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関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用

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(1)理学療法学 第 45 巻第 4 号 275 ∼ 280 関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用 頁(2018 年). 275. 理学療法トピックス シリーズ 「基礎研究の動向と臨床への応用」. *. 連載第 1 回 関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用. ─筋性拘縮の発生機序の解明ならびにエビデンスに基づいた 治療戦略の開発を目的とした基礎研究─. 本田祐一郎 1)2) 坂 本 淳 哉 2) 中 野 治 郎 2) 沖 田   実 2). 限は難渋することが多く,その要因としては拘縮の病態. 諸  言. や発生メカニズムが解明されておらず,効果的な治療戦.   (公社)日本理学療法士協会の理学療法士実態調査報. 略の開発が立ち遅れていることが挙げられる。しかし,. 告によれば,関節可動域制限の問題は理学療法の対象障. 最近では動物実験モデルを用いた基礎研究を通して,拘. 1). 。また,リハビリテー. 縮の発生機序にかかわる分子メカニズムが明らかになり. ション医療を受けている 144 名(平均年齢 72.2 歳)の. つつあり,そのエビデンスに基づいて治療戦略の開発を. 全身の 16 関節を対象に調査された結果によれば,すべ. 進めている基礎研究も散見されるようになっている。つ. ての症例になんらかの関節可動域制限を認め,平均する. まり,このような基礎研究に関する最新知見を臨床に. と一人あたり 10.9 関節に関節可動域制限が発生してい. フィードバックすることが上記の課題解決のための糸口. 害の常に上位に挙がっている. 2). 。つまり,関節可動域制限は理学. になると思われる。そこで,本稿では拘縮,特に骨格筋. 療法の対象となるすべてのケース,しかも多くの関節に. の変化に由来した筋性拘縮に焦点をあて,自験例の研究. 発生しているといっても過言ではなく,その治療に難渋. 成果を中心に発生機序を整理するとともに,エビデンス. していることは間違いない。. に基づいて治療戦略の開発を進めている基礎研究を紹介.  臨床において関節可動域制限は,拘縮や強直,痙縮な. する。. たと報告されている. どによる筋収縮,さらには関節内遊離体や脱臼・偏位な ど,様々な原因で発生するが. 3). ,理学療法によって改善. 拘縮の原因とその責任病巣. が期待できるのは拘縮と筋収縮が原因で生じた関節可動.  先行研究を概観すると,拘縮の発生には加齢の影響に. 域制限である。そして,理学療法の対象者においては,. 加え,罹病期間や麻痺の重症度,痙縮,痛み,浮腫(腫. 拘縮と筋収縮が混在して関節可動域制限が発生している. 脹)など,様々な要因が関与していると指摘されている。. ことが多い。ただ,筋収縮に関しては既存の様々な理学. しかし,拘縮が発生する直接的な原因は,これらの要因. 療法介入手法によって即時に改善できることから,これ. によって惹起される関節の不動といわれており. が原因で発生している関節可動域制限に難渋することは. 期間が長期化するほど拘縮が進行することは経験的にも. 少ない。一方,拘縮が原因で発生している関節可動域制. よく知られている。実際,ラット足関節を最大底屈位で. 3). ,不動. 不動化した尖足拘縮モデルを用いた自験例の結果でも, *. Trends of Basic Research and Utilization for Clinical Therapy in Limited Range of Motion: Elucidation of Mechanism Underlying Muscle Contracture and Development of Evidence-based Therapeutic Strategies 1)長崎大学病院リハビリテーション部 (〒 852‒8501 長崎県長崎市坂本 1‒7‒1) Yuichiro Honda, PT, PhD: Department of Rehabilitation, Nagasaki University Hospital 2)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学療法学分野 Yuichiro Honda, PT, PhD, Junya Sakamoto, PT, PhD, Jiro Nakano, PT, PhD, Minoru Okita, PT, PhD: Department of Physical Therapy Science, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences キーワード:筋性拘縮,発生機序,治療戦略. 不動 1 週で拘縮が発生し,不動期間の延長に伴って進行 4) することが明らかになっている (図 1-A)。.  一方,拘縮の責任病巣は皮膚や骨格筋,関節包など, 関節周囲軟部組織のすべてであるが,ラット膝関節屈曲 拘縮モデルを用いた検索では不動 2 週まで,ラット足関 節尖足拘縮モデルを用いた検索では不動 4 週まで,骨格 筋が拘縮の責任病巣の中心であることが明らかになって いる. 4)5). 。そして,骨格筋の変化に由来した拘縮を筋性. 拘縮(muscle contracture)と呼び,筋長の短縮と筋伸.

