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第2節 大学生の日本美術文化教育に関する意識調査

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(1)

第2節 大学生の日本美術文化教育に関する意識調査

 前節のアンケートから、次の件に関して調査する。

1,教員養成の授業を受講している学生は、日本の美術文化に関る教育の必要性に対し   でどのように考えているのか。

2,実際に日本の美術文化に関する知識を用いる必要に迫られた時に、どの様に対応す   ることが可能なのか。

 以上の二つの疑問から、日本の美術文化に関するアンケートを実施した。

1,はこちらからの設問に選択式で回答し、詳細を記述してもらう。

2は実際の場面を想定して、記述する形式にした。

 対象は前回と同じく兵庫教育大学学部1回生(一部院生含む)の「初等図画工作」受 講者200名である。有効回答者200名から調査した。

(資料2)兵庫教育大学修士論文アンケート(大学生対象)

あなたの中の「日本の美術」意識調査  2011年2月3日(木)実施より 兵庫教育大学修士論文アンケート(大学生対象)

あなたの中のr日本の美術」意識調査

1, (2010年4月1日現在の年代・性別確認)

2,あなたがこれまでに図画工作・美術の教育を受けた経験をふまえてお答え下さい。

  現在の学校教育(幼・小・中・高)でr日本の美術」に関して教える必要があると   思いますか。該当する方をOで囲んでください。

  1,ある。  2,ない。  3,どちらとも言えない。

上記の問題で、そう思った理由を簡潔に書いてください。

3,2の問いで(1,ある)と答えた方にお聞きします。現在の学校教育(幼・小・中・

 高)で、「日本の美術」を教えるとするなら、どの時期に重点的に行うべきだと思い   ますか。該当するものを○で囲んでください(複数可)。

   1,〜幼稚園  2,小学校1・2年  3,小学校3・4年  4,小学校5・6年    5,中学校1年  6,中学校2年  7,中学校3年   8,高校〜

・,その他(

(2)

4,4の問いで、そう思った理由を簡潔に書いてください。

5,次の文は、「私」と留学生「Aさん」の会話です。

 r私」になって会話の欄に具体的な内容を記述して  ください。

  ※会話をイメージしやすくするために、顔等は    各自で描いてもらってかまいません。

モネ《睡蓮》

国立西洋美術館 蔵

ロダン《考える人》

国立西洋美術館 蔵

Aさん1日本には、私の国の美術品がたくさんありますね。

 モネとかロダンとか…。私の国の美術が日本でこんなに  好かれているなんてうれしいです。

私:確かに日本には、西洋の有名な作家の絵画や彫刻がた  くさんありますね。美術館等でもよく展示されています

 し…。

Aさん:そうですか。私、子どもの頃から日本のアニメー  ションや漫画は見ていましたが、日本の美術に関して  は、あまり知らないんです。

  私の国の絵画や彫刻は、写実的な物から抽象的な物ま  でいろいろあるけど、日本の美術にはどんな感じの物が

あるのですか?

私:そうですね。

Aさん.そうですか。じゃあ、あなたがおすすめする日本の美術品ってあります

できれば日本にいる間に見ておきたいんですが… 。 私:そうですね。私のおすすめは、

(3)

Aさん:それなら、今度また詳しく教えていただけますか?

私:いいですよ。よければ案内しますよ。

まず、2間目だが、結果は以下の通りである。

2、現在の学校教育(幼・小・中・高)で「日本の美術」に関して教える必要があると思    いますか。

1ある。   177名

2。ない…5名

ぎj一   どちらとも言えない…18名

(図15)

現在の学校教育(幼・小・中・高)でr日本の美術」に関して教える必要があるか。

 「ある」と回答した者が177名と圧倒的に多い。理由として「自国の文化なのに知ら ないのはおかしい」「西洋美術のみ習うのに違和感がある」「(社会の)日本史でしかした ことがないのであまり知らない」「日本と西洋、双方の伝統文化を知って比較してこそ理 解が深まるから」といった意見が多かった。

 「ある」と答えた人で、「中学美術の授業で毎回1作品紹介していた」という学生もい た。しかし多くの学生が肩本の美術文化に関する授業を「社会で少ししか習っていない」

「図工・美術で習ったことがない」「修学旅行時に短時間習った」「高校の選択教科で習 った」等、小・中学または高校の社会科で少し習った程度という回答が多かった。

 一方、rない」「どちらともいえない」と回答した者だが、「美術の専門家に任すべき」

「専門的なので必要ない」「学んだからと言って、それを利用する場が無いと思うから」

等、やや否定的な意見から、「何とも言えない」喚味がない」といった無関心・否定的 な意見が回答されていた。しかし、回答として多いのは「自分が(日本の美術文化授業 を)受けたことがないからよくわからない」であった。これまでの美術教育が、日本の 美術文化を重視してこなかった弊害が表出している様にも考えられる。

 次に、2間目でrある」と答えた177名に、3間目(現在の学校教育でr日本の美術」

を教えるとするなら、どの時期に重点的に行うべきだと思いますか)を、複数回答で答 えてもらった。結果は以下の通りである。

(4)

4,現在の学校教育(幼・小・中・高)で、「日本の美術」を教えるとするなら、

@ どの時期に重点的に行うべきだと思いますか。

S重点的に「日本の美術」を教える時期

87

67

利一

50

100 X0 W0 V0 U0 T0 S0 R0 Q0 P0

@0

衛牢

17 ・墓

31

P藻潔謙

時期 〜幼 ノ』・

P・2

小3・4 小5・6

中1 中2 中3 山局〜 その

無回

(図16)4,重点的に「日本の美術」を教える時期

 選択番号で回答を集計すると上図の様になる。小学5・6年が一番多く、次に中学2年 が多い。学生が当該学年時、小学校では6年、中学では2年で社会の歴史分野を学習し ているので、学生が学校教育で体験した時期が反映しているものと推察する。この箇所 だけ見ると、学生が日本の美術文化に関して、知識を理解する事を主な目的として捉え ていると考えられる。

 しかし、r小学1〜4年での学習を重点的に行うべき」、という回答も多い。質問に対す る理由を確認すると、「小さい内から、日本の美術に親しむべき」という学生の声も多く、

「歴史を認識する頃に実施したほうがわかりやすい」として小学5・6年以降を推す意見 も見られた。特に小学5・6年を選択した者の中では、「幼すぎず、しかし美術や文化を テストの点数をとるための勉強として受けとめるようになる前がいいのでは」と、感性

を伸ばせると同時に知識理解を促せるという、両方の利点を考慮する回答も見られた。

 そこで、3間目の回答を、学生が日本の美術をどの時期に重点的に行うべきか。時期 の区分けを変更して回答数の分布を確認してみた。

(5)

