目 的
現代青年において注目される人格特性の一つに, 自己愛人格傾向を挙げることができる.Kernberg (1975) は病理的な自己愛の特徴として,過度の自 己陶酔,強大な野心,誇大的空想,賞賛への過度 の依存,栄光や権力・美への強い欲求などを挙げ, これらの特徴は他者を愛する能力や共感性の欠如, 慢性的な空虚感,他者に対する搾取などの形で明 らかになると述べた.Raskin & Hall (1981) は健常 者の自己愛人格傾向について,DSM-III (APA, 1980) に記載されている自己愛性人格障害 (Narcissistic Personality Disorder) ほど極端な行動特徴ではな く,病理的な行動傾向を持たない自己愛人格特性 が正常者の中で認められると述べた.これまでの 研究から,自己愛人格傾向にはエネルギッシュで 外向的,自信が強く,自己本位,競争的・攻撃的 で,共感性が乏しい(宮下,1991)という側面と, 不安定な自己像を有している(小塩,2001)とい う矛盾した側面があることが明らかになっている. この自己愛人格傾向の測定については,Raskin & Hall (1979) が 80 項目の自己愛人格尺度(Nar-cissistic Personality Inventory:以下 NPI)を作成 している.この尺度は自己愛的特徴を表現した文 章と,それに対応するそうではない文章の対から 構成されており,二者択一強制選択回答方式がと られている.その信頼性や妥当性は Raskin & Hall (1981)や Emmons (1984, 1987), Raskin & Terry (1988)ら に よ っ て 検 討 さ れ て い る . Emmons (1984) は,「搾取性・特権意識」「主導性・権威 性」「優越感・尊大さ」「自己没頭・自己賞賛」の 4因子構造 54 項目を抽出している.さらに,NPI の妥当性を高めるために,Raskin & Terry (1988) ©日本パーソナリティ心理学会 2006自己愛人格傾向尺度 (NPI-35) の作成の試み
1)小 西 瑞 穂
大 川 匡 子
橋 本 宰
滋賀医科大学精神医学講座 滋賀医科大学精神医学講座 同志社大学文学部
わが国では,自己愛人格傾向の測定について,Raskin & Hall (1979) や Emmons (1984) の自己愛人格尺度 (Narcissistic Personality Inventory; NPI)が邦訳・検討されているが,回答方式や因子構造は研究者によって異 なっている.そこで,本研究ではまだ邦訳されていない Raskin & Terry (1988) の NPI を邦訳し,新たな自己 愛人格傾向尺度 (Narcissistic Personality Inventory-35; NPI-35) の作成を目的とした.調査 1 では探索的因子分 析によって 35 項目 5 因子構造(注目欲求,誇大感,主導性,身体賞賛,自己確信)を見出した.次に調査 2では,他集団のサンプルを対象に確認的因子分析を行い,十分な交叉妥当性を確認した.また,調査 3 に おいては,高い再検査信頼性が確認された.調査 4 では NPI-35 の構成概念妥当性を検討するために,自己 愛人格目録短縮版,顕示尺度,賞賛獲得欲求尺度,自尊感情尺度との関連を検討した.その結果,NPI-35 お よび各下位尺度と他尺度との相関関係が先行研究とある程度一致し,十分とは言えないが,構成概念妥当性 が確認された.
キーワード:自己愛人格傾向,Narcissistic Personality Inventory-35,信頼性,妥当性
1) 本稿の一部は日本健康心理学会第 16 回大会 (2003)
で発表されている.本論文の作成にあたり,貴重な ご意見を賜りました審査者の先生方に心よりお礼申 し上げます.また,調査にご協力下さいました皆様 に深く感謝申し上げます.
はこの Emmons (1984) の NPI を用いて「権威性」 「自己顕示性」「優越感」「うぬぼれ」「搾取性」 「特権意識」「自信」の 7 因子構造 40 項目を報告
している.
わが国においては,たとえば佐方 (1986)が,Em-mons (1984) の NPI や DSM-III の自己愛性人格障 害,Millon (1981) の自己愛人格の解説を参考に 60 項目を作成し,5 件法で回答を求めた結果,3 因 子構造(「優越性・指導性・対人影響力」「自己顕 示・自己耽溺」「自己有能性・自信」)42 項目を 抽出した.また,大石・福田・篠置 (1987) は NPI (Raskin & Hall, 1979) を邦訳し,二者択一強制選 択回答方式を用い,男女それぞれ 4 因子構造(男 性:「リーダーシップ・自己主張」「身体賞賛・ 没頭」「自己有能感」「顕示性」,女性:「リー ダーシップ・自己主張」「自己確信」「顕示性」 「優越性」)54 項目の日本語版 NPI をそれぞれ作成 している.その他,宮下・上地 (1985) や三船・ 氏原 (1991)などが Raskin & Hall (1979)や Emmons (1984) の NPI を用いて,各自の回答方式,因子分 析結果を報告しているが,研究者によって NPI の 回答方式および因子構造が異なっているという現 状がある.