(2) 276. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 図 1 ラット足関節尖足拘縮モデルにおける足関節背屈可動域とヒラメ筋の筋長ならびに伸張性の変化 足関節背屈可動域の結果をみると,拘縮は不動 1 週で発生し,不動期間の延長に伴って進行することがわかる(A). 筋長の結果をみると,不動 1 週で短縮が生じるが,その後は不動期間を延長しても変化しないことがわかる(B).筋 伸張性の指標となる長さ−張力曲線の結果をみると,不動 1 週で対照群より左方・上方に偏位し,この現象は不動 4 週まで不動期間依存的に顕著になることがわかる(C) .. 張性の低下といった変化がその病態に関与しているとい 3) われている 。. 筋性拘縮の発生メカニズム 1.これまでの先行研究の概要. 筋性拘縮の病態.  動物実験モデルを用いて,筋性拘縮の発生機序の解明. 1.筋長の短縮. を目的に行われてきた先行研究は 2000 年前後から積極.  ラット足関節尖足拘縮モデルにおけるヒラメ筋の検索. 的に行われている。たとえば,Okita ら. 結果では,不動 1 週で無処置の対照群より約 11%,筋. 関節尖足拘縮モデルのヒラメ筋を用い,筋内膜における. 長の短縮が認められている。しかし,その後,不動期間. コラーゲン線維の配列変化について微細形態学的検索を. を延長しても筋長には有意な変化は認められていない. 6). 11). はラット足. 行っている。結果として,不動 2 週までは対照群と同様. (図 1-B) 。すなわち,筋長の短縮は拘縮が発生する誘因. に筋線維の長軸方向に対して縦走するコラーゲン線維が. にはなっているものの,拘縮の進行には直接的には関与. 多いが,不動 4 週以降は多くのコラーゲン線維が筋線維. していないといえる。. の長軸方向に対して横走することが示されている。つま り,この結果は不動 4 週以降は筋内膜を構成する個々の. 2.筋伸張性の低下. コラーゲン線維の可動性が減少することを示唆してお.  これまで,筋伸張性に関してもいくつかの先行研. り,このことが筋伸張性の低下に影響すると考えられ. 究. 7‒9). で検討されてきたが,様々な不動期間を設定し. る。加えて,Hibino ら. 12). はラット足関節尖足拘縮モデ. た縦断的検索が行われていない点や,検索の際の生体内. ルのヒラメ筋を用い,コラーゲン架橋の変化について生. 環境の再現が不十分な点など,いくつかの課題があり,. 化学的検索を行っている。具体的には,酸やアルカリ,. 再検討の必要性が指摘されていた。そこで,著者ら. 10). ペプシンによっても可溶化されない不溶性コラーゲンの. はラット足関節尖足拘縮モデルのヒラメ筋を用い,筋伸. 含有率を比較した結果,不動 1 週では対照群と有意差を. 張性の変化を検索した。具体的には,1,2,4,8 週間. 認めないものの,不動 3 週では対照群より有意な増加が. の不動期間を設け,縦断的検索を行うとともに,筋伸. 認められている。つまり,この結果は不動 3 週で架橋が. 張性の検索の際には,Krebs 液に浸漬したヒラメ筋に酸. 生成されたコラーゲンが増加することを示唆しており,. 素・二酸化炭素の供給を行い,生体内環境を再現した状. この変化も筋伸張性の低下に影響すると考えられる。し. 態で行った。その結果,筋伸張性の指標となる長さ−張. かし,先に述べたように筋伸張性の低下,すなわち筋性. 力曲線は不動 1 週で対照群より左方・上方に偏位し,こ. 拘縮は不動 1 週から発生しており,その機序に関しては. の現象は不動 4 週まで不動期間依存的に顕著になること. 上記の先行研究の結果だけでは説明がつかない。そこ. が明らかとなった(図 1-C)。つまり,不動化された骨. で,筆者らは骨格筋におけるコラーゲンの増生,すなわ. 格筋は他動的な伸張に対して抵抗が増加するといえ,筋. ち線維化(fibrosis)の発生・進行状況に着目し. 伸張性が低下することは明らかで,しかもこの変化が拘. これまで検索を進めてきた。以下,具体的な結果を示す。. 13)14). ,. 縮の進行に直接的に関与することが示唆されている。 2.線維化の発生・進行状況  ラット足関節尖足拘縮モデルのヒラメ筋を用い,その 凍結横断切片に対して Picrosirius red 染色を施し,筋膜.

