香 川 大 学 経 済 論 叢 第74巻 第 3号 2001年12月 93-118
グリーンコンシューマー革命
一先進小売業の環境経営戦略
原 田
保
荒 木
覚
第
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節持続可能な社会の実現に向けた枠組み
持続可能な社会とは 「環境の世紀」とも呼ばれる2
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世紀を迎え,我々を取り巻く環境問題はます ます深刻化している。環境問題は,地球温暖化等の地球規模の地球環境問題と, 廃棄物問題等,我々の日常生活に直面する地域環境問題に大別される。個別の 環境問題が相互に複雑に関連しながら,自然の物質循環や生態系へ大きな影響 を及ぼすことを通じて,人類の存続を脅かす大きな問題となっている。 平成13年版環境白書のなかで,環境省は「私たちは, 20世紀に慣れ親しんだ 大量生産・大量消費・大量廃棄型の生産と消費のパターンから脱却し,経済の 成熟化を伴いながら,資源とエネルギーの大量消費に依存しない新しい段階に 移行しなければならなしりと訴えている。 新しい段階とは持続可能な社会への移行であり,実現のためには社会全体が 環境の面から見て健全性を保っていることが必要だとしている。 持続可能な社会の形成には, -我々の諸活動から生じる環境負荷が,環境の許容範囲内にとどまり,人の 健康等に悪影響を与えないこと ・有害化学物質の環境への蓄積などの環境上の「負の遺産」を可能な限り解 消し,将来世代により良好な環境を継承していくこと ・我々の活動が環境を構成する大気,水,土壌,生物聞の相互関係によって94 香川大学経済論叢 478 形成される生態系などのシステムと健全な関係を保ち,それらに悪影響を 与えないこと が必要とした上で,持続可能な社会の実現に必要な条件をく図表1>のように 示している。 「再生不可能な資源」の 他でその機能を代替 できる範関内での利用 生態系の機能を 維持できる範囲内 での人間活動 図表1 出典:環境省「平成13年環境白書J,p.13 2. 環境規制の流れ 持続可能な社会 h、、ーーー一一戸-〆J 人間活動からの 排出を環境の自浄能力 の範囲内に限定 不可逆的な 生物多様性の 減少の回避 このような環境問題を解決し,持続可能な社会を実現させるため,圏内では 様々な法整備が進められている。 2000年の通常国会は「リサイクノレ国会」とも 呼ばれるほど多くのリサイクル関連法が成立した。 2000年 5月には大量廃棄社会から循環型社会への転換を掲げた「循環型社会 形成推進基本法」が成立した。同法は使用済み製品や廃棄物等を循環資源と位 置付け,処理の優先順位を(1)発生抑制(2)再使用(3)再生利用(4)熱回収(5)適正処分, と明確化している。また同法は,事業者に対する拡大生産者責任
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を明確 にした点が大きな特徴となっている。 この循環型社会形成推進基本法の個別法として,改正廃棄物処理法,改正リ95-グリーンコンシューマー革命 サイクノレ法(資源有効利用促進法),食品リサイクノレ法,建設リサイクル法, リーン購入法が成立した。また,容器包装リサイクル法が2000年4月に完全施 グ 479 さらに,家電リサイクル法が2001年4月から施行となっている。 行, これらの環境関連法を整理したのがく図表
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である。 環境関連法の体系 図 表2 グリーン購入法i
時総務殺の事絞殺ミ録制 食品リサイクル法 建設リサイクル法 家電リサイクル法 容器包装リサイクル法 小売業にかかわる規制 先に紹介した環境関連法案はいずれも少なからず、小売業に関連してくるもの ここでは,特にかかわりの深い3つの法律の概要を簡単に説明して であるが, おく。 容器包装リサイクル法 ) 1 ( 容器包装リサイクノレ法は,家庭等から排出される一般廃棄物の中で,再生資 源として利用できる容器包装のリサイクルシステムを確立することを目的とし96ー 香川大学経済論首長年 480 て事業者,消費者,自治体等の役割分担を定めた法律である。 対象となる容器包装は,①「特定容器」と呼ばれるアルミ缶,スチール缶, ガラスび、ん, PETボトルなどのプラスチック容器,飲料用の紙ノfックや夕、ン ボールなどの紙製容器,②「特定包装」と呼ばれる包装紙やラップ等である。 同法の施行時はア/レミ缶,スチーノレ缶,ガラスびん,紙ノfック, PETボトノレの みが対象であったが, 2000年4月から完全施行となっている。 同法においてリサイクノレの義務を負う事業者とは,販売する商品に特定容器 を使用する「特定容器利用事業者j,特定容器を製造・輸入する「特定容器製造 等事業者j,販売する商品に特定包装を使用する「特定包装利用事業者」に区分 される。ほぼすべての小売業者は「特定容器利用事業者j,I特定包装利用事業 者」に該当することになる。 事業者,つまり小売業者義務は,自社で使用した特定容器および特定包装の 量に応じてリサイクノレの義務を負うことになる。リサイクルの方法としては, 日本容器包装リサイクル協会にリサイクノレを委託し,委託料を支払う指定法人 ノレートを利用する事業者がほとんどである。 したがって,排出される特定容器包装の把握と相応のリサイク/レコストの負 担が必要となる。
