要約:1972 年に日中国交が正常化して以来,日中関係は時代とともに変化しつつある。90 年代から,日中両国間に競争意識や多様なレベルにおける相互不信が広がっている。そし て,2010 年尖閣諸島衝突事件をきっかけに,日中関係の悪化は世界中からの注目を浴びて いる。本稿は,1972 年から 2012 年までの尖閣諸島問題に関する朝日新聞と読売新聞の社 説を対象とし,内容分析と併せて計量テキスト分析で検討したものである。両新聞のスタ ンスによって,関連社説における報道の重点および論調の相違があることが明らかになっ た。一方,尖閣諸島問題の顕著化とともに,尖閣諸島を自国の領土として定着したものと して報道する傾向は両新聞の関連社説に一致していることが読み取れた。 キーワード:尖閣/釣魚諸島 社説分析 計量テキスト分析 目次 1.はじめに 1-1.研究背景・問題意識 1-2.先行研究 2.研究目的・研究方法 2-1.研究目的 2-2.研究方法 3.分析の結果と考察 3-1.社説件数の変化 3-2.上位 50 位内の頻出語の抽出 3-3.「尖閣諸島」の関連語分析 3-4.「尖閣諸島」に関する記述の分析 3-5.「尖閣諸島」と関連が強い語の共起ネットワーク分析 3-6.対応分析で関連報道の特徴 3-7.文章のクラスター分析 4.おわりに ──────────── † 同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻博士後期課程 *2015 年 12 月 8 日受付,査読審査を経て 2016 年 1 月 13 日掲載決定
論文
尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道
について
──1972 年∼2012 年の朝日と読売の関連社説の分析を例に──丁 偉偉
† 411
.はじめに
1-1.研究背景・問題意識 1972 年に日中国交が正常化して以来,日中関係は時代とともに変化しつつある。 1972 年から 1988 年までの,日中関係が蜜月期(1)と呼ばれる時期において,日中の友好 関係の構築を最優先とする共通認識は,両国間の政府・民間に共有される形で発展して きた。しかし 80 年代末から 90 年代に入ると,ベルリンの壁崩壊に象徴される冷戦の終 結に伴い,国際情勢が一変した結果,日中関係に影響する要因はより多様かつ複雑にな った。一方,1978 年から始まった中国の改革開放政策(2)によって,中国経済は 2000 年 代から高度成長が顕著になった。それに対して,1990 年 6 月,バブル経済の破綻に伴 い,日本の経済発展は巨大な打撃を受け,いまだにデフレからの脱却が経済復興の重要 な目標として語られている(3)。こうした情勢変化は経済分野だけではなく,政治におけ る日中両国間の位相変化にも影響してきた。協力関係を重視する 80 年代末までの蜜月 期と異なり,90 年代後半からのライバルとしての競争意識や多様なレベルにおける相 互不信を拡大し,歴史問題と関わりながら,日中間の対立・誤解を煽る争点がより鮮明 に浮かび上がるようになった(4)。 その中で尖閣(釣魚)諸島領有権をめぐる問題(以下,尖閣諸島問題)は他の争点(5) と比べると,歴史的・文献学的要素の多い問題として議論され,資源問題をめぐる対立 が表に出にくい構造になっている。それはなぜかということの解明(6)は困難であるが, 対立問題の構造変化を歴史的に分析し,異なる報道メディアによるフレーミングの共通 点と相違点を明らかにすることが,尖閣諸島問題に対する適切な対応についての手がか りを与える一助となると考える。1972 年の日中国交正常化を最優先させた日中両政府 は,尖閣諸島問題に関してはできる限りふれない,いわゆる「棚上げ論」によって問題 の鎮静化を図った。その結果,尖閣諸島問題は日中関係の大きな障害になることはなか った。しかし,2010 年 9 月 7 日には尖閣諸島付近で起こった中国の漁船と日本の海上 巡視船との衝突事件(以下,尖閣諸島衝突事件),および 2012 年 4 月には東京都知事・ 石原慎太郎(当時)による尖閣諸島「買い取り」宣言をきっかけに,日本政府(民主党 政権)が尖閣諸島を国有化させるという一連の問題(以下,尖閣諸島国有化問題)が発 生した。その結果,尖閣諸島の帰属問題は日中関係に深刻なダメージを与える問題とな り,日米中を中心とした世界の軍事バランスの問題としても注目されるようになってき た。そして 2015 年末の現在でさえ冷え込んでいる日中関係について,この尖閣諸島問 題を避けては語れないようになっている。 以上の略記からでも,日中関係の改善のためには,日中における尖閣諸島問題に関す 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 42る共通認識の構築が最重要課題の一つであることは明らかだろう。1972 年の日中国交 正常化の歴史を遡ると,1950 年代からの「民間外交」,「友好運動」と称される戦後の 日中における非政府間交流,政府間のハイレベルな交流を含む様々な努力と模索が積み 重なっていることがわかる。いずれも日中の友好関係を構築する際に重要であるが,そ の促進のためには両国民の相互理解を深め,またあるときにはその反対の役割を果たし てきたマスメディア報道の役割にも注目する必要がある。尖閣諸島問題に関する共通認 識あるいは相互「異見」の明確化を可能にするのは,直接的には日中政府間の交流,そ れを支える両国民間の相互理解であり,そしてそれらを安定化させるのはマスメディア の役割に負うところが多い。本研究ではこのような三者三様の力学関係について,マス メディアにおける報道という視点から検証する。 1-2.先行研究 先述のように,尖閣諸島問題は日中国交正常化から長年にわたって「棚上げ」の状 態(7)にされており,日中関係への悪影響は少ないと考えられてきた。それ故,尖閣諸島 問題への関心は限られており,関連研究の数も多くないといえる。しかし,2010 年 9 月の尖閣諸島衝突事件をきっかけに,関連研究は増加しつつある。これまでの先行研 究(8)は,尖閣諸島領有権の帰属に関する歴史資料や文献の整理,および日中関係への影 響に関する議論などが行われ,主に歴史的検証や国際法および国際政治の領域に限定し た考察であるといえる。その中で尖閣諸島問題と並んで北方領土問題と竹島問題とい う,いわゆる,日本の三つの領土問題を全体的に比較分析した研究(9)が注目されてい る。この研究は,第二次世界大戦及び戦後日本の歴史と国際情勢の変化から,日米間の 外交資料に基づき,領土問題に関する新たな視点を提供したとして高く評価されてい る。 さらに,尖閣諸島問題における米国の対応が注目されるようになったことによって, 尖閣諸島問題は日中間の問題の枠組みを超えてとらえられるようになった。この点に注 目し,沖縄返還協定までの尖閣諸島問題における米国の立場や政策を歴史学の観点から 検討した研究(10)もみられる。この研究では,日本の尖閣諸島の領有権に関する主張を 支持したうえで,日米同盟の重要性を強調するという特徴がある。 一方,尖閣諸島問題の関連報道に焦点を当て,内容分析を行った結果,新聞やテレ ビ,インターネットによる情報提供は古典的な意味での対立を煽る面が顕著であると指 摘する研究(11)も挙げられる。これらの研究は特定の時期内の関連報道を取り上げて分 析したものの,長いスパンでの分析を行っていないため,尖閣諸島問題に関する報道の 変化および問題を時系列に把握することができない。 本研究ではこれらの先行研究で十分に検証されていない側面の解明に注力し,同問題 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 43
に関する新聞報道の現状と問題を時系列な分析を行ったうえで,長いスパンの視点から 尖閣諸島問題の顕著化と関連報道との間における相互関係を検討する。
2
.研究目的・研究方法
