排卵因子:基礎体温測定 頸管因子:頸管粘液検査 精子頸管粘液適合試験 男性因子:精液検査 卵管・腹膜因子 不妊症の主な原因は, 男性因子(35%),卵管・腹膜因子(子宮内膜症を含む,35 %),排卵因子(15%),原因不明(10%),その他(頸管因子を含む,5%)といわれ ている1) .本稿ではこれらに関連して,以下の 4 つの不妊検査法について解説する(図 1 ).
(1)基礎体温(basal body temperature : BBT)測定
基礎体温とは,毎朝目覚めてすぐに,口腔内(舌下)に婦人体温計を入れて測定した体 温であり,これをグラフに記入したものが基礎体温表である.通常は,卵胞期に低温相を 示し,排卵があれば,これを境にして36.7℃前後の高温相に移行し,いわゆる 2 相性パター ンを呈する(図 2 ).高温相を形成するのは,排卵後に,黄体から分泌されるプロゲステ ロンが,視床下部の体温中枢に作用して,体温を0.3∼0.5℃上昇させるためである.体温 にはかなり個人差があるが,2 相性のパターンを示すことが重要である.なお,使用する 婦人体温計は,電子体温計の再現性が低く変動も大きいため,水銀計が推奨される2). 基礎体温の測定により, 排卵の有無の判定,排卵日(妊娠可能日)の予知,黄体 機能不全の診断,妊娠の早期診断,次回月経の予測,などが可能になる. 一般に,基礎体温における高温相の形成は,排卵があったことを示唆する.しかし, 黄体化未破裂卵胞症候群(luteinized unruptured follicles syndrome : LUFS)では,
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B.産婦人科検査法
Obstetrical and Gynecological Docimasia
1.内分泌・不妊検査法
Incretory and Infertile Docimasia
(図 1 )不妊症の主な原因と検査法
37.0 36.9 36.8 36.7 36.6 36.5 36.4 36.3 36.2 36.1 36.0 基礎体温 (℃) 月 経 排 卵 月 経 5 10 15 20 25 黄体機能不全 黄体機能検査 LHサージ 0.3∼ 0.5℃ 妊娠 頸管粘液検査 精子頸管粘液 適合試験 成熟した卵胞が,排卵しないまま黄体化しプロゲステロンを産生するため,基礎体温は 2 相性を呈する.したがって,正確な排卵の判定には,超音波検査を用いて,発育卵胞の消 失を確認する必要がある.低温 1 相性であったり,高温相が 7 日以内の場合は,無排卵 周期性を疑う.低温相は,通常12∼18日であり,20日以上持続する場合は FSH 分泌不全 による卵胞発育の遅延を疑う. 基礎体温だけで,排卵日をピンポイントに予測するのは困難だが,尿中 LH 検査を併 用することにより,かなり正確な予測が可能になる.低温相の体温陥落日は,LH サージ に一致するともいわれるが,体温陥落日を常に確認できるとは限らない.実際の排卵は, 低温相の最終日から高温相の第 1 日目の間に起こることが多い(図2). 高温相は通常11∼16日間持続し,次周期の月経時に下降する.高温相の長さや形は 黄体機能を反映し,これが10日未満,あるいは高温相と低温相の差が0.3℃以内の場合は, 黄体機能不全を疑う.黄体機能不全の確定診断には,血中プロゲステロン測定と子宮内膜 日付診を併用する. 高温相が17日以上持続する場合は,妊娠の可能性が高い.ただし黄体期に,プロゲ ステロン補充療法や hCG による黄体賦活療法を受けている場合は,妊娠に関係なく高温 相が持続することがある(N―28の図 1,N―31の図 2 を参照).
(2)頸管粘液検査
頸管粘液(cervical mucus)は,排卵期には精子を受け入れ,排卵期以外には精子の 進入を妨げる.すなわち,卵胞期の頸管粘液は,少量で粘稠性が高いため,精子が進入で きない.排卵期が近づくと,エストロゲンの働きによって頸管粘液の分泌が増加し,その 性状も変化するため,精子は子宮腔内に進入しやすくなる.排卵後は,プロゲステロンに よって粘液分泌が抑制され,精子は再び進入できなくなる. (図 2 )基礎体温表と不妊検査研修医のための必修知識
量 0.3ml以上 水溶性のサラサラした (粘稠性の低い)粘液 牽糸性 9cm以上 弱アルカリ性(pH7.0∼8.5) 排卵期の頸管粘液 シダ状結晶なし シダ状結晶あり 基礎体温表や卵胞径,尿中 LH 測定を参考に,排卵が近いと思われる時期を予測し,頸 管粘液を採取する.腟鏡をかけ子宮頸部を確認した後,腟内や外子宮口を綿球で静かに拭 い,頸管内の粘液をツベルクリン注射器を用いて吸引採取する. 頸管粘液は,量,粘稠性,シダ状結晶,牽糸性,pH などにより評価される.排卵期の 頸管粘液は,量は0.3ml 以上,サラサラとした水様透明であり,牽糸性は 9 cm 以上,ス ライドガラスに塗抹・乾燥したときのシダ状結晶の形成も顕著である(図 3 )3)(N―36の 写真 1 参照). 頸管粘液の性状を調べることにより, 精子の進入性と,卵胞成熟の評価が可能にな る. 頸管粘液の分泌異常は,精子の進入を障害するため,不妊の原因となる.実際に, 頸管粘液に異常を認める場合,妊娠率は54%から37%に低下するという報告もある. 頸管粘液性状の変化は,卵胞が成熟しエストロゲン分泌が亢進していることを示唆する. しかしこの検査から,排卵時期を正確に予測することは困難である.
