• 検索結果がありません。

学習言語を視野に入れた読みの活動への橋渡し : 二言語併用リライト教材を取り入れた日本語支援の提案

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "学習言語を視野に入れた読みの活動への橋渡し : 二言語併用リライト教材を取り入れた日本語支援の提案"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

学習言語を視野に入れた読みの活動への橋渡し

―二言語併用リライト教材を取り入れた日本語支援の提案―

平田昌子

キーワード

JSL,リライト教材,読書力,教科学習,橋渡し

はじめに 

 筆者が小学校における外国人児童生徒への日本語支援に携わるようになってから,3年が経 過しようとしている。友達を作り,日本語を吸収し,戸惑いながらも学校生活に適応していく 姿,日々の彼らの成長を目の当たりにし,子どもたちの持つ可能性に驚かされることが多々あ った。  しかし,それと同時に,口頭でのコミュニケーションに支障がなくなると,支援の必要性は ないと判断されることが多く,教科学習で求められる日本語能力までは,現場で考慮されてい ないという現実を知った。たとえ口頭によるコミュニケーションに支障がなくなっても,第二 言語のリテラシーを教科学習で求められるレベルまで発達させるのには,さらなる時間も意識 的学習も必要とされる。現に,子どもたちに学校生活について話を聞くと,「国語や社会の時間 が嫌い(中国人男児 10 歳)」「ただ座っているだけだから,寝ないように起きているのが大変 (韓国人男児11歳)」などの声が聞かれた。さらに,彼らの多くが,国語科や社会科の授業につ いていけず,意味もわからず黒板の文字をノートに写しているということが明らかになった。  彼らの多くが,読みに対して嫌悪感を抱いており,読みの活動を始めると,憂鬱そうな顔を 見せ,落ち着きがなくなる。「わからないところがわからない(韓国人女子生徒14歳)」「日本語 で書かれた文章を見たとたん,頭がぐちゃぐちゃになった」という発言からもわかるように, 彼らにとって,読みの活動は,精神的にも認知的にも負担が大きいと言えよう。その上,取り 出し授業の内容と実際に在籍学級で行われている国語科の教科書には大きなギャップがある と思われる。  そこで,本研究ではJSL(1)の子どもたちが,第二言語の特に読む力(2)を獲得する際,在籍 学級などで使われている教材に行きつくまでの「橋渡し」になるような日本語支援の方法を探 り,その分析結果から,第二言語による読む力を獲得するために有効な日本語支援方法のあり 方についての提言をまとめることを目的とする。

1.先行研究

 外山(2007:67)は,小学校入学当初は,たいていの子どもは読むことに興味を持つが,中学 生になると本嫌いの子どもが増えるということを例に,未知の読みについて「よくわからぬこ

(2)

とを無理にさせられれば,嫌いになるのが順序である」と述べている。これは,まさにJSLの 子どもたちが置かれている状況ではないだろうか。彼らに本または教科書を読むように促す と,読むことはできる。しかし,文字を目で追うこと,または音読することに必死になり,内 容を読み取ることまではできず,「読んだけれども,わからない。わからないところがわからな い」という状態に陥ってしまう。わからないものをひたすら読み続けることがどんなに苦痛を 伴うかということは,想像にかたくない。  森沢(2005:36)では,「『読む』活動を通して『読めた』『わかった』という経験をすることで JSL児童が自らの可能性に気付き,彼自身の『自己有能感(3)』を高めることにつながる」と述べ ている。つまり,子どもたちに「読めた」という実感を持たせる必要があるということである。  JSLの子どもたちの読みを支援する研究は多く行われているが,その中で,清田(2007)や櫻 井(2007)では,母語の力を用いた支援の重要性を述べている。さらに,光元他(2006)は,入 国後の早い時期から,教科学習に取り組むことが重要であるとし,子どもの日本語力に合わせ, 書き換えた教材『リライト教材・音読譜』を提案している。早期に教科学習への移動を目指す ことを考えると,母語やリライト教材が非常に有効だと思われる。  舘岡(2005)は,読むことにおいて,既有知識の利用と活性化,テキスト情報と既有知識の 相互交渉の重要性を主張しているが,その際,テキストと既有知識とのズレへの気づきが,理 解を深める役割を果たすと述べている。舘岡が主張するようにテキストと既有知識とのズレに 着目し,さらに母語やリライト教材を組み合わせた研究は,管見によればほとんど見られな い。  そこで,本研究では,第二言語における読む力の獲得への「橋渡し」として,テキストと既 有知識のズレに着目し,二言語併用リライト教材の使用を試みた。

