超大型コンテナ船の構造安全対策の検討に係る調査研究
(別 冊)
超大型コンテナ船の極厚鋼板溶接継手部の
脆性破壊防止に関する提言
2009 年 3 月
財団法人
日本船舶技術研究協会
超大型コンテナ船の極厚鋼板溶接継手部の脆性破壊防止に関する提言
目 次 はじめに --- 1 1. 一般 --- 2 1.1 対象 --- 2 1.2 想定条件 --- 2 1.3 適用分類(新造船、現存船) --- 2 2. 極厚鋼板溶接継手部の脆性破壊防止 --- 2 2.1 脆性き裂の発生防止 --- 2 2.1.1 全般 --- 2 2.1.2 新造船 --- 3 -1 建造時の対策 --- 3 -2 就航後の対策 --- 4 2.1.3 現存船 --- 5 2.1.4 就航形態が「1.2 想定条件」と著しく異なる船舶の例 --- 6 2.2 脆性き裂の伝播防止(脆性き裂アレスト設計) --- 6 2.2.1 全般 --- 6 2.2.2 脆性き裂アレスト設計指針 --- 6 3. バットシフトおよび構造詳細 --- 6 3.1 バットシフト --- 6 3.2 構造詳細 --- 6はじめに 船体構造の脆性破壊は、船舶の大規模破壊に至る可能性もあり、確実に防止されるべき ものである。そのためには、まず脆性き裂の発生を防止することが第一義的に重要である ことは言うまでもない。一方、万一 脆性き裂が発生した場合に備えて、適当な箇所で脆 性き裂の伝播を停止させることは、船体構造の脆性破壊防止に対するバックアップ機能と して重要である。従来、現行の船級規則体系は、脆性き裂の発生防止のみならず、脆性き 裂の伝播停止についても有効であると考えられてきた。 近年 コンテナ船の著しい大型化に伴い、従来の使用実績を上回る極厚鋼板が その船体 構造に使用される様になってきた。このような極厚鋼板について、現行の船級規則体系が、 脆性破壊防止について確実に有効であるとは断言できない可能性があることが、最近の研 究により指摘されている。 このような状況を受け、「超大型コンテナ船構造安全対策検討委員会」が平成 19 年に設 置され、極厚鋼板の溶接継手部について、脆性き裂の発生防止、溶接継手部の非破壊検査、 ならびに脆性き裂の伝播防止に関し、三つの作業部会を設け調査検討を行なってきた。 これらの成果を踏まえ、同委員会では、大型コンテナ船の極厚鋼板溶接継手部からの脆 性破壊防止に関し、現実的かつ実効性のある対策を検討し、それらを提言として取り纏め た。本提言が、極厚鋼板を用いた大型コンテナ船の構造安全性の向上に、寄与することを 期待するものである。 1
1. 一般 1.1 対象 本提言は、ハルガーダー強度が、降伏強度 355 N/mm2以上の鋼材強度で設計されてい るコンテナ船を対象として作成されている。 2.1 で述べる脆性き裂の発生防止については、ハッチサイドコーミングおよびコーミン グトップ、上甲板、舷側厚板、縦通隔壁最上層一条、ならびに これらの板部材に取り 付けられるロンジスチフナ、デッキロンジ、船側縦通肋骨 等で、板厚 50mm を超え 80mm 以下の突合せ溶接継手を、対象として考えている。板厚が 80mm を超える突合 せ溶接継手については、別途 脆性き裂発生防止のための対策を検討する必要がある。 脆性き裂の伝播防止対策の対象については、2.2 で述べる。 1.2 想定条件 本提言では、対象となるコンテナ船の就航航路及び就航年数として、溶接継手部初期 欠陥の疲労成長については、北太平洋、25 年を想定している。一方、脆性亀裂発生に おける作用応力としては、北大西洋を 25 年間就航した場合に発生すると考えられる最 大縦曲げ応力を想定している。 また、脆性き裂の発生及び伝播防止に対する設計温度として、大気温度-10℃を想定 している。 これらを含め、本提言の前提となる想定と著しく異なる就航形態や設計条件のコンテ ナ船については、本提言の内容を 適宜 増減して適用することが考えられる。 1.3 適用分類(新造船、現存船) 本指針において、新造船および現存船とは 以下をさす。 新造船: 本提言の「建造時の脆性き裂発生防止対策」を実施した船舶 現存船: 本提言の「建造時の脆性き裂発生防止対策」を実施していない船舶 2. 極厚鋼板溶接継手部の脆性破壊防止 2.1 脆性き裂の発生防止 2.1.1 全般 本節の目的は、対象となる溶接継手について適切な継手管理を行い、想定就航年数 25 年を通じて、脆性き裂の発生が生じないことを確保することにある。 2
