土壌の団粒に関する2∼3の仮説の検証
山田宣良
The verification of several hypotheses about soil aggregate
Noriyoshi YAMADA
Abstracl
Several hypotheses about soil aggregate were suggested from the researches in the past 3 0 years.
The author carried out further experiments iμorder to verify them from 1 998 to 2003.
The theories derived from those hypotheses are as follows:
(1)lt isnlt possible to declare th4t the total amount of soil aggregate (water-stable and non-stable ones)is
constant but the change of its quantity is very small.
(2)lt is probable that the water-stable aggregate is 柘rmed after the organic matter in the soil dried up. But it is
insufficient to express the relation among these factors quantitatiyely by the multiple regression equation.
(3)Continuity in the same field is admitted to the theories about soil aggregate but universalism among different
fields isn’t admitted. /
Key words : 土壌の団粒,土壌有機物,相関行列. 緒 言 著者は過去約30年間にわたり土壌の団粒に関する一達 の研究を継統してきた.その中から土壌の団粒の基本的 性質にいくつかの特徴が見出された. そこで平成10∼15年の6年間にわたり,香川大学農学 部作物学研究室の実験圃場において,それまでの研究結 果から示唆された土壌の団粒に関する2,3の仮説の検 証を行った.さらにそれをもとにして,その仮説が時間 五色台A 五色台B
池池池池別別緑緑由鬼堂
戸戸戸戸所所心八良 ケ
ABCDABAB山無平
粒子密度 (g/cm3) 2.67 2.71 2.63 り 乙 n / ` n / 心 n / ` り 乙 n / 心 QJ10J7″h︰︶ QCLr︶Ln LQ 65 只 ︶ r D 2 4 r D 7 C C C a a l n / ″ n / ` n / ハ ︼ 的連続性や空間的普遍性を通じて,一般的性質として認 められうるものであるか否かについて論理的拡張を試み た. 試料採取は原則として各年とも5月3日前後の,土壌 水分が圃場容水量以下まで減少した時に行ったが,時間 的達続性の検証にあたっては必要に応じ11月3日前後に も実施した.また空間的普遍性の検証のため,表−1に 示す母材の異なる香川県下13ケ所の採取試料を加えて比 較検討した.表中における池戸A土は連統性の検証に供 表−1 供試土壌の基本的物理性 砂 分 (%) 一 30 48 557499LO 7766777 71 38 71 54 シルト分 (%) q ︶ 4 36 18 16 ″ り り 乙 21 ︵X︶CQ l 20 43 2 25 粘土分 (%) 4679753529971 21 1111 12n/心 LL (%) -105 57 33 35 73585314196rD 53335335624りJ 46 39 26 26 28 28 ( 7 ) n / ` 27 48 53 23 29 29 IP (%) QCK︶ LrD︲︲H 7︵ぴ 1 0 7 n ノ ` 44 q ︶ 8 q ︶ 1 7 6100 80 60 40 20 % μm 10 100 図一1 土壌の団粒分類模式図 試した実験圃場の表土,/池戸B土は心土である.また五 色台A土,五色台B土,由良山土は粘性土,その他は砂 質土に分類される. 実験の方法 サンプリングは100ml定容採土を深さ30cmまで5cmご とにそれぞれ3個ずつ採取した.実験項目は三相分布, 有機物量と団粒量であり,それぞれ農業土木学会の方法 を準用した(lj . ただし土壌の団粒に関する実験方法は, まだ完全に確立しているとはいいがたいので,ここでは 団粒の強度(耐分散性)を重視した筆者が提案した方 法(2)を採用した.