2.二言語併用リライト教材

 先行研究を踏まえ,JSLの子どもたち,特に小学校高学年で移動した子どもたちの読みの活 動を支援するには,母語やリライト教材が有効だと思われる。そこで,テキストと既有知識の ズレを利用した二言語併用リライト教材を用いた実践を行った。以下に,二言語併用リライト 教材の開発に至るまでの経緯と概要を記す。 2.1 二言語併用リライトに至るまで  平田(2010)では,韓国人の兄妹(小学5年,中学2年)を対象に,読みの活動を中心とした 日本語支援を行ってきたが,なかなか効果的な活動に結びつけることができなかった。その要 因として,彼らに適切な読み物を見つけることができなかったという点が挙げられる。  活動を始めた当初,彼らの日本語レベルに合った読み物,つまり,彼らが読める本を探して いた。彼らは漢字が苦手なため,読める本というと絵本または小学1年生レベルの読み物であ った。日本語の本を1冊読み終えたという達成感はあるものの,子供じみていると感じている ようで,あまり楽しそうな様子は見られなかった。確かに,学年レベルよりも,かなり低い教 材を使用した場合,子どもたちのプライドを傷つけかねない。

(3)

 しかし,学年レベルを少しでも上げると,急に漢字が多くなり,表現も複雑になる。そのた め,本の内容を理解することよりも,まず,本に書かれている文字を追うことに必死になって しまう。本を読み終え,本の内容についてやり取りをしようとしても,ほとんど内容が理解で きていない状態であった。理解できないというよりも,彼らの言葉を借りれば,「わからない所 がどこなのか,わからない」という状態に陥ってしまったようだ。内容が取れないものをひた すら読むことは,かなり苦痛のようで,この頃から,読みの活動をしようとすると,拒否反応 を示すようになった。  そこで,「分からない所がどこなのか,わからない」という状態から,物語の大枠だけでも理 解ができるように挿絵を使った活動を試みた。読みの活動に入る前に,挿絵だけを抜き出し, 順番を考える。そして,挿絵から物語を想像するという活動を行った。その挿絵と照らし合わ せながら,実際に読みの活動に入ると,以前よりも内容理解が深まったように感じられた。  この挿絵を使った活動には,二つの利点が挙げられる。一つ目は,読む前に筆者と挿絵の順 番を確認したことにより,物語の大枠が把握できたことである。二つ目は,自身で作成した物 語がスキーマとなり,そのスキーマと本文を照らし合わせながら読むことが可能になったので はないかと思われる。外山(2007:22)が「未知の読み」について「想像力をはたらかせ,筋道を 見つけ,意味を判断するという高度の知的作業が求められる」と述べているように,未知のテ キストを読むことは,認知的負担が高い。しかし,スキーマと照らし合わせ,本文とのズレに 焦点を当てながら読むことが,理解を進めた要因になったと考える。  先行研究より,母語およびリライト教材の使用が効果的であること,さらに,筆者の実践の 中からズレの焦点化が理解を促進させることが明らかになった。このような過程を経て,最終 的に行き着いたのが,母語と日本語を用いた教材に,意図的にズレを含ませた二言語併用リラ イト教材であった。 2.2 二言語併用リライト教材とは  まず,物語の大枠だけを抜き出したリライト教材を,彼らの母語に翻訳する。これを母語リ ライト教材として,活動前に予習として読んでおく。原文から物語の大枠だけを取り出し,翻 訳している為,物語を単に翻訳した教材とは異なる。次に,難しい表現を除き,なるべく原文 の表現を生かした日本語リライト教材を使用し,物語を読み進める。  この二言語併用リライト教材を使用すると,物語の大枠を母語で理解している為,読み間違 いが生じても,大きく脱線することがなくなる。その上,母語リライト教材が既有知識となり, 読むことに対する認知的負担は減少するであろう。しかし,母語リライト教材は,物語の全訳 や要約ではなく,大枠しか抜き出していない為,急に話が飛んだり,説明不足により話がつな がらなかったりする箇所が出てくる。話がつながらない箇所を予測させたり,枠と枠の間にど のようなことが書かれているのかを焦点化させてから,易しい日本語リライト教材を読み始め ると,母語リライト教材を読んだ際に感じた疑問点や自分が予測した箇所に意識が集まるた め,さらに読みが深まると思われる。以下に二言語併用リライト教材の概念を表した図を示 す。

