Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
白山・山村住居の近世的様相
-住空間の史的展開過程に関する研究(その 3)―
Aspects of Haku-Mountains' Dwellings during the
Edo Period
Author(s)
島村 昇(Noboru Shimamura)
Citation
生活科学論叢(Review of Living Science)
,
No.26:13-42
Issue Date
1989
Resource Type
Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
URL
Right
白山 ・山村住 居 の近世 的様 相
住 空 間 の 史 的 展 開 過 程 に 関 す る 研 究(そ の3) 島 村 昇 目 次 序 3.山 村 の 下 層 ・中層 住 居 1.山 村 住 居 の 成 立 背景 3.1コ ヤ 住 空 間 1.1山 村 の 階 層 構 成 3.2コ ヤ の装 置 類 1.2山 村 の 家 族 構 成 3.3イ エ(平 屋)住 空 間 1.3山 村 の 生 活 状 況 3.4イ エ(2階 建)住 空 間 1.4山 村 の 生 活 空 間 3.5イ エ の装 置 類 1.5山 村 の 居 住 空 間 3.6住 空 間 の 増 殖 1.6山 村 の 空 間呼 称 〔注 〕2 .山 村 住 居 の 呼 称 法 後 記2 .1コ ヤ ・イエ の近 世 的 概 念 2.2コ ヤ ・イエ の概 念 移 行 2.3ウ チ概 念 の 発 生 2.4コ ヤ ・イエ ・ウ チ の 認 識 状 況 2.5付 属 屋 の 種 類 と呼 称 2.6ヤ シキ の 概 念 と規 模 序 前 章 まで に 山 村 住 居 の 古 代 的 ・初 源 的性 格 を み た 。 本 来 な ら次 に 当 該 山村 住 居 の 中世 的 性 格 を み る と こ ろ で あ る が 、 い まの と こ ろ 中世 に 関 す る 資料(史 料)は ほ とん ど皆 無 で あ る。 そ の た め 、 中世 的 様 相 に つ い て 直 接 論 ず る こ とは で きな いが 、古 代 的 性格 お よび 近 世 的 様 相 か らい わ ば 不 等 式 の 形 で 推 定 す る こ とは で き る。 本 論 は 白山 ・山 村 住 居 の近 世 的 様 相 を明 らか に す る こ と を 目的 とす る もの で あ る が 、 以 上 の理 由 か ら も重 要 な位 置 を 占め る もの で あ る。 -13一ネ プ キ ゴヤ に み られ た 古 代 的性 格 か ら脱 却 して 、よ うや く柱 建 て の ク ズ ヤ に み られ る よ う な近 世 的 状 況 へ 移 行 して い く様 相 が追 跡 さ れ る。下 層 に お い て は 、コヤ と呼 ば れ る ネ ブ キ の住 居 が い まだ 古代 的 な 様 相 を と ど め て 使 用 さ れ,てい た が 、 中層 で は柱 建 て の ク ズ ヤ が 営 まれ る よ うに な り、 上 層 で は2階 建 、最 上 層 で は3階 建 の 宏 壮 な住 居 建 築 が 現 れ る。 ま ず これ ら山 村 住 居 の 成 立 背 景 と な る 山村 の社 会 的 ・生 活 空 間 的 様 相 か らみ て い きた い 。 1.山 村 住 居 の 成 立 背 景 山村 住 居 の 成 立 背景 と して 、社 会 的 側 面 か ら 山村 の 階 層 構 成 、 家 族 構 成 等 を み る。近 世 封 建 社 会 に お け る階 層 差 ・身 分 差 に は著 しい もの が あ り、 当 山 村 にお い て も例 外 で は な か っ た 。 この 階 層 差 ・身 分 差 は住 居 の 規 模 ・構 造 ・意 匠等 に少 な か らず 影 響 し、 粗 末 な ネ ブ キ ゴ ヤ か ら宏 壮 な3 階 建 の大 家 まで 実 に 大 き な住 居 格 差 を生 じ させ た。 この 住 居 格 差 の 中 で 、下 層 の住 居 に お い て は よ り多 く遠 い昔 日の古 代 的 性 格 を とどめ 、 よ り上 層 の住 居 にお い て は 新 た な構 法(こ れ は 里 方 か らの技 術 導 入 に よ る とお もえ るが)に よ る近 世 住 居 の展 開 が み られ る。 一 方、 空 間 的 側 面 か ら は 山村 の 生 活 空 間 ・居 住 空 間 を トー タ ル にみ る 。 住 空 間 の 問 題 は 、 と り もな お さず外 部 空 間 との 関 係 の 問 題 で もあ り、一個 の 住 空 間 が 成 立 す る た め に は、 トー タル な生 活 空 間 ・居 住 空 間 が 前 提 され る。 生 活 空 間 は 山村 の 生 活 ・生 産 の場 が どの よ うに構 成 され て い た か 、 ま た、居 住 空 間 は 住 居 を中 心 とす る生 活 の 場 が どの よ うに構 成 さ れ て い た か をみ る もの で あ る。 1.1山 村 の 階 層 構 成 山 奥 い 山村 の 住 居 も、近 世 に 入 る と階 層 差 が 一 段 と顕 著 に現 わ れ る 。寛 文8年(1668)、 白 山麓 18ケ 村 は加 賀 藩 と福 井 藩 の 支 配 を離 れ て 、 幕 府 の 直轄 領(天 領)と な り、 支 配 体 制 は 次 の よ うに 固 定 され る。 5人 組
代 官 一 割 元 一 取 次 元 一 庄 屋 一 組 頭 一 組 子(百 姓 、 水 呑) コ ノ 陣 屋 村 この 図 式 にお い て 、代 官 、割 元 は 幕 府 側 の役 人 で 陣屋 を構 え る。次 の 取 次 元 は 、地 元 の 大 庄 屋 が これ を勤 め 上 意 下 達 ・下 意 上達 の 任 に 当 っ た 。 これ 以 下 が 山村 に 居 を定 め る もの で あ る。 次 の 庄屋 が 村 の長 で あ る こ とは い う まで もな い が 、後 に 出 る加 賀藩 で は これ を肝 煎 とよぶ の で 予 め お 断 り して お きた い。 次 の 組 頭 ・組 子 は5人 組 制 度 の 組 の 構 成 貝 とそ の 責 任 者 で あ る。 この よ う な 支 配体 制 は、 当 時 の 山村 の 階 層 構 成 を如 実 に示 し て お り、そ れ は ま た 山村 住 居 の 様 相 に もか な り
ス トレー トに反 映 さ れ て い た。 そ の様 相 につ い て は 、 す で に 第1章 に お い て 引 用 した文 章 や 歌 に も現 れ て い た と こ ろ で あ る が 、 頁 を繰 る手 間 を は ぶ くた め に 次 に再 掲 す る。上 記 支 配 体 制 に お け る取 次 元 、庄 屋 あた りの 住 居 の 偉 容 は 次 の よ うで あ っ た。 十 郎 右 衛 門 は此 谷 中 の 魁 首 に て 、 白 山下 公 領 一 万 石 の支 配 す る 由也 。屋 敷 は石 垣 積 廻 し、両 扉 の 門 大小 三 つ 建 た り。 家 は 三 階 作 り、土 蔵 五 つ 、家 内 の者 四 十 人 計 と云 。十 郎 右 衛 門 に 限 らず 、 此村 に は三 階 造 りの 長 さ十 四 、 五 間 も あ る大 家 多 し。 十 郎 右 衛 門 は 白 山麓18ケ 村 の 取 次 元 を勤 め た 大 庄 屋 ・山岸 家 の こ とで あ る 。 こ の3階 建 の大 住 居 は 現 存 す るの で 後 に詳 論 した い が 、 庄 屋 あ た りで もこ れ に類 似 す る 「三 階 造 りの長 さ十 四、 五 間 も あ る大 家 」が 多 く存 在 し た。 こ れ ら の大 家 は 山村 住 居 の 頂 点 に 立 つ もの で あ っ た 。 しか し、 一 方5人 組 に属 す る一 般 の 組 子 クラ ス の 住 居 は 、ま だ サ ス構 造 の ネ ブ キ ゴ ヤ の もの が 多か っ た 。 次 の 歌2首 は そ の 様 子 を今 に伝 え て い る。 み ね 高 く さ と よ り出 て つ く りお く伏 屋 に ひ ともす ま ぬ 冬 か な 秋 の 田 に か ま しつ く りて 冬 こ も るふせ や さ び し き風 嵐 の村 こ こ に出 て くる伏 屋(ふ せ や)が 断面3角 形 の ネ ブ キ ゴヤ で あ る こ と につ い て は 、 第1章 、1・ 2「 フ セヤ の 形 態 的 古代 性 」の とこ ろで も述 べ た とお りで あ るが 、 そ れ は住 居 とい う よ りコヤ と よぶ に適 しい もの で あ っ た 。上 記 の よ うに 、対 象 とす る 山 村 住 居 の 階 層 分 化 に は著 し い もの が あ っ た 。 1。2山 村 の 家 族 構 成 前 項 に み た よ うに 、近 世 に お け る 山 村 の階 層 は 取 次 元 か ら組 子 に い た る 極 端 な分 化 を来 た して い た が 、 これ は 家族 構 成 に も反 映 して い る。 図3-1に 示 す よ うに 、直接農業(林 業)に 従事 す る労 働 者 は 百 姓 と水 呑 で あ る。 そ して 、 こ の 階 層 が 山村 の 大 多数 の 人 口 を 占め て い た。先 の 階 層 構 成 と対 応 させ る と、 五 人 組 を構 成 す る組 頭 、 組 子 あ た りの 階 層 で あ る。 一 般 に 百 姓 は石 高 を もち 、水 呑 は これ を も た な い。 身分 の 区別 に は歴 然 た る もの が あ り、文 書 に も身分 が 明 記 され て い る 。 資 料 と した 二 口村 の 場 合 、全63世 帯 の うち百 姓 は47世 帯(74.6%)、 水 呑 は16世 帯(25.4%)で 、 約%が 最 下 層 を構 成 して い る。 以 下 、 表3-1に よ って こ の あ た り の 状 況 をみ る。 こ の 山村 の 人 口は全268人 で あ るが 、 こ の う ち百 姓 に属 す る もの は226人(84.3%)、 水 呑 に属 す 一15一
