数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習 池 田 正 北海道教育大学函館校数学教育教室. The Project Based Learning on Mathematics Teacher Training Using Simulated Lesson Planning. IKEDA Tadashi Department of Mathematics Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 2008年度以来,筆者は本学中学・高校数学科教員免許取得希望学生向けに「模擬授業作り」 を用いた授業を実施継続している。本論の目的はこの授業において2008年から2015年までの期 間中に実施した内容について解説し,アクティブラーニングとしての課題解決学習の視点から この授業がプロジェクト型課題解決学習の一つであることを検証することである。さらにこの 授業の成果として位置づけている公開模擬授業発表の成否を数学専門科目や協働性の視点で整 理し,そこから際だった点を指摘する。最後にこの期間中にこの授業を受講した人間地域科学 課程情報科学専攻基礎情報分野の136名の学生の教員採用状況についてまとめている。. 1節 はじめに. は中央教育審議会からの「新たな未来を築くため の大学教育の質的転換に向けて−生涯学び続け,. 数学科教員養成における講義中心の数学専門科. 主体的に考える力を育成する大学へ−(答申)」. 目教育と教育実習や教育現場で必要とされている. が出され,アクティブラーニングをキーワードと. 力との乖離を実感し,専門の数学知識と職業とし. して学生を取り巻く学習環境は大きな変化を求め. ての数学教師のための技能をつなぎ合わせること. られることになった。そこで本学で8学年にわた. を課題としたのが約10年前のことであった。これ. り実施した「模擬授業作り」を用いた授業(以下. を解決するため,2008年に「模擬授業作り」を骨. 「模擬授業作り」授業と呼ぶ)の7および8年目. 格とした演習中心の授業を開始した。対象は北海. を中心に概観し,課題解決学習(Project Based. 道教育大学函館校人間地域課程の中学・高等学校. Learning, PBL)の視点から検討することが本論. の数学科教員免許取得希望学生であった。. の目的である。最後に,この授業を受講した人間. この授業は毎年新たな試みや改善が加えつつ現. 地域課程情報科学専攻基礎情報分野8学年(2006. 在まで引き継がれてきている。この間,2012年に. 年度入学生から2013年度入学生まで)の公開授業. 291.
(3) 池 田 正. の成否と教員採用状況を集計する。. りは機械的に決められた4人から8人程度のグ ループで活動する。グループは授業者,解説者,. 2節 「模擬授業作り」授業の概要. 公開発表司会者,生徒役指導者などの役割を作る ことを指示され,グループで責任を持って決める. この節では現在の「模擬授業作り」授業がどの. ことになっている。両学年とも学期内に各グルー. ように運営されているかについて概説する。この. プで11月から翌1月にかけて2回の模擬授業を作. 「模擬授業作り」授業は開始以来少しずつ変化し. り公開発表をしなくてはならない。. ているが,グループごとに中学校のある単元1教. 割り当てられたグループごとに公開授業日の約. 時分の授業を取り上げ,模擬授業を作り,できあ. 一ヶ月前に授業時間内で模擬授業作り開始の指示. がった授業を公開発表するという骨格は継続され. と公開までの日程を知らせる。3年生は授業する. ている。また,2012年度からは,2年生にも対象. 学年・単元・学習項目をグループで重複しないよ. を広げ2学年にわたり学生は「模擬授業作り」授. う調整しながら決めている。2年生は担当教員が. 業を受講している。ここでは,2015年11月の3年. 単元を指定し,学生は学年や章を決定し,章の最. 生の授業を例に実施されている「模擬授業作り」. 初か2時間目あたりの学習内容で授業を作るよう. 授業の手法を説明する。. に指示されていた。グループでは直ちに授業担当. ⑴ 目的は何なのか. 者の決定と授業を行う内容の検討に入り,一週間. 本授業の基幹は3年生後期に実施している授業. 後の授業時間内に授業者,授業する学年・単元・. である。それに対し2年生の授業は3年生におけ. 学習項目を報告し,大まかな授業計画を示すこと. る模擬授業作りを効果的に実行するための準備・. が求められる。. 訓練する場である。3年生後期では一部例外を除. その後の一週間は授業時間以外の空き時間を用. き学生は教育実習を経験済みである。そこで,こ. いて,グループごとに模擬授業の素案作成と授業. の「模擬授業作り」授業を大学生として作る最後. 改善作業をおこなう。授業改善に際して本授業で. の本格的模擬授業であるという位置づけ,授業目. は授業者がこの授業で生徒に「最も伝えたいこと」. 的は 「職業人としての数学教師になるため」技能・. を明確にすることが重視される。この「最も伝え. 態度(能力)を獲得することとしている。この授. たいこと」と授業実現としての「めあて」が整合. 業によって数学教師になるために必要となる知. し適切であるかは担当教員から常に指摘され,授. 識・技能を再確認するとともに,教師としての態. 業者は常に確認しなくてはならない。授業を作る. 度を養うこととした。これを実現するため,模擬. 中で,学生は作っている単元・項目の内容を精査. 授業作りの過程や成果である公開発表する模擬授. し,準備段階から授業としてグループ内外の同級. 業(以下「公開授業」と呼ぶ)は実際の現職教員. 生や担当教員に対して実演をおこない意見を求め. が取り組んでいる「授業研究をおこない,研究授. ることを強く指導される。これを繰り返す中で「最. 業を作ることと同じように模擬授業を作る」こと. も伝えたいこと」をより明確にしつつ授業案の改. をモデルとすることにした。2年生においても,. 良がおこなわれていく。. 教育実習を上記の通過点と捉えつつ目的は同様と. 2015年11月の例では,グループの人数が授業作. している。. り担当4名と生徒役作り担当4名の計8名,模擬. ⑵ 学生はどのように学んでいるか. 授業作り開始が10月29日であった。すぐ授業者が. この授業の受講生がどのように学んでいるかを. 決まり,授業する内容は中学校3年生数と式単元. 一つの模擬授業ができるまでを取り上げて解説す. の素因数分解に決まった。この模擬授業の公開発. る。 「模擬授業作り」授業は2年生後期と3年生. 表は11月26日であった。一週間後の11月5日に授. 後期の2学年が同時進行で実施している。授業作. 業で報告された最初の「最も伝えたいこと」は『自. 292.