2-1.研究目的 本研究の目的は,尖閣諸島に関する日本の新聞社説を時系列に比較・分析し,報道の 実態や問題,および時代に伴う報道の変化を明らかにしたうえで,尖閣諸島問題の顕著 化と関連報道の間における相互関係を検討することである。そして,従来の内容分析に 加え,計量テキスト分析の手法を用いて,マスメディア報道(12)の内容を質的分析と量 的分析の組み合わせから検討することも目的の一つである。 そのため,日本の新聞を代表する朝日新聞(以下,朝日)と読売新聞(以下,読売) の社説を分析対象とし,1972 年 1 月 1 日から 2012 年 12 月 31 日までの 41 年間を分析 期間に設定した。これらのデータは両新聞のオンラインデータベース(13)を利用し,「尖 閣諸島 社説」をキーワードとして検索し,東京本社版の朝刊に限定した社説を収集し た。 2-2.研究方法 先述のように,マスメディア報道を多様な研究手法で検討することは本研究の目的の 一つである。ゆえに,分析対象とした朝日と読売の関連社説を内容分析で検討するもの の,伝統的な内容分析(content analysis)に併せ,近年注目されつつある計量テキスト 分析の手法も加えることにする。ここで試みようとする計量テキスト分析は,テキスト マイニング(14)を行う数多くの分析ツール(15)から,研究者の樋口耕一氏によって開発・ 公開されたフリー・ソフトウェア KH Coder(16)を選択する。 具体的な分析手順は,KH Coder の形態素解析により,分析対象の社説に含まれる語 を形態素に分解し,テキストデータのそれぞれの語の頻度を集計する。そのうえで,分 析可能なテキストデータのデータベースを作成し,関連の分析を行う。 本稿はデータの単なる集計のみならず,文脈的な分析のプロセスによる内容の意味構 成に注目し,単語の抽出(頻出語)から,単語と単語の組み合わせ(関連語・記述表 現)に関する分析を行う。そして,文脈での意味構成(共起関係・年代による報道の特 徴・報道のフレーミング)へと分析を進める。つまり,一種の「点−線−面」という段 階的な順番で分析の構造化を試みる。 朝日と読売のスタンスによる尖閣諸島問題に関する報道の特徴と相違を検討するため に,1972 年から 2012 年までの朝日と読売の関連社説を年別ごとに分け,抽出語の分析 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 44と文章のクラスター分析を行う。具体的に 1)はじめに,関連社説の件数を時系列に集 計し,抽出語分析で上位 50 位内の頻出語を抽出することで新聞による尖閣諸島の関連 報道の全体像を把握する。2)次に「尖閣諸島」をもとに上位 20 位内の関連語を抽出 し,尖閣諸島の枕詞(補充表現)をはじめとする関連記述を集計する。そのうえで,同 様な記事で「尖閣諸島」と同時に出現した表現の相互の関連性を,尖閣諸島との共起ネ ットワークで検討する。これらの分析を通じて,両新聞における尖閣諸島を自国の領土 として定着したものとして報道する傾向を明らかにする。3)そして年代ごとに使われ る特徴語を析出する対応分析を行い,両新聞の関連報道の特徴を探る。4)最後に文章 のクラスター分析(17)で関連社説を 5 つのクラスターに分類(18)し,それぞれのクラスタ ーの特徴語および該当する社説の内容に基づいてクラスター名(19)を付け,社説の分類 から報道のフレーミングを検討する。以上の分析を通じて,尖閣諸島問題に関する朝日 と読売の社説の立体像を明らかにしようとする。
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.分析の結果と考察
表 1 は朝日と読売の尖閣諸島問題に関する社説を KH Coder で分析できるテキストデ ータの分析記述を表すものである。文章の単純集計や総語数,および異なり語数から両 新聞において大差がみられないことがわかった(表 1)。 3-1.社説件数の変化 図 1 は 1972 年から 2012 年までの朝日と読売の尖閣諸島問題に関する社説の件数をま とめたものである。朝日の社説は 106 件で,読売の社説は 117 件であることが確認でき た。 朝日と読売において,2009 年までの関連社説の件数は一桁であるものの,2010 年か ら 2012 年までの 3 年間の関連社説の件数(朝日 67 件;読売 88 件)は全体の半分以上 を占めており,激増したことが読み取れる(図 1)。その理由としては,2010 年の尖閣 諸島衝突事件による尖閣諸島問題の顕著化に関わると推測できる。 表 1 朝日と読売社説の分析記述 朝日社説 読売社説 文章の単純集計 集計単位 ケース数 集計単位 ケース数 社説 106 社説 117 段落 1,939 段落 1,761 文 3,520 文 3,018 総語数 80,057 77,872 異なり語数 6,362 5,680 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 45そして 2010 年から 2012 年の 3 年間を除いて,1978 年,1996 年から 1997 年,2004 年の関連社説の件数が他の年よりやや多くみられる。その理由は,これらの年に発生し た,尖閣諸島をめぐる問題(20)によるものである。さらに日中関係の歴史と併せて検討 した結果,尖閣諸島問題と日中関係の変化について関連性を指摘できる。 3-2.上位 50 位内の頻出語の抽出 文章の頻出語を抽出することによって,文章の意味を検討することが可能である。本 稿は朝日と読売の関連社説についてそれぞれに抽出語分析を行い,出現回数による上位 50 位内の頻出語を抽出した。その結果は表 2 で示されている。 抽出した上位の「中国(1 位)」「日本(2 位)」「問題(朝日 3 位;読売 4 位)」「政府 (朝日 5 位;読売 3 位)」「尖閣諸島(朝日 9 位;読売 5 位)」をはじめとする頻出語で示 されたように,両新聞の関連社説は尖閣諸島問題を日中両政府間の問題であるという枠 組みで認識していることが読み取れる。 そして,新聞による異なる頻出語を検討してみると,上位 10 位内の異なる「政権 (朝日 8 位)」「米(読売 10)」で示されたように,尖閣諸島問題について言及する際に, 朝日は政権との関係を取り上げやすい傾向にあることに対して,読売の関連社説ではよ り米国を重視する傾向がみられる。 続いて抽出した頻出語の一致度(21)から見ると,上位の 10 位内の頻出語は朝日の「政 権(8 位)」と読売の「米(10 位)」が異なる以外,他の 9 つの頻出語が一致したことが 確認でき,一致度が 90% であることがわかった。一方,比較の範囲を拡大し,上位 50 位内のすべての頻出語を分析したところ,両新聞において異なる頻出語は 18 語(22)に上 り,頻出語の一致度は 64% までに下がることがわかった。さらに,上位 50 位内のすべ 図 1 朝日と読売の尖閣諸島に関する社説(1972 年∼2012 年) 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 46
ての頻出語を分析した結果,新聞によるスタンスの相違がより拡大している傾向がみら れる。 特に指摘しておきたいのは,朝日のみで「自民党(19 位)」「歴史(23 位)」「安倍 (27 位)」「議員(44 位)」「平和(45 位)」などの頻出語が抽出されたことである。これ らの頻出語は朝日の関連社説が尖閣諸島問題を歴史と関連付け,外交問題としての範疇 を超えて日本の内政運営への影響を重点として報道したことを示唆している。それに対 して,読売では頻出語として「海洋(19 位)」「衝突(23 位)」「周辺(46 位)」「管理 (48 位)」「反日(50 位)」などが抽出された。