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家電リサイクル法 家電リサイクル法は,家庭等で使用された後,廃棄される家庭用電気製品(以 下,家電製品)のリサイクノレを促進するために,自治体,事業者,消費者等の 関係者の役割分担を定めた法律である。対象となる家電製品はテレビ,冷蔵庫, 洗濯機,エアコンの4種類。 2001年4月から本格施行となり,消費者がリサイ クル法を負担することとなった。小売業者の義務は ① 自らが販売した対象家電製品の引き取りや,販売する際に同種の対象家 電製品の引き取りを求められた際に,これを引き取る義務 ② 引き取った対象家電製品をメーカー等に引き渡す義務 ③ 対象家電製品を確実に運搬するためのマニフェスト制度の実施481 グリーンコンシューマー革命 97-の3点である。 対象家電製品の販売を行う小売業者は,リサイクルlレートの確保のため,運 搬業者との連携や必要に応じて引き取った家電製品を一時保管しておくノTック ヤードの確保が求められることになった。 (3) 食品リサイクル法 食品リサイクル法は,食品廃棄物の発生抑制やリサイクルを促し,堆肥や飼 料等として資源を有効利用することを目的として
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年5
月に施行された法 律である。 同法では,食品関連事業者(製造,流通,ホテル,飲食店等)を対象に 5年 聞を目標に20%
の削減を義務付けている。食品廃棄物の年間排出量が1
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トン 以上の大手事業者は,数値目標を達成できなかった場合に農林水産省が是正を 勧告,従わない場合は事業者名を公表され,5
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万円以下の罰金を科される可能 性がある。削減目標を達成するために小売業者は,堆肥や飼料へのリサイクル に取り組むこと,また排出量そのものを削減させる必要がある。 本節では,持続可能な社会の実現の必要性と実現のための法的枠組みを紹介 した。こうした新たな枠組みのなかで,企業は環境問題をどう捉え,またどの ように解決に向けて取り組んでいくべきなのであろうか。 本稿では,小売業において環境経営に対し先進的な企業の現状を分析し,持 続可能な社会の実現に向けてあるべき姿を提言していくことにする。第
2
節 求 め ら れ る 環 境 経 営
1 環境経営とは 環境経営という言葉が叫ばれるようになって久しい。環境経営とは,環境に 配慮するという考えのもとで企業経営を行うという考え方である。 企業活動の結果を会計的視点、でみると r手リ益=収入一費用」で示すことがで きる。企業経営の主目的は当然ながら利益を追求することである。商品・サー ビス提供の対価として得る収入を伸ばし,継続的な発展を目指すためには,他98 香川大学経済論叢 482 社と比較して競争優位性が求められる。 競争優位性を保持し続けるためには,商品・サービスの機能・質をより高め 価格をより安くする方法,費用を削減する方法がある。費用を削減するために は,購入単価の引き下げや作業効率化によるコストダウンなどの方策が採られ る。 上記ような直接的な方法の他に,イメージアップ戦略による収入の増加や従 業員の意識改革等の間接的な方策が採られることも多い。 最近では,この競争優位性を保持するための視点として環境の視点を取り入 れることが不可欠になってきている。従来の視点に環境という視点を加えるこ とで,新たな変革が起こることを経営者が理解するようになったためである。 エコファンドの登場によって,環境に配慮した経営に取り組む企業を評価する 動きがみられるようになっている。 環境経営とは,利益向上という企業の第一の目的を追求する一方,環境に配 慮しながら成長させていくというエコノミーとエコロジーを両立させていく経 営ともいえる。 2.. 現代企業の本質 環境経営を考える際に,ここで現代企業の本質を考えてみる。 企業とは r資本主義社会において生産活動を営み続ける経済単位J,もしく は「経済的な活動を行い続ける組織体」といえよう。 さらに,現代企業に期待される役割としては次の3点が挙げられる。 ① 社会性:市場の要求に合わせて,高品質・低コストで効率的に商品・サー ビスを提供する ② 公益性:企業の利潤は,利害関係者に均衡的に充足するという責任があ る ③公共性;企業も社会の一員であり,社会の規範を遵守しなければならな しユ このうち,従来,企業に求められる役割は上記の①②,つまり社会性と公益
483 グリーンコンシューマー革命 99 性のみを追求していればよし公益性については,納税の義務と法律の遵守を はたしていればよいとの認識が主流であった。しかし,公害問題が深刻化した 1960~70 年代を境に「企業も社会を構成する市民(コーポレートシチズン)Jで あるとの認識が高まり,より広い責任を果たすことが求められるようになって きfこ。 環境問題に直面している現在において,企業はそのコーポレートシチズンと しての役割を果たすことを前提に存続を許されていることを認識し,利益の追 求については利益の極大化ではなく,社会に認識される最適利潤の確保が求め られているといえる。
第
3
節
グ リ ー ン コ ン シ ュ ー マ ー が 流 通 戦 略 を 変 え る L グリーンコンシューマーとは 企業が環境経営に目を向け始めたのは,環境問題の深刻化やそれに伴う法的 枠組み,企業の役割の変化などを指摘してきたが,グリーンコンシューマーの 台頭を欠かすことはできない。 グリーンコンシューマーとは直訳すると緑の消費者となるが,グリーンコン シューマー研究会によると「必要性と環境負荷を考慮して商品と企業を選ぶ自 立した消費者」と定義される。言い換えると,生活全般における行動基準に環 境配慮をポリシーとして持ち,環境に良い商品を厳選して購買するとともに, 環境面から企業活動を監視する消費者Jである。 イギ、リスでは, 1988年に出版された「ザ・グリーンコンシューマーガイド」 が発売1ヶ月で 30万部の売れ行きを記録し,このガイド出版によって,それま で売上1
