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高度情報社会における子育て支援の新しい試みとその検証(3) : 携帯子育て掲示板の運用指針についての検討-香川大学学術情報リポジトリ

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y i l   , 引 ・ s J . 晨 白

高度情報社会における子育て支援の新しい試みとその検証

      ∼携帯子育て掲示板の運用指針についての検討∼

       清國

はじめに I n ︱ 2 1 携帯子育て掲示板の運用指針の作成  運用指針作成の視点  運用指針の内容 携帯子育て掲示板の相談機能とその留意点  相談機能設定のねらい 2 相談への回答 まとめと考察 ︱ 2 3 携帯子育て掲示板の意義と効果 携帯子育て掲示板の管理 総合的な子育て支援策 はじめに j りa ぐ

一 一  薦帯子育て掲示板(以下、「掲示板」)を用いた子育て支援についての考察も第3報となる。第1報で は、2004年に開設された「掲示板」の書き込みを手がかりに、乳幼児をもつ親の生活スタイルや日常の関 心等を明らかにすることで、その特徴を描き出した1)。「掲示板」への書き込み時間帯に注目すると、昼 食及び夕食後の数時間が母親たちの自由度の高い時間であることが浮き彫りとなったり、家族で過ごす週 末よりもウィークデーに書き込み数が集中するなどの特徴が明確になった。書き込み内容については、子 どもの成長・発育・育児から、病院や幼稚園・学校情報、夫や夫婦に関するものまで、幅広くなっている。 そもそも「掲示板」の設置目的があり、それに沿った利用が中心となっているが、子育ては親の価値観を 色濃く反映するため、時には衝突することもある。第1報の分析によると、「掲示板」内の小さな「荒れ」 を含めると、総数301件のスレッド(ひとつの表題のもとに複数の書き込みが集まっている単位)に対し て54件にそれが認められ、リスク回避の対策が課題となった。  第2報では、2005年に3ヶ月間、研究目的で設置された「掲示板」の分析結果の考察を報告した2)。第 1報の書き込み数を遥かに超える18、867件の書き込み数があった。膨大なデータ件数であったが、テキス トマイニング・ソフトウエア¨TRUE TELLER ver.5¨(野村総合研究所)を用いて、定性的なデータをで

きるだけ定量的に分析した。全体の傾向としては、自分自身の話題に次いで子どもの話題、夫に関する話 題と続いている。単語間のコレスポンデンス分析によると、子どもは「一緒」「行く」「小さい」「できる」 などとともに用いられる傾向が強く、夫は「行く」「帰る」「いない」との併用が目立っている。このよう な分析を通し、「掲示板」において母親の間で交わされる話題について一定の傾向をつかむことができた。 しかし、「掲示板」の利用方法については問題がないわけではない。情報リテラシーも含めて研究を継続 することが重要であることが明らかとなった。  本研究は第3報であり、最終まとめとなる。過去触れてこなかった、「掲示板」を効果的に活用するた −41−

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めの運用指針について多角的に検討したい。

エ 携帯子育て掲示板の運用指針の作成

1 運用指針作成の視点  過去の研究成果から、掲示板へのアクセス数およぴ書き込み内容等から推量して、掲示板の運用指針の 作成が必要と考えられる。無責任に設置した場合、ネットに存在する2チャンネルのような、不適切な内 容、事実に基づかないいい加滅な情報、悪質な書き込み、他人への誹膀中傷、個人情報の流出等、さまざ まな問題が発生するおそれがある。  子育てには、さまざまなレベルの悩みがあり、時として専門化による助言や診断が必要な内容も見受け られる。掲示板の利用者はごく普通の母親であることもあり、書き込み内容は白分の経験に基づくものと なりがちである。そこでの助言や判断が、処置の遅れなどにつながる危険性もあるため配盧が必要となろ う。また、この掲示板の利用者の中で、多くの時間を々ンション等の密室で子どもと過ごしている場合、 ささいな事柄でも母親にとっては大問題となることがある。追い込まれた精神状態が、時として他者の書 き込みに感情的で過剰な反応をすることもある。限られた字数の表情をもたないテキストであるからなお さらである。さまざまな場面を想定した運用指針の作成が求められよう。  ①運用指針の性格   この運用指針は、携帯子育て掲示板を活用した子育て支援を実施していくにあたり必要とされる基本  ルールであり、よりよい子育てを支援するための基本的な指針と位置づける。  ②運用指針の目的   この運用指針は、次世代型子育て支援の形態を模索する中で実施した事業から導き出される内容に特  化する。本来目指すべき子育て環境を損なうことなく、掲示板が有効な支援方策となるような運用指針 を示すことを目的としている。  ③運用指針の効力   この運用指針は、同様の子育て支援方策を検肘している白治体や団体に活用できるような汎用性も考  えつつ作成する。 2 運用指針の内容  利用者による掲示板への高いニーズは、掲示板運用中の利用頻度(書き込み数やアクセス数)によって 明らかとなった。掲示板の運用中およびオフ会、閉鎖後に実施した3度のアンケート調査(研究報告11号 参照)によっても、関心の高さやその存在感、必要感は実証された。  一方、子育ての悩みやストレスを掲示板上によってのみ解消しようとする傾向があることも事実であ る。母親同士のつながりや信頼関係を築こうとする利用者から、気晴らし程度で深入りしたくない利用者 まで、かなりの温度差が見られる。普段、対人関係に自身のない人が案外掲示板では饒舌であったり、踏 み込んだ内容を書き込んだりと、個人内のギャップが見られる場合も少なくない。現実世界におけるパー ソナリティと仮想空間におけるそれは使い分けられているのである。  表情のない短いテキストでのコミュニケーションは誤解が生じやすく、加えて匿名(ハンドルネーム) による書き込みのため、社会一般の常識から逸脱した表現も散見される。本来、生身の人間関係から生ま れる親としての育ちや成長の機会が奪われることも危惧されるところである。