(3)精液検査(semen analysis)
男性不妊は不妊原因の半数近くを占めることから,不妊患者の診療に際しては,まず精 液を検査し男性不妊を否定すべきである. 精液検査の際には,3 ∼ 7 日間の禁欲期間をおく必要がある.すなわち,頻回な射精は 精子数を減少させ,禁欲期間が長いと精子運動率が低下する.病院または自宅でマスター ベーションを行い,清潔な広口ビンに精液を採取し,冷えないよう体に近いポケットに入 れて運んでもらう.コンドームや腟外射精による採取は避ける.30分∼ 1 時間室温に置 き,十分液化させた後,精液量,精子濃度,精子運動率,精子形態など,精液の性状を検 査する.液化が不十分な場合には,19G の針をつけた注射器に何度も出し入れし,機械的 にゼリー状の物質を液化させてから検査を行う.精子の運動率は時間とともに低下するの (図 3 )頸管粘液検査研修医のための必修知識
(表1) 精液検査の正常参考値(WHO マニュアル,1999) 2.0 ml 以上 精液量(volume) 7.2 以上 pH 20 × 106/ml 以上 精子濃度(sperm concentration) 40 × 106以上
総精子数(total sperm number)
前進運動精子(a + b)50% 以上 精子運動率(motility) * 高速直進運動精子(a)25% 以上 (射精後 60 分以内) 精子の形態(morphology) ** 75% 以上 精子生存率(vitality) 1 × 106/ml 未満
白血球数(white blood cells) 精液中の抗精子抗体 ビーズ付着運動精子が 50% 未満 イムノビーズテスト ラテックス粒子付着運動精子が 50% 未満 MAR テスト *精子運動性の評価 a:高速直進運動(37℃ で 25 μ m/ 秒以上,20℃ で 20/ μ m/ 秒以上) b:ゆっくり,または不活発な前進運動 c:非前進運動(5 μ m/ 秒未満) d:不動 ** 1992 年の WHO マニュアルでは,正常形態精子が 30%以上あれば正常と 判定していたが,現在は,より厳格な評価法と,それに伴う新しい参考 値を検討中である. (表2) 精液所見からみた診断(WHO マニュアル,1999) WHO の正常精液所見を満たすもの 正常精液(normozoospermia) 精子濃度が 2,000 万 /ml 未満 精子過少症,乏精子症(oligozoospermia) 精子無力症(asthenozoospermia) 前進する精子が 50% 未満,もしくは高速に直進する精子が 25% 未満 奇形精子症(teratozoospermia) (1992 年の WHO マニュアルでは,正常形態精子が 30% 未満) 乏精子―精子無力―奇形精子症(oligoasthenoteratozoospermia) 3 つの異常を有するもの(2 つの組み合わせでも用いられる) 精液中に精子を認めないもの 無精子症(azoospermia) 精液が射出されないもの 無精液症(aspermia) で,精液採取後 1 時間以内に検査するのが望ましい.同一の男性でも,精液所見は検査ごと に大きく変動するので,少なくとも 3 回は検査を繰り返し,正しい評価を下す必要がある.
世界保健機構(World Health Organization : WHO)が1999年に提唱した,精液検査 の正常参考値を表 1 に示す3).また,その参考値に基づく男性不妊症の診断を表 2 に示す.
精子濃度や運動率を評価するには,Makler counting chamber を用いて,10個のま すめを 3 視野で鏡検(200倍)し,その平均の精子数を106倍するのが,簡便で一般的であ る.最近は,コンピューターを応用した自動精子分析法(computer-aided sperm analy-sis : CASA)による評価も試みられる.精子形態の正確な評価には,精液を塗抹・固定 し,パパニコロ染色3)やギムザ染色による観察が必要である(図4)が,染色しないまま 位相差顕微鏡下(400倍)で鏡検し,おおまかに判定することも可能である.精液中に多 数の白血球(100万ml 以上)を認める場合には,副性器の炎症(膿精液症)を疑う.男 性自身が精子に対する自己抗体(抗精子抗体)をもつ場合は,精子の運動性低下や凝集が
生じ,不妊の原因になる.精液中の抗精子抗体を調べる方法には,イムノビーズテスト(im-研修医のための必修知識
正 常 頭部の異常 頸部・中間部の 尾部の異常 異常 フーナーテスト(性交後検査) ミラー・クルツロックテスト 頸管粘液 精 液 陽性 陰性
munobead test)や MAR(mixed antiglobulin reaction)テストなどがある. 体外受精(IVF)や卵細胞質内精子注入法(ICSI)の普及により,これまで妊娠が望め なかった高度の精子過少症(乏精子症)や精子無力症の症例でも,妊娠が期待できるよう になった.それに伴い,精子の機能(受精能)の評価も注目されている. 運動性のない 精子の中にも,生存し ICSI によって受精可能な精子が存在する.このような精子を確認 する方法として,精子膨化試験(hypoosmotic swelling test : HOS)が報告される.
(図 4 )精子の形態異常
(図 5 )精子頸管粘液検査
また,一見正常な精子にも,受精能の異常を認めることがある.精子の受精能の検査法 として,ハムスターテスト(zona-free hamster test)などが行われる.しかしこれら の検査法は,いまだ確立されたものではない.