(3) 関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用. 277. 図 2 ラット足関節尖足拘縮モデルのヒラメ筋における線維化の発生・進行状況 左の写真はヒラメ筋の凍結横断切片に対して Picrosirius red 染色を施し,筋膜を構成するコラーゲンを可視化したも ので,上段から対照群,不動 1 週,不動 4 週の染色像である.なお,スケールバーは 50 μ m を示す.この結果をみると, 不動群には筋周膜や筋内膜に肥厚を認め,しかもこの傾向は不動 4 週が不動 1 週より顕著である(A).中央の棒グラ フはコラーゲン特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリンを生化学的検索によって定量し,ヒラメ筋内の含有量 を比較した結果であり,グラフ内の * は対照群との有意差,# は不動群間の有意差を示す.この結果をみると,不動 群はすべての不動期間で対照群より有意に増加し,しかも不動 4,8 週は不動 1,2 週より有意に増加している(B). 右の散布図は筋長の 1.4 倍まで伸張させた際の他動張力とヒドロキシプロリン含有量の関係性をプロットした結果で ある.この結果をみると,両者の間には強い正の相関が認められる(C).. を構成するコラーゲンを可視化した。その結果,いずれ の不動期間とも筋周膜や筋内膜に肥厚が認められ,この 傾向は不動 4,8 週が不動 1,2 週より顕著であった. 10). (図 2-A) 。そこで,コラーゲン特有の構成アミノ酸であ るヒドロキシプロリンを生化学的検索によって定量し, ヒラメ筋内の含有量を比較した。その結果,すべての不 動期間とも対照群よりも有意に増加しており,しかも不 動 4,8 週は不動 1,2 週よりも有意に増加していた. 10). (図 2-B) 。加えて,ヒドロキシプロリンを定量したヒラ メ筋に関しては,先に長さ−張力曲線の検索も行い,筋 長の 1.4 倍まで伸張させた際の他動張力とヒドロキシプ ロリン含有量との関係性を検討した。その結果,両者の 間には強い正の相関が認められた. 10). (図 2-C) 。つまり,. これらの結果は骨格筋の線維化が筋性拘縮の発生・進行 の機序に深くかかわっていることを示唆している。. 筋性拘縮の発生・進行の機序にかかわる分子 メカニズム. 図 3 筋性拘縮の発生・進行の機序にかかわる分子メカニズ ムの仮説. 1.分子メカニズムの仮説. 芽細胞の活性化ならびに強力な線維化促進作用を有する.  骨格筋の線維化が筋性拘縮の発生・進行の機序に深く. サイトカインの transforming growth factor-β (以下,. かかわっており,その分子メカニズムを明らかにするこ. TGF-β )の発現亢進といったマクロファージを介した. とができれば,効果的な治療戦略の開発につながる可能. IL-1β /TGF-β シグナリングが重要な役割を担っている. 性がある。しかし,骨格筋の線維化の分子メカニズムを. とされている. 検討した先行研究は,他の病態モデルも含めてきわめて. 用することで高いコラーゲン生成能を有する筋線維芽細. 少ない。ただ,肺や肝臓といった内臓器の線維化に関し. 胞への分化を促進し,線維芽細胞ならびに筋線維芽細胞. ては,すでに発生機序にかかわる分子メカニズムの詳細. でのコラーゲン産生が過剰となり,線維化が発生すると. が明らかになっている。具体的には,内臓器における線. いわれている. 維化はマクロファージの集積と炎症性サイトカインであ. 惹起されることで線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化. る interleukin-1β (以下,IL-1β )の発現亢進による線維. が促進されることも報告されており,このこともコラー. 15‒18). 。そして,TGF-β が線維芽細胞に作. 19). 。また,最近では組織に低酸素状態が.