2.1.2 新造船 -1 建造時の対策 (1) E 級鋼の溶接継手部は、-10℃における疲労き裂ノッチに対応する破壊靱性値(Kc) が 3000 N/mm3/2以上、またはこれに相当する破壊靭性を有することを、適切な方 法で確認すること。 (2) 対象溶接継手全長に対し、斜角超音波探傷試験(斜角 UT)を実施し、表 1 に示す 手直し基準を超える欠陥が検知された場合には、必要な手直しを行う。手直し後、 少なくとも 24 時間経過してから、再度 斜角 UT を行い手直し基準を越える欠陥が 無いことを確認する。 表 1 新造船(建造時)の超音波探傷試験 手直し基準 溶接方法 手直し基準 CO2 溶接 サブマージアーク溶接(SAW) エレクトロガスアーク溶接(EGW) 溶接線方向 25mm 超 備考 1: 上記手直し基準は、割れや融合不良と言った二次元(平面)欠陥を想定し ている。反射エコー高さの設定や感度補正、あるいは欠陥と判定すべき反 射エコー領域、使用周波数、探傷子の大きさ等 超音波探傷試験の具体的 な実施要領は、二次元欠陥の検出、判定に適したものとすること。 備考 2: 船級協会の関連規定は、上記に関わらず満足すること。 備考 3: 補修溶接等で、被覆アーク溶接(手溶接)を行う場合は、上記に準じ超音 波探傷試験を実施する。 備考 4: 超音波探傷試験の結果について、検知された欠陥の位置やサイズ、手直し の要否、手直しを実施した場合の手直し後の超音波探傷試験結果等を含む 超音波探傷試験記録を作成し、本船に保管すること。 3
-2 就航後の対策 (1) 2 回目の定期検査、およびそれ以降の偶数回目の定期検査において、対象溶接継手 全長に対し、斜角超音波探傷試験(斜角 UT)を実施し、表 2 に示す手直し基準を 超える欠陥が無いことを確認する。手直し基準を超える欠陥が発見された場合は、 必要な手直しを行う。手直し後、少なくとも 24 時間経過してから、再度 斜角 UT を行い手直し基準を越える欠陥が無いことを確認する。 表 2 新造船(就航後)の超音波探傷試験 手直し基準 溶接方法 手直し基準 CO2 溶接 サブマージアーク溶接(SAW) エレクトロガスアーク溶接(EGW) 溶接線方向 25mm 超 備考 1: 上記の超音波探傷試験は、アフロート状態(浮上状態)で実施することを 推奨する。 備考 2: 上記手直し基準は、割れや融合不良と言った二次元(平面)欠陥を想定し ている。反射エコー高さの設定や感度補正、あるいは欠陥と判定すべき反 射エコー領域、使用周波数、探傷子の大きさ等 超音波探傷試験の具体的 な実施要領は、二次元欠陥の検出、判定に適したものとすること。 備考 3: 船級協会の関連規定は、上記に関わらず満足すること。 備考 4: 補修溶接等で、被覆アーク溶接(手溶接)を行う場合は、上記に準じ非破 壊検査(超音波探傷試験)を実施する。 備考 5: 超音波探傷試験の結果について、検知された欠陥の位置やサイズ、手直し の要否、手直しを実施した場合の手直し後の超音波探傷試験結果等を含む 超音波探傷試験記録を作成し、本船に保管すること。 (2) 対象溶接継手に対し、定期検査時を含む 3 年を超えない間隔で、定期的な目視検査 を可能な範囲で実施し、表面き裂がないことを確認する。特に入渠時には、可能な 限り詳細な目視検査を実施し、表面き裂が無いことを確認する。 (3) E 級鋼の溶接継手部の、-10℃における疲労き裂ノッチに対応する破壊靱性値(Kc) が 3000 N/mm3/2より高い、またはこれに相当する破壊靭性を有することが保証さ れる場合、(1)に規定する就航後の超音波探傷試験の実施間隔を、実際の破壊靭性値 に応じて 適宜参酌することができる。[注] [注] 例えば、E 級鋼溶接継手部の、-10℃における疲労き裂ノッチに対応する破壊 靱性値(Kc)が 5000 N/mm3/2以上、またはこれに相当する破壊靭性を有するこ とが確認される場合は、(1)に規定する就航後の超音波探傷試験は、3 回目の定 期検査のみとすることができる。 4