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詞 国 .  高い需要に支えられた掲示板であるが、その光と影の部分を十分把握した上で、影の部分への対応につ いても考慮しつつ運用しなければ、多くの問題を生じさせてしまう。一方で、運用指針を厳格にしすぎる と、利用者の不評を買い、本来の子育て支援の目的が達成できない。バランスの問題ではあるが、掲示板 設置については慎重な準備が求められる。本旨に直接的に関わることではないが、このような新しい領域 で子育て支援に取り組もうとすれば、実験的運用を通して総合的な議論がうながされる場が必要ではなか ろうか。  ①掲示板の設置目的の確認   掲示板設置の目的は、子育て中の親たちが子育てに関する情報交換の場として活用することを目的と  している。せっかくの掲示板ではあるが、正確な情報が得られる場でなかったり、悩みの解決やストレ  スの解消につながるのではなく、利用そのものが目的と化し、結果的に子育てが疎かになることは避け  なければならない。あくまでも子育てのよき手助けのためのツールであることを確認しておきたい。   そもそも掲示板の設置は、特定非営利活動法人わははネットにより行われたものであるが、当初の目  的は閉じこもりがちな子育て世代を地域に引っ張り出し、抱え込む子育てから、開放的な子育てへと転  換することにあった。地域における子育ての仲間をつくったり、地域の施設(子育て広場や公民館等)  で活動をしたり、掲示板で完結することのない、掲示板から派生するつながりへと展開させることを目  的としていた。  ②掲示板の効果   掲示板の効果のひとつに、書き込みという行為による自分自身の子育ての振り返りがあげられる。悩  みを打ち明けたり、相談に乗ったり、コメントを付したり、気持ちを言葉に置き換える作業を通して、  これまで漠然としていた考えがまとまるのである。   書き込みだけでなく、掲示板の閲覧にも効果が認められる。調査結果から、書き込みをしない閲覧だ  けの利用者が半数を超えているのが実態である。(掲示板閉鎖後のアンケート調査では53.2%)この数字  を見ても、閲覧だけでも何らかの有妨吐を感じていることが推察される。同じような悩みを抱える母親  の存在や子育ての課題をクリアーしていった体験談等が母親たちにとって款いとなることも事実であ  る。   子どもの数だけ子育てがあるように、子育てには正答がない。だからこそ、子育ての悩みは深いし、  どんなにいい子どもでも親にとってはそれなりの悩みが発生することになる。よって、他人の子育ては  参考にはなっても、全く同じケースはないのである。周囲から順風満帆に見えたとしても、親はそれぞ  れに悩みを抱え、乗り越えることで親としての成長を遂げていく。それらの悩みを吐露したり、共感し  たり、受容したり、励ましたり、認識したり、共有したりすることによって、安心することもある。掲  示板はわが子の子育てのあり方を探るための大海であるが、その大海に飲み込まれないように、上手に  舵取りをするリテラシーが必要になる。  ③掲示板の運用の工夫   掲示板の主たる利用者は、子育て中の母親が中心である。彼女たちが現在の状況や気持ち、情報を書  き綴ることが中心になり、白ずと限界が生じる。その限界を認識しつつ、そこから現実世界へつなぐこ  とも検討したい。家庭教育の支援方策としても有効であり、啓発のための活用をすることで新たな情報  提供が可能となる。いくつか例示してみる。  a)専門機関との連携    子育ての悩みや問題が複雑で、専門的なアドバイスや診断等が必要であると考えられる場合、子育 −43−