4,回答数の分布

 日本の美術を重点的に教える時期(重複)

小学5・6年 中学以降の  のみ      み

〜小学4年と

      わからない 中学以降       ・無回答  両方

(図17)日本の美術を重点的に教える時期(重複)

 グラフを見る限り、学生は「中学以降のみ」の学習を選択した人が多かった。「歴史学 習とリンクできるから」等、の理由から考えても、これまでの日本の美術文化教育の内 容を知識理解として捉えられている様に見える。しかし、「幼いときから触れておいた方 が、よりなじみやすいから」 「小さい頃の方が関心を持ちやすいから」という理由で、

日本の美術文化を、感性を育む教育として小学校1〜4年までに実践することが大切だと 考えている回答者もいた。

 次に、双方の意見を取り入れて、小・中・高と発達段階に応じた教育を実践する方法 が挙げられる。これを選択した学生は多かった。但し、「発達段階に応じて、取り入れる べきかと感じた」「長い年をかけて説明する必要がある」と明確に答えた人は2人のみ で、後は「なんとなく」 「(コメントなし)」といった曖昧な回答が多い。一方、小中 での連携に関しては、「小さい内に日本の美術の楽しさに触れさせて、高学年以降で内 容を深めていくと良いと思った」「小学校5,6年で(日本の美術に)ふれたあと、も

う少し専門的なことを中1で学んで、中2でもう1回やるといいと思ったから」等、知 識理解を深める方向性を示す回答が多かった。

 次の5間目(次の文は、「私」と留学生「Aさん」の会話です。「私」になって会話の 欄に具体的な内容を記述してください)では、学生自身が、日本の美術文化を知らない

(6)

人にどれぐらい説明が可能か、現実的な場面を設定して回答してもらった。学生には回 答しやすくする為、「私」と留学生「Aさん」の会話の空自部分を埋める形式にして、

具体的作品・作家を答えるようにしてみた。結果は以下の通りである。

5間目「私」と、留学生「A」さんの会話に出てくる「日本の美術品」作者・作品名

具体的な作者名・作品名

鋤精一一価紅ギ畑》1…仏名三・・一 髪川師宣《見返り美人図》 ・・18名 雪舟r水墨画」 ・・P6名

        歌川広重《東海道五十三次》…12名      俵屋宗達《風神雷神図》…9名

  東大寺《大仏》…5名    岡本太郎《太陽の塔》…5名

東大寺《金剛力士像》…4名 岸田劉生《麗子像》…4名

狩野永徳《唐獅子図屏風》《洛中洛外図屏風》…3名 鹿苑寺《金閣》…3名

東州齋写楽…2名

伝鳥羽僧正《鳥獣戯画》…2名 興福寺《阿修羅像》…2名 大阪城…2名

姫路城…2名

尾田栄一郎《ワンピース》…2名

(作者・作品名…各1名)…尾形光琳,上村松篁,円山応挙,渡辺宰山,

 川端龍子,棟方志功,《源氏物語絵巻》,《高松塚古墳壁画》

 荻須高徳《パリの街角》,いわさきちひろ,吉原治良,ポケモン,

 興福寺《無著・世親像》,興福寺《仏頭》,《銀閣》,《法隆寺》,

  《東大寺》,《松本城》,《五重塔》,安藤忠雄,黒川記章

(7)

具体的な作品名及び作者名なし作品ジャンノレやその他の回答、

水墨画 ・16名

浮世絵 ・1O名 日本庭園…5名 寺…3名

屏風…3名 掛け軸…2名 富士山…2名 漫画…2名

アニメーション…2名

(他…各1名)日本画,錦絵,版画,油絵,風刺画,書道,盆栽,城,

建築物,京都

無回答、他…26名

(回答者数 延べ236名)

(図18)「私」と、留学生「A」さんの会話に出てくる「日本の美術品」の具体的な     作品名及ぴ作者名の集計結果

 学生の中で一番多かった回答は、「葛飾北斎」・《富嶽三十六景》の42名だった。但 し、作者・作品両方を正確に回答できた学生はほとんどいない。作者か作品名のどちら かを回答しているか、 「北斎の浮世絵」や「北斎の富士山」といったあいまいな回答が ほとんどを占めていた。したがって、r北斎の浮世絵」が《凱風快晴》《神奈川沖波裏》

《北斎漫画》等、どの作品を示しているのかは不明である。回答内容に、「波がすごい」

「富士山が赤い」等、作品の詳細を記載していた者もいたが、記載されていないものが 多いので、回答からは作品名を解明出来なかった。

 但し、一項の一回目アンケートにあるr日本の美」で連想する物で「富士山」が一番 多かった事から考えても、北斎作品の中で「富士山」が日本の美を象徴する物として多

くの学生に印象づけられていると考えられる。

 次に多いのは菱」l1師宣の《見返り美人図》だった。但し、《見返り美人図》ξ回答し た者で、作者のr菱川師宣」を答えたのは18名申2名と少ない。学生には菱」l1師宣とい

う作家より、《見返り美人図》という作品名が印象に残っていると考えられる。

 《見返り美人図》の次に多いのは、雪舟のr水墨画」だった。しかし、《秋冬山水図》

《天橋立図》と作品名を答えたのは16名中2名であった。作品名の《秋冬山水図》等よ り、「雪舟:水墨画」というイメージを学生が有していると考えられる。

(8)

 雪舟の次に多いのは歌川広重の《海道五十三次》で、以下俵屋宗達《風神雷神図》と

続く。

 これらの回答から、回答者の日本の美術作品に関する知識は「作品名」「作者名」「技 法名」等が、断片的語句として記憶されているのではないかと考えられる。回答に「水 墨画」 「浮世絵」といったジャンル,技法名が多いのも、美術文化の語句としての記憶 が結果に表れているものと考えられる。

 但し、学生の200名中26名が無回答だった。アンケートの設問は学生が簡単に記入で きるように配慮した構成にしたが、回答できる具体的な作者や作品名が思い浮かばなか ったのは、日本の美術文化に対する無関心さとも考えられる。

 第2回目のアンケートをまとめると、次のようになる。

 (今後の美術教育の進め方について)

 1,多くの学生は、自身の体験も含めて、現在の学校教育で日本の美術文化を教える    必要があると考えている。

 2,学生の多くが、日本の美術文化教育を知識理解教育ととらえている。

 3,日本の美術文化を知識理解教育ととらえている者は、発達段階的に他教科(歴史)