(4)

無理なく読める日本語の読み物=「三輪車」 自力で読めるが,知的レベルに合うものではなく,子どもたちのプ ライドを傷つけてしまう恐れがある。 認知レベルにあった日本語の読み物=「二輪車」 子どもたちの認知レベルに適切な読み物は,日本語のレベルが高く, 非常に不安定(読み間違え易い)であり,挫折する恐れがある。 二言語併用リライト教材を使用した場合=「補助輪つきの二輪車」 認知レベルに合った読み物は,うまくバランスをとることができず, 挫折する恐れがあるが,大枠を捉える母語リライト教材と難しい表 現を易しい表現にした日本語リライト教材という二つの補助輪が二 輪車を支えるため,二輪車であっても乗りこなすことができる。 母語リライト教 日本語リライト教 図1 二言語併用リライト教材の概念

3.日本語学習支援の概要

3.1 学習者プロフィール  学習者は,上海語を母語とする中国人男児児童(以下CMH)1名である。CMHは2009年3 月に来日し,来日時の年齢は9歳4カ月であった。現在,東京都H市立H小学校の5年生のク ラスに在籍している。来日前の日本語学習歴はなく,来日当初は,ひらがなも読めない状態で あった。2009年4月から10月にかけて,放課後の時間を利用し,H市が支援する日本語補助教 室に通っていた。そこでは,週2日,1日90分の日本語指導が24回行われた。その後は,通常 学級で授業を受けるのみで,およそ8カ月間,支援が途切れた状態が続いていた。筆者は,2010 年6月から現在に至るまで,週1回45分の取り出し授業を行っている。本稿では,CMHに対 する二言語併用リライト教材を用いた日本語支援を通し,得られたデータを用い,分析・考察 を行った。 3.2 学習支援の方法  まず,テキストの内容に関連した話題を取り上げ,スキーマを活性化させる。次に,タイト ルや教材の表紙を見せ,物語を予測させる。テキストによっては,物語の中盤および話の続き を予測させる場合もある。その後,話の大枠を抜き出したものを母語に翻訳した母語リライト 教材を読み,さらに,原文を書き換えた易しい日本語リライト教材を読む。読後,物語の再生 および内容理解度を確認する。このようなやり取りを通し,理解を深めていく実践を行った。

(5)

本研究では,物語文『五色のしか』(4),説明文『みつばちのダンス』(5)を教材として採用した。  二言語併用リライト教材を用いた活動の実施日時および支援内容は以下の通りである。 【五色のしか】  2010年7月6日(火)13:40 ~ 14:25  導入・母語リライト教材を読む。易しい日本語教材の冒頭のみを読む 2010年7月13日(火)13:40 ~ 14:25 易しい日本語リライト教材の前半を読む 2010年9月7日(火)13:40 ~ 14:25 夏休みをはさんでしまったため,振り返りの時間を取る。後半部分を読み,内容理解度を測る 【みつばちのダンス】 2010年9月22日(水)8:45 ~ 9:30 導入,母語リライト教材・易しい日本語リライト教材を読み,内容理解度を測る

4.分析

 本研究では,取り出し授業における二言語併用リライト教材を用いた読みの活動を通して得 られたデータと,CMHと筆者とのやり取りのデータをもとに,分析を行った。 4.1 分析方法