2.1.3 現存船 (1) 2 回目の定期検査、およびそれ以降の毎回の定期検査において、対象溶接継手全長 に対し、超音波探傷試験(斜角 UT)を実施し、表 3 に示す手直し基準を超える欠 陥が無いことを確認する。手直し基準を超える欠陥が発見された場合は、必要な手 直しを行う。手直し後、少なくとも 24 時間経過してから、再度 斜角 UT を行い手 直し基準を越える欠陥が無いことを確認する。 表 3 現存船の超音波探傷試験 手直し基準 溶接方法 手直し基準 CO2 溶接 サブマージアーク溶接(SAW) エレクトロガスアーク溶接(EGW) 溶接線方向 25mm 超 備考 1: 上記の超音波探傷試験は、アフロート状態(浮上状態)で実施することを 推奨する。 備考 2: 上記手直し基準は、割れや融合不良と言った二次元(平面)欠陥を想定し ている。反射エコー高さの設定や感度補正、あるいは欠陥と判定すべき反 射エコー領域、使用周波数、探傷子の大きさ等 超音波探傷試験の具体的 な実施要領は、二次元欠陥の検出、判定に適したものとすること。 備考 3: 船級協会の関連規定は、上記に関わらず満足すること。 備考 4: 補修溶接等で、被覆アーク溶接(手溶接)を行う場合は、上記に準じ非破 壊検査(超音波探傷試験)を実施する。 備考 5: 超音波探傷試験の結果について、検知された欠陥の位置やサイズ、手直し の要否、手直しを実施した場合の手直し後の超音波探傷試験結果等を含む 超音波探傷試験記録を作成し、本船に保管すること。 (2) 対象溶接継手に対し、定期検査時を含む 3 年を超えない間隔で、定期的な目視検査 を可能な範囲で実施し、表面き裂がないことを確認する。特に入渠時には、可能な 限り詳細な目視検査を実施し、表面き裂が無いことを確認する。 (3) (1) に関わらず、E 級鋼の対象溶接継手の破壊靭性値が、-10℃、疲労ノッチ換算 で 3,000 N/mm3/2以上、またはこれと同等の破壊靭性を有することが適切な方法で 確認、保証できる船舶にあっては、2.1.2-1(2)に規定する超音波探傷試験を実施すれ ば、2.1.2-2 の規定を準用して差し支えない。 5
2.1.4 就航形態が「1.2 想定条件」と著しく異なる船舶の例 (1) もっぱら「欧州-アジア航路」に就航する船舶で、建造時の溶接継手の管理として、 2.1.2-1 を満足する船舶の場合、2.1.2-2(1)の就航後の超音波探傷試験は省略できる。 (2) もっぱら「北大西洋航路」に就航する船舶で、建造時の溶接継手の管理として、 2.1.2-1 を満足する船舶の場合、2.1.2-2(1)の就航後の超音波探傷試験は、2 回目の 定期検査、およびそれ以降の毎回の定期検査で実施する必要がある。 2.2 脆性き裂の伝播防止 2.2.1 全般 脆性亀裂アレスト設計の目的は、脆性き裂が万一 発生した場合に、その脆性き裂を適 切な箇所でアレスト(停止)させ、船舶の脆性破壊を防止することである。 2.2.2 上述の目的で、大型コンテナ船に対し脆性き裂アレスト設計を行なう場合は、(財) 日本海事協会の作成による「大型コンテナ船の脆性き裂アレスト設計指針」による こと。 3. バットシフトおよび構造詳細 3.1 バットシフト ハッチサイドコーミングの突合せ溶接継手(バット継手)と上甲板の突合せ溶接継手 (バット継手)は、適当な距離 離さなければならない。または、脆性破壊発生防止に 関し、このバットシフトと同等の効果を有する設計を行う。 3.2 構造詳細 脆性き裂の発生を防止する観点から、建造時にあっては、通常の船体構造に対する疲 労強度設計、管理に加えて、艤装品と船体構造との取合いや小開口の形状、配置等に も十分な考慮を払うこと。特に注意すべき項目として、例えば次のようなものが挙げ られる。 【構造詳細に注意すべき事例】 ・ ハッチカバーリセスやコンテナパッド等の艤装品と船体構造の取合い部にあって は、過度の剛性の違いが生じないように、艤装品端部にテーパーを設ける、あるい は取付け箇所の船体構造を適宜増厚するなど、配慮する。 ・ 船体構造と溶接により取付けられる艤装品については、その材質や溶接方法に配慮 する。 ・ ドレーンホール等は、過度の応力集中が生じないよう形状に配慮する。また、応力 集中部には溶接継手を設けないようにする。 6