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保育所における送迎時の子育て支援 ―ハッピー7カードを使用した「親子関係」支援―-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),36:15-20,2018

保育所における送迎時の子育て支援

―ハッピー7カードを使用した「親子関係」支援―

松井 剛太 ・ 松本 博雄 ・ 吉川 暢子

(幼児教育) (幼児教育) (幼児教育)

松嶋 佳加

・ 山地 一輝

* (大学院教育学研究科) (大学院教育学研究科) 760-8522 高松市幸町1-1 香川大学教育学部      *760-8522 高松市幸町1-1 香川大学大学院教育学研究科

Family Support at “Children’s Pick Up and Drop Off” in Child

Care Center: Support for Parent-child Relationship through

Using Happy Seven Card

Gota Matsui, Hiroo Matsumoto, Nobuko Yoshikawa,

Yoshika Matsushima

and Kazuki Yamaji

Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

Graduate School of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

要 旨 本研究では,保育所を対象に「親子関係」支援として,ハッピー7カードを用いた 取り組みの効果を明らかにすることを目的とした。その結果,送迎時に子どもの機嫌を調整 したり,保護者と対話したりするものとは異なり,親子関係の質を変化させるきっかけを作 ることが示唆された。今後は,親子の二者関係に留まらず,より広い視点を持った取り組み を行う必要性が考えられる。 キーワード 子育て支援 送迎 親子関係 保育所

Ⅰ.問題と目的

 1994年のエンゼルプラン策定以降,子育て支 援に関する研究は段階的に増加している(太田 ら,2014)。テーマに関しても,少子化対策に 関わる政策的なものから,子育て支援の概念を 問うもの,あるいは支援ニーズや支援内容に関 わる実践的なもの,また虐待や障害のある子ど もを持つ家庭への支援,近年では貧困等への対 応など多岐にわたる。大豆生田(2006)は,子 育て支援の視点として,①子どもに対する支 援,②親・家族に対する支援,③ネットワーク 構築への支援,④地域の子育て環境への支援, ⑤社会システムへの支援,の5つを挙げてい る。これは保育士の行う子育て支援への期待が 高く,扱う範疇も幅広いことを示していると言 えよう。  しかしながら,保育所で働いている保育士が まず直面する子育て支援は,目の前で困って いる親子をどう支えるかであろう。Cowanら (1998)は,親の子育ての有能性を高めるため に,子どもに焦点を当てたアプローチ,親に焦 点を当てたアプローチだけでなく,親子関係に 焦点を当てたアプローチにも着目している。太 田(2001)も,子育て支援の四つの相として, 子ども,親,親子関係,地域を挙げているが, -15-

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その中心には「親子関係」支援を据えている。 ところが,実際の保育現場を考えてみると,親 子が揃って保育者と関わる時間は意外と少な い。そこで,親子が揃っている数少ない機会を 大切にし,効果的な支援を考えることも重要に なるだろう。  親子が揃って保育者と会う機会としては,ま ず毎日の送迎時が想起される。保護者支援を 考えたときに,送迎時の会話で保護者に何を 伝えるかは大きな配慮事項となっている(片 山,2016)。近年では送迎時の会話は,親子関 係を支援する文脈よりもむしろ,保育者が保護 者との信頼関係を構築することを主眼とするこ とが多い(廣瀬ら,2015)。確かに,保護者対 応の難しさが指摘される昨今,送迎時は保護者 との信頼関係を築くための貴重な機会と捉える のも理解できる。しかし,送迎時の関わりは本 来,保護者が子どもを認め,子どもは保護者か ら認められて満足感を得られるひとときを作る ために行われるものである(荒井,1997)。  そこで,本研究では,送迎時に親子関係を支 援することを主眼にし,後述するハッピー7 カードの取り組みを行った効果を検討すること を目的とする。

