カウンセラーによる援助の独自性について
敦師、カウンセラーのロールプレイプロセスを通して
医師、敦師、カウンセ
内 原 香 織
要旨竹 森 元 彦
本論文では、医師、教師、カウンセラー3者のロールプレイのプロセスを分析することを通じ て、カウンセラーによる援助の独自性についての考察を試みた。分析の手法については、筆者が各 援助者にインタビューを繰り返し行い、援助者の意図やねらいを明確にしていく[仮説生成一検証] (下山、2001)によって、より事例に近い解釈を試みた。また、クライエント役は筆者が行い、そ こで得られた体験を、分析の手がかりとした。その結果、①カウンセラーという「役割」が、その 独自のあり方を規定していること、②カウンセラーは、「消極的態度」(菊池、2004)によって、ク ライエントの自発性を回復させるという独自の関わりを行っていることが明らかになった。さら に③筆者自身のクライエント体験を踏まえて、カウンセラーのあり方を検討した結果、[安心し て語れる場をつくること][感情に寄り添うこと]「自分との関わりを手助けすること」「意味が結 晶してくるのを共に待つということ」という独白のあり方が明らかになった。以上のようなカウン セラーの援助が、クライエントの感情体験を呼び起こし、眠っていたクライエント自身の「自然治 癒力」を高めることが明らかになった。最後に④方法論としてのクライエント体験の可能性とそ の限界について考察を加えた。 I はじめに 「心のケア」「心の教育」との言葉が広く一般 にきかれるように、心の問題への関心は高まっ ている。その中で、「心の専門家」である臨床 心理士への関心も高まり、臨床心理士の資格が 創設され、全国に養成大学院が設立されてき た。その活動も、敦育、医療、保険、福祉、司 法・矯正、産業など、幅広い領城で求められる ようになっている。 その中で、医療、教育、福祉の枠を超えた連 携は、重要な諜題である(北添他、2005)。し かし、それぞれの職種にとって当然であること 内原香織 竜雲メンタルクリニック 竹森元彦 香川大学教育学部 が別の職種では違っている場合、お互いの立場 を認識せずには十分連携は行えない(北添他、 2005)。よって、心理臨床家と他職種、それぞ れの独自性や相互間の異同を明確にしておく必 要がある。そのために、心理臨床家自身が「医 師と心理心象かとの違いは何か」「心理臨床家 でないとできないこと」など、その独白性につ いて自覚を持っておくことが必要であろう。 臨床心理行為の独自性について、氏原(2003) は、「心理臨床家でないとできないクライエン トに不可欠のサービス」とのべている。山中 (2003)は、「人びとの心のCOREに関わること」とし、医師との比較の中で、「手術を加えたり、 薬物を与えたり、あるいは単に手を触れたりす ることによって、患者の患部を取り去ったり、 痛みを軽減したり、なくしたり、機能を回復さ せたりといった、からだのCUREへの積極的関 与ではなく、…もっぱら、彼の語る言莱に耳を そばだて、聴き入るという、一見パッシブな スタンスをとり…かれらの『生』の根源にある 『尊厳』を守り、かれらの『実存』に徹底的にに ころのエネルギー』を送り続ける」ことである と述べた。成瀬(2003)は、「主体活動を援助し ようとする独白の活動分野」であるとし、一丸 (2003)は、「意昧ある関係を創造していくこと」 「治すことを目標としているのではなく、クラ イエントその人自身の人としてのこころの成長 を援助しようとする」ことと述べている。 心理臨床家の独白な姿勢として、山本(1995) は「受け身」の援助、耶ち、表に表れた行勁や 症状の意味に着目し、こころの世界を共感的に 理解する、人の成長・成熟を見守り、待ち、支 えるBeingの姿勢をもつ、指導ではなく心の内 面に目を向け自己に気づくことを大切にする援 助であると言う。菊池(2004)は「白発性のパラ ドックス」を乗り越えた、独自の援助であると し、「臨床心理行為は、相手の心を理解し、共 感し、解釈し、意昧づけるという、一見消極的 な行為であるからこそ、純粋に主体の存在その ものを援助することができる」と述べている。 また、心理療法における本質は何かという問 題の研究については、治療セッションにおける クライエントの体験こそが重要だとする考え方 が近年提唱されている(成瀬1988、吉良1997)。 それは「個々のケースの心理療法が進展する可 能性は、…その関係の中でクライエントにどの ように体験されるかにかかっている」(ロジヤー ズ、1951)からである。そこに、心理臨床家の アプローチを理解する困難さがあるが、小川 (1999)が「技法やセラピストのあり方は、個々 のクライエントの現実の体験を適切に把握し、 今望むべき体験を的確に道程することから工夫 され、配慮されていくもの」と指摘しているよ うに、クライエントの体験に着目し、その視点 −78 から、 ある。 臨床心理行為を論じていくことは重要で 本論文では、教師、医師、カウンセラーの面 接場面のロールプレイのプロセス分析を通し て、カウンセラーの独自性や専門性を浮き彫 りにすることを試みた。その際、「仮説生成− 検証」(下山、2001)プロセスを踏んだ研究法 を用いる。下山(2001)は、事例研究について、 事例の真相を解明することは容易ではないが、 その中で、より事例に近い(正確な)仮説を解 明していくためには、「データ収集→仮説の形 成→データ収集→仮説の修正」を繰り返し行な うといった、何度も仮説とデータ間を行き来 し、その妥当性を高めていく研究法が有用であ ると述べている。よって本稿でも、ロールプレ イ分析の際、筆者の分析と、援助者へのインタ ビューによる確認の作業を繰り返し行なうこと によって、より事例に近い仮説を描き出す方法 をとる。以上の手続きを踏まえて考察すること で、臨床心理行為の独自性を考えていくための 新たな研究方法の、ひとつの可能性を示すこと ができると考えられる。
n 方法
1 対象者、日程、場所
対象者:K県内の、対人援助の専門家9名。
(臨床心理士3名、小学校教員3名、
医師3名)各専門家は皆、10年以上の
経験を待つ
日 程:2005年7月、8月
場 所:臨床心理士と敦師は、香川大学内の研
究室・心理相談室、医師は、勤務する
病院の診察室
2 ロールプレイ実施の手続き
対象者に、初回面接のロールプレイとイン
タビューを行った。結果は全てテープに録音
し、逐語録とした。ロールプレイを行う際、対
象者には、それぞれ専門家としての立場で、普
段どおりクライエントに接してもらった。クラ
イエント役は全て筆者が行った。クライエント
役は、対象者の専門に合わせ、次のように設定
