初級文法の中に見られる
自動詞・他動詞
ーテ形接続の文を資料としてー
江田すみれ
日本女子大学
はじめに
• 初級の通常の授業の中に自動詞・他動詞の教育が入れられるので は? • て形接続の文を参考に • 江田(2014)「「て」による節の接続と「と」による節の結合の異同につ いて」 吉田(1994)金沢(2003) 「て」の誤用には「と」との混同が多い 動詞の意志性が関与 「て」と「と」の問題を自動詞・他動詞の枠組みで考えることはでき ないか?1 はじめに 2 自動詞他動詞について 3 調査方法 4 調査結果 5 誤用 6 考察 7 まとめと今後の課題 8 参考文献
2自動詞・他動詞について
・早津(1987) 有対自動詞・他動詞 共通する語幹を持つ動詞対 他者の働きかけで成立する事態 働きかけに注目 他動詞 結果に注目 自動詞 無対自動詞・他動詞• 安藤・小川(2001) 角田(1991) 自動詞 状態 ある・いる・異なる・わかる 変化 壊れる・閉まる・なる・発展する 動き 歩く・走る・遊ぶ・飛ぶ・泳ぐ
• 寺村(1982)西尾(1978) 形態的に対応がある自動詞他動詞でも意味的に対応していな い場合あり-無対動詞 ツカマルーツカム (1)鉄棒にツカマル。 (2)鉄棒をツカム。 (3)誰カガ私ノ腕ヲツカンダ。 ×(4)私ノ腕ガツカマッタ。 抜けるー抜く (5)亀がウサギを抜く。 ×(6)ウサギが抜ける。
• 中石(2002) 自動詞文、他動詞文の持つ意味 1 自動詞 有対自動詞-働きかけの結果の状態 ↓(派生) 結果可能 無対自動詞ー自然現象・生理現象・他者の介在しない動作 2 他動詞 有対他動詞-働きかけとその結果の状態 ↓(派生) 経験者主体の他動詞文 無対他動詞-働きかけの過程
初級教科書での自動詞・他動詞
『みんなの日本語』
29課 (7)窓が開いています。 『初級Ⅱ 翻訳・文法解説 英語版』 Vています expresses the state which results as a consequence of the action expressed by the verb. Verbs which are used with this expression are intransitive verbs, and most of them indicate an instantaneous act or action.『大地』
• 23課 「と」の文型 (8)ドアを開けるとふたが開きます。 後項の動詞 自動詞 『教師用ガイド 』 機械の使い方が言える。 自他動詞の区別や意味の違いは28課で扱う • 28課 結果状態の「ている」 (9)自転車がたおれています。 『教師用ガイド 』 目標 自動詞で状態を描写できる 自動詞に焦点を当てるので、他動詞との対照はしない。 • 自動詞・他動詞を意識する課や項目がもっとあってもいいのでは?『文化初級日本語Ⅱ』テキスト 改訂版
• 25課 • 自動詞と他動詞 ①ドアが開く ドアを開ける 単語の紹介 ②場面上で 「人形が動く」「人形を動かす」を見せる ③会話4 (9)警官:この車はあなたのですか。 佐藤:はい。 警官:すぐに動かしてください。 佐藤:すみません。故障して動かないんです。 • 26課 • 自動詞の「ている」 (10)A:あっ、窓ガラスが割れていますよ。 B:本当だ。危ないですね。• 自動詞・他動詞があるというだけでなく、文型の学習の中に織り込 んで時々意識させる授業はできないか。 • 本発表の観察の対象 有対自動詞・他動詞を中心に しかし、実際の例の中の語なので有対動詞とは限らない 個別の意味の上では対応していない語もある可能性あり
3 調査方法
李在鎬ほか『日本語学習者作文コーパス』 形態素「て」で検索 採用しなかったもの 「て」の用法(現代記述文法研究会2010) 複合述語 アスペクト的な造語形式 ている・てくる・てしまう・てある 意志・意図を表す造語形式 てみる・てみせる・ておく 授受動詞と結びついた場合 てやる・てくれる・てもらう その他 てほしい・てほしがる 並列 (11)日本の首都は東京で、中国の首都は北京だ。 対比 (12)盆地の気候は、冬は寒くて夏は暑い。 前触れ (13)問題が一つあって、父は英語が話せないのである。 逆接 (14)本当のことを知っていて教えてくれなかったらしい。 順接条件 (15)歩いて20分かかる。 付帯状況 (16)立っておしゃべりをした。 (例文(11)-(16)は現代記述文法研究会2010より)• 採用したもの
継起 (17)手を洗っておやつを食べた。 原因・理由
(18)赤ん坊が泣きだして、母親はあわてて抱き上げた。 (例文17-18 現代記述文法研究会2010より)
4 調査結果