(4) 数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習. 然数を素因数分解するとただ1つの形になる』こ. 授業では次のように座席表,生徒の反応一覧表を. とで授業の「めあて」は『自然数を積の結果に表. 作成し,生徒役学生に対しどの反応をする生徒役. したときにできる結果を調べよう』であった。こ. を演じるかを指示した文書が配布されていた。. の間,当該グループの学生は計6回集まり,授業 内容とそれに伴う授業の出だしについて検討して いた。次の一週間はこの二つのことをより明瞭に より関連づけることが課題となった。翌週の授業 では,再度「最も伝えたいこと」と「めあて」を 述べることと,最初10分程度の授業を実際におこ なうことが求められた。このころには,「最も伝 えたいこと」が具体化し「めあて」も授業として 意味のあるものとなっていることが多い。上記グ ループでは,この時の「めあて」が『ある自然数 が2乗の形になるか判断する方法を知ろう』と変 化しこれが最終案になった。この間何度も学生は 検討を重ね,素因数分解を単独で授業の中心に据 えるのではなく,平方根根号内の数を小さくする ことに有用であることを授業で触れつつ,素因数 分解の重要性を授業するべきとの判断に至り,上 記の「めあて」を採用した。 このころから,受講生は担当教員だけでなく上 級生に授業の進展具合を見せることを指示され る。受講生は自ら日時を調整し,演習室を確保し, その時点で到達している授業を参観してもらう。 上級生(今回の例では4年生)は過去の自分たち の模擬授業作りや教育実習での経験,附属学校や 公立学校での研究授業観察で学んだことを参考に して意見を述べる。受講生はそれを受け,様々な 意見を参考に議論することで授業作りを更に深め ていく。同時期に,生徒役指導者が公開授業で学 生がどのような生徒を演じるかを検討し始める。 これは教育実習における「生徒観察」を思い出し ながら,実際の中学校生徒を念頭におき生徒役の 学力と態度を定めていく活動である。関係した学 生は,公開授業となるクラスの生徒像とクラスの 雰囲気を決め,授業形態(グループやペアでの活. ほぼ二週間から三週間かけて50分間の授業と教. 動の有無)を授業者等の意見を参考にしつつ,公. 材・教具を作り,上級生や教員に進展を見せ,授. 開授業に参加する学生の把握し役割の割り当てと. 業を改善していく。公開授業一週間前くらいに生. 指示を定めていく。最後にこれらをまとめた生徒. 徒役を含めた「プレ授業」を実施し,最終的な仕. 役解説を作成し,公開授業で発表する。2015年の. 上げに入っていく。今回のグループは,少なくと. 293.