カウンセラーによる援助の独自性について した。カウンセラーとのロールプレイにおいて は、クライエントは、「不眠」を主訴とする20 歳の女子大生を設定した。敦師とのロールプレ イにおいては、生徒は、友人関係に悩む、小学 校6年生の女の子を設定した。また、医師との ロールプレイにおいては、患者は、腹痛を主訴 とする20歳女性を設定した。 また、ここでは[初回面接](15分)を記録し た。「初回面接」という設定を行ったのは、ク ライエントの理解をどう深め、それに対してど う関わり、関係性を形成するのかという、3者 の態度及びねらいが、初回面接において最も明 確に現れると考えられるからである。 ロールプレイの分析については、まず、筆 者が分析を行い、その後、各専門家にインタ ビューを行い、分析結果を確認してもらう。そ の際、専門家による一方的な修正ではなく、筆 者のクライエント体験を踏まえ、面接過程につ いての話し合いを行なうというスタイルをとっ た。そして、そこで修正された内容をもとに、 筆者が再び分析を行い、その結果をもとに再 度話し合いを繰り返す、という[仮説生成一検 証](下山、2001)の手法により、事例の全体 像を明らかにしようと試みた。インタビュー は、各援助者による援助行為の意図が明らかに なるまで行った。インタビューの回数は、カウ ンセラー:3.9回、敦師:2.7回、医師:2回であっ た(平均)。 1 結果 医師 以下、医師3人のロールプレイのプロセス分
析を行なう。援助者のインタビューの言葉は括
弧で示す。
【場面設定】
患者:20歳女性 主訴:腹痛
経過:3週間ほど前から、食後に、締め付けら
れるような痛みが2、3、時間ほど続く
ようになった。市販の胃腸薬などを飲み
つつ、3週間様子を見たが、治る気配が
ないので、病院を受診した。
(1)医師Gの面接 ①見立てに必要な情報を聞きとる Dn1 今日はどうされましたか? Pt.1 ちょっとおなかが痛くて(うん)。 Dn2 いつ頃から痛くなったんですか。 Pt、2 二週間くらい前から、食事をしてしばら くたつとキユツと、痛くなる。 DE3 食事をした後に痛くなるんですか。それ は、朝も昼も夜も? Pt.3 えっと、そうです。あんまり時間は関係 なくて。食べた後に。 Dn4 食前は、大丈夫? DdO下痢したりしますか? Dd3 ストレスがかかっているとか、そういう ことはありますか? 医師は、「正確な診断を下すために、患者の 状況をできるだけ正確に把握することに専念し ていた」。そのために、必要な情報収集を行っ ている。患者も、質問に答えることに集中して いた。②今後の治療方針を伝える
Dr.17今の場合は、二週間、症状が続いている
ということで、急激になにかしなけれ
ばっていうことではなさそうですけれど
も、二週間続いてるっていうことが、か
なり苦痛になっているので、その症状を
和らげていきましょう。今すぐ何かしな
ければっていうよりも、お薬使いなが
らっていうことにはなると思います。あ
とは、必要に応じて、どこまで検査をし
ていくかっていうことですよね。症状と
しては、過敏性の腸症候群みたいな状態
かもしれないし、慢性の胃炎みたいなも
のかもしれない、という感じですね。
71 政 分かりました、お願いします。 ここで医師は、問診で聞きとった情報をもと に、ある程度状態を見立て、患者に今後の対応 を伝えた。その際、「患者に納得してもらえる よう丁寧に説明を行うことに留意していた」。患者は、医師Gの問診の仕方や説明の仕方よ り、経験の豊かさを感じ、診察内容に納得して いた。 (2)医師Hの面接 ①見立てに必要な情報を聞きとる Pt.1 腹痛がひどくて来たんですけれども。 Dr. 1 Pt.2 Df.2 Dr.3 Dr.4
はい。どのあたりが痛いんですかね。
胃のあたり。
みぞおちのところですねえ。
いつ頃からですか。
ごはんとはあんまり関係ないですか。ご
飯食べたら痛いとか、おなかがすいた
らいたい、ですとかね。ご飯食べたらか
えって痛みが治まるとか。
医師Hは、患者の症状、これまでの既往歴な どの情報を出来るだけ詳しく訊き、患者の状態 を見立てようとした。その際、医師Hは、「い ろいろな情報を聞き出し、正確な診断を下す ことに、神経を集中している」「それ以外には 気を遣っていない。患者にどう関わるかという ことについてはほとんど意識を回していない」。 医師Hはずっとうつむいたまま問診しており、 患者は素っ気無さを感じていたが、あくまで医 師を「専門家」として見ていたので、特に気に ならなかった。 ②診察に導人する DE21 じゃあ、診察してみましょうか。 Pt.21 はい。 医師Hは、必要な診察、検査が終わってから 患者に説明を行うということであった。ロール プレイでは説明部分は演じられなかったが、後 のインタビューでは、「きちんとお話をきいて、 検査をして、正確な診断を下します。医師は結 果を患者さんにきちんと説明してあげ、治ると いうことを保障してあげなくてはならないと思 う」と説明している。 −80 (3)医師|の面接 見立てに必要な情報を聞きとり する Dr, I Pt.1 Dr.2 Pt.2 Dn4 DE6 Dr。9 診察に導入 今日はどうされましたか 二週間くらい前からおなかが痛くて。 二週間前から。どんな痛みですかね。 胃の辺りが、締め付けられるように痛い んです。 どんなときに痛いですかね? なるほどね。どんなものを食べたとき に、その痛みがある、とかありますか? そうですねえ。聞いた限りでは、胃潰 傷、もしくは十二指腸潰傷だと思われま すが、診察をしてみましょうね。Pt.9 診察?
DdO使を調べてみたり、血の検査をしてみた
りしてみます。心配ないとは思います
けれども、念のために悪いものがないか
どうかを調べるために、胃の検査もしま
しょう。
ここでは、医師G、Hと同様、「正確な診断
を下すための情報収集」を行った上で、患者を
診察・検査に導入しようとした。
(4)医師のロ一ルプレイを通しての考察 ロールプレイより、医師の面接方法は、3者 共、ほぼ共通していた。 3者共に、「正確な診 断を行う」ことを目的とした面接を行っていた。 そのため、面接場面では、「いつごろから?」 「どのあたり?」「食事の前?」など、専門知識 を使った質問によって必要な情報を集め、症状 の原因を探り、その結果や見立てに基づき、指 示的なアドバイスや今後の治療方針を伝える という方法をとっていた。これは、「医師から 患者へ」の一方的なやり取りである。カウンセ ラーや教師とは異なり、関係性にはほとんど気 を遣わないという。 カウンセラーであれば、患者に「質問に答え てもらう」という関わり方ではなく、もっと患 者自身の語りを促し、患者個人が感じる心の痛 みに着目していたと思われる。もちろん、身体カウンセラーによる援助の独白性について
的な情報については聞いておく必要があるが、
それはあくまで身体的問題がある場合、医療に
つなぐためであり、本来は、身体的な問題の有
無を確認した上で、身体的な問題の背後にあ
る、個人的な気がかりや問題を幅広く聞いてい
く面接になっていたと考えられる。
この相違は、医師が、その役割上「病気を治
療するための正確な診断」を目的とした面接を
行っていたからだと考えられる。
2 教師のロールプレイ分析
以下、敦師3人のロールプレイのプロセス分
析を行う。
【場面設定】
生徒:M(小6女見)
主訴:友達関係がうまくいかない
経過:6年生になってから、今まで仲のよかっ
た友達に避けられているような気がす
る。これまでは何とか我慢してやってき
たが、耐え切れなくなり、担任教師のも
とに相談に来た。
(1)教師Dの面接 ①生徒の現状を確認する Te St. Te 1 1土 2 St.2 Te.3 St.3 le.4 どうしたのかな。 なんか、友達に避けられてる気がする。 うーん する? 例えばどんなときにそんな気がうーん。
友達と一緒に遊んだりする時、「これが
いいわ」とかいって意地張ったりとか、
そんなことはない?