(4)精子頸管粘液適合試験(sperm-cervical mucus interaction)
良好な精子が腟内に射精されても,頸管粘液と適合できず,子宮内に進入できなければ, 妊娠は期待できない.精子と頸管粘液の適合性を調べる方法には,フーナーテストとミラー ・クルツロック試験がある.これらの検査を施行する前には,あらかじめ精液検査と頸管 粘液検査を行い,異常がないことを確認しておく.精子や頸管粘液の状態は,周期によっ て大きく変動するので,適合試験も数周期反復し,総合的に評価すべきである.フーナーテスト(Huhner test),性交後検査(postcoital test)
精子が頸管粘液中に進入したことを確かめる検査である.in vivo で, 頸管粘液が精 子を受け入れる能力と,精子が頸管粘液に到達し生存できる能力を,評価できる.ただ し,フーナーテストの判定基準には,いまだ一定の見解はなく,検査の意義に関して否定 的な報告も多い. 排卵日頃の朝に性交し,3 ∼ 5 時間以内に,後腟円蓋部の貯留液と頸管内の粘液を採取 し,総精子数と運動精子数を鏡検(400倍)する(図 5 ).後腟円蓋に精子を認めること は,腟内に確実に射精されたことを意味し,頸管粘液中に多数(10個以上)の高速直進 運動精子を認めたら,適合性良好と判断する.1999年に発表された WHO マニュアルで は,検査前夜に性交を行い,その 9 ∼24時間後に検査を行うことにより,頸管粘液中の 運動精子数だけでなく,一定時間後の精子の生存率や活動性も評価するよう推奨してい る3).この方法では,1 個でも高速直進運動精子を認めれば,頸管因子を否定できるとし ている. 検査結果が不良な場合は,免疫性不妊を疑い,抗精子抗体を調べる必要がある.頸管粘 液中の抗精子抗体は,精子の凝集や不動化を引き起こす. ミラー・クルツロック試験(Miller-Kurzrok test) 排卵期に採取された頸管粘液を,スライドガラス上に 1 滴おき,その近くに精液を 1 滴おく.カバーガラスで覆った後,頸管粘液と精子の境界を鏡検し,精子と頸管粘液の適 合性を,in vitro で調べる方法である(図 5 ).正常では,精子の頸管粘液内への進入が 観察されるが,不適合例ではこの現象を認めない. 《参考文献》
1)Speroff L, Glass RH, Kase NG , eds . Female Infertility. In : Clinical Gyne-cologic Endocrinology and Infertility , 6 th ed . Philadelphia : Williams & Wilkins, 1999 ; chap 26 : 1013―1042
2)星 和彦,内田雄三.機能性不妊.産婦人科の実際 2000 ; 49 : 1503―1513
3)World Health Organization : WHO laboratory manual for the examination of human semen and sperm-cervical mucus interaction. 4 th ed. Cambridge Univ. Press, 1999
〈折坂 誠*,小辻 文和*〉
*
Makoto ORISAKA, Fumikazu KOTSUJI
Department of Obstetrics and Gynecology, Fukui Medical University, Fukui
Key words : Basal body temperature ( BBT )・ Cervical mucus ・ Semen analysis ・ Sperm-cervical mucus interaction
内分泌・不妊と関係し血中ホルモン測定は排卵障害や異常ホルモン産生徴候の原因の検 索,不妊症治療の管理にも必要である.
女性では少女期に抑制されていた中枢神経系の機能が成熟し,律動的に視床下部からゴ ナドトロピン放出ホルモン gonadotropin releasing hormone(GnRH)が神経分泌さ れ,その作用で下垂体前葉からゴナドトロピン[卵胞刺激ホルモン follicle stimulating hormone(FSH),黄体形成ホルモン luteinizing hormone(LH)]が律動的に分泌される. この振幅・間隔が大きく短くなり,LH に強く出現し,排卵に必要な LH 分泌(LH 分泌サー ジ)をするのに十分な LH が下垂体にプールされ,そのうえ卵巣が十分に成熟し,ゴナド トロピンに対して反応する準備を整えていると,視床下部・下垂体も卵巣性ステロイドに 対して反応する.この一連の現象の産物が排卵であり,この排出卵子が受精・妊娠しない と卵巣機能は減退し,その影響を受けていた子宮は反応し,その結果が月経としてみられ る(図 1 ). 更年期には卵胞数が低下し,閉鎖卵胞が多くなり,やがて卵巣機能が低下し,エストロ ゲンの欠乏による negative feedback がゴナドトロピン(特に FSH)の分泌を増加させ る. 性別,年齢,性周期などにより,そのホルモン値(変動)は異なるため検査する時期や測 定法,さらに測定キットによる基準値の違いなどの考慮が必要となる.さらにホルモン値 (変動)は経腟超音波断層法による卵巣の形態(卵胞径,数)・子宮内膜の形態(萎縮・増 殖・分泌像)・腹水の有無の観察,頸管粘液の性状,基礎体温表(BBT)の変化などで総合 的に評価する必要がある.
