた.

  本研究で示された楽器演奏時の筋活動や下顎位の解析結果は,管楽器演奏時の顎 機能に関するこれまでの一般的な推測の一端を変える新たな知見である.さらに,

筋活動量,下顎の移動方向ともに個人間のばらっきを認めたことから,個人差の影 響についての検討が必要と考え,今後は特に負荷のかかりやすい吹奏法をする群の 鑑別の必要性を視野に入れ,そのような吹奏法の矯正法への顎機能解析の応用も展 開したいとのことであった.本研究で蓄積したデータはそのような管楽器演奏時の 顎機能の個別診断に関する今後の検討の際の標準値としても価値あるものと評価で きる・

  このように,本研究は,管楽器演奏時に顎関節や咀嚼筋にかかる負荷を科学的に 解析した研究が極めて少なかったこれまでの状況を大きく進歩させ,顎関節症の臨 床において有用な情報を提供するものである.また,楽器に関連する歯学分野の研 究発展は,歯科領域だけでなく音楽演奏分野の発展にも貢献し,歯科医学の社会的 価値をより高めるための将来性をも有すると考えられるが,本研究はその萌芽的な 第一歩と考えられる.

  以上より,本研究の新規性と今後の顎関節症の研究や治療の発展へ及ぼす影響カ は高く評価でき,本研究の業績は歯学領域に寄与するところ大であり,博士(歯学)

の学位にふ丶さわしいものと審査員一同から認められた.

参照

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