うん。そんなことしたらますます嫌われ
そうだからしてない。
うーん。そっかあ。女の子ばっか
な。男の子は?
X M I 刀 り ここでは教師Dは、生徒の状況をできるだけ 正確に把握し、問題が起こった原因を探ろうと した。親身になって質問し、問題の原因を探る という作業を行いながら、生徒の気持ちを受け 入れ、真摯に対応することで安心、リラックスしてもらうことを、心がけていたという。生徒
は、教師がいろいろと白分のことについて質問
してくれることに対し、「この先生なら、自分
の味方になってくれそう」と心強さを感じた。
②解決の困難さを踏まえ、教師としてできる対 応を提案する Te、21多分解決というか、Mさんがもっと楽し く学校に来られるような方法はあると思 引ナど、今の時点では、先生にはまだ、 「じゃあ、こうしたらええ」とは言えん。 Mさんも、自分では、友達に合わした り、気遺いしておるのに、そういう状態 になるんやったら、Mさんが気づいてな いところで、友達がなんか思ってるよう なことがあるんかもわからん。 St、21 うーん。 le.22先生も、他の子の様子を見たり、それと なく話を聞いたり、全体的な感じで、女 の子同士でどんな感じ?というようなこ とをお話してみようか。ひょっとした ら、Mさんが、悩んでることを解決す る鍵が出てくるかもしれんから(うん)、 MさんはMさんで、もし白分が、学校来 て友達といろいろしてる中で、こんなこ とはよかったわ、うまくいったわ、こん なときにうまくいかんかったとか、いう ことを、また、先生にこうやって話して くれてもいいし。そんな感じで、何回か お話してみる?敦師Dは、「生徒の話の中からは原因は分か
らなかったので、いい加減なことを言っても
しょうがないと思い、今の時点で何ができるか
を伝えようとした」。ここでは、①問題理解の
ための情報収集をしていくこと、②生徒にも主
体的に勤いてもらうため「うまくいったこと、
いかなかったこと」についてお話しする場とし
て面接を設定すること、の2点を提案してい
る。
③学校内に生徒が悩みを相談できる環境を作る
Te.24お父さんお母さんは?
St.25 2人共働いててあんまり帰ってこない。
le.25そっか。お姉さんや妹さんはいないの?
St.26 うん、1人弟がいるけど…。
Te.26そっか。・・・今こうやって先生のところに
話しに来てくれたから、先生はそれがす
ごく嬉しいし、Mさんが悩んでることも
よう分かったから、(うん)ちょっとで
も楽になるように(うん)先生も考えた
いと思うし、まあ、Mさんも、関係の中
で変化があったら(うん)それを先生に
話してくれたらいいと思う。(うん)も
しくは時期を見て、他の子にも話をもっ
ていったらいいかなとは思う。まあ、そ
れは、あなたと相談しながら、(うんう
ん)先生が独断でしたりはせんから(う
ん)。先生はおっさんで、あなたは女の
子やから、例えば、女の先生に話を聞い
てもらいたいんやったら、隣のクラスの
先生に話を聞いてもらうとか、保健の先
生に聞いてもらってもいい。
教師Dは、生徒を助けてくれる環境があるか
を確認した。今回は、生徒が家族に相談しにく
いことが理解されたので、まずは、教師自身と
の関係を中心に、学校全体で援助できる環境づ
くりを試みている。これは同時に、生徒が主体
的に解決のために動けるようにするための環
境づくりでもあった。また「来てくれたこと自
体嬉しい」(
26)と伝えることで、相談しや
すい雰囲気作りにも留意していた。生徒にとっ
ては、友人関係の中で抱いていた「ひとりぼっ
ち」の辛さを緩和してくれる対応であった。
(2)教師Eの面接 ①生徒の気持ちに寄り添いつつ、現状を把握す る le.2 どうしたんかな? St.3 なんか、最近嫌われてるような気がし て。友達とうまいこといかなくて、どう したらいいのか分からなくて。 82 Te.3 St.4 le.6 St.7 Te.7うんうん。友達とうまいこといかん、い
うんは、何かそういうことがあったん?
うん。なんか、なんかね、あの、普通は
結構伸良く話したりしとんやけど、なん
か、どっか行くとか、それとか、遊びに
いく計圃とか立てるときは、いっつも私
がおらんとこで計圃とかしとるし
その時、その子たちに、「いつそういう
約束したの?」とか聞いたことないの?
うん、聞いてない。聞けなくて。ただ、
みんなが、この前こんなところ行ってお
もしろかったねとか、話してて、知らな
くてショックだった。
他にはそんなこと、嫌やなあとか、辛い
なあいうこと、なかった?
教師Eはまず、生徒の訴えを聴く態度によっ て、生徒が安心して相談できるような関係を作 ろうとした。その上で、できるだけ多くの情報 を得、現状を正確に把握しようとした。②友達関係の中で問題解決していくためのきっ
かけ作り
Te.19今、やっぱりもやもやしとると思うか
ら、一番話しやすいKさんに、今こんな
気持ちなんだけど、もし、私のことで何
か思ってることがあったら言って、みた
いなことは、聞いてみてもいいかもね。
なんか、自分が気づかないところで向こ
うが誤解してたりとか、そんなつもり
じやなかったのに、言ったことが誤解さ
れて、ちぐはぐになってるんかもしれん
し。もし聞いてみて、誤解が解けて、お
互いすっきりしたら、(うん)よくなる
かもしれんしね。
St.20 どんな風に聞いたらいいんかなあ。
Te.20そうやね。これまでMさん考えて、思い
当たることなかったなら、正直に私一
生懸命考えたんやけど、(うん)どうし
ても思い当たらんから、もしかしたら、
私が自分で気がつかんうちに、嫌なこと
しとったり、言ったりしてたかもしれん
カウンセラーによる援助の独白性について
から、そういうことがあったら、何でも
言ってほしい、みたいに(うん)言った
ら、ひょっとしたら、何か見えてくるか
もしれんと思うんだけど。
St.21 うーん、そうかなあ。
Te.28帰りに、今日一緒に帰りたいんやけどっ
て誘ってみて2人になれたら、その時、
聞けたら、聞いてみよう。でも、聞けな
かったら、悩まんと、またいつでも来て
くれたらいいから、またその時考えよ。
教師Eは、今考えられる解決策を生徒に伝
え、生徒の「やってみようか」という気持ちを
促し、それを支えるような応答を行った。この
関わり方には、「6年生になれば、友人関係が
うまくいかなくなった時、自分の思いを白分
で相手に伝えられるようになることが大事」と
いった、教師Eの教育観が現われている。敦師
Eは、この教育観に沿って、生徒が今できそう
なことを判断し、あくまで「生徒がその課題を
行なえるだけの力があるか否かに、常に注意を
払いながら」、それを生徒に伝えていたのであ
る。生徒は、敦師Eの提案に対し、半信半疑で
はあるが、生徒にとって教師は「よい知恵を出
してくれる」存在であり、その方法で試してみ
れば何とかなるかもしれないとの気持ちになっ
ていた。
(3)教師Fの面接
①生徒の苦しさに触れる
St.5 普通にみんなと話したりもしとるんやけ
ど、鏝近みんな冷たいような気がする。
このままやったら、嫌われて、一人に
なってしまいそうな気が、するん。
le.5 うーん、そっか…。それは、しんどいと
思うわ。
St.6 今度、班分けがあるんだけど、一人だけ
仲間はずれになったら、すごい嫌で。そ
の前に、どうしたらいいかなと思ってき
たんだけど。
恥。6 うーん、そうやなあ。みんなが冷たい
の、何か思い当たることはあるの?