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 て支援事業の一部である「電話相談・面接相談」を紹介したり、専門医院や医師を紹介するなど、複  数の選択肢を示すことが重要である。掲示板の管理者が書き込みを行い、特別な配慮事項がない限  り、管理者であることを表明する方がよいだろう。 b)男女共同参画の視点   子育ての考え方があまりに性別に囚われすぎている場合、「ひとりの人間としてどうあったらいい  でしょう?」というような、男女共同参画の視点から働きかけたい。お仕着せになったり、価値観の  衝突にらないように、文脈に留意する必要があるが、家庭教育支援の観点から大事なことだと考えら  れる。 c)子育て相談掲示板   掲示板の新しい用途を提案したい。2006年度の取り組みと2007年度の取り組みで、子育て関係の各  種専門家との一問一答を基本とする掲示板を試みた。専門家から回答を得るため、最大一週間の時間  的猶予をもらい運営したが、思いの外多くの質問が寄せられた。質問する際のマナーの問題は残った  が、ちょっとした安心を生みだすには効果があったように感じられる。これについては、後述する。 d)子育てと無関係の内容   掲示板が、およそ子育てとは関係のない内容でしめられた場合、あらかじめ対応を考えておく必要  があろう。株や金融の情報交換が始まった場合、出身校や思い出話のコミュニティができそうな場  合、どうすればよいのだろうか。その情報自体に問題がないとしても、掲示板設置の目的からすると  明らかに逸脱している。いくら楽しかろうと、子どもと向き合う時間が奪われるとすれば問題は小さ  くない。目的外使用については管理者の介入はやむを得ないだろう。 e)子育て広場情報等の提供   子育て支援のための広場を運営している機関があるが、掲示板を利用して参加を呼びかけることは  本来の掲示板設置の目的に合致していると考えられる。きっかけが掲示板であっても、最終的には同  じ境遇の親子が直接交流し合うことによって、子育てを楽しめるよう環境づくりをすることにつなが  る。掲示板も子育て支援の情報提供手段であるし、啓発は総合的に行った方が効果的である。点より  線、線より面で、より多くの親に行き届くよう配慮したい。 0モニター等の外部チェック機能   掲示板について、2006年度に携帯端末を利用したアンケート調査による定量的把握を行った。さら  に踏み込んで実態を把握するには定性的な調査が有効となる。そこで、関心のある方にモニターを依  頼して、利用者の生の声を収集することが管理や運営にも役立つと考えられる。 g)掲示板の自立に向けて   掲示板の内容に関する管理を、ボランティア(利用者)に委ねる方法も検討されるべきである。そ  の場合、安易に任せるのではなく、掲示板の趣旨を十分理解してくれ、無理なく担当できることが条  件となろう。機が熟した段階で検討するよう、視野に入れておく必要があろう。 ④掲示板のリスクとその回避  子育て掲示板には、さまざまなリスクが潜んでいる。近所の人との井戸端会議では問題にならない内 容も、掲示板では大きなトラブルに発展する危険性を孕んでいる。情報は時として発信者の意図せぬ使 われ方、いわゆる「ひとり歩き」をすることがある。情報リテラシーが成熟すれば利用者の貴任におい て判断可能となるが、現状では管理者が一定の基準を設定して管理をする必要があろう。それでは、ト ラブルに発展する危険性を孕む事項を取り上げながら、対応の仕方を例示してみる。

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L , 心 函 E に a)個人情報の取り扱い   個人情報に関する書き込みは原則禁止する必要がある。該当するものとしては、個人名、住所、電  話番号、メールアドレス等が含まれる。不特定多数の人が目にする掲示板であるがゆえに、悪用の危  険性が高いといえる。情報発信者の個人情報もハンドルネーム等で伏せられていることもあり、悪意  をもって書き込まれる可能性がある。避けられるリスクを未然に防ぐことも管理者の貴務である。 b)公共機関の情報の取り扱い   公共性の高い機関の情報であっても、慎重な取り扱いが必要となる場合がある。子育て掲示板の中  で該当するものとして、病院、保育所・幼稚園、学校、行政機関、その他公共に資する機関等が含ま  れる。いずれの機関も利用者の高い関心が想定される。情報源が疑わしかったり、信頼性に欠けた  り、個人的な経験や評価が書き込まれた場合、思わぬ影響や風評が及ぶことが懸念される。このよう  な情報を放置することで損害が発生した場合、訴訟等の問題へと発展する可能性がある。十分注意を  喚起する必要がある。 c)民間情報の取り扱い   各種民間機関は利潤の追求を第一義的な目的と掲げているため、一層の配慮をしなければならな  い。掲示板内で想定されるものとして、企業、ショッピングセンター、商店、商品等があげられる。  結果的に、特定の企業や商品等の宣伝となったり、逆に不利益につながる情報も考えられる。極端な  話ではあるが、業界関係者による意図的な書き込みがないとも限らない。取り扱いの判断基準を設定  するには困難が予想されるが、特定の企業名や商品名については最初から禁止事項としておくか、書  き込みの内容によって対応を随時検討するか、判断の分かれるところである。 d)営業行為につながる情報の取り扱い   営業行為につながる情報は決して許されない。顧客を得るための手段として掲示板を利用したり、  利用者になりすまして特定の商品やお店の宣伝をする行為については、利用禁止等のしかるべき措置  をとる必要があろう。また悪質なケースが判明した場合の対処については、毅然な態度で臨めるよ  う、事前の周到な準備が必要である。 e)書き込み内容の「荒れ」の取り扱い   掲示板における「荒れ」は珍しいことではない。これを未然に防ぐことは困難であると考えられる  ため、介入の段階についてコンセンサスを形成しておくことが大切である。子育てについての書き込  みは、家庭や個人の価値観を色濃く反映するものであり、背景となる考え方の相違から対立を引き起  こしやすい内容でもある。家庭生活の内実が語られるほど、他者が踏み込んだ発言をする余地が増  え、「荒れ」の危険度は増す。その「荒れ」は当該者だけでなく、その他の利用者にも不快感を与え  ることにつながってしまう。そのような事態を避けるための取り組みが必要となろう。 j f その他の問題 子育ての基本は家族がともに時間を過ごし、豊かなコミュニケーションを育むことである。そのた  め掲示板の利用については節度ある態度で臨むよう、あらかじめ明記したり、途中でうながす必要が  出てこよう。 ⑤掲示板の管理方法および管理レベル  掲示板の設置に関して、管理者として留意すべき観点を示しつつ、それらを程度に応じたレベル設定 を行う。 −45−

