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農協経営と農協共済をめぐる情勢変化に関する一考察-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学農学部学術報告 第56号 1∼7,2004

農協経営と農協共済をめぐる情勢変化に関する一考察

森 佳子?・仙田徹志・伊庭治彦¨

A Study of Situational Changes for Agricultural Cooperative and    Mutual lnsurance of Agricultural Cooperatives in Japan

Yoshiko MORI*Tetst!ji SENDA Haruhiko IBA*

       Abslract

 This p叩er shows two directions of developing Agricultural Cooperative manageinent and mutual lnsurance

through analyzing the circumstances fom two points of view ; one is sorting out the structural changes of

lnsurance market since l9 0, the other is analyzing the changes in the situation which influences organization,

business and management・ .      `

 The cQnclusions are as fbllows ; 1)Mutual lnsurance ofAgricultural Cooperatives is deteriorating not only in

quantity but also in quality. 2)Thdre is a pgssibility that seiious decreasing of additional retums from mutual

hl帥rance with getting worse of the structure of mutual lnsurance might press the agricultural cooperative

management. 3)ltl is necessafy to improve the way of the o1)erationof businessdrastically. 4)Deregulation j

deteriorates the advantage of agricultllralcooperative from holding two posts concurrently.

Key words : Agricultura1 Cooperative, DQregulation,lnsurance Mafket, Mutual lnsurance of Agricultural

Co-       operatives.      ◇       第1節課題と方法  農協における共済事業は1948年から実施され,組合員 の相互扶助を理念に掲げ,事業を展開してきた.その事 業量は大手生損保と遜色ない程度にまで拡大し,1998年 度の数値では生保市場で13.4%,損保市場で15.3%を占 め,農協の経営面ではその利益を下支えする役割を担っ ている.しかしながら,90年代以降,生損保市場におけ る急激な規制緩和により,これらの市場においても競争 が激化してきており,農協共済事業が提供している商品 の真価が問われる局面にきているといっても過言ではな い.  そこで本稿では,農協経営と農協共済をめぐる情勢変 化を分析することを課題とする.具体的には,第1にわ が国の共済・保険市場を取り巻く急激な構造変化を,規 制緩和の影響が出てきた90年代以降に紋って整理するこ と,第2に,農協の組織・事業・経営に影響を及ぼす情 勢変化の考察をとおして農協共済事業の展開方向を提示 すること,以上の2点を諜題とする.  本稿の接近方法は,次のとおりである.第1の課題に・ 対しては,共済・保険市場の構造変化を;法制度的局面 ・経済的局面に分けで整理し,その後,構造変化の現状 を「市場構造」・「市場成果」という側面から確認する. 第2の課題に対しては,農協の組織・事業・経営に影響 を及ぼす情勢変化を法制度的局面・経済的局面に分けて 整理する.  第2節 共済・保険市場の構造変化基謂の分析 1)共済・保険市場の構造変化 (1)法制度的局面  近年の共済・保険市場の構造変化を法刎度的局面から 見ると,“規制から規制緩和への流れ”として捉えるこ とができる(注1).特に大きな法制度の変化は,1996 年から段階的に行われてきている金融システム改革と, 1998年に行われた保険業法の改正であり,これにより保 険業における競争促進策が図られることとなった.  規制緩和による競争条件の変化として特筆すべき点は, *島根大学生物資源科学部 〒6りO。8504 松江市西川津町1060 **神戸大学大学院自然科学研究科 〒657-8501 神戸市灘区六甲台町1−1