(5) 池 田 正. も11月4日と17日に4年生に授業を見せ助言をも. ト」に記入することになっている。記録ノートに. らっていた。生徒役作りは11月18日から本格的に. することによって,日時,授業の初期のアイデア,. 開始され,50分を通した授業の実演練習を経て,. 教員からの指示やコメント,上級生からの意見な. 24日に生徒役を含めたプレ授業を実施していた。. どを分量にとらわれず自由に記録されるように. この作業日程に合わせつつ公開授業前日までに授. なった。このノートは数学資料文献室に配備され. 業指導案等必要となる文書が印刷完成していた。. ていて,学生はどの学年も過去のものや進行中の. この授業指導案も本時案のみではなく実際の研究. ものを自由に参照することが可能である。また,. 授業で用いられる単元の目標,単元の指導計画を. 公開発表を撮影した動画と指導案・解説類はデー. 含む完全規格のものを用意することになっている。. タとして記録機器に保存され,学生は過去の模擬. 公開授業は,3年生は50分間1教時分の授業を. 授業の様子を自由に閲覧することが可能である。. 実際の授業と同じ50分間をかけておこない,2年. 担当教員はこれらの過去の公開発表をそのまま真. 生は一部を省略して30分間でおこなう。3年生の. 似るのではなく,良い部分を自分たちの模擬授業. 公開授業は2年生のそれ以前に実施され2年生受. 作りに取り入れるように指導している。. 講生は必ず参加しなくてはならない。1年生と4. ⑶ 誰が関わるのか. 年生は希望者が参加・参観する。学生以外には数. 「模擬授業作り」授業には,受講している学生,. 名の現職教員が参観する。参加者には「授業指導. 担当教員,上級生,現職の教員が関わりながら運. 案」 , 模擬授業の特徴や考え方を説明した「解説」,. 営されている。ここでは受講している学生以外の. 生徒役作りについて説明した「生徒役解説」,そ. 関わり方について説明する。. の他の資料が授業開始前に配布物される。発表は. 担当教員. 全て学生が運営し,グループで選んだ司会者が授. 担当教員は課題提示,課題解決過程での助言と. 業, 解説, 質疑応答など進行に責任をもっている。. 支援,公開発表までの日程管理等,この授業の最. 当日はこの授業担当教員が発言することはほとん. 初から最後まで関わっている。授業時間内の様子. どなく,参観した現職教員の助言・コメントによ. は前節で述べているが,時間外においては次の教. り公開授業が総括されていく。発表会は90分で終. 育支援が発生する。まず,公開授業準備段階にお. 了することになっているが,その後も授業者が. ける授業実演を参観し,数学的知識や板書,発問,. 残っている現職教員にさらに詳細な意見を求めて. 指示などの技能に関する助言・指導が必要であ. いることが多い。最後に利用した教室を掃除し. る。これと同等に重要なことは,授業作りで何を. 机・椅子を原状復帰して発表会が終わる。学生部. しているかわからなくなってしまったグループや. 屋に戻った上級生にさらなる意見を求めている授. 今の授業でよいと満足してしまった学生への対応. 業者の姿もよく観察されている。取り上げている. である。学生は教員や上級生からの指摘やコメン. グループの公開授業は11月26日の18時から開始さ. トにより混乱してしまうことがしばしば起きる。. れ,生徒役は2年生が14名,3年生が12名の計26. また,塾などでおこなっている授業やネットワー. 名であった。学生はその他に数名の4年生が参観. クや書籍・雑誌上で見つけた授業例をそのままコ. していた。当日参観していた現職教員は4名で. ピーした模擬授業作りを実行して満足してしまう. あった。この年は公開発表を12月から2月の時期. こともよくある。このような学生に対して本授業. に2,3年生合わせて8回実施している。. では授業案のよい点を指摘しつつ一方で「授業研. 上記の学びの活動はグループごとにレポートと. 究をおこない,研究授業を作ることと同じように. して記録するように指示されていた。 「模擬授業. 模擬授業を作る」という目的に立ち戻るように指. 作り」授業を始めた初期は指定された用紙に記. 導している。模擬授業作り前半は「この授業で授. 入・ファイリングしていたが,現在は「記録ノー. 業者が最も伝えたいことは何か」を問い続けるこ. 294.
(6) 数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習. とで,学生はそれを自らの中で明らかにして,授. し助言するのは2年生の模擬授業であり,自分た. 業において,自分たちにも生徒役にもわかりやす. ちの模擬授業は4年生に参観を依頼する。3年生. い形で表現することの重要さに気付き,それを実. は,自らの教育実習での経験と学び,4年生によ. 現しようと努めるようになる。さらに「この授業. る参観と助言,2年生への助言内容を検討・反省. は数学を学ぶよさを実現している授業なのか」を. しながら自分たちの模擬授業を作り上げている。. 問うことで,学生自身が数学を学ぶ目的を考え,. これは過去の経験・体験の振り返り,現在の指摘. 振り返り,さらに改善された授業作りへと深めて. の分析,自らの発言に対する反省を同時に授業作. いく。. りに集約する作業となっている。このことにより. 日程管理は公開授業を期日までに必ず完成させ. 3年生の模擬授業作りは明らかに2年生のそれよ. るための重要な仕事である。公開授業の日から逆. り進化しており「一問一答形式の授業にならない. 算して,各段階の締め切りをあらかじめ学生に周. ようにするにはどのような工夫をすればよいか」. 知していた。しばしば学生は一つのことにこだわ. や「生徒が考えるにはどのように工夫をすればよ. り過ぎることや授業構想ばかり議論し合うことに. いか」などの課題を意図的に授業に取り組もうと. 熱中して具体的な授業の実現を後回しにすること. する姿勢が見られる。不慣れな2年生は3年生の. がある。そのため担当教員は要所において準備で. 