図3-1近 世 山 村 の 家 族 構 成 例(1864)
注)1.● 男 、○ 女、 数 字 は年令 を示 す。2,()内 は 同村 よ りの奉 公 人 。3,原 資料 に 「病死 」 とあ る もの、 家族 構 成 貝 が 欠落 して い る もの1件 は除 く。
資料)二 口村宗 門人別 改帳(元 治 元 年 ・1864『尾 口村 史 ・第1巻 ・資料 篇1』P.P,438∼449)
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る も の は42人(15.7%)で 、 世 帯 数 比 に 比 べ る と 人 口 比 で は 水 呑 が か な り低 率 に な っ て い る が 、 こ れ は 水 呑 の 世 帯 当 り 人 数 が 少 い た め で あ る 。 百 姓 で は 世 帯 当 り 人 数 が4.81人 で あ る の に 、 水 呑 で は2.63人 と顕 著 な 差 が み ら れ る 。 図3-1に よ っ て も分 る よ う に 、 百 姓 で は2世 代 な い し3世 代 の 平 均 的 な 家 族 構 成 が 大 半 を 占 め て い る の に 対 し 、水 呑 で は 単 身 や 欠 損 家 族 が 多 い 。 こ の 結 果 が 上 記 の 世 帯 人 数 の 差 を 招 来 し て い る こ と は い う ま で も な い 。山 村 の 貧 し い 生 活 状 態 が こ の 点 か ら も推 測 さ れ る。 次 に 年 令 階 層 に つ い て み る と 、 平 均 年 令 は 百 姓29.06オ 、 水 呑28.81オ で 、 い ず れ の 場 合 も 約29 才 で 大 差 が な い 。 年 令 的 に は い ず れ も類 似 の 分 布 を示 し て い る と い え る 。 た だ し、 図3-2に 明 ら か な よ う に 、20才 台 男 子 が 極 端 に 少 い の は 、青 年 労 働 者 の 村 外 流 出 を 示 し て い る も の と み ら れ る 。 女 子 に お い て も 多 少 こ の 傾 向 は 認 め ら れ る が 男 子 ほ ど で は な い 。 以 上 に よ っ て 、 山 村 の 家 族 構 成 の 概 略 を み た が 、 さ い ご に 住 居 との 関 連 で も っ と も 重 視 さ れ る 世 帯 人 数 に つ い て 再 記 す る と、 百 姓 で は 最 少2人 、 最 大8人 、 平 均4.81人 と な り、 平 均5人 家 族 とみ ら れ 、 い う ま で も な く今 日 の 核 家 族 よ り大 き な 家 族 人 数 で あ る が 、一 方 水 呑 に お い て は 最 小 1人 、 最 大6人(こ れ は 本 来 百 姓 で あ っ た も の が 水 呑 に 転 落 し た も の と お も え る)、 平 均2.63人 で 現 代 の 核 家 族 を 下 ま わ る 小 家 族 で あ り、 き び し い 山 村 の 生 活 を示 し て い る 。 表3-1近 世 山 村 の 家 族 人 数 ・年 令 構 成(1864) A百 姓B水 呑A+B合 計(平 均) 男 女 小 計 男 女 小 計 男 女 小 計 1.人 口107119226202242127141268 2.世 帯 数47(74.6%)16(25.4%)63(100.0%) 3.世 帯 当 り 人 数4.812.634.25 4.平 均 年 令28.2129.8329,0629.7028.0028.8128.4429.5529.02 80才 台112000112 70才 台347101448 560才 台69151017916 年50才 台6131911271421 令 階40才 台131023459171532 層30才 台201737358232245 人20才 台9152403391827 10才 台2430548513323567 1才 台252045235272350 資 料)図3-1に よ る 。 -17一
図3-2近 世 山 村 の 年 令 階 層 構 成 80才 台 70才 台 60才 台 50才 台 40才 台 10才 台 1才 台 男 女 百姓 水 呑 百姓
1
3020100102030 人数(人) 1.3山 村 の 生 活 状 況 前 項 に示 し た よ うな 百 姓 、水 呑 ク ラス が 大 半 を 占め る 山村 の 生 活 状 況 の 一 端 を伺 い し る もの と して、 「鴇 ヶ 谷 村 火 事 覚 」(前 出 、 元 禄8年 、1695)を 挙 げ て お きた い 。 それ は 次 の よ うで あ る。 鴇 ケ 谷 村 火 事 覚 一、 十 ケ 谷 村 家 数 弐 拾 七 軒 、 小 家共 二 三 拾 四 軒 御 座 候 所 二 亥 十 一 月 十 八 日み の 刻 ・ひ つ し刻 迄 二、 家数 弐拾 軒 ・道場共 二弐拾五 軒[]一 つ も不残や け申候、 火本又右衛 門ふ ろや 仲7, δ火 出 申候 、 道 誓 ・太 郎 左 衛 門 ・此 四 軒 バ ー 度 くわ い す い仕 候 、 弥 々 お と ろ き 申候 、 (無} され と も御 仏 ・御 筆 之 者 少 もや き不 申 、 御 書 ハ 兄 事 よ ろ こひ 申候 一 、 西 し ま お もや 新 右 衛 門 (く) ぬ の こ壱 ツ 、 や け た る物 に 九 れ られ 申候 かや 壱 しめ、 囎 ナ壱 ツ、 な・・□ 壱へ 響 袈 (ち) 同 あせ つ 藤 九郎 (シ)(わ) む 四 ろ[]、 ハ ら弐 そ く、 そ ノ ほ か 、 む 四 ろ ・な ハ か ず し ら す と も 二 村 中 ミ ま へ (下 略)この 文 書 に み え る十 ヶ谷村 は 家 数27軒 で 、 小 家(コ ヤ)を 含 め る と34軒 で あ っ た 。 先 の 二 口村 に 比べ る家 数 は少 な いが 、それ で も30戸 程 度 の ム ラ を構 成 して い る。 ま た、「家 数 弐拾 七 軒 、小 家 共 二 」とい う よ う に、 明 らか に イエ と コヤ が 区 別 され て い る。 後 に ふ れ る よ うに 、 この 場 合 の イ エ は 柱建 て の クズ ヤ を意 味 し、そ れ は お お む ね 百 姓 ク ラ ス に対 応 し、一 方 コヤ は ネ ブ キの 粗 末 な コヤ を指 し、 それ は水 呑 ク ラ ス に対 応 す る もの で あ っ た ろ う。身分 制 の き び しい近 世 封 建 社 会 に お い て は 、両 者 を明 確 に 区分 して記 録 した の で あ ろ う。 こ の 場 合 、 両 者 の 比 率 を求 め る と、 百 姓 の イ エ27軒 は全 軒数 の79.4%、 水 呑 の コヤ7軒 は20.6%に 当 る。 この 比 率 は前 項 の 表3-1に 示 した 両 者 の 比 率(百 姓74.6%、 水 呑25.4%)に 近 い値 を示 して い る。 次 に 焼 失 した 家数20軒 と道 場 を合 せ て25軒 と記 さ れ て い るが 、道 場 を1軒 とす る と合 計 軒数 が 合 わ な い 。 す な わ ち、4軒 不 足 す る の で あ るが 、 そ れ は お そ ら くそ の 次 の 又 右 衛 門 ・道 誓 ・太 郎 左 衛 門 ・新 右 衛 門 の4軒 を含 め て い るの で あ ろ う。 しか し、 この 場 合 コヤ は1軒 も含 ま れ て い な い こ とに な るが 、接 近 す る イエ と道 場 が 焼 失 し、 コヤ は こ れ らの イエ か らは 多 少 距 っ た場 所 に位 置 して い て 延 焼 を まぬ が れ た の で あ ろ う。す な わ ち、 イ エ と コヤ は混 在 す る こ とな く、別 の 場 所 に立 地 して い た 。居 住 地 の 階 層 分 化 で あ る。 ま た 、 火 は又 右 衛 門宅 の 「ふ ろや 」か ら出 た とあ る か ら、 こ の イ エ に は フ ロ が あ っ た 。 た だ し、 この フ ロは オ モヤ の1部 に つ く られ て い たの か 、オ モヤ とは 別 棟 で あ っ た の か は 判 明 しな いが 、 又 右 衛 門 宅 が 柱 建 て の イ エ で あ る こ とは 、 「御 仏 」 「御 筆 之 者 」 「御 書 」な どが あ っ た こ とか らほ ぼ 確 実 で あ る とお も え る の で 、たぶ ん オ モヤ 内部 の 一 角 に フ ロ を設 け て い た の で あ ろ う。もっ と も、 当時 フ ロは 一 般 的 で は な か った で あ ろ うか ら、フ ロの あ る イ エ は 多 少 身分 の 高 い 百姓 で 、 フ ロ の な い イ エ や コヤ の住 人 は も ら い プ ロ を し た。 次 に 見 舞 品 の記 録 で あ る。 ヌ ノ コ(布 子)、 手 桶 、 ナ ワ(縄)、 ム シ ロ(薦)、 ワ ラ(藁)な ど で あ り、 これ らの 生 活 必 需 品 で あ る こ とは い うま で も な いが 、今 日か らみ る と貧 しい 見 舞 品 で あ る。 しか し、 ム ラの 交 流 、相 互 扶 助 の 様 子 が み て とれ る。 さ らに 見 舞 品 の贈 り主 の姓 名 に 「お もや 新 右 衛 門」 と 「あ せ つ 藤 九 郎 」 が あ る。 こ こ に み え る 「お もや 」 「あ せ つ 」 は住 居 と関連 す るの で採 り上 げ て お き た い が 、 「お もや 」 は建 物 と して は 主 屋 を指 す が 、 こ の場 合 は本 家 を意 味 して い よ う。 こ れ に対 して 「あせ つ 」 は ア セ チ(庵 室)の 誰 りで 、分 家 を 意 味 して い よ う。 す な わ ち、本 家 をオ モヤ 、分 家 をア セ チ と して い るの で あ る が 、 本 来 オ モ ヤ は主 屋 を、ア セ チ は 貧 しい クズ ヤ を意 味 して い るか ら、建 物 呼 称 が 家 族 関係 の 呼 称 に 流 用 さ れ た もの と考 え られ る。本 家 ・分 家 の 身分 差 が 住 居 関 連 用 語 に よ っ て代 用 され て い るの は 、 住 居 の様 相 が 今 日 と 同 じ くす ぐれ た ス テー タ ス ・シ ン ボ ル で あ った こ と を示 して い よ う。 次 項 以 下 、 以 上 の よ うな 山村 の 生 活 が 展 開 され た空 間 につ い て概 観 して お こ う。 -19一