位だったスーパーが2
位と順位を逆転された等,様々な社会現象を引 (1) き起こしたという。 (1) 宮北隆志「買い物が社会を変えるく1>,労働の科学, 55巻l号, p..43-100- 香川大学経済論議 484
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グリーンコンシューマーの活動 園内におけるグリーンコンシューマーの概念が普及するきっかけとなったの は,京都市のゴミ問題市民会議が1991年に発行した「グリーンコンシューマー ガイド」という小冊子である。これは京都市内にあるすべてのスーパーの環境 配慮状況をまとめたもので,初版の3000部は2ヶ月で完売したという。ゴミ問 題市民会議は,現在,NPO
(非営利組織)の「環境市民」と名称を変更し,様々 なグリーンコンシューマーの普及啓発活動等を行っている。 その後,全国の団体が集まって結成されグリーンコンシューマー研究会に よって, 1999年10月に全国版である「グリーンコンシューマーになる買い物ガ イド(小学館)Jが発行された。環境と健康を考えた商品や庖頭リサイクノレ,ご み削減などに関する各庖舗の取り組みを 5段階で評価するとともに,消費者が 注意するポイントをわかりやすくまとめている。 ここで,同書籍の中で紹介されているグリーンコンシューマー10原則を紹介 しておく。 -グリーンコンシューマー10原則 -必要なものを必要なだけ買う -使い捨て商品ではなく長く使えるものを選ぶ ・包装のないものを最優先し,次に最小限のものを選ぶ。容器は再使用でき るものを選ぶ。 • r作るときJr使うときJr捨てるとき」に資源とエネルギー消費の少ないも のを選ぶ -化学物質による環境汚染と健康への影響の少ないものを選ぶ .自然と生物の多様性を損なわないものを選ぶ、 -近くで製造・生産されたものを選ぶ ・生産者(おもに途上国の)に適正な対価が支払われている製品を選ぶ (2 ) 売れるエコ製品はグリーンコンシューマーとの対話から生まれる 環境市民地球環 境J2001 6, p.75485 グリーンコンシューマー革命 -101 -リサイクルされたものやリサイクノレシステムのあるものを選ぶ ・環境問題に熱心に取り組み,環境情報を公開しているメーカーや庖を選ぶ 出典:小学館「グリーンコンシューマーになる買い物ガイド(小学館)J より 3 グリーンコンシューマーが流通戦略に与える影響 (1 ) グリーンコンシューマーの台頭 環境を配慮した消費行動は,多くの市民が実践すれば社会的な利益につなが るが,個人の利便性を損なうため実行されにくい「社会的ジレンマ」の側面を もっている。男女共同参画社会の推進やライフスタイルの多様化によって,個 人が生活する上でスーパーやコンビニエンスストアの利用は多くの市民にとっ て不可欠な存在となり,結果として大量の容器包装が排出されることとなる。 このような現実をみれば,まだまだグリーンコンシューマーの影響力は表面に は出てきていない。 しかし,グリーンコンシューマー研究会代表の緑川氏は「消費者が行動を起 こせばメーカーの商品や技術開発,庖舗での品揃えに影響を及ぽせる。流通業 者も私たちの声に耳を傾けるようになってきた」と述べている。 地域ごとの買い物ガイド発行の流れが加速すれば,グリーンコンシューマー の底辺は確実に拡大する。買い物ガイド作成の団体の中には大学のサークルも 含まれており,若い年齢層にも浸透しつつある。各地の高校に無料で消費者教 育の講師を派遣している日本消費者生活アドバイザー・コンサJレタント協会 (NACS)は,グリーンコンシューマーの考え方をテーマにした教材用ビデオと テキストを作成し,この教材を使用して消費者がリサイクノレや省資源に配慮し た商品を積極的に購入することの意義を訴えている。 環境市民の杉本氏によると r潜在的なグリーンコンシューマーは消費者の2 割といわれる。
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割の人の行動が変われば,市場に与える影響は大きい」とい (3 ) 毎日新聞, 2000 1. 13, p..23 (4 ) 東京読売新聞, 2001.1 . 24, p 24-102ー 香川大学経済論叢 486 う。 1998年に電通が行った「グリーンコンシューマー意識調査」によると,全 消費者の中で「環境に配慮した商品・庖舗・企業を選んで購入する」と回答し た,いわゆるグリーンコンシューマーは
11%
と報告されている。さらに,国内 のグリーンコンシューマーは,情報交換に積極的である。前出の「グリーンコ ンシューマー意識調査」によると rいいと思ったものは他人にも薦める」が 印刷4%,また「新しい情報はすぐ他人にも教えてあげる」が42%で,高い割合 を示している。こうしたグリーンコンシューマーの動きはもはや無視できない 状況になっている。 (2) 意識は高いが行動が伴わない日本人 しかし,意識は高いものの行動が伴わないという結果が日本とドイツの消費 者意識調査の比較で現れている。国立環境研究所が実施した「地球環境問題を めぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぽす影響調査」によると r環境保全 のための法律や規制を厳しくするのは当然である」という質問に賛成した割合 が日本では87..5%, ドイツ831%であり r課税されてもかまわない」と考え る割合は日本が42%,ドイツが34.1%となり,いずれも日本のほうが高くなっ ている。