St.7 Te.7 なんか、何でかよ な遊びに行くとき れんし。 うわからんのよ。みん とか、私だけ誘ってく うーん。そんなんが、何回もあるん?敦師Fはまず、生徒の現状を聞こうとした。
その際「今までしんどい思いをしてきた生徒を
ねぎらうような応答を行なうことで、生徒に少
しでも安心してもらい、話しやすい場を作る」
ことを心がけていたという。生徒はこの時、敦
師の一生懸命に状況を理解しようとする姿を見
て、「この先生なら力になってくれそう」との
期待を抱いた。
②生徒とー緒に悩む le.14 うーん。そうやなあ。 どうしたらいい かなあ。 うーん。・・・まずは、Mさんが、 ちゃんと話も聞いてるし、友達のことも 考えているから、そんな悪いところはな いと思うから、まずは、できそうだった ら、気持ちを伝えてみてもいいかもしれ んけど。 St.15 他の方法だったら、どんなのがあるかな。 Te.15代わりに先生が聞いてみてもいいけど。 St.16 うーん。 敦師Fは、何とかして問題解決の方法を、考 えようとしていた。「これまでのやり取りの中 で生徒から得た情報や、教師自身のこれまでの 成功経験をもとに、今自分が手助け出来そうな 方法を考え、生徒に提案した」。その際、[無理 強いはせず、生徒が納得できる方法を考えよう とした]。このやりとりは、生徒にとっては、 敦師と悩んでいるという感じであった。 ③次第に生徒の動きが出てくる St.30 先生、それいつするん? le.31 じやあ、明日でも。…今日?できたら。 早い方がいいかな。 St.32 うん。早い方がいい。 le.32 しんどいもんね。気分がしんどいもん (うん)。 83−St.33 うん。分かった。じゃあお願いします。 Te.33 うん。いつでも。いつでもどうぞ。
生徒は話し合いの中で、次第に教師の助言を
受け入れるようになっていた。敦師はそれを受
け、「解決できるかどうかは分からないが、生
徒が辛い思いをしているので、できるだけ早く
何かしてあげないと]と思い、早く何らかの具
体的対策をとろうと試みた。生徒は、何とかな
るかもしれないという期待のもと、一旦教師に
任せてみようと決めた。
(4)教師のロールプレイを通しての考察 教師Dは現状を把握し、解決のための糸目と して、学校内での支援体制を作ろうとした。そ のため、「たとえば、どんなとき?」(Te.2)な ど事実関係を把握するための応答が多い。も し、カウンセラーであれば、例えば生徒の「避 けられている気がする」(St.1)という言菓に 着目し、生徒の圭観的な苦しさを聴くような応 答を行っただろう。また、敦師Dは「お父さん お母さんは?」(Te.24)という、生徒の周囲に 支援的な環境があるか否かを問う質問もしてい たが、あまり家庭の事情には踏み込まず、鍛終 的には学校内での支援ができる体制作りを試み ていたことも特徴である。カウンセラーであれ ば、生徒の日常生活や両親の話題が出た場合、 もっと詳しく聞き取っていったと考えられる。 この対応の相違は、敦師Dの、クラス担任と いう役割と関係していると思われる。敦師D は、役割上、日常的にクラスの生徒全員と関 わっており、クラスの状況や生徒同士の人問関 係も把握している。そのため、相談に来た一人 の子倶だけへの関わりではなく、クラスの人間 関係全体を視野に入れた支援が必要であったと 考えられる。今回の本児のような、日常のクラ ス内での対人関係トラブルについては、できる だけクラス内(学校内)で解決することを目的 とした関わりを行おうとしていた。 教師Eは、「白分の思いを伝えられるのが大 切」という教育観に従い、友人関係における話 し合いを提案した。例えば、「その子達になん か、『いつそうぃう約束したの』とか聞いたこ とないの?」(Te.6)との質問によって、「自分 で気持ちを相手に伝える」ことが大事と暗に示 している。そして、「一番はなしやすいKさん に…聞いてみてもいいかもね」「誤解が解けて、 お互いすっきりしたらよくなるかも」(Te.19) と具体的な案を提案して、生徒の「やってみよ うか」という気持ちを促している。この場合、 カウンセラーであれば、例えば「ショックだっ た」(St.7)との言葉に着目して、具体的なし んどさや辛さを聴いていくと考えられる。ま た、ここで一番話しやすいと言われているKさ んについても[K子さんはどんな子?]「Kさ んに話したことある?」などの質問によって、 この生徒の個人的な人間関係、その中での苦し さを共有しようとしたと思われる。この相違 は、カウンセラーが‘目の前にいるその生徒’ヘ の個別的な関わりを行おうとするのに対し、敦 師Eは、[敦育者]の立場から、生徒に年齢に 応じた人問関係の持ち方を「敦える」という使 命感を持っていたためだと考えられる。 教師Fは、「しんどいと思う」と生徒のし んどさをねぎらいながら、「生徒と共に悩む」 態度をとっていた。[どうしたらいいかなあ] (Te14)と素直に悩み、いくつか解決法を提案 したものの「無理強いしない」と、あまり積極 的に解決しようとはしていない。しかし、その ような積極的アプローチをとらず、悩みながら 関わるといった態度が、生徒にとって「それい つするん」(St.30)「早いほうがよい」(St.32) と自分なりに方法を考えるといった、自発的な 行動につながっている。「いつでも、どうぞ」 と、生徒自身が白分から相談できるように援助 をしている。カウンセラーであっても、同様 に、「わからない」「あなたならどうしたらよい と思いますか」などと、生徒が考えている方法 を探り、それを支持し、生徒の主体性を回復し ようと試みたであろう。しかし、教師Fの場 合、意図せず、生徒が自発的行動へと導かれて いたと考えられる。 −84−カウンセラーによる援助の独自性について
3 カウンセラーのロールプレイ分析
以下、カウンセラー3人のロールプレイのプ
ロセス分析を行う。
【場面設定】
生徒:20歳女子犬学生 主訴:眠れない
経過:3週問ほど前から眠れない。寝ようとす
ると大学のこと、バイトのこと、いろい
ろ考えてしまう。精神的なものが関係し
ているかもしれないと考え、学生相談室
に来談した。
(1)カウンセラーAの面接 ①面接の枠組みを確認し、自由に語ってもらう よう提案する C0.2 じゃあまあ、夜が眠れないということ、 それにまっわることを話せる範囲で話し ていただくことになるんですけれども。 あの、ここでの心理面接は、おおむね50 分ということですので、また、その時間 が来たら、お知らせしますので。あなた のお話したいように話していただいて。 CI.3 はい。私、結構忙しくしていて、夜も とっても疲れているんですけれど、い ざ、寝ようとすると(うん)、どうして も目が冴えてしまって(ふうん)、で、 2時がきても、3時がきても(ほおー) 眠れないという、そういうのが毎日続い て、昼間は身体がしんどいし(うーん)、 どうしたらいいのかなと思って、 相談に来たんですけれども。 今日ご C0.4 まあ、そういう不都合が起こったときっ ていうのは、自分なりにどういうことか ということを、思いめぐらせると思うん ですけれども、何か、こう、こういうこ とが影響しているんじゃないかみたい な、何か、思い当たることっていうの は、おありになるんですかね。 カウンセラーは、まず、心理面接の枠組み (時間)を設定した上で、クライエントの自由 な語りを促す応答を行った。そして、その後の クライエントの様子から、「クライエントが白分の問題について考えられるだけのレディネス