ユ.4山 村 の 生 活 空 間 くユラ 近 世 にお け る 山村 の 生 活 空 間 に つ い て は 「女 原 村 伝 兵 衛 遺 言状 」(天 明 元 年 ・1781)が 参 考 に な る。 そ れ は 次 の よ うで あ る。 (譲)(証) 御 田が い す り庄 文 の事 く 一、 六 郎 右 衛 門 と利 屋 シ き壱 ケ 正 、 いへ 壱 ケ 正 、 所 ハ す 原 六 郎 右 衛 門 、 ば た ① (中略) …、 た き ぎば 、 ニ ハ 、 あ ら シ、 は ヤ シの 此 らす を さん 二 いす り申候 、 ② (下略) ① の 「六 郎 右 衛 門 と利 屋 シ き壱 ケ 正 」 は 、 六 郎 右 衛 門 か ら買 取 っ たヤ シ キ(敷 地)1ケ 処 の 意 で あ り、 そ こ に 「い へ 壱 ケ正 」(家1ケ 処)が あ った 。 こ れ は敷 地(ヤ シ ギ)と 居 宅(イ エ)を 区 別 して い る の で あ り、 他 の 例 と符 号 す る。 ② の 「た き ぎ ば」(薪 場)、 「ニ ハ 」(庭)、 「あ ら シ」(焼 畑)、 「はヤ シ」(林)は 、 ヤ シ キの 外 の 生 活 空 間 を示 す と考 え られ る。 タ キ ギバ(薪 場)は 、 い う まで も な く燃 料 を拾 集 す る場 所 、 ニ ハ (庭)は 畑 作 の 場 所 、 ア ラ シ(焼 畑)は 主 食 とな る ヒエ ・ア ワ等 を つ くる場 所 、 ハ ヤ シ(林)は 用 材 を収 獲 す る場 所 で あ り、 いず れ も生 活 上 不 可 欠 の 場 所 で あ る。 これ らの場 所 は、 か な らず し もヤ シ キ に 近 くあ る と は 限 らな いが 、 ヤ シ キ ・イ エ と密 接 に 関 連 して 当 地 の生 活 を支 えて い た 。 この うち 、 ニ ハ(庭)が イ エ に 最 も近 い場 所 で あ っ た 。 く ラ 以 上 の他 に、 「くさ かや ば 」(草 茅 場)が み え、 コヤ や イ エ の 屋 根 葺 き材 料 と して 貴 重 な カヤ の 収 獲 場 所 や 、 「は た け」(畠)、 「田」(水 田)、 「ほへ 山 」(柴 を採 集 す る 山)、 「栗 林 」、 「ミヤ ウ ガ 畑 」 (茗荷 畑)、 「水 屋 」、 「清 水 の 出 口」な どが み え る。ハ タ ケ は ヤ シ キ の 中 に あ る場合 もあ り、 外 に あ る場 合 もあ る。 田 は い うまで もな く水 田 で あ るが 、 山 の斜 面 を切 開 い た小 面 積 の 水 田 で あ る 。 ホエ ヤ マ は 柴 を採 集 す る雑 木 林 、栗 林 は栗 を収 獲 す る栗 畑 で あ る 。 ミズ ヤ は 山 の 清 水 をた め た共 同 の 水 汲 場 を意 味 す る。ヤ シ キ の位 置 と清 水 の 出 口 は、か な らず し も1対1に 対 応 しな い か ら、 ミズ ヤ が 必要 な 場 合 も あ っ た 。 ヤ シ キ の近 くに 山水 が あれ ば、 カ ケ イ(覧 、 懸樋)で イ エ まで 引 い た 。 ま た 山 の 水 を利 用 した水 車 小 屋 も文 書 の 中 に散 見 す る。 ま た、 「きや ち」(垣 内)な る語 が み え 、 その キヤ ー チ(こ の 語 は現 存 して い る)の 中 にハ タ ケ が あ るの で、 この キ ヤ ー チ は 、ヤ シ キ とハ タ ケ をふ くめ た 空 間領 域 を示 す もの と解 さ れ る。 さ ら に キ ヤ ー チ の 中 に 「杉 林 」が あ る場 合 もあ り、 キ ヤー チ は上 記 の ニ ハ 、 ハ タ ケ 、 ス ギバ ヤ シ な ど を含 め た ヤ シ キ を と り ま く私 有 地 を指 す もの と解 さ れ る。 ま た 、先 の ミズヤ と同 じ く、共 同 施 設 と して 「道 場 」が み え る。 近 世 に お い て は 、 こ の 山奥 い 山村 に も真 宗 の 浸 透 は 明 らか で あ り、村 々 に道 場 が建 て られ 講 が お こ な わ れ た 。
図3-3近 世 山村 の 生 活 空 間 概 念 図
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'qD、 !1、 、 、 ノ'、 、 ・㌧ /1、 !,㌔ 1'、 1、 、 こ れ らの 生 活 空 間 か ら離 れ て コヤ(小 屋)、 コヤ バ(小 屋場)が あ る。 コヤ は デ ツ ク リゴ ヤ を意 味 し、 コヤ バ は そ の デ ツ ク リゴヤ の 敷 地 を指 す 。キ ヤ ー チが イ エ を 中心 とす る生 活 領 域 を示 す の に対 して 、 コヤ バ は コヤ を 中 心 とす る農 作 業 場 を指 して い る。以 上 を 図 化 す る と図3-3の よ う に な ろ う。 1.5山 村 の 居 住 空 間 図3-3「 近 世 山 村 の生 活 空 間概 念 図 」 は 、 イエ を中 心 とす る生 活 ・生産 の場 の ひ ろ が りを模 式 的 に 図化 し た もの で あ るが 、 この 中、 イ エ 周 辺 の ヤ シ キ の状 況 、す な わ ち居 住 空 間 は どの よ う に構 成 さ れ て い た の だ ろ うか 。一 般 に農 家 は 、住 居 とな る オ モ ヤ の他 に い くつ か の 付 属 屋 を もち 、 数 棟 の 建 物 が 一 団 とな っ て 居 住 空 間 を構 成 す る。当 地 に お け る そ の よ う な状 況 を示 す 例 と して 、 -21一ロ ラ 「年 賦 売 謹 文 之 事 」(寛 政12年 ・1800)が あ る。 それ は次 の よ うで あ る。 年 賦 売 謹 文 之 事 (前 略) 一、 然 共 右 境 之 内、 杉 、 諸木 、 竹 之 義 ハ 相 除 キ 申1ト、 居 家 ・馬屋 小 屋 ・せ ん ち ん共 二三 拾 ケ 年 之 間 、代 金 子 拾 八 両 二 定 、 只 今 槌 二 受 取1ト上 ハ 、右 三 拾 ケ 年 之 間 、 貴 殿 勝 手 二御 支 配 可 被 成1ト、為 後 日、 謹 文 相 度 し 申所 、 如 件 、 (下 略) まず 文 中 当初 に み え る 「右 境 之 内 」 の 「境 之 内」 は 、 図3-3の キ ヤ ー チ(垣 内)に 当 る。 さ れ ば この キヤ ー チ に あ る 「杉 、 諸 木 、 竹 」 は 除 い て 、純 粋 に居 住 の 用 とな る 「居 家 ・馬屋 小 屋 ・ せ ん ち ん 」を年 賦 売 と して い る。 こ れ は い わ ば居 住 空 間(ヤ シ キ)に あ る居 住 用 建 物 の 年 賦 売 で 、 境 之 内(キ ヤ ー チ)の 生 産 的 要 素 、 こ の 場 合 は植 林 的 要 素 が 除外 され て い る。 も し庭 畑 な どが あ れ ば 同 じよ うに 扱 わ れ た で あ ろ う。 さ て居 住 空 間(ヤ シ キ)を 構 成 す る建 物 は、 イ ヤ ・ウ マ ヤ ・セ ン チ ンの3棟 で あ る。 イ ヤ は い う まで も な くイ エ で あ り、ウ マ ヤ は実 際 に ウマ の 飼 育 に 当 られ た か 納 屋 と して使 用 さ れ た か は分 らな い が 、 とに か く1棟 の コヤ で あ る。 次 に セ ンチ ン は便 所 で 、 こ れ も イエ とは 別 棟 に建 て られ て い た 。 以 上 の よ う に、 こ の例 で は イ エ を 中心 と して 、 ウマ ヤ(コ ヤ)と セ ン チ ン の2棟 を付 属 屋 とす る3棟 に よ って 居 住 空 間 が 構 成 され て い た こ とが 分 る。 な お 、 こ の例 で は イエ を含 む3棟 構 成 で あ るが 、後 に み る付属 屋 の 状 況 か ら推 して 、 さ ら に 多 い棟 に よ っ て構 成 され た例 もあ っ た ろ う。 しか し、最 低 限 は イエ とセ ンチ ン の2構 成 で 、一 般 に 便 所 は まだ イエ と別 棟 に さ れ て い た。 1.6山 村 の 空 間 呼 称 以 上 に み た よ うに 、山 村 の 自給 自足 的 な 生 活 空 間 の 構 造 は 、大 き く分 け る と生 産 の場 と生 活 の 場 とい う こ とに な るが 、 そ れ ぞれ の 中 で ま た空 間 は機 能 分 化 して お り、 こ れ を反 映 して 、住 居 に お け る室 呼 称 と同 じ よ うに 、外 部 空 間 に お いて も空 間 呼 称 が 分 化 して い る。そ れ は と り もな お さ ず 生 活 空 間 の 構 造 を示 す もの と もい え るの で あ る。 まず 一 般 的 な敷 地 に はヤ シキ とい う用 語 が使 わ れ る。そ して 、こ のヤ シ キ に建 物 の 名 を付 して 、 居 家 敷 ・家 屋 敷 ・蔵 屋 敷 ・板 蔵 屋 敷 等 と よば れ る(後 述)。 いず れ に し て も、建 物 と敷 地 は 明確 に 区 別 さ れ て お り、建 物 、土 地 そ れ ぞ れ の 所 有 権 を明 確 化 す る必 要 か ら生 じた状 況 で あ ろ う。な お 、 しの ヤ シ キ の語 は 、 文 献 上 で は承 久2年(1220>が 初 見 で あ る とい う。 先 に 出 た 村 を 意 味 す る ジ ゲ と 同 様 、 この ヤ シ キ な る語 も中世 起 源 で あ る。 この よ う な事 態 は 、 山 中 の母 村 の 成 立 が 中世 で あ る