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2 香川大学農学部学術報告 第56巻(2004) 生損保兼営及ぴ異業種から保険業に対する新規参入が可 能となったことである.まず,1997年度から証券会社に, 決済手段としての証券総合口座に資金を受け入れる決済 機能が認められた.1998年には,証券と保険の相互参入 が可能となった.さらに,1999年には保険会社による銀 行子会社設立が,2000年には銀行による子会社方式での 保険参人が認められ,保険,銀行,証券の相互参入が完 全に白由化された.これら制度的局面からの構造変化は, 共済・保険市場における経済的局面からの構造変化に大 きな影響を与えることとなった. (2)経済的局面  近年の共済・保険市場の構造変化を経済的局面から見 ると,①IT革命と②銀行業・証券業・保険業における垣 根の消滅によって,保険業界に新たな競争形態が生まれ, 保険会社間の競争が激化してきていることが指摘できる  (注2).  ① IT革命の影響  IT革命と呼ぱれる情報通信技術の急速な発達は,保険 市場の構造に大きな影響を与えることとなった.IT革命 による保険市場への主な影響として,販売チャネルの多 様化,営業職員及ぴ代理店の削減,保険流通機構の効率 化,付加保険料率の低料金化,新商品開発と低料化,損 害保険価格の白由化及ぴ細分化が指摘されている(注 3).  これらの変化を通じ,保険業界においては,保険会社 間で新たな競争形態が生じるようになった.従来の競争 形態は,各社同一水準の価格の下での販売競争や,新商. 品開発競争といった非価格競争が一般的であり,価格競 争は部分的に行われる程度であったが,近年,これらの 非価格競争に,純保険料率・付加保険料率の引き下げと いった価格競争を組み合わせた新たなタイプの競争が展 開されてきている.  他方,IT革命の影響は,保険消費者にも及んでいる. 即ち,インターネットの急速な普及により,消費者が保 険に関する情報を収集することが著しく容易となり,保 険会社と消費者との間の情報格差の縮小が可能となって きている.  ② 銀行業・証券業・保険業における垣根の消滅  既述したように,金融システム改革や保険業法の改正 といった規制緩和の動きを通じて,銀行業・証券業・保 険業における他業種への参入や,業務範囲の白由化が進 展するとともに,金融業の各業務間の「垣根」が低く なってきている.共済市場・保険市場に影響を与える主 3 5 , 0 0 0 3 0 , 0 0 0 5 , 0 0 0 0 民保

乙 ̄ 犬

簡保 農協共済 1991 1993 1995 1997 1999  2001  第1図 農協共済・民保・簡保の収入保険料の推移 出所:保険研究所rインシュアランス生命保険統計号』各年よ    り作成. 注:JA共済の収入保険料は,受入共済掛金を指す.生命保険    は個人保険・個人年金保険・団体保険の合計,簡易保険    は保険(年金保険を含まない),JA共済は養老生命共済    にども共済を含む),終身共済の合計である. 要な変化として,以下の2点が指摘されている(注4). まず第1に,生損保間の業務提携がなされるようになっ たことである.このことは,従来から信用事業と共済事 業の兼業に加えて,生損保兼営を行ってきた農協の相対 的な優位性が低下することを意昧する.第2に,業界各 社が,旧業態の商品を融合することを通じ新たな金融商 品の開発がなされるようになってきたことである.既存 研究では,従来の農協の共済商品の多くは,業界各社の 開発商品をより充実した形で提供する商品開発であった ことが指摘されている(注5).このことは農協が早急 に,消費者の共済商品の需要に積極的に対応した農協独 白の商品開発を行っていかなけれぱ,消費者の共済離れ が進行する恐れが出てくると考えられる.  以上2つの変化は,後述するが,近年「信共依存体 制」から「共済依存体制」へと変化してきている農協の 利益構造にもマイナスの影響を与える可能性を示唆する. 2)構造変化の現状  ここでは,上記1)において見てきた共済・保険市場 の構造変化の現状を,「市場構造」・「市場成果」という 側面から確認する.市場構造に関しては,収入保険料, 新契約率,失効解約率の推移を調べ,それらがどのよう に変化してきているかを考察する.市場成果に関しては, 保険の価格,利潤率について同様の分析を行う. (1)市場構造  図1は,民聞生保・簡易保険・農協共済の収入保険料 の推移(農協共済の場合,受入共済掛金)を示したもの である.収入保険料及ぴ受入共済掛金は,各保険会社に とって最も重要な収入源である.この図を見ると,民間