があるか否かを見立てた上で、話を深める応答
を行なった」。
②感情の背後にあるクライエントの文脈を一緒 に考える C0.8いつも順調というわけではないけれど も、そこそこやれてきたんだけど、ここ のところ、眠れないこともさることなが ら、気分が落ち込むことが、少なくない というか。 C1.9 うーん。そんな日は家にこもっていた いとか、思ったりもするんですが、や らないとダメなときは、無理してでも出 て行くんですが、なんかこう、やる気が なくなってしまうというか。みんなに、 ちょっと相談すればいろいろ助言はくれ るんですが、めんどくさいというんじゃ ないけれども、どうしてもする気がしな いという。 C0.9落ち込むし、意欲も大分落ちているなと いうか。 CI、10 はい。‥・なにかな、とか思いながら。 C0.10こう、もう何か、白分でも、何が起こっ ているんだろうといったような。そん な、戸惑いみたいなのですかねえ。 カウンセラーは、訴えの背後に何があるの か、クライエントと一緒に考えていこうとし た。その際、特徴的であったのが、カウンセ ラーが、クライエントの感情に着目し、その 「感じ」を辿りながら、今の状況を描き出そう としていたことである。クライエントは、自分 の感覚を手がかりとしながら、自分の気持ちを 語っていた。 C0.10における「何が起こっている んだろうといった…戸惑いみたい」(C0.10)と の応答は、白分で白分が分からないことに戸惑 いを感じているという、今の自分のあり方に気 づかされた。 ③比喩的にイメージを捉えなおす C0.12現実にねえ。特にさしさわりがないのにも関わらず、なんかこう、渋滞している というか。まあ、車で言ったら、なんか プスンプスンとエンスト気味というか。 CI.12なんか、抜け殼になってしまっているよ うな気がして。あんまり友達と飲みに 行ってもおもしろくないし、どうしたも のかなと思って。…特に何があるってい うわけでもないんですけれど。 Coj3まあ、今のところはちょっと無理すれば 何とかなったけど、これがちょっと長引 いたら、これはちょっと現実にもさしさ わりが出てくるし。といったところです かねえ。 CI.13 なんかそんな気がします。どうしてもや らないことだけはやっているんだけど、 今の学部で勉強を続けてても、なんか実 りがないという気がして。時々気分はす ごく焦るんですけれども(うん)。焦っ CO てばっかりで、前に進めないというか。 14このままいこうとすれば、うーん、なん とかまあ、いけなくもないけれども、今 のまま、今の勉強を続けて行くというの もあるんだけど、白分の特徴とか、あ の、考えてみると、なんとなく合ってい るのかなというような。気がかりがある という。
ここでカウンセラーは、クライエントの「戸
惑い」(C0.10)の気持ちに寄り添いつつ、その
感情の質や内容について理解を深めようとし
た。そのため、比喩を用いてクライエントの感
情を表現するなど、より感情に触れやすい応答
を行っている。
自分自身の感情や感覚を辿りながら語ること
によって、クライエントは、白分の内でずっと
くすぶっていたにも関わらず、これまで真剣に
向き合うことのなかった「今のままでよいのか」
という課題に少しずつ触れ始めている。
④感情の明確化とここで話しうる面接目的の提
案
C0.18最初来られた時には、まあ、夜2時3時
86 まで眠れないということだったですけれ ども(はい)、ちょっと今は、こう気分 が沈み込んだり、ちょっとそうぃうのが しばしば起こるようになってくる、意欲 も全体に落ちているし(うん)というか、 だからなんかこう焦るし、みたいなんで すけれども、なんかこう、いろいろ、あ る、という感じですね。 C0.20ということで、そろそろ時間なんですけ れどもね。お役に立てるかどうかってい うのは、まあ、保証はないですけれど も、自分に何が起こっているんだろうか とか、どうしたらいいんだろうかという ことは、一緒に考えたりすることはでき そうなんですけれども(はい)、継続的 に相談に来てみてもよければまた、時間 をお約束しますけれども。 ここでカウンセラーは、今回の内容を整理 し、今の時点で理解できたこと、今後ここで話 しうる面接目的をクライエントに提案してい る。(2)カウンセラーBの面接
①事実の確認とその背景にある感情への焦点化
C0.2結構疲れているけど、眠れない、という
感じで。いつごろから、なんですかね。
C1.3 えっとー、それが、一ケ月半くらい前、
一ケ月半からニケ月くらい前。
C0.3 はあ。ニケ月くらい。
CI.4 うん、昼間がちょっと、しんどくて
C0.4昼間がしんどい。授業とか、出られてる
んですかね。
CI.5 授業は、出てますが、ほんとに必要最低
限ですね。なんか、あんまり、授業出る
気がしない。でも、行かないといけない
授業は、頑張って。ほんとに犬事なのだ
け出てるというか。
C0.5あの、昼間、もうひとつ、出るのは、
おっくうな感じがするんですかね。
CI.6 うーん、そうですね。なんか、あんま出
たいと思わない。
カウンセラーによる援助の独自性について
C0.6出たいと思わない。学校自体、こう、あ
んまり行きたくない感じですかね。
CI.7 友達とは、そこそこうまくやってるし、
授業も普通に。単位もとれてるし。で
も、なんか、やる気が出ないというか。
クライエントの眠れないとの訴えを受けて、 カウンセラーは、「いつ頃からか」(C0.2)「授 業に出られているのか」(C0.4)など、事実娘 認をしている。その際「おっくうな感じ」(Co. 5)「やる気が出ない」など、背景にあるクラ イエントの感情に寄り添いながら応答を行って いることが特徴である。 クライエントも、カウンセラーの応答を受 け、自然と自分の感情に目を向けながら状況を 語るようになっている。 ②クライエントの感情体験を共に辿る C0.8夜、眠れないというのは、いろんなこと 考えてしまう。で、どんなことを考える んですかねえ。 C1.9 私、文学部なんですけれども、周りの 友達とかは国語の先生になったり、そ ういう目的で来てる人が多くて。私はそ んな、何かしたいと思って入ってきたわ けじゃないので、このまま何となく進ん でいっていいものだろうかと思ったり。 で、考えてると、むなしくなって。みん なはちゃんとやりたいことがあるのに、 自分だけが置いてかれたような気がして イライラしたり。頭の中、そういうこと がぐるぐる廻って、眠れない。 C0.9 ああ、いろいろ自分のまあ、位置ってい うか、充実感っていうか、なんかこう、 何しているのか分からないような感じが あるんですかね。 