総数 誤用 誤用率 採用したもの 828 199 24.0% 採用しなかったもの 2473 437 17.7% 3301例中、継起・原因理由の例は828例 テ形接続の観点からの誤用は199例(24%) 助詞・語の選択などは今回は 誤用と数えない 採用しなかった例のうちの誤用はコーパスに誤用と表記されているもの(活 用形・助詞なども含む) 「テ形・連用形」は特定の意味を表すために用いられるというより複数の事態 を結びつけて一つの文にまとめるというのがその働き(日本語記述文法研究 会2010:281) しかし、文法的な制約あり 表1 日本語学習者作文コーパスに見られるテ形接続疑問
• テ形接続の文 継起・原因理由にあたると読めるもの 学習者はどのような文を作っているか
どこがどのように間違っているか
5 学習者の誤用
• 論理が明確でないもの • 節の結合しすぎ • 他の文型に解釈できるもの 継起→と・ば 原因・理由→から・ので5
-1 論理が明確でないもの
(19)最初、ちょっと難しくて照れくさいの気がして、言われば言うほ ど、会話はすらすらになっていると考える。(気がするが、話せば 話すほど会話が上手になる) (20)卒業してから、必ずぺらぺらと話せると思いきや、三年生に なってまだいろいろな問題があります。(三年生になっても) • 「て」はどんな節でもつなぐことができるものでなく、一定の意味があ ることの教育を。5
-2 節の結合しすぎ
(21)そうして一回日本に行ってくると、日本語がもっとうまくなりたいだから勉強をする気が出き て、もっといっしょけんめい勉強すれば、漢字スランプを脱して日本語がもっとうまくなると思う。 (KG053中級) →勉強する気になってもっと一生懸命勉強する。そうすれば、 (22)最初は私が好きな歌手について知りたかったしいろいろと情報を調べる途中にその歌手が 進行するバラエティー番組を見ることになって、歌も聞くようになって自然に日本語を知っていく ところともっと詳しく習えば今度日本に行って嵐にあうことになった時彼らとの会話ができるの ではないか?というもしかしたらバカみたいな想像をしながら日本語の勉強をして資格賞もとる うちに日本留学も考えるようになった。(KG063上級) • テ形接続を教える前に形式的に一定の枠組み • 1文に節は3つまで。文を区切り、接続詞を使えば正しい文になる可能性。5
-3 「と」に読めるもの
(23)インターネットで、たくさんの日系ドラマやバラエティ番組がある。 それらを見て、いろいろ勉強になる。 (CG042上級) (見ると、勉強になる) (24)主人公の口調を従って話して、会話の能力も上がる。(CG081中級) (話すと能力が上がる) (25)インタネットでGoogleのようなウェブサイトを使って、検索の結果は 時々たくさん全然不相関のウェブサイトを含めています。(CG127中級) (使うと関係のないサイトが現れる)5
-4 「ば」に読めるもの
(26)そういうことはただインターネットを使ってすぐ分ります。(CG12 中級)(使えばすぐわかります) (27)その国の文字を勉強しなければならないと思います。その国の 文字を分かっていて話すこともできるから、基本的なのが重要だと 思います。(KG004初級)(わかっていれば話すこともできる) (28)インターネットでe-mailを使って、数分間私の仕事が終ります。 (CG126中級)(使えば仕事がすぐ終わります)5-5 原因・理由に読めるもの
(29)日本についての本はたくさん持って、各方面から日本を はっきり了解できる。(CG044初級)(本をたくさん持っていて、日 本のことがはっきり理解できる) (30)合宿をしながら日本語を勉強するプログラムがあって参加 することにした。(KG046上級)(あったので) (31)インターネットがこんなに自由にだれでも使えて、将来の世 界で、新聞や雑誌はいらないと見通す。(CG135中級)(使える ので)6 考察
• 仁田(1995) シテ形接続の用法 三類四種 <付帯状態> <継起> <時間的継起> <起因的継起> <並列><時間的継起> C1シテC2 時間的に先後関係 典型的にはC1C2共に意志動詞、主体同一 無意志動詞が使われる例少ない (32)彼女は~きゅうにまじめになって、「~」という。 シテ節が人間の意志で制御できない事態―原因・理由に解釈 (33)妙にいらいらして、眠れないから~ 異主体による時間的継起 主体が非情物 (34)このとき、エレベーターが停止して、ドアが開いた。 契機 <時間的継起>と<起因的継起>の中間 知覚・認識→情報・現象 (35)かれが、父親のはなしをきいて、戦国の世の有為転変のはげしさに 多少の感慨をもよおしたのだろう。(例文32-35仁田より) 心的状態の変化、無意志的
「と」 松田(1984) • 必然的な結果 文末ル形 • 継起的な動作・作用 前件後件の主体が同一の場合も別個の場合もある (36)彼は部屋に入ると、ソファに座った。 (37)彼が部屋に入ると、彼女が話しかけた。 ?(38)彼が部屋に入って彼女が話しかけた。 前件後件共に動作性述語 外からの描写 ・きっかけ 前件後件の主体が別個。動作性述語 • 発見 動作性述語+状態性述語 • 時 状態性述語+動作性述語
「と」に読めるもの