これらの頻出語で示されたように,尖閣 諸島問題による中国での反日デモの拡大に報道の焦点を当てたうえで,中国の海洋進出 表 2 朝日と読売社説の頻出語リスト(上位 50 位まで) 上位 朝日 読売 上位 朝日 読売 1 中国(639) 中国(827) 26 両国(83) 条約(90) 2 日本(533) 日本(522) 27 安倍(79) 領有(90) 3 問題(303) 政府(304) 28 事件(77) 強化(88) 4 関係(254) 問題(292) 29 韓(76) 領海(86) 5 政府(215) 尖閣諸島(284) 30 民主党(75) 両国(83) 6 首相(203) 日(237) 31 交渉(71) 重要(82) 7 日中(166) 関係(233) 32 必要(70) 国民(79) 8 政権(161) 首相(213) 33 国際(69) 韓国(78) 9 尖閣諸島(147) 日中(186) 34 社会(69) 漁業(78) 10 日(147) 米(156) 35 漁船(68) 国会(78) 11 政治(146) 事件(144) 36 発言(67) 対応(78) 12 経済(136) 必要(137) 37 世界(65) 海保(75) 13 領土(129) 経済(132) 38 中(65) 政権(75) 14 尖閣(128) 領土(128) 39 漁業(64) 姿勢(74) 15 外交(126) 会談(116) 40 協力(63) 外相(69) 16 領有(108) 漁船(115) 41 会談(61) 尖閣(68) 17 主張(107) 主張(106) 42 批判(61) 民主党(67) 18 韓国(105) 求める(104) 43 解決(60) 協力(66) 19 自民党(103) 海洋(98) 44 議員(60) 示す(66) 20 米(100) 外交(98) 45 平和(60) 国内(64) 21 国民(98) 国際(98) 46 責任(59) 周辺(64) 22 政策(89) 政治(95) 47 選挙(59) 戦略(64) 23 歴史(86) 衝突(92) 48 考える(57) 管理(63) 24 国会(85) 交渉(90) 49 国(57) 安全(62) 25 求める(84) 首脳(90) 50 党(57) 反日(62) *括弧内に頻出語の出現回数 *上位 50 位内で朝日と読売の異なる単語を太字で表示 *KH Coder の形態素分析により,「日本」を意味する「日本」と「日」の出現回数が別々に計 算されたこと(「中国」と「中」,「韓国」と「韓」も同様)は避けられないが,表 2 で示され た頻出語の順位はこの点にのみ影響が限られる。 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 47
をけん制するために今後周辺海域の管理を一層強化すべきであるという論調が読み取れ る。 3-3.「尖閣諸島」の関連語分析 尖閣諸島問題の関連社説において「尖閣諸島」が頻出語として抽出されるのは当然で あるといえるが,単語と単語の組み合わせによって文章の意味が構築される。この点か ら,関連社説における「尖閣諸島」の前後関係を検討することは文章の意味を探る手段 の一つであるといえよう。それ故,「尖閣諸島」を検索対象とし,前後に接続する関連 語を抽出したうえで,それぞれの位置付けや単語と単語の組み合わせのパターンから関 連社説の内容を検討する。表 3 は「尖閣諸島」の関連語をスコア(23)順の 20 位までに整 理した結果である。 表 3 から見ると,「尖閣諸島」と接続する関連語の中に,「尖閣諸島沖」という表現の 使用頻度(朝日 19 回;読売 51 回)が朝日と読売ともに最も高いことがわかった。全体 の社説を「尖閣諸島沖」で検索すると,2010 年 9 月の尖閣諸島衝突事件をきかっけに, 朝日と読売は「尖閣諸島沖」という表現を使用するようになり,尖閣諸島衝突事件との 強い関連性がみられる。この点について,朝日と読売の関連社説の件数を集計した図 1 からも,2010 年の尖閣諸島衝突事件による関連社説の激増と一致した結果といえる。 以下の引用(24)は両新聞の関連社説で「尖閣諸島沖」が最初に使用された例である。 東シナ海の尖閣諸島沖で,中国のトロール漁船が石垣海上保安部の巡視船に衝突し,中国人 船長が逮捕される事件がおきた。尖閣諸島は,日本が領土と定めて実効支配しているが,中 国も主権を訴える敏感なところだ。それだけに,双方とも今回の事件には冷静に対処するこ とが大切だ。 (「尖閣 争い海にせぬ知恵を」朝日・2010 年 9 月 9 日) 海上保安庁が,尖閣諸島沖の日本領海内で違法に操業し,立ち入り検査を妨害した中国漁船 の中国人船長を逮捕した。当然の対応だ。政府は国内法にのっとって,厳正に刑事手続きを 進めればよい。 (「尖閣衝突事件 中国人船長の逮捕は当然だ」読売・2010 年 9 月 9 日) そして表 2 の結果と一致したように,「中国(朝日・読売 2 位)」「日本(朝日 5 位; 読売 4 位)」「領有(朝日 3 位;読売 8 位)」「問題(朝日 4 位;読売 6 位)」「政府(朝日 ・読売 9 位)」をはじめとする関連語から,両新聞の関連社説は日中間における尖閣諸 島の領有権をめぐる問題の存在を示唆している。 また,「事件(朝日 7 位;読売 16 位)」「漁船(朝日 15 位;読売 7 位)」「衝突(朝日 11 位;読売 17 位)」などで示されたように,尖閣諸島は漁船による衝突や対立と強い 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 48
表 3 朝日と読売社説における「尖閣諸島」と接続する関連語 N 新聞 頻出語 合計 左合計 右合計 左 5 左 4 左 3 左 2 左 1 右 1 右 2 右 3 右 4 右 5 スコア ① 朝日 沖 19 0 19 0 0 0 0 0 19 0 0 0 0 19 読売 51 0 51 0 0 0 0 0 51 0 0 0 0 51 ② 朝日 中国 28 6 22 3 0 3 0 0 0 7 12 3 0 9.85 読売 67 14 53 4 4 3 3 0 0 8 27 9 9 21.35 ③ 朝日 領有 22 4 18 3 1 0 0 0 1 12 1 2 2 9.083 読売 周辺 21 0 21 0 0 0 0 0 18 1 1 1 0 19.083 ④ 朝日 問題 21 1 20 1 0 0 0 0 2 5 3 7 3 8.05 読売 日本 51 20 31 3 6 5 6 0 0 13 9 5 4 18.317 ⑤ 朝日 日本 22 11 11 4 0 6 1 0 0 4 5 2 0 7.467 読売 国有 22 0 22 0 0 0 0 0 7 14 0 0 1 14.2 ⑥ 朝日 竹島 12 5 7 2 0 0 3 0 0 7 0 0 0 5.4 読売 問題 22 3 19 1 0 1 1 0 8 2 4 5 0 12.617 ⑦ 朝日 事件 12 2 10 1 1 0 0 0 1 3 4 2 0 4.783 読売 漁船 38 1 37 1 0 0 0 0 0 0 10 23 4 10.083 ⑧ 朝日 購入 7 0 7 0 0 0 0 0 3 3 0 1 0 4.75 読売 領有 18 2 16 1 0 0 1 0 2 12 1 1 0 9.283 ⑨ 朝日 政府 12 9 3 1 1 0 7 0 0 0 0 1 2 4.6 読売 26 25 1 4 3 10 8 0 0 0 0 1 0 9.133 ⑩ 朝日 上陸 11 0 11 0 0 0 0 0 0 5 3 3 0 4.25 読売 近海 9 0 9 0 0 0 0 0 6 3 0 0 0 7.5 ⑪ 朝日 沖縄 11 10 1 0 1 9 0 0 0 0 1 0 0 3.583 読売 衝突 34 1 33 0 1 0 0 0 0 0 0 12 21 7.45 ⑫ 朝日 領土 10 1 9 1 0 0 0 0 0 0 3 4 2 2.6 読売 領海 17 3 14 0 0 3 0 0 1 2 2 6 3 5.767 ⑬ 朝日 近海 3 0 3 0 0 0 0 0 2 0 1 0 0 2.333 読売 領土 21 4 17 0 0 4 0 0 0 1 3 5 8 5.683 ⑭ 朝日 周辺 3 0 3 0 0 0 0 0 2 0 1 0 0 2.333 読売 沖縄 14 10 4 0 0 8 2 0 0 2 1 1 0 5.25 ⑮ 朝日 漁船 8 0 8 0 0 0 0 0 0 1 0 6 1 2.2 読売 巡る 10 0 10 0 0 0 0 0 0 9 0 0 1 4.7 ⑯ 朝日 東シナ海 5 3 2 0 0 0 3 0 0 1 0 0 1 2.2 読売 事件 17 2 15 1 0 1 0 0 0 0 1 0 14 3.667 ⑰ 朝日 衝突 6 1 5 1 0 0 0 0 0 1 2 0 2 1.767 読売 魚釣島 8 0 8 0 0 0 0 0 0 6 1 1 0 3.583 ⑱ 朝日 海域 3 1 2 0 1 0 0 0 1 1 0 0 0 1.75 読売 起きる 9 2 7 0 0 0 2 0 0 0 7 0 0 3.333 ⑲ 朝日 東京 4 3 1 0 0 1 2 0 0 0 1 0 0 1.667 読売 実効 8 1 7 0 0 1 0 0 0 5 0 2 0 3.333 ⑳ 朝日 首相 4 3 1 1 0 0 2 0 0 0 1 0 0 1.533 読売 支配 10 2 8 0 0 0 2 0 0 0 5 1 2 3.317 *朝日と読売が同じスコア順の関連語(①,②,⑨)を太字で表示 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 49