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︵∼︶悟刄琢収 0   0   0   0   I   I   S   I C X N Q   g   N ︲   ’ ・ ︲ i   ︲ 10.0 0 0 0 cup 9 0 0 N O 仙田他:農協経営と農協共済をめぐる情勢変化

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`゛゛ここ二i − A 1畏詠i弐/宵      1991  1993  1995  1997  1999  2001   第2図` 農協共済・民保・簡保の新契約率の推移 資料:保険研究所「インシュアランス生命保険統計号丿各年よ    り作成.  注:新契約率は新契約(ある事業年度1年間において締結し    た保険や共済の契約)を保有契約(新契約と既契約をあ    わせたもの)で割って算出. 生保は1990年代以降,収入保険料が低下傾向にある一方 で,簡易保険と農協共済は増加傾向にあることがわかる  また,図2は,民間生保・簡易保険・農協共済の新契 約率の推移を示したものである.この指標は,新契約  (ある事業年度1年間において締結した保険や共済・の契 約)を保有契約(新契約と既契約をあわせたもの)で 割ったものであり,・事業の効串性を表している.この図 を見ると,民間生保と簡易保険は1990年代以降,一貢し て低下傾向にあり,特に1990年代後半は,新契約率は大 幅な低下傾向にあることがわかる.他方,農協共済も新 契約率の推移は低下傾向にあるが,その変動は緩やかで ある.  周知のとおり,民間保険会社は,いわゆるバブル経済 期においては事業量を著しく増加させたが,.1990年代以 降のバプル崩壊後には,公定歩合の引き下げに伴なう市 中金利の低下による生保の予定利率の引き下げと保険料 の上昇(1991年)や,保険会社数社の経営破綻の影響な どから,その事業量の増加率を著しく減少させている. 簡易保険も,1997年に予定利率の引き下げと保険料の引 き上げがなされており,この影響から個人の簡易保険離 れが進み,事業量の効率性低下が著しくなったものと考 えられる.農協共済も民間生保や簡易保険と同様,予定 利率の引き下げがなされたが,民間生保や簡易保険ほど の事業量の低迷はなかった. 図3は,民間生保・簡易保険・農協共済の失効解約率 の推移である.この指標は,ある事業年度の保有件数に 対する,その事業年度中に保険料の支払い見込みが無く 効力を失った契約件数と解約された契約件数が占める割 合を示したもので,保険契約の継続性や保全の程度を示 す.この図を見ると,民間生保,簡易保険,農協共済の 14.0 12.0 10.0 脊刄昧蔡裾 8.0 6 . 0 4 . 0 2 . 0 0 . 0