そのうち1995年以前のデータの一部に 不整合性がみられたので,練り返し団粒を除いたものを 共通のデータとした. 図一1に模式的に示したように,この方法は基本的に はJISの粒度分析方法を準用したものである. すなわち,JIS A1203の粒径加積曲線に相当する曲線 土壌水分 有機物量 微細団粒 粗犬団粒 非耐団粒 全団粒 最大値 31.5 5.1 28.7 18.3 1 C Y ︶ 78 QQ 1000 (上)と,分散剤を使用しない場合の粒径加積曲線 (中),乾式ふるい分け法(音波法)による粒径加積曲 蕪(下)の3本を描き,砂粒径とシルト粒径の境界線 (75μm:破線)により,団粒を粗大(耐水性)団粒: 右上,微細(耐水性)団粒:左上,非耐水性団粒:下, の3種に分類して表示している. 結果と考察による仮説の検証 (1)団粒の総量―定の仮説:耐水性粗大団粒,微細団粒 と非耐水性団粒とは収支関係にあり,3者の合計量は 一定であるという仮説. 従来の団粒分析は湿式ふるい分け法によって耐水性団 粒量を求めるのが一般的であり‘3)団粒の増減は単粒と の収支関係として取り扱われることがほとんどであった. ここではそれを拡張し,従来単粒とみなされていた土粒 子のうちで非耐水性団粒のみが耐水性団粒の形成に関与 しているものと考えた. 表−2 各因子の統計量 最小値 32698nx︶ H H ¥9 691544 平均値一 22.2 4.2 21.9 13.4 24.9 9 り 0 r り 標準偏差 5.22 0.78 3.00 NCY︶CNlro7 I I INCY︶Lr︶ 変動係数 0.236 0.187 0.137 0.158 0.141 0.095
この仮説を検証するために6年間の団粒の質的変化を 同時に測定した土壌水分,有機物量とともに諸統計量で 表し,その中でもとぐに変動係数に着目した.その結果 は表−・2に示す. この表からわかるように,変動係数は土壌水分の値が 他の項目より有童に大きく,また全団粒は有童に小さい, その他の項目間の差は有意ではなかったが,経験的に示 唆された順位とほぼ一致しており,土壌水分の大幅な変 動と有機物量の変動とに伴い,図一1で区分された団粒 相互間に収支関係が成立する可能性がある. 土壌水分 有機物量 微細団粒 粗大団粒 非耐団粒 6 4 1 1 2 1 10 8 表−3 土壌水分 1.00 ただし一般に全体の変動係数は部分のそれよりも小さ い値を示すことが知られており,全団粒の変動係数が 0.095であったことから,団粒の総量が常に一定であると 断定するまでには至らない.全団粒の変動係数の大部分 は測定誤差と考えられるものの,それでもわずかではあ るが単粒と非耐水性団粒との間にも収支関係が成立する 可能性も否定できない.むしろ従来測定上の制約から同 一視されていた,単粒と非耐水性団粒とを分離して取り 扱うことの有用性が立証されたのではないかと考える. 達統性に関する相関行列と重回帰式 有機物量 −0.8 1.0 q ︶ 微細回粒 −0.76 0 a s01 rn︶OLQO 粗大団粒 −0 79 400 4︶Q a l00 1.00 粗大=0.87微細−0.19非耐十〇.63有機十〇.083水分−6.06
(%)
粗大
6 1 4 21 1 10 8. ( ど y 3 ● Y=−0.18X+17 R=−0.79 ●(%)15
図一2
20 ● 4 ●● ● ● ・ ・● ●● 非耐団粒 0.50 −0.16 −0.31 −0.48 1.00Y=0.61X+10
R=0.64
●5 有機物
/ y / k25 土壌30水分
有機物・土壌水分と団粒との関係30 (2)耐水性団粒は土壌有機物の乾燥によって形成される という仮説:団粒の耐水性は撥水性と密接な関係にあ り,撥水性は有機物の乾燥によって発現する(4).(5' . 撥水性の測定に際して,筆者はゴニオメータによる土 一水接触角直接測定を行ってきたので,まずこの方法を 試みた.しかしながらゴニオメータによる方法はミクロ な視点によるものであるので,データのバラツキが大き く 必ずしも圃場の実状を表しているとはいいがたい面 がみられた.そこでよりマクロな方法として,統計量を 用いた実証を試みた. この仮説の検証のためにまず実験圃場(池戸A,B) の測定結果から各因子間の相関行列を求め,さらに耐水 性粗大団粒を目的変数とし土壌水分量と有機物量とを含 む4因子を説明変数とした重回帰式を求めた.その結果 は表−3に示すとおりである. この表からわかるように,耐水性団粒は土壌水分と有 意な負の相関をもち,有機物量とは有意な正の相関を示 した.