(4) 278. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 図 4 線維化に関連する細胞ならびに分子の動態 マクロファージのマーカーである CD11b 陽性細胞ならびに IL-1β ,TGF-β ,タイプ III コラーゲンそれぞれの mRNA 発現量は不動 1 週で対照群より有意な増加を認めるものの,その後は不動期間を延長しても有意な変化は認められな い(A-C, G) .一方,低酸素状態の指標となる HIF-1α の mRNA 発現量は不動 1,2 週は対照群と有意差を認めないも のの,不動 4,8 週は対照群ならびに不動 1,2 週より有意な増加が認められる(D).筋線維芽細胞のマーカーである α -SMA 陽性細胞ならびにタイプ I コラーゲン mRNA 発現量は不動 1 週で対照群より有意な増加を認め,不動 4,8 週 は不動 1,2 週よりも有意な増加が認められる(E,F).なお,図内の * は対照群との有意差,# は不動群間の有意差 を示す.. ゲンの過剰産生に関与していると考えられている 20)21)。. 加が認められた(図 4-F,G)。一方,低酸素状態の指標. つまり,以上のような知見を参考にすると,骨格筋の線. となる hypoxia inducible factor-1α (以下,HIF-1α )の. 維化の発生・進行の機序にかかわる分子メカニズムは図. mRNA 発現量に関しては,不動 1,2 週では対照群と有. 3 に示すような仮説が考えられ,筆者らはラット足関節. 意差を認めなかった(図 4-D) 。. 尖足拘縮モデルのヒラメ筋を検索材料に,この仮説の検.  以上の結果から,筋性拘縮の発生機序に関わる分子メ. 証を行った。その結果,筋性拘縮の発生機序と進行機序. カニズムには,マクロファージを介した IL-1β /TGF-β. にかかわる分子メカニズムは異なることが示唆され,以 下はその具体的な結果である. 22). 。. シグナリングならびに TGF-β による線維芽細胞から筋 線維芽細胞への分化過程の賦活化が関与することが示唆 された。. 2.筋性拘縮の発生機序にかかわる分子メカニズム  筋性拘縮の発生機序にかかわる分子メカニズムのもっ. 3.筋性拘縮の進行機序にかかわる分子メカニズム. とも上流には,マクロファージの集積が関与していると.  不動 1 週で増加が認められた CD11b 陽性細胞,IL-1β. 考えられるが,実際,マクロファージのマーカーである. ならびに TGF-β の mRNA 発現量に関しては,その後,. CD11b の陽性細胞を検索した結果,不動 1 週から対照. 不動期間を延長しても有意な変化は認められなかった. 群より有意な増加が認められた(図 4-A)。そして,そ. (図 4-A,B,C)。一方,HIF-1α の mRNA 発現量は不動 4,. の下流で関与していることが予想される IL-1β ならびに. 8 週で対照群ならびに不動 1,2 週より有意な増加が認. TGF-β の mRNA 発現量を検索した結果,不動 1 週か. められ(図 4-D) ,α -SMA 陽性細胞も不動 4,8 週は不. ら対照群より有意な増加が認められた(図 4-B,C)。加. 動 1,2 週よりも有意な増加が認められた(図 4-E)。加. えて,筋線維芽細胞のマーカーである α -smooth muscle. えて,タイプ I コラーゲンの mRNA 発現量に関しても. actin(以下,α -SMA)の陽性細胞も不動 1 週で対照群. 不動 4,8 週は不動 1,2 週よりも有意な増加が認められ. より有意な増加が認められ(図 4-E),筋膜を構成する. たが(図 4-F),タイプ III コラーゲンの mRNA 発現量. コラーゲンの主要なタイプであるタイプ I・III コラーゲ. に関しては,不動期間を延長しても有意な変化は認めら. ンの mRNA 発現量も不動 1 週から対照群より有意な増. れなかった(図 4-G) 。.

(5) 関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用. 279. 図 5 周期的な筋収縮の誘発が線維化におよぼす影響 不動群と比較して電気刺激群は HIF-1α ,TGF-β ,α -SMA,タイプ I・III コラーゲンといったすべての線維化 関連分子の mRNA 発現量が有意に抑制されている.なお,図内の * は対照群との有意差,# は不動群との有 意差を示す..  以上の結果から,筋性拘縮の進行機序にかかわる分子. し,線維化におよぼす影響を検討した。. メカニズムには,前述のマクロファージを介した IL-1β /.  具体的には,ラット下. TGF-β シグナリングの賦活化に加え,骨格筋に低酸素. 付した状態でギプス固定を行い,ギプスを装着したま. 