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a)利用者の管理方法  レベル1:最も緩やかな管理を意味する。利用者は自由に参加が可能となり、管理者の関与は最小限      となる。目を覆うほどの書き込みがない限り管理者は介入しない。限りなく利用者の白己責      任に任せる方法である。  レベル2:レベル1および2の中間的な管理を童昧する。ID(ハンドルネーム)とパスワードによ      る簡易な登録とし、書き込みに対する責任をうながす。管理者と利用者の信頼関係を築くた      めのさまざまな働きかけが求められる。      ニ  レベル3:最も厳格な管理を意味する。利用者情報の登録を行い、管理者から利用者の特定ができる      ようにする。書き込みに関する削除規定も作成し、マナー違反を重ねる場合は利用禁止にす      るなど、管理を徹底する。掲示板の秩序を管理者が守る方法である。 b)書き込み内容の管理  レベル1:白己責任型。利用者は自由に書き込むことが可能で、よほどの誹膀中傷や個人情報の流布      がなければ管理をしない。  レベル2:相互協力型。管理掲示板を設置し、利用者にも管理に協力してもらう。利用者からの削除      依額等を受けて、管理者の判断で書き込み内容への対応を行う。  レベル3:管理型。管理者が定期的に書き込みを監視し、悪質な書き込みを続ける利用者に関しては      利用禁止などの措置をとる。 c)複数の掲示板の設置  ケース1:ひとつの掲示板を設置する。利用者は複数の掲示板を開く必要がないメリットがあるが、      自分にとって不必要な情報を通過しなけれぱならないデメリットが発生する。  ケース2:jつ程度の掲示板を設置する。利用者は必要な掲示板にアクセスし、必要な情報を得たり、      提供したりできる。2006年度は実験的に、「育児相談(明確な目的)」「ねえねえ聞いて(内      容は問わない)j「友達募集(目的の限定)」を設置した。  ケース3 :5つ以上の掲示板を設置する。掲示板の設置目的を明らかにすることにより、目的外の書      き込みを避けることが可能となる。多様な情報を得たい利用者にとっては多くの掲示板を開      く必要があり、煩雑になる。 d)掲示板外の管理  レベル1:掲示板限定型。掲示板以外の子育て支援策とは切り離す。掲示板の範囲内での情報交換に      ついてのみ関知する。  レベル2:バランス・提案型。掲示板以外の子育て支援策についての情報提供を行う。利用者の声を      拾いながら、ニーズにあった情報を提供していく。  レベル3:徹底支援型。定期的にオフ会等開催し、利用者相互の交流を図る。管理者と利用者の顔が      見える掲示板運営をめざす。 ⑥掲示板の運用指針 いくつかの観点から、子育て掲示板の管理や運用に関しての基準や考え方を提示してきた。周知の通 り、他の子育て支援策と同様に、欠陥のない掲示板を現段階で示すことは出来そうもない。掲示板設置 に至る背景も異なるであろうし、エリアとする地域の状況や課題、行政主導か民間主導か、ターゲット とする対象はどの層か、その他実施されている子育て支援策など、多様で多元的なファクターが混在し ている上に、掲示板が設置されるからだ。それらを総合的に勘案して、最適と考えられる選択をするこ

