中学部 作業学習(農業) 学習指導案
指導者 藤井啓子(T1)桑田典枝(T2) 1 日時 平成 29 年7月5日(水) 第7校時(13:45~14:30) 2 学部・学年 中学部第3学年1組 3 場所 中学部第3学年1組教室 4 研究テーマ 児童生徒一人一人が「分かる,動ける,できる」授業づくり 5 題材名 「綿繰り作業」 6 題材設定の理由 ○生徒観 本学級は,男子生徒2名,女子生徒2名,計4名が在籍する,知的障害のある生徒の単一障害学級である。昨 年度からクラス編制の変更はなく,引き続き同じメンバーで今年度もスタートした。生徒同士お互いの行動をよ く理解しており,自分から関わりに行ったり,助け合ったりして関係性もできている。 Aは語彙も豊富で発語も多い。口頭での指示理解もでき,指示された作業を適切に行うことができる。困難な 課題などがあると,表情が曇り,作業に対する意欲が薄れることがあるが,気持ちを立て直すこともできる。指 先も器用で,初回から指先で器用に綿をつまみ,糸紡ぎに興味を示して取り組んだ。 Bは「おはよ。」などの発語はあり,単語での言葉遊び程度のコミュニケーションは可能であるが,会話は困難 である。口頭での指示理解は難しく,実際の場に行ってモデルを見せ,言葉かけや誘導を行い,繰り返し取り組 むことで,作業をすることができる。自分の目的があれば,どうにかして目的を達成しようとし,その際には指 先に力もあり器用である。逆に興味があるものが目に入ると,今行っていることや周囲を見ることが困難になる。 これまでの学習では教師が差し出すと,綿を取ることができた。 Cは,発語もあり口頭指示を理解し,一生懸命取り組むことができる。体力もあり,畝づくりなどの工程を理 解し,覚えて取り組むなど身体全体を使う作業を得意としている。細かい作業には苦手意識があり,糸紡ぎでも 初回は苦慮していた。何事も上手くできると大きな達成感をもつ反面,少し失敗するとがっかりして落ち込み, 全体的に自信のなさがみられる。 Dは,自閉傾向が強く,発語は少ないが,自分のしたいことや要求は言葉で伝えることができる。繰り返し作 業に取り組むことで見通しをもち,自分の世界に入りつつも作業することができる。綿繰りの作業では教師が綿 を差し出すと目標の時間内取り組んでいた。精神面での不安定さがあり,落ち着いていると笑顔で活動できるが, 不安定な時は「トントン」や「かいかい」と周りに繰り返し要求することがある。不安定になると教室のパーテ ーション内でクールダウンし,また活動を再開することが多い。作業時間も休憩を入れなくても続けることが徐々 にでき始めている。 綿繰りの作業はどの生徒も簡単に取り組むことができ,見通しをもち,ある生徒は綿の感触を楽しみながら, ある生徒は几帳面に綿やゴミをとるなどそれぞれ着実に取り組んできた。本題材の初めの時間に,生徒に大量の 綿ができていることを知らせ,どうすればよいか投げかけ,考えさせた。綿から糸ができるということは発想外 だったが,実際に綿から糸を紡ぐまでの作業を見せると,綿が糸になる様子に驚き,興味をもった様子が見られ た。それぞれ綿繰り,綿打ち,糸紡ぎという工程を体験させた。「やってみたい。」とすぐ言った生徒,「自分には 難しいかもしれない。」と思った生徒など反応は様々であったが,みんなで取り組んでみようということになり, 取り組み始めた。 ○題材観 特別支援学校学習指導要領解説総則等編において作業学習は,「作業活動を中心としながら,児童生徒の働く意 欲を培い,将来の職業生活や社会自立に必要な事柄を総合的に学習するものである。」と示されている。本校中学 部では作業学習に農業を取り入れて5年目になり,農作物や花の栽培に取り組んできた。晴天時の作業は多くあ るが,雨天時の作業が少なく作業量の確保が課題であった。その解決策の一つとして,綿を栽培し,毎年雨天時 を中心に綿繰り作業に取り組んできた。綿繰りの作業後の綿は生活単元学習の作品の布の小物の中に入れたり, 美術作品の飾りとして少量を取り入れることはあったが,まだ大量の綿の在庫がある。 