近年,わが国では小塩 (1998) の自己愛人格目 録短縮版(Narcissistic Personality Inventory-Short version:以下 NPI-S)が用いられることが多い. NPI-Sは大石ほか (1987) の NPI の回答方式や質問 文の表現,質問項目数などに検討を加えて作成さ れ,「注目・賞賛欲求」「優越感・有能感」「自己 主張性」の 3 因子構造 30 項目から構成されてい る.NPI-S には少ない項目で自己愛人格傾向を測 定できるという利点があるが,これまでに報告さ れている自己愛人格傾向を測定する尺度では 4 因 子以上が抽出されている.つまり,NPI-S で測定 される自己愛人格傾向には,自己愛の概念の起源 であるナルキッソス神話に描かれている自己の身 体的な外見に没頭する様や自分の行動や考えに自 信を持ち,確信的に捉えている様といった自己愛 人格傾向を捉える上で重要な側面が測定されてい ない可能性がある.特に,Raskin & Terry (1988) が報告している「うぬぼれ」「自信」といった自 分の身体に対する自信や自分自身の行いや考え方 を確信的に捉えている態度の測定に関して,NPI-S はあまり考慮に入れていないと思われる.これら は自己愛性人格障害の臨床像と合致した因子であ り,その特徴を表す上で重要な側面を担っている と考えられる. 加えて,NPI-S やその他既存の尺度で測定され る自己愛人格傾向には,いくつかの点で検討を要 する課題が残されていると思われる.すなわち, 臨床場面でしばしば患者に見られ,また DSM-IV-TR (APA, 2002) の診断基準でもある美,特に身体 美への耽溺,誇大感,過度の注目欲求と顕示性, さらに自己を確信的に捉えている様などの重要な 人格特徴が十分に測定されているかという点につ いてである.従って,本研究では自己愛性人格障 害の特徴を参考に,既存の尺度ではあまり重要視 されていない,以上の点を考慮に入れた尺度を作 成することを目的とした. 近年, 米国での自己愛人格傾向の測定には, Raskin & Terry (1988) の NPI が主に用いられてい るが,それを用いたわが国の研究はまだ見当たら ない.なお,Raskin & Terry (1988) の NPI の利点 としては,多様な因子を含んでおり,自己愛人格 傾向の構造を多角的に捉えることが可能であると 同時に,従来の NPI に比べて項目数が少ないとい う点が挙げられる.また,わが国では Raskin & Hall (1979) や Emmons (1984) の作成した NPI が その研究の中心となっており,加えて,十分に尺 度の信頼性・妥当性が検討されたものは少なく, NPI-S(小塩,1998)においても筆者の知る限り, 再検査信頼性や構成概念妥当性の検討はなされて いない. 以上より,今後の自己愛人格傾向研究における 発展の一助となり得る,信頼性・妥当性の高い新 たな尺度の開発を本研究の目的とし,以下の各調
査を行った.調査 1 では探索的因子分析を用い て,Raskin & Terry (1988) の NPI におけるわが国 での因子構造を探り,調査 2 では他集団のサンプ ルを対象に確認的因子分析を行うことによって因 子的妥当性および交叉妥当性,調査 3 では再検査 信頼性,調査 4 では構成概念妥当性について,調 査 1 で作成した自己愛人格傾向を測定する尺度の 検討を行うこととした.なお,自己に関する研究 では,文化差が報告されることが多く,本研究に も文化差が影響する可能性がある.その点につい ては探索的に検討し,日本版の自己愛人格傾向尺 度を作成することを目的とした.また,自己愛人 格傾向は青年の間で増加しているという指摘(福 島,1992 ;町沢,1998)があり,青年期には他世 代と比べて最も特徴的に自己愛人格傾向が示され ると考えられるため,本研究では調査対象者に大 学生を用いた.
調査 1
目 的Raskin & Terry (1988) の NPI を邦訳し,わが国 における自己愛人格傾向を測定する新たな日本版 の尺度を作成することを目的とした2). 方 法 調査協力者 大学生 330 名(男性 152 名,女性 178名)を調査の対象に,講義時間の一部を利用 して一斉に行い,その時間内に回収した.平均年 齢は男性 19.24 歳(SD1.16 歳),女性 19.20 歳 (SD1.53 歳)であった.