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F ひ ぷ 鯛 回 I とが肝要となろう。  この運用指針では対象としなかったPCを使ったインターネット上の掲示板との相違点について触れ ておこう。というのも、アンケートの自由記述の中でパケット代や圓面の制約等でPCの方が利用しや すいのではないか、との声があったからだ。このような疑問を抱く人が相当数いるのではないかと考え られる。今回は両者を厳密に比較検討したわけではないので、データを根拠に結論づけることはできな いが、運営者相互の情報交換の中で得られた知見をもとに言及する。  まず、PCと携帯の利用者には一般に生活レペルの違いが見られるようで、PCの所有者は携帯も所有 しているが、携帯の所有者は必ずしもPCを所有していない。特殊な言語(文字)利用も携帯利用者の 特徴であり、誤解を恐れずにいえば、利用者層の使用言語のレペルも異なっている。生活レペルと言語 レペル、コミュニケーション・ツールの組合せを考えたとき、子育てに関するさまざまな支援が必要な 層は携帯を主に利用する層だといえるのではなかろうか。  利使性については、PCは端末のある場所でしか利用できず、「ながら利用」が難しいことに対し、携 帯はいつでもどこでも、何かをしながら(例えば、授乳中や移動中)利用できる手軽さの面で優勢であ る。逆に、PCの通信料金は一定で、入力も簡易、文字数制限も気にならない程度であり、情報表示能 力は格段に高いというメリットがある。是非はともかく、総合的に便利なツールという意昧では携帯に 軍配があがりそうである。  多様な層をターゲットとし、閲覧や書き込みの活発な掲示板にしようとすれば携帯の方が選択される であろうし、一定の生活レベル以上の層をターゲットとし、比較的書き込み数の落ち着いた掲示板にし ようとすればPCの方が選択されるであろう。両者とも、利用頻度が高まれば「荒れ」る可能性も増す ことはいうまでもない。  検素機能の充実度から見ると、圧倒的にPCが優れている。したがってPC利用の掲示板は検索語に ヒットし、全国からの閲覧や書き込みが予想される。それ自体が悪いわけではないが、子育て中の親が 欲する情報が地域情報であるとすれば、地域密着型掲示板がひとつのキーワードとなるであろう。一方 で子育ての悩みを共有したい、相談したい場合は、エリア限定である必要性は見つからない。いずれに しても、管理同様すべてのニーズに応えることはできないため、総合的に勘案してベストチョイスをし ていくしかない。

H 携帯子育て掲示板の相談機能とその留意点

1 相談機能設定のねらい  子育てに唯一絶対の正解があるわけではないことを親たちは理解してはいるが、一方で何かにすがりた かったり、専門家に確認したいという気持ちをもっている。ひとつひとつに丁寧に回答することは、ボラ ンタリーな運営を前提とする掲示板には不向きであろうが、子育ての悩みQ&Aをつくる等の一定期間後 に汎用する目的で情報を蓄積することは有効であろう。実際、2006年に実施した子育て相談の掲示板を データベース化し、検素可能な状態にして現在提供している。  しかし、いくら専門的な知識や豊かな経験があるとしても、限られた相手の情報から回答するには限界 を感じる。子どもに関わることなので、慎重にならざるを得ない。その状況がどこから生じるのかを筆者 の回答から解説してみたい。 47

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2 相談への回答  ①字数制限から状況がつかみにくい質問   下記の相談は150字に満たない状況説明で、行間を読んで回答しなければならない。離婚はいつどの  ような経過をたどったのか、再婚に至る経緯の中で現父親と子どもとの関係づくりはどうしたのか、子  どもはすでに思春期に入っているのか、現父親は娘の姿にどのような反応と理解を示しているのか、少  なくともこのような情報を得ていないと、回答は困難である。   これに象徴される字数不足による状況把握の困難さは、メール相談には大なり小なり共通している。  したがって、回答の仕方としては、一般的なことに触れつつ、多楡注を確認し、しばらく様子を見るこ  とを勧める形となる。このケースは母親よりも、父親の対応が鍵となると考えられるため、最後は父親  の心構えに言及した。 <母栽からの質問①>  今月で12才になった娘なのですが私が一昨年再婚をしその主人に対してとてもべったりで主人 の前でも平気で真っ裸で出てくるので、恥じらいとかあってもおかしくない年ごろなのにと心配 になっています。前の主人があまり子供にかまってあげてなかったのも一つの原因と考えてはい ますがどうでしょうか? <筆者の回答①>  子どもさんにもいろいろなタイプがあると思います。思春期の女の子はお父さんや大人の男性 に嫌悪感さえ示すことが一般的なようですが、そこには個人差もあります。お母さんが心配され ることもよくわかるのですが、無理に意識させるのも不自然ですし、娘さんはだんだんと友達と のかかわりの中で、年相応の振る舞いができるようになるのではないでしょうか。むしろ新しい お父さんの心構えの方が重要だと思います。子どもの成長についての夫婦の会話を大事にしてく ださい。 ②父親に関する質問  この質問を読む限り、明らかに未熟な父親であることがわかる。感情的に接する父親の振る舞いに問 題があることは誰しも感じるところである。親子関係のみならず、夫婦関係も対等ではなさそうであ り、DVに関する記述はないが、その恐れも感じさせる。そう考えると、回答の際にうかつに父親批判 をすることで、暴力等取り返しのつかない事態を招くことは避けなければならない。  そこで、父親を正面から貴め立てる回答ではなく、一般的な親としての姿勢に触れている。回答に よって夫婦の関わりがマイナスに展開しないように、逆効果のことについても触れ、環境を準備するこ との重要性を伝えるにとどめた。特に、回答が引き起こすかも知れない影響に配慮しての回答にしてい る。とてもセンシティブな問題である。       − <母親からの質問②>  主人の子育ての仕方でよく喧嘩になります。子供は5、3、1歳の男の子です。一度注意した 事を子供がまたやってしまった時にはオラオラロ調で怒鳴り、3歳の子に対してはまだ上手にで きないのに靴がうまくはけなかったり食べ物をこぼすと頭を叩いたり、寝くじょを言うと足をひ きずることもあります。いつもテレビばかりで自分の機嫌がいい時しか子供を相手にせず、相手 にしたと思ったら話をテレビの話題ばかりでテレビを通してしか話ができないようです。5歳と