関連性を持つことがわかった。尖閣諸島問題に様々な要因が絡んでいるにもかかわら ず,昔からの漁業による衝突および 1970 年代以来の石油をめぐる対立は時代とともに 一層深刻化している。つまり,尖閣諸島問題における漁業,石油をはじめとする資源を めぐる対立の本質が読み取れる。 さらに,「購入(朝日 8 位)」「上陸(朝日 10 位)」「実効(読売 19 位)」「支配(読売 20 位)」を用いて関連社説を分析した結果,Ron E. Hansser(25)が指摘した領土の領有権 を定着させるプロセス(26)に報道が関与していることは,両新聞の関連社説から読み取 れる。2010 年の尖閣諸島衝突事件および 2012 年の尖閣諸島国有化との強い関連性も明 らかである。言い換えれば,領土の領有権を定着させるプロセスに新聞報道が関与して いること(27)は,尖閣諸島をはじめとする領土問題の顕著化かつ複雑化に直接関わって いることが読み取れる。 ここで注意すべきことは,図 1 で示されたように,2010 年の尖閣諸島衝突事件によ る関連社説の激増が以上の分析結果にもたらす影響である。それ故,尖閣諸島問題にお いて,尖閣諸島衝突事件の影響が極めて重要であることが指摘できよう。 3-4.「尖閣諸島」に関する記述の分析 尖閣諸島問題の顕著化によって日中関係が緊張状態になり,両国民の相互の好感度は 下がる一方である(28)。その結果,尖閣諸島問題の関連報道に自国の領有権を示唆する 表現が増加し,尖閣諸島問題でより強硬な対応を求める傾向がみられる。あるいは,以 上の関連報道は両国民の間に対立しあう領土意識を植え付け,相互理解を阻害する一因 になりうる。したがって,両者における因果関係よりも,相互関係の観点から検討すべ きであろう。以下の分析は関連社説におけるいくつかの記述表現を取り上げ,それぞれ の問題点を検討したものである。 表 4 は朝日と読売の関連社説を①尖閣諸島問題への対応を表す記述,②尖閣諸島を日 本の固有領土とする記述,③尖閣諸島の枕詞(補充表現)に関する記述という 3 つのカ テゴリーに分けて整理したものである。 まず,尖閣諸島問題への対応を表す記述の分析(表 4 の①)からみると,尖閣諸島問 題をめぐって,中国に対して強硬な態度を示す「毅然(きぜん)とした態度」という表 現は 1997 年の朝日の関連社説で 1 回のみ使用されたことがわかった。それに対して, 読売の関連社説では中国に対して強硬な態度を示す「毅然(きぜん)とした態度」を強 く訴える傾向(出現回数 11)がみられる。一方,尖閣諸島問題の解決に「話し合い」 の必要性を示唆する表現は朝日と読売の関連社説でほぼ同じように(出現回数:朝日 11;読売 10)使用されたことが読み取れる。このように,朝日の関連社説より読売の ほうが尖閣諸島問題を強硬な態度で対応する傾向がみられるものの,両新聞ともに当問 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 50
題の解決において「話し合い」の重要性を認識しているといえる。 次に朝日と読売の関連社説を分析したところ,尖閣諸島を記述する枕詞(補充表現) の使用は「尖閣諸島(中国名,釣魚島)」,「東シナ海の尖閣諸島」,「沖縄県の尖閣諸島 /沖縄県・尖閣諸島」に分けられることがわかった。それぞれの出現回数と掲載された 年は以上の表 4 の②の部分に当てはまるが,より視覚化し分析できるように「枕詞(補 充表現)×新聞」の分類で以下の図 2 を作成した。 表 4 尖閣諸島に関する記述 朝日社説 読売社説 総出現 回数 掲載の年 (出現回数) 総出現 回数 掲載の年 (出現回数) ① 「毅然(きぜん)」とした態度 1 1997 11 2003・2004(3) 2009・2010 2011・2012(4) 「話し合い」の重要性 11 1978・1995(3) 1996(2)・2010(3) 2012(2) 10 1978(3)・1979 1996(4)・1997 2010・2012 ② 尖閣諸島(中国名,釣魚島) 3 1996(2)・2006 3 1992・1996・1997 東シナ海の尖閣諸島 4 1979・1995 2005・2010 4 1978・2005 2011・2012 沖縄県の尖閣諸島 /沖縄県・尖閣諸島 9 2008・2012(8) 10 2003・2004 2011・2012(7) ③ 日本(の)固有の領土 /わが国固有の領土 7 1978・1979(2) 1996・2010(2) 2012 22 1977・1996(4) 2003・2004(4) 2005・2008 2009(2)・2010(2) 2011(2)・2012(4) *①=尖閣諸島問題への対応を表す表現;②=尖閣諸島を日本の固有領土とする記述;③=尖閣諸島 の枕詞(補充表現)に関する記述 *括弧内に出現回数が 1 回ではない場合のみ表示,括弧表示がない場合は出現回数=1 図 2 「尖閣諸島」の枕詞(補充表現)に関する記述の集計 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 51
表 4 の②と図 2 から見ると,1978 年から 1997 年までの朝日と読売の関連社説におけ る尖閣諸島の枕詞(補充表現)に関する記述は,尖閣諸島問題の存在を示唆する「東シ ナ海の尖閣諸島」と「尖閣諸島(中国名,釣魚島)」に限り,尖閣諸島の領有権を定着 させる「沖縄県の尖閣諸島/沖縄県・尖閣諸島」を使用していないことがわかった。そ れに対して,領有権を定着させる「沖縄県の尖閣諸島」という記述は最初に 2003 年に 読売の関連社説で使用されたことが読み取れる。 一方,中国との領土問題の存在を示唆する「尖閣諸島(中国名,釣魚島)」という記 述は,2006 年の朝日の関連社説を最後に社説の中で使用されなくなった。その理由と して,2006 年以降,尖閣諸島問題が重要な政治問題として注目を集めた結果,読者の 尖閣諸島問題の認知度は一定の段階に達したことに帰することができよう。また,「尖 閣諸島(中国名,釣魚島)」という記述を使用しないようになった朝日と読売の関連報 道から,尖閣諸島を自国の領土として定着したものとして報道する傾向は,中国との間 に領土問題は存在しないという日本政府の見解と一致したと指摘できる。特に 2012 年 の朝日と読売の関連社説で「沖縄県の尖閣諸島/沖縄県・尖閣諸島」という表現がより 頻繁に使用されるようになったことからも,その傾向の深刻化を示唆しているといえ る。同様の傾向は中国の関連報道にもみられる(29)。 そして関連社説をさらに検討すると,尖閣諸島を自国の領土として定着したものとし て報道する傾向を表すもう一つの記述──「尖閣諸島は日本の/わが国固有の領土であ る」という表現も両新聞に頻繁に使用されるようになったことがわかった。その集計の 結果は表 4 の③と図 3 にまとめたものである。 表 4 の③と図 3 からみると,「尖閣諸島は日本の/わが国固有の領土」という記述は 1977 年の読売社説にすでに使用されていたことがわかった。さらに 1978 年と 1979 年 図 3 日本の固有領土の出現回数 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 52