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/ 旅俣      _.____4 曲↓惑ぷ.凌 j 7 x l g 〃 / ゝ j か ・ 1991 1993 1995 1997 1999 2001 3 第3図 農協共済・民保・簡保の失効解約率の推移 資料:保険研究所「インシュアランス生命保険統計号」各年よ    り作成.  注:失効解約率は,ある事業年度の保有件数に対する,その    事業年度中に保険料の支払い見込みが無く効力を央った    契約件数と解約された契約件数が占める割合. 失効解約率は,1990年代以降,増加傾向にあり,中でも 民間生保の失効解約率の上昇傾向は他の保険業界と比較 して著しいことがわかる.また,1995年以降,農協共済 の失効解約率め上昇傾向は,簡易保険を上回ってきてい ること,民間生保の推移と類似の上昇構造となっている ことがわかる.民間生保の場合,既述したようなバブル 経済崩壊後の厳しい経済状況の影響を受けたことに加え, いわゆる外務員の大量採用大量脱落(1970年代以降非価 格競争の手段として大量の外務員採用による販売促進活 動が強力に推進されたが,フ他方で大量の脱落者が発生す る現象)の影響から契約の失効件数及ぴ解約件数が増加 しているものと考えられる.農協共済の場合,各年度の 事業量の低迷は見られないにも関わらず,失効解約率の 上昇傾向が著しい.これは,一斉推進の弊害の表れと見 ることができる.即ち,しぱしば指摘されてきているよ うに(注6),農協の一斉推進により,たとえ強引に契 約をとっても,その後,解約されたり,共済掛金を支払 えなくなってしまった契約者が増加しているものと考え られる. (2)市場成果       ‥  ここでは,産業組織論の実証研究の手法を生命保険業 に適用した先駆的業績である筒井(1993)に従い,保険 の価格を配当割合(契約者配当/保険料),利潤率を当 期未処分利益/保険料と定義し,・1990年代の推移を検討 する.  表1は,民間生命保険市場(内国)における,配当割 合及ぴ利潤率の平均値,標準偏差,最大値,最小値の推 移を示したものである.これを見ると,1991年以降,配 当割合の平均値・標準偏差が共に値が小さくなっており,

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4 配当割合 利潤率 1 第 香川大学農学部学術報告 第56巻(2004) 表 生命保険市場の価格(配当割合)と利潤(利潤率)の推移 平均値 標準偏差 最大値 最小値 一 平均値 標準偏差 最大値 最小値 1991 -0.074 00 0 049 145 000 0.009 0.i45 0.129 1993 00 00 −0 00 −0.452 。−0 047 029 087 000 -022 172 074 1995 00 00 00 0 811  −0 038 024 076 000 -020 183 072 7 Q り q ` ︱ Q Q C Y ‘ ︶ ︵ N 0 0   ●   ・ 〇 〇 り 乙 O 0 8 0 0 0 . ︵ 目 い −0 019 70 LQ Q 10  ・ I00 912  −0 768 2000 00 0 , L r ︶ り / ` 0 028 090 0 0 ︲ 0 O り 乙 Q り I 0 .   一 Q り O 4 0 1 8 07 . 1 . 2 Oり乙 1 0 0 り 乙 Q ︵ X ︶ n 乙 n / ` 0 0   ・   ● 0 0 只︶000 10  ・ ・00 q ` q ` 0 0 I(X) njり乙 りaQり  l a00 6 9 β り 1   一 資料:保険研究所『インシュアランス生命保険統計号』各年より作成. 注:配当割合は,契約者配当を保険科で割って算出,利潤率は当期未処分利益を保険料で割って算出. 配当割合が低位に収斂しつつあることを示している.他 方,利潤率の平均値は低下傾向にあるが,標準価差は大 きくなっており,最大値と最小値の動きからも明らかな ように,利潤率の格差が広がっている.両者の傾向をふ まえると,1991年以降,各保険会社は保険の価格を低下 させてきているが,他方で,利潤を得ることのできる会 社とできない会社との格差が年々大きくなってきており, 生命保険市場が競争的な方向へ進んでいると解釈できる.  以上,共済・保険市場の構造変化の現状を,市場構造  ・市場成果という側面から確認してきたが,これらは以 下のようにまとめることができる.1990年代以降,生命 保険市場は競争的な方向へ進んでいるが,これは前項で 見てきたように,共済・保陰市場の構造が法制度的局面 において,“規制から規制緩和への流れ”へと変化し, それに伴って,保険業界に新たな競争形態が生まれ,保 険会社間の競争が激化してきていることと整合する.し かし,保険市場が競争的な方向へ進行していく一方で, バプル経済崩壊による経済不況の影響や予定利率が引き 下げられるなど,保険業界を取り巻く環境は厳しく,民 間生命保険会社の場合,事業量の効率性の低下や央効解 約率の上昇など,経済的局面から見てマイナスの構造変 化を引き起こしている.保険市場がこのような構造変化 を遂げてきている中で,農協共済はそれへの適切かつ迅 速な対応が求められており,その一貫として,1994年に ライフアドバイザー(LA)と呼ぱれる共済事業専任  (または兼任)I・の事業推進担当職員が制度化されたり, 2000年に県共済達と全共達が統合している.しかし,現 実には事業量の効率性は低下していないものの,失効解 約率の上昇傾向が著しくなってきているなど,プラスの 構造変化には結ぴついていないと考えられる. 第3節