尺度 Raskin & Terry (1988) の全 40 項目からな る NPI を邦訳し,「全くあてはまらない(1 点)」 から「非常にあてはまる(6 点)」までの 6 件法で 回答を求めた.邦訳にあたっては,先行研究を参 考に原文の意味を適切に反映すること,および自 然な日本語表現になることに注意した.その後, 心理学を専門とする複数の教員と協議を行い,修 正を加えた.なお,この尺度は項目の合計得点が 高いほど,自己愛人格傾向が高いことを示してい る. 結果と考察 全 40 項目の合計点について,t 検定を用いて性 差の検討を行った結果,男女間に有意な得点差は 認められなかった(t(295)0.76, n. s.).従って,男 女込みで全 40 項目に対して因子分析( 主因子 法・ Promax 回転)を行った.その結果,固有値 の減衰状況と因子の解釈可能性から 5 因子構造が 妥当であると判断した.そこで,因子負荷量の絶 対値が.40 未満で 2 つ以上の因子に高い負荷をも つ項目をその都度削除しながら,因子分析を数回 繰り返した結果,最終的に 5 項目が削除され,35 項目 5 因子構造を得た.Table 1 には Promax 回転 後の因子パターン,固有値,累積寄与率,Cron-bachの a 係数を示した. 第 1 因子は 10 項目からなり,「世間の目から見 て抜きん出た人になりたいと思う」「チャンスがあ れば自分をよく見せたい」「注目の的になって目 立ちたいと強く思う」など,他者に自分の存在を より望ましく示し,注目されることを強く期待す る項目に高い因子負荷が見られた.よって,第 1 因子を「注目欲求」因子と命名した.第 2 因子は 8項目からなり,「私は他の人よりも有能である」 「私はまわりの人々よりずばぬけた人間だ」「私は 特別な才能を持った人間だと思う」など,自分は 他者よりも優れた能力を有する人間だと自分自身 を捉える項目に高い因子負荷が見られた.よって, 第 2 因子を「誇大感」因子と命名した.第 3 因子 は 9 項目からなり,「自己主張をする」「私は控え めな人間ではない」「集団の一員よりもリーダー になるのを好む」など,自分の意見や考えを全面 的にはっきりと表出しようとする積極的な態度を 示す項目に高い因子負荷が見られた.よって,第 3因子を「主導性」因子と命名した.第 4 因子は 2) 本稿の翻訳許可は Robert Raskin 先生および Howard
Terry先生からとることが困難な状況であったため,
Robert Hogan先 生 (cf. Raskin, Novacek & Hogan,
Table 1 NPI-35の因子分析結果(Promax 回転後の因子パターン)(N330) I II III IV V 共通性 【I. 注目欲求】 18. 世間の目から見て抜きん出た人になりたいと思う. .73 .19 .15 .09 .17 .59 20. チャンスがあれば自分をよく見せたい. .69 .13 .08 .15 .03 .47 30. 注目の的になって目立ちたいと強く思う. .68 .00 .15 .12 .03 .67 12. まわりの人々に影響を及ぼすような権威を持ちたいと思う. .68 .23 .01 .07 .00 .59 26. ほめられたいと思う. .67 .21 .10 .02 .00 .43 27. 権力を持ちたいという強い意志がある. .63 .24 .07 .08 .10 .51 7. 注目の的になりたいと思う. .61 .05 .13 .17 .13 .55 14. 自分にふさわしい尊敬を受けることを強く主張する. .43 .31 .00 .00 .05 .42 38. 人前に出たとき,まわりの人が私に注意を払ってくれないと .42 .06 .07 .09 .14 .28 落ち着かない気分になる. 25. 欲しいものを全て手に入れるまで気がすまない. .41 .17 .05 .10 .10 .24 【II. 誇大感】 39. 私は他の人よりも有能である. .01 .86 .01 .06 .12 .75 40. 私はまわりの人々よりずばぬけた人間である. .11 .77 .09 .03 .10 .71 9. 私は特別な才能を持った人間だと思う. .01 .68 .11 .08 .02 .64 34. 私は将来,偉大な人になるだろう. .07 .64 .04 .14 .09 .67 8. 私は成功するだろう. .08 .59 .04 .08 .10 .48 5. もし私が世界のルールを作れるなら,もっと世界はよくなるだろう. .04 .47 .01 .21 .02 .18 37. 私は誰かにいつか自伝を書いてもらいたい. .17 .43 .04 .03 .12 .30 13. 自分の思い通りに人を使うのは簡単だ. .06 .41 .23 .04 .15 .36 【III. 主導性】 11. 自己主張をする. .03 .07 .64 .20 .06 .38 2. 私は控えめな人間ではない. .02 .01 .63 .21 .16 .30 33. 集団の一員よりもリーダーになるのを好む. .17 .08 .61 .14 .01 .52 36. 私は生まれつき,リーダーとしての素質を持っている. .05 .19 .60 .10 .05 .61 10. 私はよいリーダーだと思う. .01 .17 .59 .03 .07 .55 3. 私はどんなことでもあえて挑戦する. .05 .05 .49 .05 .05 .23 1. 私にはまわりの人々に影響を与えられる生まれつきの才能がある. .02 .14 .47 .10 .06 .34 32. まわりの人は私の権威を認めているようである. .04 .26 .41 .07 .24 .56 23. みんな私の話を聞きたがる. .10 .04 .41 .01 .17 .26 【IV. 身体賞賛】 29. 鏡で自分自身を見るのが好きである. .07 .06 .04 .79 .03 .61 19. 自分の体を見るのが好きである. .04 .06 .13 .75 .03 .49 15. 自分の体を自慢したいと思う. .12 .18 .05 .51 .03 .43 【V. 自己確信】 22. 物事をやり遂げるのにめったに人には頼らない. .10 .01 .07 .04 .60 .35 6. いつも自分のやり方で,なんでもうまく切り抜けられる. .09 .35 .02 .12 .46 .37 17. 決断には責任を持ちたいと思う. .22 .34 .08 .14 .46 .22 21. 私はいつも自分の行動を理解している. .04 .10 .04 .04 .45 .24 35. どんなことでもみんなを信用させることができる. .05 .07 .25 .20 .41 .46 固有値 4.48 4.92 3.69 2.32 1.72 累積寄与率(%) 12.81 26.88 37.42 44.06 48.98 a 係数 .88 .86 .83 .76 .62 因子間相関 I — .45 .43 .48 .10 II — .59 .49 .37 III — .42 .33 IV —- .22
3項目からなり,「鏡で自分自身を見るのが好きで ある」「自分の体を見るのが好きである」「自分の 体を自慢したいと思う」という自分の身体に耽溺 し,自信を抱いていることを示す項目に高い因子 負荷が見られた.よって,第 4 因子を「身体賞 賛」因子と命名した.第 5 因子は 5 項目からなり, 「物事をやり遂げるのにめったに人には頼らない」 「いつも自分のやり方で,なんでもうまく切り抜 けられる」「決断には責任を持ちたいと思う」な ど,自分が起こす行動に関して自分自身を肯定 的,確信的に捉える内容の項目に高い因子負荷が 見られた.よって第 5 因子を「自己確信」因子と 命名した.また,各下位尺度の a 係数が.62 か ら.88 と良好であること,尺度全体の a 係数が.92 であることから,ほぼ十分な内的整合性が認めら れたと言える.そして,35 項目全てを加算したも のを NPI-35 総得点として平均値を算出し,各下位 尺度の合計得点の平均値と共に Table 2 に示した. なお,NPI-35 総得点は自己愛人格傾向の総体的概 念を示すもの,下位尺度は自己愛人格傾向を構成 する各側面と捉えた.