   等とリンクさせやすい小学校高学年からの学習が良いと考えている。

 4,一方、情緒の発達段階に応じて、低学年から徐々に日本の美術文化教育を行うへ    きだと考える者もいる。

 5,4でそう回答した者は、日本の美術文化学習を知識理解の面だけでなく、情緒的側    面からも学習を進めておく必要があると考えている。

  (日本の美術文化の紹介について)

 1,学生の中で、日本の美術文化を適切に分かりやすく説明できた者は少数にとどま    った。

 2,多くの学生が日本の美術文化について説明できなかった原因として、作品名・作    者名等、知識不足が挙げられる。

 3,学生の回答した日本の美術作品名・作者名は、あいまいな点が日立ち、正確に回    答できたものはほとんどいなかった。

   (例:北斎の浮世絵・見返り美人・雪舟の水墨画等)

 4, 《見返り美人図》,「水墨画」, 「北斎」,《東海道五十三次》等、学生の回答    した語句に偏りが見られる。

 5,4より、学生は何らかの共通する文献、例えば教科書などから日本の美術に関する    語句を引用したとも考えられる。

  以上の事と、1節のアンケート結果を第3節でまとめていく。

(9)

第3節 大学生アンケートから見える課題

 学生へのアンケート結果を総括する。まず、日本の美と聞いて、富士山と答えた学生 が多かった。富士山は分野・ジャンルを問わず、絵画や写真、映像等のモチーフとして 多く使用されている。一般的に銭湯の壁絵からカレンダー、絵画表現から、初目の出の 映像等、比較的視界に入りやすい。富士山は日本固有のものであり、日本の美=富士山

と直結して回答していると思われる。

 その他に関しては、季節感を感じる場所や動植物等、日本画の題材となる花鳥風月に 関する物が中心となった。学生たちは日本の美術文化が、四季による気候風土の変化と、

変化の対象物によって構成されているという本質を体感して認識しているといえる。

 一方、日本の美術文化に関する知識は決して多くない。特に情報源の多くは学校授業 で使われている教科書や資料集で得た内容と考えられる。家庭内で美術館・博物館に行 ったという回答もあったが、ごく少数にとどまっている。

 しかし、日本の美術文化に関する関心は少ないわけではなく、情報源の少なさからか、

むしろ興味を持っていることが読み取られた。また、描線や構図のシンプルさ、画面全 体の明るさ等、日本画の本質や特徴を把握して理解している者が多かった。同時に学生

白身の生活空間を考慮し、生活空間の条件さえ合えば、日本画・西洋画関係なく取り込 んでいく傾向が見られる。

 次に、日本の美術作品及び作者名だが、作品分野に偏りが見られた。美術の分野とし ては、絵画分野に関係する回答が多く、運慶・快慶等の仏像彫刻及び建築物に関する回 答は少数であった。

 絵画分野での回答も作者名と作品名両方を正確に答えた者は少ない。両方合わせて答 えられたもので一番多かったのは「葛飾北斎の《富嶽三十六景》」であった。

 だが、それ以外の作者・作品名の回答例として多かったのは「北斎の浮世絵」,「《見返 り美人図》」,「雪舟の水墨画」「広重の《東海道五十三次》」である。

 まず北斎だが、彼には先に示した代表作《富嶽三十六景》があり、その中に《凱風快 晴》,《神奈川沖波裏》等、様々な絵が存在する。学生が北斎に「富士山」より「浮世絵」

という語句を添えた理由は、北斎の他の作品を考慮して記入したのかもしれない。しか し、「日本美=富士山」と考える学生が多い申で、「北斎:富士山」より「北斎=浮世絵」

と記入し、《北斎漫画》等の他の具体的作品名が記入されないのは、学生が《富嶽三十六 景》以外の北斎作品を知らないとも考えられる。

 次に「《見返り美人図》」だが、学生の中で作者の「菱」一1師宣」を記入したのは2名で、

後は作品名のみ記述していた。学生の回答が作品名のみという事は、作者より作品名の 方を記憶していたことになる。学生が唆川師宣」という作家名より、《見返り美人図》

という作品名のみを単純に記憶していたという事は、「菱川師宣」という作者名を含めた

(10)

作品内容や情報から離れて 断片的 に《見返り美人図》を記憶していた可能性が高い。

 次に「雪舟の水墨画」であるが、こちらも《秋冬山水図》,《天橋立図》の作品名を2 名が回答していた。後はすべて「水墨画」と併記、又は「雪舟」のみの回答である。「雪 舟=水墨画」とイメージ付けた学習があったと仮定すれば、「雪舟の水墨画」と回答する 者が多くなるはずである。

 次に「広重の《東海道五十三次》」であるが、「歌川広重」と作者を氏名で答えた者は 少なかった。こちらも《見返り美人図》と同じく、作者の名前より《東海道五十三次》

という作品名の方が印象に残っていたことになる。《東海道五十三次》は、その中に様々 な絵があるので、複数作品の集計となるが、個々の作品名、例えば《日本橋》などとい

う記述をした者はいなかった。

 以上の4つの回答から、次の仮説が考えられる。

 1, 葛飾北斎《富嶽三十六景》は、日本の美=富士山と結びついてイメージされたも    のと考えられる。

 2, しかし、学生は、「北斎=富士山」「北斎=浮世絵」と認識しているが、《富嶽三    十六景》以外の北斎の作品(《北斎漫画》等)を知らない,あるいは説明できな    いのではないかと考える。

 3, 1回目のアンケートのまとめから、回答者の多くは幼心中高の学校教育で日本の    美術文化に触れていると考えられ、更に、学生の美術文化に関する知識は、小・

   中・高の学校教育から得られていると考えられる。

 4, 2回目のアンケートのまとめから、回答者が自身の体験から、日本の美術文化数    有を知識学習と捉えている者が多い。

 5, 2〜5よりr北斎=浮世絵」のイメージを回答者に与えたのは、小中高の学校教    育で、記憶した内容がそのまま表出した可能性がある。

 6, 6の仮説通りなら、「《見返り美人図》」,「北斎の水墨画」,「広重の《東海道五十    三次》」といった語句が、小中高の社会科(歴史)及び美術教科書に表記されて    いると考えられる。

 7, 美術文化の語句が、複数の小牛杜会科(歴史)教科書に記述されていれば、回答    者が重要語句として暗記していると考えられる。

 学生の日本の美術文化に関する知識は、美術教科よりむしろ社会の歴史分野での学習 からより多くを学んでいると考えられる。また、1回目アンケート5間目(それを見た のはいつのことですか)で、1年以内に見たと回答している者が多いことから、大学受 験の際に、重要語句として暗記したというケースも無視できない。しかしおそらくは、