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R ` ・ 1 3歳の子は甘えたいのに甘えると怒られると思っているのか顔色を見ています。私はもっと心に 目を向けて欲しいのですが神経質になっていると言われます。私もいつも主人の顔色を見ていま す。お父さんのしつけ、役割に大切なものは何でしょうか。 一仰・-・■■--■-■■■■■■■■■-■-■---一尋■■■-■■■■--■ <筆者の回答①>  お寄せ下さった悩みはありがちですが、母親としてはちょっと心配ですよね。親という漢字を よく見ると「木の上に立って見て」います。最初から木の上に立つことのできる立派な親はいな いでしょうから、私たちは親になる努力をします。子どもに愛情と責任をもって、喜びや悩みを 感じながら、子どもに対してさまざまな役割を演じて、いい親に成長できるのだろうと思います。 親になった以上、そのような気持ちになってもらいたいというのが、私の正直な気持ちです。た だ文面から判断すると、それをストレートにご主人に伝えても効果どころか、逆効果も考えられ ますね。私としては無責任に助言できないというのが本音です。今いえるとすれば、父親として 子どもが愛おしく思えるような体験ができればいいですね。例えば広い芝生の公園でボール遊び やかけっこをする‥・私もこうして父親になったのかな? ③軽度発達障害等が疑われる質問  この質問からは、アスペルガー症候群等の軽度発達障害の可能性が疑われるが、この母親は意識して いないようである。専門家に判断を委ねて子どもが変わるということではないが、子どもの状況を正確 に理解することは大事なことである。誰でも見る掲示板であることと、書き込みの内容だけで「あれこ れ」診断的、指示的発言は不安を助長する危険性が高く、踏み込んだ記述には躊躇する。  共感的に始めて、一般的な暴力(言葉と身体の発達の違い)について言及し、身近な専門家である養 護教諭等への相談、そして母親だけが抱え込むのではなく、父親とともに子どもと向き合うことを勧め る回答とした。 < 親 か ら の 質 問 ③ >   小 学 三 年 の 息 子 の 事 で す が 、 口 よ り も 先 に 手 が 出 て 困 っ て い ま す 。 弟 を よ く 叩 い た り し て 泣 か せ た り 、 学 校 で は 、 頭 に く る と 周 り が 見 え な く な る よ う で 、 そ の 相 手 を 股 っ た り 蹴 っ た り す る そ う で す 。 相 手 が 抵 抗 し て こ な く て 引 き 離 さ れ る ま で や り 続 け る ん で す 。 こ の ま ま で 大 人 に な っ た ら ど う な る ん だ ろ う か と 心 配 で す 。 身 体 も 大 き く 、 今 ま で 負 け た 事 が な い の で 誰 も 、 止 め ら れ る 子 も 同 級 生 に は い ま せ ん 。 と て も 優 し い と こ ろ も 沢 山 あ る の で す が 。 そ ん な 所 を 伸 ば し て 、 穏 や か な 子 供 に な っ て も ら う に は 、 ど う し て や れ ば い い で し ょ う か ? 1 - ・ - - ■ - ■ 響 ・ 争 仰 - - ■ ■ - ■ ■ - ・ 儡 ■ 晶 - 一 個 響 ・ 響 ・ - - 一 呼 ■ ■ ■ - ■ ■ ■ 晶 ・ 儡 - - - - 一 個 - - - ■ - ・ 一 騨 ■ 甲 ■ ■ ■ ■ ■ ■ - 一 晶 一 晶 ・ 晶 ■ 一 個 - - - - ・ 一 皿 ■ 皿 皿 一 晶 - - ■ - 一 響 一 響 個 響 - 9 ■ ㎜ 噛 ㎜ - & 一 晶 一 働 - - - - 一 個 ■ - ・ 響 9 甲 - ■ ■ ■ ■ ■ - 一 睡 - - 一 個 ■ 晶 ■ 響 ■ 響 ■ 個 ■ - - - ・ ㎎ 辱 - 一 蓼 - - - - ■ 血 - ・ 仙 晶 - - 一 個 一 個 - - 一 響 - - ・ 響 ・ 響 - 一 甲 - - ■ ■ ■ ■ ■ < 筆 者 の 回 答 ③ >   子 ど も の 健 や か な 成 長 を 支 え る の っ て 、 難 し い で す ね 。 暴 力 の 場 合 、 必 ず 相 手 が い ま す か ら 、 親 を 巻 き 込 ん で の 問 題 に 発 展 し や す い の が 特 徴 で す 。 言 葉 の 発 達 が 身 体 の 発 達 に 追 い つ い て い な い の で 、 表 現 の 方 法 と し て 暴 力 を 選 択 す る と い う の が 普 通 の 理 解 の 仕 方 で す 。 ( 大 人 に も あ て は ま り ま す 。 そ の 場 合 は 心 の 成 熟 度 が 低 い と い う こ と で し ょ う か 。 ) ま ず は 養 護 教 論 等 、 専 門 の 方 に 相 談 す る こ と を お 勧 め し ま す 。 家 で は な る べ く 子 ど も さ ん と 話 す 機 会 を 増 や し 、 自 分 の 考 え を 言 葉 で ま と め ら れ る ま で 根 気 強 く 時 間 を 共 有 し ま し ょ う 。 お 父 さ ん が い ら っ し ゃ れ ば 、 お 休 み の 時 に 身 体 を 動 か し て し っ か り 関 わ り ま し ょ う 。 早 け れ ば 早 い ほ う が い い で す ね 。 −49−