ところが,日常的な行動になると rいつも実行している」行動に注目 した場合 r買い物には買い物カゴを持っていく」が日本で10..7%, ドイツで 59..9%, rノ ー ト や 便 せ ん は 再 生 原 料 で つ く ら れ た 製 品 を 選 ぶ 」 が 日 本 で 12..3%, ドイツで37..8%となるなど,日独の差が多くなっている。 こうした結果から,環境意識が高いが行動が伴っていないグリーンコン シューマー予備軍ともいえる層をどのようにグリーンコンシューマーに変えて いくかが問題となり,消費者に近い立場にある小売業者としても,消費者に訴 える活動が必要となる。 (5 ) 売れるエコ製品はグリーンコンシューマーとの対話から生まれる 環境主民地球環 境J2001 6, p..75487 グリーンコンシューマー革命 103 (3) 京都の食品スーパー「ヘルプ」の試み グリーンコンシューマーの調査によって高い評価を得ているスーパーの1つ に京都市の食品スーパー「ヘルプ」がある。ヘノレプは無農薬野菜を扱う食品スー パーであり,前出の環境市民が続けているスーパーのエコロジ一度調査の結果, 1991年, 1993年, 1999年に第 1位となっている。ヘルプは,京都府内外の有機 栽培グループや生産者と価格や量について年間契約を交わし,生産物を買い取 ることで年聞を通じて安定した価格で提供することに成功している。また,-ご みの出ない販売方法」にも力を入れており,例えば,大根は葉付のまま販売, 顧客は必要な分だけを新聞紙で包む,卵は生産者から搬入したまま庖頭に並び 顧客は必要な分だけ卵ノ Tックに入れる,という方法を採用している。 このような取り組みが評価されてか,同社の売上は順調に推移しており,1996 年4月は5億2千万円であったのが, 2000年4月には10億円とほぼ倍増して いる。‘ヘルプの取り組みは環境に配慮した取り組みが,消費者に受け入れられ ている好例といえよう。
第
4
節小売業における環境経営の実践
1 グリーン・マーケティングの必要性 小売業における環境経営の方策を検討する前に,マーケテイング・コンセプ トの変遷を整理しておく。 マーケティングは企業成長のための重要な機能の1つである。企業のマーケ ティング活動は,その活動を支配する哲学もしくは理念を反映した形で展開さ れる。これは,一般にトップマネジメントが各時代の経営環境要因を検討した 結果,何が企業の発展にとって最も重要な鍵になるのかを意思決定することに よって各企業特有の理念が策定していくものと考えられる。これがマーケティ ング・コンセプトとなる。 こうした考えに基づくと,業種にかかわらずマーケティング・コンセプトに (6 ) 日本農業新聞, 2000..5 22, p七日本農業新聞, 1999 12 14, p.5d 斗 A A υ 7 t 4 香川大学経済論叢 488 環境の視点が取り入れられるのは必然である。 マーケティング・コンセプトは,初めに商品ありきという考え方の「生産志 向」から販売促進の重要性が強調された「販売指向J,消費者の顧客満足
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に 注目した「マーケティング志向」を経て, 1960年代のコンシューマリズム(消 費者保護運動)をきっかけに「社会志向(ソーシャル・マーケティング)Jが登 場する。ソーシャル・マーケティングの登場により,マーケテイングの目標は 当該企業の利益となる消費者だけでなく,消費者を含む生活者やコミュニティ 全体の利益とも調和することと拡大される。 さらに,環境問題の高まりとともに新しいパラダイムとして提唱されたのが 「環境志向(グリーン・マーケティング)Jである。なお,環境志向は,提唱者 によって表現が若干異なるが,本稿ではグリーン・マーケティングで統一する。 図 表3 従 来 の マ ー ケ テ イ ン グ 志 向 と エ コ ロ ジ カ ル ・ マ ー ケ テ イ ン グ 志 向 生産志向 販売志向 消費者志向 社会志向 環境志向 戦 略 低コスト化 売上げの鳩加 マーケyトシエ 社会的資{壬と社 環境との共生とそのビジ アと利益の確保 会貢献 ネス化 焦 点 生産効率 短期的売上げ 顧客満足 生活者/社会満 環境保全と生活者/社会 足と組織利益の 満足と組織利益の調和 調和 中心的な管理 コスト管理 販売計画 市場細分化と差 社会的資任と社 資源循環型マネジメン システム 別化マーケティ 会貢献のマーケ ト・システムの一環とし ング ティング てのマーケティング 必要な知識・ 生産管理 販売管理 消費者行動, 企業倫理,ブイ 原境問題,生活者のエコ 情報 ロジスティッ 営業管理 マーケティン ランソロビー, ロジ-)a識, LCA,技術 クス グ・リサーチ メセナ,製造物 イノベーションの動向 u任 童話合ヘの対応 コスト削減と 低価格化 消費者ニーズの 社会的資任行動 技術的イノベーション, 品質向上 販売力強化 把握とマーケ の明示化,ソー 環境調和型製品の開発, ティング・ミァ シャlレ・コミュ 資源循環の仕組みの構 クスの絞適化 ニケーション 築,エコロジカル・コミュ ニケーション 出典:西尾チツツレ「エコロジカル・マーケテインク。の構図J,p.20を一部修正 グリーン・マーケティングとは,P