こ とを強 く示 唆 す る もの で あ る。住 居 的 視 点 か らみ る と、山 中 に散 在 す る古 代 的 な ネ ブ キ ゴヤ と は別 に柱 建 て の イエ を主 流 とす る ジゲ(母 村)の 成 立 を意 味 す る の で あ る 。 また 、1例 で あ るが 「小 屋 場 」 な る語 が 文 書 に み え る。 先 に もふ れ た よ うに 、 コヤ バ は デ ツ ク ー リゴヤ の あ る場 所 を指 す が、 近 年 の 調 査 に よ る と、上 記 の ヤ シキ と キヤ ー チ(垣 内 ・畑)を 合 せ た も の を グ ル ワ ・グ ル リ(廓)、 ま た は コ ヤ バ と い っ て い る15)す な わ ち 、 こ こ で は グ ル ワ と コ ヤ バ が 同 義 語 と して使 わ れ て い るの で あ る が、この 事 実 は粗 末 な デ ツ ク リゴ ヤ の コヤ バ が よ り多 くの 機 能 を充 実 させ た グル ワ に発 展 して い っ た 史 的 過 程 を も示 す もの とお もえ る。以 上 を ま とめ て 図 化 す る と次 の よ う に な ろ う(図3-4)。 図3-4
一 耐;二
∴;∵憲1轡
な お 、 ヤ シ キ の部 分 呼 称 と し て コバ(木 場)と い う言 語 が 残 っ て い る。 コバ は オ モヤ の 前 の 平 ラ 坦 な 空地 を指 し、ち な み に 現 代 で は 洗 濯 物 を干 す 場 をモ ノ ホ シ コバ とい う。 コバ な る語 も焼 畑 農 耕 地 の住 居 前 の 平 坦 な場 に 由 来 す る こ とは 明 らか で あ り、現 代 ま で伝 承 さ れ て い る こ とが分 る 。 2.山 村 住 居 の 呼 称 法 山村 住 居 の 近 世 的様 相 を追 跡 す る に 当 って 、まず 近 世 文 書 に現 れ る住 居 関連 の 用 語 を検 討 す る こ とか ら始 め た い 。本 来 、近 世 の 残 存物 件 、保 存 物 件 が あ れ ば そ れ を対 象 とす る の が有 効 で あ る が 、 上 層 の もの とは別 と して 中 ・下 層 の 物 件 は な い。 そ の た め 、 近 世 山村 住 居 の あ ら ま しの姿 を 文 書 に探 るの で あ る。 近 世 文 署 に現 れ る住 居 関 連 用 語 は 次 の よ うで あ る。 (1)住 居 に 関 す る も の 小 屋 、 居 小 屋 、 小 屋 家 、 小 家 、 家 、 居 家 、 通 家 ② 付 属 家 に 関 す る も の 馬 屋 小 屋 、 石 灰 小 屋 、 蔵 、 板 蔵 、 ふ ろ や 、 せ ん ち ん (3)敷 地 に 関 す る も の 小 屋 場 、 屋 敷 、 居 家 敷 、 家 屋 敷 、 蔵 屋 敷 、 板 蔵 屋 敷 以 下 、 そ れ ぞ れ に つ い て 検 討 し て い き た い 。 2.1コ ヤ ・イ エ の 近 世 的 概 念 上 記 の 用 語 を み る と 、(1)住 居 に 関 す る も の で は 、 大 別 す る と コ ヤ(小 屋)と イ エ(家)の2種 で あ る 。 こ の コ ヤ と イ エ を核 と し て 多 少 の 意 味 的 ひ ろ が り を も っ て い る 。 コ ヤ に つ い て は 、 イ ゴ ー23-一 一ヤ(居 小 屋)、 コヤ ヤ(小 屋 家)が あ り、 い ず れ も居 住 用 の コヤ で あ る こ とは 明 らか で あ る。 次 に イエ につ い て は イヤ(居 家)、 トオ シヤ(通 家)が あ り、 イヤ は イ ゴヤ と同 じ く 「人 の 住 ん で い る」 を意 味 し、 文 書 に は現 れ な いが 、 ア キ ヤ(明 家 ・空 家)が これ に対 す る と考 え ら れ る。 ま た トオ シヤ は 「1年 を通 し て住 む 家 」 を意 味 し、 す な わ ち永 久 出作 りの 住 居 を指 す と考 え られ る。 これ は 他 方 で は 常 住 しな い イ エ の 存 在 を示 す もの で あ り、季 節 出 作 りの住 居 で もイ エ と呼 ば れ る もの が あ っ た こ と に な る。 上 記 の よ うに 、 コヤ とイ エ は 多少 の意 味 的 ひ ろ が りを も っ て は い る もの の 、 こ の よ う に コヤ と イエ が 並 列 的 に 頻 出す る とこ ろ を み る と、同 じ住 居 で も コヤ とイ エ は 異 っ た もの と し な け れ ば な ら ない 。 その 差 は ネ ブ キ と柱 建 て の 差 で あ ろ う。 あ る い は ネ ブ キ と クズ ヤ の 差 とい って も よい 。 す で にみ た よ うに 、 当地 で は 古 来 ネ ブ キ ゴヤ が 一 般 に お こ な わ れ 、現 代 に い た る ま で それ は コヤ な る呼 称 で 伝 承 され て い る。建 物 姿 態 か ら み て も それ は ま さ に コヤ で あ る。 一 方 、 イ エ は ネ ブ キ ゴヤ の 次 に 当 地 に 現 れ た柱 建 て 平 屋 の クズ ヤ を指 す と解 さ れ る。今 日に お い て もカヤ 葺 き平 屋建 の住 居 を ク ズ ヤ と呼 ぴ、 かつ て この 種 の住 居 が 当地 に 現 れ た と き、ネ ブ キ に 比べ て そ れ は い か に も颯 爽 と した容 姿 にみ え た に違 い な い 。そ して 、そ れ は 古 来 の ネ プ キの コヤ と明 確 に 区 別 さ れ イ エ と呼 ば れ た。 次 に 「小 屋 家 」 な る語 が ま ぎ らわ しい 。 こ れ は 小 屋 と家 の 結 合 した 語 で あ るが 、 柱 建 て の イ エ な ら と くに 小 屋 を付 す る必 要 が な い 。 第2章 で 例 示 し た柱 建 て の ネ ブ キ で あ る尾 田 家 住 宅(図 2-20)の 場 合 で あ れ ば 、た しか に コヤ とイ エ との複 合 とい え る の で 、 コヤ ヤ と呼 ぶ に適 し い が 、 こ の よ う な住 居 が どの 程 度 一 般 的 で あ った か 分 ら な い。 ま た、 そ れ ほ ど論 理 的 に コ ヤ ヤ な る 語 が つ くられ て い た か 疑 わ しい 。コヤ ヤ は イ エ と して 使 用 さ れ る居 住 用 の コヤ と考 え る の が 妥 当 か も 知 れ な い 。 先 に ふ れ た 「通 家 」 は た しか に イ エ で あ る が 、 これ が通 家 で あ っ て 通 小 屋 で な い と こ ろが 重 要 で あ る 。 「通 家 」の 現 れ る文 書 は 文 化11年(1814)で あ る が 、 当 時 デ ツ ク リゴ ヤ は 大 半 ネ プ キ で あ っ た だ ろ うか ら、出 作 りの 住 居 が 「家 」、す な わ ち柱 建 て の 住 居 と い う意 味 が 読 み とれ る と同 時 に 、 す で に 当 時 出 作 り地 に イエ が建 て られ て い た こ と を識 る の で あ る。出 作 り地 の 住 居 が 大 半 ネ ブ キ で あ り、 永 久 出作 りの 住 居 もネ ブ キ ゴ ヤ で あ る 以 上 、 と くに 「通 小 屋 」 とい う に は及 ぱ ず 、 た ん に 「小 屋 」 あ る い は 「居 小 屋 」 「小 屋 家 」 な どで よか った 。 ま た、 コ ゴヤ(小 小 屋)、 オ オ ゴヤ(大 小 屋)の 語 が み られ る。 同 じコヤ で も規 模 の 大 小 に よ る 区別 が な され て い る。 こ の場 合 の コヤ が 居 住 用 で あ る の か 、非 居 住 用 で あ るの か 分 ら な い が 、 コ ヤ と い う限 りや は りネ プ キ で あ ろ う。 以 上 に よ って 、近 世 文 書 に頻 出 す る コヤ と イエ とい う用 語 か ら、古 代 あ る い は そ れ 以 前 か ら 当 地 に 存 在 した ネ ブ キ ゴ ヤ とお そ ら く中世 以 降 次 第 に増 加 して い っ た 柱 建 て クズ ヤ を想 定 す る こ とが で きる 。