農協の組織・事業・経営に影響を及ぽす

情勢変化基訓の分析

1)農協の組織・事業・経営に影響を及ぽす情勢変化基  謂 (1)法制度的局面 レ  農協の組織・事業・経営に影響を及ぼす情勢変化基調 を・,法制度的側面から見ると,JAバンクシステムの構 築を挙げることができる.2001年に農協法やj農林中央 金庫及ぴ特定農業協同組合などによる信用事業の再編及 ぴ強化に関する法律(いわゆる「JAバンク法」)が改正 され,2002年にJAバンクシステムが構築された.この 法律の改正及びシステムの構築の背景として,系統農協 側に,厳しい経済環境下において収益が低下してきてい る中,系統農協の強みを生かしながら,総合的な事業の 創造と,徹底した収益改善が求められていることが指摘 されている(注7).  このシステム構築によって農協は特に,リスクマネジ メンEの高度化(貸出審査体制に問題はないか,資金運 用体制に問題はないか),白己資本の増強,適切な白己 査定の実施(内部監査体制に問題はないか),農協の経 営内容のディスクローズ,JAバンク・セーフティネッ ト(破綻未然防止システム十貯金保険制度)の充実と強 化が求められるようになってきている.  現行の相互援助制度においても,上記の諸内容が適切 に推進されていくための諸機能が幅広く整備されている ものの,あくまで白主的な取組みであり,強制力に欠け るため,実効性に乏しい面があることが指摘されている  (注8).そのため,今回のJAバンク法の改正下で構築 されたJAバンクシステムは,農林中金が今後,農協の 統合や合併などの指導を行うことができるような法律的 裏付けがなされている.