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によると「顧客や社会の欲求を,利489 グリーンコンシューマー革命 -105ー 益を得ると同時に持続可能な方法で確認し,予測し,満足させることに責任を 持つマネジメント」である。 大橋はグリーン・マーケティングを「地球環境と生活の質および生活者満足 との共生と調和を図りながら,商品・サービスの企画段階から最終的に消費さ れたあとの廃棄物のリサイクル,リユース,再生,処理を含む『還元』のプロ セスまで織り込んだ,需要動向調査,商品・サービスの企画,開発,生産・物 (7) 流・販売およびコミュニケーショ活動である」と定義付けているO グリーン・マーケティングの特徴は,ソーシャノレ・マーケティングの考えを 地球規模まで拡大したことである。環境との共生を視野に入れながら,企業の 存続に必要な利益を確保することが必要なのである。 ただ単に法律遵守のため,環境をアピールしないと取り残されるという意識 では,これから述べる方策は成功しないで、あろう。グリーン・マーケテイング の観点から,総合的な企業活動が求められるのである。 2 小売活動に伴う環境問題の整理 グリーン・マーケティングの必要性について述べた。ここから,事例を紹介 しながら小売業における環境戦略を考えていく。本稿では,スーパーマーケッ トの事例を取り上げ,各社の環境報告書から,環境経営に関する現状をまとめ る。環境報告書に関しては後述するが,環境コミュニケーションに取り組む上 で不可欠なツーlレとなっているものである。 スーノ-(-マーケットを選択したのは,小売業の中でも日常生活と密接なかか わりがあると判断できるからである。小売業は流通機構の末端に位置し消費者 に対して必要な商品を取り揃えて販売することを生業とし,生産者と消費者を つなぐ大きな役割を担っている。 環境経営を考えるにあたっては,まず小売業における .生産・仕入れ段階 (7) 大橋照枝『環境マーケティング戦略』東洋経済新報社, 1994, p..39
-106--物流段階 ・届舗段階 .販売段階 香川大学経済論叢 490 の各段階における環境負荷を把握する必要がある。これらの各段階での環境負 荷を軽減させ,かつ持続可能な社会の実現に向け,グリーン・マーケティング の視点から方策を考えなければならない。 図表4 小売業の事業活動に伴う環境負荷
付~\IjfN原-1F材,識一料也水杭一、道燃鎖
九料電0¥手気/¥ 刷1 IN ~一一\ IN ~一一~\ I¥〆チN容¥ラJ器シ包r:;¥J装M/ ¥ 1 電気・ガスP
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気道, 器・・帳包ガ票装ス類 水道の使用 容 器 輸送燃料 調理用油の使の使用用 製造ーメ-カJ
品級一品→毒物疏センタ
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ー→〔消費者)
ど ¥ 二 排 気 ガ ス 排 水二コ
出典:各社発行の環境報告書を参考に筆者作成 3わ 環境経営の推進体制 O U T一一一一¥
貨物袋,包装紙 チラシ 環境経営を進めていくためには,環境活動を推進していく組織体制の確立が 欠かせない。環境問題への対応が社会的責任となっている以上,全社的な取り 組みである必要がある。会長・社長がリーダーとなって,その下に環境活動推 進の責任者をおし全社的な取り組みとなっている。他庖舗展開するチェーン491 グリーンコンシューマー革命 -107 -屈の場合は,全社的なマネジメントシステムと庖舗レベルのマネジメントが効 果的に融合しなければならない。 このようなマネジメントを推進するマネジメントツールにお014001があ る。小売業の分野でも IS014001の認証を取得するケースが目立っている。 西友は, 1997年12月に全庖・全事業所一括のマ/レチサイト方式で 'IS0 14001Jの認証を取得している。 図表5 環境マネジメントシステム 全社的環境マネジメントシステム ー 砂 ( 持 続 可 能 な 社 会 画 山 m L h ﹄ 卦 H γ L a f ' ﹄ : s P A l t 会 w p 方 境 環 庖舗における 環境マネジメントシステム 継続的改善 経営胞による見直し
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こうした流れがある一方,イトーヨーカド一等は,IS0 14001の認証を取得せ ず独自のマネジメント体制をとっている。 指摘するまでもないが, IS0 14001の認証取得は目標達成の手段の 1つであ る。認証取得が目的であってはならず,どのように実現していくかが問題とな る。108 香川大学経済論叢 492 4.. 具体的方策 小売業の環境問題の整理をした上でマネジメント体制について述べてきた が,それでは実際小売業はどのような取り組みを実践しているのであろうか。 小売各社の取り組みは ・省エネルギ一対策 -環境配慮型商品の提供 -廃棄物の削減とリサイクル体制の確立 .コミュニケーション活動 に大別できる。 (1) 省工ネルギ一対策 1 ) 物 流 対 策 商品の配送において配送車から排出される排気ガスは地球温暖化・大気汚染 の根源となっている。多くの配送車はディーゼルエンジンであるため,二酸化 炭素 (C02),窒素酸化物 (NOx)の排出量の削減が課題となっている。課題解決 のためには配送車両および配送回数・走行距離の削減が必要でトあり,現在,物 流センターの効率的な配置による庖舗ごとの一括配送が行われている。 こうした物流効率化は,環境配慮というよりむしろ在庫ロスの削減に会計上 も有利に働く。エコノミーとエコロジーが両立する方策として効果的である。 物流に用いる車両に天然ガス車等の環境対応型の車両を導入する方法もあ る。 こうした物流効率化のほかに,物流における廃棄物削減がある。配送時にハ ンガー納品やプラスチック製の通い箱を繰り返し、活用することにより,段ボー ノレ箱の削減につなげている。 2) 庖舗運営の見直し 省エネルギ一対策の一方は,電気・ガス・水道の使用量の削減である。小売 庖は営業時間の延長の流れ等から, J古舗運営にかかるエネノレギーは増加する傾 向にあるだろう。しかし,このような実情を理由にエネルギー使用量の増加を