小・中での社会(歴史)学習から重要語句を断片的に記憶するということが始まってお り、それが、大学入試の受験学習でより一層進んだと考えられる。又、高校の社会科は

(11)

選択式なので、日本史を学習していない学生もいたと考えられる。その点を考慮し、次 章で検証したい。

(12)

第3章 検定教科書における日本美術文化の扱い

第1節 社会(歴史)教科書の検証

第1項 小学校社会(歴史)教科書調査

 前章のアンケートを実施した学生は、平成20年度新学習指導要領が施行される以前に 幼心中高の教育課程を修了している。つまり、平成24年施行の「中学校学習指導要領 第 6節 美術」で目標に「美術文化についての理解を深め,豊かな情操を養う」36〕と記載

される前段階の教科書を使用して授業を受けている。回答者の中学校入学は平成16年度 かそれ以前になる為、小学校高学年・中学校在籍時は平成13年検定教科書か、それ以前 の教科書を使用して日本の伝統文化に関する知識や情報を得ていることになる。アンケ ート回答の中には、「北斎の浮世絵」「《見返り美人図》」「雪舟の水墨画」といった日本の 美術文化に関する語句が共通して見いだせる。前章では、このことから学生は日本の美 術に関する内容を、歴史の授業等で重要語句として暗記しているのではないかとの仮説 を立てた。教科書の記述にアンケート回答を裏付ける表現や表記があれば、前章の仮説 が成立する。特に、教科として、図画工作・美術より社会(歴史)の影響が顕著であれ ば、生徒は課題考査や実力試験等で、日本の美術文化に関する語句を暗記していると考 えられる。前章のアンケート結果と今回の教科書調査に共通性が見いだせれば、これま での社会(歴史)及び図画工作・美術の教育の在り方を考え直さなければならない。但

し、小・中学校だけでなく高等学校でも歴史の授業が行われており、大学受験等で日本 の美術文化に関する作家名や作品名の単純な語句化は行われていると推察できる。もっ とも、社会(歴史)が事象に伴う年代や人物の動きを覚える学習でもある為、重要な内 容を語句化する事は学習として必要なことである。しかし小・中学校g学習段階で、語 句に内容が伴われない状態での単純な語句化が行われていれば、歴史学習の早期の段階 で日本の美術文化の作家名や作品名が個々に断片化して関連性を失うことになる。

 そこで、今回は小・中学校の義務教育機関に絞り込み調査する。児童生徒は社会(歴 史)を小学6年生及び中学2年に学習する。

 まず、平成13年検定教科書の内、社会(歴史)の教科書から検証することにする。

平成13年小学校社会6年上巻の内、r東京書籍」37),r教育出版」38),r光村図書」39〕,

「大阪書籍」40)の4社を調査し、日本美術文化の歴史紹介で、絵画分野の取り扱い状況 を確認した。ちなみに小学校・中学校の社会(歴史)教科書は平成13年版から完全カラ ーぺ一ジ化されている。この為、美術作品や写真もフルカラーで鑑賞が可能となった。

社会(歴史)の教科書には、当時の風俗や社会情勢を知る為に、資料として美術作品の 一部が切り取られて表示されていることがある(例:《洛中洛外図》等)。しかし、4社

(13)

の教科書には、作品名・作者名・資料出典が記載されていないので割愛した。結果は次 の通りである。

小学社会6年(上)に見る美術文化の扱い

葛飾北斎 菱川師宣 雪舟の 歌川広重 備考

喧嶽三十六景」 「見返り美人」 『水墨画1墨絵〕」 「東海道五十三次」

東京書籍 X X O『水墨画」 ○「浮世絵』で紹介.

新しい社会 ・作品名なし ・大井川の渡しを

6上 掲載

教育出版 × X ○曝絵」 O「浮世絵」で紹介 「水墨画」体験Pあり。

小学社会 ・作品名なし ・鳴海の宿を掲載

6土

光村図書 X × O r水墨画」 X ・浮世絵工程紹介Pあり

社会6上 ・『天橋立図」の (歌麿・写楽〕

表記あり ・黒田清輝「読書」紹介

大阪書籍 X X ○r水墨画」 ○「浮世絵」で紹介 ・ゴッホ「日本趣味・雨の大橋」と

小学社会 ・作品名なし ・戸塚を掲載 広重r名所江戸百選 雨の大橋」

6年上 の比較あり。

匿瑠は、前章アンケートで記述のあった作品(作家毎に色変更)

(図19)教科書記載の絵画分野紹介表(いずれも平成13年検定教科書)

 小学校社会6年(上)の教科書を日本の絵画分野で確認したところ、4社共に、室町 時代の「水墨画」と江戸時代の「浮世絵」の2つが記載されていた。4社中3社は、他 の絵画分野の紹介は無く、光村図書1社が、明治時代の岡倉天心・フェノロサ・高村光 雲と共に、黒田清輝《読書》を写真入りで掲載していた仙〕。

 まず、「水墨画」について考えてみる。4社共自画像入りで「雪舟」が代表的作家とし て紹介されていた。教育出版では、「水墨画」紹介とは別のぺ一ジで、雪舟の水墨画模写 体験を記載し総合的学習につなげるように記述している。4社の教科書共に、雪舟作品 の一部または全部をカラーで掲載している。光村図書1社が作品名《天橋立図》の記述 があり、他3社は、作品名ではなく「雪舟が描いた水墨画」又は「雪舟が描いたすみ絵」

と記述されていた。雪舟の正式な作品名が記述されずに「水墨画」や「すみ(墨)絵」

に変更されている理由はわからないが、作品名より絵画技法を優先している様にも考え られる。これらから、使用された教科書によっては、児童には雪舟の作品名より、「水墨 画」「すみ(墨)絵」といった語句の方が印象に残ると考えられる。

(14)

 次に、「浮世絵」について考えてみる。4社中3社の教科書で代表的作家・作品として、

「歌川広重の《東海道五十三次》」が紹介されている。この3社は、いずれも連作名の《東 海道五十三次》を作品名として記載し、《戸塚宿》、《鳴門宿》といった詳細な作品名は記 載していない。3社の教科書共、地名や状況を補足説明する形式で記述している。光村 図書のみ、「歌川広重の《東海道五十三次》」という作者・作品名を紹介していないが、

巻末年表にr歌川広重(1797〜1858)」を入れ、浮世絵紹介とは別のぺ一ジにr旅をする 人々(歌川広重作)」として作品を掲載している。光村図書の浮世絵紹介のぺ一ジでは「写 楽」「歌麿」(いずれも作品名・作者名なし)を使用して、浮世絵の制作工程を写真付き で紹介している。