以外のすべての年で,読売の関連社説において使用されており,朝日の関連社説よりも 読売のほうが「尖閣諸島は日本の/わが国固有領土」という記述を頻繁に使っているこ とが読み取れる。以上のように,読売では尖閣諸島の領有権を強調する傾向があるとい える。 3-5.「尖閣諸島」と関連が強い語の共起ネットワーク分析 共起ネットワーク分析とは,出現パターンが類似する単語を線で結んでネットワーク を描くことによって共起関係を表すものである。本節では,共起ネットワーク分析を通 して,同じ記事で「尖閣諸島」と同時に出現した表現の相互関係を比較し分析する。そ の分析結果から両新聞における「尖閣諸島」に関する議論の共通点や相違点を検討す る。 まず,図 4(30)は朝日社説における尖閣諸島との共起ネットワークを表すものであり, 「内政運営──尖閣諸島(経済・合意)──首脳会談(協力)」の間に共起関係がみら れ,協力の構図を示唆している。 具体的にみると,朝日の関連社説で尖閣諸島をアクターとして分析した結果,「政権 −自民党−政策−民主党−選挙」などの共起語で示されたように,日本の「内政運営」 との共起関係がみられる。その一方,「尖閣諸島(経済・合意)」問題の影響および対策 を示す「首相−批判−経済−合意」などの共起語と併せて,尖閣諸島問題の解決方法と 図 4 朝日社説の「尖閣諸島」との共起ネットワーク 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 53
しての「首脳会談」への期待を示唆する「会議−首脳−会談−協力」という共起語がみ られる。これらの共起語で示されたように,尖閣諸島問題による日中の経済への影響を 懸念する両国の首相をはじめとする,合意形成に欠かせない政府間の会談と協力の重要 性も浮かび上がるようになった。 簡単にまとめると,朝日の関連社説においては,尖閣諸島との共起ネットワークから 日本の内政と外交ともに関わる当問題を「話し合い」で解決を図ろうとする協力の構図 が読み取れる。 一方,図 5(31)は読売の関連社説にみられる尖閣諸島との共起ネットワークであり, 「尖閣諸島──衝突事件──国有化──領有権の主張──中国の抗議措置(反日)── 日本の対抗措置(海上保安庁の巡視強化)」の間に共起関係がみられ,朝日と異なる対 立の構図を示唆している。 具体的にみると,尖閣諸島をアクターにした結果,最も密接な共起関係を表すネット ワークに「歴史−固有−領土」をはじめとする領有権に関する記述,そして尖閣諸島衝 突事件を示唆する「中国−漁船−事件−衝突」などの共起語がみられる。また,資源問 題を表す「海底−石油−主張」や,中国の抗議活動を示す「抗議−反日−上陸」,およ び日本の対抗措置を示唆する「強化−監視−海域」という共起語がそれぞれの社説に登 場していることから,尖閣諸島問題に触れる際に異なる観点からの内容が並行的に論じ 図 5 読売社説の「尖閣諸島」との共起ネットワーク 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 54
られていることが読み取れる。なお,朝日にも同じパターンがみられるが,読売ではネ ットワーク間の緊密性よりも各ネットワークの独立性のほうが明確に表れている。 これらの分析結果には,朝日と比較すると,読売の関連社説における尖閣諸島との共 起ネットワークがより複雑で,「話し合い」より尖閣諸島を領土問題や資源問題の視点 で言及した特徴があり,読売の関連社説が日中の対立構図を読み取らせるような報道の フレーミングを用いていると言える。 3-6.対応分析で関連報道の特徴 尖閣諸島問題の関連社説を時系列に分析するために,1972 年から 2012 年までの朝日 と読売社説の頻出語での対応分析を行い,年代ごとに使われる特徴語(以下,年別の特 徴語)から新聞によって報道の特徴を検討する。図 6 と図 7 の 2 次元散布図は,朝日と 読売の関連社説から最少の出現回数が 30 回である頻出語(朝日 147 語;読売 173 語) をもとに,差異が顕著な語の上位 60 語で対応分析を行った結果である。 対応分析では,出現パターンに取り立てて特徴のない単語が,原点(0, 0)の付近に プロットされる。図 6 と図 7 からみると,原点から年別ごとにプロットされている語が 図 6 朝日社説の頻出語の対応分析 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 55
原点から離れるものほど,年別の特徴語であると解釈でき,特定の年の近くにある単語 はその年に比較的多く使用されていることを示しているといえる。 まず,図 6 の朝日の関連社説の頻出語と年別の対応分析から見ると,原点周辺の集合 に置かれるかどうかの分布を 3 つのブロック(第 1 ブロック=原点周辺に集まった単 語;第 2 ブ ロ ッ ク=1994 年・1995 年・1997 年;第 3 ブ ロ ッ ク=2001 年・2003 年・ 2005 年・2007 年の付近に集合した単語)に分けることができる。 第 1 ブロックは原点周辺に多数の単語が置かれている点から,これらの単語に年別の 差異が比較的に少ないことを示唆しているといえる。具体的にみると,朝日の関連社説 における尖閣諸島問題を「日中」の「歴史」に関連づけ,「上陸」のような領有権を主 張する「行為」による「問題」の顕著化,および中国での「反日」と言われる抗議活動 を取り上げた。そのうえで,日本の「国会」での防衛強化に関する議論や「選挙」にお ける尖閣諸島問題の争点化,およびロシア・韓国との領土問題との関連性が言及されて いる。以上のように,朝日の関連社説では,尖閣諸島問題を日本の外交と内政と連動さ せるような報道のフレーミングが一目瞭然である。 そして,第 2 ブロックの 1994 年・1995 年・1997 年の特徴語は「漁業」「操業」「水 域」「資源」「協定」「韓国」などの単語が挙げられる。これらの単語で示されたように, この時期の関連社説は主に日韓の漁業問題を取り上げ,竹島や尖閣諸島をめぐる日韓・ 日中の領土問題を漁業資源の維持・活用の観点から,三国間の共通利益に達するための 協力が必要であるという内容が読み取れる。以下の引用は関連社説の一例である。 これら「空白の海」での漁業資源を守ることは,「持続可能な漁業」をめざす三国共通の利 益である。このことを政府はもっと積極的に主張し,海洋法時代の漁業秩序づくりに努力す べきである。 (「『空白の海』に漁業秩序を」朝日・1994 年 11 月 10 日) ま た,第 3 ブ ロ ッ ク(2001 年・2003 年・2005 年・2007 年)か ら は,特 徴 語 の「教 科書」「西村」「議員」「団体」を抽出することができる。関連社説の内容と併せて検討 すると,それは 2001 年に「新しい歴史教科書をつくる会」が主導した中学歴史・公民 教科書に国防の義務を国民の義務と強調し,口絵には尖閣諸島に代議士が上陸した写真 を使用したことに言及する内容である。それをきっかけに,尖閣諸島に上陸した自由党 の西村真悟防衛政務次官(当時)の政治家としての資質問題(2007 年に弁護士法違 反(32)で有罪判決)や,2001 年に尖閣諸島に上陸した岐阜県の刀剣愛好団体の会長ら 6 人の別件逮捕(2003 年)を取り上げ,尖閣諸島問題に紛争の火種を煽る右翼勢力と政 治家を批判する内容がみられる。指摘しておきたいのは,「読売社説の頻出語の対応分 析」(図 7)と併せて読売社説の全体を確認した結果より,これらの内容は読売の関連 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 56
社説に掲載されていないことである。以下の引用は関連社説の一例である。 (西村議員は)民族主義者を自任し,97 年には中国と領有権争いのある尖閣諸島に国会議員 として初めて上陸した。99 年には雑誌の対談で,日本の核武装の検討を唱え,防衛政務次官 を辞任せざるをえなかった。 2 年前には,「建国義勇軍」などを名乗って銃撃事件を起こした刀剣愛好家団体の最高顧問に 就いていたことが発覚した。こんな暴力的な団体とかかわるだけでも国会議員としての責任 は免れない。それなのに,西村議員は「団体の活動と犯罪は別物」と開き直った。 (「西村議員逮捕 民主党の罪も深い」朝日・2005 年 11 月 29 日) 一方,図 7 の読売社説の頻出語と年別の対応分析では,4 つのブロック(第 1 ブロッ ク=原点周辺に集合した単語;第 2 ブロック=1977 年・1996 年・1997 年;第 3 ブロッ ク=2003 年・2008 年;第 4 ブロック=2010 年の付近に集合した単語)に分けることが できる。 まず,原点周辺に集合した大多数の単語を朝日の分析と同様に第 1 ブロックに分類し た結果,「東シナ海」「問題」「日中」など年別による特徴のない単語が抽出されたこと がわかった。 図 7 読売社説の頻出語の対応分析 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 57