状態が惹起されることで線維芽細胞から筋線維芽細胞へ. ま 1 Hz の刺激周波数で 60 分間(週 5 日) ,延べ 4 週間,. 後面にリード線付電極を貼. の分化がさらに促進され,線維化が助長されることが関. ヒラメ筋に周期的な単収縮を誘発する治療介入を行った. 与していることが示唆された。ただ,今回紹介した結果. (電気刺激群) 。そして,実験終了後はヒラメ筋を採取し,. は筋性拘縮の発生・進行の機序にかかわる分子メカニズ. 線維化関連分子の動態を real time RT-PCR 法で検索し. ムの一端を示したに過ぎず,その全容を解明するために. た。その結果,電気刺激群はギプス固定のみを行った不. は今後さらなる検討が必要であろう。. 動群と比較して HIF-1α の mRNA 発現量が有意に抑制さ. エビデンスに基づいた治療戦略の開発に関す る基礎研究. れており,このことは不動によって惹起されるヒラメ筋 の低酸素状態が緩和されていることを示唆している。そ して,TGF-β や α -SMA,タイプ I・III コラーゲンといっ.  前述した筋性拘縮の発生・進行の機序にかかわる分子. たすべての線維化関連分子の mRNA 発現量も電気刺激. メカニズムを踏まえると,骨格筋における低酸素状態の. 群は不動群より有意に抑制されており,このことは線維. 惹起が筋性拘縮の進行に深くかかわっていると推察され. 化の進行が抑制されていることを示唆している(図 5) 。. る。つまり,理学療法学的な治療戦略によって骨格筋の.  このように,本研究は筋性拘縮の発生・進行の機序に. 低酸素状態を緩和することができれば,筋性拘縮の進行. かかわる分子メカニズムといった生物学的なエビデンス. を抑制できる可能性がある。. を踏まえてデザインしたものであり,既存の理学療法の.  骨格筋の低酸素状態を緩和する治療戦略のひとつとし. 介入手法の活用方法を改良し,新たな治療戦略の開発に. ては血流促進効果のある温熱療法が想定されるが,骨折. つなげる基礎研究といえる。そして,本研究の成果が. 後などでギプス固定が施されている場合は,炎症が持続. きっかけとなり,産学連携の共同研究に発展し,電気刺. していることも多く,温熱療法の適用は困難である。一. 激療法による拘縮治療用モードの開発にも着手してお. 方,血流促進という観点から考えると,頻回な筋収縮の. り,現在は臨床データの蓄積を行っている段階にある。. 誘発による筋ポンプ作用の促進といった治療戦略も想定 され,これは当該部位の疼痛などによって対象者自身に よる随意筋収縮運動が困難な場合でも,電気刺激療法と 26). おわりに  周知のように,がんや関節リウマチなどに対する新規. はラッ. 薬剤,特に生物学的製剤の開発はめざましく,これは疾. ト足関節尖足拘縮モデルを用いて,4 週間の不動の過程. 病の発生機序にかかわる分子メカニズムの解明といった. で電気刺激を用いた周期的な筋収縮をヒラメ筋に誘発. 基礎研究の進展が大きく貢献している。つまり,これら. いった代替手段が適用できる。そこで,筆者ら.

(6) 280. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 薬剤の開発は上記の生物学的なエビデンスに基づいて進 められているといえる。一方,理学療法の治療戦略の多 くは経験則から生まれたものであり,生物学的なエビデ ンスに基づいて開発されたものは皆無である。ただ,最 近の基礎研究の進展によって関節可動域制限や筋力低下, 疼痛などといった理学療法の対象障害についても徐々に 発生機序の解明が進んでいる。つまり,このエビデンス に基づいて効果的な治療戦略の開発を進めることも可能 になってきており,その意味で基礎研究の必要性は高 まっていると思われる。そして,今後は基礎研究の知見 を臨床にどのようにフィードバックし,また,臨床応用 につなげていくかが課題になると思われ,基礎と臨床の 融合がこれまで以上に重要になってくるといえよう。 文  献 1)白書委員会:理学療法士実態調査報告─ 2010 年 1 月実施─. 理学療法学.2010; 37: 188‒217. 2)小泉幸毅,小川 彰,他:拘縮の実態.拘縮の予防と治 療(第 2 版).奈良 勲,浜村明徳(編),医学書院,東京, 2003,pp. 1‒17. 3)沖田 実:関節可動域制限とは.関節可動域制限(第 2 版) ─病態の理解と治療の考え方.沖田 実(編) ,三輪書店, 東京,2013,pp. 2‒20. 