この尺度の原版となった Raskin & Terry (1988) の NPI では,7 因子構造が抽出されている.それ らを本研究の 5 因子と比較すると,「注目欲求」 と「特権意識」,「誇大感」と「優越感」,「主導 性」と「権威性」,「身体賞賛」と「うぬぼれ」, 「自己確信」と「自信」との項目内容がほぼ一致
していた.しかし,本研究では Raskin & Terry (1988) が報告している「搾取性」「自己顕示性」 の 2 因子が抽出されていない.「搾取性」とは,反 抗的な態度や敵意感情の強さ,共感性の欠如と, 「自己顕示性」とは外向性や衝動統制の欠如との 関連が報告されている因子である.これらの因子 が抽出されなかった点については様々な要因が考 えられるが,自己認知に関する様々な研究から, 一つの要因として国民性の違いをあげることがで きるだろう.日本人には自己卑下的傾向(高田, 1987)があることや相互協調的自己(北山・唐 澤,1995)を有していること,また欧米では一貫 して見られるポジティブ・イリュージョン (Taylor & Brown, 1988, 1994) が日本人では一貫してみら れず,ネガティブ・イリュージョンとも言える特 徴さえも有している(外山・桜井,2001)という ことが明らかになっている.このような欧米人と は異なる日本人の自己認知が影響し,対人関係を 築く上で重要な協調的態度や適切な衝動コント ロールを行うことが難しい「搾取性」「自己顕示 性」といった 2 つの因子が日本人の視点からは脱 落したのかもしれない.つまり,これらの文化差 や国民性の違いが本研究における 2 因子の脱落に 影響したと考えられる. また,因子数は異なっているが,本研究で得ら れた 5 因子は DSM-IV-TR (APA, 2002)に記述されて いる自己愛性人格障害の症状の中の,特権意識が 強く自分を誇大視し,注目や賞賛を求め,尊大な 態度を示し,美への空想にとらわれているという 特徴に対応している.これは,自己愛性人格障害 の特徴を考慮に入れた尺度を作成するという本研 究の目的の一つを満たす点であるとも言えるだろ う. 次に,大石ほか (1987) が女性のみに報告してい る「自己確信」という因子が,本研究では男女込 みの標本で得られた.この違いについては検討が 必要であるが,「自己確信」という因子そのもの は,自己効力感や自尊感情といった健康的感情と の関連が予測される因子であり,健常者の自己愛 Table 2 NPI-35総得点および各下位因子の合計得点の 平均値(N330) 平均値 NPI-35総得点 111.75 (22.93) 注目欲求 37.07 (8.87) 誇大感 22.48 (7.45) 主導性 27.46 (7.33) 身体賞賛 6.89 (2.81) 自己確信 17.86 (3.65) ( )内は標準偏差
人格傾向を測定するという立場から必要な側面で あると考える.加えて,自己愛という概念が自己 の身体に陶酔するあまり,自らの命を絶するとい う結末を招くという古代ギリシアのナルキッソス 神話に由来していることから,自分の容姿に自信 を持ち,耽溺するといった内容の「身体賞賛」は, 自己愛人格傾向という特性を述べる場合に欠くこ とのできないものと考えられる.この点について は,生地 (2000) も心身医学的臨床の観点から,自 己愛の対象あるいは自己愛の住みかとして,身体 という観点が重要であると主張している.さらに, Raskin & Terry (1988)の「うぬぼれ」と「身体賞 賛」の項目内容は全て一致しており,この点から も「身体賞賛」は自己愛人格傾向を測定する上で 必要な側面であると考えられよう. 以上より,調査 1 で十分な内的整合性を得た 35 項目を,新たな日本版の自己愛人格傾向を測定す る尺度として,NPI-35 と命名し,さらに調査 2 で 他集団のサンプルを対象に因子的妥当性および交 叉妥当性を検討することにした.