 次に、他の浮世絵作家であるが、今回確認した4社にはなかった。前章アンケートで 回答の多かった「葛飾北斎の《富嶽三十六景》」や「菱川師宣の《見返り美人図》」を掲 載した教科書も見受けられなかった。

 以上、教科書4社共、日本の美術文化に関する表記は少なく、平成13年検定教科書で は「雪舟の墨絵(水墨画)」と峨川広重の《東海道五十三次》」を多く採用しているこ

とから、学生が小学校6年時に「雪舟の水墨画」と厭川広重の《東海道五十三次》」を、

それぞれ一つの語句として記憶したと考えられる。平成10年告示の「学習指導要領社会

〔第6学年〕3内容の取扱い」には、「オ (中略)例えば,次に揚げる人物を取り上げ,

人物の働きを通して学習できるように指導すること」とし、r雪舟」厭川(安藤)広重」

の二人が表記されている伽。上記の教科書も、小学校6年の社会(歴史)で日本絵画に 関しては、上記の2作者名を重要な人物名として記憶させていると考える。

 但、教育出版教科書には水墨画体験等の実践が記載されていた。これらの体験活動が 行われていれば、児童の水墨画に関する体験や知識も深まる。又、教員の裁量でその他 の作品名やその他の絵画領域の学習等を行っていれば、上記2作家以外の作家や作品名 等を深く知ることがあると考えられる。

第2項 中学校歴史教科書調査

 次に、中学校検定教科書の日本絵画に関して検証する。中学校社会科教科書は、近年 では平成8年,13年,17年に検定し発行されている。社会科の歴史分野内容は中学2年 に行われるが、教科書の配布は、中学1年に地理教科書と同時に行われる。学生の多く は平成16年度に中学校入学の為、歴史教科書は平成13年検定教科書を使用して実践し ている。そこで社会科の歴史教科書として、「東京書籍」伽,「教育出版」州,「日本書 籍」伽の3社に記載されている日本美術文化作品を確認し、絵画関係作品のみ一覧にし てみた。結果は以下の通りである。

(15)

中学社会科(歴史)教科書絵画掲載作品一覧

平成13年 作者名

狽ヘ場所

作品名 備考

 書籍

@ 名 ェ類

新し帷会触 中学社会 中学社会 東京書籍 教育出版 日本書籍

正倉院宝物 鳥毛立屏風 屏風 1 1 1

鳥獣戯画(甲巻) 絵巻 O 1 1

信貴山縁起絵巻. 絵巻 O 1 一〇

源氏物語絵巻 絵巻 1 1 1

平治物語絵巻 絵巻 1 1 1

清浄光寺・

ス喜光寺

一遍聖絵(一遍上人絵伝) 絵画 2 1 5

男会三郎絵詞 絵画 1 1 1

春日権現験記絵 絵画 1 1 1

西本願寺 慕帰絵詞 絵画 1 1 2

蒙古襲来絵詞 絵巻 1 3 6

倭歳図巻 絵巻 1 1 1

洛中洛外図屏風 屏風 3 3 4

職人尽歌合 模本 絵画 1 2 1

真正極楽寺 真如堂縁起絵巻 絵巻 1 1 2

雪舟 水墨画(冬景山水図) 水墨画 1 O O

一雪舟 水墨画(秋冬山水図) 水墨画 O 1 O

雪舟 水墨画(天橋立図) 水墨画 O o 1

聖フランシスコ・ザビエル像 絵画 1 1 1

狩野永徳 唐獅子図屏風 屏風 0 1 1

狩野永徳 (表記のみ) (作品なし) 1 O o

狩野山楽 (表記のみ) (作品なし) O O 1

国女(阿国)歌舞伎絵詞 絵画 1 1 1

江戸図屏風 屏風 1 1 2

{山応挙 七難七福図巻 絵画 1 O O

儀屋宗達 風神雷神図屏風 屏風 O O 1

俵屋宗達 (表記のみ) O 1 1

一尾形光琳 八橋まき絵のナずり箱一 工芸 1 O O

尾形光琳 燕子花図屏風 絵画 0 1 0

尾形光琳 (表記のみ) (作品なし) 0 0 1

(16)

..一D一p」,」D一f@一1一 .1一;一1∴・二、...一一一1.二r一二;一一一 .丁三一;.一1.

1

葛飾北斎 風景画(富嶽三十六景〕 神奈川沖浪裏 浮世絵 O 1 1

葛飾北斎 風景画(富嶽三十六景) 凱風快晴 浮世絵 1 O 0

峨川広重 東海道玉十三次 細密 浮世絵 O O一 1

歌川広重 東海道五十三次 日本橋 浮世絵 1 o 0

歌川広重 東海道五十三次 庄野 浮世絵 O 0 1

歌川広重 風景画(名所江戸百景) 両国花火 浮世絵 1 0 O

歌川広重 風景画 (作品なし) O 1 O

喜多川歌麿 美人画 ポッピンを吹く女 浮世絵 1 O 1

喜多川歌麿 美人画 (作品なし) O 1 1

」・東州斎写楽 凌者絵一 棚女藏6奴二平一 一浮世絵 1 o 1

東州斎写楽 大谷鬼次の奴江戸兵衛 浮世絵 O o 1

尾張名所図絵 絵画 1 1 1

和田英作 (憲法発布) 油彩 1 1 1

黒田清輝 読書 油彩 1 1 1

直垂1箇所は、三社(東京書籍・教育出版・日本書籍)共通で掲載された作品 ス瑠は、前章アンケートで記述のあった作品(作家毎に色変更)

(図20)平成13年検定中学社会科(歴史)教科書に記載されている日本絵画分野作家  名・作品名一覧

 図2は社会科歴史教科書3社に共通して掲載されている作品と、前章学生アンケート に回答されていた作品の掲載状況である。教科書に掲載されている作品写真は、作品(絵 巻物や屏風絵)の一部をトリミングしてある物もある。そこで、同一作品の同一箇所又 は別箇所を2回以上記載している場合は、それぞれを1回として記載箇所の個数を数字 で記述している。また、図版の注釈及び説明文に、絵画に関する情報(作者名・作品名・

所蔵場所等)が記載されていない物もあるので、その箇所は空欄とした。

 社会科歴史教科書は時代毎の風俗等を知るために、当時と同時代の絵巻物や屏風絵,

書物の挿絵を多数掲載している。上図の一遍上人図絵や洛中洛外図屏風の記載が多いの も、美術作品としてではなく、当時の風俗を知る為の歴史的資料としての要素が強い。

各教科書共、上記の作品をトリミングして、記述内容に合わせて掲載している。この為、

作品の写真内容は美術的価値より歴史的価値を優先し、当時の習慣や風俗,事件を知る 為の資料として作品を掲載していると考えられる。上図の作品で、教科書会社3社に共 通で記載されているものは、歴史的資料性の高いものと考えられる。作品の美術的価値 が間われるのは、当時の美術文化に関する記述があり、代表的な作家や作品を紹介して