後項 非意志性述語の文 (39)インターネットで、たくさんの日系ドラマやバラエティ番組が ある。それらを見て、いろいろ勉強になる。(CG042上級) (見る と、勉強になる) 必然的な結果に読める 後項の動詞は自動詞としていいか? 14例 8例が「なる」 可能表現1 あがる 感じがする 含まれる 入る 自動詞が多い。可能表現も。 可能表現 (40)どこにいても、インターネットを使って、知りたいニュースがすぐ 見える。(CG150上級) (使うとニュースを見ることができる)「ば」に読めるもの
誤用訂正の欄に「ば」と記入されている例 (41)そういうことはただインターネットを使ってすぐ分ります。 (CG126中級)(使えばすぐわかります) (42)その国の文字を分かっていて話すこともできるから、基本的なの が重要だと思います。(KG004初級)(わかれば話すことができる) • 「ば」に読めるもの 後項の動詞は自動詞としていいか? なる 9 可能表現 7 上達する 2 役に立つ 終わる 自動詞が多い 可能表現もよく使われる• 金沢(2003) 「と」は条件表現として分類するより継起表現として分類し、「て」との対比を学 習者に示すべき 前項後項における主体 「て」 同主語 「と」 異主語が可能 後項における述語 「なる」「ある」「見える」などの自動詞・形容詞類 • 本発表の姿勢 「て」 どんな関係性の節でも結合できるのではない。 継起 主体が同一 複数の動作 他動詞 後項の動詞に「なる」「可能表現」を用いる場合 「と」あるいは「ば」で表現 「と」は必然的な結果、あるいは継起と読める文になる 「ば」は仮定の意味を含んだ文になる 継起の「と」を中級で教育し、前項と後項の主語が異なる場合は「と」を使うこと を指導する。継起の「と」では後項に意志動詞も使える。 (43)私が連絡すると、彼女はすぐに来てくれた。
原因・理由
<起因的変化>仁田(1995) シテ節・主節のどちらかが無意志動詞 シテ節 心的作用・受動形の動詞が目立つ 制御不能な事態 起因的継起 制御可能な事態 時間的継起 意志動詞を使う場合 制御できない事態として表現 (44)犯人の素性を確かめて驚いた。(例文仁田)森田(1980) 「て」の原因・理由 前項が成立した結果、話し手の意志とは関わりなく後項の事態 がやむを得ず成立する ノデ節との関係(仁田1995) 双方の節が制御可能性の高い事態 シテ節不可能 (45)水着を買ったので来週泳ぎに行く。 (46)水着を買って来週泳ぎに行く。(継起) C1がC2の後に生じる場合 ノデ可能 シテ不可能 (47)明日友人が訪ねて来るので、部屋を掃除した。 ×(48)明日友人が訪ねて来て、部屋を掃除した。(例文45-48 仁田)
(49)そして、インタネットからもらえる情報は多量であって、人々 は一度に完全に読み終わらせなくて、ポイントがつかめない。 (CG140中級)(読み終わることができなくて) (50)日本についての本はたくさん持って、各方面から日本をはっ きり了解できる。(CG044初級)(本をたくさん持っていて、日本 のことがはっきり理解できる) 前項・後項のどちらかが無意志動詞 可能表現によって無意志化 無意志動詞の中に自動詞が含まれる
(51)合宿をしながら日本語を勉強するプログラムがあって 参加すること にした。(KG046上級)(あったので参加することにした) (52)ほかに、まだいつくかの理由があって、下のほうに述べよう。(ある ので、下に述べよう)(CG135中級) 後項が意志表現 原因の「て」は使いにくい。「ので」が適当 (53)インターネットがこんなに自由にだれでも使えて、将来の世界で、 新聞や雑誌はいらないと見通す。(CG135中級)(使えるので) テンスの違いがある場合は原因・理由の「て」は使いにくい。「て」は基本が 継起。
原因・理由の「て」
• 前項・後項、どちらかが無意志 • やむを得ない状況 • 後項に意志表現が来た場合不適格 • 前項と後項にテンスの差がある場合は不適格 • 「ので」「から」を使うほうが安全(吉田1994) • 「て」の原因・理由の用法の学習の際に自動詞が使えるとは明確に は言えない7 まとめと今後の課題
• 初級の授業の中に自動詞・他動詞を意識させる活動は入れられないか 例 て形による節の結合。 「て」と「と」の違いについて ・ 「て」継起 同一主体の複数の動作=他動詞 ・ 後項の動詞が自動詞または可能表現の場合、「と」あるいは「ば」を用い たほうが正しい文として読み取れる ・ 「て」による結合 継起・付帯状況・原因理由と意識させる ・ 「と」を学んだあとで「て」と「と」を対比させる (54)部屋に入って電気をつける。(他動詞) (55)部屋に入ると電気がつく。(自動詞) 今回は「て」形を例にとったが、ほかの文型でも自動詞・他動詞を意識させるこ とができるものがあるだろう。• 仮説
• 文脈によってよく使うであろう使う語が想定できる場合がある • 自動詞・他動詞を、一定の文脈を前提に整理し、それからタスク • 効果はあるか