調査 2
目 的 調査 1 で作成した NPI-35 の妥当性を検討するた めに,確認的因子分析を用いて因子的妥当性の検 討を行った.なお,調査 1 で得られた因子が他の サンプル集団でも確認することができるかを検討 するため,他集団に調査を行い,交叉妥当性の検 討を目的とした. 方 法 調査協力者 大学生 237 名(男性 95 名,女性 142名)を対象に調査を行った.平均年齢は男性 19.60歳(SD1.49 歳),女性 18.96 歳(SD0.88 歳)であった.調査は実験室で,10 人以内の少人 数による集団法で行った. 尺度 調査 1 で見出した NPI-35 を用いた.回答 方式は調査 1 と同じく,6 件法で行った. Table 3 NPI-35についての確認的因子分析による各項 目の因子負荷量 (N557)I. II. III. IV. V.
項目番号 注目 誇大感 主導性 身体 自己 欲求 賞賛 確信 18. .75 20. .61 30. .83 12. .73 26. .60 27. .71 7. .77 14. .61 38. .52 25. .44 39. .86 40. .86 9. .81 34. .81 8. .70 5. .39 37. .50 13. .54 11. .52 2. .38 33. .75 36. .86 10. .83 3. .40 1. .56 32. .70 23. .47 29. .70 19. .83 15. .72 22. .47 6. .57 17. .24 21. .54 35. .69 因子間相関 I II III IV V I — .67 .63 .55 .29 II — .78 .48 .62 III — .43 .62 IV — .30
結果と考察 調査 1 で得た NPI-35 の因子的妥当性を確認する ために,調査 2 のサンプル全体を対象に確認的因 子分析を行った.分析には SAS の CALIS プロシ ジャを使用し,因子間の相関を仮定して,最尤推 定法による母数の推定を行った.その結果,5 因 子モデルを確認し,各項目の因子負荷量を Table 3 に示した.なお,項目番号は調査 1 と同じである. モデルの説明力を表す適合度指標 GFI は.73,修 正適合度指標 AGFI は.70, 比較適合度指標 CFI は.80 であった.つまり,この 5 因子モデルは観測 されたデータと高い一致とは言えないまでも,あ る程度適合していたと言えるだろう.従って,他 のサンプル集団でも概ね安定した 5 因子構造が認 められたと考えられ,NPI-35 の因子的妥当性がほ ぼ確認された.さらに,内的整合性を調べるため に Cronbah の a 係数を算出し,尺度全体は.94, 「注目欲求」は.89,「誇大感」は.88,「主導性」 は.84,「身体賞賛」は.81,「自己確信」は.71 であ り,調査 2 でも十分な内的整合性が認められた. 従って次に,調査 3 で再検査信頼性,調査 4 で構 成概念妥当性を検討することにした.
調査 3
目 的 NPI-35の信頼性を検討するために,I-T 分析およ び G-P 分析による項目分析と再検査信頼性を検討 した. 方 法 調査協力者 大学生を対象として,2 回の調査 において全てのデータが揃った調査協力者を分析 対象とした.有効回答者は 131 名(男性 45 名, 女 性 8 6 名 ) で , 平 均 年 齢 は 男 性 2 1 . 3 6 歳 (SD1.57 歳),女性 20.71 歳(SD1.25 歳)で あった.なお,時点 1(2002 年 11 月実施)のみ の調査の有効回答者は 153 名(男性 53 名,女性 100名)で,平均年齢は男性 21.40 歳(SD1.56 歳),女性 20.75 歳(SD1.25 歳)であった. 尺度 NPI-35 手続き 再検査法による信頼性を検討するため に,8 週間の期間をあけて NPI-35 の質問紙調査を 同一調査協力者に計 2 度実施した.調査期間は 2002年 11 月から 2003 年 1 月で,授業時間の一部 を利用し集団法で回答を求めた. 結果と考察 NPI-35の項目分析を行うために,2 つの分析を 行った.まず,時点 1 のサンプルについて I-T 分 析を行った結果,すべての項目において有意な相 関が認められ(r(151).24.56, p.01),高い信頼 性が確認された.次に,NPI-35 総得点の中央値を 求め,その中央値によって NPI-35 総得点の高群 (109 点以上),低群(109 点未満)に分け,G-P 分 析を行った.その結果,すべての項目において高 群 の 方 が 低 群 よ り も 有 意 に 得 点 が 高 か っ た (t1.9911.86, p.05).従って,これらの結果か ら,NPI-35 には高い弁別力が備わっていると言え る.なお,t 検定においては,分散が等質でない 項目には Welch の検定を行ったため,自由度は 131から 151 の範囲にある. さらに,NPI-35 の再検査法による信頼性を検討 するために,8 週間の期間をあけた 2 度の調査に おける,測定値の相関係数である再検査信頼性係 数を求め,Table 4 に示した.再検査信頼性係数 は.77 から.86 であり,高い安定性が確認された. a 係数についても,NPI-35 総得点および各下位尺 度が.69 から.93 であり,十分な内的整合性が認め られた.以上の項目分析,再検査信頼性,内的整 Table 4 NPI-35の再検査信頼性係数と a 係数 (N131) 再検査信頼性係数 a 係数 NPI-35総得点 .86 .93 I. 注目欲求 .80 .85 II. 誇大感 .85 .86 III. 主導性 .84 .81 IV. 身体賞賛 .78 .83 V. 自己確信 .77 .69合性の検討から,NPI-35 には十分な信頼性が備 わっていると結論づけることができるだろう.