CI.10 そうですね。何してるのかわからない。 こんなんでいいのかなという。 C0.10こう、自分のやってることの意味という か(うん)、なんかこの大学に来てやっ てることが、ちょっとピタっとこないと いうか、うーん、そういう不一致みたい な感じがあるかなあ、という感じなんで すかね。 C0.13うーん、夜、考えてしまって、寝られな いというか、いらいらしたり、不安に なったりとか。堂々巡りしてる感じが出 てきてるのですかねえ。 CI.14そうですね。友達にも相談したことが あったんですが(うん)、周りの人たち は、合わないと思うなら、他の学部を見 に行ったらとか、先生方に話を聞きに 行ったらとか助言をしてくれて(うん)。 その通りだと思うんです。でも全然やる 気がしない。で、助言があっても何もで きないということが続くと、落ち込む。 C0.14助言があっても動けない、というところ で、自分が変われないので、まあ罪悪感 を持つというか。なんかこう、自分で自 分をうまく、コントロールできないとい うか、そういう感じは、ひょっとした ら、持たれるかもしれないですね。 ここでカウンセラーは、クライエントの気待 ちに寄り添いながら言葉にしていくことで、ク ライエントの感情体験を共に辿っていこうとし ている。 ③面接目的の提案 C0.20まあ少しあの、ほんとのところを、聞い てくれる場所があると、まあ少し、抜け る部分もあるんじゃないかなあとは思う んですけど、うーん、お父さんも、ま あ、事情は分かるけど頑張りなさい。と いう感じですね。 CI.21頑張れというか、うーん、一般的な答 えというか、すごい侵しいんですけど、 いっつも話聞いてくれるんですけど、… そうですねえ、話しづらいですね。 C0.21こう、なんていうかね、生活しづらさと かね、あと、お父さんへの話しづらさ、 お母さんへの話しづらさというか、なん かそういう、フィットできるという感じ が、生活全般にも、もう1つなくて、気 −87−分的にね、ちょっとこう、落ち込まれる
というか、上手くいかないなという感じ
が、大分たまっているなという印象は、
あるかと思うんです。
C0.22まあ、眠れないことだけに関して言え
ば、あの、抵抗なかったら、心療内科と
か、軽いお薬なんかもあるんですけれど
も、ま、それも程度によるし、ご自身が
納得してということが大前提なので。
…今日は少し、あの、話しづらさという
かね、ちょっと、づらさがあるな、と。
自分との話しづらさ、友達との話しづら
さ、友達は一生懸命やっているのに、自
分はちょっと違うんじゃないかとかです
ね、そういうことを、お話する場とし
て、ここをちょっと使っていただくとい
うのも一つの手かと思うんです。
カウンセラーは、クライエントが大学生活に 対する不仝感や葛藤について、周囲に安心して 相談できる人がいないということ、一人で気持 ちを抱えなくてはならない苦しさに焦点を当て た応答を行っている。そして、クライエントに 「上手くいかない感じ」(C0.21)「話しづらさ」 (C0.21)がありそうだということを伝え、面接 を、安心して話せる場として使ってもらうこ とを提案した。ここでは、カウンセラーには、 「話ができる場を作ることで、少し変化が起 こってくるかもしれないとの意図があったとい つ。(3)カウンセラーCの面接
①クライエントの目を内的感情体験に向ける
CI.5 眠れなくて、どうしたらいいのか、
ちょっと分からなくて(うーん)。友達
に聞くと、精神的なものかもしれないと
いわれたので、来たんですけれど。
C0.5友達に相談してみたんやね(はい)。精
神的なものかもって言われたんやね。そ
ういわれて、どんな風に思いました?
C1.6 うーん、なんかよく分からないんですけ
ど(うん)、ストレスがたまっているの
C0.6 CI.7 かなーと。ちょっと思って。(うん)で も、ストレスっていっても、そんな大そ うなことでもなさそう…だし。 うんうん。ストレスっていっても、大そ うなものではなさそう… みんなおんなじように悩んでると思うか ら。(うーん)〈沈黙45秒〉とりあえず、 この眠れない状況をなんとかしたい。そ したら、体調もよくなって、なんとかな るかなあと。 C0.7 …とりあえず、眠れるようになったら 解決するかなと。 C1.8 C0.8 CI.9 うーん、寝ようとしたら、いろんなこと がぐるぐる頭の中をまわって。それでど んどん目が覚めるという感じで。 うん。 気になって気になって、 る。(うーん)。毎晩、早 うんですけど。 く目が冴えてく
寝たいなと思
C0.9寝る前に、いろんなことが、頭の中をぐ
るぐるまわってしまう。考えてることっ
て、自分の中で気になっとることだと思
うけど、もしさしつかえなかったら、ど
んなことがぐるぐるまわるか、教えても
らえるやろうか。
カウンセラーは、「まずは主訴についてクラ
イエントにしっかりと語ってもらい、主訴を正
確に把握し、クライエントが主訴の背後にある
内的な問題について、どの程度主体的に取り組
む用意が整っているのかを確認した上で、クラ
イエントが内面に目を向け、語ることを促す応
答を行った」。
②内的感情体験を共に味わう
C0.13やりたいことがはっきりしない自分が情
けなくなってくるんやね。
CI −88− I 4そんな深いところまで相談もできない し。あんまり言うと、「自分がない」み たいな感じで言われそうで。周りは頑 張ってる人が多いから(うん)、「そんな んじゃいかんよ」、みたいな感じで言わカウンセラーによる援助の独白性について れたりするから、なかなか相談とか、 んまり深いところまではいえなくて。 あ C0.14安心して、深いとこまではなかなか相談 できんのやねえ。「白分がない」とか「そ んなんじゃいかんよ」って言われると、 ますます自分が情けなく思えてきたりす るしね。 C1 r a l うん。そうなんです。
C0.15寝る前になると1人でこう、なんか
ぼっちになると、そんなことがぐる
頭を廻って不安になるんだね。
カウ に聴き る。 ︱ 人 る ぐ ンセラーは、クライエントの感情を丁寧 とりながら、寄り添う姿勢で関わっていクライエントは、次第に自分の中にある「自
信のなさ」や「情けない」気持ちを表現し始めた
が、同時にこれらの感情に直面化することに対
する不安や怖さも感じていた。そのため、どこ
かでカウンセラーに、慰めてくれるような言
葉、勇気づけてくれるような言葉を求めてい
た。
③内的体験に目を向けることへのクライエント の抵抗を取り扱う CI.16 なんとかしたいとは、いつも思うんです けど、なかなかできないし(そうやね)。 うーん、なんか、周りがどんどん先に行 くようで。(うーん)〈沈黙43秒〉先生の ところに相談に来ている入って、こうい うことで悩んでいる人はいるんですか? C0.16うーん、他の人がどんなことで悩んでい るのか気になるんかなあ。 C1.17 なんか、こんなことで相談に来る人なん ているのかなと、ふと。(うん)〈沈黙〉 CO ︱7こんなことで相談に来てるんやろうかと