2.2コ ヤ ・イエ の概 念移 行 近 世 にお け る コヤ とイエ につ い て は 前 記 の よ うで あ るが 、そ れ以 降 コ ヤ と イエ の概 念 が変 っ て く る。 近 代 に ま たが る が 、つ い で に こ の 間 の 事 情 に つ い てふ れ て お きた い。近 代 に 入 る と、 ヤ マ ゴ ヤ(山 小 屋 、 明 治17・188418)な る 語 が み え る 。 先 に 出 し た 文 書 の コ ヤ や イ ゴ ヤ は た い て い ヤ マ ゴヤ で あ るが 、 たん に コヤ 、イゴヤ な ど として、 とくにヤ マがつ け られ ていなか った。これは ジ ゲ の生 活 が ウエ イ トを もつ につ れ て 、コヤ の 立 地 す な わ ちヤ マ が意 識 さ れ る よ うに な っ た た め で あ ろ う。 ジ ゲ その もの が 山 の 中 に あ る わ けで あ るが 、そ の ジゲ よ りさ らに 山 深 い場 所 に立 地 す る デ ツ ク リゴヤ は 、 た しか にヤ マ ゴヤ だ っ た の で あ る。 近 年 に お い て も、こ う した 出 作 り地 の 住 居 をヤ マ ノ コヤ と よん で い る。 また 小 型 の 住 居 をヤ マ ノ コヤ とい うの に対 して 、大 型 の もの はヤ マ ノ イエ と よん で い る19)いず れ の 場 合 も、立 地 す る場 所 をヤ マ と し て対 象化 して い る。 こ の よ うな傾 向 は 、近 代 以 降 現 代 ま で の 間 にみ られ る と こ ろ で あ り、近 世 に お い て は 、 す くな くと も文 書 に は現 れ て い な い 。 か つ て は 山 が 生 活 の場 で あ り、 ヤ マ と断 る必要 が な か った が 、近 代 以 降 出 作 り地 と ジゲ の生 活 的 距 離 が 生 じる に し た が って 、出作 り地 が ヤ マ と して対 象 化 され た た め で あ る 。 ま た、柱 建 て2階 造 の 確 固 た る建 物 は 、ヤ マ ノ イ エ で あ り、イ エ は先 述 の とお り柱 建 て を意 味 す るか ら妥 当 で あ るが 、や は リヤ マ が 付 加 され て い る。 そ して 、 この 時 期 に な る と、 コヤ と イエ の 間 に 多少 の 混 乱 もみ られ 、柱 建 て で も コヤ とよぶ 場合 が 生 じて くる。 そ して、 その 場 合 の コヤ と イエ の 差 は 規 模 の大 小 に よ る の で あ る。これ は ネ ブ キが 次 第 に柱 建 て に移 行 して い く過 程 と一 致 して い る。 つ ま り柱 建 て が 一 般 化 す る につ れ て 、 コヤ は本 来 の架 構 方 式 か ら建 物 の 規 模 を示 す 用 語 に変 化 して い っ た 。 そ して 、 こ の柱 建 て を お しす す め た 大 き な要 因 は 養 蚕 の 隆 盛 で あ る。 そ の た め コ ゴ ヤ(蚕 小 屋)は 柱 建 て で あ っ て も コヤ と呼 ば れ る。 以 上 の よ う に コヤ は ネ ブ キ、 イエ は柱 建 て とい う架 構 方 式 か ら区別 さ れ た 用 語 で あ っ た が 、近 代 以 降 は 柱 建 て が 普 及 す るの で、架 構 方 式 よ りも建 物 の 規模 に よ って 小 型 の もの を コヤ 、大 型 の もの を イエ と よぷ よ うに な っ た。 そ して、 ネ ブ キ ゴヤ とい う用 語 も、 この 時 期 に発 生 した とみ ら れ る。な ぜ な らイ エ で も コヤ と呼 ば れ る もの が現 れ て くる と、従 来 た ん に コヤ と い っ て い たネ ブ キ と ま ぎ らわ し くな り、ネ ブ キ を強 調 して ネ ブ キ ゴヤ と呼 ば な けれ ば な らな くな っ た か らで あ る。 2.3ウ チ概 念 の発 生 (10) 近 年 の 調 査 結 果 に よ る と、ネ ブ キ構 造 の 建 物 をネ ブ キ ま た は ネ ブ キ ゴ ヤ とい い、柱 建 て の2階 造 を ウチ と呼 ん で い る 。近 年 の 調 査 結 果 で あ るか ら、近 代 以 降 現 代 まで の 変 化 を そ の 中 に含 ん で い る筈 で あ る。こ の 間 の 大 きな 変 化 は イエ か ら ウチ へ の 変 化 で あ る。ネ ブ キ を表 示 した コヤ は そ の ま ま伝 承 さ れ て い る が柱 建 て を表 示 して い た イ エ は ウ チ に 変 化 して い る の で あ る。そ の 変 化 は なぜ 生 じたの か 。 -25一
現 代 、山 中の 出作 り住 居 の う ち、小 型 の もの をヤ マ ノ コヤ 、大 型 の もの を ヤ マ ノ イ エ と呼 ん で くユ け い る。 こ れ は先 に 述 べ た柱 建 て で も小 規 模 な もの を コヤ 、大 規 模 な もの を イ エ と呼 ぶ こ とに対 応 して お り、 いわ ば近 世 的 呼 称 法 を踏 襲 す る もの と い え る 。 ま た、ヤ マ が ジ ゲ に 対 して 対 象 化 され て い る こ と につ い て も先 にふ れ た とお りで あ る 。. さて 、 ウ チ な る用 語 の 例 と して 、 第1章 の 図1-1「 出 作 り地 の 土 地 利 用 」の 注 に注 目 した い 。 この 出作 り地 に建 つ 住 居 は 、 間 口5.5間 、奥 行9.0間 、2階 建 の 立 派 な もの で 、人 び と は こ の 住 居 「ウチ 」と呼 ん で い る。調 査 者 も こ の住 居 に 関 して、 「二 階建 て の が っ ち り し た家 屋 で 、 とて も 出 作 り小 屋 とい うよ うな もの で は な い 。 村 人 た ち も、 出作 り期 間 に住 む この 家 屋 を 「ウ チ 」 と よ ん で い る。」と述 べ て い る 。柱 建 て で も平 屋 の ク ズヤ は イ エ で よ か った が 、正2階 建 の 颯 爽 と し た住 居 は 、や は りク ズヤ とは 区別 さ れ ね ば な らな か っ た。 そ して 、 こ の よ うな正2階 の屋 根 は クズ ヤ に み られ た カ ヤ 葺 きか ら、 ク リ コバ の 板 葺 き に移 行 して い る。板 葺 き正2階 の 住 居 の 出現 、 これ が ウチ 概 念 の発 生 を促 した 。 い ま ひ とつ の 例 と して 、「ウ チ の ウ チ 」と い う表 現 が 当地 で お こ な わ れ て い る(12との 場 合 の2つ の ウチ は、 い うまで もな く意 味 内容 が 異 な り、 先 の ウ チ は 「わ た しの 、 あ る い は わ た した ち家 族 の 」とい っ た ソ フ トな 意 味 を もち 、 後 の ウ チ は ハ ー ドな 住 居 を指 して い る。 この 例 に み られ る よ うに 、 ウ チ な る語 は ソ フ トに もハ ー ドに も使 用 され て い る が 、ハ ー ドな住 居 を指 す こ と も事 実 で あ る。 こ れ は従 来 の イ エ に対 して 、新 し く生 じ た住 居 呼 称 法 とい わ ね ば な らな い。 同 じ く柱 建 て の 住 居 で も平 屋 の クズ ヤ か ら正2階 の イ タヤ へ の移 行 は、た ん に屋 根 葺 き材 料 、 階数 の み の変 化 で は な い 。そ れ は、小 屋 組 と架 構 法 、外 観 、住 居 規 模 、家 格 等 に も影 響 を及 ぼ す 。 1日来 の ク ズ ヤ に 比 べ て 、正2階 の イ タヤ は これ らの諸 点 にお い て 優 れ た もの と受 け とめ られ た。 クズ ヤ の 小 屋 組 はネ ブ キ 同 様 の サ ス構 造 で 、 イ イ(結 い 、村 落 共 同体)の 共 同労 働 に よ って つ く られ た が 、イ タヤ の小 屋 組 は束 立 て で 専 門 の 大 工 を雇 い経 費 を支 払 わ ね ば な らな か っ た 。つ ま り、 正2階 の イ タ ヤ は柱 建 て か ら小 屋 組 まで す べ て 大 工 を雇 う必 要 が あ っ た。 こ こ に、 イ タ ヤ の 経 済 的優 位 性 を示 す 起 因 が あ っ た。 この よ うな正2階 の イ タヤ が 一 般 に普 及 した の は 、近 代 に お け る養 蚕 業 の 隆 盛 が 主 因 で あ る 。 山村 の 自足 的生 活 に お け る現 金 収 入 は もっ ぱ ら養 蚕 に よ っ て い た 。正2階 建 に よ る2階 ス ペ ー ス の拡 大 は そ の 必 要 性 か ら生 じた 。従 来 の ク ズヤ にみ られ た 屋 根 裏 間 ア マ に比 べ る と、2階 スペ ー ス は格 段 に増 大 し た。 こ う し た社 会 的 背 景 か ら促 進 さ れ た 正2階 建 は、先 の 経 済 的 優 位 性 や 颯 爽 と した外 観 等 と相 ま っ て 、 ひ い て は 家 格 そ の も の に も影 響 す る こ とに な った 。 近 世 にお い て も上 層 の 住 居 で は2階 建 な い し3階 建 の イ タヤ は存 在 した が 、これ が 一 般 に普 及 す るの は 近 代 以 降 の こ とで あ り、こ の 過 程 に お い て呼 称 法 もイ エ か らウ チ に 移 行 して い っ た 。す な わ ち 、 コヤ → イ エ → ウ チ の 呼 称 法 の 変 化 は 、ネ ブ キ→ 柱 建 て ク ズ ヤ → 正2階 建 イ タ ヤ の 推 移 に 対 応 す る。 そ して 、 そ れ は 山村 住 居 の高 層 化 と も相 対 応 す る もの で あ っ た(図3-5)。
図3-5コ ヤ ・イ エ ・ウ チ の 推 移 呼 称 法 コ ヤ イ エ ウ チ
囲
示 ⊥Aコ
主
構 造 サ ス 柱建 て+サ ス 柱 建 て+束 建 て 屋 根 葺 材 料 カヤ カヤ ク リコバ屋
根
勾
配
約岳
約岳
約誓
階 数ll十 ア マ2∼31エ
遡
」&垂
」
主
時 代 的 推 移
コ ヤ ー_翻
難
垂1≡li講ll葉1妻
難1嚢