調査 4
目 的 調査 4 では NPI-35 の構成概念妥当性を検討する ことを目的とした.そのために,NPI-35 と NPI-S (小塩,1998)および Edwards Personal Preference Schedule(以下 EPPS; Edwards, 1954)の顕示尺 度,賞賛獲得欲求尺度(菅原,1986),自尊感情 尺度(山本・松井・山成,1982)との関連を検討 した.なお.NPI-35 と各尺度との関連については 以下のような仮説を立てた. NPI-35と NPI-S は,どちらも自己愛人格傾向を 測定しており,NPI-35 総得点および各下位尺度と NPI-Sとの間には正の相関が存在すると予測され, 特に NPI-35 の「注目欲求」と NPI-S の「注目・賞 賛欲求」,NPI-35 の「誇大感」と NPI-S の「優越 感・有能感」,NPI-35 の「主導性」と NPI-S の「優 越感・有能感」および「自己主張性」との間には 比較的高い正の相関が存在すると思われる.しか し,NPI-35 と NPI-S の相違点としては項目内容お よび項目数,因子構造およびその数という点,つ まり下位尺度の違いが挙げられる.そこで,NPI-35の「身体賞賛」および「自己確信」は上記の 3 尺度とは異なり,NPI-S との間には比較的弱い正 の相関が存在すると考えられる. 次に,顕示尺度については,得点が高いほど自 分が成し遂げたことを好んで話したり,人前で自 分の容姿について注目されたり,話題にされるよ うにするといった特徴を示している.つまり,顕 示尺度との相関関係については,NPI-35 総得点お よび特に「注目欲求」「誇大感」「主導性」と顕示 尺度の間に,高い相関が認められると考えられる. 賞賛獲得欲求尺度は,他者に自己呈示する際 に,自己の演出の仕方を方向づける欲求の一つで ある,他者から賞賛されたいという欲求を測定す るものである.従って,NPI-35 の「注目欲求」と 高い相関を示し,その他の NPI-35 の各下位尺度と もある程度の相関を示すと思われる. 最後に,自尊感情尺度についてはこれまでも自 己愛人格傾向と自尊感情との関連は検討されてお り,小塩 (1997) は「注目・賞賛欲求」と自尊感情 との間に有意な相関が認められないことを報告し ている.よって,NPI-S の「注目・賞賛欲求」と類 似した下位尺度である「注目欲求」と,本研究で 用いる山本ほか (1982) によって邦訳された Rosen-berg (1965) の自尊感情尺度との間においても有意 な相関は見出されないと考えられる.その他の下 位尺度については,自分自身への自信や肯定感と 関連している概念であると考えられ,自尊感情と の間にある程度の正の相関を示すと思われる. 方 法 調査協力者 2回にわたる調査を実施し,両調 査において全てのデータが揃った調査協力者を分 析対象とした.対象者は大学生で,有効回答者は 98名(男性 34 名,女性 64 名)であった.平均年 齢は男性 21.35 歳(SD1.15 歳),女性 20.78 歳 (SD1.36 歳)であった. 尺度 以下の尺度を用いた. 1. NPI-35:調査 1, 2, 3 と同じく 6 件法で回答 を求めた. 2. NPI-S(小塩,1998):回答は「まったくあ てはまらない(1 点)」から「とてもよくあてはま る(5 点)」の 5 件法で求めた.この尺度は得点が 高いほど,自己愛人格傾向が高いということにな る. 3. EPPSの顕示尺度 (Edwards, 1954):この尺 度は,Edwards (1954) が Murray (1938) の人格理 論にある欲求表を基に,15 の欲求特性を測定する 目的で開発したものであり,日本では肥田野・岩 原・岩脇・杉村・福原 (1970) によって邦訳され, 標準化されている.その欲求特性の一つである顕 示尺度 9 項目のみを本研究では用いた.なお,肥 田野ほか (1970)は社会的望ましさの影響を最小限 にするために,二者択一強制選択法を用いているが,本研究では他の尺度の回答を多件法で求めて おり,調査協力者が混乱せずに回答できるように 配慮し,「まったくあてはまらない(1 点)」から 「とてもよくあてはまる(5 点)」の 5 件法で回答 を求めた. 4. 賞賛獲得欲求尺度:菅原 (1986) が作成し た,他者からの評価に対する欲求についての賞賛 さ れ た い 欲 求 尺 度 の 5 項 目 を 用 い た . 回 答 は 「まったくあてはまらない(1 点)」から「とても よくあてはまる(5 点)」の 5 件法で求め,得点が 高いほどその欲求が強いということが示される. 5. 自尊感情尺度:山本ほか (1982) が邦訳した Rosenberg (1965) の自尊感情尺度 10 項目を用い た.山本ほか (1982) はこれら 10 項目を主成分分 析した結果,単因子構造を成していると判断し, 因子的妥当性を確認している.回答は「あてはま らない(1 点)」から「あてはまる(5 点)」の 5 件 法で求め,得点が高いほど自尊感情が高いことを 示している. 手続き 異なる内容の質問紙 2 組を 4 週間の間 隔をあけて実施した.1 回目は NPI-35 のみ,2 回 目は NPI-S,EPPS の顕示尺度,賞賛獲得欲求尺 度,自尊感情尺度であった.調査期間は 2002 年 11月と 2002 年 12 月で,授業時間の一部を利用し て集団法で行った. 結果と考察 NPI-35の構成概念妥当性を検討するために, NPI-35と他尺度との相関関係を求め,その結果を Table 5に示した.NPI-35 の総得点および各下位尺 度はほぼ全ての他尺度と有意な正の相関が見られ た.