Ⅱ.方法

1.ハッピー7カードと使用方法  数十年前に香川県PTA連絡協議会で紹介さ れたもので,親子のふれあいを促すために使用 されるものである(図1)。  カードにはそれぞれ親子で行うふれあい行 動が描かれている。7つの行動は,「おでこに ちゅ」,「ほっぺにちゅ」,「おでことおでこを こっつんこ」,「だっこして」,「おんぶして」, 「だっこしてほっぺにちゅ」,「ほっぺとほっぺ をぴったんこ」である。図1は母親と子どもで 行うものであるが,父親と子どものものもあ り,ふれあい行動の内容は異なっている。本稿 では,母親版を基礎にして各保育所でアレンジ したものを使用した。  ハッピー7カードの使用方法は,まず7枚の カードを点線で切り取り,裏返した状態にして 並べる。その中から子どもが1枚引き,出た ポーズを親子で実施するというものである。こ れはもともと保育所で配布して定期的に家に持 ち帰り,各家庭で楽しむ趣旨で実施されてい た。しかし,実際のところ,家に持ち帰って実 施する親子は一部に限られること,また家庭で 実施している親子はそもそも関係が良好である 場合が多く,家庭で実施していない親子にこそ 必要であると思われた。そのため,本研究では 保育所内で送迎時に全ての親子にやってもらう ものとして使用した。 2.対象園と事例収集の手続き  20XX年の10月にK県における83の私立保育 園で実施してもらった。実施にあたり,最低2 週間継続して行うこと,最初は先生と子どもで やってみせて,「園での取り組み」として,す べての親子が実践できるよう促すことを伝え た。  加えて,事前に各保育所の送迎時の事情に応 じて工夫して使用するように伝えた。そのた め,通常の使い方通りにした保育所もあれば, 送迎時だと慌ただしいため,予め保育者が実施 するふれあい行動を選び,日ごとにそれを変え て行うといった工夫も見られた。また,7つの ふれあい行動の数を減らして簡単にできるもの のみにして行う場合もあった。さらに,ハイ タッチなど,独自にやりやすいふれあい行動の カードを作成して用いた保育所もあった。  ハッピー7カードの実施後,各保育所で実施 にあたった保育者から,特に変化があったと感 図1 ハッピー7カード(母親版) も重要になるだろう。 親子が揃って保育者と会う機会としては、まず 毎日の送迎時が想起される。保護者支援を考えた ときに、送迎時の会話で保護者に何を伝えるかは 大きな配慮事項となっている(片山、2016)。近 年では送迎時の会話は、親子関係を支援する文脈 よりもむしろ、保育者が保護者との信頼関係を構 築することを主眼とすることが多い(廣瀬ら、 2015)。確かに、保護者対応の難しさが指摘され る昨今、送迎時は保護者との信頼関係を築くため の貴重な機会と捉えるのも無理はない。しかし、 送迎時の関わりは本来、保護者が子どもを認め、 子どもは保護者から認められて満足感を得られ るひとときを作るために行われるものではない だろうか(荒井、1997)。 そこで、本研究では、送迎時に親子関係を支援 することを主眼にし、後述するハッピー7 カード の取り組みを行った効果を検討することを目的 とする。 II. 方法 1. ハッピー7 カードと使用方法 数十年前に香川県PTA 連絡協議会で紹介され たもので、親子のふれあいを促すために使用され るものである(図1)。 カードにはそれぞれ親子で行うふれあい行動 が描かれている。7 つの行動は、「おでこにちゅ」、 「ほっぺにちゅ」、「おでことおでこをこっつん こ」、「だっこして」、「おんぶして」、「だっこして ほっぺにちゅ」、「ほっぺとほっぺをぴったんこ」 である。図1 は母親と子どもで行うものであるが、 父親と子どものものもあり、ふれあい行動の内容 は異なっている。本稿では、母親版を基礎にして 各保育所でアレンジしたものを使用した。 ハッピー7 カードの使用方法は、まず 7 枚のカ ードを点線で切り取り、裏返した状態にして並べ る。その中から子どもが1 枚引き、出たポーズを 親子で実施するというものである。これはもとも と保育所で配布して定期的に家に持ち帰り、各家 のところ、家に持ち帰って実施する親子は一部に 限られること、また家庭で実施している親子は関 係が良好である場合が多く、家庭で実施していな い親子にこそ必要であると思われた。そのため、 本研究では保育所内で送迎時に全ての親子にや ってもらうものとして使用した。 図1 ハッピー7 カード(母親版) 2. 対象園と事例収集の手続き 20XX 年の 10 月に K 県における 83 の私立保育 園で実施してもらった。実施にあたり、最低2 週 間継続して行うこと、最初は先生と子どもでやっ てみせて、「園での取り組み」として、すべての 親子が実践できるよう促すことを伝えた。 加えて、事前に各保育所の送迎時の事情に応じ て工夫して使用するように伝えた。そのため、通 常の使い方通りにした保育所もあれば、送迎時だ と慌ただしいため、予め保育者が実施するふれあ い行動を選び、日ごとにそれを変えて行うといっ た工夫も見られた。また、7 つのふれあい行動の 数を減らして簡単にできるもののみにして行う 場合もあった。さらに、ハイタッチなど、独自に やりやすいふれあい行動のカードを作成して用 いた保育所もあった。 ハッピー7 カードの実施後、各保育所で実施に あたった保育者から、特に変化があったと感じら れたことに関して、どのような変化があったかを 事例として提出してもらい、分析の対象とした。 3. 分析方法 -16-