近世 以前 近 世 近 代 2.4コ ヤ ・イ エ ・ウ チ の 認 識 状 況 以 上 の よ う に、 山村 住 居 の 時 代 的進 展 に対 応 して 、 その 呼 称 法 も変 化 し大 きな 流 れ と して は コ ヤ → イエ → ウチ の変 容 を経 た の で あ っ たが 、こ れ ら3種 の 住 居 は 同 時 代 に共 存 し、呼 称 法 に 混 乱 もみ られ るの で 、 こ こ で この3様 の 呼称 法 を整 理 し、本 来 的 な 呼 称 と混 乱 の理 由 等 につ い て考 察 して お きた い 。 そ の た め 、 い ま一 度 コヤ 、 イ エ 、 ウ チ の建 築 的性 格 を明 確 に して お く と、 ① コヤ は サ ス 構 造 の ネ ブ キ、② イ エ は 柱 建 て で あ るが 小 屋 組 はサ ス 構 造 で カ ヤ 葺 きの クズ ヤ 、③ ウ チ は柱 建 て で 小 屋 組 は束 建 て の 板 葺 きイ タヤ で あ り、2∼3階 建 の もの も 多 い 。これ らの 具 体 例 は 後 に み る とこ ろ で あ る が 、現 地 に お け る住 居 の 呼 称 法 は 必 ず し も上 記 の 定 義 どお りお こ な わ れ て い る の で は な い 。 そ して 、 その こ とが 、 また 当地 の住 居 の 発 展 過 程 を も跡 づ け て い るの で あ る。 さて 、 当地 に お け る コヤ 、 イエ 、 ウ チ の 認 識 状 況 は 、① 架 構 方 式 、 ② 規 模 の 大 小 、③ 立 地 条 件 、④ 建 物 用 途 の4つ の 根 拠 か らな され て い る 。 次 に そ れ ぞれ に つ い て 述 べ る。 ① 架 構 方 式 か らす る場 合 ネ ブ キ コヤ{
柱 建 て イ エ ま た は ウ チ ー27一これ につ い て は 先 に述 べ た とお りで あ り、こ の 呼称 法 が もっ と も本 来 的 な もの と考 え られ る。 ② 規 模 の大 小 か らす る場 合 小 規 模 コヤ
{
大 規 模 イ エ ま た は ウチ 住 居 の 規 模 拡 大 につ れ て 、柱 建 て の イ エ も小 規 模 な もの は コヤ と呼 ば れ る。 この 場 合 は 、 コヤ の小 規 模 的 性 格 が 呼 称 法 と して 残 っ た もの とい え る 。 ③ 立 地 条 件 か るす る場 合 ヤ マ コヤ{
ジゲ イ エ また は ウ チ も と も とヤ マ に は コヤ が 散 在 して お り、 ジ ゲ に イ エ が 建 っ た 。 そ の よ うな歴 史 的 背 景 か ら、ヤ マ に あ る住 居 を コヤ 、 ジ ゲ に あ る住 居 を イエ ま た は ウ チ と呼 ぶ 。 した が っ て 、ヤ マ にあ る柱建 て の 住 居 を コヤ と呼 ぶ こ とが あ るの は 、 こ の よ うな歴 史 的 背 景 が あ るか らで あ る。 ④ 建 物 用 途 か らす る場 合 付 属 屋 等 コヤ {住 居 イ エ ま た は ウチ 柱 建 て で あ っ て も付 属 屋 を コヤ と呼 び 、住 居 と 区別 す る場 合 が あ る。 これ は② の 規 模 の 大 小 と も関 連 す るが 、 よ り多 くは建 物 の 主 従 関係 に よ る もの で あ る。 す な わ ち住 居 を主 、付 属 屋 を従 と す る意 識 に よ る もの で あ り、 これ は コヤ の粗 末 性 が呼 称 法 とな った もの で あ る。 以 上 の4つ の 場 合 の どれ に よ るか に よっ て 、呼 称 法 に 混乱 が 生 じ る わ け で あ るが 、 そ れ も 当地 の 歴 史 的 背景 か らみ る と当然 の こ とで あ り、① 架 構 方 式 は ネ ブ キ→ 柱 建 、② 規 模 は 小 → 大 、③ 立 地 条 件 は ヤ マ → ジ ゲ 、④ 建 物 用 途 は住 居 、付 属 屋 の対 等 性 → 住 居 の 優 位牲 の発 展 過 程 が 、呼 称 法 の 混 乱 状 況 の 中 に認 め られ る の で あ る。 2.5付 属 屋 の種 類 と呼 称 山村 住 居 は 住 居 の他 に い くつ か の 付 属 屋 を付 設 し、始 め て 生 活 が 可 能 で あ っ た。先 に抽 出 した ② 付 属 屋 に 関 す る用 語 は 、 そ う した付 属 屋 を指 して い るが 、大 別 す る と コヤ 、 クラ 、 そ の 他 とな る。 コヤ は 馬小 屋 、石 灰 小 屋 に み ら れ る よ う に、 用 途 を冠 せ て い る。実 際 に は、 この2例 以 外 に も○ ○ 小 屋 が あ っ た とお も え るが 、 文 書 に 現 わ れ て い な い だ け で あ ろ う。 ク ラ は蔵 、板 蔵 、土 蔵 で あ る 。 ク ラは もっ と も重 要 な 食料 貯 蔵 の ため の建 物 で 、板 蔵 、 土 蔵 と もに 柱 建 て構 造 で あ る 。屋 根 は カヤ 葺 と板 葺 の両 様 が あ った で あ ろ う。 そ の 他 に は 、小 家 、ふ ろ や 、せ ん ち ん が あ る 。小 家 は小 屋 の誤 記 の よ うで あ る。 と くに用 途 を示 す 必 要 の な い付 属 屋 を た ん に コヤ と よん で い る ら し い。 も っ と もこ の 場 合 に は 、 す まい の コヤ(イ ゴヤ)と ま ぎ らわ し く な るが 、柱 建 て の家 に対 比 した 場 合 、ウ マ ゴヤ もイ ヤ も同 じネ ブ キ で あれ ば コヤ に 相 異 な い 。「ふろや 」 や 「せ ん ち ん 」(雪 隠 ・便 所)は 用 途 の み を示 して い るの で 、 構 造 は わ か ら な い が 、 オ モ ヤ の イヤ が ネ ブ キ で あ るの に、 これ らの 小 付 属 屋 が柱 建 て で あ る こ とは 考 え られ ず 、や は りネ ブ キ で あ った に違 い な い 。 しか しい ず れ に して も、 イ ゴヤ や イ ヤ の 近 辺 に こ れ らの 付 属 屋 が あ り、 と くに ク ラ は そ の家 の 家 格 を示 す もの で あ っ た ろ う。同 じ ク ラで も板 蔵 と土 蔵 で は また ク ラ の格 が., 異 っ た で あ ろ う。 くエ ラ 近 年 の 調 査 に よ る と、 当 地 の 付 属 屋 に は 次 の もの が あ る 。 (1)ヌ ケ ゴ ヤ(抜 け小 屋)台 風 時 に オ モ ヤ の 柱 建 て の イエ が 危 くな る と避 難 す る ネ ブ キ の コヤ 。普 段 は物 置 に使 用 。 強 い風 に対 し て は 、柱 建 て の2階 造 よ りネ ブ キ の方 が安 全 で あ る とこ ろ か ら、と くに高 所 の イエ で は ヌケ ゴヤ をつ くっ た。 ② セ ン ジ ヤ(雪 隠)セ ンヂ ヤ は セ ンチ と もい い 、大 便 所 を指 し、オ モ ヤ の ゲ ン カ ン に近 い とこ ろ に別 棟 で 建 て た 。 ネ ブ キ の 場 合 も あ っ た 。 (3)ク ラ(蔵)ク ラは 土 蔵 造 、 カヤ 葺 が一 般 的 で あ るが 、板 蔵 もあ り、 これ を ヤ マ ノ ク ラ と よ んで い る 。 クラ は2階 建 で 、2階 部 分 に も出入 口 を と り、深 雪 時 の 出 入 口 とす る。 (4)コゴ ヤ(小 小 屋 、 蚕 小 屋)コ ゴヤ は 農 具 等 を収 納 す る コヤ で あ る が 、 柱 建 て の もの も あ り、 ネ ブ キの もの もあ る。 秋 の穂 ガ チ(脱 穀)や 養 蚕 に も使 用 され る。 原 資 料 で は コ ゴヤ の 「コ」 が 「小 」 か 「蚕 」 か不 明 と して い るが 、 近 世 に小 小 屋 の 表 現 が あ る の で 、 本 来 は 「小 」で あ ろ う。 しか し、養 蚕 の隆 盛 につ れ て 、小 小 屋 が 立 派 な柱 建 て の 建 物 に な り、 近 代 以 降 「蚕 小 屋 」 を意 味 す る よ うに も な っ た と考 え られ る。 ⑤ カ ッタ リゴヤ(か っ た り 山 間 の 流 れ を利 用 して 、水 車 や カ ツ タ リ を動 か した 。水 車 は ヒ 小 屋 ・水 車 小 屋) エ ・ア ワ ・カ マ シ ・ム ギ を粉 に し、 カ ツ タ リは ア ワ ・米 を精 白 した 。水 車 とカ ツ タ リは 同 じ棟 に つ くる とき と、別 棟 にす る と きが あ っ た 。 ⑥ ウ マ ゴ ヤ(馬 小 屋)預 り馬 を お くコヤ 。 田植 後 の農 耕 馬 を預 り、 山地 の 草 を利 用 し て飼 育 した 。 ま た ウ マ ゴエ(馬 肥)を つ くるの も ウマ ゴ ヤ の 目 的 の 一 つ で あ っ た。 (7)ゴ ク ソ ゴ ヤ(蚕 糞 小 屋)コ ク ソ(蚕 糞)を 貯 え る コ ヤ 。1棟 の建 物 を折 半 し、 一 方 をセ ン ジヤ 、他 方 を コ ク ソ ゴヤ に す る もの もあ っ た。 以 上 の よ うに 、住 居 以 外 の付 属 屋 に は 種 々 の もの が あ り、そ れ ら が数 棟 ワ ン セ ッ トに な って 居 住 空 間 を構 成 して い た 。 -29一