本題材における綿の栽培は比較的容易で,春に種まきをし,初冬に収穫・乾燥させる。一つの実からたくさん の種を取ることができ,農業の作業内容として毎年継続して取り組ませることができる。また綿という繊細な素材は指先と両手を使って丁寧に扱うことが必要であり,緻密な作業力と集中力を高めるために適している。綿か ら糸へ変化させ,一定の太さで完成度の高い糸を目指すことにより成就感を味わうことが期待できると考える。 また福山市の特産物として「備後絣」があり,地場産業として歴史があり,綿の栽培,繊維産業など地域との つながりがある。今後今後糸から布へ加工することや染色,他の教科学習でも関連性をもたせるなど学習の広が りをもたせることができると考える。 ○指導観 本学級は実態として口頭での指示で理解が容易な生徒と,言葉だけでは理解が難しく指示の保持が困難な生徒 がいる。作業に当たっては口頭での説明などは最低限にし,授業の流れや作業の工程については写真などで板書 に簡潔に示すことで,作業内容に見通しをもたせるようにする。必要な生徒には目標とする活動に導く支援をし, 自分の取り組む作業内容に気付いたり,自ら行動できるようにする。また端的な言葉かけや,手添えでの誘導な ども必要な支援として取り入れる。 各作業工程については生徒自身が取り組めるよう,支援具や道具の工夫をする。綿繰り作業では綿をカードケ ースに入れ,綿を取るということや一つの綿を取り終えたということを理解させたい。綿打ちの道具は手や足で 押さえる位置を示したり,タコ糸の引く位置を示してどこを引けば良いか分かるようにし,生徒自身が扱えるよ うに視覚支援をする。作業は普段使用している教室で行うが,作業の流れが分かるよう教室内の配置をし,空間 としても見通しがもてるよう工夫する。 評価については,作業時に随時評価して伝え,それぞれのモチベーションを高め,「できた。」という気持ちを もてるような言葉かけを行いたい。自己評価ができるよう目標は具体的なものにする。BとDについては活動終 了時に活動の結果が分かるような支援を取り入れ,個数を目標とし,AとCについては長さを測定し,最後に生 徒自身が振り返れるようにする。 作業中に気持ちが落ち着かない生徒や集中できない時は適宜時間設定をした上で,休憩時間をとらせたり,別 の作業を取り入れてクールダウンさせ,再度取り組ませるようにする。 7 題材の目標 ・作業の工程を理解し,綿から糸へ加工することができる。 ・自分の役割を理解し,主体的に行動することができる。 8 指導計画(全 18 時間) 第1次 夏野菜の管理作業・収穫・袋詰めなど (12 時間) 第2次 綿繰り作業(6時間:本時4時間/6時間) 9 本時の目標 ○全体の目標 ・自分の役割を果たし,綿から糸に加工することができる。 ・自分の作業内容を理解して取り組む。 ・道具を適切に扱い,集中して作業に取り組む。 ○個別の目標 生徒 本授業に関わるこれまでの様子 目 標 A ・糸紡ぎの作業に興味をもっており,集中して取り組むことが できる。 ・綿の引っ張り方や,ワインダーの扱い方の要領をつかんでき ている。 ・綿の引っ張り方が不十分なため,糸の細さが一定でない。 ・長机や綿打ちの道具などを定位置に設 置し,準備をすることができる。 ・糸紡ぎができる状態まで,20~30 回綿 打ちをすることができる。 ・一定の細さ(1~2㎜)で糸を紡ぐこ とができる。 B ・綿の引き初めを引き出したり,モデルを見せることで綿を引 き出すことができた。 ・最後に残った種を取り出し,綿のカゴに混ぜることがあった。 ・作業終了時に促すことで,「できました。」と報告することが できた。 ・名前を呼ばれたら返事をし,自分の作 業道具を取りに行くことができる。 ・左手で押さえて,綿を3個分取り出す ことができる。 ・一つ綿を取り終えたら,報告し,所定 のカゴに入れることができる。 C ・綿打ちは姿勢にぎこちなさがあるが,繰り返し行うことで綿 ・長机や綿打ちの道具などを定位置に設