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まとめと考察  携帯子育て掲示板の運用指針を作成するにあたり、実際の書き込みを分析することで問題の一般化を 図ってきた。ここに至るには、「携帯電話を利用した子育て支援活動ガイドライン作成委員会」(委員長は 筆者が務めた。)の議論が大きく影響を与えた。さまざまな子育て支援を手がける特定非営利活動法人わ ははネットのメンバーは、実際の経験をもとに分析の際のヒントを提供してくれた。経験則とデータをも とに導かれた運用指針は、学術的というよりは実践的であり、そのため有妨匪も高いと考えられる。最後 に、本研究シリーズの振り返りも含めてまとめと考察を行う。 1 掲示板の意義と効果  掲示板の意義や効果はどこにあるのか、という本質的なことがたびたび議論された。有効な情報交換の 場、近くの子育て仲間を得る場、子育てに行き詰まったときに悩みを吐露できる場、子育てを楽しく前向 きに考えられる場、として有効に機能できるような環境が整った掲示板を設置することで、子育て支援の 一助となることが期待できる。その環境づくりの基本となる観点を整理することが一逓の研究の目的と なった。  掲示板の実態を見てみると、かなりの頻度で掲示板を見たり、書き込んだりするヘビーユーザーが出現 した。親子や家族の過ごす貴重な時間を掲示板に費やすところを目の当たりにすると、その必要性に疑問 符がついた。掲示板の設置が、悩める母親たちを掲示板依存へと向かわせるのであれば、子育て支援を逆 行させることになる。「相手は大人であるのだから、掲示板への依存は『はしか』みたいなもので、一度 罹かって気がつけば免疫ができる」と、うそぶいてもいられない。子育ては長い道のりであるとはいえど も、大事な成長発達の時期にある子どもの「その時」はまさにその時しかない。  また、ファッションやブランド等、子育て掲示板の設置目的を大きく逸脱した利用も見られた。あり きたりの表現になるが、節度ある利用をうながさないと、本来必要な利用者が逃げていきかねない。本 来あるべき掲示板の姿と、実態との溝をどのようにして埋めていくかは存外困難である。「人のいないお 店」や「店員がしつこく言い寄るお店」にお客さんが入らないように、管理者の発言が多いと利用者は入 りづらい。掲示板の目的を細かく設定して目的別掲示板を多数設けたり、管理者は子育てに関するコラム を書き込みながらゆるやかに啓発したり、子育て掲示板の範躊を越える書き込みに対して注意をうながし たり、対策はいくつか考えられる。掲示板の目的達成と利用者の要求に祈り合いをつける努力が求められ る。  掲示板のヘビーユーザーの中には、実は気晴らし程度の意識しか掲示板にもっておらず、知らず知らず のうちに人を傷付けてしまうことがあった。掲示板をきっかけに友達を得ようとしている利用者が誠意を もって思いを綴りながら、「一度親子でお会いしませんか」ともちかけた途端、相手は掲示板から姿を消 してしまったことがあった。傷ついた人はその経験が学びにつながり、振る舞いや言動に反映する可能性 がある。しかし、傷付けた人には自覚がないため、残念ながら伺じ事を繰り返してしまう。掲示板であっ ても、端末の先には生身の人間がいるということをよく理解してもらえるような配慮も必要であろう。  携帯端末を使うと、入力の煩雑さや團百の広さ、ちょっとした時間を使った利用になることで、どうし ても文字数に制約が出てくる。通常の文書や会話であれば潤滑泊として交わすであろう言葉が省略される ことにもなる。手近にあるが故に、安易に利用して、相手に不快な思いをさせたりする。簡使なツールで あっても、人と人をつなぐものは文字と記号でしかない。ネチケット等の最小限のルールも、どこかで意 識できるよう配盧する必要がありそうだ。

