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骨の再生を促進する複合多孔質足場材料を開発

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配布) 科学記者会(資料配布) 厚生労働記者会(資料配布)

骨の再生を促進する複合多孔質足場材料を開発

~生体内の細胞微小環境を模倣し、骨再生能力を向上~ 平成 24 年 6 月 6 日 独立行政法人 物質・材料研究機構 独立行政法人 理化学研究所 独立行政法人 国立成育医療研究センター 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田資勝)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(拠 点長:青野正和)の生体組織再生材料ユニット(ユニット長:陳国平)は、独立行政法人理化学研究 所(理事長:野依良治)基幹研究所(所長:玉尾皓平)の伊藤ナノ医工学研究室(主任研究員:伊藤 嘉浩)、および独立行政法人国立成育医療研究センター(所長:名取道也)の生殖・細胞医療研究部(部 長:梅澤明弘)と共同で、骨の再生を促進する複合多孔質足場材料※1)の開発に成功した。 2.けがや病気などによって骨に大きな欠損ができた場合、骨組織が本来もつ再生・修復能力には限り があるため、多孔質材料などの足場材料を用いた再生医療※2)が有望と考えられている。しかし、細 胞親和性と力学強度にすぐれた足場材料を単一の原料から作製することは困難なため、我々はこれま で天然高分子と生体吸収性合成高分子を複合化した多孔質足場材料を開発し、骨の再生に有効である ことを既に示した。ただし、足場材料のみで骨欠損を修復するのには限界があり、骨形成の誘導能力 をいかにして高めるかが課題であった。 3.今回の研究では、骨形成を誘導する BMP4※3)とよばれるタンパク質を、既に開発した足場材料に加 え、BMP4 とコラーゲンスポンジ、PLGA メッシュの三者を複合化した多孔質足場材料を開発することに 成功した。複合化によって BMP4 の生理活性が失われないように、コラーゲンに結合可能なアミノ酸配 列と融合したタンパク質を遺伝子工学の方法で合成した。開発した複合多孔質足場材料は、生体内の ナノ構造を有する細胞微小環境※4)を模倣したものであり、マウスに移植した状態でも骨形成を誘導 する効果が持続した。 4.今回開発したコラーゲン/PLGA/BMP4 複合多孔質足場材料は、大きな欠損をもつ骨組織の再生医療に 役立つことが期待される。また、他の種類の生理活性タンパク質もコラーゲン結合部位を導入した後、 足場材料に複合化することが可能であり、軟骨や皮膚など様々な組織の再生にも応用可能性をもつ。 5.本研究成果は、学術誌 Biomaterials(バイオマテリアルズ)のオンライン電子版に近く公開される 予定である。

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【研究の経緯】 けがや病気などによって骨に大きな欠損ができた場合、生体の本来もつ再生・修復能力には限界 があるが、細胞が増殖するための土台である「足場」材料があると再生・修復が促進されることが 知られている。そのため、足場材料を用いた骨の修復に関する研究開発が行われ、注目を集めてい る。 足場材料の原料として用いられる高分子には、コラーゲンなどの天然高分子やポリ乳酸、ポリグ リコール酸、およびそれらの共重合体などの生体吸収性合成高分子が用いられ、これらが無数の互 いにつながった小さい孔を持つスポンジ(多孔質)状だと細胞の分布が均一になり、再生能力が大 きく向上することがわかっている。コラーゲンはすぐれた細胞親和性をもつが、スポンジに加工し たものの力学強度は低く、容易に変形してしまうという問題があった。一方、乳酸とグリコール酸 の共重合体(PLGA)のような合成高分子はコラーゲンスポンジよりも高い力学強度をもつ多孔質材 料が得られる上、体内で吸収される性質をもつため、再生材料として用いられているが、細胞との 親和性はコラーゲンよりも低い。 そこで、天然高分子、生体吸収性合成高分子の欠点をたがいに補い、長所をいかすために、我々 は両者を複合化した多孔質足場材料を開発してきた。一方で、足場材料のみでは骨欠損の再生を刺 激する能力に限界があるため、骨形成の誘導能力を高める因子を導入することで、さらに高い再生 を実現できる足場材料の開発に取り組んできた。 【今回の研究成果】 本研究では、理化学研究所および国立成育医療研究センターと共同で、細胞との親和性にすぐれ たコラーゲンスポンジ、高い力学強度をもつ生体吸収性合成高分子 PLGA メッシュに加え、あらたに 骨への分化※5)を誘導するタンパク質 BMP4 を含めた三者を複合化した多孔質足場材料を世界に先駆 けて開発した。 生体内には細胞外マトリックス※6)と結合して生理活性を制御し組織再生を誘導するタンパク質 群が存在するが、今回開発した材料はナノ構造を有する生体内のこうした微小環境を模倣したもの である。 開発にあたっては、コラーゲンスポンジと PLGA メッシュを複合化させた後、生理活性をできるだ け保持できるように工夫した方法で BMP4 をさらに複合化した。そして開発した複合多孔質足場材料 を用いて間葉系幹細胞※7)を培養し、細胞の接着や増殖について調べた。さらに、マウスへの移植実 験を行い、骨分化の誘導効果を調べた。 〔開発した材料の作製法〕 骨形成因子 BMP4 をできるだけ生理活性が保たれるような方法で足場材料と複合化した。一般的に は、化学反応を利用した固定化方法が用いられるが、BMP4 のようなタンパク質分子では固定化によっ