読 む 力 に つ い て, ビ ー バ ー(Beaver:2006) が 提 唱 し た「Developmental Reading Assessment」を参考に,予測・再生・内容理解度の観点から読書力の評価および分析を行った。 評価方法は以下の通りである。 (1)予測  表紙・または冒頭部分で,その後のストーリーが予測できるかを測定する。 レベル1: 教師に促された時にのみ,本の中で何が起きるのか短くコメントできる。 レベル2: 教師の促しとともに,本の中で何が起きるのか説明できる。 レベル3: 重要なシーンを並べ,「はじめ・なか・おわり」が説明できる。 レベル4: これから起こりうる出来事を順序立てて説明でき,詳細なシーンを描写できる。 (2)再生  一通り本を読み終えたら,本を見ずに話を再生できるかを測定する。 レベル1: 教師に促された時にのみ,本の中で何が起きたのか短くコメントできる。 レベル2: 教師の促しとともに,本の中で何が起こったか説明できる。 レベル3: 重要なシーンを並べ,「はじめ・なか・おわり」が説明できる。 レベル4: 順序どおり正確かつ細部にわたり説明できる。 (3)内容理解度  平田(2010)では,内容理解度の評価方法として,ラファエル(Raphael:1986)の「Question Answer Relationships(以下QAR)」を援用し,内容理解度を測る質問文を作成した。口頭にて 質疑応答を行い,その回答を評価基準に従い内容理解度を測定した。「QAR」を枠組みとして,

(6)

作成した評価項目は以下の通りである。

表 1  評価項目(ラファエル(1986)の枠組みを援用し筆者作成) 直接的手がかり型

(Right There) 解答がテキストの中にあり,たいていたやすく見つけられるもの。解答には単語や語句が,設問を表す文の中に含まれているもの。 分散的手がかり型

(Think and Search) 解答がストーリーの中にあり,回答者がいろいろな話の部分を集める必要があるもの。 示唆的手がかり型

(Author and You) 解答はストーリーの中にはない。読者がすでに知っていることや作者が述べていることの両方をいかに統合するかが問われている。 独立的手がかり型 (On My Own) 解答は,ストーリーの中にはない。テキストを読まなくても解答することができる。自分自身の経験を用いる必要がある。  しかし,上記の枠組みでは,子どもたちの認知能力に関しては,十分に考慮されていたとは 言えない。そのため,項目によっては,日本語の力が十分ではないために評価が低いのか,認 知能力が十分に発達していないため,評価が低いのか判断することができない。また,ラファ エル(1986)の枠組みを用いると,学習指導要領で求められている能力以上のものに質問項目 が及んでしまう恐れがある。  そこで,小学校学習指導要領(2008)と照らし合わせ,各学年でどのような認知的能力が求 められているのかを把握し,QARと組み合わせた新たな枠組みの作成を試みた。  以下に,学習指導要領国語科国語編に記載されている「文学的な文章の解釈に関する指導事 項」に照らし合わせ,学年ごとに新たに筆者が作成した評価項目を示す。なお,「独立的手がか り型」については表4に別記する。 表 2  文学的な文章における学年別評価項目 学年 QAR 質問内容 1,2 直接的手がかり型 1つの場面内に限った変化や登場人物の行動を中心に質問を作成 3,4 直接的手がかり型 登場人物の性格,気持ちの変化,情景などに関することを中心に 質問 分散的手がかり型 場面と場面を結び付けて,答えるような質問 5,6 直接的手がかり型 中心となる登場人物について,その相互関係をとらえ,それらに基づいて心情や場面の描写をとらえる質問 分散的手がかり型 登場人物の相互関係から人物像やその役割をとらえ,そのことによって,内面にある深い心情も合わせてとらえる質問 示唆的手がかり型 暗示的に表現されている部分に関する質問  以下に,学習指導要領国語科国語編に記載されている「説明的な文章の解釈に関する指導事

(7)