そして第 2 ブロック(1977 年・1996 年・1997 年)から「協定」「水域」「漁業」「韓 国」「資源」などの特徴語が抽出されることで示されたように,朝日の対応分析の第 2 ブロックと重なることがわかった。つまり,このブロックは中国・韓国との漁業問題を 取り上げ,尖閣諸島・竹島問題の領有権問題と切り離し,三国間の共通利益のための新 たな漁業協定を締結する必要性をアピールする内容である。以下の関連社説の引用から このような内容が読み取れよう。 領有権問題の解決には,時を要する。漁業問題を領有権問題と切り離し,新漁業協定締結に 向けた協議を速やかに始めることが,現実的な解決策といえる。 (「冷静に『海の秩序』作りを進めよ」読売・1996 年 2 月 21 日) また,第 3 ブロック(2003 年・2008 年)から「台湾」「上陸」「訪中」の特徴語がみ られる。関連社説と併せて検討した結果,第 3 ブロックは 2003 年に日本政府が尖閣諸 島のうち,魚釣島などを借り上げる措置をとったことに対して起こった,中国・台湾で の抗議活動に関する内容である。そして 2008 年に中国と台湾のチャーター直行便の運 航開始に関する合意達成から,中台関係の改善による尖閣諸島問題や対日感情への悪影 響を懸念し,危機感を示す内容である。さらに 2008 年 6 月に台湾の遊漁船が日本の巡 視船と衝突し沈没した事故が発生した。これらの一連の動きによって「台湾」は 2008 年の特徴語として顕出されるようになった。指摘しておきたいのは,「朝日社説の頻出 語の対応分析」(図 6),および朝日の社説全体を確認した結果より,ここで焦点を当て た 2003 年の日本政府による尖閣諸島の賃借権の設定や 2008 年の中台関係の改善に対す る危機感は朝日の関連社説に掲載されていないことである。それを朝日のみで取り上げ た右翼や政治家の資質問題(図 6 の第 3 ブロック)と併せて分析すると,新聞のスタン スによって尖閣諸島問題の関連社説における異なる報道内容が確認できる。以下の引用 は読売の関連社説の一例である。 中台改善とほぼ同時に,わが国が領有する尖閣諸島付近の海上で,台湾の遊漁船が日本の領 海内に侵入する事件が起きた。 中台双方の外交当局は尖閣諸島に対する領有権を主張している。中国は日本に「強い不満」 を示し,台湾は対抗声明を出した。 中台が反発し合う時代には少なかった光景だ。わが国にとって,中台改善が利益ばかりでは ないことを示す例と言うべきだろう。 (「中台改善 台湾の WHO 加盟も認めよ」読売・2008 年 6 月 14 日) さらに,第 4 ブロックは原点や他の年から離れており,「映像」「流出」「公開」「衝 突」「船長」「レアアース」などが 2010 年の特徴語として抽出された。これらの特徴語 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 58
から関連社説を分析すると,読売の関連社説は 2010 年に中国によるレアアースの対日 輸出の制限をクローズアップしたことがわかった。それに併せ,日本の海上保安庁が撮 影した衝突事件のビデオ映像がインターネット上で流出し,日本国内における関連映像 の公開についての議論に関する内容もみられる。つまり,このブロックは尖閣諸島衝突 事件のレアアースの輸出制限と関連ビデオの流出問題に焦点を当てているものであり, 朝日の対応分析(図 6)と比べると,読売の関連社説は尖閣諸島衝突事件をより重要視 しているといえる。 3-7.文章のクラスター分析 以下の分析は朝日と読売の関連社説の分類から報道のフレーミングを検討するため に,文章のクラスター分析を行った内容である。 具体的な分析手順は,まず朝日と読売の関連社説を全体に把握したうえで,5 つのク ラスターを設定し,文章のクラスター分析を行う。次に,クラスターごとに類似度を表 す Jaccard 係数の順位で抽出される特徴語をもとにし,関連社説の内容と併せてそれぞ れのクラスターに「クラスター名」を付ける。さらに,クラスター別の全体の社説に占 める割合(33)を比較することで,朝日と読売の関連社説における報道のフレーミングや 重点を検討する。 3-7-(a).朝日社説の文章のクラスター分析 まず,合計 106 件の朝日の関連社説を社説単位で文章のクラスター分析を行った結果 は以下の表 5 にまとめたものである。 表 5 からみると,朝日の第 1 クラスターからは類似度を表す Jaccard 係数の高い「国 表 5 朝日の社説単位での文章クラスター分析 ①外交 (44 件;42%) ②資源 (19 件;18%) ③内政 (19 件;18%) ④危機感 (13 件;12%) ⑤右翼・政治家 (11 件;11%) 国際 0.5179 漁業 0.4286 政策 0.5429 沖 0.2963 人物 0.5 両国 0.5179 海洋 0.3448 総裁 0.5217 回復 0.2632 真 0.4615 外交 0.5075 漁船 0.3143 民主党 0.5152 議論 0.25 テロ 0.4615 日中 0.4848 領海 0.3125 自民党 0.4706 民主 0.24 悟 0.4615 日本 0.4835 求める 0.3103 政権 0.4524 違う 0.2381 西村 0.4615 関係 0.4767 交渉 0.3077 改革 0.4483 予算 0.2381 顧問 0.4545 中国 0.4719 共通 0.3043 選挙 0.4483 上る 0.2308 愛好 0.4545 中 0.463 連合 0.3043 野党 0.44 唯一 0.2143 刀剣 0.4545 政府 0.4578 水域 0.3043 党 0.4286 同様 0.2143 自由党 0.4167 領有 0.4462 批准 0.3 支持 0.4286 少ない 0.2105 武装 0.4167 *括弧内に「該当の社説件数;全体の社説件数を占める割合」を表示,それを基準で①=第一 クラスターのようにクラスターの順番を決める *表内に Jaccard 係数の順位で上位 10 位内の頻出語とそれぞれの Jaccard 係数を表示,表 8 の文 章のクラスター分析も同様 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 59
際」「両国」「外交」「関係」などが抽出された。関連の社説内容と併せて検討した結果, 第 1 クラスターには尖閣諸島問題を竹島問題や東シナ海問題の文脈で言及する内容が数 多くみられる。また領土問題におけるナショナリズムを懸念し,冷静かつ理性的な外交 交渉の重要性をアピールする特徴がより顕出されたため,「外交」と名付けた。以下の 引用はその関連社説の一例である。 まだ事実関係が十分明らかでない現在,われわれは特に一点だけ強調しておこう。領土問題 は国民感情を刺激し,冷静かつ理性的な外交をむずかしくする。特に「実力行使」に訴えた 場合は,そうあってはならない,ということである。 (「尖閣列島に波風を立てまい」朝日・1978 年 4 月 14 日) 次に第 2 クラスターでは Jaccard 係数で上位 10 位内の「漁業」「海洋」「漁船」「交 渉」「共通」などが抽出された。第 1 クラスターの分析と同様のプロセスで検討した結 果,第 2 クラスターには日中間の尖閣諸島問題のみならず,日本とロシアや韓国,およ び中国とベトナムをはじめとする東南アジア各国との領土問題に言及する特徴が読み取 れる。そのうえで領土問題に関わる漁業や石油を含める資源問題の視点から「対話」 「協力」の重要性に報道の重点を置いたことがわかった。