(5)血中ホルモン測定
A.ポリペプチドホルモン a.ゴナドトロピン(LH,FSH) LH,FSH 低値:視床下部機能障害[神経性食欲不振症,Kallmann 症候群,体重異常 減少,ストレス,過激運動],汎下垂体機能低下(Sheehan 症候群,Simmonds 病) LH,FSH 高値:性腺形成異常症(Turner 症候群など),続発性性腺機能低下症[POF (premature ovarian failure),両側卵巣摘出,閉経]LH 高値:PCO 症候群 LH だけでなく FSH 値,GnRH 負荷試験でのゴナドトロピンの変動と生理的要因とを 併せて考える.低値では正常の12以下,高値では 2∼3 倍以上を示した場合に,負荷反 応も含み異常とするのが望ましい. b.プロラクチン(PRL) 下垂体前葉より分泌される PRL は生理的には乳汁分泌に作用する. 血中 PRL 値(正常値:15ngml 以下)が正常値を超え上昇すると生殖生理に障害が生 じる.女性では,乳汁漏出性無排卵(無月経・月経異常)が主症状で,男性では不感症・乏 精子症との関係が深い. 高 PRL 血症では,持続期間が長いほど視床下部・下垂体障害(ゴナドトロピン分泌抑 制)が強くなる.
高 PRL 血症の原因に,間脳障害(Chiari-Frommel 症候群,Argonzdel Castillo 症候 群),下垂体腫瘍[プロラクチノーマ(高 PRL 血症の約13, PRL 値:50ngml 以上), Forbes-Albright 症候群],薬物性(向精神薬,降圧剤,胃腸薬,経口避妊薬),原発性甲 状腺機能低下症,脊椎神経反射刺激(哺乳,胸部手術,帯状疱疹)などがある.
37℃ 増殖期 分泌期 月経 期 子 宮 内 膜 機能層 基底層 月経周期(日) (LHピーク=0日) −14 −7 0 7 14 E2 E2ピーク P LH LHピーク(LHサージ) FSH 排卵 高温相 頸管粘液 低温相 頸 管 粘 液 量 (ml) 0.3 0.2 0.1 尿 中 プ レ グ ナ ン ジ オ ー ル 値 尿 中 エ ス ト ロ ゲ ン 値 血 中 プ ロ ゲ ス テ ロ ン (p) 値 16 8 0 4 2 0 (mg/日) (pg/ml) (mIU/ml) (ng/ml) ( g/日)μ ラ ジ オ ー ル 血 中 エ ス ト (E2) 値 60 40 20 0 36℃ 40 30 20 10 0 300 200 100 0 基 礎 体 温 ト ロ ピ ン 値 血 中 ゴ ナ ド
c.甲状腺刺激ホルモン thyroid stimulating hormone(TSH)
TSH は下垂体前葉より分泌され,原発性甲状腺機能低下症では TSH が高値を示し, また上昇した TRH が下垂体 PRL 分泌細胞へ直接作用し,PRL 分泌を亢進させる(高 PRL 血症). d.インスリン PCO 症候群ではインスリン抵抗性(肥満で75%,非肥満で30%)であることがあり,イ ンスリン値(空腹時正常:5∼15µUml )は,治療の指針(インスリン抵抗性薬の使用)を与 える. B.性ステロイドホルモン 内分泌・不妊と関係する性ステロイドホルモンは生体内で生物学的活性が最強で,臨床 的意味を持つものはエストラジオール―17β,プロゲステロン,テストステロンである. これらの測定値はゴナドトロピン値と共に総合的に判断する必要がある. a.エストラジオール―17β(E2) E2値は性別・年齢・性周期・妊娠週数によって大きく異なる. 高値を示す場合:エストロゲン産生腫瘍,低値を示す場合:卵巣機能低下である. b.プロゲステロン(P) (図 1 )正常月経周期のホルモン値と基礎体温,子宮体内膜との関係
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排卵後,卵巣黄体は LH 刺激を受けて 2∼3 日で成熟し,P が合成分泌され約12日間そ の機能を維持し,退行する.P 分泌は軽度の日内変動をし,また,律動的分泌する LH 分 泌に応答して変動するため,1 回の血中 P 値測定では,診断的意義は難しい.経腟超音 波断層像,BBT との総合評価により,排卵の有無・黄体機能不全(高温相の長さ:12日 以下,形:不正,P 値10ngml 以下)を診断する. c.テストステロン(T) アンドロゲンは性巣(卵巣,精巣)や副腎皮質で合成・分泌される.男性と異なり正常女 性では生物学的に活性の強い T がごく少量と,ほかに生物学的に活性の弱いアンドロゲ ン,すなわちアンドロステンディオン(AD),デヒドロエピアンドロステロン(DHA)と その硫酸エステル(DHA-S)が大量分泌される.特に AD はごく一部しか T に変換されな いが,AD の分泌が T の分泌の20倍ぐらいあるため,女性血中では T の半分は AD から の変換による. T や AD の値は思春期に上昇し,成熟期に高く,黄体期の後半より卵胞期に高く,排 卵期に軽度の上昇を示し,卵巣機能と関係し中高年期に低下する. T は標的細胞内の 5α―レダクターゼで活性型ジヒドロ T に代謝され作用する.正常で は男性 T は女性(0.7ngml 以下)の約10倍以上高い. 月経異常,多毛症など男化徴候を示すときに測定する.正常上限∼軽度上昇は,PCO 症候群や卵巣・副腎の良性アンドロゲン産生機能亢進,中等度以上の上昇は卵巣や副腎の 男性ホルモン産生腫瘍でみられる.