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じられたことに関して,どのような変化があっ たかを事例として提出してもらい,分析の対象 とした。 3.分析方法  まず,レポートの内容を書き起こした後に3 名の分析者で熟読し,意味内容のまとまりごと にテキストを区分した。全部で149のテキスト となり,これらを分析単位とした。そして,次 の2つの方法で分析を行い,変化が起きた対象 とその内容の特徴について調べた。 (1)149のテキストごとに,変化が起きた対 象として,「子ども」,「保護者」,「保育 者」,「その他」のいずれに該当しているか を調べた。一つのテキストに複数含まれる 場合もあった。また,その変化を「良い」 「悪い」「変わりなし」に分類した。 (2)149のテキストに関して,それぞれの記 述内容をカード化した後,KJ法に準拠し て一次カテゴリー,二次カテゴリーに分類 する手順をとり,記述の特徴を示した。

Ⅲ.結果と考察

(1)変化した対象と分類  まず,ハッピー7カードを通して変化した対 象と内訳について述べる(図2)。子ども,保 護者の変化が多く報告された。テキスト内に は,親子がお互いに変化したという記述が多 く,双方向的な影響があったと思われる。保育 者の記述は少数であったが,いずれも保護者と 会話をしたり,向き合う姿勢に前向きな変化が あったようである。  どのような変化だったかについては,良いと したものが圧倒的に多かった。ただし,レポー トの性質上,良いものを抜粋して報告した者が 多かったことも推察されるため,留意する必要 はあるだろう。悪い,変化なしは少数であった (図3)。 (2)変化内容の特徴  次に変化の内容について,分析した結果を報 告する(表1)。   ま ず, 一 次 分 類 で は,「 受 け 入 れ の 変 化 (60)」,「子どもとの関わりの変化(37)」,「親 子の表情の変化(31)」,「親子以外の関わりの 変化」,「変化なし(6)」,「その他(6)」の6 つのカテゴリーに分類された。  続いて,二次分類では,受け入れの変化とし て,「スキンシップで機嫌がよくなる(27)」, 「離れるときの儀式になる(22)」,「カードを 求める子ども(8)」,「保護者と離れるのがさ みしくなる(3)」の4つとなった。次に,子 どもとの関わりの変化では,「子どもと関わる ときの言動の変化(15)」,「積極的に関わろう とする態度(11)」,「年上のきょうだい児のふ れあいの機会(8)」,「家庭での子どもとの関 わりの変化(3)」の4つであった。親子の表 情の変化では,「親子が笑顔(14)」,「子どもが 笑顔(10)」,「保護者がやさしい表情(7)」の 3つが挙がった。そして,親子以外の関わりの 変化では,「保護者と保育士との関わりの変化 (3)」,「保護者同士の関わりの変化(2)」,「子 の分析者で熟読し、意味内容のまとまりごとにテ キストを区分した。全部で149のテキストとなり、 これらを分析単位とした。そして、次の2 つの方 法で分析を行い、変化が起きた対象とその内容の 特徴について調べた。 (1) 149 のテキストごとに、変化が起きた対象と して、「子ども」、「保護者」、「保育者」、「そ の他」のいずれに該当しているかを調べた。 一つのテキストに複数含まれる場合もあっ た。また、その変化を「良い」「悪い」「変わ りなし」に分類した。 (2) 149 のテキストに関して、それぞれの記述内 容をカード化した後、KJ 法に準拠して一次 カテゴリー、二次カテゴリーに分類する手順 をとり、記述の特徴を示した。 III. 結果と考察 (1) 変化した対象と分類 まず、ハッピー7 カードを通して変化した対象 と内訳について述べる(図2)。子ども、保護者の 変化が多く報告された。テキスト内には、親子が お互いに変化したという記述が多く、双方向的な 影響があったと思われる。保育者の記述は少数で あったが、いずれも保護者と会話をしたり、向き 合う姿勢に前向きな変化があったようである。 どのような変化だったかについては、良いとし たものが圧倒的に多かった。ただし、レポートの 性質上、良いものを抜粋して報告した者が多かっ たことも推察されるため、留意する必要はあるだ ろう。悪い、変化なしは少数であった(図3)。 図2 ハッピー7 カードを通して変化した対象 図3 ハッピー7 カードを通した変化について (2) 変化内容の特徴 次に変化の内容について、分析した結果を報告 する(表1)。 まず、一次分類では、「受け入れの変化(60)」、 「子どもとの関わりの変化(37)」、「親子の表情の 変化(31)」、「親子以外の関わりの変化」、「変化な(6)」、「その他(6)」の 6 つのカテゴリーに分類 された。 