ただし,NPI-35 の「注目欲求」は自尊感情 と,NPI-35 の「身体賞賛」および「自己確信」は NPI-Sの「注目・賞賛欲求」および賞賛獲得欲求 とそれぞれ有意な相関は認められなかった.加え て,NPI-35 の「身体賞賛」と NPI-S の「自己主張 性」,NPI-35 の「自己確信」と EPPS の顕示尺度と の間にも有意な相関は見られなかった. NPI-35の「注目欲求」および「誇大感」「主導 性」と NPI-S 各下位尺度との間には全て有意な正 の相関があったが,特に「注目欲求」と NPI-S の 「注目・賞賛欲求」,「誇大感」と NPI-S の「優越 感・有能感」との間にはそれぞれ NPI-S の他尺度 と比して最も強い相関が認められ,仮説は支持さ れた.「主導性」については,NPI-S 全ての下位尺 度と中程度の正の相関関係にあり,それぞれの尺 度と同程度の関連があった.「身体賞賛」と「自 己確信」については,NPI-S 総得点および「優越 感・有能感」との間には正の相関が認められたが, 「注目・賞賛欲求」との間および,「身体賞賛」に ついては「自己主張性」との間にも有意な相関は 存在しなかった.また,いずれの下位尺度も仮説 通り,自尊感情との間にはある程度の相関関係が 認められた.つまり,これらの下位尺度は NPI-S で測定される自己愛人格傾向にはない側面を測定 Table 5 NPI-35と各尺度の相関関係 (N98) NPI-35 NPI-S I II III IV V 総得点 優越感・ 注目・ 自己 EPPS 賞賛獲得 自尊感情 有能感 賞賛欲求 主張性 (顕示) 欲求 NPI-35総得点 .824*** .911*** .867*** .462*** .682*** .787*** .649*** .588*** .554*** .560*** .504*** .375*** I. 注目欲求 .640*** .614*** .212* .420*** .670*** .371*** .744*** .354*** .613*** .642*** .049 II. 誇大感 .731*** .409*** .673*** .687*** .653*** .419*** .516*** .484*** .368*** .435*** III. 主導性 .334*** .482*** .744*** .595*** .529*** .571*** .457*** .431*** .393*** IV. 身体賞賛 .205* .313** .443*** .114 .194 .214* .070 .315** V. 自己確信 .467*** .505*** .147 .453*** .195 .164 .396*** * p.05, ** p.01, *** p.001
していることが示唆され,NPI-35 に特徴的な尺度 と言えるのではないだろうか. 次に,「注目欲求」と自尊感情との間に有意な 相関が見出されないという仮説は支持された.つ まり,自尊感情について,Rosenberg (1965) は他 者と比較することで優越感や劣等感を感じること ではなく,自分自身で自己に対する尊重や価値を 評定する程度であると述べていることから,他者 の存在が重要な位置を占める「注目欲求」と自尊 感情に相関が見出されなかったことは妥当な結果 であると思われる. また,NPI-35 の「自己確信」と NPI-S の「注 目・賞賛欲求」および賞賛獲得欲求との間に有意 な相関が認められなかったことについて考察する. 「自己確信」とは自分が起こす行動に関して自分 自身を肯定的,確信的に捉えるというような内容 を含む下位尺度で,自分に対する強い自信に基づ いて行動を起こすものであり,他者から賞賛を得 たいという欲求に動機づけられて行動するもので はないと考えられる.以上のような点から,他者 からの注目や賞賛を得ようとする欲求との関連が 認められなかったのであろう.「身体賞賛」と NPI-Sの「注目・賞賛欲求」および「自己主張性」,賞 賛獲得欲求との間に相関関係は存在しなかったこ とについても同様に,「身体賞賛」は自分の身体 に対する自己満足によって満たされるものである ために,他者にアピールをして賞賛を得る必要は なく,関連が見出されなかったと推測される. 次に,仮説では NPI-35 の「注目欲求」と NPI-S の「注目・賞賛欲求」は類似の尺度であると考 え,本研究でも有意な正の相関が認められた.し かし,「注目欲求」と「身体賞賛」「自己確信」と の間には弱いながらも正の有意な相関が存在した 一方で,NPI-S の「注目・賞賛欲求」および賞賛 獲得欲求との間には有意な相関は存在しなかった ことから考えると,これらはやや異なる概念であ るのかも知れない.つまり,NPI-S の「注目・賞 賛欲求」はより他者からの賞賛を求める意味合い が強く,NPI-35 の「注目欲求」はより他者よりも 目立ちたいという欲求が強いのかも知れない.し かし,この点については推測の域を出ないため, 今後さらなる検討を行う余地がある. このように,NPI-35 および各下位尺度と他尺度 との相関関係は,全体として先行研究とある程度 一致し,解釈可能な結果であったことから,NPI-35の構成概念妥当性がほぼ確認され,自己愛人格 傾向の概念を測定することが可能な尺度と言える であろう.しかし,「身体賞賛」および「自己確 信」は NPI-35 に特徴的な尺度と考えられ,これら の尺度の必要性については,今後さらなる検討が 必要かも知れない.