(6)
ホルモン負荷試験
A.ポリペプチド負荷テスト a.Gn(LH)‐RH テスト このテストは下垂体の LH(FSH)分泌予備能の検索を行うものである.Gn-RH(100µg, 静注)を投与し正常のゴナドトロピンの分泌は30分で,血中に最大になり,通常は無月経 の補助診断に用いられ,基礎値反応性の組み合わせにより, 低低型の下垂体性(視床 下部性の 2 次性),低正常型の視床下部性,高正常型の卵巣機能欠落性,LH 高 高,FSH 低低の PCO 症候群(移行形のある疾患のため値・反応性は異なる)がある.b.TRH(thyrotropin releasing hormone)負荷テスト
TRH(7µgkg,静注)は下垂体前葉に作用し,TSH とプロラクチンの分泌を促進する. 15∼45分で頂値となる.甲状腺機能低下症(TSH 過剰反応),甲状腺機能亢進症(TSH 低 反応),プロラクチノーマ(プロラクチン低反応)がみられる.潜在性高プロゲスチン血症 では頂値が高く,神経性食欲不振症では頂値が遅れる(60∼120分).
c.卵巣のゴナドトロピンに対する反応性
FSH 製剤(human menopausal gonadotropin ; hMG)を投与すると,卵巣が刺激さ れ(卵胞成熟),尿中・血中エストロゲンが増加する.陰性なら卵巣自体に障害があり痕跡 型,正常閉経卵巣の硬化型,ゴナドトロピン感受性の低下と関係する原始卵胞のみの発育 卵胞欠如型とがある.反応するなら hMG・hCG による排卵誘発が可能である. B.ステロイド関連負荷テスト (1)ステロイドに対する子宮の反応性(Kupperman テスト) プロゲステロンは子宮内膜に効果を及ぼすのは,エストロゲンの前処置が必要であるこ とを利用している. プロゲステロン負荷テスト:プロゲステロン(25mg,筋注)を投与し消退出血があると
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(第 1 度無月経),エストロゲンを産生しうる発育段階の卵胞が存在し,視床下部機能障 害による軽度排卵障害である. エストロゲン・プロゲステロン負荷テスト:エストロゲン+プロゲステロンを投与した 時にのみ消退出血をみると(第 2 度無月経),子宮内膜は性ステロイドの反応性を有し, 視床下部下垂体の障害による FSH・LH の分泌不全か,卵巣のゴナドトロピンに対する 感受性の低下が原因である(卵胞の発育,すなわちエストロゲン分泌がない).消退出血を みないと子宮性である[(Rokitansky-Ku¨ster-Hauser 症候群(子宮欠損),子宮腔内癒着 (頻回の子宮内掻爬による Asherman 症候群,子宮結核の続発変化))]. なお,エストロゲン単独でも消退出血はあり,経腟超音波断層法で子宮内膜状態(性ス テロイドの反応性)は把握できる. (2)視床下部の反応性 エストロゲン衝撃負荷テスト(Hohlweg 効果):大量エストロゲン[抱合型エストロゲ ン(20mg,静注)]を投与すると視床下部に働き positive feedback により LH が分泌し, 排卵が起こる.反応性がないと視床下部障害である(プロゲステロンでも起こる). 抗エストロゲン剤のクロミフェン(50∼100mg日,5 日間)投与し,negative feed-back により LH が分泌され排卵誘発されると軽度視床下部障害で,無効では視床下部・ 下垂体系失調の可能性がある(卵巣性もある). (3)デキサメタゾン抑制テスト
negative feedback により副腎の ACTHcortisol(尿中代謝物17-OHCS)分泌を低 下させる.Cushing 症候群の下垂体腺腫[17-OHCS(尿中)の抑制可]と ACTH 非依存 性副腎皮質腫瘍や異所性 ACTH 産生腫瘍(抑制不可)との鑑別に用いる.デキサメタゾン はゴナドトロピン分泌や卵巣アンドロゲン分泌を抑制するため,副腎アンドロゲン分泌と の鑑別に適しない.
(7)尿中ホルモン測定
(定量・半定量)
a.絨毛性ゴナドトロピン(随時尿)
hCG(human chorionic gonadotropin ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は妊娠中,絨毛 のシンシチウム細胞で合成され,水溶性で,血中半減期は24時間と長い.そのため hCG は尿中で測定が可能であり,妊娠テストに用いられる.市販の妊娠テスト(キット)は尿中 hCG が25IUl から測定が可能であり,妊娠初期診断に有用であり,規則的な月経がみら れない時点で hCG の測定が可能である. b.LH(随時尿) 尿中 LH 値(ハイゴナビス)は排卵時期の推定に用いられる.すなわち,LH サージの 期間は48時間で,上昇は14時間,平行は14時間,下降は20時である.尿中 LH や後に述 べるエストロゲン値の変動は血中のものと同じであるが,個人差・日内変動があり,同一 女性での測定結果の臨床的意義を評価するには連日測定により,その変化をもって判断す る必要がある. c.エストロゲン(随時尿) 簡易尿中微量エストロゲン測定試薬(ハイエストロテック)を用いた場合,この試薬に 使用されている抗体の性質上エストリオール,エストロン,エストラジオールおよびそれ らの16位あるいは17位の抱合体が測定される.このエストロゲン値は卵胞成熟のモニター に利用できるため,排卵誘発のための hCG 投与の時期(60∼100ngml )や卵巣過剰刺激 の発生時(200ngml 以上)を推定するのに用いられる.