493 グリーンコンシューマ 革 命 ~109~ 受け入れるべきではない。総合的なエネ/レギー対策が必要でトある。 ジャスコでは, 1997年に営業時間の延長などにより電気の使用量が一時増加 したが,.夜間の消費電力を節約するセットパックシステムの導入や,照度を アップさせる反射板の取り付けを行い,総合的な節電対策を推進」したことに より,.単位あたりの電力使用量および総電力使用量が増加前の1996年度より も
35%
削減した」と報告している。 このような庖舗運営にかかる省エネルギ一対策は,日常的な小さな取り組み の積み重ねの結果であり,従業員個々の意識が強く求められる。そうした意味 で従業員教育や出入り業者の協力体制の確立が重要になる。(
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環境配慮型商品の提供 環境配慮型商品の提供には,プライベートブランド (PB)の開発・提供が行わ れている。 スーパーのPBは,パブlレ崩壊後の価格破壊の流れに乗り,ナショナルブラン ド(
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よりも安価であることをセールポイントとして消費者の指示を集めて きた経緯がある。このPBに価格の他に環境面での配慮という付加価値をア ピーノレしている。 西友を例に挙げると,同社は 1992年に「環境優選」を立ち上げ,環境配慮型 商品の開発を行っている。1993年には「西友ネイチャーフレンドリー(NF)商品 選定基準」を独自に策定し,多数の商品群の中から基準と合致したものにマー クをつけている。なお,環境優選以外の他メーカーの商品も商品選定基準に見 合えばマークをつけている。 茨城県を中心に庖舗展開をするカスミで、は,農林水産省が定める「特別栽培 農産物に係る表示ガイドライン」に沿って,.カスミ自然派野菜」と位置づけ, 生産者,産地,栽培管理方法等を商品ラベルに表示して販売している。 しかしながら,環境配慮、型商品を市場に送りだしても,消費者が必ず買う保 証はない。消費者に選択されるためには同種類のNB
商品と比べて魅力的な商 品である必要があるのである。また,同時にグリーンコンシューマー予備軍を-110-化学肥料 化学合成長議 無使用 慣行栽埼の5割以下 の使用 慣行栽培の5割以上 の使用 香川大学経済論議 図表6 カスミの自然野菜 │滅化学肥料栽培農産物 の範囲が「カスミ自然派野菜」 出 典 カ ス ミ 「 環 境 活 動 レ ポ ー ト200lJ, p.4 -5 慣行栽培の 5割以上の使用 i威農薬栽培農産物 慣行栽培農産物 グリーンコンシューマーへ変える啓発運動,教育活動が必要となる。 (3) 廃棄物の削減とリサイクル体制の確立 1) 容器包装への配慮 494 家庭から排出されるごみの多くは容器包装廃棄物といわれている。小売業者 の社会的責任としても,容器包装対策には注力しなければならない。容器包装 リサイクノレの対象となる容器包装は,その排出量に応じて処理費用の負担が求 められる。したがって,コスト負担増を防ぐという視点からも力を入れるべき 取り組みである。 具体的方策としては .簡易包装の推進 ・トレーの軽量化 .レジ袋の薄肉化 -パラ売り・量り売り(食品分野) 等が行われている。 また,容器包装の原材料を環境負荷の少ない原料に変更する取り組みも今後 不可欠となっている。
495 グリ ンコンシューマー革命 111 マイバッグ運動 レジ袋の使用量削減の方策として多くのスーパーで取り組まれているのが, マイバッグ運動である。ポイント還元等のインセンティブを与えた上で消費者 に買い物の持参を呼びかけ, レジ袋使用量の削減を狙う。具体的方策としては 自社オリジナルデザインのバッグの販売や, 一時的に買い物かごをレンタノレす る取り組みが行われている。オリジナノレデザインバッグは,展開によってはブ ランド戦略との相乗効果を狙うことも可能である。 以下に, ジャスコで行われている「マイバスケット運動」の流れを紹介する。 図表7 ジャスコのマイバスケット運動 l サービスカウンタ にて, 300円で「お 持ち帰り用カゴ」を販売 4 * , -,
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草後に,お買い物袋を持参したとき と 同 様 お 買 い 物 ス タ ン プJ1個を押 印する 5 支払済みのテープをカゴにはり,その まま白宅へ持ち帰ることができる 2 「お持ち帰り用カゴ」は,庖内用のカ ゴの下に重ね,そのままカー卜に乗せ て買い物をする 精算時には従業員がレジを打ちながら 商品を届内用カゴから「お持ち帰り用」 カゴに移す 「お持ち帰り用カゴ」が不要になった場 合はサービスカウンターに返品するこ とで300円が返還される 出典:ジャスコ「ジャスコ環境報告書2000J,P l3より筆者作成 底頭リサイクル 庖頭リサイクルは,庖舗のj苫頭に回収ボックスを設置し,空き缶(アルミ缶・ スチール缶入食品トレー, PETボトノレ,牛乳ノTック,充電式電池等の回収を行 う取り組みである。庖頭リサイク/レに取り組むには,必要に応じて行政や地元-112- 香川大学経済論叢 496 の市民団体,廃棄物処理業者等との連携が必要になってくる。特に廃棄物処理 業者との連携は,共に地域社会へ貢献するという上、でのパートナーシップを築 くことができる企業を慎重に選択する必要がある。 4) 食品リサイクル 食品リサイクル法の成立前後から食品を扱う小売屈で重要視されるように なっているのが食品廃棄物のリサイク/レである。食品リサイクノレ法では