続いて、二次分類では、受け入れの変化として、 「スキンシップで機嫌がよくなる(27)」、「離れる ときの儀式になる(22)」、「カードを求める子ども (8)」、「保護者と離れるのがさみしくなる(3)」の 4 つとなった。次に、子どもとの関わりの変化では、 「子どもと関わるときの言動の変化(15)」、「積極 的に関わろうとする態度(11)」、「年上のきょうだ い児のふれあいの機会(8)」、「家庭での子どもとの 関わりの変化(3)」の 4 つであった。親子の表情の 変化では、「親子が笑顔(14)」、「子どもが笑顔(10)」、 「保護者がやさしい表情(7)」の 3 つが挙がった。 そして、親子以外の関わりの変化では、「保護者 と保育士との関わりの変化(3)」、「保護者同士の関 わりの変化(2)」、「子ども同士の関わりの変化(2)」、 「祖父母との関わりのきっかけ(2)」の 4 つとなり、 変化なしでは、「乳児は変化なし(3)」、「やらない (3)」の 2 つに分けられた。 以下、一次分類ごとに内容を見ていく。「受け 入れの変化」では、「スキンシップで機嫌がよく なる」、「離れるときの儀式になる」に見られるよ うに、登降園がスムーズになるというものが多か った。子どもの気持ちになると、ハッピー7 カー 図2 ハッピー7カードを通して変化した対象 の分析者で熟読し、意味内容のまとまりごとにテ キストを区分した。全部で149のテキストとなり、 これらを分析単位とした。そして、次の2 つの方 法で分析を行い、変化が起きた対象とその内容の 特徴について調べた。 (1) 149 のテキストごとに、変化が起きた対象と して、「子ども」、「保護者」、「保育者」、「そ の他」のいずれに該当しているかを調べた。 一つのテキストに複数含まれる場合もあっ た。また、その変化を「良い」「悪い」「変わ りなし」に分類した。 (2) 149 のテキストに関して、それぞれの記述内 容をカード化した後、KJ 法に準拠して一次 カテゴリー、二次カテゴリーに分類する手順 をとり、記述の特徴を示した。 III. 結果と考察 (1) 変化した対象と分類 まず、ハッピー7 カードを通して変化した対象 と内訳について述べる(図2)。子ども、保護者の 変化が多く報告された。テキスト内には、親子が お互いに変化したという記述が多く、双方向的な 影響があったと思われる。保育者の記述は少数で あったが、いずれも保護者と会話をしたり、向き 合う姿勢に前向きな変化があったようである。 どのような変化だったかについては、良いとし たものが圧倒的に多かった。ただし、レポートの 性質上、良いものを抜粋して報告した者が多かっ たことも推察されるため、留意する必要はあるだ ろう。悪い、変化なしは少数であった(図3)。 2 ハッピー7 カードを通して変化した対象 3 ハッピー7 カードを通した変化について (2) 変化内容の特徴 次に変化の内容について、分析した結果を報告 する(表1)。 まず、一次分類では、「受け入れの変化(60)」、 「子どもとの関わりの変化(37)」、「親子の表情の 変化(31)」、「親子以外の関わりの変化」、「変化な し(6)」、「その他(6)」の 6 つのカテゴリーに分類 された。 続いて、二次分類では、受け入れの変化として、 「スキンシップで機嫌がよくなる(27)」、「離れる ときの儀式になる(22)」、「カードを求める子ども (8)」、「保護者と離れるのがさみしくなる(3)」の 4 つとなった。次に、子どもとの関わりの変化では、 「子どもと関わるときの言動の変化(15)」、「積極 的に関わろうとする態度(11)」、「年上のきょうだ い児のふれあいの機会(8)」、「家庭での子どもとの 関わりの変化(3)」の 4 つであった。親子の表情の 変化では、「親子が笑顔(14)」、「子どもが笑顔(10)」、 「保護者がやさしい表情(7)」の 3 つが挙がった。 そして、親子以外の関わりの変化では、「保護者 と保育士との関わりの変化(3)」、「保護者同士の関 わりの変化(2)」、「子ども同士の関わりの変化(2)」、 「祖父母との関わりのきっかけ(2)」の 4 つとなり、 変化なしでは、「乳児は変化なし(3)」、「やらない (3)」の 2 つに分けられた。 以下、一次分類ごとに内容を見ていく。「受け 入れの変化」では、「スキンシップで機嫌がよく なる」、「離れるときの儀式になる」に見られるよ うに、登降園がスムーズになるというものが多か った。子どもの気持ちになると、ハッピー7 カー 図3 ハッピー7カードを通した変化について -17-