(17)

いる箇所であると考えられる。

 次に、2章のアンケートで回答のあった美術作品と、図20を比較してみる。

 まず、葛飾北斎だが、本論で選択した教科書3社共、作品を写真入りで掲載していた。

掲載作品は3社共に《富嶽三十六景》だが、東京書籍では《凱風快晴》が、教育出版・

日本書籍では《神奈川沖波裏》が掲載されていた。しかし、教科書の本文では、「浮世絵 では(中略)葛飾北斎や歌川(安藤)広重が風景画を描いた」46〕か、又はそれに類する 記述になっている。図に関しては、東京書籍・教育出版が「葛飾北斎の風景画」又は「葛 飾北斎の風景版画」と記述し、横に小さく《富嶽三十六景》や《凱風快晴》などの作品 名が記述されている。日本書籍は、作品写真下に《富嶽三十六景》を入れ、横に小さく

《神奈川沖波裏》と補足する様に記述している。各社掲載されている作品写真や紹介の 仕方には違いがあるが、学習する生徒が、教科書本文から鴨飾北斎」を重要語句と認 識しているのはほぼ間違いがないといってよい。ただし、作品名は写真の題名等でなく、

作品写真からから入る映像情報、すなわち「波」や「富士山」が印象に残り、前章のア ンケートで回答したと考えられる。

 次に、唆川師宣」だが、前章のアンケートでは作者名より作品名の《見返り美人図》

を回答している者が多かった。アンケート回答者は、作者名の唆川師宣」より作品名 である《見返り美人図》の方が印象に残っていると考えられる。3社共、菱」l1師宣は重 用語句として記述しているが、本文中に具体的な作品名は無い。掲載写真は3社共、《見 返り美人図》で、作者名より題名を先にして、大きな活字で記述している。生徒が教科 書の図をみれば、作者名より作品名の《見返り美人図》の方が印象に残ると考えられる。

菱川師宣の場合、《見返り美人図》が肉筆浮世絵画であり、浮世絵初期絵画の代表作とい う付加価値もある。収蔵も東京国立博物館なので、他の海外にある浮世絵作品より紹介 しやすいのもあると考えられる。これらの理由から、3社共、作品選択が《見返り美人 図》に集中したのではないかと考えられる。

 次にr雪舟の水墨画」だが、東京書籍はr水墨画」を、教育出版・日本書籍がr雪舟」

「水墨画」を本文に太字で記述している。作品写真は、東京書籍が《秋冬山水図》、教育 出版が《冬景山水図》、日本書籍が《天橋立図》の写真を掲載していた。東京書籍は作品 写真下に「雪舟の水墨画」とし、補足で作品名が記述されている。教育出版では、「水墨 画」の記述とは離れた「中世の文化と暮らし」のぺ一ジに作品写真が掲載されている。

いずれの作品も国宝指定されており、雪舟の代表作である。しかし、本文又は写真作品 に「雪舟の水墨画」,又はそれに類する意味の内容が大きく記述され、正式な作品名は小 さな文字で記述されている。中学歴史でも、生徒には「雪舟の水墨画」の方が印象に残 ると考えられる。前節の小学校6年上で「雪舟の水墨画」として学習されていたことか ら、中学の歴史授業で「雪舟の水墨画」がより一層記憶に残ると考えられる。

 次に、「歌川広重」だが、《東海道五十三次》から東京書籍に1枚、日本書籍に2枚が

(18)

掲載されている。教育出版では作品写真の掲載はないが、「風景画」として本文に記述さ れている。「歌川広重の《東海道五十三次》」は、当時の宿場の様子を知る為の資料とし て複数枚が掲示されている。しかし、本作が連作で作品の枚数が多い為、学生が児童生 徒の頃には、個々の作品名より連作名である《東海道五十三次》が印象に残ったと考え られる。歌」l1広重も、雪舟と同じく小学6年で学習する。雪舟と同じく広重も小学6年 からの継続学習で、学生に廠川広重の《東海道五十三次》」と、ひとまとめに語句とし て記憶されたのではないかと考える。

 次に、「狩野永徳」「尾形光琳」「喜多川歌麿」であるが、教科書の本文には紹介されて いても、作品写真が掲載されていない場合もあった。「尾形光琳は」3社共扱いが違い、

東京書籍では《八橋蒔絵のすずり箱》,教育出版では《燕子花図屏風》,日本書籍では作 品写真の掲載無し,と、教科書会社により作品の内容や取扱いに違いが見られた。 r中 学校学習指導要領社会科〔歴史的分野〕」47)には、r小学校学習指導要領社会科〔第6学 年〕3内容の取扱い(1)」伽にて、取り上げる人物名の表記が無いことも影響していると 考えられる。

 上記のことから、前章アンケートで、一部の絵画作品に回答が集中している点や、回 答に「雪舟の水墨画」といった共通した記述内容が見られる点は、小学社会及び中学校 社会(歴史)教科書の影響であるといえる。社会(歴史)教科書に紹介されている作家 名,作品,重要語句の記述が、アンケ]ト記述と合致する点からも、それがうかがえる。

つまり、学生が児童生徒の頃に、作家名や作品名を教科書記述の通りに、覚えやすい語 句や映像情報をr重要語句」として記憶したものではないかと考えられる。記憶された 語句がさらに多くの情報や作品と繋がって、より印象に残る記憶になるか、あるいは作 品を鑑賞した際に、感性を揺さぶる様な授業内容にすることがなされなければ、小・中 仕合(歴史)学習段階で、語句の単純な断片化が進むと考えられる。

 但し、「俵屋宗達」の様に、歴史教科書には1社のみ作品掲載しているが、前章のアン ケート回答で複数名が本作品の名を挙げている場合もある。このことから、必ずしも歴 史教科書の影響のみとは考えにくい。この件に関しては次項で検証する

第2節 図画工作・美術教科書の検証 第1項 小学校図画工作教科書調査

 前節からの仮説から、まず小学図画・工作教科書から検証する。検証する教科書は、

小学社会と同じく、前章アンケート回答者が使用した平成13年検定,平成14年出版の 物とした。出版社は「日本造形教育研究会・開隆堂出版(以下、開隆堂)」4州),「日本 文教」51)52),r東京書籍」53〕54〕,の三社とした。社会(歴史)と図画工作教科書の出版

(19)

杜を同一にすることも考えたが、出版杜が各教科により違う事や、教科書採択は各教育 委員会により校種の教科毎に決定されている点から、今回は考慮する必要が無いと判断 した。対象学年は、小学社会科6年上に該当する、小学5・6年(上・下)図画工作とし た。結果は以下の通りである。

平成13年検定小学校図画工作(5・6年)教科書に掲載された日本絵画分野作家・作品

作者名 作品名 分野 開隆堂 日本文教 東京書籍

紬11倭勧一捻」 麟紅仁奉一1出バ卿 一組紐1..