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年間 で20%のリサイクルが求められているため,各社対応策が求められている。 食品ごみのリサイクル方法として考えられるのが,肥料・飼料として再生す ることである。生ごみ処理機を導入して,届内で一次発酵させた後,肥料工場 で二次発酵させ堆肥化,農家が引き取る。農家が生産した農作物はスーパーの 庖頭で販売する。 地域循環型システムの構築の一端を担うことができれば,地域社会にアピー ルする大きな方策となる。 図表8 生ゴミの循環型リサイクルシステム -生産者表示による庖舗販売 契約良家 有機栽培による生産 庖 舗 -庖舗内の生ごみ処理機に よる一次処理 しかしながら,生ごみ処理の循環システムの構築には,堆肥の引き取り先や 成分安定等,課題が多い。 カスミは飼料メーカーと協力して庖舗から排出される食物残潰の飼料化実験 を行っている。飼料加工工場に持ち込まれた食物残誼は,粉砕された後,魚の あらに混ぜ蒸し,余分な魚油や水分を除去,乾燥させた後に栄養・衛生面での チェックをかけた後,コーンや大豆等の穀物飼料に配合し,飼料となる。同社497 グリーンコンシューマー革命 -113ー 図表9 生ごみ処理の現状と課題 入居各社別(西友フーヅと青果と畜産) ビニールのヒモ,袋片,金属片等が混 分 別│に分別後,所定容器に入れ処理置き場 入していることもあり,分別の徹底教 に出す 育が必要 硬くて大きいものは処理できないの 分別工程?除去することで粉砕工程を 粉 砕│で,全量,粉砕機にかける 省略する可能性の検討が必要。スペー スの削減にもなる 投 入 │粉砕品を 30~40kg容器に受け,高さ約 現状,プロの作業員が手で持ち上げて 70cmの投入口まで持ち上げる いるが, リフトが必要 臭気発生装霞,完全一次発酵のために, 発酵条件の設定は廃棄物の特性・量に 一次発酵
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投入物の物性・量に応じて発酵促進剤 よるが,一次製品の品質が思わしくな の量・温度,時間に細心注意して運転 く,発酵促進剤に課題が残る ずる 粘性のある一次処理製品をフルイにか 粘性品のフルイは困難。作業時の臭気 フ/レイ|け製品化する。日量 40~60kg と作業道具の自詰まりもあり,プロで も現状の 40~60kg/ 日が限界 2仰 山 , 一 一 山 一 / レ 。 │ 完 全 熟 成 四 以 パ ッ ク ヤ ー ド で 一次製品│パックヤードで熟成後,約100袋まとめ の長期保存はムダが多い て肥料会社が引き取る 出典:西友「西友環境報告書2001J,p.36 の環境報告書では,他の飼料と比べても栄養価,衛生面において遜色ない点が 明らかになったと報告している。(
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コミュニケーション活動 1) 環境コミュニケーションの重要性 これまで,小売業が果たすべき方策を挙げてきたが,様々な取り組みを行っ ても自社の取り組みをアピーノレしなければ認めてもらえなければどうにもなら ない。そのために必要になってくるのが環境コミュニケーションである。 環境コミュニケーションとは,環境基本計画の中で「持続可能な社会の構築 に向けて,個人,行政,企業,民間非営利団体といった各主体のパートナーシツ プの役割を果たすために,環境負荷や環境保全活動等に関する情報を一方的に-114 香川大学経済論議 498 提供するだけでなく,利害関係者の意見を聴き,討議することにより互いの理 解と納得を深めていくこと」という意味で用いられている。つまり,持続可能 な社会の構築に向けて欠かせない取り組みであり,各主体とのコミュニケー ション効果によってなされた活動がもとになり,さらに別の活動につながると いった相乗効果も期待できる。 次に,環境コミュニケーションを行う上での企業の役割を考える。企業の役 割を端的に示すと I一連の事業活動に伴う環境負荷を適切に把握し,ステイク ホルダーに開示したうえで,持続可能な社会を形成する上での行動を促すこと」 といえよう。この取り組みは環境経営を遂行する上での基本的考えそのもので ある。企業を取り囲む経営環境の中には消費者だけでなく,様々なステイクホ ルダーが存在する。これらのステイクホルダーからの直接的・間接的圧力に対 する適切な対応ができなければ,企業は淘汰される。「環境淘汰」という表現が しばしば用いられる。 そこで,小売業として何が求められているか,何をすべきかを考えてみる。 持続可能な柾会の実現のためにもグリーンコンシューマーを育成し・リードし ていくなど相応の役割が求められるはずである。 図表10 環境コミュニケーション 一 者 ﹁ l v 一 業 一 ト 川 一 4 1幸 司 ﹃ l l r 計 可 ﹃
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2) 地域社会とのパートナーシップの形成 環境コミュニケーションを展開するうえで求められるのが,地域社会との ノTートナーシツプである。地域社会とのパートナーシップを構築する際は,特 に長期的視野に立つことも必要であろう。そこで,環境教育が重要となる。環 境教育とはグリーンコンシューマーの育成と言い換えてもよいだ、ろう。エコロ499 グリーンコンシューマー革命 115ー ジーとエコノミーの両立のためには,環境配慮型商品を消費者に評価してもら い,購入してもらわなくてはならない。日本の消費者は環境に対する意識は高 いものの,行動が今ひとつ伴わないという結果が出ていることはすでに紹介し た。このような状況の中でエコノミーとヱコロジーの両立を目指すためには, 小売業が自らグリーンコンシューマーを育成することが必要である。そのため には,市民に対する環境教育が求められる。小中学校・高等学校の社会見学を 積極的に受け入れることは当然考慮すべき事である。庖員を講師として学校へ 派遣するという取り組みも行われている。 また,小中学校や高校学校だ、けでなく,庖舗を訪れる成人層も重要な環境教 育の対象である。