全体的考察
比較的項目数が少ないながらも,多様な因子を 含み,自己愛人格傾向の構造を多角的に捉えるこ とが可能であるという利点を持った Raskin & Terry (1988)の NPI を邦訳することを試みた.そこで, 自己愛人格傾向の延長線上に自己愛性人格障害が 存在すると考えた場合に,美しさなどの外見に耽 溺し,誇大感を有し,他者からの注目を求め,顕 示的で自信に満ちているように見えるといった臨 床場面で診る患者の特徴や DSM-IV-TR (APA, 2002) に示される診断基準に関連したものを測定可能な 新たな日本版自己愛人格傾向尺度を作成すること を目的とした. 従って,調査 1 から調査 4 にかけて尺度の信頼 性および妥当性の検討を行った.調査 1 では,十 分な内的整合性を備えた 5 因子構造 35 項目を探 索的因子分析によって得た.それらの項目につい て,調査 2 で他集団のサンプルを対象に確認的因 子分析を行い,5 因子モデルの交叉妥当性が確認 された.調査 3 では,再検査信頼性を検討し,尺 度全体および各下位尺度について,高い再検査信 頼性係数が得られた.さらに,調査 4 では構成概 念妥当性を検討するために,4 種の尺度との相関 関係を求めた結果,先行研究とある程度一致した結果が得られ,その妥当性をほぼ確認した.また, 全調査を通して十分な内的整合性が認められた. 従って,ここに,本研究において作成された NPI-35の信頼性と妥当性が確認され,自己愛人格傾向 を測定する際に,実用可能な尺度の一つとして挙 げることができるであろう. NPI-35の特徴としては,比較的少ない項目で, 自己愛人格傾向の 5 つの側面を評価できること, またその側面には自己愛人格傾向の延長線上に臨 床場面で見られる自己愛性人格障害患者の特性が 存在しているという点が考慮されていることが挙 げられる.従って今後,臨床群と健常群の比較に よって,自己愛人格傾向と自己愛性人格障害の程 度の違いを検討できる可能性があるかもしれない. 最後に,今後の課題について述べる.海外にお ける先行研究では,自己愛人格傾向と社会的望ま しさとの間に有意な相関は見出されない,あるい は負の相関が存在することが報告されている (e.g., Raskin & Hall, 1981; Mullins & Kopelman, 1988). しかし,日本における自己愛人格傾向と社会的望 ましさとの関連については,大石ほか (1987) が正 の相関,小塩 (1997) が負の相関が存在することを 報告しており,一貫した結果が得られていない. 従って,本研究の NPI-35 においても社会的望まし さの影響を受ける可能性は否定できず,この点に ついては今後注意していかなければならない点で あると言えよう.また,本尺度は逆転項目を含ん でいないため,項目に対して反応の構えが生じて しまう可能性は否定できない.この点についても 併せて検討していく必要がある. また,構成概念妥当性の検討に際して,本研究 では 4 つの既存の尺度を用い,他尺度との相関関 係の存在によって構成概念妥当性を確認した.し かし,本研究の方法のみでは構成概念妥当性が十 分に確認されたとは言い難いため,今後は臨床群 と健常群との比較などを通して,さらに,構成概 念妥当性の検討を行う必要があるだろう.また, NPI-35の「身体賞賛」「自己確信」は,NPI-S の 「注目・賞賛欲求」および賞賛獲得欲求との間, 「身体賞賛」については NPI-S の「自己主張性」と の間にも有意な相関が認められなかった.NPI-35 の他の因子と比べて,「身体賞賛」と「自己確信」 には他者評価が影響しない可能性が示唆され,こ の結果は自己愛人格傾向の検討を今後さらに進め ていく上で,興味ある結果と言えるのではないだ ろうか.この点についても,今後さらなる検討を 行う余地があると思われる.また,これら 2 つの 尺度は NPI-35 に特徴的な尺度とも考えられるた め,これらの尺度の必要性についての検討が今後, 必要かも知れない. 引用文献
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Development of Narcissistic Personality Inventory (NPI-35)
Mizuho K
ONISHI1, Masako O
KAWA1and Tsukasa H
ASHIMOTO21Department of Psychiatry, Shiga University of Medical Science 2Department of Psychology, Faculty of Letters, Doshisha University
THEJAPANESEJOURNAL OFPERSONALITY2006, Vol. 14 NO. 2, 214–226
In Japan, many researchers have studied narcissistic personality using Narcissistic Personality Inventory (NPI: Raskin & Hall, 1979; Emmons, 1984); however, different response formats were used and inconsistent factors found by different researchers. We tried to develop a new Japanese version of NPI, after the inven-tory by Raskin and Terry (1988). In Study 1, we explored internal structure of the scale through factor analy-sis, and found five factors: need for attention, sense of grandeur, leadership, praise for the body, and self con-viction. We named it Narcissistic Personality Inventory-35 (NPI-35). In Study 2, the five factors found in Study 1 were verified by confirmatory factor analysis on the data of another sample. Study 3 showed that NPI-35 had sufficient test-retest reliability. Finally, in Study 4, we investigated validity in terms of the corre-lations between NPI-35 and NPI-Short version (Oshio, 1998), exhibitionism scale (Edwards, 1953), praise seeking scale (Sugawara, 1986), and self-esteem scale (Rosenberg, 1965). It was demonstrated that the full-scale NPI-35 and its component full-scales had good correlational validity.