か思うんやね。自分が、そんなことで悩
んでいること自体、情けないと感じてい
るのかもしれんなあ。
CI.18 〈沈黙13秒〉そんなことを考えるんだっ たら、行動したほうがいいとは、思うん ですけど(うん)。なぜか、どうしても 足がすすまない。 C0.18気持ちは焦るけど、からだが動かんのや ねえ。 CI.19 時々なんかほんとに どうしようもない くらい、落ち込むときがあって。そん なときはもう、何もかもにやる気がなく なってしまう(うん、うん)。 クライエントは、自分の中にある自信のな さや、情けない思いを語ることに苦しさを感 じ、このまま語り続けることへの抵抗を示した (C1.16、17)。これを受けて、カウンセラーは、 そのような質問の背景にあるクライエントの 「そんなことで悩んでいること白体、情けない と感じてしまう」(C0.17)気持ちに着目し、こ こでは情けない気持ちも語ってよいとクライエ ントの感情を受け止めながらの応答を試みてい る。 この応答によって、クライエントは、ここで は感情を語ってもよいということを確認し、再 び、自分の内面に目を向けることができた。 ④クライエントの感情体験の説明と面接の意味 づけ C0.19もう時間がきてしまったので。寝る前に 気になることがぐるぐる廻る、この学部 が本当に自分に合っているんだろうかと か、自分が何をしていくんだろうとか、 これから何をしたらいいんだろうとか、 周りの子たちと自分を比べてみても、な んか自分ではっきりしたものがない。自 分の中で焦ったりとか、情けない感じが したりとか、それと眠れないのが、もし かしたら少し関係しとるかもしれんな あ。 CI.20 はい。 C0.20もし、あなたが、白分の中ではっきりし ないことや焦っていることについて考え てみたいと思われるなら、これから、定 期的に相談していって、どうしたら眠れ るようになるかということや、自分が何 やってるんやろう、これから何したらいいんやろうかということも含めて、少し 一緒に話しあっていけたらいいんかなあ と思うんだけど。
ここでカウンセラーは、今回のやり取りから
見えてきたクライエントの内面で起こっている
情けない感じ、自分の中にはっきりしたものが
ない苦しさなどについて説明し、今後の面接
を、クライエントがカウンセラーと共に、自分
自身について話し合っていく場として提案して
いる。
(4)カウンセラーのロールプレイを通しての考 察 カウンセラーAは、クライエントの感情に寄 り添いながら、クライエントが白分白身の内的 な感覚に目を向けることを促す応答を行ってい た。その際、カウンセラーAに特徴的であった のが、比喩などの工夫によって、クライエント のイメージを捉えなおす工夫を行っていたこと である。 カウンセラーBはカウンセラーBは、クライ エントの感情に焦点を当てながら、クライエン トの生活、周囲の人間関係など、事情を丁寧に 聞き取り、今の時点で可能な援助を提案した。 ここで、その援助とは「眠れない」という問題 の直接的解決ではなく、その問題の背景にある クライエントの苦しさがどこにあるかを見立て ていくことを目的とした応答を行っていた。そ の際、カウンセラーBに特徴的であったのが、 クライエントの家族関係や友人関係など、クラ イエントを取り巻く周囲の環境を含めた視点か らのクライエント理解を試みたこと、面接の場 を、相談できる環境がないクライエントにとっ ての「安心して語れる場」として設定したこと であった。 カウンセラーCは、クライエントに「踏み込 み過ぎないことに絹心の注意を払いながら」、 「クライエントが、表面的な問題である主訴か ら自分白身へと目を向け、未だ曖昧である自分 の内的問題を、少しずつ白覚していけるように なるための手助けをしていた」。そのために、 90クライエントが自分の内面に目を向け、感情体
験を洞察していける関わりを行っていた。
Ⅳ 考察 1 役割による規定性 医師、教師、カウンセラーには3者3様の役 割があり、その役割の中で行動が規定されてい ることがわかる。つまり、その役割に応じた行 動の総体があるということである。例えば、医 師が、敦師役をすれば、クラスを意識するし、 カウンセラーが医師役をすれば、身体を治療し ようとする。教師がカウンセラーの立場をとれ ば、クライエントの語りを聴くことになる。 医師は、患者を治療する役割を担っており、 専門知識によって患者の身体の状態を「回復」 させることを目的としていた。治療を目的とし たアプローチであるため、医師が患者に関わる 視点は、「身体」のみに限られている場合が多 い。敦師は、担任という役割を担っているた め、生徒個人への関わりに加えて、「クラス全 体」を視点に入れた対応が求められる。よって、 クラスの人問関係の調整を行うという大きな目 的の中で、来談した生徒に関わっていた。対し て、カウンセラーは、「具体・個別的なこころ の問題を扱う」(成瀬、2003)という役割を担っ ており、クライエント個人に関わる姿勢をとっ ていた。 医師・教師との相違は、まず、乾(2003)が 言うように関わる対象の違いであると考えら れる。ロールプレイにおいても、カウンセラー は、医師のように「身体」という一部分のみヘ の関わりではなく、「症状や問題行動経験しつ つ生きている“ひと”(事紆匪)」即ちクライエ ント「その人」に関わっていた。 敦師も、生徒への個人的関わりには重点を おいていたし、「生徒にとって安心できる関係 づくり」(Te.E、F、G)を重視していたと言う。 しかし、‘クラス全体’を視野に入れた援助が求 められていたという点で、カウンセラーの関わ りとは異なる。目常的にクラスを運営し、クラ ス全員に関わるため、必然的に「クラスの日常 を円滑にまわしていくための解決策を見出すこカウンセラーによる援助の独自性について と」が必要となる。よって、「生徒個人の援助」 に加え、「クラスの人問関係についての情報収 集」(Te.E、F)や「その子供の思い込みでない ことを確認すること」「問題が起こった原因を つきとめること」などの対応が必要となる。そ の際、相談に来た生徒のみならず、他生徒への 影響や、公平さを保つことにも配慮しながら、 その生徒との関係をもつ必要がある。また、 Te.Eのように、生徒を援助できる環境を整える ための方法として、家庭環境についても把握し ておこうと試みることもあるが、家庭に実際に 働きかけるか否かという現実的な問題が出てく るため、生徒に家族について尋ねること、事情 を聴くことには、慎重にならざるを得ない。こ れらの点で、カウンセラーの関わりとは異なる と考えられる。 カウンセラーは、「心理的な援助」という役割 上、個人としての相談者が対象どなる。「クラ イエントの発達的で遺応的な健常生活を維持す る能力や心の内面的な側面の発展にアプローチ すること」「自我の強さに注目し、それを基盤 にして強化・成長を目指す」(乾、2003)こと が目的とされているため、目の前の問題より も、問題を待つ「人」に関わることができるの である。 ロールプレイにおいて、カウンセラーは、後 述のような(3節)役割を最犬限生かすような 関わりを行っていたといえる。 2 3者の関係性の持ち方 次に、医師、教師、カウンセラーは披援助者 との「関わり方」(関係性)が異なることがわかっ た。 医師の場合であれば、診断がつくまでは、常 に医師が優位に立って、面接の話題が選ばれて いく。その間、「関係性にはほとんど着目しな い」(DnG、H、I)。医師の面接の場合、患者 側にも、「身体の不調を取り除きたい」という 具体的な問題があり、目的は「症状を取り除く こと、あるいは緩和すること」に絞られている。 そのため、医師と患者との問では、「治す一治 してもらう」関係がはじめから成立している。