・      一 1下ジベ

葛飾化畜 富嶽三十六景 神奈川沖波裏 浮世絵 (下)1

小野竹喬 日本海落日 日本画 (下)1

小野竹喬 臭の細道句抄絵  暑さ日を海にいれたり最上川 日本画 一・@一一 (下)1 一    一

小倉遊亀 日本画 (下)1 一     一

ジム・ハサウェイ 東京 墨絵 (上)1

匿麹は、前章アンケートで記述のあった作品(作家毎に色変更)

(図21)平成13年検定小学校図画工作(5・6年)教科書に記載されている日本絵画分 野作家・作品名一覧

 調査した3社の教科書は、日本絵画分野の掲載作品数が少なかった。また、教科書に よる作品の重複もない。日本文教に掲載されている小野竹喬,開隆堂に掲載されている 小倉遊亀は昭和・平成に活躍した人達である。ジム・ハサウェイも現在作家活動中なの

で、前章のアンケートでは作家名に挙がっていない。この各教科書共、作品写真の掲載 は児童作品を主にした構成になっている。作家の作品は日本及ぴ海外の絵画,彫刻,工 芸,現代美術作家を含めても、上・下合わせて数人しか掲載されていなかった。調査し た3社の3・4年上・下も確認したが、日本絵画作品は紹介されていなかった。平成10 年度「小学校学習指導要領 第7節 図画工作」の〔第5学年及び第6学年〕B鑑賞に

は「我が国や諸外国の親しみのある美術,暮らしの中の作品などのよさや美しさ,表現 の意図などに関心をもって鑑賞すること」55〕とある。鑑賞授業に関しては、3社共、著 名な作家の作品より、外国の児童が描いた作品や伝統工芸で紹介する方法か、自分で絵 画を探して模写するといった形式になっている。これらから、小学図画工作のみでは、

前節の社会(歴史)の様に、日本絵画に関する知識の「語句」化は見られないと考える。

(20)

    第2項 中学校美術教科書調査

 次に、中学校美術教科書を検証する。平成13年検定、平成14年発行の中学美術教科 書として「開隆堂」舳7〕58〕,「光村図書」59〕60川,「日本文教」62〕63〕64〕の3社を調査し た。教科書会社は前項の小学校と同じく、無作為に選んでいる。結果は以下の通りであ

る。

平成13年検定申学校美術1・2・3年に掲載された日本絵画分野作家・作品 平成13年

 作者 狽ヘ場所

作品名 分類 開隆堂 光村図書 日本文教

美術1・2・3 美術1・2・3 美術1・2・3

鳥獣戯画(甲巻) 絵巻 1 1 1

信貴山縁起絵巻 絵巻 1 O 1

輝氏物語絵拳 、絵巻 φ=1千 O.

石山寺縁起絵巻 絵巻 O O 1

寝覚物語絵巻 絵巻 O O 1

雪舟 天橋立図 水墨画 o 2 i

雪舟 山水図 水墨画 1 O 0

11締永徳・ 廊テ図屏風

0 O=. 1.

長谷川久蔵 桜図(智積院蔵) 屏風 O O 1

1毒麟達 1風神雷神図屏風 」屏風 1 1

尾形光琳 燕子花図屏風 絵画 O 1 O

尾形光琳 紅白梅図屏風 屏風 O 1 O

伝尾形光琳 自綾地秋草模様小袖 染色? O 0 1

州師宣 見返り幾人図

伊藤着沖 「動植採絵」より牡丹小食 絹本彩色 O O 1

二二葛飾北斎      ・一…

北斎漫画「風」 木版 O O 1

1葛飾北斎 北斎漫画「漁澄観世音」 木版 O 1 1

1紬北斎1 北斎漫画(力士) 木版 O 1 O

1軸捕・

北斎漫画(おもしろい顔〕 木版 1 O O

111葛飾化奉・ .弾手ナ六景・紬11蝉琴・ .浮世絵 」↓ ・∵堰<jニ 1.

歌川広重 名所江戸百景 大あしあたけの夕立 浮世絵 0 2 O

歌川広重 名所江戸百景 堀切の花菖蒲 浮世絵 0 O 1

歌川広重 亀戸天神境内 浮世絵 O O 1

(21)

劉11国芳 みためはこわいがとんだいい人だ 浮世絵 1 1 0

喜多川歌麿 扇屋内花扇 浮世絵 O O 1

無締幣肩

大谷鬼次の奴江戸兵衛 浮世絵 1 O 1

土田麦信 同本画 0 1 O

黒田清輝 アトリェ 油彩 O 1 O

黒田清輝 湖畔 油彩 1 0 O

岸田劉生 冬枯れの道路 油彩 0 0 1

岸囲劉生 切り通しの写生 油彩 0 1 O

匿圏は、前章アンケートで記述のあった作家・作品(作家毎に色変更)

O章アンケートで作家名のみ記述のあった場合は作家名のみ匿露

(図22)平成13年検定中学校美術1・2・3年に掲載された日本絵画分野作家・作晶一 覧

 教科書は三杜共、1年,2・3年上,2・3年下の三冊に分けられているが、図22の表 記は1・2・3としている。また、同じ絵画であっても、全体図と拡大図の様に2枚以上 掲載している場合は、それぞれを1枚としてカウントした。図22は、日本絵画分野に限 定して絞り込んであるため、彫塑・工芸等、他の分野を含めた内容は除外して掲載して いる。また、小中杜会(歴史)との比較をしやすくするため、黒田清輝,岸田劉生のみ、

西洋絵画であるが図内に表示した。

 まず、図22には《洛中洛外図屏風》が入っていない。《洛中洛外図屏風》は美術作品 としても評価が高く、国宝に指定されているが、美術教科書3杜共掲載をしていない。

中学杜会(歴史)教科書では、調査した3杜共、本作品から2〜3か所拡大して使用して いたが、これは当時の風俗を確認する為の歴史的資料としての使用と考えられる。

 次に、教科書3杜共に作品掲載しているのが、《鳥獣戯画(甲巻)》「雪舟」「俵屋宗達」

r葛飾北斎」である。この中で、《鳥獣戯画》と葛飾北斎は、平成10年度告示の学習指 導要領で美術の表現方法に漫画が導入されたことが影響していると考えられる65〕。図4 でも、北斎の《神奈川沖波裏》とは別に《北斎漫画》からの引用が多い。前節の教科書 調査では、中学校杜会科の本文及び作品紹介が「北斎=浮世絵」又は「北斎=富士山」