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月経期 初期 中期 後期 初期 中期 後期 増 殖 期 分 泌 期 核の偽層形成 分泌像 間質浮腫 間質細胞 (腺細胞) (有糸分裂) (有糸分裂) 白血球浸潤 核の偽層形成 分泌像 空胞化 空胞化 白血球浸潤 腺細胞 偽脱落化 BBT低下 POD7 BBT 経腟超音波断層法により卵胞発育の観察(卵胞径・数の計測)が有用であり,正常では発 育卵胞は 1 日あたり2mm 前後増大し,通常,2∼2.5cm が排卵直前の大きさであり,排 卵によりこの卵胞は完全に消失せず,縮小がみられる.またゴナドトロピン療法では,複 数以上の卵胞が認められることが多く,卵巣過剰刺激の観察もできる.IVF-ET では LH サージを抑制するのに GnRH アナログが用いられ,複数以上の卵胞発育をゴナドトロピ ンで誘発し,hCG(5,000単位,筋注)で LH サージを起こさせ36時間前後に多数個採卵す る.そのため尿中 LHエストロゲン値の臨床的意義は薄れている.また子宮内膜のエコー 変化で E2,P の分泌の状態も把握できる. d.プレグナンジオール(24時間尿) P 分泌は日内変動するため,その尿中代謝産物の pregnanediol-3-glucuronide の24 時間尿値はより診断的意義(黄体機能の評価)を有するが,実用的でない.しかし血中 P 値の項で述べたように,黄体機能は総合的評価をする必要がある. e.17―ケトステロイド(17-KS)(24時間尿) 17-KS は C-17位にケト基(=0)を有す C19ステロイド代謝物の総称で,副腎皮質およ び卵巣から分泌されたアンドロゲン活性の高いステロイド(T)やアンドロゲン活性の全く ないステロイド(AD,DHA,コルチゾール)からも由来し,硫酸エステル,グルクロン 酸抱合体などとして尿中へ排泄される.高値を示す場合,PCO 症候群,男化卵巣腫瘍の 他,副腎関連性の原因もある.17-KS の個々の分画成分の増減パターンを検討すると, 各種疾患の情報が得られる.
(8)子宮内膜日付診
子宮内膜は月経周期変動をする.卵巣より分泌されるエストロゲンの作用を受けて,子 宮内膜は内膜基底層より月経終了前から増殖し,新しい機能層である増殖期内膜ができる. さらに排卵後に形成される黄体から分泌されたプロゲステロンにより形態的,生化学的に 着床に必要な分泌期内膜ができあがる.この間子宮内膜では腺細胞,間質細胞での有糸分 (図 2 )月経周期の子宮内膜における組織学的変化研修医のための必修知識
裂の変化が起こり,腺細胞では核の偽層形成,空胞化,分泌像と進み,白血球浸潤,間質 浮腫,偽脱落化と変化がみられる.これらの所見を組み合わせ,子宮内膜を組織学的に月 経周期の日付を付けることができる(図 2 ).排卵後,BBT の日付と子宮内膜組織診によ る日付診とのずれが 2 日以内を正常とし,3 日以上ずれる場合に黄体機能不全内膜と診断 する. 通常,分泌期中期(BBT による体温低下日を 0 日として排卵後 7 日目,post-ovulatory-day(POD)7 前後)の着床時期に,着床部位である子宮体後壁内膜を避け内膜組織をとる. 子宮内膜日付診の困難さ,子宮内膜の腺・間質や場所による反応性の違いなどでの問題 がある. 〈玉舎 輝彦*〉
(9)卵管通気・通水法,子宮卵管造影
卵管通気法(Rubin test) 卵管通気法は外子宮口より一定の圧力で炭酸ガスを注入し,子宮卵管内圧の変化を描写 装置で観察し,卵管の疎通性を診断するものである.本法では卵管の左右別の疎通性を判 定することはできないが,反復施行が可能な非観血的方法であり,外来で容易に実施でき る. 方 法 実施時期としては月経終了後,数日が望ましい.骨盤内炎症や月経時ならびに性器出血, 妊娠症例は禁忌である.排尿後,内診台上で砕石位を取らせ,腟内を消毒後子宮口より卵 管通気用のバルーンカテーテルあるいはカニューレを挿入し卵管通気装置に連結する.一 定の流量で炭酸ガスを注入し,卵管から腹腔内への炭酸ガス流出音を聴診器で腹壁上より 聴取しながら,子宮内圧の変化を通気曲線(kimograph)に記録する. 診 断 通気曲線は正常型,攣縮型,癒着型,狭窄型,閉鎖型に分類される(図 1 ).卵管通過 性のある場合には腹腔内に流入した炭酸ガスにより,肩甲痛,腹部膨満感,心窩部痛を生 じる.これらの症状は炭酸ガス流出音とともに卵管疎通性の診断の参考となる.検査終了 後,しばらくの安静にてこれらの症状は消失する. 卵管通水法(Hydrotubation) 卵管通水法は卵管疎通性検査というよりは,卵管通過障害,卵管形成術後の癒着防止の ためなど治療を目的として行われることが多い.近年,超音波造影剤を用いた超音波下通 水検査や腹腔鏡下に色素を通水する腹腔鏡下色素通水法として施行されることが多くなっ た. 方 法 実施時期や方法は通気法と同様である.子宮口に挿入したバルーンカテーテルに生理食 塩水をゆっくりと注入する.両側卵管閉鎖では注入に対し抵抗があり,患者も痛を訴え るのでその場合は中止する.治療的通水には抗生物質,副腎皮質ステロイド,蛋白融解酵 素などを組み合わせて生理食塩水約20ml に溶解し使用する. *Teruhiko T AMAYADepartment of Obstetrics and Gynecology, Gifu University School of Medicine, Gifu Key words : Evaluation tests for endocrinology and infertility・