項」照らし合わせ,学年ごとに新たに筆者が作成した評価項目を示す。なお,「独立的手がかり 型」については表4に別記する。 表 3  説明的な文章における学年別評価項目 学年 QAR 質問内容 1,2 直接的手がかり型 順序や手順に沿って,理解できているかを問う質問 3,4 直接的手がかり型 筆者がどのような事実を,原因や理由として挙げているのか。また,それについてどのような考えや意見を述べているのかを捉える質問 分散的手がかり型 5,6 直接的手がかり型 筆者がどのような事実を,原因や理由として挙げているのか。また, それについてどのような考えや意見を述べているのかを捉える質問 分散的手がかり型 示唆的手がかり型 筆者の意図や思考を想定し,自分の考えを明確に述べるような質問 以下に,「独立的手がかり型」に対する学年ごとの評価内容を示す。 表4  質問項目「独立的手がかり型」に関する学年別評価内容 学年 評価内容 1,2 想像力を駆使して答えることができるか? 3,4 自身の経験と結び付けて,具体的に答えることができるか? 5,6 自身の経験と結び付け,自分の考えをまとめることができるか? テキストの表現や内容について評価したり,自分の表現に生かすことができるか?  上記の評価項目の出題数を「直接的手がかり型」5問,「分散的手がかり型」5問,「示唆的手 がかり型」3問,「分散的手がかり型」2問と定めた。「直接的手がかり型」「分散的手がかり型」 の解答は,櫻井(2007)に従い,「正答」が100%,「不十分な解答」が50%,「誤答」が0%とし て,内容理解度の正答率を計算した。評価基準に照らし合わせ,各項目のレベルを判定した。 評価基準は以下の通りである。

(8)

表 5  評価基準(Raphael(1986)の枠組みを援用し筆者作成) 直接的手がかり型 レベル1: 正答率が30%未満 レベル2: 正答率が30%以上60%未満 レベル3: 正答率が60%以上90%未満 レベル4: 正答率がほぼ90%以上 分散的手がかり型 示唆的手がかり型 レベル1: 全く関係のないことを答える。または答えない。レベル2: 短く答える。理由などは,はっきり説明できない。 レベル3: なぜ,そう思ったのか理由までしっかりと説明できる。 レベル4:  理由を詳細に説明し,共感したり,物語のその後を推測したりで きる。 独立的手がかり型 4.2 分析結果  4.1で示した枠組みを用い,分析を行った。結果は表6の通りである。物語文・説明文をそれ ぞれ1回ずつしか実施していないため,本データだけをもって,CMHの読む力を断言すること はできないが,CMHの読みの姿勢,特徴についての共通点や変化した点をまとめる。  まず,物語文・説明文に共通して言えることは,「予測」「独立的手がかり型」の質問に対し て,第一声は必ず「わからない」から始まる。筆者の促しにより,ようやく短く説明すること ができるが,その理由までは,はっきりと伝えることができない。一問一答形式の質問には, 積極的に答えようとするが,自らの言葉で説明するとなると,声が小さくなり,落ち着きがな くなる。さらに「示唆的手がかり型」についても,答えを導き出すことはできるが,その答え の根拠や理由を求められると,すぐに「わからない」とあきらめてしまう。筆者の促しととも に,説明しようとするが,事実の羅列にとどまり,因果関係をうまく説明できないことが多い。 「わかってるんだけど!」とうまく言葉にできないことに苛立つ様子が観察された。今後,スキ ャホールディングを行いながら,自分の言葉で意見がまとめられるように支援していく必要が ある。  次に,『五色のしか』と『みつばちのダンス』の分析結果を比較する。文章の種類やCMHの 興味の有無が影響している可能性も大いにあるが,その点を考慮しても,「直接的手がかり型」 「分散的手がかり型」における正答率の変化には目を見張るものがある。これは,CMHの読み に対する姿勢の変化が大きく影響していると思われる。  1つ目の変化は,集中力である。テキストの長さの違いは若干あったものの,『五色のしか』 は1回45分の支援を3回要しているのに対し,『みつばちのダンス』は1回のみである。本活動 を始めた当初は,教材を机の上に出したとたん,「いやだー」と言って,席を離れてしまい,1 行読んでは,違う話を始めたり立ち歩いたりして,なかなか集中して読み続けることができな かった。これは自信の無さ,読みへの不安からくるものだと思われる。脱線しながらも,根気 強く読み進めるうちに,徐々に落ち着きを取り戻し,集中して読めるようになってきた。これ には,時間の経過とともに学校生活に慣れ,日本語能力が伸びたことが影響しているとも考え られるが,それ以上に,一つの作品を「読み切った」という自信が得られたことが大きく影響

(9)