届舗見学会を地域社会を対象として告知したり,消費者懇談 会を開催することによって庖舗運営や商品開発に関する要望・意見・批判を吸 い上げる仕組みも必要である。 さらに募金活動や地域の清掃活動への参加などの社会貢献活動も立派な地域 社会とのパートナーシップの形成の方法である。 地道な活動ではあるが,このような活動によってグリーンコンシューマーを 育成することができれば,そのグリーンコンシューマーが消費者の意識・ライ ブスタイノレの変革を促す大きな原動力となるはずでトある。 3) 企業聞のパートナーシップの形成 ノfートナーシップは,事業活動を遂行していく上で関わりあう企業間でも不 可欠である。先に紹介した小売業者が行うべき各行動は,関連する企業とのパー トナーシップのもとで成り立つものがほとんどである。物流機能をアウトソー シングしている場合は物流業者に自社の環境活動方針に理解を求め,配送セン ターの見直し,アイドリングストップ等の協力を求めることになるであろう。 また,廃棄物のリサイクノレを計画するのであれば,廃棄物の収集運搬会社, リ サイクノレ品の生産メーカーなどとの協力体制が欠かせない。 さらに,特に地域内での循環型システムの構築が求められる食品廃棄物のリ サイクルを考える場合は,肥料メーカーや農産物の生産者とのパートナーシツ プが求められることになり地域社会とのパートナーシップの視点も重視され
116ー 香川大学経済論叢 500 る。 4) 環境報告書・持続可能性報告書の発行 環境活動の取り組みをステイクホ/レダーに開示する方法として環境報告書の 発行がある。環境報告書として発行せず「環境保護、活動の報告」等と称してイ ンターネット上で報告するケース,報告書の内容をそのままインターネットで も公開する等の方法も採られる。 ところで,環境報告書は既に多くの企業で発行されている。時代の流れは, 環境だけでなく社会活動もあわせて報告する「持続可能d性報告書」にシフトし ている。環境報告書については環境省の「環境報告書ガイドライン」に沿った 形の報告書が多く,データや情報の透明性を確保するため,第三者からの認証 を受けることも目立っている。持続可能性報告は環境報告だけでなく持続可能 (8) な社会の形成に向けてどのように貢献したかを, GRIがガイドラインを作成し ており,日本語にも翻訳されている。 イトーヨーカ堂は2000年の「環境マネジメントレポート」から『より良い生 活,環境,社会を未来の世代に引き継ぐためのイトーヨーカドー企業活動報告 「サスナビリティ報告書J~ とレポートの名称を変更している。
第
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節
新しい企業と消費者の関係の確立に向けて
本稿では,小売業の環境戦略を考察してきた。これまでの指摘を踏まえ,持 続可能な社会の形成に向けて小売業が果たすべき役割を指摘して結びとした し〉。 1 地域貢献企業から地域創造企業へ 21世紀は20世紀の大量生産・大量消費・大量廃棄の社会の「負の遺産」を解 消すべく,消費者,企業,行政等がそれぞれ自立した立場において持続可能な ( 8 ) GRI (Global Reporting Initiative):企業全体レベルの持続可能性報告書の作成に関 して全世界で適用可能なガイドラインを立案するという使命のもとに1997年に米国で 設立された団体501 グリーンコンシューマー革命 -117-社会の実現に向けて活動することが求められる。消費者に最も近い立場にある 小売業者は,地域の生活拠点として持続可能な社会の実現のため地域社会の一 員として循環型システムの一角を担うことが求められる。グリーンコンシュー マーの育成を行政や消費者任せにせず,積極的にかかわって消費者のライフス タイルを変革させることは自らの企業活動にも効果的である。 それは,単なる地域貢献ではなく持続可能な社会に向けた地域創造活動であ る。つまり,自立した地域をつくりあげる地域創造企業でなければならないと 考える。 2引 環境コミュニケーション重視の環境経営 環境経営が企業経営戦略上無視できないことは多くの企業で認識しているは ずである。 環境経営を軸にした企業経営は,環境の枠を越えて地域創造企業への変革を 後押しすることであろう。このような環境経営を実践する上で留意すべき点は 多く指摘されるが,すべての活動は環境コミュニケーションが良好でなければ 成果として現れないといえる。 その意味では,ステイクホルダーとのコミュニケーションを重視し,持続可 能な社会の実現に向けて,取り組むべきである。 参 考 文 献 (1) 環境省『平成13年環境白書h 2001,環境省 (2 ) 寺本義也・原田保編著 rパワーイノベーション5 環境経営h 2000,同文館 (3 ) 西尾チヅル『エコロジカル・マーケテインクゃの構図J,1999,有斐閣 (4 ) イトーヨーカ堂『より良い生活,環境,社会を未来の世に引き継ぐためのイトーヨーカ ドー企業活動報告書「サスナビリティ報告書J~ , 2001 (5 ) 西友『西友環境活動報告書2001.1,2001 (6 ) イオングループ『ジャスコ環境報告書2000.1,2000 (7) カスミ『環境活動レポート 2001.1,2001 (8 ) グリーンコンシューマー全国ネットワーク編『グリーンコンシューマーになる買い物 ガイド1,1999,小学館
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(9 ) 桂川孝子『消費者は環境配慮が他市場のけん引役となりうるか 日本・ドイツ比較調査
より-~,グリーン・ジャーナル 2 巻 9 号, 1999
(10) Peattie, Ken, (1992), Green Marketing, London: Pitman Publishing,三上富三郎 監訳『体系グリーン・マーケテインク、同文舘, 1993年