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ども同士の関わりの変化(2)」,「祖父母との 関わりのきっかけ(2)」の4つとなり,変化 なしでは,「乳児は変化なし(3)」,「やらない (3)」の2つに分けられた。  以下,一次分類ごとに内容を見ていく。「受 け入れの変化」では,「スキンシップで機嫌が よくなる」,「離れるときの儀式になる」に見ら れるように,登降園がスムーズになるというも のが多かった。子どもの気持ちになると,ハッ ピー7カードによって,保護者とふれあうこと ができる機会が確保されていることが安心感に なっていると考えられる。また保護者の側もな かなか離れてくれない子どもに対して,心苦し さや焦燥感を持つことがなくなるだろう。  そこから,「子どもとの関わりの変化」が見 られる場合もあると思われる。「子どもと関わ るときの言動の変化」にあるように,お迎えの 時間に対して,子どもが思うようにならない時 間から,子どもがふれあいを喜んでいる時間へ と意識が変わることで,保護者の言動にも落ち 着きが見られるケースもあった。また,ハッ ピー7カードをきっかけに「積極的に関わろう とする態度」が生まれて,保護者のほうがむし ろ嬉しい時間と捉える様子も見られたようで あった。  保護者の関わりが変化すれば,「親子の表情 の変化」も見られるだろう。送迎時に「親子が 笑顔」を見せることも増えて,保育所全体にお いても,送迎の時間がほほえましい瞬間になっ たことも想像できる。  また,親子以外にも,「保護者と保育士」や 「保護者同士」の関わりにも少数ではあるが, 変化も見られたようであった。つまり,親子に とどまらず,保育所の全体的な関係性の変化に も寄与する可能性が示唆された。  一方で,「変化なし」もいくつか見られた。 まず,乳児の場合は普段から親子のスキンシッ プが取られているため,ハッピー7カードを実 施しても変化はないというものがあった。ま た,保護者に理解してもらえず,取り組んでも らえなかった事例もあった。このように,対象 とする年齢に応じた効果の違いや,実施しても らえない状況については,今回の調査では明ら かにできなかった。

Ⅳ.総合考察

 本稿では,ハッピー7カードを用いて,送迎 時に親子のふれあい行動を促す支援を実施し, その効果を検討した。保育所における送迎は, 親子が離れる,そして再会する瞬間である。し たがって,その瞬間にお互いが心地よい感情を 持てない場合,離れた後や再会して共に過ごす 時間における両者の機嫌や関係性にまで影響が 及ぶことが想像される。  しかし,保護者がせわしなく送迎を行うこと の多い保育所においては,送迎時にそのような 関わりを改善するきっかけを作るのは容易では ない。村山ら(2005)の調査によると,子ど ものことで保育者が保護者と話し合う機会は, 「週3日以上」,「週1,2回」を合わせても,40% の保育所に過ぎなかったという。送迎のスタイ ルが多様になっている実態の中で,改めて送迎 時の時間の持ち方と意義について議論がなされ るべきであろう。  本稿のハッピー7カードは,送迎時に子ども の機嫌を調整したり,保護者と対話したりする ものとは異なり,親子関係の質を変化させる きっかけを作ったアプローチであった。これ は,子ども,親の一方に関わるものではなく, 親子関係の質を変化させることが,親子それぞ れの適応に影響するという考えに根ざしてい る。  前述したように,実際の保育場面を考慮する と,親子が揃って保育者と対面する時間は少な い。したがって,実質的に「親子関係」支援と は,子どもと保護者に対して,それぞれを支え ることで,その結果として親子関係が改善され るという意味が含まれていると言えよう。しか し,本研究のように,送迎時における親子関係 の質を変えるきっかけを作ることで親子ともに 表情よく離れたり,再会したりできたことによ り,子育てにおける言動や態度にも肯定的な変 化が見られた。つまり,短い時間であっても,