それ故,第 2 クラスターを 「資源」と名付けた。その関連社説の一例を以下のとおり引用する。 日中間にも尖閣諸島の領有権をめぐる争いがある。そこで今度の日中協定は,尖閣諸島を避 けて共同管理水域を設け,漁業資源を日中両国で管理することにした。尖閣諸島や台湾周辺 水域は現状のままとすることによって,領有権問題をたくみに回避したのである。 日韓両国とも,このさい領有権問題と漁業問題とを分けるのが賢い対応だ。 (「日中に学びたい日韓漁業交渉」朝日・1997 年 11 月 13 日) このように,第 2 クラスターは尖閣諸島問題を解決するために,ナショナリズムを煽 る領土問題にこだわるより,話し合いやすい資源問題の視点へとシフトする必要性を示 唆しているといえる。 そして,第 3 クラスターの類似度の高い上位 10 位内の抽出語に「政策」「総裁」「政 権」「選挙」がみられる一方,政党名を表す「民主党」「自民党」も顕出したことがわか った。関連社説と併せて分析した結果,第 3 のクラスターは尖閣諸島問題を日本の内政 運営の枠組みで言及する内容であり,「内政」と名付けられた。ここで特筆しておきた いのは,これらの社説は尖閣諸島問題そのものより,日本の内政運営の枠組みで一争点 としての尖閣諸島問題への対応に言及する内容である。尖閣諸島問題を主な内容とする 他のクラスターと比較すると,第 3 クラスターの内容が「尖閣諸島問題に関する社説に 当てはまらない」という指摘は当然ありうる。しかし,尖閣諸島問題による影響の拡大 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 60
を検証するために,日中両政府の内政運営における尖閣諸島の関連内容を検討する必要 があろう。それ故,検索システムで検出した内政運営の関連社説も分析対象に入れて検 討した。以下の引用にみられる内政運営における尖閣諸島問題に関する内容から政権政 府(当時)への批判や要望が読み取れよう。 橋本政権にとって,尖閣諸島問題や首相自身の靖国神社参拝で悪化した中国との関係改善は 最重要の外交課題である。合意に盛られた考えこそ,話し合いの前提となるべきものだ。 (「緊張はらむ新政権の船出」朝日・1996 年 11 月 8 日) より重要な点は,以上のように尖閣諸島問題を内政運営の枠組内で言及する傾向は 1996 年から始まり,2010 年をきっかけに著しく増加したことである。要するに,「内 政」と名付けた第 3 クラスターでは,尖閣諸島問題と内政運営に関わっている傾向がみ られ,尖閣諸島問題の顕著化とともにその傾向が一層強まると指摘できる。 第 4 クラスターを「危機感」と名付けた理由は単に表 5 の抽出語から理解することは 困難であろう。具体的な社説内容から見ると,「平和賞 中国は背を向けるな(朝日・ 2010 日 10 月 9 日)」,「中国国防費 不透明さが懸念を呼ぶ(朝日・2011 年 3 月 5 日)」 などで示されたように,非民主主義や人権侵害および軍事膨張の中国イメージをもとに 尖閣諸島問題に言及する内容が読み取れる。そして,国内外の情勢変化による日米同盟 や日本の防衛強化に言及する一方,日米中の安定した政治的枠組みの構築が必要である という内容もみられる。 9 月の漁船衝突事件もあり,尖閣諸島への自衛隊配備や米海兵隊のような水陸両用部隊の創 設を求める意見が,民主党内からも出た。 とはいえ,日中両国の相互依存関係は深まる一方であり,近い将来,中国が武力侵攻を起こ すとは考えにくい。日米の緊密な防衛協力体制がそれを抑止している。米中が正面から軍事 的に衝突する展開も,ありそうにない。 そうした状況で,脅威対応型の発想に傾きすぎるのは得策ではあるまい。かえって,日米中 3 カ国の安定した政治的枠組みを構築していく地道な作業を妨げることにならないか。 (「離島防衛『鎧』見せつけるだけで」朝日・2010 年 12 月 9 日) 以上のように,第 4 クラスターは中国の台頭,およびそれに対する危機感を取り上 げ,日本が尖閣諸島問題に如何に対応すべきかに関する内容であり,自国の安全防衛や 他国との連携を強化する以外に,当事者国による交渉を重視する論調が読み取れる。 最後の第 5 クラスターは主に西村真悟防衛政務次官(当時)の政治家としての不適切 な行動を批判する内容である。関連社説の見出しをまとめたものは以下の表 6 である。 表 6 からみると,最初の社説「これはひどすぎる 西村次官発言(朝日・1999 年 10 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 61
月 20 日)」は西村氏が週刊誌の対談で「日本の核武装を国家で検討すべきだ」と発言し たことを取り上げた。続いて西村氏の 1997 年の尖閣諸島上陸を背景として言及したう えで,政治家の資質問題を批判する内容である。そして 2001 年の教科書問題で西村氏 が尖閣諸島に上陸した写真の使用や,2003 年西村氏と関係を持つ尖閣諸島に上陸した 右翼団体の銃撃事件,および 2005 年に弁護士法違反で西村氏が逮捕される一連の動き から,政治家の西村氏だけではなく,西村氏を起用した政党の責任を追及する内容がみ られる。これらの関連社説は尖閣諸島問題よりも,尖閣諸島問題に対立を煽る政治家の 不正行為を批判する内容であり,デリケートな尖閣諸島問題において政治家の対応をよ り慎重にすべきであるという主張が読み取れる。この結果は図 6 の朝日社説の対応分析 の第 3 ブロックと一致したことが自明である。 3-7-(b).読売社説の文章のクラスター分析 一方,読売の関連社説を朝日と同様のプロセスで文章のクラスター分析を行った結果 は以下の表 7 である。 表 7 の 5 つのクラスターの中では,第 1 クラスターと第 5 クラスターをそれぞれ「外 表 6 朝日社説の西村氏に関する社説 日付 見出し 1999 年 10 月 20 日 これはひどすぎる 西村次官発言 2001 年 4 月 4 日 やはり,ふさわしくない「つくる会」教科書 2003 年 12 月 20 日 テロ集団に厳しい目を「建国義勇軍」 2003 年 12 月 23 日 説明してもらいたい 西村真悟氏 2005 年 7 月 30 日 教科書採択 こんなやり方でいいのか 2005 年 9 月 17 日 「狙撃」発言 口に出すおぞましさ 2005 年 11 月 29 日 西村議員逮捕 民主党の罪も深い 2007 年 2 月 9 日 西村議員 潔く国会から退場を 表 7 読売の社説単位でのクラスター分析 ①外交 (44 件;38%) ②強化措置 (28 件;24%) ③日米同盟 (23 件;20%) ④ビデオ流出 (11 件;9%) ⑤内政 (11 件;9%) 日 0.4625 監視 0.6765 世界 0.3556 捜査 0.75 一郎 0.6154 条約 0.4444 海上保安庁 0.4792 米国 0.3333 刑事 0.6923 小沢 0.5714 立場 0.4375 活動 0.4667 防衛 0.3333 公開 0.6667 幹事 0.5385 日中 0.4366 実効 0.4474 生産 0.3333 ビデオ 0.625 野党 0.5333 問題 0.4227 強化 0.4444 ミサイル 0.32 映像 0.5 岡田 0.4545 関係 0.4217 支配 0.425 成長 0.32 流出 0.4667 代表 0.4444 領土 0.4203 周辺 0.42 企業 0.3125 インターネット 0.4615 公明党 0.4167 解決 0.4151 国有 0.4167 軍事 0.2857 一般 0.4615 衆参 0.4 両国 0.4 警戒 0.4 脅威 0.28 保管 0.4545 駆け引き 0.3636 中国 0.3981 領海 0.3958 環境 0.2703 情報 0.4444 臨時 0.3636 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 62