したがって耐水性団粒が土壌有機物の乾燥によっ て形成されるという仮説は,単純相関のレベルでは支持 される.これを数量的に図示すると図一2めようになり, 一次回帰式で表すことが可能となる.すなわち有機物量 1.5%の増加または土壌水分6%の減少により,粗大団 粒を1%増加させることができる. しかしながらこれを重回帰式で表した場合には,表− 3の下式のようになり,本来マイナスとなるべき土壌水 分の係数がプラス,プラスとなるべき定数項がマイナス になるなど,やや非合理的な点があり,数値を代入した 場合実測催との誤差がやや大きくなった.したがって仮 説は有力ではあるが完全とはいえず,重回帰式で表すま でには至らない. (31 団粒の形成に関する法則には(時間的)違続性と (空間的)普遍性があるという仮説. 先に認められた仮説がもし一般的に成立するものであ れぱ,土壌の種類に関わらず法則性が拡張できるものと 考えた.このうち達続性ついては仮説(1),(2)の検証に用 いた実験里場の測定値が6年間の春,秋の採取試料を用 土壌水分 有機物量 微細団粒 粗大団粒 非耐団粒 表−4 普遍性に関する相関行列 土壌水分 1.00 30 20 1 0、一一ご一一 ぐ、由不
団粒
● ● 有機物量 .微細団粒 粗大団粒 −0.23 1.00 0.06 0.54 1.00 −0 00 1 q ` 0 ︵ ぴ Q り 89 00 | X (. 非耐団粒 0.16 −0.27 C Y ︶ − 0 一 ao 00 ・ ・〇I ゝ ・Y=0.64X+1.4
R=0.39
有機物量5(%)10 15 20 図一3 有機物量と粗大団粒との普遍的関係 25いていることからほぼ成立しているものと認め,つぎに 表−1に示した香川県下13ケ所の測定結果相互間の普遍 性を検討した. ただし(1)については証明に供しうるデータが不十分で あったので,ここではとくに(2)の仮説について,同様に 統計的手法による証明を試みた.その結果を表−3と対 応させた相関行列で示すと表−4のとおりである. この表からわかるように,各因子間の相関係数は表− 3の値よりかなり小さく,とくに土壌水分は団粒の形成 には全く関与していない.したがって普遍性の成立は否 定され,団粒に関する法則性は同一土壌を対象として連 続性を論じる場合にのみ成立する可能性が高い. ただし表−4のうちで有童な相関を示した有機物量と 粗大団粒との関係をさらに詳細に検討すると図一3のよ うになり,・有機物が団粒の形成に有効な群と無効な群と に分けて考えることがより妥当となる.すなわち,粗大 団粒が10%以上となりうる群に対しては有機物の施用が 有効であるものとみなすことができるという結果となっ た. これは表−1に示した土壌は砂質土と粘性土とを含み, 農耕地と非農耕地とが混在しているので,土壌分類また は土地利用と関達づけて考究する必要があることを示唆 しているものと考える/ 結 言 土壌の団粒に関する2,3の仮説を検証した結果, (1)耐水性団粒量に非耐水性団粒量を加えた団粒の総量 は,一定であるとはいえないものの変動量は小さく, 団粒相互間に収支関係が成立している. (2)耐水性団粒は土壌有機物の乾燥に伴う撥水性の増大 により形成・維持される可能性が高いが,重回帰式で 表示するまでには至らない. (3)団粒に関する法則には同一地点での測定データの達 続性は認められるが,異なる地点にまで拡張した場合 の普遍性は認められない.ことが判明した. 摘 要 平成10∼15年の6年間にわたり,それまでの研究成果 から得られた土壌の団粒に関する・2,3の仮説の検証を 行った.その結果,団粒の総量(耐水性と非耐水性の 和)は一定であるとまではいえないまでも,ぞの変動量 はきわめて小さいこと.耐水性団粒は土壌有機物の乾燥 によって形成される可能性が高いが,重回帰式で表示ず るまでには至らないこと.団粒に関する法則には連続性 は認められるものの,普遍性は認められないことが判明 した. 引 用 文 献 (1)土の理工学性実験ガイド編集委員会:土の理工学性 実験ガイド,pp.58-61,83-90.農業土木学会,東 京(1983). (2)山田宣良:耐分散性をもとにした土壌の団粒の分類 とその土壌型との関連性,農土論集178,1-6 (1995). (3)土壌環境分析法編集委員会:土壌環境分析法,p.40 博友杜,束京(1997). (4)山田宣良:有機物が土壌の物理性に及ぼす影響,香 大農学報54,21-28(2002). (5)川本他:火山灰土壌の撥水性評価に関する実験的研 ,究,農土論集230,75-83(2004).