活動を観察しながら自分たちの模擬授業作りを学. きた授業実演を担当教員や上級生に見せなくては. んでいく。最後に,4年生は3年生の模擬授業を. ならないことを事前に指示し,実際に実演を観る. 参観し助言する。これを4年生は直前に迫った職. ことで予定通りに授業作りが進展しているかを確. 業人としての教員を強く意識した活動であると捉. 認している。同時に受講生は常に現在公開授業完. えていて,助言内容も教授法から2年生への指導. 成までのどの段階にいるかを知っておくことが求. 態度まで広範なものになっている。上級生は公開. められている。このように本授業は学生が期限か. 発表においても意見や感想を求められ発言してい. ら遡って日程を組む技能の重要性を知り,それを. る。. 習得する場でもある。. 現職教員. 担当教員を含む数学教員組織は受講生の学習環. 本論における「現職教員」とは附属小中学校教. 境を整備することもおこなう。具体的には学生が. 諭,公立・私立の中学校・高等学校の教諭,公立. 準備作業や議論をおこなうための黒板付きの部屋. 中学校校長・教頭や教育委員会関係者のことであ. (演習室)の確保,PCやプリンタの情報機器,. り,主に本学の卒業生である。これら現職教員は. 過去のものを含めた小中高の教科書とそれを自由. 模擬授業の公開発表のみに関わり,参観し助言・. に閲覧できる部屋(文献資料室)の確保,教材・. コメントをする役割を担っている。助言内容は現. 教具を作るための消耗品の提供とそれが柔軟に利. 職教員の視点から授業の教授法,生徒観察の観点,. 用できる環境作りである。演習室や文献資料室に. 板書や教材・教具の使い方,発問の善し悪し,指. ついては数学関係の教員と共有利用の形態で長期. 導案の記載方法,教師としての生徒と向き合う態. 的に確保し,消耗品は毎年度補充しながら提供し. 度についてなど幅広いものである。それぞれの学. ている。. 校事情により現職教員の見解が異なることもある. 上級生. が,それも学生が学校における生徒の多様性であ. 下級生が模擬授業作りをしている過程で,上級. ると実感する機会であると学生に説明している。. 生は過去の模擬授業作りの経験や教育実習で体験. 公開授業授業者はじめ学生はこれらの助言を詳細. をふまえ助言する役割を担っている。その関わり. にメモにとり,記録に残している。大学教員は公. 方は3年生の場合,自分たちも並行して模擬授業. 開授業の場を作るまでを担当し,当日発言するこ. を作っているためやや複雑である。3年生が参観. とはほとんどない。. 295.
(7) 池 田 正. 現職教員が公開授業を参観することは任意であ. 「現職教員」が学習過程と成果発表に複雑に関わ. る。教員の出席を実現するため公開発表は平日勤. り合いながら,それぞれが刺激し合い,学びを高. 務時間外となる遅い時間帯に設定している。また. め合っているといえる。それを図示したものが図. 現職教員の参観は学校業務の範囲内で出席可能に. 1である。. なった場合に任せている。幸いなことに参観を依 頼するようになってから公開発表において参観者 が1人ということが一度あったが,それ以外は3,. 3節 課題解決学習(PBL)の視点からの検討. 4人以上で多いときは10人近く参観したことも. この節では,今まで述べてきた「模擬授業作り」. あった。実際にこの発表に関わった教員に話を聞. 授業をアクティブラーニング型授業の一つである. いたところ,学生の授業についてのアイデアや工. 課題解決学習(PBL)の視点から検証する。溝上. 夫,授業に向き合う態度などに刺激を受け,自ら. [3]によると,アクティブラーニングとは次の. の授業を見返すきっかけにもなったとの感想で. 定義で与えられた学習の形態である。. あった。 参観が任意であることは,大学教員にとっ. 一方的な知識伝達型授業を聴くという(受動. てもこの「模擬授業作り」授業の内容を年々充実. 的)学習を乗り越える意味での,あらゆる能. させ日程調整を慎重におこなうことを常に要求す. 動的な学習のこと。能動的な学習には,書く・. ることになっている。教員が参観することに意義. 話す・発表するなどの活動への関与と,そこ. を見いだせないような公開授業が続けば,現職教. で生じる認知プロセスの外化を伴う。. 員を確保することができなくなる。これはこの授. この学習概念を取り入れた授業をアクティブラー. 業の維持ができなくなることを意味することであ. ニング型授業と呼んでいる。課題解決学習(以下. り,大学教員に対してもこの授業の「授業改善」. PBL)はアクティブラーニング型授業の一つであ. を促す契機になっている。公開発表での現職教員. り,大きく問題解決型とプロジェクト型に分かれ. からの度重なる指摘から, 「生徒役指導者」を独. ている。本論で述べられている「模擬授業作り」. 立した役割として作り,生徒役が機能するかどう. 授業は,プロジェクト型PBLの一形態であるとい. かを確認するための「プレ授業」をおこなう活動. える。溝上[4]のPBLに関する先行研究のまと. が発生した。受講生にとっても現職教員から多く. めに従うとプロジェクト学習を次のように定義し. の助言や意見をもらうことができることを目指. ている。. し,ねらいの明瞭な模擬授業を作りたいという強. プロジェクト学習とは,実世界に関する解決. い動機付けが発生している。. すべき複雑な問題や問い,仮説を,プロジェ. このように「模擬授業作り」授業では「受講生」. クトとして解決・検証していく学習のことで. が課題解決に成功するため, 「大学教員」 「上級生」. ある。学生の自己主導型の学習デザイン,教 師のファシリテーションのもと,問題や問い,. 図1. 仮説などの立て方,問題解決に関する思考力 や協働学習等の能力や態度を身につける。 この定義を踏まえ本授業がプロジェクト型PBLと してのアクティブラーニング型授業の一つの実践 例であることを解説する。 ⑴ プロジェクト型PBLの特徴と比較する 上記書籍によると,問題解決型PBLとプロジェ クト型PBL類似点を次の6点にまとめている。こ れらを用いて「模擬授業作り」授業がPBLとして. 296.