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仙田他:農協経営と農協共済をめぐる情勢変化 (2)経済的局面  農協の組織・事業・経営に影響を及ぼす情勢変化基調 を,経済的側面から見ると,次の3点が指摘できる.第 1に,経済不況の長期化とデフレの進行によって農協の 各事業面・経営面では非常に厳しい状況となっているこ と,第2に,金融業における規制緩和の進行によって, 農協の利益構造が「信共依存体制」から「共済依存体 制」へと変化してきていること,第3に,農協を取り巻 く厳しい情勢に対応すべく広域合俳と連合会の再編が推 進されてきているが,現実には,両者とも成果が十分に 上がっているとはいい難い状況となっていることである.  ① 経済不況の長期化とデフレの進行  経済不況の長期化とデフレの進行の影響により,農協 の各事業面・経営面は以下のような厳しい状況に直面し ている.  販売事業では,農産物輸入の急増や,価格の低迷によ り農協の事業取扱高の減少傾向が見られる.購買事業で は,量販店・専門店の地方農村進出による低価格競争の 下で,農協の生産およぴ生活資材・店舗購買事業は不振 傾向にある.信用事業でば,金融システム改革の下,個 人金融市場をめぐる競争激化によって,収益性が低下し てきている.  ② 金融業における規制緩和の進行  i990年代以降,金融システム改革など金融業における 規制緩和の影響(個人金融市場をめぐる競争激化など) によって,信用事業の収益性の低下が著しくなってきた. そのため,従来,農協全体の収益性に関しては「信共依 存体制」であったものが,「共済依存体制」へと変化し てきている(注9).  ③ 広域合併の進展と連合会の再編  上記で見てきたように,農協の組織・事業・経営を取 り巻く情勢は非常に厳しい.農協はこの厳しい情勢に対 応すべく,広域合併と系統2段階刎への再編を推進して きている.まず,広域合併について考察する.  一般に,複数の組織が合併し新しい組織ができれぱ, 量的変化(ヒト・モノ・カネ)だけでなく,質的変化  (経営戦略・童思決定の流れ・組織文化など)ももだら すが,農協の広域合併によって期待される効果を量的変 化,特に経済的な効率性に着目して整理すると,規模の 経済性に集約できる.しかし現実は,広域合併しても規 模拡大に見合うメリット(収益性の向上,生産性の向 上)を享受していない農協や,かえって規模の不経済が 発生している農協が存在し,農協の組織力の低下に伴う 5 組合員の事業面での利用結集の低下が激しい.広域合併 農協に見合う体制整備の立ち遅れの理由として,トップ マネジメントの不備などが指摘されている(注10).  次に,系統2段階制への再編について考察する.一般 に,連合会再編の目的は,系統組織・事業・経営の合理 化,効率化を図り,民間の企業などとの競争に対抗する こととされる.達合会再編の影響を各事業別に見ていく と,以下のとおりに整理することができる.  経済事業においては,系統利用率は,品目別・各都道 府県別に異なるため,全国画一的な再編では,上記の再 編の目的を達成することは困錐であるといえる.各都道 府県の地域性や事業の特質を考盧した弾力的な再編を 行っていくことの重要性が指摘されている(注11).  信用事業においては,厳しい経済情勢下にある農協金 融の進むべき方向として,地域金融機関化がしぱしぱ議 論されている.しかし信達の資金運用のほとんどは,系 統預金,有価証券運用,ノンバンク融資に偏重しており, 地域金融機関としての性格が非常に弱いのが現状である. 従って,信連独白で厳しい経済情勢に対応していくこと は困難であり,信達と農林中金との統合という再編は, 系統組織・事業・経営め合理化,効率化を図り,農協金 融が地域金融機関として民間の企業などとの競争に対抗 する上で必要であると考えられる.  共済事業においては,現在,農協共済事業が抱える主 要な問題点として,以下の4点,即ち,①共済事業量の 停滞,②共済資金の運用力低下,③一部の事業推進体制  (一斉推進)の弊害,④保有構造の劣化が指摘されてい る(注12).①の共済事業量に関しては,前節で検討し たように民間生保や簡易保険ほど事業量の低迷はないも のの,必ずしも順調に伸びているわけではなく,緩やか ではあるが新契約率は減少している.②の共済資金の運 用力の低下に関しては,次項で定量的に確認するが,運 用資産利回りの推移が1990年以陣,一貫して低下してき ている.③の一部の事業推進体制(一斉推進)の弊害に 関しては,前節でも述べたが,農協共済の場合,各年度 の事業量の低迷は見られないにも関わらず,失効解約率 の上昇傾向が著しいことに現れている.さらに,一斉推 進においては短期間で推進目標を達成することが求めら れるごとから,加入してもらいやすい組合貝に推進が集 中しやすいという現象が生じ,組合員間の保障額格差が 拡大しているという指摘がなされている(注13).④の 保有構造の劣化に関しては,優良契約が少ないことに加 え転換契約が多いことが指摘されている(注14).この ような状況は保有純増にむすぴつきにくく,共済付加収 入の減少を招く恐れを意味する.  県共済達と全共連との統合は,当初,上記の農協共済

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6 悟訃徊 250.0 200.0 150.0 100.0  50.0  0.0  -50.0 -100.0 -150.0 香川大学農学部学術報告 第56巻(2004)