交」,「内政」と名付けており,朝日の第 1 クラスター「外交」と第 3 クラスター「内 政」と同様なクラスター名である。しかし,新聞によるやや異なる点は以下の関連社説 の引用から読み解くことができよう。 まず,読売の第 1 クラスター「外交」に当てはまる関連社説は尖閣諸島問題を外交の 枠組みで言及する際に,朝日の関連内容と比較すると,領土意識がより顕著である。こ の点は表 4 にある「毅然」とした強硬な対応を強調するという特徴と一致したといえ る。 尖閣諸島は,歴史的にも国際法上も日本固有の領土である。中国が領有権を主張し始めたの は,石油など海底資源が取りざたされた 1970 年代以降に過ぎない。 中曽根外相は,もちろん反論したが,中国側の主張には,今後も毅然(きぜん)として対処 すべきだ。 (「日中外相会談『互恵関係』の内実が問われる」読売・2009 年 3 月 2 日) そして第 5 クラスター「内政」は,朝日の第 3 クラスター「内政」と類似しているも のの,表 7 の上位の抽出語である「一郎」「小沢」「幹事」「岡田」などから見ると,政 権批判の対象は朝日と異なり,主に 2009 年政権交代を遂げた新政権の民主党に限定さ れていることがわかった。以下の関連社説の引用,および関連社説のリスト(表 8)は 以上の分析結果を示唆している。 首相は尖閣諸島沖の漁船衝突事件でも,中国人船長の釈放は「検察の判断」と言うのみだっ た。外交判断と政治責任を検察に“丸投げ”している,との野党側の批判に,首相の答弁は 何も答えていないに等しい。 (「各党代表質問『イラ菅』の棒読みでは困」読売・2010 年 10 月 9 日) 表 8 読売の文章分析による「内政」クラスターの関連社説 日付 見出し 2010 年 10 月 9 日 各党代表質問 「イラ菅」の棒読みでは困る 2010 年 10 月 13 日 小沢氏国会招致 首相は党首として実現に動け 2010 年 11 月 28 日 参院問責可決 一段と追い込まれた菅政権 2010 年 12 月 4 日 衆参「ねじれ」 機能不全見せつけた臨時国会 2010 年 12 月 18 日 検事総長辞任へ 新体制が背負う責任は重大 2011 年 4 月 25 日 統一選終了 態勢立て直し迫られる菅政権 2011 年 8 月 27 日 菅首相退陣へ 国政停滞を招いた野党的体質 2012 年 10 月 16 日 3 党幹事長会談 いつまで条件闘争をするのか 2012 年 10 月 26 日 石原都知事辞任 国政復帰に何が期待できる 2012 年 10 月 27 日 緊急経済対策 「急場しのぎ」では力不足だ 2012 年 11 月 10 日 「年内解散」検討 環境整備へ与野党は歩み寄れ 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 63
また,読売の社説に特徴的であった内容を第 2 クラスター,第 3 クラスターおよび第 4 クラスターに分類した(表 7)。これらのクラスターをそれぞれ「強化措置」,「日米同 盟」,「ビデオ流出」と名付けた理由は,表 7 の抽出語と併せて関連社説の内容を検討し た結果である。これらの内容は朝日の関連社説においても言及されているものの,クラ スターとして顕出されていない点から,読売においてより重視されていることを示唆し ている。 まず,第 2 クラスター「強化措置」に当てはまる関連社説の引用から見ると,中国を 脅威にし,危機感を持つ点は朝日の第 4 クラスター「危機感」と重なることが確認でき る。しかし,当事者間の話し合いを強調する朝日と異なり,読売のほうがより強硬な対 応を強調し,尖閣諸島での実行支配を強化させようとする内容が読み取れる。 日本領海内の尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件は,領海警備の重要性を改めて浮き彫り にした。海上保安庁による警備体制を着実に強化していかなければならない。 (「海上保安庁 領海警備の体制強化を急げ」読売・2010 年 11 月 25 日) そして第 3 クラスター「日米同盟」の関連社説は尖閣諸島への日米安全条約の適用に 重点を置いた内容である。第 5 クラスター「内政」の民主党批判に関わり,民主党の普 天間基地問題で揺らぎ始まった日米同盟を促進することを,政権の座に戻った自民党の 安倍政権の最大目標と論説した内容は,以下の関連引用から読み取れる。 安倍首相は来月中にも米国を訪問し,オバマ大統領と会談する。日米同盟の強化が,中国, 韓国など近隣国との関係を再構築する第一歩と考えるからだ。 (「安倍外交 日米『基軸』で隣国関係改善を」読売・2012 年 12 月 28 日) 総じてみれば,第 3 クラスターと第 5 クラスターの共通点は,尖閣諸島問題への対応 をはじめ,アジアの平和安定は相手国・地域の交渉よりも,日米同盟に期待する傾向が 読売の関連社説ではみられるという特徴である。一方,朝日の関連社説は日米同盟の重 要性について言及したが,当事者間の話し合いおよび日米中 3 か国の安定した政治的枠 組みの構築がより重要であることを強調した。 また,第 4 クラスター「ビデオ流出」は 2010 年の尖閣諸島衝突事件の終盤に起きた 尖閣ビデオ流出事件(34)に関する内容である。社説の見出しから関連内容を調べた結果, 朝日に 1 件の関連社説があるのに対して,読売の関連社説は 6 件であり,朝日より読売 のほうが尖閣ビデオの流出問題を重要視していることが明らかである(表 9)。 より重要な点は,関連社説から朝日と読売に論調の差がみられることである。朝日の 関連社説は尖閣ビデオの流出について,関連ビデオを「単なる捜査資料」より「その取 扱いは日中外交や内政の行方を左右しかねない高度に政治的な案件」と位置づけ,「政 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 64
府が持つ情報が国民の共有財産であり,できる限り公開されるべきものである」と論述 した。その一方,「外交や防衛,事件捜査など特定分野では,当面秘匿することがやむ を得ない情報」もあると指摘したうえで,「日中両政府とも,国内世論をにらみながら, 両国関係をどう管理していくかが問われている。ビデオの扱いは,外交上の得失を冷徹 に吟味し,慎重に判断すべきだ」と主張した内容である(35)。 一方,読売に掲載された最初の関連社説は関連ビデオを「悪質で危険な犯罪行為であ ることや,日本に謝罪・倍賞を求める中国側主張の誤りを国際世論に訴える決定的な証 拠となろう」と位置付け,衝突事件における中国の悪質と併せて当時の政権民主党の対 中考慮を批判した内容である(36)。以下の関連社説の引用から,尖閣諸島衝突事件にお ける日本の正当性をアピールするために,より強硬な対応をとるべきである主張は,読 売の他の関連社説に一貫しているものの,朝日の関連社説と異なることが読み取れる。 中国側への過度の配慮による判断ミスを「執行職」に押しつけるようでは,民主党が掲げる 「政治主導」が泣くというものだ。 政府はすみやかに映像を国民に公開し,これまでの判断の経緯を丁寧に説明する必要があ る。 (「ビデオ流出問題 閣僚も政治責任を免れない」読売・2010 年 11 月 18 日) 以上をまとめると,尖閣諸島問題に関する朝日の社説では,第 2 クラスター「資 源」,第 4 クラスター「危機感」,および第 5 クラスター「右翼・政治家」という朝日の みの報道のフレーミングが顕出された。それに対して,読売の関連社説では,第 2 クラ スター「強化措置」,第 3 クラスター「日米同盟」,および第 4 クラスター「ビデオ流 出」で示されたように,朝日と異なる報道のフレーミングが用いられていた。このよう に,新聞のスタンスによって同様な問題が異なる視点から論説されていることが明らか である。 表 9 朝日と読売の尖閣諸島衝突ビデオを見出しにする社説 件数 日付(2010 年) 見出し 朝日 1 11 月 6 日 尖閣ビデオ流出 冷徹,慎重に対処せよ 読売 6 9 月 30 日 衝突ビデオ開示 正当性示すためにも不可欠だ 11 月 2 日 尖閣衝突ビデオ やはり一般への公開が必要だ 11 月 6 日 尖閣ビデオ流出 一般公開避けた政府の責任だ 11 月 9 日 ビデオ流出告発 危機感をもって真相の解明を 11 月 11 日 海保職員聴取 流出の動機と経路解明を急げ 11 月 18 日 ビデオ流出問題 閣僚も政治責任を免れない 尖閣(釣魚)諸島問題に関する日本の新聞報道について 65