(8) 数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習. の特徴を備えていることを述べる。. を目指そうしている学生は当然のことながら高校. ①実世界の問題解決に取り組む. で数学が得意だった学生がほとんどである。教科. ②問題解決能力を育てる. の特性もあるが,これらの学生の多くは途中経過. ③解答は一つとは限らない. の多様性は認めつつも,「解答(正解)は一つで. ④自己主導型学習を行う. ある」という信仰にも似た考えを持っている。特. ⑤協働学習を行う. にこの傾向は1,2年生に強く,2年生で初めて. ⑥構成的アプローチを採る. 「模擬授業作り」授業を作るときに,授業がどう. 同書によると「実世界の問題解決に取り組む」. いう形ならば正解なのかを求める学生が数多く現. の実世界には「実社会」 「実生活」 「専門職の実践」. れる。これらの学生には次の特徴をもっている。. を含むとなっている。前節でこの授業の目的は職. ◦授業作りに向き合う態度としての特徴:授業. 業人としての数学教師になるための技能・態度. 作りのために構成員が集まっても「話し合い」. (能力)を獲得することであり,具体的には実際. や「議論」に終始して,具体的な授業実演が. の学校における授業研究での研究授業をモデルと. 始まらない。そこではそれぞれが正しいと思. して目指すとしている。この授業の課題は①の要. う授業像を主張し,それ以外の意見・見解を. 件を満たしていると言える。また,受講生は完成. 一切受け付けない傾向が強く,議論ではグ. に至るまでの過程で試行錯誤を繰り返し,最終的. ループ内の他者の意見を論破することに重点. に公開発表までに授業としての形を作り上げなく. がおかれている。さらに深刻な場合は正解が. てはならない。過程における試行錯誤とは模擬授. ないことを「どのようにしても正解ではない」. 業の「めあて」と「まとめ」案を設定し,授業の. と捉え授業作りそのものに意義を見いだすこ. 一部を作り実演し,教員や上級生の助言を検討す. とができなくなる。. る中でそれらを改善するサイクルが繰り返される. ◦提案される授業についての特徴:1回の授業. ことを意味している。このように学生自らが仮説. で「伝えたいこと」を定めることができず,. を設定し,実演や助言によりそれを検証し改善す. 結果として大量の「伝えたいこと」を模擬授. る形で学習が進められていることから,本授業で. 業に盛り込もうとする。問題の解法だけを教. ②, ④, ⑥を実践していると捉えることができる。. える授業を作ろうとする。書籍やインター. 授業作りが個人でおこなわれる活動ではなく,4. ネットで見つけてきた授業実践をそのまま実. 人から8人程度のグループで一つの模擬授業をつ. 行しようとする。. くる活動であること,最終的にはグループで公開. 最初の特徴は模擬授業作りを実際に行わせた際. 模擬授業を完成しなくてはならないこと,授業を. に非常によく見かけるものである。学生は積極的. 完成するためには何度も集まって議論し実演し改. に話し合いの場を作ってはいるが,「議論」ばか. 善しなくてはならないことはこの授業が⑤の形態. りに時間を費やし,作ろうとしている授業の形が. の授業であるといえる。どのような授業を作るか. いつまでも現れてこない。放置しておくと,授業. には「正解」がないことから解決を求められてい. 作りの活動を開始して二週間以上議論だけに費や. る課題は③であると言える。. してしまうこともあった。学生の話しを聞いてい. 形式的には上記のように本授業はPBLと見なす. ると,「正解の」授業像を見つけてから実際の授. ことができるが,実際の授業でこれらを学習に直. 業作りを始めなくてはならないと思い込んでいる. 結させることは容易ではない。一例として③の「解. ようであった。そこには正解が見つからない限り. 答は一つとは限らない」を取り上げると,このこ. 授業を作るという行動をおこすことに恐怖を感じ. とを本学の学生に実感させることは決して容易な. ている学生の姿がある。大学教員の対応は次の指. ことではないのである。本学に入学して数学教師. 導・支援を学生の状況に応じて使い分けている。. 297.