がほぐれてくる様子の変化に気付くことができた。 ・指先を使う細かな作業に苦手意識があり,糸紡ぎでは糸が切 れることに落ち込む様子もみられたが,徐々に綿の引っ張り方 や,ワインダーの扱い方をつかみ,細く長く糸を紡ぐことがで きつつある。 置し,準備をすることができる。 ・糸紡ぎができる状態まで,20~30 回綿 打ちをすることができる。 ・糸を紡ぐことができる。 D ・教師が綿を差し出せば,20 分の綿繰りの作業に取り組んでい た。 ・綿を取り出すことはできるが,取った綿を種と一緒に混ぜて しまうことがある。 ・気分に波があり,落ち着かなくなると繰り返しの言葉を教師 に求めて離席することがある。 ・名前を呼ばれたら返事をし,自分の作 業道具を取りに行くことができる。 ・左手で押さえて,3個分綿を取り出す ことができる。 ・一つ綿を取り終えたら,報告し,所定 のカゴに入れることができる。 10 準備物 綿,カゴ,ワインダー,ボビン,綿打ちの道具,カードケース,ホワイトボード,タイムタイマー 11 本時の学習過程(別紙参照) 12 評価の観点 ・主体的な学びを促すための工夫は適切であったか。 ・学習への見通しや振り返りの方法は適切であったか。 13 年間指導計画(別紙1) 14 教室内の配置図 (1)挨拶,説明,振り返り 黒 板 黒板 教 卓 出 入 り 口 洗面台 T1 長 机 T2 ロ ッ カ ー い す 棚 掃除道具入 れ ロッカー マット ロ ッ カ ー 出 入 り 口 ホワイトボード A B C D 棚 棚
(2)作業時 黒 板 黒板 ロッカー 洗面台 T1 長 机 T2 マット ロ ッ カ ー 出 入 り 口 ロ ッ カ ー 教 卓 いす 出 入 り 口 綿繰り作業 綿打ち作業 糸紡ぎ作業 ホワイトボード 掃除道具入 れ 棚 A C D B 棚
11 本時の学習過程 学習活動 指導上の留意点(□課題 ○支援 T1,T2 ☆評価) A B C D 全体における留意点 <導入 5分> 1 始めの挨拶をする。 2 今日の作業内容と役割 分担,目標を決める。 ・作業日誌に書く。 ○あいさつの手順を意識させるよう モデルを示す。(T1) ○前時に作った長さを思い出させ, 本時の目標の長さを考えさせる。 ○初めの発音を示したり,言葉かけ をし,発語や動作を促す。(T2) ○本時の作業内容を写真で示し目標 を数で示す。 ○あいさつの手順を意識させるよう モデルを示す。(T1) ○前時に作った長さを思い出させ, 本時の目標の長さを考えさせる。 ○初めの発音を示したり,言葉かけ をし,発語や動作を促す。(T1) ○本時の作業内容を写真で示し目標 を数で示す。 ・日直は前に出てあいさつをさせ,モデルを示 し,手順を意識してあいさつをさせる。 ・授業の流れについて見通しをもたせるため, 黒板に端的に示す。 ・説明は簡潔に行う。 ・書字が難しい生徒はマッチングで記入させる。 <展開 35 分> 3 準備をする。 4 作業を各自行う。 ・綿繰り ・綿うち ・糸紡ぎ 5 片付けをする。 ○定位置に設置できているか見守 る。(T1) ☆長机や綿打ちの道具などを定位置 に設置し,準備ができたか。 ○見守り,必要に応じて確認の言葉 かけをする。(T1) ☆糸紡ぎができる状態まで 20~30 回 綿打ちをすることができたか。 ○一定の細さで糸紡ぎができている か確認の言葉かけをする。太さに波 がある場合は糸の引き方を再度指導 する。(T1) ☆一定の細さに糸を紡ぐことができ たか。 ※①②を繰り返し行う。 ○使用した道具を所定の位置に戻す よう促す。(T1) ○自分の道具が分かるよう顔写真を 目印につけておく。(T2) ☆名前を呼ばれたら返事をし,自分の 作業道具を取ることができたか。 ○作業に移れない場合は手本を示 し,言葉かけや手添えで作業へ誘導 する。集中が切れた場合は綿うちを 体験させる。