Serum(plasma)and urinary level of hormones・Hormone stimulation test
正常型 攣縮型 癒着型 狭窄型 閉鎖型 (表1) 油性・水性造影剤の比較 水性 油性 やや不良 良 造影能 低い 高い 粘稠性 高い 弱い 刺激性 15 ∼ 60 分後 24 時間後 後撮影 不良 良 拡散像 良 不良 吸収性 短期 長期 残留 困難 容易 診断 超音波下通水検査 微小気泡を形成する懸濁液である超音波 造影剤(レボビスト)を用いて通水を行い, 卵管の疎通性を超音波断層法で観察する方 法である.卵管通過性は造影剤を通水して いる際に確認できるが,静止画像での診断 は困難である. 腹腔鏡下色素通水法 腹腔鏡下に色素(インジゴカルミン)を 通水し卵管の疎通性を確認する方法であ る.卵管の疎通性を検査すると同時に卵管 形成術などの治療としての腹腔鏡下手術を (図 1 )通気曲線の分類
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行うことができ,卵管因子の最終的 な診断方法である. 子 宮 卵 管 造 影(Hysterosalpin-gography,HSG) 子宮卵管造影は造影剤を子宮腔内 に注入し,子宮,卵管,骨盤腔内へ 拡散する造影剤をレントゲン撮影し て,卵管疎通性を評価する検査であ る.卵管通気法と違い,卵管閉塞部 位や卵管の癒着の有無,粘膜下子宮 筋腫,子宮内膜ポリープ,子宮内癒 着,子宮奇形などの診断にも有用で ある. 方 法 実施時期,禁忌は卵管通気法と同 様である.実施時期については,も し,妊娠していれば胚・胎児が多量 の放射線に被曝することになるので 排卵前に行うことに特に留意する. 子宮卵管造影にはカニューレまた はバルーンカテーテルを子宮頸管内 に入れ,造影剤を注入する.造影剤 は油性造影剤と水性造影剤があるが (表 1 ),水 性 造 影 剤 は 吸 収,排 泄 が早く,造影剤の貯留から推測する 卵管の癒着などの診断には油性造影剤の方が適している.レントゲン撮影は透視下に造影 剤が子宮腔を満たし卵管から流出した時点で 1 枚撮影し,次に拡散像として油性造影 剤を使用した場合には24時間後,水性造影剤の場合には15∼60分後に後撮影を行う.後 撮影は卵管の通過性や骨盤腹膜の状態を知るために必ず行わなければならない.本法は排 尿後,砕石位でレントゲン撮影装置あるいはテレビ透視撮影装置の備わった部屋で行うが, 透視下に撮影が行えない場合には,造影剤を 4∼5ml 注入したところで撮影を行う.通常 無麻酔で施行するが,筋痙攣による卵管の機能的閉塞を予防するため鎮痙剤(ブスコパン) を投与する場合もある. 診 断 子宮卵管造影による異常所見から,卵管癒着,卵管留水腫(図 2 ),卵管周囲癒着, 卵管閉塞,卵管延長などの卵管異常が診断できる.また子宮の形態異常として,重複子宮, 双角子宮,弓状子宮,単角子宮,などの子宮奇形,発育不全さらに粘膜下子宮筋腫などに よる陰影欠損,内腔癒着,頸管無力症などの診断にも有用である.
(10)月経血培養
不妊症検査の一環として性器結核感染の有無を調べるために行う検査である.性器結核 はかつて不妊症の重要な原因のひとつであったが,幸いなことに本邦における罹患率は近 年著明に減少してきている.不妊患者における性器結核陽性率は現在では0.12%に過ぎず, (図 2 )両側卵管留水腫の子宮卵管造影像 (下段:24時間後,両側に造影剤残存)研修医のための必修知識
(表1) 分染法の種類 特 徴 分染法 ギムザ染色で 300 ∼ 400 のバン ドを分染する.安定したバンド が得られ,最も普及している方 法. G band 法 キナクリンマスタードによる染 色.手技が簡単であるが,螢光 顕微鏡が必要なことと,退色が 早いため写真に記録しておかな ければならない欠点がある. Q band 法 G band 法と濃淡が逆に染色さ れる.染色体の末端部分が濃く 染色されるため,末端部の転座 や欠失の分析によい. R band 法 動原体近傍や Y 染色体長腕にあ る異質染色質(ヘテロクロマチ ン)を染色する方法.染色バン ドの大きさや位置が個体により 異なるため,染色体の由来を検 査するのに用いる. C band 法 培養細胞にエチジウムブロマイ ドやブロモデオキシウリジンを 添加して,染色バンド数を増や して染色体を詳細に分析する方 法.バンド数は 850 以上となり, DNA プローベと併用して遺伝子 座の決定に用いられる. 高精度分染法 1950年代の約120に減少している1).しかし,性器結核は治癒過程に結節性変化を起こし, 卵管や子宮に不可逆性の損傷をもたらすため,罹患後の妊孕性の回復はきわめて難しい. したがって,性器結核では早期診断,早期治療が妊孕性を回復するうえで重要となるが, 自覚症状に乏しいことや比較的若年者の発症が多いことから発見が遅れることが多い.性 器結核患者における月経血培養陽性率は30%に過ぎず2),また,月経血培養は結果を得る のに長時間を要するなど,性器結核のスクリーニングとして理想的な検査とはいえない. しかし,検査が簡単で副作用が全くないという利点も有しており,現在でも性器結核のス クリーニング検査として施行されている. 方法:経血量の一番多い月経1∼3日目に来院させ,後腟円蓋に貯留した月経血を滅菌 注射器でとるか,あるいは滅菌生理食塩水で腟内を洗いながら吸引採取する.結核菌の検 査は月経血を小川培地に培養し,1カ月間の培養で陰性の場合はさらに1カ月間培養し, 陽性の場合はナイアシンテスト間接法を行い判定する. 《参考文献》 1)飯塚理八.感染症と女性不妊.産婦人科の世界 1982 ; 34 : 1173 2)貴家寛而.女性性器結核の研究.日産婦誌 1956 ; 8 : 495