(9) 池 田 正. ❖短い間隔で授業の一部を担当大学教員に見せ ることを義務化する。. ⑥時空間における制限の違い これについても個々に当てはめてみる。①は解. ❖上級生に授業の一部を見せる回数を増やす。. 決すべき具体的課題内容を決める主体が教師か学. ❖議論をしている中に教員が入り,意見を述べ. 生かの違いである。本授業は模擬授業を作るとい. ている学生に対し授業として実現するとどう. う大きな課題のみが与えられていて,具体的にど. なるかを実演するように指示する。. のような模擬授業を作るかは学生が決めることに. ❖論破するのではなく,相手の主張のよい部分. なっている。②について本授業では公開授業が求. を見つけるようにする姿勢を指示する。. められている必須なプロダクトである。③は支援. 次の特徴は議論だけが続く状態を乗り越えるこ. の中心がチューターなのか教員なのかということ. とができないまま,授業を作った場合に見受けら. である。本授業では上級生,教員がそれぞれの役. れるものである。これはグループ構成員の多様な. 割を持って支援する形態を採用している。④につ. 意見を集約することができず,時間的に間に合わ. いては今後の課題と言える。⑤について本授業は. ない状態で意見を並列列挙して授業の形にしてし. 目標を現職教員がおこなう授業研究における研究. まうことである。当然一教時の授業内容が多く数. 授業としているため,将来の教員を目指すという. 学的知識を詰め込んだ授業作りになる傾向が強. 長期的な展望をもっている。⑥について学生に. い。この場合,解法のみを教え込む形に陥りやす. とって模擬授業作りの活動時間は正規の授業時間. くなる。また自分たちの授業アイデアに自信を持. 内では十分でなく,空き時間や放課後の時間を本. つことができないグループでは他から見つけてき. 授業に費やしている。. た授業例をそのままの形で実践しようとすること. ⑵ 学習のステップと比較する. が多い。これに対しては,上記の4つの指導・支. プロジェクト学習の検討としてその特徴と対応. 援に「授業で伝えたいことを一つに絞る」 「教師. づける以外に,学習ステップがどのようになって. が数学的知識を生徒に複写する授業ではなく,生. いるかを調べることが多い。2節⑵「学生はどの. 徒が考え学ぶ授業作りをする」 「授業作りに正解. ように学んでいるか」に従い溝上[4]に整理さ. がないとはどうやっても間違いということではな. れている6段階のステップで本授業の内容を表1. く,授業の前提となる複雑な要因(変数)により. にする。. 授業が多様になってしまうことである」などを織. 以上の検討結果から「模擬授業作り」授業はプ. り交ぜることで対応している。 これらを組み合わせ何度も指導することによ. 表1. り, 多くの学生は授業作りにおいて「検討(計画). ステップ1 プロジェクトテーマ 模擬授業を作ることが課題であること,期. し実演し反省する」ことを繰り返す基本技能を. の設定. 限があること,グループ員指定することを 知る。. 徐々に習得していく。これは将来においては現職. ステップ2 解決すべき問題や問 授業案,特に授業の「最も伝えたいこと」. の教員の授業研究・授業改善に必要な基本的技能. ステップ3 先行研究のレビュー 過去の模擬授業映像の観察,教員や上級生. い・仮説を立てる. 向けに準備状況を実演し助言やコメントを. でもある。. 求め,ステップ2のめあて等を再検討し授 業改善する。. さらに溝上[4]では,PBLの問題解決学習と. 同時に生徒役作りのための情報収集をおこ ない,公開模擬授業を行うクラス像を作り. プロジェクト型学習の違いとして次を挙げている。 ①解決すべき問題や設定主体の違い ②プロセス重視型かプロダクト重視型かの違い ③支援者の違い ④カリキュラムにおける位置づけの違い ⑤問題解決の時間的展望の違い. 298. と「めあて」を決めていく。. 上げる。 ステップ4 必要な知識や情報, データの収集 ステップ5 結果と考察. 最終的に公開発表する模擬授業を定め練習 し,指導案や解説文を作成する。. ステップ6 成果物として仕上げ 現職教員や関係する大学関係者(教員,学 る(発表・レポート 生)に公開発表し助言・コメントを受ける。 等).
(10) 数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習. ロジェクト型PBLの一つの学習実践である考えて. 図2. よいと判断する。. 4節 専門科目との関係 本授業を開始する動機の一つが大学における数 学科専門科目教育と教育現場との乖離を感じたこ とであった。ここで,本論で扱っている8年間の 専門科目教育について本授業の目的と関連させつ つ概観する。 大学における数学科専門科目の内容は証明(演 繹)を主たる技法とした形式的数学概念について. 問としての背景や正確な表現や記号の使い分け,. 学ぶことが中心である。当時の本学1,2年生対. 一般化された概念からの視点は有益であることが. 象数学科専門科目を図示したものが次の図2であ. 表出した場面もあった。例えば,正負の数の授業. る。これは2006年度以来,1年生後期授業開始時. を作る際に,代数入門の授業で自然数から整数を. に数学専門授業受講学生全員に配布し,本学数学. 構成する段階でマイナス記号「−」が複数の意味. 専門科目の考え方を表した概念図であった。当時. を持つことを知り,実際の授業で意識的にマイナ. 数学を専攻する学生の大半が中学高校の教員志望. ス記号を使い分けようとした学年があった。また,. であったため,専門科目の目的を「数学科の授業. 文字式の計算ルールを整理したものとして可換環. ができる」と単純化し数学教員養成を強く意識し. の定義を捉えた学年もあった。この間「模擬授業. たものであった。筆者はこの図にある1年生「代. 作り」授業・代数入門・解析学基礎は筆者が担当. 