を強く印象っける構成であったが、杜会科教科書には「北斎=漫画」を意味する作品の 掲載や文中紹介は無かった。仮に美術の授業で《北斎漫画》を取り入れていたとするな ら、前章アンケートで「北斎=漫画」を連想した回答があると考えられるが、そのよう な回答は見られなかった。

 次に、《鳥獣戯画》も、教科書会杜3杜共に漫画と組み合わせて作品写真を掲載してい る。開隆堂では、《信貴山縁起絵巻》等、他の絵巻物と合わせて2ぺ一ジで掲載している

(22)

が、前章の学生アンケートでは、回答に作品がほとんど取り上げられていなかった。

 次に「俵屋宗達」は、美術教科書3社共取り扱いが大きいが、社会科(歴史)教科書 との記述内容に差異がみられないので割愛する。

 次に、「歌川広重」だが、美術教科書に《東海道五十三次》の作品が掲載されていない。

教育出版,日本文教,共に《名所江戸百景》からの作品写真を掲載している。教育出版 が載せている《大あしあたけの夕立》は、《東海道五十三次》の連作と作風が似ているの で、生徒が《東海道五十三次》の連作の一つだと誤解してしまう可能性がある。しかし、

日本文教掲載の《堀切の花菖蒲》,《亀戸天神境内》は、植物を前面に押し出した構図の 為、風景を遠景で捉えている作品が多い《東海道五十三次》の連作には見えにくいと考

えられる。

 次に、菱川師宣の《見返り美人図》だが、日本文教教科書に作品写真が記載されてい る。しかし、教科書の美術史年表に記載されているため、作品名,作者名,生没年,収 蔵場所等は記述されているが、作品図版としては小さい66)。他2社の教科書には作品写 真が掲載されていないので、3社の美術教科書からの情報は少ないと考える。

第3節教科書調査からの考察

 前章の学生アンケートで挙げられた具体的な絵画作家・作品名(前章図18参照)と、

小牛杜会科(歴史)及び図画工作・美術教科書3社(小学社会科〔歴史〕は4社)を比 較した結果、次のような点が挙げられる。

 エ,葛飾北斎《富嶽三十六景》の内、《神奈川沖波裏》.《凱風快晴》のいずれかが必ず    中学社会科・美術教科書に掲載されている。

 2,中学美術教科書には葛飾北斎の作品として《北斎漫画》も掲載されている。

 3,菱川師宣《見返り美人図》は、中学社会科教科書3社共、作品写真入りで紹介さ    れているが、中学美術では1社が年表に作品写真掲載をしている。小学社会・図    画工作では教科書に掲載されていない。

 4,雪舟は、小学6年上社会で紹介されているが、4社の教科書の内三社が作品の正    式名称を表記せず、r雪舟の水墨画」として表記している。

 5,3に関して、中学社会(歴史)でも、雪舟の作品は、作品図版の表示の仕方や本    文から、正式名よりr雪舟の水墨画」と連想させる表記になっている。

 6,歌川広重は、小学校6年上社会の教科書で紹介されているが、教科書会社4社中    3社が厭川広重=《東海道五十三次》」と連想できるように記述がなされている。

 7,6に関して、中学社会て歴史)教科書の《東海道五十三次》は連作のため、掲載    されている作品図版はいずれも違う版が使用されている。

 8,中学美術では、歌川広重の「東海道五十三次」は作品図版の掲示をせずに、別の

(23)

  連作作品を掲載している。

9,中学社会(歴史)で多数紹介され、小中図画工作・美術教科書で作品掲載されて   いない《洛中洛外図屏風》を挙げている回答者がいる。

10,小学校図画工作における美術文化教育は、教科書が児童作品中心に編集され、過   去の作家・作品の紹介も東洋・西洋共に少なく、アンケート回答に与えた影響は   少ないように見える。

 以上の事を、前章アンケートと合わせると、次のように考えられる。

!,小牛杜会科(歴史)及び美術教科書の掲載内容から、アンケート回答者はr葛飾  北斎=富士山」のイメージが強いと考えられる。

2,1に関して、中学美術教科書に掲載されている《北斎漫画》が、r葛飾北斎」の作  者名をアンケート回答者に広め、「北斎=浮世絵」と連想させている可能性はある   が、「葛飾北斎=漫画」との回答には至っていない。

3,アンケートの「菱」■1師宣の《見返り美人図》」の回答が多いのは、美術教科書より   中学社会(歴史)教科書からの影響と考えられる。

4,アンケートの「雪舟=水墨画」は、美術教科書より、小牛杜会科(歴史)での学  晋の記憶が影響していると考えられる。

5,4と同じく、アンケート回答の厭川広重=《東海道五十三次》」の連想は、小中   図画工作・美術より小牛杜会(歴史)の影響が大きいと考えられる。

 これらの結果から、アンケートに回答した大学生(一部院生含む)は、図画工作・美 術教科書より、小牛杜会(歴史)の教科書の影響が大きいと考えられる。中学美術教科 書に記述のない菱川師宣《見返り美人図》を多くのアンケート回答者が挙げていること が、その最たる例だといえる。《洛中洛外図屏風》も、作品写真の一部が小牛杜会(歴史)

教科書に数か所掲載されているが、図画工作・美術教科書では掲載されていない。この ことからも小牛杜会(歴史)教科書の影響が考えられる。

 次に、作品の語句を暗記したような回答が、小牛杜会(歴史)の重要語句と合致する 点である。「雪舟の富士山」「歌川(安藤)広重の《東海道五十三次》」に関しては、小学 6年からの積み重ねとして、丸ごと暗記されている可能性が高い。中学社会(歴史)教 科書でも同様の表記が見られることから、小中連続しての積み重ね学習によると考えら れる。歌川広重の作品は《東海道五十三次》以外にも美術教科書に記載されているが、

《東海道五十三次》の印象が強いためか、同じ歌川広重の作品と思われていない様に見

られる。

 次に狩野永徳,俵屋宗達,尾形光琳,喜多川歌麿,東洲斎写楽は、社会科・図画工作・

美術教科書への記述の有無や、紹介作品写真がまちまちの為、回答者がどの教科書の記

参照

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