教師の場合には、「救育する」という立場で
ある以上、その子供の集団への適応や、成長を
促す解決策を考える、もしくは、子倶の年齢に
合わせた発達課題を念頭においたアプローチを
とることもある。教師Dでは「学校内で相談し
やすい環境を整えることで、問題解決への糸口
とする」、教師Eでは「問題を解決できるよう
生徒を支える」、教師Fでは「早く楽にしてあ
げる」など、それぞれに方法は異なるが、全て
の教師に共通して「問題解決するのを助ける」
という目的意識が、面接の前提としてある。そ
のため、いかに問題を解決していくかという視
点から、原因を探し、解決のための方法を練
り それに合わせて行動していくという教師主 導のパターンが、はじめから想定されている。 倉光(2003)は「教育においては、学生が次に挑 戦すべき課題や問題の最終決定権が主に教師に ゆだねられるのに対し、たいていの心理療法に おいてはそれがクライエントにゆだねられる」 と指摘しているように、敦師と、カウンセラー とでは、援助者が主導する立場にあるか否かと いう相違がある。 しかし、敦師も「自発性を育てる」援助を行っ ている。では、両者はどこが異なるのか。そ の点について菊池は、これまでの援助方法は、 ‘クライエントの主体性を引き出す'といった、 主体性の発揮のための援助でありながら、その 方法を‘引き出す'という一方的・指示的な方法 でしか行えなかったところに、根本的な矛盾が あると指摘している。敦師のロールプレイにお いても、「生徒自身が自発的に動けるよう」に 「敦える」という、援助者主導であったという 点で、カウンセラーの援助とは異なる。 一方、カウンセラーの援助は、クライエント 個人との関係性を重視し、「眠れない」という 問題への解決を考えるよりも、クライエントの 心理的背景やその苦痛感を聴き取り、その感情 を受け入れ、共に昧わう面接を行っていた。 際に何か解決策を試みているわけではなく、 貫して「クライエントに任せる」「クライ 実 一 エン 卜の話したいように」(Co.A)という姿勢を強 調していた。後述するが(3節)、このような 一 1 ハ リ ー消極的な態度をとることによって、クライエン トの自発性が白ずと生まれてくる援助を行って いるところが、カウンセラーに特徴的な援助で あると考えられる。 以上より、医師、ヽ教師は、それぞれ、「治療 を行う」「敦育する」といった、援助者主導、 積極的なアプローチをとっているのに対し、カ ウンセラーの援助とは、援助場面がクライエン ト主導になるような、[受け身](山本、1995) 「消極的援助」(菊池、2004)と呼ばれるような、 独自の援助を行っていたことが理解できた。 3 カウンセラーによる援助の独自性について 以上、ロールプレイをもとに、医師、教師と の比較を通して、カウンセラーの役割と関係性 の特徴を明らかにしてきた。では、実際に、カ ウンセラーはどのような関わりを行っていたの か。以下、筆者のクライエント体験を踏まえな がら(筆者の内的体験については、“ ”にて示 す。)、ロールプレイを分析し、カウンセラーに よる援助の独自性について考察していく。 (1)安心して語れる場をつくること カウンセラー3者が共通して試みていたのが 「安心して語れる場」をつくることであった。 そのために、以下の点に留意していた。①ま ず、意識的に、面接構造を設定し、面接の場 が「日常とは異なる場」であること、「安心して 語れる場」であることを、クライエントに伝え ようとした。このことによって、カウンセラー は、日常生活からは距離をおいた、「非日常的 空間」(成田、2004)を作ろうとしていたと考 えられる。このような工夫によって、面接の 「安全性」を高めることによって、クライエン トは普段の生活への影響を気にすることなく、 「自由に」語り、感情を表現できるように試み ていたのである。②次に、「クライエントを脅 かさないこと」(Co.A、C)である。これは、力 ウンセラー自身が、クライエントの内面に踏み 込む「異物」(神田橋、1990)であることを白覚 し、できるだけクライエントを尊重し、「無害 な治療者」(成田、1981)として機能しようと する配盧によるものであると考えられた。③最 後に、「適度な距離を保つこと」(Co.C)である。 カウンセラーは、面接の時間や場所の調整、即 ち、面接を構造化するための応答を行ってい た。これは、クライエントとカウンセラーが、 援助者と被援助者という「職業的関係」(成田、 2003)を維持するためである。適度な距離をと るということであるから、一見、冷たいように も見えるが、決してあたたかい人間交流の妨げ ではない。 ここで、[安心できる場]を考えた場合、一 見、‘親密になること'が重要であるように思わ れる。これは、敦師のインタビューにおいて 「気軽に話せる関係作り」が目指されていたこ と、生徒役であった筆者も、敦師に対する親密 感を抱き、自分は一人ではないという心強さを 感じていたことからも分かる。しかし一方で、 “依存したい気待ち"や“漠然とした不安"を抱え ていた。これは“日常的に自分に関わる敦師で あるが故に、頼りたい気持ち"、しかし“無理を 言ったり、アドバイスを嫌がるようなことを言 うと、助けてくれなくなってしまうのではない かという不安があった"からだと考えられる。 一方、カウンセラーのロールプレイにおい て、クライエントである私が心を開き、秘密 を語れたのは"必ずしも関係が親密になったか らではなく、カウンセラーが「専門家」であり、 一歩外に出れば、白分とは無関係であり、ここ で何を話しても、日常生活に影響することがな いと思えたから"である。 とはいえ、クライエントにとって、カウンセ ラーとの面接は、決して、緊張感のないリラッ クスしたものとは言えなかったし、カウンセ ラーに‘親身な'関わりを求めていた分、"物足り ない"と感じる部分もあった。しかし、面接が 進むにつれ、クライエントは次第に、カウンセ ラーに対する緊張や不満を抱えながらも、“面 接という枠組みの中では、カウンセラーは、自 分のどのような感情も受け止めてくれるのだと いうこと、‘自由に'自分を表現することが許さ れる"ということに、感覚的に気づき、自分に ついて語り始めることができたのである。つま −92−