していると思われる。自信がつくとともに,集中力が高まり,正答率にも変化が現れたのだと 言えよう。  2つ目は,二言語併用リライト教材とのかかわり方である。『5色のしか』では,母語リライ ト教材に頼りきり,母語リライト教材に書かれていないことは,日本語リライト教材を全く読 まずに,自分の想像だけで答えていた。そのため,書かれている内容を正確に答えることが求 められる「直接的手がかり型」「分散的手がかり型」の正答率が低くなっている。しかし,『みつ ばちのダンス』になると,母語リライト教材の存在を喜ぶものの,内容が不足していると文句 を言うようになる。そして,日本語リライト教材にCMHが疑問に思っていた答えが書いてあ ることを見つけ,「こういう風に(日本語リライト教材のように)書いてくれなくちゃわかんな いよ」とコメントしている。  筆者は,本活動に入る前に,二言語併用リライトの概念を説明し,母語リライト教材には書 かれていないことが日本語リライト教材には書かれているのだと強調したが,初めはそれを理 解できなかったようだ。しかし,実際に母語リライト教材を読んで疑問に思ったことが,日本 語リライト教材を読み,解決されたという経験をしてから,母語リライト教材に頼りきる様子 は見られなくなった。 表 6  『五色のしか』および『みつばちのダンス』の分析結果 物語文『五色のしか』 説明文「みつばちのダンス」 予 測 2 2 再 生 2 3 内容理解度 解答 正答率 レベル 解答 正答率 レベル 直接的手がかり型 不十分 50% 2 正答 100% 4 誤答 正答 誤答 正答 正答 正答 正答 正答 分散的手がかり型 不十分 50% 2 誤答 70% 3 不十分 正答 正答 正答 誤答 不十分 不十分 正答 示唆的手がかり型 2 ― 3 3 ― 3 3 3 3 2 独立的手がかり型 2 ― 2 2 ― 2 2 2

(10)

おわりに

 本研究では,2 種類のテキストのみで二言語併用リライト教材を用いた活動を行ったため, 本データだけでは,二言語併用リライト教材がJSLの子どもたちの読む力を養うことができる とは断言できない。しかし,CMHの読みに対する姿勢の変化から,二言語併用リライト教材 がCMHに自信をつけ,集中して読む手助けをしていることは明らかである。読後の感想にも 変化が見られる。初回は,「中国語の(母語リライト教材)があったから。これ(日本語リライ ト教材)読まなくても大丈夫だった」と答えていた。しかし,『ミツバチのダンス』後では「こ れ(母語リライト教材)さ,全然違うんだもん。全然違うんじゃなくて,これ(母語リライト教 材)少ししか書いてない。最初のちょっとだけ知ってて,これ(日本語リライト教材)をやるな ら,やりやすい。読みやすい」と感想を述べ,CMH自身も二言語併用リライト教材の有効性を 実感していることが見受けられる。さらに,CMHから次の本はどんな話なのかという質問が 出ており,読みに対して,積極的な姿勢が感じられるようになった。  本活動に先立ち,二言語併用リライト教材の概念を説明したが,十分に理解しておらず,母 語リライト教材に頼り切る姿が多く見受けられた。そこで,再度絵や図などを用い,情報にズ レがあることを強調した。そして,CMHがそのズレの存在に自分自身で気付いたとき,本教 材の有効性を実感し,やさしい日本語リライト教材を真剣に読むようになった。以上により, 児童教材の概念をしっかり理解させてから,活動に入ることの大切さを痛感した。  子どもたちにとって,日本語で書かれた本を読み切るということは,大きな負担であり,時 には恐怖を感じる。しかし,それと同時に,1冊読みきることで大きな自信にもつながるはず である。そこで,いきなり本を読み始めるのではなく,導入活動によるスキーマの活性,母語 リライト教材による大枠の把握,易しい日本語リライト教材によってズレや疑問点を解決する というステップを丁寧に踏むことが重要だと思われる。よって,二言語併用リライト教材は, JSLの子どもたちにとって大きな壁のように立ちはだかっている「読みの活動」に,梯子を掛 ける役割があると考える。つまり,読みの精神的・認知的負担を減らし,読み進められる教材 であると言えよう。今後,彼らが在籍学級での教科学習についていける読む力を養うための 「橋渡し」になると確信している。  さらに,子どもたちから,「計算問題はわかるけど,問題文(文章問題)が理解できなくて, テストができない」「理科の実験内容は,理解しているけど,テストの問題が理解できない」と いうように,内容は理解しているけれども問題文が理解できず,悔しい思いをしているという 声をよく耳にする。今後は,国語科以外の教科も視野に入れ,算数の文章問題や理科社会など 多様な教材研究が求められるであろう。