数入門」と2年生「解析学基礎」を担当していた。. していたため,常に授業進度や内容を調整しつつ. 「証明を書く技量の習得」については主に代数入. 実施することが可能であった。本授業受講生は「証. 門で対応していた。授業の内容は半環の定義と整. 明を書く技量を習得」させることを最優先にした. 列順序性を前提とした自然数の定義から始め整. 代数入門を必ず履修し単位を修得している。この. 数,有理数へ数体系を形式的演繹だけで構築する. 授業を受講し模擬授業の授業者になった学生は8. ことで,受講生が証明する技術と共に証明をしな. 年間で65名であり,そのうち約70%の45人が代数. がら概念が明確になっていく現代数学の考え方を. 入門を1回目の受講で合格し,30%の20人が2回. つけることを目標とした。解析学基礎では,中学. 以降に合格していた。. で学ぶ関数概念がその後の学習で目指しているも. このように専門科目における数学的知識と「模. のとしての1変数の微分積分についての知識につ. 擬授業作り」授業が相補的に機能する場面が見受. いて授業していた。学生は中学校における初期の. けられることもあったが,全体として学生の活動. 関数概念といえども変化と対応の2つの視点と微. において明らかな形で代数入門や解析学基礎での. 分の考え方との繋がりを知った上で授業を組み立. 数学的知識が模擬授業作りに反映できていなかっ. てなければならないことを学んでいた。. たというのが現実であった。学生は中学校や高等. 上記の専門科目を踏まえ「数学の授業ができる」. 学校の教科書に向き合うと,そこに書かれている. ことを確認・実現するための科目が表題の「模擬. 数学的知識や概念をそのままの形,そのままの深. 授業作り」授業であった。大学での形式的で集合. さで伝達しようとしてしまう傾向が強く現れてし. 論的な数学を中学校数学の授業にそのまま適用す. まう。. ることは不可能であるが,模擬授業を作る際に学. 299.
(11) 池 田 正. 5節 学生は「育った」のか この節では8学年にわたりこの「模擬授業作り」. 表2にまとめる。協働学習の成否判定については ジョンソン・ジョンソン・ホルベック[1]を参 考にした。. 授業を実施した結果について,公開授業の成否と 実際に教員になったかの有無の2点から集計する。 ⑴ 公開授業について 本授業の成果物が公開授業であるため,その成 否を評価することは今後の「模擬授業作り」授業. 表2 代数 入門. 協働 学習. うまくいかな かった授業. そうでなかっ た授業. 計. A. A. 0(0). 5(4). 5(4). A. B. 1(1). 6(3). 7(4). を改善するためにも必要である。3年生は公開時. A. C. 2(1). 5(3). 7(6). に「数学科教師」として振る舞うことができるよ. B. A. 0(0). 13(5). 13(5). うになっていた。本授業を受講した学生は,伝え. B. B. 1(0). 27(15). 28(15). たいことの表現と理解,めあてとまとめ,生徒観. B. C. 4(3). 3(3). 7(6). C. A. 0(0). 0(0). 0(0). C. B. 1(0). 5(2). 6(2). C. C. 1(0). 2(2). 3(2). 10(5). 66(37). 76(42). 察,発問,板書,教材教具の使用,生徒のための 授業態度などあらゆる点で受講前より知識・技 能・態度とも向上していた。ほとんどのグループ. 計. の公開授業は「ある水準」以上であった。しかし ながら, 「うまくいかなかった授業」も13%程度. 模擬授業の成否は「うまくいかなかった授業」. 存在した。それらの授業は次のような特徴をもっ. と「そうでなかった授業」に大別し,代数入門の. ていた。. 成績を上位からA,B,C,協働学習が実現でき. ◦授業者が話している時間が授業の大半を占め. ていたかどうかを上位からA,B,Cとして該当. ている。. する回数を記載したものである。模擬授業は計76. ◦授業時間が大幅に超過している。. 回で括弧内は現職教員が参観した42回の公開授業. ◦内容の説明に終始している。. での回数である。. ◦伝えたいことが大量で未整理である。. この集計によると授業者の代数入門の成績が中. ◦教師主導で授業を進め,生徒は発言のみを求. 上位でありながらグループの協働学習の状態が下. められる。. 位のグループにおいて「うまくいかなかった」こ. ◦発問が個人指名ばかりである。. とが10回の授業中6回を占めていることが特徴的. ◦グループ内の授業者だけで授業を作っていた。. である。これらでは授業者が授業作りに向き合う. ◦模擬授業とその解説に整合性がない。. 際に「個別事態の学習」が強い傾向であった。. ◦授業者がうまくいかなかったことに気がつい. ⑵ 教員になったのか. ている。. この授業の目的は「授業研究をおこない,研究. 本論で扱っている8年間で実施した模擬授業作. 授業を作ることと同じように模擬授業を作る」こ. りは計76回であり,公開授業の授業者を担当した. とであった。その背景は「職業人としての数学教. 学生は計65名であった。この公開授業でうまくい. 師になるため」である。従って,この授業を受講. かなかったと思われるのは10回であった。これら. した学生の中からどのくらいが数学教師になった. は上記9項目の6項目以上が該当していた授業で. かは,本授業の達成度を示す客観的な指標の一つ. あった。これらの授業について専門科目の成績と. である。教員採用数について表3にまとめた。. グループが協働学習を実現できていたかどうかに. この表の教員採用者数とは公立学校(小学校,. ついて専門科目「代数入門」の成績,協働学習実. 中学校,高等学校),私立学校(中学校,高等学校). 現の可否と公開模擬授業の成否を大別したものを. に正規採用された総数のみで,期限付きや時間講. 300.