(11)染色体検査
染色体異常に基づく疾患は産婦人科領域にも多く存在する.18トリソミーや21トリソ ミーなどの常染色体異常や,クラインフェルター症候群,ターナー症候群などの性染色体 異常による性分化異常は日常診療で散見されるが,これらの確定診断には染色体検査が必 要となる.染色体検査では染色体数の異常だけでなく,染色体の一部分が他の染色体に移 行した転座や染色体の一部分が欠けた欠失が診断できる.染色体を分析する細胞は調べる 個体から採取することになるが,一般的 には血液中の白血球や皮膚から採取した 線維芽細胞,胎児診断の場合,羊水細胞 が用いられる.いずれも採取した細胞を 培養して数を増やしてから染色体検査に 使用する.染色体の分析は特定の染色法 で染色すると,染色体ごとに染色される バンドが異なることを利用した分染法で 行われる. 分染法の種類を表 1 に示す.(12)排卵時期の推定法
排卵時期の推定は性交後試験等の不妊 症検査時期の確定やタイミング指導,人 工授精などの不妊治療にとっても欠かせ ない検査である. 1.基礎体温測定 基礎体温の低温相最終日とその前後数 日間に排卵が起こることが多い.従来い われてきたような体温陥落日は全症例に みられるわけでなく,また,みられても その日が必ずしも排卵日とは限らない.研修医のための必修知識
a a b b c c d d 基礎体温は月経周期が規則正しい症例では,過去何周期かの記録から大体の排卵日を予想 することはできるが,正確性に欠け,月経不順症例では次回排卵日を推定することはでき ない. 2.頸管粘液検査 頸管粘液は卵巣から分泌されるエストロゲンによりその性状が変化するが,その変化を 指標に排卵日を推測する検査法である.排卵に向かって増加する卵胞からのエストロゲン により,頸管粘液には以下のような変化がみられる. 頸管粘液量増加 粘稠度の低下 牽糸性の増加 羊歯状結晶形成 検査法:腟鏡にて子宮腟部を露出し,ツベルクリン用注射筒にて頸管粘液をすべて採取 する.注射筒の目盛りから頸管粘液量を読み取り,ついで,スライドグラス上に頸管粘液 の一部を圧出してそのまま注射筒を徐々に上方に持ち上げ,スライドグラスと注射筒先端 の距離を離していったとき,どこまで頸管粘液が切れないか(牽糸性)を目測する.さらに, 頸管粘液全量をスライドグラスに出し,加熱乾燥して羊歯状結晶形成の程度を顕微鏡で観 察する.結晶形成は(+)∼(++++)に分類される(写真1).頸管粘液量0.3ml 以上,牽 糸性10cm 以上,結晶形成(+++)以上をもって排卵直前と診断する.排卵後も血中エス トロゲン濃度は高いが,黄体より分泌されるプロゲステロンによりエストロゲンの効果が 打ち消せされるため,排卵後は頸管粘液量は低下し粘稠度は増加し,上記の特徴はすべて (写真 1 )頸管粘液羊歯状結晶の分類(a:+, b:++, c:+++, d:++++)
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みられなくなる. 3.経腟超音波断層法 経腹超音波プローベを用いて卵胞径を 測定することにより排卵日を推定する検 査である.過去には経腹超音波プローベ が用いられていたが,経腟超音波プロー ベの普及に伴い現在ではほとんど経腟的 に卵胞径が測定されている.卵胞径が平 均 で20∼22mm に 達 す る と LH サ ー ジ が起こるので1)排卵日の推定が可能であ る(写真2).卵胞径の測定は基礎体温を 参考に予定排卵日の数日前より経時的に 行い発育卵胞を観察し,同時に頸管粘液検査を施行することで,より確実に排卵日を推定 できる. 4.尿中エストロゲンと LH 測定 卵胞の発育に伴って卵胞のエストラジオール産生は急増し,それを反映して血中のエス トラジオール濃度も排卵前日にピークに達する.血中エストラジオールの急激な上昇は下 垂体からの LH サージを惹起し2),LH サージ開始後34∼42時間後に排卵が起こる.血中 エストラジオールや LH 濃度を測定すれば排卵日を推定できるが,頻回の採血は患者の負 担となり実用的でないため,尿中エストロゲン濃度と LH 濃度を半定量的に測定するキッ トを用いた排卵日推定が行われる. 《参考文献》 1)小田高久.女性不妊.中村幸雄,武谷雄二編 内分泌検査法 図説産婦人科 view 6 東京:メジカルビュー社,1994 ; 116―136
2)Rondell P. Role of steroid synthesis in the process of ovulation. Biol Re-prod 1970 ; 2 : 64―68
〈岩下 光利*〉
*Mitsutoshi I
WASHITA
Department of Obstetrics and Gynecology, Kyorin University School of Medicine, Tokyo Key words : Ovulation・Chromosome・Tubal occlusion・Tuberculosis
(写真 2 )成熟卵胞の経腟超音波断層法像