4)沖田 実:関節可動域制限の病態 . 関節可動域制限(第 2 版)─病態の理解と治療の考え方.沖田 実(編),三輪書 店,東京,2013,pp. 50‒69. 5)岡本眞須美,沖田 実,他:不動期間の延長に伴うラット 足関節可動域の制限因子の変化─軟部組織(皮膚・筋)と 関節構成体由来の制限因子について─.理学療法.2004; 31: 36‒42. 6)沖田 実,吉村俊朗,他:拘縮の病態とストレッチング. 理学療法探求.2000; 3: 29‒36. 7)藤野英己,武田 功,他:他動運動による筋伸長が萎縮筋 の他動張力に及ぼす効果.理学療法学.2004; 31(1): 56‒62. 8)Witzmann FA, Kim DH, et al.: Hindlimb immobilization: length-tension and contractile properties of skeletal muscle. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 1982; 53(2): 335‒345. 9)沖 貞明,柴田大法,他:不動性萎縮筋における筋性拘縮 の発生と進行.運動・物理療法.1998; 9(1): 38‒41. 10)Honda Y, Tanaka M, et al.: Relationship between extensibility and collagen expression in immobilized rat skeletal muscle. Muscle Nerve. 2018; 57(4): 672‒678. 11)Okita M, Yoshimura T, et al.: Effects of reduced joint mobility on sarcomere length, collagen fibril arrangement in the endmysium and hyaluronan in rat soleus muscle. J Muscle Res Cell Motil. 2004; 25: 159‒166. 12)Hibino I, Okita M, et al.: Effect of immobilization on insoluble collagen concentration and type I and type III collagen isoforms of rat soleus muscle. J J Phys Ther Assoc. 2008; 11: 1‒6.. 13)Goldspink G, Williams PE: Muscle fiber and connective tissue changes associated with use and disuse. Key issue in neurological physiotherapy. In: Ada L and Canning C (eds), Butterworth-Heinemann Ltd, Oxford, 1990, pp. 197‒218. 14)Alnaqeeb MA, Al Zaid NS, et al.: Connective tissue changes and physical properties of developing and ageing skeletal muscle. J Anat. 1984; 139: 677‒689. 15)Andrews T, Sullivan KE: Infections in patients with inherited defects in phagocytic function. Clin Microbiol Rev. 2003; 16(4): 597‒621. 16)Hoh BL, Hosaka K, et al.: Monocyte chemotactic protein-1 promotes inflammatory vascular repair of murine carotid aneurysms via a macrophage inflammatory protein-1α and macrophage inflammatory protein-2-dependent pathway. Circulation. 2011; 124(20): 2243‒2252. 