(12) 数学科教員養成における「模擬授業作り」を用いた課題解決学習. 表3. 授業では不十分で,より数学専門科目に位置づけ. 総数. 教員採用者数 新卒採用者数. 既卒採用者数. たアクティブラーニング型の授業科目の必要性を. 受講者. 136. 77(56.6%). 52(38.2%). 25(18.4%). 強く感じたからである。この科目では毎時間ごと. 授業者. 65. 49(75.4%). 31(47.7%). 18(27.7%). に提示された課題,主に高校・大学初年度程度の 数学問題,を5人程度のグループで3通り以上の. 師は含んでいない。4名が小学校で採用され,中. 解法を作り,それぞれの解法の「よさ」を検討し,. 学校,高等学校は全て数学科での採用である。括. グループごとに3通りの解法に絞り,翌週の授業. 弧内は全体に対する割合である。なお,北海道外. で発表するという形態をとっている。発表は15分,. の既卒者については把握できた数のみ記載してい. グループ全体で同時に行い,各グループから一人. る。このように「模擬授業作り」授業を受講した. が別グループの発表を受講する。その後,他グルー. 学生(受講者)の半数以上がすでに教師として教. プの発表内容を持ち帰り,自分たちが適切と判断. 壇に立ち, 公開模擬授業で授業者を演じた学生(授. し発表した解法の選択基準と比較検討した上で自. 業者)の四分の三が教師になっている。これら受. グループの3つの最終案を決定する。ほぼ,この. 講生だった学生が今後地域の数学科教師として授. 手順が10回程度繰り返される。この学習の中で学. 業研究をリードし,地域に貢献する人材へと育っ. 生は過去に学んだ数学知識による典型的解法,書. ていくかどうかが今後の観察対象である。. 籍等で調べた解法,自分自身で考え出した解法な. 公開授業がうまくいかなかった10名の授業者で. どを持ち寄り,簡単であることや見通しがよいこ. は5名が新卒で採用され,1名が既卒で採用され. とや予備知識が少ないことなどのいろいろな価値. ていて,公開授業の授業者全体の割合とほぼ同じ. 基準でその解法の「適切さ」を検討する技能を学. である。. ぶ。課題には例えば「2つの正数における相加平 均相乗平均の不等式の証明を3つあげよ」,「2つ. 6節 終わりに. の直線のグラフが垂直になるための条件が直線の 傾きの積が−1になることの証明を3つあげよ」, 2. 8年間実施した「模擬授業作り」授業は現在も. 「2次方程式 x =x+1の解をφとしたとき,. 継続されている。最後に,この授業の現在につい. 1 =−φ+2となることの証明を3つあげ φ+1. て簡潔に触れることにする。現在この「模擬授業 作り」授業を受講しているのは本学国際地域学科. よ」など通常一つの解法しか学ばない問題から選. 地域協働専攻地域環境科学グループで数学を学ぶ. ぶことが多い。このように学生が「決まり切った. 2年生と3年生である。3年生の「模擬授業作り」. 解法」以外の解法に目を向け挑んでみることで今. 授業は本学の「アクティブラーニング型授業」と. まで関係していないと見なしていた数学概念との. 位置づけられている「地域プロジェクト」科目の. 繋がりに気付くことや大学で学ぶ数学の中に新た. 一つとして函館市中学校数学教育研究会の協力の. な解法を発見することで数学理解を深めることを. もと,同研究会での授業研究及び研究授業作りに. 目的としている。この授業の効果について今後時. 学生が直接関わりつつ,模擬授業作りを行う形態. 間をかけ検証する予定である。. へと進化した。 また,2015年からはこれに加えて,2年生前期 に数学専門知識を学ぶ科目と「模擬授業作り」授. 謝 辞. 業をつなげることを目的とした授業を新設した。. これまで「模擬授業作り」授業公開に参観して. これはこの8年間の経験から模擬授業や教育現場. いただいた,数多くの現職教員の方々にはこの場. の授業研究を充実させるためには「模擬授業作り」. を借り心から感謝を申し上げます。. 301.
(13) 池 田 正. 参考文献 1.ジョンソン.D.W・ジョンソン.R.T.・ホルベッ ク.E.J(2010),学習の輪:学び合いの協同教育入 門,石井裕久・梅原巳代子訳,二瓶社 2.松下佳代編(2015),ディープ・アクティブラーニン グ,勁草書房 3.溝上慎一(2014),アクティブラーニングと教授学習 パラダイムの転換,東信堂 4.溝上慎一・成田秀夫編(2016),アクティブラーニン グとしてのPBLと探求的な学習 アクティブラーニン グ・シリーズ2,東信堂 5.安永悟(2012) ,活動性を高める授業づくり 協同学 習のすすめ,医学書店 6.安永悟・関田一彦・水野正朗(2016),アクティブラー ニングの技法・授業デザイン,東信堂. (函館校准教授). 302.
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