へ ノマ

匹ノー

4-信用剖 4-共済部 4-購買部 4-販売部 /● ヽ 香 乙 -     1995 1996 1997 1998 1999 2000      第4図 部門別純利益寄与率の推移 、資料:農林水産省経営局協同組合課『農業協同組合経営分析調    査報告書』各年より作成.  注:部門別純利益寄与寄与率は、各事業部門純損益の農協全    体の純利益に対する比率. 事業が抱える諸問題の改善が可能になると期待されてい たが,統合から2年経過した現在でも,それらの諸問題 が全て解決したわけではなく,全共違白身が抱える問題 点として,以下の3点が指摘されている(注15).第1 に,違合会の経営理念が明確でないことである.第2に. トップマネジメント体制の不備から“地域性”を考盧し た民主的運営が困難となっていることである.第3に, 県本部の事業努力に見合った合理的な予算配分・収益配 分システムが確立されていないことである(注16).さ らに,他の事業達の組織再編に先駆けて行われた全共連 が,上記の諸問題に対して如何に適切に対応していくか は,農協共済事業の機能強化や効率化に影響を及ぼすだ けでなく,他の県連合会と全国連との統合の成果にも大 きな影響を及ぼすことも指摘されている(注17). 2)農協の組織・事業・経営に影響を及ぽす情勢変化の  定量的把握      ‥  ここでは,上記1)において提示した農協の組織・事 業・経営に影響を及ぼす情勢変化の現状を,定量的に確 認する.具体的には,部門別純利益寄与率の推移,民聞 生保・簡易保険・農協共済の運用資産利回りの推移を調 べ,ぞれらがどのように変化してきているのかを考察す る.  図4は,部門別純利益寄与率の推移を示している.と の図を見ると,信用事業の収益性は1997年以前までは低 減し,その後100%以上を上回るようになってきている が,共済事業との収益性格差は拡大してきていることが 確認できる(注18).既述したように,近年の農協にお け芯経営の収益性は,「信共依存体制」であったものが,  「共済依存体制」へと変化してきており,特に90年代後     4 . 5 0     4 . 0 0     3 . 5 0     3 . 0 0 〃 回 2 . 5 0 臨 : 哩 2 . 0 0 哨 1 . 5 0     1 . 0 0     0 . 5 0     0 . 0 0 心_.

へH

ぺ八

\   

ヽ、j芦湊

民保

\。 1996 1997 1998 1999 2 0 0 0 2 0 0 1 第5図 農協共済・民保・簡保の運用資蛮利回りの推移 資料:保険研究所「インシュアランス生命保険統計号」各年,    全共達資料より作成. 注 :運用資産利回りは,いずれも,分母は帳簿価額ベースの     「日々平均運用資産残高」,分子は「資産運用収益一資    産運用費用」として算出した利回り. 半以降の共済事業は,農協の経営を支える最も重要な事 業となっているといえる.  図5は,民聞生保・簡易保険・農協共済の運用資産利 回りの推移を示している.いずれも,分母は帳簿価額 ベースの「日々平均運用資産残高」,分子は「資産運用 収益一資蛮運用費用」として算出した利回りである.こ の図を見ると,民間生保,簡保,農協共済の運用資産利 回りは,1990年代後半以降,一貫して低減していること, 農協共済の運用資産利回りは,民間生保の利回りよりも 若干高い推移となっているものの,簡保の利回りよりも 大きく下回っていることがわかる.このように,近年, 農協共済だけでなく,民間生保,簡保における運用資産 利回りの低下が進んできており,保険業界を取り巻く経 済環境は極めて厳しいといえるが,そのような中で,農 協共済は,運用資産を如何に高利に運用していくかが大 きな課題である.       第4節 ま  と  め   十  ここでは,第2節と第3節までの分析と検討を踏まえ, 農協共済事業の競争力の強化・確立に関する指摘事項を 整理し,本稿の結ぴにかえる.  第1に,農協経営を支えてきた共済事業は,利用度の 量的・質的低下が激しいことである.第2に,共済保有 構造の悪化により,各農協の共済付加収入は減少傾向に あり,今後の農協経営に重大な影響を及ぼす可能性があ ることである.第3に,その保有構造の改善に向けて, 多くめ農協で実施されている一斉集中推進などの推進体 制の抜本的見直しと,共済利用者のニーズに対応した情 報や商品の開発力の強化及ぴそれらの提供を可能とする 推進体制の確立との強化が必要であることである.第4 に,生損保兼営が着実に進み,銀行・証券・保険の垣根