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表1 ハッピー7カードを用いた変化内容の記述の分類 一次 二次 記述内容の例 受け入れの変化(60) スキンシップで機嫌がよくなる(27) 3歳児のMちゃんと4歳児のNちゃんは年子でいつもどちらかが登所するときに ぐずぐず言っていた。母は泣いたり離れようとしなかったりするとイライラして いる様子があった。一人が機嫌がよくても一人がぐずぐず言うので毎日無理やり 送り出している様子もあった。ハッピー7カードを初めて一週間くらいで「抱っ こしてー」と子どもが言うと母は笑顔で受け入れ、子ども達はぐずぐず言うこと なく母と離れられるようになった。抱っこして笑顔で保育所に行くようになり母 も登所時に笑顔が見られるようになり、子どもとのスキンシップを楽しめるよう になってきた。「このおかげで朝が楽になりました」と母は言っていた。 離れるときの儀式になる(22) 毎朝、お母さんと離れることがつらく、激しく泣く姿が見られる。少しずつ毎 朝、1つの約束事(動作)をしたらバイバイをするという流れも定着してきたよ うで、「今日もタッチして10抱っこしたらバイバイする」と気持ちを切りかえ納 得してバイバイする姿も増えてきている。このやりとりから7カード以外にも、 おうちでどうやってバイバイするのか約束事を親子の間でしてから登園する姿も あり、子どもの泣きを見て困っていたり不安そうな顔をしたりしていたお母さん も「しっかり約束を守ってくれています!」や本児の様子の変化を嬉しく感じて いることを伝えてくれる。 カードを求める子ども(8) 子どもたちのほうからカードをせがむようになる。2回したがる子が多くなった。 保護者と離れるのがさみしくなる (3) 母とひっついたあとに離れるのがさみしくなり泣いてしまうこともあった。 子どもとの関わりの変 化(37) (15)子どもと関わるときの言動の変化 母親は産後で現在仕事を休業中、年齢も若く子どもに合わすのではなく、すべて自分中心である。登園、降園時間もバラバラでほとんど朝のおやつ時には間に合 わない。お迎えに来ても笑顔がなく、一生懸命自分でくつをはいている我が子に も「もたもたするな」「早よくつはけ、ウザッ」と言い、子どもの目線に立つこ とはない。カード初日に説明すると「何、それ」と少し気が乗らないようだった。” 抱っこでギュッ” や” ホッペにチュー” のカードが出る率が多く、お互い最初は 恥ずかしそうだったが、毎日していくうちに自然に笑顔が増え、母親から積極的 に「はいおいで」とやさしいまなざしで抱っこしたりチューしたりしていた。子 どもに対して乱暴な言葉もかけなくなった。 積極的に関わろうとする態度(11) ハッピーカードをすることによって、本児の母親との関わりが増えた。母親が カードをどれにするか選び、本児の名前を呼びながらぎゅっとしたり、タッチし たりしていた。最初の方は保育者が声を掛けてカードの取り組みをお願いしてい たが、数日経つと、保育者が声を掛けなくても、母親自らカードを選び積極的に ハッピーカードに取り組んでくれるようになった。 年上のきょうだい児のふれあいの機 会(8) 大きい年齢や下の子がいる家庭では、「ふれあい」を持つ機会や下の子に対する我慢などできっかけがなく、今回のようなものが、ふれあいの一部となりきっか けとなっていた。 家庭での子どもとの関わりの変化 (3) 家でもハイタッチが増えた。 親子の表情の変化(31) 親子が笑顔(14) 子どもも保護者も表情が和らいでいた。保護者も子どもも笑顔で「いってきま す。」「いってらっしゃい。」を言うようになった。 子どもが笑顔(10) 4,5歳児クラスの子どもたちの中には口では「嫌やぁ。やめてよ」と照れくさ そうに言いつつも、実際にそのポーズをすると嬉しそうな顔になる子が何人もい ました。何ともいえないその笑顔が印象的でした。 保護者がやさしい表情(7) 時間がない様子でイライラした雰囲気であっても、タッチをするときにはやさし い表情となる。また、子どもの顔も見ずに行ってしまうこともあった保護者が、 顔を見て出かけるような様子になってきた。 親子以外の関わりの変 化(9) (3)保護者と保育士との関わりの変化 カードを通して、保護者との会話がより弾んだり、” いっぱい触れてほしい” という、声にならない部分の子どもの思いも間接的に保護者の方に伝える機会となっ たと思う。 保護者同士の関わりの変化(2) ほかの保護者ともほとんどかかわりのない方でした。今回もなかなかカードをひ こうとしなかったが、他の保護者の方がひいているのを見てハッピーカードをひ いてくれるようになりました。その内に他の保護者の方から話しかけられ、会話 をする様子もみられました。ハッピーカードを通じていつも以上に子どもさんと ふれあえたり、他の保護者の方と向き合えたと思います。 子ども同士の関わりの変化(2) お友だちが帰るとき扉のところまで行き、子ども同士が互いに手を伸ばしてハイ タッチして別れる姿が見られるようになりました。「また明日」と別れているよ うに見えるとともに手と手の触れ合いを楽しんでいるようにも思いました。 祖父母との関わりのきっかけ(2) 祖父母の送迎の世帯もある。孫と触れ合えて喜び「うれしい」との声もあった。 変化なし(6) 乳児は変化なし(3) 乳児(0・1歳ごろ)は常にお迎えがくると抱っこしていることが多いので、大 きな変化は見られなかった。 やらない(3) 保護者自身、スキンシップが苦手だったり面倒くさがったりして、なかなかハッ ピーカードの良さや意図を理解してくれませんでした。 その他(6) -19-