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F町  親子ともども幸せになれる家庭づくりに、この携帯子育て掲示板がどう貢獣できるのか。社会が急速に 変わっていくように、情報ツールの利用の仕方、依存状態の現れ方なども変化することが想定される。掲 示板の管理者となる場合、いつでもこの原点に立ち返り、現状と向き合う覚悟が必要となろう。 2 携帯子育て掲示板の管理と介入について  掲示板の管理者として内容を管理することは不可避であるし、責任ある管理が管理者の義務として生じ ることも当然である。一定の基準に従い、書き込みの削除をするなどの措置は必要となろう。  一方、書き込み内容についての管理者の介入の仕方についてはいくつか議論が交わされた。まず、管理 者が利用者になりすまして発言を行ったらどうかというものである。利用者は成人であり、その人格を尊 重する立場にたてば、なりすましよりは、管理者としての立場をはっきりとさせた上で発言すべきではな いか、という意見があった。利用者との信頼関係を考えれば、このような対応が妥当ではないか、という 趣意である。しかし、管理者の立場から離れて、ひとりの利用者として発言する機会も尊重されるべきで はないかという意見もあった。管理者である時点でいかなる場面でも掲示板における「公人」とするかど うかで判断が分かれた。  次に、管理者が本やテレビ香組、講演会などの情報を意図的に流して、誘導するということについて議 論が交わされた。特に、行政が関与する形で情報提供をする場合に意見が分かれた。価値中立的な行政で あるべきことを考慮すれば情報提供は慎むべきではないか、という意見であった。すべての情報提供は不 可能であるため、情報の偏向や一定の価値の押しつけにつながる危険性を孕んでいるからである。別の意 見としては、行政はすでに教育政策・公共絞策の一環として図書館ゃヽ本を購人したり、講演会を企圓した りしていることを勘案すると、「偏らない」ことを前提とした情報提供は、利用者の新たな読書活動や学 習活動を誘発する効果があり、認めててもいいのではないか、という意見であった。これらについては掲 示板設置の目的を明確にすることでクリアーできる問題でもある。  第三に、管理者がオフ会を開催したり、集いの広場等の紹介をして、親や子どもの出会いの場を設ける ことについてである。管理者が手厚く便宜を図ることによって、利用者の依存心と無貴任さを助長するの ではないかという疑念が出された。実際に、当該委員会で企画したオフ会でも無断欠席や遅刻があった。 「苦労は避ける」、「誰かがやるまで待つ」、「損得で行動する」などの風潮に拍車をかけることのないよう 配慮する必要がある。掲示板だけで完結させないような働きかけの必要性は認められるが、どこまで管理 者が手を出せばよいのかについては、利用者も含めて議論を重ねるべきであろう。 3 総合的な子育て支援策  子育て支援策は、主に厚生労働の考え方で、出発点は子どもをもつ働く女性の支援、つまり子どもを育 てながら安心して仕事が続けられる社会づくりのための致策といっていいだろう。このことが、子どもの 幸せにどう結びつくかの議論は必ずしも十分だとはいえない。一方、家庭教育支援策は、学習教育の考え 方で、子育て中の親が子育ての道標を得られるような学習の場を提供することにある。  子育て支援の本来的に目指すべきことは何だろうか。子育ての孤立化が起こりやすい現代社会におい て こ く さまざまな子育て支援サービスを利用しながら、基本は親子でともに豊かに成長できる力を養ってい とではないかと考える。サービスを単に消費するのではなく、サービスをエネルギーとして蓄えるこ とにより ろうか。 よりよい親子の関わりを築きつつ、その力を発揮し、自律的な人間に成長することではないだ −51−

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 縦割り行政の弊害というと古臭く聞こえるが、地域で子育てを総合的に支援するためには、行政施策や 民間の活動が有機的につながる必要がありそうだ。それぞれに行われる支援活動が、少なくとも根の部分 では絡みあっていて、時には枝葉が重なり合う場合もある、といったイメージである。ただし、手厚い支 援活動が親の依存心だけを太らすような結果にならないよう配慮する必要がある。イ可とか親に子育ての 力、ともに成長する力を身につけて欲しい。  理想に近づけるための方法が一筋縄ではいかないことは十分理解しているが、子育て支援が場当たり的 になったり、一面的なサービス提供に終始しないよう戒めなければならない。かといって、規範的になり すぎると、本当に支援しなければならない層との乖離が起こったり、拒絶が起こったりする。このこと は、あらゆる制度や法律、政策、サービスなどに共通することで、永遠の諜題なのかも知れない。提供者 としては絶えずサービスの是非を問い続け、場合によっては利用者とともに考えていくことが今後の課題 であろう。少なくとも、そのような繊細な世界へ踏み込んでいることの自覚だけはもち続けたいものであ る。 1 )指稿「高度情報社会における子育て支援の新しい試みとその検証(1)一携帯掲示板の中の母親の  コミュニケーションから考えるー」『香川大学生涯学習教育研究センター研究報告第11号』2006年、  pp.15-34. 2)拙稿「高度情報社会における子育て支援の新しい試みとその検証(2)一携帯掲示板の書き込み分析   を中心にー」日本生涯敦育学会編『日本生涯教育学会論集28』2007年、pp.91-100.

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