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仙田他:農協経営と農協共済をめぐる情勢変化 が消滅しつつある中で,これまで,信用事業と共済事業 の兼業に加えて,生損保兼営を行っている農協の経営面 における相対的メリットは消滅しつつあることである.  現在,農協共済事業は民間の生損保,簡保に比べて, 魅力ある農協系統独白の商品の開発力が弱いこと,総合 農協の一部門のため,保険会社としての専門性が弱いこ となどから,今後,従来の共済事業の機能強化やサービ スだけでは,民間の生損保,簡保と競争し勝ち残ってい くことは困難であるといえる.従って,今後,民間の生 損保,簡保との競争に勝ち残るためには,上記3で指摘 した諸点に加え,農業面・生活面における農協事業活動 を充実させることを通じて,組合員とのつ・ながりを強化 していくことが重要である.        注 1)保険市場における法制度的局面の最近の動きについ  ては,井□(1996),井□(2001),植田・川北・高月 (1999),植村(1999),上山(1997)の解説に基づく. 2)保険市場における経済的局面の最近の動きについて 3 4 5 6 7 8 ヒ,井口(1996),井口(2001),檀田・川北丿高月 (1999),植村(1999),上山(1997)の解説に基づく・. )井口(2001)参照. )井口(1996)井口 (1999),植村(1999), )高田(2000)参照. (2001),植田・川北・高月 上山(1997)参照. )高田(2000).小松(2002)参照. )逸見(2001)参照. )逸見(2001)参照.∧ 9)この動向に関しては,次項において定量的に確認し  ている. iO)高田(2000),小松(2002)参照. 11)増田(1997)参照. i2)高田(2000),小松(2002),仙田(2003)参照. 13)高田(2000)参照. 14)仙田(2003)参照. 15)高田(2000)参照. 16)農協共済総合研究所によれば,現在,県本部に予算 7  を成果配分する方向で改革中である. 17)高田(2000)参照. 18)1975年以降と1995年以前の部門別純利益寄与率につ  いては高田(2000)で推計されており,それによれば,  信用事業と共済事業の寄与率が逆転したのは1992年で  あることが確認されている.         参考文献 (1卜井□富夫:現在保険業の蛮業組織,Nrr出版株式会   社,束京(1996). (2)井□富央:現症保険業のシステム変動,NTT出版株  式会社,束京(2001). (3)逸見尚人:新たな農協金融システムの構築に向けて,   農林金融,2001年10月号,(2001). (4)植田兼司・川北英隆・高月昭年:21世紀・日本の金   融産業革命,東洋経済新報社,東京(1999). (5)植村信保:生保の未来,日本経済評論社,束京    (1999). (6)上山道生:損害保険ビックパン,東洋経済新報社,   東京(1997). (7)小松泰信:統合共済連とJA共済事業の針路,農業   と経済臨時増刊号−いま切り柘くJA丸の針路−,    (2002). (8)イ山田徹志:経営収支見通しに基づく課題の検討,   JA香川県における経営構造改革に関する調査診断   報告書,農業開発研修センター,京都(2003). (9)高田理:農協共済事業の現状と統合共済連の課題,  神戸大学農業経済,33,(2003). 圀 筒井義郎:生命保険業の市場構造と成果,橘木俊詔   ・中馬宏之編著,生命保険の経済分析,日本評論社,   東京(1993). 1 a 増田佳昭:系統経済事業の展開と達合組織の課題, 藤谷築次編著,農協運動の展開方向を問う,家の光 協会,束京(1997)., u 渡辺靖仁:農協共済と農村保障ニーズ,農林統計協   会,東京(2001).        (2003年9月30日受理)

参照

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