(6)

親子関係を変えるようなきっかけを与えるとい う発想を持つことも重要であると考えられる。  さらに,今回の研究では,少数ではあった が,親子以外の関わりの変化も報告された。保 育所が家庭さらには地域に開き,支えるという 位置づけを持つことを考えるならば,親子の二 者関係に留まらず,より広く生態学的な視点を 持つことも重要である。この点は,本稿で実施 したハッピー7カードの方法では不十分であ り,今後の課題といえるだろう。 引用文献 (1)荒井恭子(1997)登園時,降園時大切にした いこと.教育じほう,591,34-37.

(2)Cowan, P. A., Powell, D. & Cowan, C. P. (1998) Parenting Interventions: A Family Systems Perspective. Damon, Wi., Sigel, I. E. & Renninger, K. A (Eds.). (1998) Handbook of child psychology: Child psychology in practice, Vol. 4, 5th ed. p3-72. John Wiley & Sons. (3)廣瀬優子・和田上貴昭・乙訓稔・松田典子・ 髙橋久雄・三浦修子・長谷川育代・髙橋滋孝・ 髙橋智宏・髙橋紘(2015)保育所が行う家庭と の連携・協働プログラムの実証・研究―イベン トサークル等の調査―.保育科学研究 6,54- 63. (4)片山美香(2016)若手保育者が有する保護者 支援の特徴に関する探索的研究―保育者養成校 における教授内容の検討に生かすために―.岡 山大学教師教育開発センター紀要,6,11-20. (5)村山祐一・子育て支援に関する共同プロジェ クト(2005)保育・子育てに関する全国調査. 鳥取大学生涯教育総合センター. (6)大豆生田啓友(2006)支え合い,育ち合いの 子育て支援―保育所・幼稚園・ひろば型支援施 設における子育て支援実践論.関東学院大学出 版会. (7)太田光洋(2001)これからの保育内容―現代 社会の保育問題とこれからの保育内容―.太田 光洋編(2001)保育内容の理論と実践―生きた 子どもの姿をとらえる―.同文書院,189-190. (8)太田光洋・中山智哉・渡邊望・松尾麻紀・安 氏洋子・濱田尚志・山下文一・伊瀬玲奈・山本 直樹・那須信樹(2014)子育て支援施策の変遷 と日本保育学会年次大会における子育て支援研 究の動向.中村学園大学発達支援センター研究 紀要,5,13-23. 付記  本研究の実施にあたり,ご協力いただいた保 育所,及び親子の皆様に深謝いたします。また 分析にあたり,稲葉桃子さん,佐藤奈々さんに 協力をしてもらいました。ここに記して,感謝 申し上げます。

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