2,6ヤ シ キ の概 念 と規 模 先 に抽 出 した(3)敷地 に 関 す る用 語 に は 、 小 屋 場 を除 い て他 はす べ て ヤ シ キ(屋 敷)で あ った 。 敷 地 はヤ シキ と呼 ば れ て い た とみ られ る。 一 般 に ヤ シ キ(屋 敷)と い う語 は 宅 地(主 屋 、 付 属 屋 、 庭 畑 、 屋 敷 林 等 を含 む)を 指 す が 、 と き に宅 地 内 の建 物 を指 す場 合 もあ るの で、 当地 の場 合 ヤ シ キが 純 粋 に宅 地 を指 す か 否 か をみ る。そ の こ と を示 す 例 と して 、「為 取 替 申謹 文 之 事(14)(文 化2 年 、1805)が あ る。 それ は 次 の よ うで あ る。 為 取 替 申謹 文 之 事 一 、太 平 持 分 、喜 助 分 屋 敷 、家共 壱 ケ所 、何 二 而 も少 茂 不 残 、太 平 方6庄 太 夫 方 江相 渡 申1ト、 一、 庄 太 夫 持 分 、 長 松 居 申屋 敷 、 家 共 壱 ケ 所 、 何 二 而 も少 茂 不 残 、(下 略) こ の文 書 で は、 太 平 所 有(喜 助 居 住)の ヤ シキ お よ び イエ を庄 太 夫 所 有(長 松 居 住)の ヤ シ キ お よ び イ エ と取 替 え る こ とを約 して い る。 これ で み る と、 ヤ シ キ(宅 地)と イエ(建 物 と して の 家)は 明確 に区 分 され て お り、 ヤ シ キ は純 粋 に宅 地 を示 して い る 。 ま た、 ち なみ に 所 有 、 貸 借 の 関 係 も認 め られ る。 さ て こ の ヤ シ キ 規 模 に つ い て は 、「二 口 村 役 人 家 屋 敷 ・畑 ・む つ し 質 入 証 文(15)(天 明4年 ・1784) が参 考 に な る。 必 要 な箇 所 を次 に抽 出 す る。 相 渡 申屋 敷 ・家 ・畑 ・む つ し質 物 之 事 一、 有 坪 善 右 衛 門居 屋 敷 壱 ケ所 、 吉 兵 衛 屋 敷 壱 ケ所 、 〆弐 ケ 所 少 シモ 不 残 、 坪 数 入 十 分 ① 一、 有 坪 新 兵衛 居 屋 敷少 シ モ不 残 、坪 数 百 五 拾 分 ② 一、 有 坪 助 右 衛 門居 屋 敷 少 シ モ不 残 、 坪 数 四 拾 分 ③ 一、 有 坪 甚 右 衛 門分 居 屋 敷 不 残 、坪 数 四拾 分 ④ 一、 有 坪 弥 三右 衛 門分 居 屋 敷 不 残 、坪 数 四 拾 五 分 ⑤ 一、 有 坪 兵 右 衛 門分 又 右 衛 門居 屋 敷 不 残 、坪 数 五 拾 分 ⑥ ① は2ケ 処 で80分(歩 、 坪)で あ るか ら平 均40坪 、 ③ ④ も同 じ く40坪 、 ⑤ が45坪 、 ⑥ が や や 大 き く50坪 、② は か な り大 き く150坪 で あ る。大 半 は40∼50坪 で あ り、この 規 模 が 当 地 の標 準 規 模 と み られ る 。② の150坪 は 当 地 で は大 規 模 に属 す る で あ ろ う。 も と も と3間x5間(15坪)程 度 の イ エ や コヤ を建 て る に は こ の程 度 の 宅 地 規 模 で 充 分 で あ っ あ ろ う し、また急峻 な 山腹 の斜 面 につ く り うる平 坦 地 は 、そ の 程 度 に 制 約 さ れ た の で あ ろ う。ま た 、150坪 と40∼50坪 の 規 模 格 差 は 当地 の 階 層分 化 を示 す 目安 と も な ろ う。
3.山 村 の 下 層 ・中 層 住 居 前 節 で は 、 コヤ 、 イエ の概 略 の 姿 を文 書 の 中 に探 り、 コヤ の ネ ブ キ構 造 、 イ エ の柱 建 て 構 造 に 言 及 した が 、 こ こで は そ の コヤ とイ エ をい ま少 し具 体 的 にみ て お き た い 。文 書 に現 れ る参 考 部 分 を 引用 す るほ か 、 当 該 部 分 を よ く とどめ て い る現 存物 件 を も援 用 す る。 コヤ につ い て は 、 第1章 に お い て か な り詳 し く論 じて い るの で 、近 世 の コヤ も これ に類 す る もの と して 詳 論 を避 け た が 、 イエ につ い て は新 しい 住 居 形 式 で あ る の で と くに 現 存 物 件 の 中 か ら適 当 と認 め られ る もの を例 示 した 。 す で に 前 節 で 述 べ た よ うに、一 般 的 に イエ は柱 建 て で も平 屋 の ク ズヤ で あ る 。わ れ われ が 一 般 に カヤ 葺 きの 農 家 と して 認 識 して い る もの で あ る。 しか し、近 世 の 当 山村 に は2階 建 の イ エ も現 れ てお り、 これ の具 体 的 把 握 も試 み た。 3.1コ ヤ 住 空 間 コヤ の近 世 的 様 相 に つ い て は 「鶴 来 商 人 石 灰 山 十 年 賦 買 入 証文 」(天 保5年 ・1834)が 参 考 に な る。 そ の 中 に次 の一 文 が あ る。 一、 小 屋 家 壱 ツ 但 シ、 三 間 二 六 間 か や ふ き 文 中 の 「小 屋 家 」 は居 住 用 の ネ ブ キ ゴヤ を指 す で あ ろ う。 本 来 「小 屋 」 は ネ ブ キ を指 す か ら、 ネ ブ キ の イ エ 、 す な わ ちネ ブ キ の 住 居 と解 され る。 ち な み に 、 この 場 合 の 「家 」は 柱 建 の 住 居 を 指 す の で は な く、 「す ま い 」を意 味 して い る も の とお も え る。 付 属 屋 と して の 「小 屋 」 もあ るか ら で あ る。 さて コヤ の 規 模 は3間 ×6間 で 、当 地 が タテ 入 り住 居 の 系 統 で あ る こ とか らみ て 、こ の コヤ が 間 口3間 、奥 行6間 の 平 面 を も って い る こ とが 分 か る。 間 口に 比 して奥 行 の 長 い(細 長 比2.0)平 面 形 状 は、 ネ ブ キ ゴ ヤ の 特 色 で あ り、 この 形 状 は 第1章 に お い て 例 示 した ネ ブ キ ゴヤ(1)(図1-14)、 ネ ブ キ ゴ ヤ(2)(図1-16)と ほ とん ど同 じで あ る。 こ れ に よ っ て も、 「小 屋 家 」 が そ の 呼 称 法 と と もに ネ ブ キ ゴ ヤ で あ る こ とが 分 か るが 、 い ま ひ とつ は、 「三 間二 六 間 」とい う規 模 表 記 の仕 方 で あ る。 柱 建 の イ エ の 場 合 は 、 例 え ば 「尾 添 村 村 民 八 年 季 奉 公 請 状 」(文 政6年 ・1823、 後 出) に み ら れ る よ うに、 「は り三 間 、 行 間 五 間」 とい う よ う に梁 間 ・行 間 を明 示 して い る。 ネ ブ キ ゴ ヤ に は 梁 も桁 も な いか ら梁 間 ・行 間 は記 す こ とが で きず 、 間 口 と奥 行 の 寸 法 だ け を表 記 す る こ と に な る。 こ の事 実 も 「小 屋 家 」 が ネ ブ キ で あ る こ との 証 左 で あ る。 以 上 の よ う に、 この コヤ が ネ ブ キ で あ る とす る と、 そ の構 造 は 図3-6に 示 す よ うに、 断面3 角 形 の サ ス構 造 の 住 居 とな る。 「か や ふ き」と表 記 され て い る か ら傾 斜 面(屋 根)は す べ て カ ヤ で 一31一
お お われ て い た 。 こ の容 姿 に つ い て は 第1章 に お い て ネ プ キ ゴヤ(1)、② を例 示 して い るの で 、 こ こ で は省 略 す るが 、 内部 の状 況 等 につ い て も類 似 の もの と考 え られ る。 ネ プ キ ゴ ヤ の よ うに古 代 的 な性 格 を もつ住 居 が 、近 世 は お ろか 、 ご く近 年 まで 当 地 に残 存 して い た こ とは特 筆 され るべ き こ とで あ ろ う。 図3-6コ ヤ 住 空 間 !一、、 '、 !、 '、 '、 '÷ '、 鱒 ノ 、 目 '、 '、 ノ ヤ
カヤ葺き/ 一遡
既
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的
蟹
,㌔QN '、〆
立脚可動範囲
\
雪
'、
,ノ 日r甜'、±
3間 3.2コ ヤ の 装 置 類 く の 同 じ く コヤ に つ い て は 、「為 取 替 申替 地 謹 文 之 事 」(天 保8年 ・1837)の中 に 次 の 一 文 が あ る。 為 取 替 申替 地 誼 文 之 事 一、 私 持 分 作 平 屋 敷 壱 ケ所 、 但 小 屋 ・戸 障 子 都 而 立 物 、不 残 此 度 貴 殿 へ 相 渡 、 為 此 代 地 と貴 殿 持 分 、 字 鍛 地 畑 ・畑 ・桑 原 ・杉 共 二此 方 へ 受 取 、 尤 小 屋 立 具 替 之 儀 者 、 貴 殿 持 分 亀 倉 二 而 、 杉 小 さほ 三 拾 本 受 取 之 申1ト (下 略) こ こ に も 「小 屋 」 な る語 が み え 、 そ れ は ネ ブ キ を意 味 して い よ う。 「小 屋 」に つ づ い て 「戸 障 子 都 而 立 物 」 とあ る か ら、 こ の コヤ に は 戸 障 子 、 立 物(建 具)が つ い て い た 。本 来 、 単 室 の ネ プ キゴヤ は 出 入 ロ に大 戸(板 戸)が 入 るだ けで そ の他 に開 口部 の な い構 造 で あ るか ら、 こ の 謁 文 に と くに 戸 障 子 が 明 記 して あ るの は 、それ らが 大 戸 以 外 の 箇 処 に装 置 さ れ る特 筆 され るべ き もの で あ っ た こ と を意 味 して い る。こ う した建 具 が 貴 重 品 で あ っ た こ とは 山村 の 貧 しい 生 活 か ら推 して識 るべ しで あ るが 、 コヤ に お い て そ れ は こ とさ ら珍 重 さ れ た と考 え られ る。 第1章 に 例 示 した ネ ブ キ ゴ ヤ(1)(図1-4)、 ネ プ キ ゴヤ(2)(図1-16)を み る と、 コヤ の 背 後 に障 子 、明 り障 子 の入 れ られ て い る こ とが分 るが 、側 面 が 閉 鎖 さ れ るネ ブ キ ゴヤ の 内 部 は暗 く、 い く らか で も内部 へ の 採 光 を得 るた め の 処 置 で あ る。謹 文 にみ え る障 子 もお そ ら くこの 種 の 採 光 の た め の 障 子 で あ ろ う。建 具 が 間仕 切 の た め の板 戸 で あ る とす る と、 こ の コヤ は少 な く と も前 後 2室 に 区 切 られ 、 前 室 を オ ミヤ 、 後 室 をザ シ キ(寝 室)と して い た で あ ろ う。 こ の2室 の 間 に 入 れ られ るの が 板 戸 で あ る。 こ こ に障 子 を入 れ る こ とは無 意 味 で あ り、室 の境 に板 戸 を入 れ る例 は 後 年 の住 居 に も多 くみ られ る と こ ろで あ る。 以 上 の よ うに、近 世 の コヤ に お い て もす で に採 光 の た め の 障 子 が 入 れ られ 、 ま た そ れ は本 来 の ネ ブ キ を改 造 した こ と を も意 味 して い る し、板 戸 に よ る間 仕 切 は 室 分 化 の傾 向 を示 して くれ て い る。 