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一方、細胞の足場となる複合多孔質材料は、PLGA メッシュの数百マイクロメートルの網目に、コ ラーゲンのマイクロスポンジを形成させることによって作製した。次に、このコラーゲン/PLGA 複 合多孔質足場材料を CBD-BMP4 の水溶液に浸漬することによって、CBD を介して BMP4 をコラーゲン と結合させた。このようにして、コラーゲン、PLGA、CBD-BMP4 の三者を複合化した多孔質足場材料 が得られた。 コラーゲン結合性骨形成タンパク質 (CBD-BMP4)を添加 コラーゲンのマイクロ スポンジと複合化 コラーゲン線維 CBD-BMP4 乳酸/グリコール酸共重合体 (PLGA)メッシュ骨格 コラーゲンマイクロスポンジ コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料のイメージ ナノ構造の細胞微小環境を 模倣した複合多孔質足場材料 今回の成果 コラーゲン結合性骨形成タンパク質 (CBD-BMP4)を添加 コラーゲンのマイクロ スポンジと複合化 コラーゲン線維 CBD-BMP4 乳酸/グリコール酸共重合体 (PLGA)メッシュ骨格 コラーゲンマイクロスポンジ コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4複合多孔質足場材料のイメージ ナノ構造の細胞微小環境を 模倣した複合多孔質足場材料 今回の成果 このコラーゲン/PLGA/CBD-BMP4 複合多孔質足場材料を走査電子顕微鏡で観察したところ、PLGA メッ シュの空隙にコラーゲンマイクロスポンジがクモの巣状に形成されていることが明らかになった。 〔新材料が骨再生に与える効果〕 今回開発したコラーゲン/PLGA/CBD-BMP4 複合多孔質足場材料が間葉系幹細胞の接着、増殖、骨分 化を促進する効果について調べた。本材料に間葉系幹細胞を播種し、骨分化を誘導する成分を含む 培地を入れた培養プレートで培養した。細胞は 1 時間後には足場材料に接着、均一に分布し、1 日 後には足場材料の空隙が細胞および細胞外マトリックスで埋めつくされた。よって、コラーゲン /PLGA/CBD-BMP4 複合多孔質足場材料は、間葉系幹細胞の接着および増殖を促進することが示された。 複合多孔質足場材料の電顕写真 間葉系幹細胞の足場材料への接着 (分化誘導培養1時間) 足場材料における細胞増殖 (分化誘導培養24時間)

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つづいて、上記のサンプルを胸腺欠損ヌードマウスの背中皮下に移植した。移植 4 週間後にマウ スの体内からサンプルを取り出し、骨分化の指標となるアルカリホスファターゼの活性、カルシウ ムの沈着、骨分化マーカー遺伝子の発現レベルを調べ、これらの結果をもとづいて骨分化の誘導効 果を評価した。まず、アルカリホスファターゼ活性測定の結果、本複合多孔質足場材料を用いて培 養した間葉系幹細胞は高い酵素活性を示した。また、コッサ染色法によりカルシウムの沈着が確認 された。さらに、骨分化マーカー遺伝子は骨分化に特徴的な発現パターンを示した。 以上の結果より、コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4 複合多孔質足場材料は、間葉系幹細胞の接着と増殖、 細胞外マトリックス産生を促進すること、そして骨への分化を強力に誘導することが示された。 【波及効果と今後の展開】 コラーゲン/PLGA/CBD-BMP4 複合多孔質足場材料は、骨再生の足場材料における新しい材料コンセ プトを提供するとともに、今後骨の再生医療に応用されることが期待される。また、今回開発した 方法を応用することにより、骨以外にも軟骨や皮膚など様々な組織の再生を促進する多孔質足場材 料の開発が可能と考えられる。 【用語解説】 1) 足場材料 細胞が接着する足場、および細胞の増殖と細胞外マトリックス産生のための三次元空間を与え、 新たに形成される組織の形状を一時的に保つ役割をもつ材料。多孔質体やゲルが用いられる。 2) 再生医療 事故や病気などによって失われた身体の組織、器官の再生や機能の回復を目的とする医療。骨、 血管や皮膚の再生、人工材料と組み合わせた再生血管移植などの臨床応用も始まっている。 3) BMP4

骨形成因子 4(Bone morphogenetic protein 4)の略称。BMP4 は、生体内と生体外の両方で骨形 成を誘導することのできるタンパク質である。

4) 細胞微小環境

生体内の細胞は、液性因子、細胞どうしの相互作用、細胞と細胞外マトリックス(用語解説「6) 細胞外マトリックス」を参照)間の相互作用により調節を受けている。これらをまとめて細胞微 小環境とよぶ。

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細胞によって産生され、細胞を取り囲む分子組織体で細胞の支持体としての役割だけでなく、機 能調節にもかかわっているといわれている。

7) 間葉系幹細胞

間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell,MSC)は、個体発生初期に生じる間葉とよばれる組織に 由来する細胞で、骨髄のほか体内の様々な組織に存在し、増殖することができる。また、骨、軟 骨、筋肉、骨髄間質、腱、脂肪などの組織の細胞になることができる。 本件に関するお問い合わせ先 (研究内容に関すること) 独立行政法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 生体組織再生材料ユニット MANA 研究者 川添 直輝(かわぞえ なおき) E-mail:KAWAZOE.Naoki@nims.go.jp TEL:029-860-4605 (報道担当) 独立行政法人物質・材料研究機構 企画部門 広報室 〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 TEL:029-859-2026 FAX:029-859-2017 独立行政法人 理化学研究所 広報室 報道担当 〒178-0061 埼玉県和光市広沢 2-1 TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 独立行政法人 国立成育医療研究センター 総務課 〒157-8535 東京都世田谷区大蔵 2-10-1 TEL:03-3416-0181(代表) FAX:03-3416-2222(代表)

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