17)Negash AA, Ramos HJ, et al.: IL-1β production through the NLRP3 inflammasome by hepatic macrophages links hepatitis C virus infection with liver inflammation and disease. PloS Pathog. 2013; 9(4): e1003330. 18)Yue TL, Wang XK, et al.: Interleukin-1 beta (IL-1 beta) induces transforming growth factor-beta, (TGF-beta 1) production by rat aortic smooth muscle cells. Biochem Biophys Res Commun. 1994; 204(3): 1186‒1192. 19)Gomes I, Mathur SK, et al.: Eosinophil-fibroblast interactions induce fibroblast IL-6 secretion and extracellular matrix gene expression: implications in fibrogenesis. J Allergy Clin Immunol. 2005; 116(4): 796‒ 804. 20)Robinson CM, Neary R, et al.: Hypoxia-induced DNA hypermethylation in human pulmonary fibroblasts is associated with Thy-1 promoter methylation and the development of a pro-fibrotic phenotype. Respir Res. 2012; 13: 74‒82. 21)Comito G, Giannoni E, et al.: Stromal fibroblasts synergize with hypoxic oxidative stress to enhance melanoma aggressiveness. Cancer Lett. 2012; 324(1): 31‒41. 22)Honda Y, Sakamoto J, et al.: Upregulation of interleukin-1β / transforming growth factor- β 1 and hypoxia relate to molecular mechanisms underlying immobilization-induced muscle contracture. Muscle Nerve. 2015; 52(3): 419‒427. 23)沖田 実,中野治郎,他:他動的伸張運動(CPM)によ る拘縮の予防効果─ラットヒラメ筋の筋内膜コラーゲン 線維網の形態変化から─.日本物理療法学会誌.2005; 12: 61‒66. 24)Kondo Y, Nakano J, et al.: Effects of prolonged stretching and thermotherapy on muscle contracture of immobilized rat soleus muscle. J Phys Ther Sci. 2012; 24: 541‒547. 25)Okita M, Nakano J, et al.: Effects of therapeutic ultrasound on joint mobility and collagen fibril arrangement in the endomysium of immobilized rat soleus muscle. Ultrasound Med Biol. 2009; 35: 237‒244. 26)Yoshimura A, Sakamoto J, et al.: Cyclic muscle twitch contraction inhibits immobilization-induced muscle contracture and fibrosis in rats. Connect Tissue Res. 2017; 58(5): 487‒495..

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