3.3イ エ(平 屋)住 空 間 コヤ に つ いで 柱 建 て の イエ に つ いて み るが 、まず 平 屋 の クズ ヤ につ い て は、「尾 添 村 村 民 八年 季 くユ ヨラ 奉 公 請 状 」(文 政6年 ・1823)が 参 考 に な る。 そ れ は 次 の よ うで あ る。 為 取 替 申極 証 文 之 事 一、其 方 此 度 当家 へ 奉 公 相 願 候 二付 、八年 と年 季 を切 、入 年 首 尾 能 奉 公相 勤 候 バ バ 、家 壱 軒 、 但 しは り三 間 ・行 間 五 間 、 屋 敷 壱 枚 、 野 あ さ 畠壱 枚 、 弐 石 取 む シ相 つ け 、 仕 入 方 等 可 致 定 二 候 、(下 略) こ の場 合 の 「家 壱 軒 」 の 「家 」 は 、 い う ま で もな く柱 建 て の イエ で あ り、 そ の 規 模 は 「は り三 間 ・行 間 五 間」 とあ るか ら15坪 で あ る。 規 模 の 表 示 が 「は り間 」 「行 間 」 で お こ な わ れ て い る こ と が 柱 建 て の 証 拠 で あ る こ とに つ い て は先 に も述 べ た とお りで あ るが 、3間 ×5間 は ネ プ キ ゴヤ の 規模 と大 差 が な い 。お そ ら く、 ネ ブ キか ら柱 建 て へ と構 法 が 移 行 して も、標 準 的 な規 模 や 内部 の 使 い方 な ど に は大 き な変 化 は な か っ た で あ ろ う。 間 取 等 内 部 の状 況 にっ い て は 、 文 面 か らは分 らな い が 、 近 年 まで 残 存 して きた 同種 ・同規 模 の イエ ・クズ ヤ の平 屋 を 図3-7に 例 示 す る 。 この 例 は 、 間 口(は り間)3間 、 奥 行(行 間)5間 で 文 書 の 規 模 と同 じで あ る。そ して、ネ プ キ ゴヤ 以来 の 伝 統 が そ の ま ま引 継 が れ た 内 部 状 況 を示 して い る。 年 季 奉 公 の あ け た と きに約 束 さ れ て い る 「家 壱 軒 」は 、 お そ ら くこ の よ うな イ エ で あ 一33一
っ た と考 え られ る。 ネ ブ キ ゴヤ との 類 似 点 は① タ テ屋 造 で 出 入 口が 妻 側 に あ る こ と、② 内部 が 単 室 で あ る こ と、③ ジ ロ が や や 出入 口の 方 に寄 り、 中央 よ り偏 心 して い る こ と、④ 出 入 口 近 くを クチ 、奥 の 方 をオ ク と し、オ ク の 方 に や や 広 い ス ペ ー ス を確 保 して い る こ と、 な どが 挙 げ られ る。 こ れ らの 内部 状 況 はネ ブ キ ゴヤ とほ とん ど変 らず 、 つ よい伝 統 性 が 認 め られ る。 図3-7イ エ ・ク ズ ヤ1階 建 の 例
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l' ■・翻 図
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タ ナ マ ェ ク チ1、 1幽 鵬 タナ ▲ 資 料)前 出 『尾 口村 史 ・第2巻 』(P.P.672∼673)に よ り筆 者 作 図 。 同 所 に 次 の 説 明 が あ る。 母 屋 は 単 室 で 、 炊 事 ・食 事 ・団 ら ん ・寝 起 き等 の 日常 生 活 は す べ て 、 ジ ロ の 周 囲 で と りお こ な う。 滝 下 家 の 床 は板 敷 き で あ っ た 。就 寝 の 場 合 は 、ジ ロ よ り奥 部 で 頭 合 わ せ で 寝 る。滝 下 家 の 出 作 り ・ 単 室 住 居 で 生 活 した 最 近 の 最 大 家 族 数 は 七 名 で あ っ た 。母 屋 は 単 室 な る が 故 に 、出 作 り生 活 の す べ て の 領 域 を満 た す 事 は 無 理 で 、 養 蚕 以 外 の 生 産 ・生 活 場 面 に 必 要 な 住 居 空 間 は 、別 棟 の 付 属 建 物 を 建 て 、 補 っ て い る 。 滝 下 家 の 付 属 建 物 は セ ン チ ヤ=便 所 ・風 呂 小 屋 ・穂 干 シ 小 屋 ・唐 臼 小 屋 ・納 屋 ・ 板 倉 等 が あ っ た 。養 蚕 は 、階 下 の余 白部 分 と、屋 根 裏=ア マ で 年 二 回 実 施 した 。単 室 で 、た だ で さ え 生 活 上 狭 い上 に 、養 蚕 棚 を並 べ る の で 、非 常 に窮 屈 で あ っ た と い う。夏 蚕 の 期 間 は 、ジ ロ の 熱 や 煙 が 蚕 に 良 くな い と して 使 用 せ ず 、 玄 関 前 の 庇 に 施 設 し た 山石 製 の 竃 で 、 煮 炊 き全 部 を行 っ た 。 稗 ・粟 の 穂 の 乾 燥 は 、 白 山 麓 で は 火 力 を 利 用 す る 場 合 が 多 い 。東 荒 谷 の 出 作 りで は 、 母 屋 の ジ ロ を 使 用 す る場 合 と、別 棟 の 穂 干 し小 屋 の ジ ロ を使 用 す る 場 合 の 二 方 法 が あ っ た 。別 棟 に した 理 由 は 、 ジ ロ の 火 力 を 強 く し て 乾 燥 す る た め 、 火 災 発 生 の 恐 れ が あ っ た か ら で あ る 。 つ い で に 、滝 下 家 の 穂 干 し小 屋 の 構 造 に つ い て 簡 単 に 触 れ て お く。内部 は 、方 形の穴 を掘 り下 げた ジ ロ を 作 り、 そ の 上 に 四 本 柱 を構 え 、 柱 を軸 に 長 方 形 の 箱 を組 み 、 竹 製 の 簑 を敷 き「ア マ 」と よ ぶ 。 ア マ の 中 へ 穂 を入 れ 、 下 方 の ジ ロで 火 を 焚 き、 火 力 で 乾 燥 す る仕 組 で あ る 。 滝 下 家 で は稗 ・粟 の 脱 穀 ・調 整 は 、 晴 天 時 に は 母 屋 の 前 庭 で 、 雨 天 時 は 納 屋 の 中 で 行 っ た 。。ま た 、 唐 臼 小 屋 は 粟 の 精 白 に使 用 し た 。次 に、ネ ブ キ ゴヤ との 相 違 点 につ い て は 、① 柱 建 て の ため 側 面 に板 戸 と障 子 に よ る2本 溝 の 開 口部 が 何 ケ処 も と られ て い る こ と、② 中央 部 にハ シ ゴが 常 設 され アマ へ の 上 り下 りが容 易 に な っ て い る こ と、③ 柱 建 て に よ る側 面 の垂 直 壁 面 へ の風 当 りに対 処 して ナ バ イ(控 え柱 〉 を設 け て い る こ と、 な どが 挙 げ られ る。 ① の 側 面 の 開 口部 は 、 通 風 ・採 光 ・出入 りの 便 等 、 ネ ブ キ ゴヤ で は. 求 め に くか った 居 住 性 の 向 上 が実 現 され 、② の ア マ は ネ ブ キ ゴヤ に 比 して格 段 に大 きな 屋 根 裏 空 間 を獲 得 で きた こ と を意 味 して い る。③ の ナバ イ は 逆 に ネ ブ キ ゴヤ(サ ス 構 造)の 強 度 の 高 さ を 示 して い よ う。 い ず れ に して も、柱 建 て の イ エ は軸 組 の 上 に従 来 の ネ ブ キ を乗 せ た構 造 で あ り、梁 と桁 よ り上 の 小 屋 組 は ネ ブ キ そ の もの で あ る。した が っ て 屋 根 の材 料 や 勾 配 等 は ネ ブ キ を踏 襲 して い るの で あ る。 こ の あた りに架 構 法 の 伝 統 が 認 め られ よ う。 さ い ご に 、 「屋 敷 壱 枚 」とあ るの は、 い う まで もな くイ エ の 敷 地 の こ とで あ る。 そ の 大 き さに つ い て は文 面 に現 れ て い な い の で分 ら な いが 、2.6「ヤ シ キ の概 念 と規 模 」の項 で み た ヤ シ キ規 模 か ら推 して40坪 見 当 で あ ろ う。 3.4イ エ(2階 建)住 空 間 前 項 で は 平 屋 の イ エ(ク ズヤ)に つ い て み た が 、 こ こで は2階 建 の イ エ につ い て み る。2階 建 くユの の イエ に つ いて は 、 「庄 屋 権 兵 衛 宅 打 殿 しに付 詫 状 」(弘 化3年 ・1846)が 参 考 に な る。 それ は 次 の よ うで あ る。 わ ひ入 申 一 札 謹 文 之 事 (夜) 一、弘化 三 年 五 月廿 三 日の よ 庄 屋 権 兵 衛 方 ニ シ ユ キ仕 リ候 所 、そ の 上 江村 方 若 き もの 共 た ち (ママ)(打) 合 、 い わ す を二 内 こみ 岩 か す 三 百 は か り、 す を五 拾 本 、 竹 廿 本 内 こ み ① 一、 ま とひ ジ 四 本 、 持 か べ 三 間、 小 力べ 持 三 間 ② (隅柱) 一、 五 寸 か くす ま は し ら壱 本 か ち 割 岩 は は ぐシ ③ 一一、 い し弐 間 之 す 内 こ む 事 、 其 か す 四百 ア ま り ④ 一、 に か い 江 内 上 た る岩 竹 百 五 十 は か り、 同 くま と弐 本 ⑤ 一、 五 尺 五 す ん を と壱 本 力 ちヤ ぶ り、 村 役 人 四へ ん迄 な た め候 江 共 き ・入 不 申 ⑥ (下略) こ の イ エ は⑤ の 「に か い江 内上 た る」(2階 へ 打 上 げ た る)に よ っ て分 る よ うに2階 建 の イ エ で あ る。 当 時(弘 化3年 ・1846)の 庄 屋 の イエ は2階 建 で あ っ た こ とが 分 る。 先 の 平 屋 に 比 べ る と、 や は り庄 屋 の イ エ は上 普 請 で あ る。 そ して 、 そ のつ く りは③ の 「五 寸 か くす ま は し ら」(5寸 角 隅 柱)に よ って 分 る よ うに 、 す くな く と も隅柱 に は5寸 角 の用 材 が 用 い られ て い た 。 他 の柱 寸 法 は 一35一