(1) 「Japanese as a Second Language(JSL)の子ども」とは,「日本語を第二言語として学ぶ子ども」 を意味する(川上 2006:15)。

(2) 教科学習,特に国語科の授業に参加できるようになるには,教科書から読み取った内容を自分の 中に吸収し,主人公の気持ちになったり,著者の言おうとしていることを汲み取ったりしなけれ

(11)

ばならない。そして,自分の考えや経験と結びつけ,その考えをまとめ,表現する力が必要とな る。そこで,本研究では,内容の読み取りから産出までの力を「読む力」とする。 (3) 自己の環境を効果的に処理することができる能力,または特定の行動を行う自らの能力に関する 自己評価のこと(縫部2001:147)。 (4) 『光村ライブラリー小学校編』第8巻に収録されているもので,話の分量,内容,質問項目すべて が作成できるか否かを考慮し,採用した。 (5) 『国語 3年下』(1982)光村図書に収録されているもので,注釈(4)同上の理由で,採用した。

引用文献

Beaver, J.M. (2006) Developmental Reading Assessment, Grades 4–8, Second Edition. Celebration Press, Inc. 平田昌子(2010)「韓国人JSL児童生徒を取り巻く学習環境と読書力―ダブル・リライト教材使用の試 み―」桜美林大学大学院 修士論文. 川上郁雄(2006)『「移動する子どもたち」と日本語教育』明石書籍 清田淳子(2007)『母語を活用した内容重視の強化学習支援方法の構築に向けて』(シリーズ言語学と言 語教育8)ひつじ書房. 光元聰江・岡本淑明・湯川順子(2006)「外国人児童のためのリライト教材・音読譜による国語科の指 導」『岡山大学教育学部研究集録』131(1),113–122.山大学教育学部. 森沢小百合(2005)「JSL児童の『読む』力と『自己有能感』を育成するための一試案:『発達』的見地か らJSL児童への日本語指導を考える」『早稲田大学日本語教育実践研究』 2,35 –44,早稲田大学 日本語教育実践研究.

Raphael.Taffy, E. (1986) Teaching question-answer relationships revised, The Reading Teacher, 39, 516–523. 櫻井千穂(2007)「渡日直後の外国人児童の在籍学級参加への取り組み」『日本語・日本文化研究』(17), 155–164.本文化研究会. 舘岡洋子(2005)『ひとりで読むことからピア・ラーニングへ 日本語学習者の読解過程と対話的協働 学習』東海大学出版. 外山滋比古(2007)『「読み」の整理学』筑摩書房.

表 5  評価基準(Raphael (1986)の枠組みを援用し筆者作成) 直接的手がかり型 レベル 1: 正答率が30%未満 レベル2: 正答率が30%以上60%未満 レベル3: 正答率が60%以上90%未満 レベル4: 正答率がほぼ90%以上分散的手がかり型 示唆的手がかり型 レベル1: 全く関係のないことを答える。または答えない。 レベル2: 短く答える。理由などは,はっきり説明できない。 レベル3: なぜ,そう思ったのか理由までしっかりと説明できる。 レベル4:   理由を詳細に説明し,共感したり,

参照

関連したドキュメント

この 文書 はコンピューターによって 英語 から 自動的 に 翻訳 されているため、 言語 が 不明瞭 になる 可能性 があります。.. このドキュメントは、 元 のドキュメントに 比 べて

 彼の語る所によると,この商会に入社する時,経歴

2021] .さらに対応するプログラミング言語も作

わかりやすい解説により、今言われているデジタル化の変革と

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

□ ゼミに関することですが、ゼ ミシンポの説明ではプレゼ ンの練習を主にするとのこ とで、教授もプレゼンの練習