(T2) ☆左手で押さえて,3個分綿を取り出 すことができたか。 ○見守り,初めの音を伝える,指さ しなど行動のヒントを与える。(T2) ☆一つ綿を取り終えたら報告し,所定 のカゴに入れる。 ※①は一つ行ったら②を行い,3回繰 り返し行う。 ○使用した道具を教卓に戻すよう言 葉かけをする。(T2) ○困ったときは教師に伝えるよう言 葉かけをする。(T1) ☆長机や綿打ちの道具を定位置に設 置し,準備ができたか。 ○見守り,必要に応じて確認の言葉 かけをする。(T1) ☆糸紡ぎができる状態まで 20~30 回 綿打ちができたか。 ○糸紡ぎができているか確認の言葉 かけをする。糸が切れたりして困っ た場合は教師に伝えるよう言葉かけ をする。(T1) ☆糸を紡ぐことができたか。 ※①②を繰り返し行う。 ○使用した道具を所定の位置に戻す よう促す。(T1) ○自分の道具が分かるよう顔写真を 目印につけておく。(T1) ☆名前を呼ばれたら返事をし,自分の 作業道具を取ることができたか。 ○本人のペースを見守り,必要に応 じて言葉かけや指さしをして作業に つなげる。(T1) ☆左手で押さえて,3個分綿を取り出 すことができたか。 ○見守り,行動に移れない場合は現 物を示す等行動のヒントを与える。 (T1) ☆一つ綿を取り終えたら報告し,所定 のカゴに入れることができたか。 ※①は一つ行ったら②を行い,3回繰 り返し行う。 ○使用した道具を教卓に戻すよう促 す。(T1) ・生徒自身が準備に取り組めるよう,道具を置 く位置にしるしをつけておくなど視覚支援をす る。 ・作業工程の流れが分かり,空間としても見通 しがもてるよう教室内の配置をする。 ・準備ができた生徒から作業に取り掛かるよう 指示をする。 ・作業時間に見通しをもたせるため,作業時間 をタイムタイマーで示す。 ・必要な生徒には写真カードなど示し,自分の 取り組む作業内容に気付いたり,再確認させる ようにする。 ・各作業において作業がうまくいっている点に ついては評価の言葉かけを随時行う。 ・作業中に気持ちが落ち着かない生徒に対して は適宜時間設定をした上で,休憩をとらせ,再 度取り組むよう言葉かけをする。 <まとめ・振り返り 5分> 4 振り返り ・作業日誌の記入 5 終わりの挨拶 ○本時に紡いだ糸の長さを測定する よう促す。長さの測り方の確認の言 葉かけをする。(T1) ○作業日誌に記入するよう促す。 ○姿勢を正し,手順通りあいさつを させる。(T2) ○取った綿の個数を教師と一緒に確 認し,振り返りをさせる。(T2) ○評価欄にイラストシールを貼るよ う促す。 ○必要に応じて姿勢を正すように促 す。(T2) ○本時に紡いだ糸の長さを測定する よう促す。長さの測り方の確認の言 葉かけをする。(T1) ○作業日誌に記入するよう促す。 ○姿勢を正し,手順通りあいさつを させる。(T2) ○取った綿の個数を教師と一緒に確 認し,振り返りをさせる。(T1) ○評価欄にイラストシールを貼るよ う促す。 ○必要に応じて姿勢を正すように促 す。(T1) ・それぞれの目標や作業について良かった点を 評価し,次回に向けて意欲をもたせる。 ・日直の生徒に注目させ,姿勢を正すよう言葉 かけをする。 長机や綿打ちの道具などを定 位置に設置し,準備をする。 ①糸紡ぎができる状態まで 20~ 30 回綿打ちをする。 名前を呼ばれたら返事をし,自 分の作業道具を取りに行く。 長机や綿打ちの道具などを定 位置に設置し,準備をする。 名前を呼ばれたら返事をし,自 分の作業道具を取りに行く。 ②一定の細さ(1~2㎜)に糸 を紡ぐ。 ①糸紡ぎができる状態まで 20 ~30 回綿打ちをする。 ②糸を紡ぐ。 ①左手で押さえて,綿を3個分取 り出す。 ②一つ綿を取り終えたら報告し, 所定のカゴに入れる。 ①左手で押さえて,3個分綿を取 り出す。 ② 一 つ 綿 を 取 り 終 え た ら 報 告 し,所定のカゴに入れる。
平成 29 年度 沼隈特別支援学校授業改善シート 記入者( )